7月23日 日曜日 「お母さんの第一投目」
海賊のお頭が第一投目であの世に旅立ってしまうという劇的な展開を見せたすごろく大会。
まさに予想を遥かに上回った展開にドッキドキです。
「っていうかさ、海賊のお頭が死んじゃったんだからもうこのゲームを続ける意味は無いのでは?
だってあれほどまでに地球を滅ぼしたがっていた諸悪の元凶がいなくなっちゃったんですから」
「う〜ん……それはどうかしらね」
「どういう意味ですかお母さん?」
「あれを見てご覧なさい」
「あれって……?」
お母さんが指差した方向には、昨日めでたくこの船の船長になったオール漕ぎAさん……もとい新船長さんとその手下たちがいました。
ちなみに手下さんたちはみんな突然の人事異動に戸惑い気味です。
そりゃそうか。昨日までオール漕ぎの奴隷だった人がいきなり船長ですからね。困惑も当然です。
「オイお前ら!! 俺がこの船の新しい船長になったドテッパラーニ・アナアキーだ!! 以後ドテ船長と呼ぶように!!」
「「い、イエッサー!!」」
ほーら。やっぱりみんな困惑してるじゃないですか。
それにしてもドテッパラーニ・アナアキーって……なんかすでに死んでそうな名前ですね。
「よし! じゃあお前らに船長としての俺の最初の命令をくれてやるっ!!
その命令とは…………地球侵略!!」
「えー!? 船長代わってもそういう方向性は変わらないの!?」
ちくしょう! 期待して投票した政治家がちっとも政治を変えてくれなかった時のような絶望感だ!!
もうすぐ辞めるからって構造改革の事忘れてんじゃねーよ!!!!
「心配しなくてもいいわよ千夏。まだすごろくゲームは終わっていないわ。
このゲームに勝利するか相手が死にさえすれば、全て解決よ」
「ううう……あのゲーム、まだ続けるんですか……。
というか次はお母さんの番なんだよね? ほら、サイコロを投げてみなさいよ」
「言われなくても投げるわよ。私を千夏みたいなチキンと一緒にしてもらっては困るわね」
くっ……言わせておけばのうのうと。
この余裕っぷりが本当にムカつきますね。
「よし!! じゃあサイコロ振るわよ!?
とりゃあああ!!!!」
明らかに無駄な感じにサイコロを投げたお母さん。なんとなくそんなんじゃあサイコロの出目を操作する事なんて出来そうにないのは気のせいでしょうか?
「お母さんの目は……!?」
な、なんと!! お母さんの投げたサイコロは、その角を地面に突き立ててそびえ立っていました!!
これは……どの面も上に来ていないと言えますねっ!!
「これぞ私の秘技、サイコロ角立たせっ!! 常人には決して真似出来ないわ」
「それはそうかもしれませんけど……結局いくつ進めるの!?」
そこが一番大切でしょうが。
7月24日 月曜日 「私の生きための道」
あらすじ:お母さんの投げたサイコロは角を中心に綺麗に立ちました。もはやバランスとかそういう次元の物理法則では無いもののおかげに思えます。
「春歌さんのコマは、0マス進みます。つまりスタートから動いていないという事ですので、マスに書かれている命令を聞く必要はごさいません。
「えー!? お母さん0マス扱い!? なんだかすっごく不満なんですけど!?」
「千夏ったら醜いわねえ……。いくら自分があのような神懸かり的なサイコロの振り方が出来ないからって……」
「出来るわけ無いじゃんかあんなの!! 本当にどうやったんだよあれ!!」
「1日15分のトレーニングで誰でも出来るようになるわよ」
「どこぞの通販番組みたいな事言うなよ」
それにいくら1日15分トレーニングしたって、あんなふざけたバランスの取り方、出来ないと思いますよ。
「分かっていると思うけど、次は千夏の番だからね? また怖がってサイコロを手放さないとか止めてよ? 本当にみっともないんだから」
「私の命の心配よりみっともなさの心配ですか。
本当に良い親を持って幸福ですよ」
「じゃ、その幸福に感謝しつつこのサイコロを振りなさいな」
お母さんは私にサイコロを握らせました。
本当にこの人は人間の情という物が欠如した人間ですね。
それとも私が死ぬわけ無いなんて言う確信があるのか…………まさかね。
「ちなみにね、千夏のコマの位置だと、五体満足で済むのは3マス先だけだからね。
他のマスに止まっちゃったら大変よ?」
「うええ!? それ本当ですか!? 3しかダメなの!?」
「ええ。もし1なんか出しちゃった日には……」
「ど、どーなるの?」
「カレー・ハヤシライス子に改名される事になります」
「別にそんなの大変じゃな……いや! 大変だ!!
