7月16日 日曜日 「勝負事」

 あらすじ:なんかもたもたしている間に、海賊船は地球に着いちゃったみたいです。
      うわー。もうどうしたもんでしょうか。このやるせない思い。

 「お母さん……」

 「くっ、抜かったわ!! まさかこの海賊船がこんなにも速かっただなんて!!」

 「海賊船が速いっていうか、私たちがあまりにもグダグダしてたからなんじゃ……」

 「でも諦めないわ!! まだ、まだよ!! この海賊たちが地球を滅ぼそうとする前に、この船の戦闘機能を叩く!! それっきゃない!!」

 「俺たちがそんな事を許すとでも思っているのか!!??」

 「うわー!! お母さん、海賊たちがすっごく怒り心頭な顔で襲い掛かってきましたよ!?」

 「よし! 力ずくで行こう! レッツ腕力!!」

 「その英語絶対間違っているでしょうが!!」

 ちくしょうっ! 戦いを避けるための作戦だったのに、結局こうなるんですか!!
 どこまで血にまみれた人生を送るつもりですか私たちは!!



 「待ちやがれ野郎ども!!」

 「お、お頭!? 何故止めるんですか?」

 「ふふふ……俺はこの女が気に入った。自分の星のためとは言え、自爆覚悟でここに突っ込んでくる心意気は尊敬にさえ値する。
  どうだ女? 俺とこの星を賭けて、ゲームをしてみないか?」

 「ゲームですって……? ふふっ、面白そうじゃない」

 「お、お母さん!? やる気なんですか!?」

 「ええ、もちろんよ。だって考えてみなさいな。今の私たちには、彼の提案に乗る事しか勝ち目が無いのよ?
  まともにやりあったって、酷い犠牲が出るだけだわ」

 「まあ確かにそうかもしれませんけど……」

 「よし。じゃあ海賊さん。いったいどんなゲームをやろうかしら?」

 ううう……本当に大丈夫かなあ? 私たちなんかが、地球の明暗をかけたゲームをしちゃってもいいのかなあ?



 「ゲームはお前たちが選んでいいぜ? 宇宙で流行っているゲームなんて、お前らはしらないだろうからな」

 「そう。私たちが決めていいのね……?」

 これはチャンスです! なんて言ったって自分たちの得意なゲームに持ち込めば、大いに勝てるチャンスがあります!!
 地球を救えるんです!!

 「えっと、じゃあ勝負を決めるゲームは……」

 「マージャンでもやりましょうか? 私と千夏と、あとお頭さんと。そっちからひとり出してくれても良いわ」

 「お、お母さん!? お母さんって、マージャン得意なの!?」

 「得意じゃなければやっちゃダメという決まりでもあるのかしら!?」

 「何言ってんだこの人ー!!??」

 得意じゃないゲームを選ぶ道理がまずわかりませんよ。

 「じゃあドミノ倒しとかどうかしら? 長く繋げた人の方が勝ちとか」

 「お母さん、ドミノとか大丈夫なの……?」

 「100個を越えたあたりから、無性に倒したくなる気質を持っているけど大丈夫よ」

 「どこが!? 今のどこに大丈夫な要素が!?」

 ダメだ。この人、全然ダメだ。
 任せていたら、地球が滅ぶよ。

 7月17日 月曜日 「ゲーム取り決めなおし」

 得意でもないゲームで地球の運命を決めようとしたお母さんを何とか止める事が出来ました。
 いやあ危ない危ない。あともう少しで地球の命運がビギナーズラックに任される事になりそうでしたよ。

 「よくよく考えてみたらさ、私ってゲームとか苦手なんだった。
  だからさ、なにやったって変わらないわよ」

 「お母さん! そんな気持ちで地球を救おうとしてたの!?
  精神的に無謀すぎる!!」

 「そう言われてもねえ。やるしかないんだから、仕方ないでしょう」

 「本当に得意なゲームとかは無いの?
 トランプのババ抜きとかは?」

 「私、結構顔に出るタイプなのよね」

 「確かに。何か企んでいる時は惜しげもなくその悪魔の微笑みを全開にしてますもんね。
  じゃあ神経衰弱とかは? あの物騒な名前のトランプゲームはどうなんですか?
  記憶力が良ければ、かなり良い線行くと思うんですけど」

