5月21日 日曜日 「加奈ちゃんの出番」

 「さてウサギさん……。これからどうしましょうか?」

 「どうしようと言われてもなあ。シャーク大帝をさっさと倒したほうがいいんじゃないか?
  このままだと被害がうんと広がりそうだ」

 「確かにそうですね。なんて言ったって、もうすでに雪女さんと女神さんとリーファちゃんが土に還ってしまったのですよね」

 「まだ土葬はしてないけどな」

 「よし。じゃあ今から埋めようか?」

 「そんな暇も無いからな。今、戦争中だし」

 「そっだねー」

 はぁ…………やる気、無くなっちゃったなぁ。


 「さて、それじゃあさっさと倒しちゃいましょうウサギさん。なんなら私も手を貸しますから」

 「そうだな。一気に2人がかりで行くか? こんな奴に大分時間を取られているしな」

 「ええ。それにグダグダしてるとまた新たな被害者がやってくるのかも……」

 「ちょっとまってー!!!」

 「ほら来ちゃったよー!!」

 誰だ!? 一体誰なんですか今度の命知らずは!?





 「ママをいじめる奴はゆるさないぞー!!」

 「加奈ちゃんが来ちゃったー!!??」

 よりにもよって加奈ちゃんですか。紛れも無く秒殺コースじゃないか。

 「か、加奈ちゃん。お願いだからこいつと戦うのは……」

 「ぐはははは!! ちびっこ戦士か!! 面白い!! 相手になろうぞ!!」

 「うわー!! やる気だよこの怪人!! 女子供に容赦ねぇ!!」

 なんて非道な奴なんでしょうか。人でなしだね。うん、もともと人じゃないんだけど。

 「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!! この勝負、許せるわけないじゃないですか!!」

 「えー? なんでなのママー?」

 「なんでじゃないでしょ!? 死ぬじゃん!! 普通に死んじゃうじゃん!!」

 「大丈夫だよぉ」

 「その自信はどこから!?」

 「だってね、カナ、良く強い子だなぁって言われて……」

 「ダメだと思う!! 近所からの評価での強いじゃどうにも出来ないと思う!!」

 加奈ちゃんってみかけによらず命知らずなんですね……。




 「でもやるのー!! ガンガン敵倒すのー!!」

 「ああ、加奈ちゃん!! そうやってむやみにシャークさんの下に突っ込んで行っちゃダメだよ!!」

 「よっしゃこーい!!!」

 「やめてー!!」

 なんて事でしょうか。なんと加奈ちゃんは、シャークさんに突っ込んで行って……。
 ああ、もう見てられない!!


 『ドギャバガグバアッ』

 「いやー!! なんか嫌な音が鳴ってる!! 生々しすぎる音が、奏でられている!!
  酷い! こりゃ酷い!!」

 私が恐る恐る目を開けてみると、そこには惨状が…………。



 「わーい♪ しょうりー」

 「えええええええ!!!!???? 加奈ちゃん勝っちゃったの!? どうやって!? どうやって勝ったの!?」

 「今日、夢に出てきそうだ……」

 「そんなにすごい勝ち方だったんですかウサギさん!?」

 目なんか瞑ってないで見ておくべきでしたよ。





 5月22日 月曜日 「勘違いなどなど」

 たかがサメ怪人一匹に、家族3人がやられてしまうという、あまりにも大きな犠牲を出した私たち。
 良い子ならここいらで、ああ、戦争な何て醜いんだなんていう当然の事をさも感動的になんか言っちゃったりするわけですが、
 さすがに私はそんな恥ずかしい事はしません。
 シャーク大帝に勝った事を素直に喜んで、はしゃぎたいと思います。
 いぇーい! やったあ!!




 「さて……ようやく組長の所に行けますねウサギさん」

 「ああ。本当に長い道のりだったな。
  なんだか無駄な動きが多いだけな気がしないでもないけどな」

 「でもそのおかげでウサギさんの力を温存する事が出来たじゃないですか。
  そのために必要だったと思いましょうよ。
  彼女たちの犬死には」

 「犬死にって言っちゃってるじゃねえか」

 あちゃー。口が滑った。

 「まあそんな小さな事気にせずにどんと行きましょう!!
  迷ってても無駄!! 全然無駄!!
  ガンガン攻めていきましょう!!」

 「まあそれもそうだな。この先に居る組長を倒せば全部解決だろうし」

 「まさにラスボスですね。
  ライオネック・スター・ボスですね」

 「そんな言葉の略語では無いだろう」

 「いざ組長の部屋へ!!」

 ウサギさんの突っ込みを華麗にかわして、私はお母さ……組長の居るであろう部屋へと乗り込んだのでした。




 「たのもー!!」

 「ふふふ……よく来たな千夏。私が作ったこの組をここまでズタズタにしてくれるとは思ってなかったぞ」

 「何寝言口にしちゃってるんですか!!
  悪ふざけもここまでにしなさいお母さ…………んじゃない!?」

 組長室に居たのは、なんとお母さんじゃない見知らぬ女性。
 え? どういう事?



