7月2日 日曜日 「代車の宇宙船」

 「いやあ。本当にありがとうございます春歌さんに千夏さん。
  あなたたちのおかげで私たちの星が救われました。まだ復興にはしばらく時間がかかりそうですけどね」

 「いえいえ。どうってこと無いですよ宇宙人さん。
  それにしてもなんでガチャピンたちはこの星を征服しようとしたんですかね……? 何か特別なものがこの星にあったのでしょうか?」

 「きっとこの星の人口比が、年配者よりも子供の方が多かったせいですね……」

 「食料を求めてやってきたって事ですか。
  怖っ! ガチャピンマジで怖っ!!」

 もう地球に帰っても、前のような純粋な目でガチャピンを見れませんよ……。
 どうしてくれるんだ。




 「さて。では春歌さんたちの要望にお応えして、冥王星まで連れて行って差し上げましょう」

 「わーい♪ ようやく冥王星に出発だぁー!!」

 まったく……今まで過ごしてきた無駄な時間がようやく報われますよ。

 「それではお二人とも宇宙船に……はっ!? しまった!! 私とした事があ!!」

 「ど、どうしちゃったんですか宇宙人さん!? そんな頭を抱えちゃって!!」

 「実はその……私が使っていた宇宙船は車検に出してしまいまして……今手元に無いんです」

 「車検!? 宇宙船にも車検あるの!?」

 「当たり前じゃないですか」

 お前たちの当たり前なぞ知らんぞい。
 私は今までそのカルチャーギャップにいろいろ惑わされてきたんですからね。

 「宇宙人さん……じゃあ私たちは宇宙船の車検が終わるまで待っていなきゃいけないの?」

 「いえ! 大丈夫ですよ春歌さん!!
  きちんと代車がありますから!!」

 代車システムあるんだ……?

 「まあその代車、二人までしか乗れないんですけどね」

 「え!? 二人乗り!?
  という事は私とお母さんしか乗れないって事!?
  宇宙人さんが乗ってくれなきゃ操縦はどうするのさ!?」

 「大丈夫ですよ。宇宙船って言っても操縦はすごく簡単なものですし」

 「そんな事あなたたちの価値観で言われてもですねえ、信じられないんですよ!!」

 「ボタン2つでラクラク操作です」

 「UFOキャッチャーか何かですかそれ!?」

 それはいくらなんでも簡単すぎでしょ。
 逆に不安だよ。



 「仕方ないわ。それで行きましょう!!」

 「マジですかお母さん!?」

 死ぬほど不安なのですが……?




 7月3日 月曜日 「宇宙船の激突事故」

 見事宇宙人さんの星を救い、ボタン2つで操作できる宇宙船を手に入れた私たち。
 シロナガスクジラ並みの大きさの不安も抱えた私の気持ちを余所に、その宇宙船は冥王星に向けて出発してしまいました。
 ああ、無事に着けば良いのですが……。



 「ねえ千夏。なんだかお腹空かない?」

 「……あまり食欲はありませんな。
  なんて言ったって、お母さんがこの宇宙船を操縦してるんだからねっ!!
  生きた心地がしないよ!!」

 「ええ。私も生きた心地がしないわ」

 「操縦してる本人もそんな気持ちだったんですか!?
  ますます不安で胸がいっぱいだ!!」

 「うん。あまりにも不安すぎてお腹ペコペコよね」

 「……どういう食欲してるんですかお母さん」

 何があっても1日3食は欠かさない人ですねこの人。
 健康的ですね。頭まで。


 「そういうわけだから、ちょっとサービスエリアに寄って行きましょうか?」

 「……宇宙にサービスエリアなんてあるの?」

 「ええ、もちろんあるに決まってるじゃない。
  むしろサービスエリアの無い宇宙空間を見てみたいわよ」

 ……まあ、もう何があっても驚かないけどね。
 宇宙金閣寺とか宇宙食い倒れ人形とかあっても、別に何も思わないけどね。

 「じゃあ近くのサービスエリアにレッツゴー!!」

 勝手にしてくださいな。




 『ドガーンッ!!』

 「ってわああああ!!?? 何この衝撃っ!?」

 「し、しまったわ!! サービスエリアから出ようとしている他の宇宙船にぶつかっちゃった!!」

 そんな普通の道路で起きそうな事故を宇宙でしないでも。

 「ど、どうしましょうか千夏!?」

 「どうしましょうって、普通に謝った方が……」

 「私がぶつけたあちらさん、どうやら宇宙ヤクザな方々みたいだけど……」

 「よし。逃げましょう」

 宇宙にもヤクザが居たとかそういう事はもうどうでも良くて、とにかく逃げましょう。
 それが私たちが今一番とるべき行動だと思います。捕まったら何されるか分かりませんよ。


