6月11日 日曜日 「お金の使い方」

 「……」

 「……千夏、何やってるの?」

 「ああ、お母さんですか……。いや、ちょっと割り箸でガンダムを工作しようかと」

 「…………何でそんな事やってるの?」

 「ほら、最終決戦を前にずっとやっておきたかった事をやろうかと……」

 「千夏ってずっとそんな地味すぎる事をやりたかったの?」

 「ええ。そりゃあもう雨の日も風の日もやりたくて仕方なかったんですよ。
  割り箸で、ガンダム作りたかったんですよ!!」

 「何か無理やりそうであろうとしてない? 全然本心からの行動には思えないのだけど?」

 うっさいなあ。やること無いから適当にそういう事にしている事を察してくださいよ。
 誰が好き好んで割り箸でガンダム作るかね。なんで、割り箸で。


 「お母さん、何か用なの? それともただ私をあざけ笑いに来ただけ?」

 「本当はあざけ笑いに来たのだけど、あなたの姿を見たらあまりにも可哀想なのでそれは止めたわ」

 「そりゃどうも」

 「あのね、実は千夏にお使いを頼みたいのだけど……いいかしら?」

 「お使いですか? まあ暇だから良いですけど……」

 「本当!? いやー、助かるわ千夏!! やっぱり持つべきものは従順な娘よね!!」

 「その言われ方は何か嫌だろ」

 「じゃあさっそく頼むわ! このお金を持って、買ってきて欲しい物があるの!!」

 そう言われてお母さんからお金を渡されました。
 なんと、札束を。紙袋にぎっしりと詰まった札束を渡されたのです。

 「ちょ、ちょっとお母さん!? 何このお金!? どこでこんなものを仕入れたの!?」

 「春風組に居た時にちょっと」

 「一体何で稼いだというのですか……」

 「稼いだんじゃなくて、印刷したの」

 「偽札!? これ、偽札なの!?」

 「偽札とは失礼な!! このお札の芸術的にまで高められたディティールは、すでに本物の域を超えているわ!!」

 「やっぱ偽物なんじゃん!! 普通に犯罪だと思います」

 「例え偽物であっても、そこに愛があるのなら、本物と違いは無いと思うのよね」

 「そんな事あるかい」

 妙に綺麗な言葉で誤魔化そうとするな。






 「で、この偽札を私にどう処理させようというのですか……?」

 「とりあえず、適当に馬券買ってきて」

 「馬券……? ギャンブルしろって言うのですか!?」

 「まあね。たくさんいろんな種類を買えば、10分の1ぐらいは当たるでしょ。それで十分だから」

 「なんてマネーロンダリングの方法ですか……」

 確かに使えない10のお金より、使える1のお金の方が価値はありますけども。

 「とにかく今はお金を集める事が最優先事項だからね。そうしないと宇宙船を買い戻せないもの」

 「そう言えばまだ宇宙船、手元に無いんでしたね」

 「ええ。なんとしてでも早く手に入れなければ……」

 「手に入れなければ?」

 「とある漁港が火の海に包まれる事に…………」

 「力ずくで奪うつもりですか!?」

 「まあ世界のためだから致し方ない」

 「他人んちのタンスからアイテムを盗んでいくような勇者が言いそうなセリフですね……」

 とてもじゃないですが同意は出来ません。




 6月12日 月曜日 「ギャンブルの結果」

 「……」

 「あらどうしたの千夏? そんな青い顔しちゃって」

 「ええっとそのお母さん……。
  実はですね、非常に予想だにしない事が起こりましてね……」

 「予想だにしない出来事ってなに?」

 「ほら、昨日、お母さんが私に偽札で馬券を勝ってこいという、非常にヤクザな事を頼んだじゃないですか?」

 「ええ。ガッチリ頼んだわ!」

 まるで娘に初めてのお使いを頼んだかの如き顔をするのは止めてくれませんか?