 「私の名前は『ハルカーニュ・大谷』!!
  この春風組の組長だ!!」

 「そんな爽やかな組名だったとは!!
  というか、ハルカーニュって何人だお前!?」

 どうやら私の勘違いだったようですね……あはは。



 5月23日 火曜日 「激動のご対面」


 「まさかここまでたかが一般家庭にやられてしまうとは……人生何が起こるか分からないなぁ」

 「そんな人生に黄昏る暇があるのなら、私の質問に答えてくれませんかね組長……いえ、ハルカーニュさん!!
  うん! 言い辛い!! その名前、思ったよりも言い辛いよ!!」

 「うん。うちの親もよく噛む」

 「親にまで名前言い辛いと思われてるのかよ!! まったく親不孝だな!!」

 「いや、別に私が自分の名前を決めたわけじゃないし」

 「そうか! じゃあ責任の無い親不孝だな!!」

 「千夏。落ち着いて。パニックになってるのは分かるけど、なんだか話が変な方向にいってる」

 ナイス路線修正ですよウサギさん。確かにパニックになりすぎてて、訳分かんない事口走っちゃいました。



 「大丈夫ですよウサギさん。今はずいぶんと落ち着いているんです」

 「そうか……? それならいいのだけど」

 「千夏とやら、この春風組の組長である私に何か聞きたい事があったのではないのか?

 「そ、そうだ!! えーっと、えーと……お前は誰だ!?」

 「千夏。まだ十分ぱにくってる」

 「じゃあご趣味は何ですか!?」

 「千夏。マジで落ち着いて」

 いやね、一度ぱにくりだしたら止まらないっていうか。ブレーキがストライキ中っていうか。

 「ふふふ……いいだろう。お前の質問に特別に答えてやる。
  私の名前はハルカーニュ!! 趣味は善良な市民の家に嫌がらせする事です!!」

 「まさに性根が腐っているとしか思えない趣味をお持ちですね!? それに名前が変だし!!
  まさに名は体を表わすか!!」

 「ハルカーニュという名前は善良な市民に嫌がらせするようなヤクザの事を表わしているのか……?」

 語感だけでも只者じゃないじゃないですか。





 「くそ……いつものように一般家庭に手を出して、恐怖のどん底に陥れて楽しむというだけの遊びだったのに……。
  まさか選んだターゲットが、こんないかれた奴らだったなんて……。
  おかげで私の組は壊滅状態だ」

 「いかれてるのはあなた達のほうだろ。
  というか、私たちが狙われているのはてっきり女神さんが盗み出した一億円の所為だと思ってたんですけど……。
  違ったんですか?」

 「え? 何一億円って? 盗まれてたの!?」

 「あれー!? 発覚してなかった!?」

 まあ多分幹部とかそういう役職の人たちは気づいてたんでしょうけど、組長の耳には入ってなかったんでしょうね。
 知られたら怒られちゃうから。
 そこら辺の行動原理は家のガラスを割った子供もヤクザも大差ないですね。

 「そうか……盗まれてたか。その金を返してもらうためにも、お前たちをねじ伏せなきゃいけなくなったな!!」

 組長さんは懐から銃を取り出しました。
 本気で私たちと戦うつもりらしいですね。

 「うおおおおお!!!! ヤクザの底意地見せてやる!!」

 「私たちだってね、散っていった仲間たちのために勝たなきゃいけないんです!!
  あんたなんかに負けてられるかー!!!!」

 こうして、私たちと組長との戦いが始まり………………






 「ん〜…………うっさいわねぇ。なに? 祭りでもしてるの?」

 「は、母上!?」

 「母上とはまた古風な呼び方を……」

 どうやら、この戦いの場に組長さんのお母さんがやってきてしまったらしいです。
 まったく、空気が読めてないというかなんというか………………って!?