 「おうおうおう! 何してくれとんじゃいワレッ!!!」

 「きゃー! あっちの宇宙船からヤクザな宇宙人が出てきたわ!!」

 「早くお母さん逃げないと!!」

 「ええ! 分かってますとも!!」

 そういうとお母さんはアクセルらしきボタンを思いっきり押しました。
 そうするともちろん宇宙船は前進するわけでして、前進すると前方に居た宇宙ヤクザさんにまっすぐ突っ込む事になるわけでして。

 「ぐあああーーーー!!」

 「きゃー!! 何か轢いちゃったー!!!」

 「さすがお母さんだぜ!! 宇宙でもこれは酷いって事をさらりとやってのけますね!!」

 宇宙でもこれって犯罪だよね…………。


 「おらお前ー!!! なにすんじゃい!!! さっさとこの船とめんかいっ!!」

 「きゃー!!! 宇宙船の窓に死に掛けのヤクザが張り付いているわっ!! ワイパーでも取れない!!
  キモイ! これはキモイわ!!」

 確かにこれはキモイです。同時に宇宙船のワイパーでガンガンやられているヤクザは哀愁さえ感じます。


 「お母さん……じゃあさ、この船のスピード落として下ろしてあげればいいんじゃないかな……?」

 「そんなことしたら怒られちゃうじゃない」

 「確かにそうかもしれませんね。でもずっとこのままって訳にはいかないでしょう?」

 「…………まあ、冥王星までだし、このまま走っていっても別に良いかな」

 「え……?」





 なんだか良く分かりませんが、冥王星までの旅の連れ添いが出来てしまいました。
 その人は、相変わらず宇宙船のフロントガラスに張り付いているのですが。

 「おいこら!! スピード落とせっつっとるじゃろがい!!」

 嫌だよ。怖いし。




 7月4日 火曜日 「宇宙で初めての放浪」

 「千夏! あれを見てみなさいよ!!」

 「はい……? あれってどれですかお母さん……?」

 「もうっ! 千夏がぼやぼやしてるから通り過ぎちゃったじゃない!! きちんとフロントガラス見なさいよね!!」

 「いや、フロントガラスを見ても昨日撥ねたヤクザさんしか居ませんし……」

 「だから、さっきまでは見えてたの!
  そんな風にのんびりしていたら、人生で2、3度しか無いようなチャンスも逃しちゃうわよ」

 「なんですかその人生で2、3度しか無いようなチャンスって……」

 「例えばチョコボールの金のエンジェルを手に入れるとか」

 人生で2、3度しか無いのですか。
 まあ普通の人のチョコボール頻度ならばそんくらいでも十分多いかもしれませんが。


 「で、一体何が見えたんですか?」

 「看板よ。看板があったの」

 「なんか本当にただの道路みたいな感じになってますね。一応宇宙空間の癖して。
  このままだと道路沿いにありそうな小さなアイスクリーム屋とかもありそうですね」

 「それはもう通り過ぎた」

 あったんだ。アレ。

 「で、その看板にはなんと書かれていたんですか……? よっぽど珍しい事でも書かれていたんですか?
  宇宙クマが出るぞー、とか」

 「冥王星まであと5分なんですって」

 「なんだ……。割と普通ですか………………って、本当!? あと5分で冥王星に着くの!?」

 「ええ!! とうとうね!! というかさっきの何? 宇宙クマって」

 「気にしないでください! ちょっと心が荒んでいただけですよ!!
  それにしてもこれでようやくウサギさんたちに追いつく事が出来るのですね……。本当に長かった」

 「ええ。なんでこんなに時間がかかっちゃったのかしらね」

 「……」

 それの半分近くはお母さんの所為ですが……まあ今はそんな事どうでもいいです。
 素直に目的地に到着できる事を喜びましょう。



 「よし。それじゃあさっそく着陸の準備を……」

 『ガスンッ!!』

 「……あら」