なんですかカレー・ハヤシライス子って!! 両方とも似ているけど名字の方が人気抜群じゃないか!!」
「ふふふ……千夏はこれから名字に多大な期待を追わされてしまう宿命になるかもしれないのよ。
どう? 怖いでしょ?」
「別にカレーという名字に多大な期待を寄せる人間もいないだろう」
「そして千夏がもし2の目を出してしまったら……」
「2の目を出してしまったら……?」
「おでんの・ちくわ子に改名させられるのよ!!」
「割とどうでも……良くないですね!!
よりにもよってちくわかっ!!」
「ふふふ……大根や卵なら主役になれたのだけどね。
もしかしたら千夏は名字に多大な期待を追わされてしまう宿命に……」
「なんねえよ。誰もおでんという名字に多大な期待は寄せないよ。
というかさ、これらよりも無事な3マス先ってどんな命令なわけ?」
「首を外す」
「死ぬじゃん!! すごく豪快にっ!!」
「ロボットだし、首を取る事ぐらい簡単でしょ?」
無茶言わないでくださいよ。
ロボットに対する変な偏見はんたーい。
7月25日 火曜日 「私の第2投目」
「さあ千夏!! 二投目いっちゃいなさい!!
どんな結果になっても笑わないから!!」
「普通に笑うのはダメでしょうが!!
だって少し間違えば命失うんだもん!!」
「大丈夫!! 死んだって笑わないから!!」
「笑おうと思えば笑えるのかよお前は!!」
非情にも程がありますよこの親。
「くそっ……。なんとしても良い結果のマスに止まらなければいけませんね……。
まだ名前を変えるぐらいのマスなら許容範囲内ですし」
さすがにカレー・ハヤシライス子なんて名前を貰ったら自殺を考えますけど。
「うぬぬぬぬ……お願いします幸運の女神さん……。
いや、もうこの際誰でも良いです! サイコロに宿る精霊でもそこら辺に居る地縛霊でも悪魔でも!!
誰でも良いから、私を助けて!!」
子供じみているとは知りつつも、私は知りうる全ての神様やらなんやらに祈りました。
それらの存在に祈りたいほど、切羽詰まっていたのですよ。
「わかった……。では私がどうにかしてしんぜよう」
「え!? ええ!? 誰ですか!?」
もしかして私の祈りが通じて神様やらなんかが出てきてくれたのでしょうか?
やったあ! ダメもとで祈ってみるもんですね♪
「私の名前はサイコロの精……文字通り、サイコロの精霊をやっている者じゃ」
「まあその名前でトンカツの精とかやってもらっても困りますけど……。
でもサイコロの精とは心強いですね!! とっても頼もしいです!!」
「ふふふ、そうだろう?
では私が今から、そなたの望むサイコロの目を出してやろう」
「おおっ! さすがサイコロの神様!!
便利な特殊能力をお持ちで!!」
「はーっはっはっは!!!! まあ任せないな!!
君の望む通りに3を出してあげようぞ!!」
「……なんですって? 3? あの、首をもぎ取ると噂の3?」
「ではさっそく……せーのっ」
「ちょ、待てやオイ!! 勝手に話し進めて私を死に導こうとするな!!
これだから神様なんて信用できねえんだ!!」
せっかく出てきてくれた神様ですが、私を殺すための刺客になってもらっても困るので、思いっきりぶん殴らせてもらいます。
「どりゃあああ!!」
「うぎゃああああ!!」
「おおー! 地球代表の千夏さん!!
まるでサイコロを殴りつけるかのように投げたー!!」
「あーしまった!! 精霊と一緒くたになっていたサイコロまで飛ばしちゃった!!」
「千夏さんが振ったサイコロの目は5!! コマが止まったマスには、『ラッキーポイント、何もなし』と書かれています!!」
「た、助かったあ……」
「ふふふ……これで良いのさ……」
「サイコロの精霊さん……?」
「サイコロの出目を操作する事は……いくらサイコロの精霊である私にも許されない。それはルール違反だからな……。
だから私が君にしてやれる事は……サイコロを後悔なく、思いっきり投げられる手伝いをしてやる事だけ……」
「精霊さん、もしかして私のためにわざとあんな事を……?」
「ふふふ……強く生きるんだぜ、お嬢ちゃん……ガクッ」
「サイコロの精さーん!!!!」
………………ってなんだこの茶番?