 「ももももも、もしかして、お母さん!?」

 「あ。千夏、お久しぶり」

 なんと、ヤクザの組長に母上と呼ばれていたのは私のお母さん……つまり、残虐王春歌でした。いや、別に私の苗字は残虐王ではないけど。

 「え!? ええ!? お母さんが組長さんのお母さん!? どういう事!?」

 「紹介するわね千夏。この人が、あなたのお姉さんのハルカーニュさんよ」

 「どうも。いつも定食屋で頼むのはトンカツ定食、ハルカーニュ・大谷です」

 「ええええええええええええええええ!!!!!!??????」

 とりあえず、今は驚いておきます。それ以外に何かできるほど、私の心は強くねぇ。





 5月24日 水曜日 「おねーさんの出来かた」

 「……」

 「……」

 「……はー。お茶が美味いわねぇ」

 なんともおかしな事に、ヤクザ邸の食卓で私と組長さんとお母さんが、互いに向き合って座っています。
 お母さんからお茶を出されたのですが、あまり飲む気にはなれません。数々の理由のおかげで。


 「お母さん。お母さん」

 「何千夏? もしかしてヨウカンとかが欲しいとか? あなたねぇ……他人の家なんだからもうちょっと遠慮しなさいよ」

 「はははははは。何を言ってるのですか母上! 赤の他人ではなく、立派な姉妹の家ではないですか!! そんな遠慮無用ですよ!!」

 「おほほほほほ。そうだったわね。よし千夏、どんどん食べちゃってOKよ。
  ゴー! 千夏ゴー!!」

 「ゴーって言われても困るわ!! 私は餌を前にした飼い犬か!!
  というか組長さんも何私を妹だと認めちゃってるんですか!! それでいいの!?」

 「姉妹ゲンカ、良くない」

 「じゃあ一般家庭に嫌がらせするのは良いと思ってたのか。本当に最悪だな」

 私は絶対にこんな人間を姉と認めませんからね。



 「というか説明して!! なんで私にお姉さんが居るの!? そしてどうしてお母さんは生きてるの!?」

 「私が何故生きてるかはどうだっていいじゃない」

 「いいわけないでしょうが。この専業主婦ゾンビ」

 「そいで、おねーさんがいるって事は、やることやったからに決まってるでしょうが!!」

 「違う! そんないやな感じに現実的な説明じゃなくて!!
  もしかして私とこの人は生き別れだったの!? そういう今時流行らない過去があったの!?」

 「ないわねぇ」

 「無いの!? 逆にびっくりだよ!!」

 本当にどういう経緯でこうなったんだ。じっくりお聞きしたいのですが。






 「そうねぇ。やっぱり話さないといけないかもしれないわねぇ。このままずっと隠し続けているわけにはいかないのだから……」

 「そんなどうでもいい前フリは良いからさ、さっさと話してくれませんかねぇ?」

 「えっとね、このハルカーニョさんは……」

 「噛んでる噛んでる。名前噛んじゃってる」

 「駅で拾いました」

 「拾われた子なの!?」

 「そうでーす。拾われっ子でーす」

 「本人はまったく気にしてない風だー!? 強い子だな!!」

 「そう。彼女はとっても良い子なのよ。まだ拾って2ヶ月ぐらいなのだけど、すっごく仲が良くなれたし」

 「まだ拾って2ヶ月なんですか…………。つうか、人をそう易々と拾うなよ。警察とかに届けてやれよ」

 「もう千夏ったら……心無い都会人的な事を簡単に言っちゃうのねぇ」

 「本当ですね母上。彼女の冷酷っぷりは、姉として悲しいです」

 「うるせえヤクザなお姉さん。お前もその歳で易々と拾われてんじゃねえよ」

 「ダンボールの中、居心地悪かったから拾われちゃった」

 「ダンボールに入れて捨てられてたのかよ。猫や犬か」

 やっぱりこんな奴、姉として認めませんからね。






 5月25日 木曜日 「姉妹対決」

 「よーし!! それじゃあ殺しあおうか妹よ!!」

 「え!? いきなりなんですかバカ組長!!??」

 「私は、本来自分がやるべき使命を思い出したのだ……そう! 妹の抹殺!!」