 「な、なんですか今の音!?」

 「心配しないで。ただちょっとエンジンが止まっただけだから」

 「ええええ!!!??? それって割と大変な事でしょう!?」

 「大丈夫。宇宙では日常茶飯事。日常茶飯事すぎて、棺おけが足りないくらい」

 「全員死んでるんじゃん!! 日常茶飯事だけど、割と死亡率高いんじゃん!!」

 「まあ私に任せなさいって。こんなのちょちょいよ」

 「しゅ、修理とか出来るの……?」

 「ねえ千夏、木工ボンドとか持ってない?」

 ああ、ダメだ……冥王星目前にして遭難ですか……。




 7月5日 水曜日 「燃料を探して」

 「千夏、見て見て。この乾電池とか、宇宙船の燃料に使えると思わない?」

 「思いません。まったく思いませんねお母さん。
  その程度の電力で光が灯るのは懐中電灯ぐらいですよ。私たちの心には、一切の希望の光は指しませんよ」

 「何上手い事言ってくれちゃってるのよ千夏」

 絶望は詩人を産むと言いますが、まったくその通りみたいでしたね。
 え? 誰がそんな事を言っているんだですって? それはもちろん私自身に決まっているじゃないですか。
 この世は全てハッタリなのです。



 「ねえお母さん……人って何故生きようとするのかな?」

 「なに自分の人生に幕引きするかのような質問してんのよ。
  諦めるには早すぎでしょうに。小学生らしい根拠の無い希望ぐらい持ってなさいよ」

 「だって……私たち、遭難してるんですよ!? この大宇宙で!!」

 「まるで死ぬかの如く慌てなくても……」

 「死ぬよ! 普通はねっ!!」

 救助なんか決して見込めない私たちにとって遭難なんて、死刑宣告そのものじゃないですかあ……。
 この状態からどう救われろというのですか。
 これで助かったら奇跡ですよ。さすがの私でも神を信じますよ。
 神様は私だけど。



 「……いい千夏? 確かにそうやって絶望に身を任せていれば楽でしょうけどね、今私たちに一番必要なのは生きる意志なのよ。絶望に立ち向かう勇気なのよ。
  決して死を前にして怯える弱さでは無いわ」

 「言うだけなら簡単ですけどね、実際問題どうするというのですか。
  このままだと私たちは確実にミイラに……」

 「だからこうして宇宙船の燃料になりそうな物を探しているんでしょうが。
  しっかりしなさい」

 「はい……分かりました」

 「よし。じゃあ千夏も一緒に燃料になりそうな物を探してちょうだい」

 ……お母さんの前向きさ、こういう時には役立つんですね。
 ちょっとばかり見直しましたよ。
 うん。私も頑張らなきゃ。




 「ねえ千夏」

 「なんですかお母さん? 燃料になりそうな物でも見つけたんですか?」

 さすがポジティブキングお母さんです! その前向きさが幸福を呼び寄せるのですねっ!!




 「……フロントガラスにくっついてるヤクザさん、良く燃えるかしら?」

 「お母さん!?」

 さすがにそれは。それだけは。



 7月6日 木曜日 「宇宙での救い」

 「さおだけ〜たけや。ただいま10本で1000円です。大変お得となっておりますよ〜」

 「……お母さん。あまりにも宇宙で遭難している時間が長かったのか、竿だけ屋の幻聴が聞こえてきたのですけど?
  どうしましょうか。このまま終わっちゃうんでしょうかね? 私の人生」

 「千夏……それは幻聴では無いわ。あれは宇宙竿だけ屋の音よ」

 「宇宙竿だけ屋って本当にあるのかよ。この調子だと宇宙豆腐屋のラッパの音が聞こえてきそうですね」

 「それならさっき30分前に目の前を横切っていったわよ?」

 「それもあるんですか……。
  というか、それなら彼らに助けを求めれば良かったんじゃないの?
  宇宙的な助け合いの精神でさ、この宇宙船のエンジンを直してくれちゃったりしないの?」