 何故そこまで誇らしげで居られるんだ。


 「それでですね、私、お母さんに言われた通り馬券を勝ったんですけど……偽札で金儲けするのが嫌で、何となく名前がダメっぽそうな馬に全額賭けたんですよ……」

 「ダメっぽそうな名前の馬って?」

 「その名も『ミソトンコツ』」

 「確かにダメそうね」

 「ええ。そう思うでしょう?
  しかしですね、そのミソトンコツは私の期待を裏切って……なんと、一着になりやがったんですよ!!」

 「さすがね味噌豚骨」

 何がさすがなのか。

 「ううう……そのおかげで偽札がなんと2.2倍に……」

 「あら。割とレートは低かったのね」

 「私が偽札を全部一頭の馬に賭けたからね。そりゃレートだって大変動します。
  ……とにかく、私はそうして莫大なお金を手に入れてしまったのですよ」

 「あら、良かったじゃない。これで念願の冥王星まで行ける宇宙船が手には入るわ」

 「どこが良かったんですか!? これだけ目立つ勝ち方したら、いろいろ調べられてしまうかもしれないでしょうが!! 偽札だってバレたら逮捕ですよ!?
  だから私は、手に入れたお金をさっさと捨ててしまうために次のレースでダメそうな2連単を買ったのです!!」

 「ダメそうな2連単って何よ?」

 「@-Fの組み合わせ、その名も『テンネンウナギゴウ』と『キシュウノウメボシゴウ』です」

 「確かにダメそうね。特に食い合わせが」 

 「でもですね、なんとその2連単が大当たりですよ!! 一気に所持金が5倍ですよ!! 札束に埋もれそうですよ!!」

 「おめでとう千夏。これで宇宙船が……」

 「だから何もめでたくないんだってば!! 怪しいじゃん!!
  小学生の子が大勝ちしてるの!! だから私はですね、全てのお金を使いきるために次のレースの3連単を……」

 「で、今度はなんて名前の3頭の馬に賭けたの?」

 「『ナミモリ』『ツヨダク』『ハンジュクタマゴ』の3頭です」

 「なんだか牛丼屋のメニューみたいね。というかいつから競争馬たちはそんな美味しそうな名前になり始めたの?」

 「悲しい事にですね、その3頭もまたもや大当たりで……」

 「やったわね。これで宇宙……」

 「だからめでたくないってば!!」

 そしてこの繰り返されるやりとりにも飽きたわ。



 6月13日 火曜日 「生きる意味ルーレット」

 「みんな! 聞いてちょうだい!!
  千夏の恐るべきギャンブル運によって、私たちは冥王星へ旅立てる宇宙船を手に入れる事が出来ました!!
  みんな、英雄である千夏に拍手ー!」

 「「おおー!!」」

 お母さんがそんな事をぬかして、我が家の食卓で巻き起こるどよめきと拍手。
 お願いですからそういう褒め称えは止めてください。私的にはけっこう後悔してるんですから。
 だって偽札使っちゃったんだもん。



 「よくやったわ千夏。この働きは、きっと後世まで語り継がれ、絵本として出版される事になるでしょう」

 「それはすごいですね。桃太郎や浦島太郎みたいなおとぎ話レベルの扱いですか。
  どうせならばその絵本には私の名前を載せないでもらいたいですね。後生ですから」

 「とにかく、これで冥王星まで行く手はずが整いました。
  出発は明日を予定しています!!」

 「明日ですか……けっこう急ですね」

 生き残れるかどうか分からない戦場へと出向くには、余りにも気持ちの整理の時間が足りないと思います。

 「みんな、今夜は悔いの無いように過ごしてください。
  宇宙に旅立ってからいくら丼をいくらとご飯を交代したぐらいの比率で食べておけば良かった。これはもはやいくら丼では無く、『ドン・イクラ』だ!! イクラの中の大ボスだ!!
  ……みたいな後悔したって遅いんですからねっ!!」