 「迷惑です。永遠に忘却の彼方に追いやっていてくださいよ」

 「確かに姉妹同士が殺しあうなんて、酷い悲劇かもしれない……」

 「そうっすか? 私とリーファちゃんは結構ガチで殺しあっているけども」

 「でも! 運命とは非情なものなのだ!! 私とお前のどちらかしか、母上の寵愛を受けることが許されないのだ!!」

 「えー!? お母さんに愛されるがために戦うの!? すげーテンション低くなるわ!!
  ここまで気の滅入る戦う理由は他に無い!!」

 っていうかお母さんからの愛なんてあなたにのしつけて差し上げますから、とっとと日本から出てけ。
 このクソやくざ。




 「千夏!! 覚悟を決めて戦いなさい!!」

 「嫌ですよお母さん!! 何が悲しくてこのいかれ女と戦わなくちゃいけないんですか!!
  命をかけるにはあんまりの状況だ!!」

 「千夏…………私が何故ハルカーニュを拾ったのか分かる?」

 「非常食にしようと思っていたんでしょ?」

 「違うわよ!! その時はそこまでお腹空いてなかったわよ!!」

 空いてたらやっていたんですか……。

 「いい? それはね、あなたと戦わせるために、私は彼女を自分の娘としたのよ」

 「意味が分からん。順を追って説明しなさい」 
 「簡単に言えば、ハルカーニュはあなたを成長させるための踏み台です」

 「ひでー!! そんな事考え付くお母さんひでー!! なにより踏み台だと組長の前で堂々と言ってしまう事が酷い!!」

 「え? なに? なんの話」

 「そして話の中心の方は聞いてなかったし!?」

 まあそれが幸せだと思いますけどね。






 「千夏……とにかく彼女に勝ちなさい!! そして、神としてのランクをあげるのです!!
  仮神様からカーリー神様にっ!!」

 「なんですかカーリー神様って!? なんとなくカレーっぽい!! 香辛料の匂いがしそう!!
  というかさ、この人に勝ったら神様としてランクアップするの!? なんで!?」

 「そういう昇級試験だから」

 「その一言で説明されてしまうと私はもう何も言えないじゃないか」

 明らかに不条理ですが。

 「千夏。あなたはね、さっさと一人前の神様にならなくちゃいけないのよ。
  いけにえを要求したり、気まぐれに天変地異を起こして文明を滅ぼすぐらいの神様にね」

 「あきらかにそれは邪神じゃないか。そんなのになれと言うのか」

 「邪神でも神には違いないじゃん? 無糖か微糖ぐらいの差だと思う」

 缶コーヒーに例えられても。




 「さあふたりとも!! 戦いを始めなさい!!」

 こうして、私とハルカーニュさんはガチで喧嘩をすることになってしまいました。
 あーあ。力を温存しているウサギさんがぼっこぼこにしてくれると思っていたのに……。
 人生は甘くないですねえ。それはもう無糖の如く。




 5月26日 金曜日 「斬って被ってジャンケンポン」

 「さて……勝負の方法なのだけど」

 「ねぇお母さん……マジで戦わなきゃいけないの? 良いじゃんもう。私、別に神様になんかならなくていいからさ。
  特にいけにえとか要求したり、気まぐれに天変地異を起こして大虐殺するような神様には」

 「何を言ってるのよ千夏!! 神様にならないと、あなた電池切れで死んじゃうのよ!?」

 「そういえばそういう事になってましたね……。でも、私結構生きてるんですけど?」

 「仮神様だからね。仮に不死なの」

 「ややこしいな。仮に不死ってどういう事?」

 「割と死なない」

 「アバウトだ」

 「とにかく、今のままだといずれ死んでしまうのよ。
  そうならないためにも、早く本当の神様にならないといけないの」

 「そいで、ハルカーニュという頭の悪いヤクザ組長を倒せば神様になれるのですか」

 「まったくもってその通りです。
  私はこのためにハルカーニュを拾い、彼女をヤクザの組長として育て、そしてあなたたちの家を襲わせたの。
  これもみな、この戦いの場を作り上げるためにねっ!!」