 「まあ豆腐屋や竿だけ屋って言っても彼ら、宇宙船に乗ってるから。
  だから呼び止める暇も無く通り過ぎて行っちゃうのよね」

 「じゃあどうやって豆腐とか竿とか買うんですか……」

 「買えないものらしいわよ? 素人には」

 そうか。素人には無理なのですか。なるほどね。納得しました。





 「はあ……いったいどうするんですかこれから。冥王星はすぐ近くだっていうのに」

 「だからあれほど窓に張り付いていたヤクザを燃料にしようって言ったのに……千夏ったら逃がしちゃうんだもの」

 「そりゃ逃がすよ!! 人としていろいろ間違ってるからねっ!!」

 「こんな非常事態にそんな良い子ぶらなくたって良いでしょうに……」

 「いつも頭が非常事態なあなたが良く言いますよ。
  それにね、尊い命を助けてあげると救われる事もあると古代から言われ続けているのですよ!!」

 「それってもしかして鶴の恩返しとか蜘蛛の糸みたいな?」

 「まあそうですね」

 「まったくバカバカしい……。今の宇宙でそんな甘い話があるわけないじゃない」

 なんだかよく分からないけど今の宇宙はダメなんですか?
 そして一昔前の宇宙ならば恩返しも普通にあったのですか?
 分かんない世界だなあ……。


 「もう千夏ったらバカね。バカバカ。
  バカ千夏」

 「うっさいなあもう……」

 「バカバカバカバカバッ…………カアッ!?」

 「やけに最後のバカは力が入ってましたねお母さん。
  というか、そんなに言わなくても良いじゃないですか」

 「違う! 違うのよ千夏!!
  向こうから私たちの方に、一隻の巨大宇宙船が近づいてきているのよ!!」

 「え? ええ!? 本当ですかお母さん!?
  つまり、私たち助けてもらえるの!?」

 「ええそうよ! 助かるのよ!!」

 「やったあー!! これで救われましたねお母さんっ!!」




 「……ただ、あの船、黒いドクロのペイントがあるんだけどね…………」

 「宇宙海賊じゃねえかそれ!!!!」

 気のせいか身の危険が5割増しに。



 7月7日 金曜日 「コショウな海賊たち」

 「ようこそスペースペッパーズの船へっ!!
  歓迎してやるぜクソガキども!!」

 「そりゃあどうも……。歓迎していただいて本当に嬉しいです……。
  勝手に視界が涙で滲むほどに」

 宇宙で遭難しかけた私とお母さんは、何故か今宇宙海賊の船に乗っていました。
 なんでこうも命の危機が2転3転するのでしょうか。
 全然良い方向に進んでくれない現実に軽く絶望します。



 「なんでもお前ら、乗ってた代車が故障したんだって?
  まったくゆるせねえな企業の奴らは!! あいつらはそうやって俺たちをバカにしてやがるんだ!! 散々金ばかり搾取しやがってよ!!」

 「そ、そうなんですか……」

 「よし決めたぜ客人よ!! 今からその代車を押しつけやがった企業のある星に戦争しかけようや!!
  奴らに俺らを舐めるとどうなるか思い知らせてやろうぜ!!」

 「いやいやいや結構です! 別に私たち、そんなに怒ってませんから!!」

 「そんなに遠慮するなって。この船、『ペッパーボトル』の火力なら惑星のひとつやふたつ、簡単に消せるからよっ!!」

 「い、いえ……本当に大丈夫ですから……」

 「……千夏」

 「なんですかお母さん……?」

 「いい海賊さんに助けてもらって良かったわね♪」

 「どこが良い海賊さんなんですか!?
  確かに割りと意外な感じの厚待遇だけど、すっごくぶっ飛んだ事言ってくるんですよ!?」

 「あ〜。良いわね海賊って。なんだかとっても憧れるわ〜」

 宇宙コショウとか名乗ってる奴らに憧れないでくださいよ。
 しかもこの船の名前はコショウ瓶だぞ?




 「そうだお前ら。客室に案内してやるからついてきな」

 「あっ、はい。どうもすみません……」

 「ほら、やっぱり良い人たちじゃない」

 「本当にそうなんですかねえ……?」

 少しばかり、いえ、すごく不安です。




 「よしっ! ここがお前らの部屋だ!!  ありがたく使いな!!」

 「ありがとうございます……って、ここって!?」

 「魚雷室に決まってるじゃねえか。間違ってもここでタバコなんか吸うなよ?
  一瞬で消し飛ぶんだからな。ガハハハハハ!!!!」

 だ、だめだー。全然歓迎されているようには思えないー。
 そして命の危機度が昨日の比では無くなってしまいましたよー?