 そんな食い意地の張りまくった悔いなんて残しません。





 「ふう……私、どうしたら良いんだろ? 最後の最後かもしれないってのに、全然何して良いか分からないよ」

 所詮そんな寂しい人生だったと言うことでしょうか。
 へこむわー。


 「何千夏? もしかして自分が生きている意味が分からずに苦悩しているの?」

 「お母さん……そんなたいそうな理由ではありませんけども、まあ悩んでいると言えば悩んでいます」

 「そういう時はこれよ! ルーレット!!」

 「……なんの?」

 「千夏の生きる意味を決めるルーレットに決まってるじゃない」

 「そんな人生ゲームの進むマスを決めるようなルーレットで私の人生の意味が決まるんですか!? んなバカな!!」

 「このルーレットの針が差した所に書かれている内容が、千夏の生きている意味となります。
  それじゃあルーレットスタート!!」

 「うっわあ!! 何勝手にルーレット回してくれちゃってるんですか!! 変なのが私の生きる意味になったらどうするの!!」

 「それはそれで面白い」

 「コラ!!」

 私が怒っている間にルーレットはゆっくりとスピードを落としていき、ぴたりと止まりました。
 その針が示した箇所は……。

 「千夏の生きる意味は、『ティッシュ箱に入っているティッシュは何枚入りなのかを確認するために生きている』となりましたー」

 「全身全霊を持って、お断りしますそんな生きる意味っ!!」

 生まれた途端に自殺するわ。そんなの。





 6月14日 水曜日 「置いてけぼり」

 「よし千夏っ!! たんまりとビールを買ってきなさい!! これは最優先事項です!!」

  「え? なに? 冥王星に出発する前に酒盛りですか?
  その陽気さは一体どこから湧いてくるんですか。出どころを詳しく知りたい」

 「私のこの豊かな胸からどんと湧いてくるのです」

 言うほど無い癖に。

 「今何かすっごく失礼な事考えなかった?」

 「被害妄想はやめてくださいお母さん。
  それで本題に戻りますけど、ビールなんか飲んでる余裕あるんですか?
  宇宙船の打ち上げの準備とかしなくていいの?」

 「だからビールを買ってこいと言ってるのよ。ビールが、宇宙船打ち上げの準備に必要なの」

 「……あの、言ってる意味が分からな……」

 「だからね、あの宇宙船の燃料は、なんと麦芽100パーセント使用のビールなのよ!!」

 「ええー!? ビールが燃料!? なんて酒臭そうな宇宙船なんですか!!」

 「まあ黒服さんが作ったものだから」

 確かにそうですね。あの人が作ったものだし。
 ビール臭かろうがプルトニウム臭かろうが、十分許容範囲内ですよね。







 「はあ……なんで私がこんな下働きみたいな事。雪女さんとかにさせとけば良いのに」

 あの人ほど雑用が似合う人材は居ないというのに。
 まあそれはどうでもいいです。早くこのビールを持っていかないと、置いて行かれてしまうかも。

 「ただいまでーす!! みなさん、念願の燃料を持ってきましたよー!!」

 「……」

 「あれ? みなさん?」

 「……」

 ビール片手に家に帰ってみますと、そこには誰も居ない空間が広がっているだけでした。
 何故か、ウサギさんも雪女さんも女神さんもリーファちゃんも黒服も、そして加奈ちゃんやお母さんが居やしません。
 まさか……本当に置いて行かれたのでしょうか? いや、でも燃料のはずのビールは私が持っているし……。

 「あれ、手紙?」

 私んちの食卓に、封筒がひとつ置かれていました。まるで、読んでくれと言わんばかりの物が。

 「なになに……? 『千夏へ。あなたがこれを読んでいる頃は、私たちはこの地球にはもう居ないでしょう……』
  この手紙、もしかしてお母さんからの手紙!?」

 なんでこんな物が私宛に……とにかく、読み進めていくしかありませんっ!!