 「あーダメダメ。私、記憶力そんなに良くないから。
  昨日食べた夕食のぬくもりなんて、もう思い出せないから」

 「意味がわかりませんね」

 「あなたが居た頃のぬくもりなんて、もう思い出せないから」

 「どこのさっぶい恋愛小説の一文だよ。
  あーもうっ、じゃあどうするって言うんですか!! このままじゃ私たち負けちゃうよ!!」

 「……そうだ。すごろくとかどうかしら? これなら私、かなり得意よ?」

 「……すごろくに上手いも下手もないでしょう。
  あれ、完全に運勝負じゃん」

 「ええそうよ。だからこそ勝ち目があるんじゃない。
  千夏は知っているはず……いえ、身を持って経験しているはずよ!
  私の……私たちの悪運の強さを!!」

 「なっ、なるほど!! 確かに私たちは無駄に幸運に恵まれている気がします!!
  100パーセント運勝負のすごろくならば、海賊さんたちに勝てるかも!!」

 「そうでしょう?」

 おお……なんという事でしょうか。
 地球の命運が私たちの悪運にかかっているだなんて……そうなった時点ですでに不運ですよね。


 「よし! じゃあ海賊さん!! すごろくで勝負よ!!」

 どうやら本気でやっちゃうみたいです。




 7月18日 火曜日 「特別ルール」

 あらすじ:地球の運命を掛けてすごろくで宇宙海賊と戦う事になった私たち。
      果たして、私たちは勝利する事が出来て、さっさと冥王星に行く事が出来るでしょうか?
      ……というか、本当にさっさと冥王星に行きたいんですけど? いつまで道草食ってりゃいいんだよ、


 「さあ! それじゃあお前たちの望む通り、すごろくで決着を付けようか!!」

 すごろくなのにノリノリだなあこの海賊さん。

 「ちょっと待って。いくらなんでもただのすごろくじゃあ救われる地球の民があんまりだわ。
  なんだかイマイチ助けられたって気がしないもの。すごろくじゃあ」

 というか私たちに助けられようとしている時点で助けられようとしている気がしませんよね。

 「だからすごろくのマスに自分たちで何か命令のような物を書いて、止まった人はその命令に必ず従うというようなゲームにしましょう」

 「なるほど……つまり止まったマスに首を吊って死ぬと書かれていたら、その通りに死ななければならないのだな?」

 「ええ。崖から飛び降りて死ぬと書かれていれば、崖から飛び降りて死ななければならないのよ」

 「なんであなたたちの喩えは一撃死のマスばかりなのですか。ザラキばかり唱えるな」

 そんなマスがあったら、すごく短期決戦のゲームになってしまいそうですね。
 というか本当にデスマッチじゃないですか。すごくここから逃げ出したい……。



 「よし! じゃあそれぞれ20個づつマスを埋めよう!!
  内容に一切の制約を与えない!! 好きなように書きな!!
  ただし、自分で踏むかもしれないという事を忘れないようにな!!」

 これはなんて度胸が試されるゲーム……いえ、ギャンブルなのでしょうか。
 相手を殺したければマスにとても大変な事を書けば良い。しかしそれはすなわち自分の死ぬ確率を増やすことにも繋がる……。
 まさに死のキチンレース。死の覚悟が試されるのですか。


 「お、お母さん……。お母さんはさ、どんな事書くの?」

 「えっとねえ……『トラックの前に飛び出す』でしょ、『大型電子レンジに入ってこんがり焼けてみる』でしょ、『思い切って舌を抜いてみる』でしょ……」

 「あんたっ!! 躊躇ってものが無いのかっ!!??」

 おぉーう。さすがお母さんだぜ。ブレーキという物を知らぬ女だ。
 いつか死ぬぞ。そんな生き方してたら。


 「千夏はなんて書くの?」

 「えっとですね私は……」

 とりあえず、『3回まわってワンと言う』を10個ほど安全地帯として量産させてもらいますよ。
 …………チキンとか言うな。


 7月19日 水曜日 「勝算」

 「第一回、地球滅亡杯すごろく大会を開催しまーす!!」

 第一回って、まるで次もあるかもしれない的な名前の付け方は止めてもらえますか?
 縁起でもないんで。

 「地球代表は千夏さんと春歌さん。
  海賊代表は宇宙海賊のお頭さんとオール漕ぎAさんです」

 「お母さん。なんだか割とどうでも良さそうな人が私たちの対戦相手になっちゃってますよ」

 「完全に舐められてるわね。
  こっちも対抗して猿とかを代表として出してやろうかしら」

 そういう無謀な対抗意識は持たないでください。
 ただイタズラに地球の寿命を削るだけなので。


 「では今からひとつの星の運命を握るすごろくのルール説明をいたします!」

 っていうか誰? この司会者風な人は? 誰が呼んだんだよ。

 「このすごろくが普通のすごろくと決定的に違う所は、止まったマスに書かれている命令を絶対に聞かなければならないという所です!!
  もし止まったマスに死ねと書かれていたのならば、誰であろうと死ななければならないっ!! なんと過酷で恐ろしいすごろくなのでしょうか!?
  その恐ろしさは何故か妙にすんなりと小遣いを出してくれた母親のようだ!!」