 「なんて面倒な事をちまちまと……。なんとなく黒幕っぽいですよ。あなた」

 「とにかく、さっさと覚悟を決めなさい!! ハルカーニュを殺さない限り、あなたには未来が無いのよ!!」

 「そうですか…………。仕方が無いですね」

 やるっきゃないのでしょうか。
 倫理的に駄目とか戦いは悲しいとか以前に、ただ面倒なんですが。





 「さて、勝負の方法だけど……何が良い?」

 「そうですねぇ。出来るだけ楽に済ませられる物が良いんですけど。ジャンケンとか」

 「なるほど……。ジャンケンに負けた者が、死ぬというデスマッチルールね?」

 「いやいやいや!!!! なんでそんな凶悪なゲームになっちゃっているんですかジャンケン!!!!
  普通に負けたー、勝ったー、やったー、で良いじゃないですか!!」

 「ぬるい。ぬるいわそんなジャンケン。ジャンケンの風上にも置けない」

 「ジャンケンを風上に置くな」

 「それじゃあ命がけの勝負にならないじゃない!! それじゃあ駄目なのよ!!
  命がけの勝負でなければ、神様へとランクアップする事なんて出来ないの!!」

 「面倒な制約があるんですねぇ……。じゃあ麻雀で勝負つけましょうか?
  私、結構強いんですけど」

 「駄目です」

 「なんでですか? 負けた方が死ぬというルールをつければ十分命がけの勝負に……」

 「麻雀のルールを知っている人間は、おそらく1割程だからです」

 「何故お前が閲覧者についての心配をするかね?」

 まあ確かに知らない人にはちんぷんかんぷんでしょうけども。





 「ならば単純に……叩いて被ってジャンケンポンにしましょう」

 「それってあれですよね? ジャンケンで勝った人がピコピコハンマーで叩いて、負けた人はそれをヘルメットで防御して」

 「そう、そいつ。それで、ピコピコハンマーの代わりに日本刀を使用して、ヘルメットの代わりに兜を用意するの」

 「あの〜……私、日本刀で兜をぶった切るというようなデモンストレーションがあったような気がするのですが……」

 「よし!! じゃあさっそく準備よ!!」

 絶望的なまでに、初めに勝った人の方が有利じゃないか……。
 実質一回勝負のジャンケンじゃん。






 5月27日 土曜日 「心理戦」

 「よーし! それじゃあ勝負だ妹よ!!」

 「うっせえダメヤクザ」

 まあヤクザである時点でかなりダメなんですが、その中でもこの人はめい一杯ダメな人だと思います。
 だから、そう呼ばせてもらいますよ。
 はぁ……それにしても本当にジャンケンで決着をつけようとするだなんて。
 何かの悪い冗談のようだ。

 「じゃーんけーんっ!!」

 くっ、ここまで来たら覚悟決めるしかないですか!!
 やってやりましょうじゃないの!!

 「ポ――――…………ン?」

 「……」

 「……なんで手を出さないのかね妹よ?」

 「お姉さんこそ、なんで手を出さないんですか」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……」

 「………………後出ししようとしてたな!?」

 「あんたこそ!! あんたこそそうしようとしてたでしょ!? 命をかけた勝負でなんて卑怯な事しようとしてたんだ!!」

 「お前が言うな!!」

 「やーい! 卑怯者ー!! 臆病者ー!! 水虫ー!!」

 「水虫じゃねえよ!! 水虫なわけ無いよ!! 絶対にそれは違う!!」

 「卑怯者で臆病者はどうでもいいのかお前はー!! 本当にダメヤクザだな!! 任侠道のかけらも感じねぇ!!」

 「へーんだ! どうせ私は拾われ者の雇われヤクザですよーだ!! プリンとか好きですよーだ!!」

 「プリンが好きなのは関係ないだろ。プリンが好きな人は臆病者みたいに言うな」

 全国のプリン愛好家のみなさんに失礼ですよ。




 「あなたたちね……そんな事どうでも良いから、さっさとジャンケンしなさいよ」

 「むむぅ……確かにお母さんの言うとおりですね……。よし! 次で決着付けようじゃないかハルカーニュ!!」

 「望むところだ千夏!!」

 「ちなみに……私は次、グーを出します!!」

 「おおっ!? 心理戦!? …………じゃあこちらは負けずに、パーを出します」

 「ななっ!! 当然のような選択を口にする事によって、逆に相手に揺さぶりをかける戦術!?
  くっ……なかなかやりますね」

 「ふふふ……伊達に数ヶ月組長してたわけじゃないってことですよ」

 心理戦はあまり必要ないでしょ。ヤクザに。

 「それじゃあ私は……パーを出すと言われた事を真に受けて、チョキを出します」

 「なっ!? その愚直さが怪しい!! なんだか、本当はそんな事しないような気がする!!
  でもむしろ口に出された事により、もしかしたら本当にやってのけるかもしれないという不安感を相手に与えている!!
  なんという女! なんという小学生っ!! 末恐ろしいわ……」

 「解説お疲れ様」

 「やはり只者ではないわね…………ならば、私はあなたの言う事を真に受けて、グーを出すわ!!」

 「そ、そんなっ!? なんて切り返しをっ……?」

 ふふふ……やるじゃないですかお姉さん。あんたこそ、只者じゃないよ。

 「よし! じゃあ私はその言葉を真に受けて…………」






 「あなたたち、どうでもいいからさっさとジャンケンなさい」

 「はい」

 「はい」

 お母さんに怒られてしまいました。










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