 7月8日 土曜日 「海賊の向かう場所」

 「……お母さん。この宇宙船ってどこに向かってるのかなあ?」

 「さあねえ。冥王星に向かってくれていればいいのだけどねえ」

 「それは無いんじゃないかな……? だって私たちが遭難した時には冥王星まですぐの距離だったんでしょう?
  でもずっとこの船は動き続けてるし……やっぱり遠ざかってしまったのでしょうかねえ」

 「そっかあ。せっかく近付いたのに残念ねえ……。
  海賊さんたちに話したら冥王星に向かってくれるかしら?」

 「どうでしょうねえ。相手は一応海賊ですからねえ。なんとなくですけど私たちの言う事を聞いてくれるとは思いません」

 「でもさ、頼んでみるだけならタダじゃない。やってみて損は無いと思うわ」

 「そこまで言うなら頼んでみてくださいよ」

 「それは嫌です」

 「えらくまた即答ですねコノヤロウ」

 「千夏が頼んでみてよ」

 「嫌ですよ!! なんで私が頼まないといけないんですか!!」

 「だって怖いしさ……いくら彼らが極悪非道で鬼だってドン引きの海賊だとしても、きっと子供には優しいわよ。
  だから安心して行って来なさいな」

 「子供に優しい保障がどこにあるって言うんですか。むしろ極悪非道なら子供に優しくないのがデフォじゃないの?」

 「なるほど……そういう考え方もあるか。
  でもね、やっぱり極悪非道だと主婦にはすっごく辛く当たるイメージがあるの。
  だから私からは頼めないわ」

 「なんだよそのイメージ。主婦に辛く当たる海賊ってなんか嫌だろ。すっごくみみっちいだろ」

 「宇宙サイズのDVよ。きっと」

 「訳が分からんな」

 「だから、千夏が行くべきなのよ!! 絶対に、千夏の方から頼んだ方が上手く行くって!!」

 「そこまで無理やり押し付けられると呆れて物が言えませんね……。それでも親か」

 「私は親である前に、ひとりの女でいたい」

 本当っに、最悪な人だな。
 地獄に落ちたら良いのに。宇宙地獄に、落ちたら良いのに。







 「あの〜……すみません海賊のお頭さん」

 「んあ!? なんだコノヤロウ!? なんか用か!?」

 「え、ええ、まあそうです。もしかして何かお忙しかったりしてましたか?」

 「そうでもねえよ。ただちょっと星を攻撃してただけだからよ」

 「ほ、星を攻撃ですか……。またスケールのでかい……」

 「ついでに今滅ぼし終わったから暇になったな」

 「………………お疲れ様です」

 ダメだー。なんか死ぬほど極悪人くせえよこの人。
 毒舌芸人に微妙に感じる微笑ましさなんて欠片もないよ。むしろ毒舌芸人はこの悪々しさを見習いなさいよ。

 「で、なんのようだよ?」

 「え、えっとですね……少しばかりお願いがあるんですけど良いですか?」

 「ああん? お願い?」

 「ひぃっ!!??」

 や、やっぱり怖いよー。ちくしょうめお母さん。こんな嫌な役を押し付けやがって……。
 もし無事にお母さんの所に戻ったら頭からトンカツソースとかかけてやる。ついでにレモンもかけてやる。


 「あ、あのですね……実は私たち、冥王星に行きたいのですけど……」

 「冥王星? なんでまたそんなへんぴな所に」

 宇宙でも冥王星は有名なのですか。へんぴとして。
 まあ良いですけどね……。

 「ちょっとばかり宿敵を倒しに……」

 「宿敵を倒しに!? それはなんとも男気に溢れた目的だな!!」

 「まあ男気と言えるのか分かりませんけど…………」

 「よし気に入ったぞ! 冥王星まで連れてってやる!!」

 「本当ですか!? わーい!! おじさん結構良い人ですねー!!」

 いやあ、話してみるものですねえ。やはり男の世界に生きるものとして、宿敵との戦いには何か感じるものがあるのでしょうか。
 なんにせよ良かった良かった。



 「ただもう一仕事してから向かわせてもらうぜ? 俺たちも食っていかなくちゃならないんだからな」

 「一仕事って星を襲うんですか……? また今度はいったいどこをやっちゃうんですか……」

 「いやな、なんでもこの付近に地球という小汚い星があるそうで……」

 「地球!!??」

 どうしましょうか。黒い星の民がどうこうする前に、私たちの地球がすっごいピンチになっちゃってますよ。
 しかし何よりショックなのが、地球が小汚い星だと表現された事ですかね……。
 いや、確かにSFとかそういうので地球がすごく綺麗な星だと表現され続けた歴史は微妙な贔屓を感じたけど。
 確かに最近環境破壊がすっごいけども。










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