 まあ確かに想像してみたら不気味で怖いのだけど。でも喩えとしてどうなのだそれは。

 「ちなみにこのすごろくのマスの中に、『死ぬ』は45個あります」

 「半数近くがデスッ!? お前ら本当に頭いかれてんのか!!??」

 つまりこれってサイコロを振って5割の確率で死ぬという事ですよね?
 ロシアンルーレットより死の確率が多いですよ。

 「ふふふ……面白いじゃない。これぞすごろくって感じがするわね」

 「そんなのしてたまるかい。お母さんはいったい今までどんなすごろくをやっていたと言うのですか。
  サイコロ振ったら半分の確率で死ぬようなすごろくを、やっていたと言うのですか!?」

 「なによ千夏。そんなにかっかしちゃって。カルシウム不足は身体に毒よ?」

 「こんなギャンブルに付き合った方がよっぽど身体に悪いですけどねえ。
  というかお母さんはなんでそんなに冷静なんですか……。
  ドラッグ? そういうドラッグやってるの?」

 「自分の母親をジャンキーみたいに……」

 だってねえ……。


 「まあさ、私にはちゃんと勝つ算段があるってわけよ。
  勝てない勝負を私がするわけ無いじゃない」

 「本当ですか……? まあ私たちの悪運任せとかそういうのじゃないでしょうね?」

 「違うって。きちんと自分の実力に基づいての自信よ。
  あのね、私実は昔壷振りのアルバイトをしていた事があるの」

 「……壷振りってあの、博打の?」

 「その通り」

 どんな人生歩んでたんだあんたは。

 「それで、そのバイト時代のきつい研修のおかげで、サイコロの目を自分が思うがまま出す事が出来るようになったの」

 「本当ですかそれ!?」

 「ええ。だから私は、死ぬなんて書かれたマスに止まる事なんてありえないのよ」

 「すごいやお母さん! 頼りになるぅ!!」

 「ま〜ね〜♪」

 …………ってあれ?

 「あの〜……お母さんは良いとして、私はどうすれば……」

 「千夏っ、ガンバ♪」

 「ガンバじゃねえだろオイッ!!」

 私の頼りは結局運だけなんですか…………。



 7月20日 木曜日 「サイコロに全てをかけて」

 あらすじ:死にます。私、絶対に死んでしまいます。マジで誰か助けてー!!

 「どうしたの千夏? そんなにガタガタ震えちゃって」

 「いやあねえ……これから起こりうるであろう私の悲惨な最期を想像してみましたらねえ、ちょっとばかし震えが止まりませんで」

 「まったく……こんな時だけ人並みに弱いんだから。情けない子ねえ」

 自分の死を前にして何も感じない奴を子どもとして持てたら幸せなんですか?
 そんな親心なんて知らんわ。



 「はい千夏。まるで子犬のように怯えるあなたに、お守りをプレゼントしてあげるわ♪」

 「お守り、ですか?」

 「そう。これさえあればどんなギャンブルだって楽勝という、素敵アイテムよ」

 「お母さん……そんな大切な物を私に……」

 「はいどうぞ」

 「ありがとうございます。そのお母さんの優しさは一生忘れない……って!
  これ、ただのサイコロじゃん!! これがお守りなの!?」

 「これがただのサイコロですって!? とんでもないわ!! なに的外れな事を言っているのよ!!」

 「え……? じゃあ本当に何か能力とかがあったりするのですか?」

 「そのサイコロを振るとねっ! そっちにあるすごろくゲームがスタートするのよ!!」

 「これ、最悪すごろくゲームのサイコロかよ!!」

 「人の生死を操る能力を持っているわ」

 「人の生死を操るっていうか、ただ単にこのサイコロを振った結果として、人が生き死にするだけでしょうが。
  ある意味で宇宙一縁起の悪い物体だよ。不幸のブラックホールだよ」