 「『千夏……実は、ビールが宇宙船の燃料だと言うのはあなたをこの家から出すための嘘でした。
   本当の燃料はくさやでした』」

 本当に臭そうな宇宙船だな。
 でもなんでお母さんは私を家から出そうと……。

 「『千夏。あなたはこの最終決戦に行くべきではありません。だから……私たちはあなたをこの地球に置いて行く事にしました。
   あなたが家から出ている間に、宇宙船で冥王星へと向かいます』」

  …………なんですって!? どういう事ですかお母さん!?

 「『率直に言えば、あなたは足手まといなのです。この戦いには向いていません。
   せいぜい普通の人が送るように人生を楽しんで、意味無く死んでいってください。
   人の人生なんてこんなものです。適当な幸せと絶対な不幸が入り混じった、そんなものなのです。しかしそれのなんと尊いものか。
   千夏は、そういう生き方を十分やってください』」

 ……お母さん。お母さんは、私の事を考えて…………。
 ううっ、少しだけ泣けてくるじゃないですか。

 「『どうか私たちの分まで幸せになってくださいね。それじゃあさようなら。千夏の母、春歌より………………』
   う、ううっ、ううう…………お母さんのばかー!!!! 私を置いて行くなんて酷いじゃないですかー!!!!」

 私だって……一緒に戦いたかったのにぃ…………。







 「バカって言う方がバカだよバーカ!!」

 「ってえー!!?? お母さん!? なんでここに居るの!? 私を置いて冥王星に行ったんじゃないの!?」

 「いや、それがね、ちょっとトイレに行っていた間に……」

 「あなたも置いていかれちゃったんですか!?」

 この戦いのリーダーであるあなたが置いていかれてどうするんだ。
 というか、これからどうしろと言うのですか。




 6月15日 「ウサギさんたちを追いかけろ」

 「これからどうしましょうかお母さん……?」

 「うーん……今なら走れば間に合い……」

 「ません。絶対に。相手は空を飛んでいけるんですよ!?
  どういう脳回路してたらそんな考えが浮かんでくるんだ!!」

 ええっとですね、みなさんに今私とお母さんが置かれている状況を簡単に説明しますとですね……単純に、置いて行かれました。みんなに。



 「はあ……こうしている間にもウサギさんたちは最終決戦のために冥王星へと向かっているというのに……私はここでお母さんとコントですか」

 「私は別にコントなんかするつもり無いわよ?」

 「私もですよ!!」

 それでもコントになるから問題なんでしょうが。
 全体的にお母さんが原因だと思いますけどね。



 「……仕方ないわね。私たちは私たちで独自の宇宙船を手に入れてみんなに追いつくしか無いわ」

 「私たち……? その言葉通り私も連れて行ってくれるんでしょうね?」

 「置いて行かれるの嫌い?」

 「当たり前でしょうが!!
  今までずっと苦楽を共にしてきた家族なのに、最後の最後で仲間外れですよ!? そんな酷い事あってたまるかっ!!」

 「そう……千夏がそこまで考えてくれていたとはね……。
  分かったわ。今度は絶対千夏も冥王星に連れていく。約束するわ」

 「約束やぶったらハリー千本ですよ?」

 「まあ良いけど……ハリー千本ってなに? ハリーってなんなの?」

 「ハリー・ポッターです」

 「ハリー・ポッターが千本!? それは確かに怖いわね……」

 なんとなくで会話進めるなよ私たち。