 「あまり上手くない喩えね……」

 うるせえ。


 「というかさ、なんでこんなものを私に持たせるんですか。お守りになんてなるはずもない…………まさか」

 「ええ。そのまさかよ。
  千夏が、このすごろくゲームの一番手なのよ。だからそのサイコロを早く振ってちょうだい」

 「最悪だー!!」

 このすごろくゲーム、先手であればあるほど不利なゲームなんです。
 普通こういったサイコロやくじなど、確率に左右されるゲームではあまり順序は関係のあるものでは無いのですよね。
 よく学校の席替えなどで一番最初にくじを引いた方が有利だとか抜かしている人が居ますけど、そういった人は確率についての勉強をし直してください。
 あと、カジノのルーレットで10回続けて黒が出たら、次は2分の1を上回る確率で赤が出るとか抜かしている奴も。今すぐ数学に謝れ。

 しかしですね、このすごろくは違うんです。だって、止まったら死ぬマスがあるんだから!!
 もしかしたら1から3番手の人全員が死ぬマスを踏んだらですね、4番の人は何もしなくて良いのですから!!
 サイコロを振る機会が多ければ多いほど不利なんですよ!!


 「さあ早く!! それをポイってして楽になりなさい!!」

 「えー!? それってどっち側の楽なの!? もしかして死後の安楽!?」

 人生で一番サイコロを手放したくないと思いましたよ……。

 7月21日 金曜日 「私の第一投」

 「千夏! さっさとそのサイコロを振りなさい!! 一体いつまで抱えているつもりなの!!」

 「いやだ!! 誰が離すものかね!? これ振っちゃったら、死に近付いちゃうじゃん!!」

 「大丈夫!! 割と大丈夫!!」

 「何が!? 何が割と大丈夫なの!?」

 「えーっと……今日はちょうど良い死に時よ!!」

 「なんのフォローなんですかそれは!? まったくこのサイコロを手放す気にはならないね!!」

 「早く放ってもらえないとさ、私たちもゲーム始める事が出来ないじゃん? だからさ、ちょっと勇気出してみちゃってよ」

 「勇気出したら死んじゃうでしょ!? 何さらりと言ってのけてくれてんの!?」

 「どうしてもダメだというのね……」

 「ああ! ダメだね!! 絶対にこのサイコロを手放すつもりはないね!!」

 「千夏……あなた、生きたいの?」

 「あったりまえじゃん! 何今さらそれを聞いてくれてんの!?
  生きたいに決まっているじゃないか!!」

 「じゃあ何故千夏は地球に残らずに、私についてきてまで冥王星を目指そうと思ったの!!??
  死ぬ覚悟があったからこそ、こうやってこの場所に居るのではないの!?」

 「っ!? そ、それは……」

 「千夏……あなたはね、もう死ぬ覚悟が出来ているはずなのよ。そういう風に、自分で選んだはずなのよ。
  今までの巻き込まれ型の不幸なんかとはまったく違うわ。千夏は、自分で選んでここに居るのよ。
  死ぬ覚悟、出来ていないとおかしいわ」

 「そ、それはそうかもしれませんけど……」

 うう、なんとなくお母さんの言っていることが正論のような気がします。
 確かにいつ死ぬかも分からない世界であるというのを理解した上でここに居なきゃいけないわけですけど
 ……でも、そう簡単に割り切れるものでも無いですよねえ。



 「もういいわ! 千夏なんて見損なった!! たかがこのすごろくの半分以上のマスに死ぬが書かれているぐらいでびびる臆病者だとは思わなかった!!
  千夏を地球の代表から外します!! 千夏の代わりに、ピーポ君を入れるから!!」

 「ううう……普通の人間の感性ならば当然なのに、何故ここまでとぼされなければならないのですか……。
  しかも国家の犬……もとい、警察のマスコットキャラクターにその存在を代替されてしまうとは」

 「はい。その手に持ってるサイコロ返してよ。千夏の代わりのピーポ君に振ってもらうんだから」

 「うう……分かりました。サイコロ、返します」

 私はここでリタイアですけど……まあ、仕方ないですよね。
 お願いですから、チキンな私を責めないでください。所詮私はただの女の子だったんですよ。

 「はい。どうぞ……」

 「なーんちゃってね♪」

 「ああっ!!??」

 お母さんは私からサイコロを受け取ろうとした腕を急に引っ込めました。
 もちろんお母さんの手のひらに落とそうとしていたサイコロは地面に吸い込まれていくわけでして、
 その一連の動作はまさにサイコロを振るという動きのようで……って、謀られた!?

 「ああっ、ああっ!! 私、振っちゃった!?」

 「よっしゃ!! 出た目は何!?」

 「外道! このお母さんの外道が!!」

 「だって千夏、こういう事しなくちゃサイコロ落とさないじゃない」

 「も、もし死ぬマスに当たっちゃったらどうするんですか!!」

 「その時はその時で」

 「ノープランにも程があるよー!!」

 わ、私が出した目は、いったい何処に止まるというですか? まさか本当に死……。

 「千夏が出した目は5ね。そしてその目で止まるすごろくのマスは……」

 ああ、眩暈が…………。

 「『ガリガリくんソーダ味』を大急ぎで買ってくるですって!! …………って何このマスは?」

 「やったー!! 救われたー!!!」

 ああ。ガリガリくん食べたいなーと思って書いたマスがこんなにも役に立とうとは。
 本当に助かりましたよ。




 「ちっ……」

 …………舌打ちしませんでしたよね? お母さん。



 7月22日 土曜日 「オール漕ぎAさん、お頭さん第一投目」

 「さあ! さあさあさあ!! お母さんもとっととサイコロ投げなさいよ! サイコロの目を操作できるんでしょ!?
  それならやってみればー? どーんと投げちゃってみればー!?」

 「千夏……ちょっと生き延びたからってそこまで調子に乗っちゃって。
  ハリウッド映画でさっさと死んでしまいそうなお調子者の匂いがするわよ。多分、大成できない」

 「うっせえ!! 元はといえばお母さんが私を騙してサイコロをなげさせるからいけないんでしょうが!!
  なんだよアレ!! 一歩間違ったら死ぬ所だったんですよ!?」

 「まあほら、結果オーライじゃない」

 この人は……全てを結果オーライで済ませる事が出来ると思っている人種ですね。
 恐ろしい。末恐ろしいよ。


 「ほら。とにかくお母さんも投げなさいよ。娘にだけ死の恐怖を味あわせるつもりなんじゃないでしょうね?
  そんな事お天道様が許しても私自身が許しませんよ」

 「まあ被害者だからねえ」

 自分が加害者だという自覚はあるのか。タチ悪いな。

 「でも残念ね。次は私の番じゃないの。オール漕ぎAさんの番なのよ」

 「へぇ……モブキャラの番なんですか」

 「もう。モブキャラだなんて失礼な。海賊たちの奴隷と、正確な立場で言ってあげないと」

 「その方が悲惨な気がしますよ? というかやっぱり奴隷だったんだ……」

 「もしかしたら私たちがそうなるかもしれない運命だったのだけどね」

 「ああ……だから海賊たちは私たちを助けたんですか。オール漕ぎ要員として」

 ……というかこの船、宇宙船の癖にオールが必要なの? ハイテクな船のはずなのに……。





 「それではオール漕ぎAさん。どうぞサイコロをお投げください」

 「はい。ほいっとな」

 「うおお……この人、すっごく簡単に放り投げましたよ。死ぬのが怖くないんですか!?」

 「きっと人生の全てを諦めているのね……。さすが奴隷人生」

 「もうなんていうか悲惨さが桁違いですね。見てるこっちが悲しくなるわ」

 オール漕ぎAさんが出した目は4。そして彼のコマが止まったマスは……。

 「オール漕ぎAさんの止まったマスは……『オール漕ぎから船長に出世する』です!!」

 「やったー!! これで奴隷生活からおさらばだー!!」

 「えー!? なにその自分専用の都合が良すぎるマスは!!?? 命がけの勝負にちゃっかりそういうのを混ぜてるんじゃないよ!!」

 「そ、そんな事認めるわけないだろう!! この船は俺の船だぞ!!」

 当然の如く海賊のお頭さんがそれに反発しました。まあこの下克上が許せるわけ無いですよね。

 「しかしルールでは全てマスに書かれている通りにしろとある!! これはなにもルールに抵触していない!!」

 なんて策士なんでしょうか……。そして、お頭さん可哀想すぎる。




 「くっ、くそう!! それなら俺も同じマスに止まってやる!! そうすれば俺がまた船長に返り咲きだ!!」

 「おお。頭良いですねお頭さん」

 「とりゃー!! 4出ろ!!」

 お頭さんが思いっきり地面に投げつけたサイコロの目は……2。
 そしてそのマスに書かれている命令は……。

 「海賊のお頭さんのコマが止まったマスは……『死ぬ』でしたー!! 残念!!」

 「なにー!!??」

 「えーっ!? こんな所でお頭さん敗退!?」

 なんというどんでん返し。というか、最初から最後までついてない人だなこの人。
 なんだかすっごくかわいそうになってきた。








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