 「でもですね、肝心の私たちが乗る宇宙船はどうするんです? どこから調達してくるのですか?」

 「ふふふ……なんたる愚問を。
  千夏にひとつ問題よ。宇宙から連想するアルファベット4文字は!?」

 「アルファベット4文字……?
  ええっと……もしかしてNASA?」

 「ピンポーン! その通り、NASAです!!」

 「……だから、NASAがどうした?」

 「NASAなら宇宙船のひとつやふたつあるかなって」

 「中古車売り場に行くノリでNASAに行くなよ!!」

 お母さんはNASAの事をどう思っているのですか……。



 6月16日 金曜日 「NASAさんちに突撃」


 「もしもーし!! 出てきてくださいなー!!」

 「お母さんっ!! 人んちの玄関をガンガンやるのは止めなさい!!」

 「え……? じゃあどうやって中に居る人を出てこさせるの?」

 「いや、普通にチャイム鳴らせよ」

 「なるほど。北風より太陽って事なのね?」

 「チャイムを鳴らすのは一般常識ですよ。
  ……じゃなくて、お母さんっ、ここがどこだか知ってるんですか!?」

 「もちろんよ。NASAさんちの玄関でしょ?」

 「ご近所感覚でNASA訪ねるなや!!」

 しかもなんで我が家の昼飯の残りが入った鍋を持っているんですか。
 おすそ分けか? そういう事なのか?



 「もしもーし!! NASAさん? 居るんでしょう?」

 「コラー!! そんなにガンガンやったら怖い人たちが来るかもしれないでしょ!!
  ここはNASAなんだよ!? アメリカ政府の施設なんですよ!?」

 「つまりあれでしょ? 平たく言えば国会図書館みたいな感じなんでしょ?」

 全然違うわ。あそこまで一般にオープンじやねえよ。





 「おいお前ら!! ここでなにしてる!?」

 「うっわあっ!! ほらお母さん!! 何か怖いガードマンが出てきちゃった!!」

 「むむむ……あれが本場のガードマンね」

 本場って言い方もおかしいだろ。
 まあなんとなくアメリカだと本場っぽい気がしないでもないけど。



 「ちょっと良いかしらガードマンさん?
  私たち、NASAさんに宇宙船を譲ってもらいに来たのだけど……取り次いでもらえるかしら?」

 お母さん、もしかして本気でNASAの事をいち個人名だと思ってるんじゃないでしょうね?
 例えば那佐さんとか。そんな感じで。

 「はあ!? 何言ってんだお前!? ジャンキーか!?」

 まあそう言われても仕方ないわな。

 「あらあら……私の事をジャンキー呼ばわりとは面白いじゃないのアメ公。
  こちとらお前らご自慢の近代兵器を凌駕する手足を持っているのですわよ?
  お前が経験した事の無いような痛みをプレゼントして……」

 「うわあっ!! ごめんなさい! 失礼します!!」

 何やらヤバげな事をつぶやき始めたお母さんを引っ張って、私たちはNASAの敷地から急いで退陣しました。
 このままだと確実に血の雨が降ったからね。


 「あのやろうめ! なんて接客しやがるんだ!! 日本だったらクビだぞこのやろう!!」

 「別にあの人は接客のために雇われた人じゃないですから仕方ない事ですから」

 あんなごっつい感じの受付は嫌だよ。


 「くそう……こうなったらやるべき事は一つしか無いわ」

 「それってまさか……」

 「ええ。NASAの施設内に黙って侵入作戦よ!!
  ザ・不法侵入よ!!」

 「そんなシンプル2000シリーズみたいに言われても!!」

 いい加減なんでも犯罪的行為で片づけるのやめてくれませんかね?




 6月17日 土曜日 「天の落し物」

 「よし。まずどうやってNASAに忍び込むかだけど……」

 「お母さん……マジでやる気なんですか? よりにもよってNASAなんか侵入するなんて自殺行為ですよ」

 「自殺行為? これぐらいで自殺行為だなんて千夏も甘っちょろい人生を歩んでいたものね。
  本当の自殺行為というのは、素人の癖に株に手を出すような事を言うのよ!!
  あの時の失敗に比べたらこんな程度……」

 「お母さん、株で失敗した事あるの……? 私の知らない間に負債をどんどん増やしていくのは止めてくれませんかね?」

 「とにかく、どうやってあのNASAに侵入するかを考えましょう。
  このままずっとここに居たって、宇宙船が降ってきてくれるわけじゃないんですからね」

 「そうですねえ。確かにそれはそうかもしれません。
  でもですね、NASAに侵入するって事は力ずくで宇宙船を奪うって事でしょ?
  そんな酷いことするなんて……」

 「いいって別に。この前アメリカと戦争した時の慰謝料だと思えば心も痛まないでしょ」

 「一応あれは平和的解決したんですから、後々になって慰謝料を要求するのは間違っているような……」

 「じゃあ私の作戦を聞いてくれるかしら? あのね、まず千夏が囮になって……」

 「ちょっと質問がありますお母さん」

 「え? まだ途中なんだけど?」

 「だからこそです。最後まで喋らせたらいけないと思ったのです。
  ……私が囮ってどういう事ですかお母さん!! なぜそんな危険な事を私に!!」

 「多少のリスクを覚悟しなくちゃ大きな物を得る事なんて出来ないのよ!!
  そう、それはまるで株の如く!!」

 「あんた株失敗したんだろうが!! 全然良い未来と言うものが想像できない!!」

 「それにね、別に私は千夏にだけ危険な思いをさせようってわけじゃないのよ? 私だって危ない橋を渡るつもりなんだから……」

 「……本当ですかそれ?」

 「ええもちろん。千夏が囮となってガードマンたちを引き付けている間、私はNASAの内部に侵入します。
  そしてこっそり宇宙船を奪って、いざ宇宙へ」

 「……お母さんが危険な所は?」

 「無免許だけど、宇宙船を運転」

 「確かに危ない橋だ!! というか、一緒に乗ろうとしている私も一緒にその橋渡ってるよ!!
  っておい!! おいコラ!!」

 「なによもう……。じゃあ千夏は何か良い方法思いついているっていうの?」

 「別にそういう訳じゃないですけど……根本的な問題が露呈されてしまったと思うんですよね。
  お母さん、宇宙船を運転できないのかよ」

 「じゃあ千夏は出来るって言うの? 学校でそういうの習ったっていうの?」

 「いや、無理に決まってるじゃないですか。そんな事教える学校なんてあるわけないし」

 「ふふん。ほらね」

 なんでちょっと誇らしげなんだよ。

 「じゃなくてですね……いくら手際よく宇宙船を盗んだとしても、運転できないなら意味が無いじゃないですか」

 「代行運転でも頼んだら良いんじゃない?」

 「居酒屋に車持って来ちゃったけどお酒飲んじゃった的な事を言うな。
  一体誰に代行を頼むというのですか」

 「世界は広いんだし、そういうサービスもあると思う」

 「どうしてそう楽観的なんだ!! そして短絡的なんだ!!」

 「さあ! NASAに突入するわよ千夏!! 遅れないで…………」

 『ドッゴーンッッ!!!!!』

 「うっわあああ!! なに!? 何の音!?」

 作戦会議を開いていた私たちを、大きな音とびりびりと空気を震わせる衝撃が襲います。
 あたりには土ぼこりが舞い、視界を塞ぎます。
 まさか私たちがここに居ることがばれて、爆撃されてしまったのでしょうか……?


 「み、見て千夏!! この空から落ちてきた物体を!!」

 「落ちてきた!? やっぱり爆撃なんですか!?」

 「いえ、これは……」

 「これは?」





 「…………宇宙船が、私たちの目の前に落ちてきました」

 「……『このままずっとここに居たって、宇宙船が降ってきてくれるわけじゃないんですからね』とかお母さんさっき言ってたけども、
  どうやら現実は私たちにとって激甘だったみたいですね」

 というか、なんで宇宙船なんかが落ちてくるんですか。
 まあいいや、とにかくラッキー♪









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