とりあえず助かってよかったです。
7月26日 水曜日 「新船長の2投目」
「さあ!! 今度はオール漕ぎA……もとい、新船長さんの番ですよ!!」
「くっ……ちょっと生き残ったからって調子づきやがって……」
「調子づいてるのはあなたの方でしょうが!! ついこの前まではただのオール漕ぎだった癖に!!
今ではすっかり非道海賊の仲間入りですか!! なんとも感じないんですか!?
奴隷の頃の思い出があるのなら、こんな弱いものイジメみたいな事できないですよっ!!
なんていったって、強い者が行う暴虐の酷さを知っているはずだから!!」
「……確かに俺はつい最近まではただの奴隷だった。
いや! むしろ有名菓子店の長女と結婚した婿のような感じだった!!」
普通の奴隷より婿の方が悲惨なんですか?
なんか妙に熱のこもったシャウトですね。婿関係なにかであったんですか?
「だが……今の俺は昔の俺じゃない!! 言うなれば、新しく生まれ変わったのだ!!
宇宙を支配する者としてな!!
そんな俺に、弱者の頃の思い出など不要なのだ!!
今はただ、支配者としての決意があれば良い!! 自分の目的のために他者の命を踏みにじる決意がな!!」
「くっ……なんて人ですか」
偉くなっちゃったら初心を忘れた政治家みたいなおこがましさですね。
誰が好き好んであなたみたいな人のために踏まれてやるもんですか。こっちだって弱者としての意地があるんです。
精一杯抵抗してやろうじゃないか。
「ふふふ……私は今からこのサイコロを振るが……決して、死にはあたりはしない!!」
「なに強がり言っちゃってくれてるんですか。そんな事ありえませんよ。
みんな同じ確率で死ぬかもしれないんです」
「ああ。確率上はな。しかし!! 今の俺には流れがある!!
奴隷の身から船長にまで昇り詰めた豪運がある!!
運という物ばっかりは、お前にも止められまい!!」
そう豪語して新船長さんは手に持ったサイコロを投げます。
自分の運を信じるなんて、傍目から見れば自暴自棄もいいとこなんですが、この自信はすごく怖いですね……。
「新船長の投げたサイコロの目は……1です!!
そしてその出目によって止まるマスは……」
お願いっ! こんな事を望むのは人としてどうかと思いますけどっ、地球のためにお願いだから死ぬマスに当たってください!!
「なんと、新船長のコマが止まったマスの命令は、『止まった者はこの船の船長になる!!』でした!!
新船長は新新船長へとレベルアップです!!」
「わけわかんねー!! なんですか新新船長って!?」
「はーっはっはっはっは!! どうだ!? 私の運はすごいだろう!?」
確かに運はあるかもしれませんけど……同じ内容のマスをふたつも用意していたなんて、どんだけ抜け目ないんだよ。
ある意味で感心するわ。
7月27日 木曜日 「お母さんの神業」
「はい……次はお母さんの番ですよ……。さっさとサイコロ振ってくださいな」
「……どうしたの千夏? なんかすごいテンション下がり気味じゃん」
「だってさあ……お母さんのあの神業みたら緊張感なんて持てませんよ。
どうせあの反則的な技で助かっちゃうんでしょ?」
「もう……まったくなんなのよあなたは。変な所で拗ねちゃって……。
……そうだ。しゃあ千夏にもあの技の使い方教えてあげましょうか?」
「なんですって!? もしかしてあの技、私にも使えるの!?」
「ええ。ちょっとしたコツを掴めば簡単よ」
「そのコツってなんですか!? 教えてください!!」
お母さんのあの技……サイコロの角で直立投方さえあれば、このすごろく大会なんて全然怖くありません!
こっちはゼロの目のまま決して進まずに、相手の自滅だけを待っていればいいのですからね!!
こんな楽な勝負ありません!!
「そのコツっていうのはね、まずこうサイコロの角を矢のようにイメージして、地面に打ちつけるように……」
「なるほど! つまりお母さんのそのパワーでサイコロを地面に無理やり安定させて…………ってそんな力任せな技だったんですか!?
もっとバランスや重心がどうとかそういう繊細な技だと思っていたのに!!」
「ほら、よく言うじゃない。美しい白鳥は、湖の下ではその足をみっともなく動かしているのだと。
人は見えない所で涙ぐましい努力をしているのだと言う格言ね」
お母さんの思いっきり他人に伝わるぐらいの力投だったじゃないか。
ちっとも隠せてませんよその努力を。
「次に千夏の番が来たら使ってみなさいな」
「成功させる自信が無いです」
「あら。千夏にしてはずいぶんと気弱ね」
なにせ人生において力任せにサイコロを地面に突き刺した経験が無いものでね。
「でもお母さん、どうするんですか……? 確かにお母さんはその技で死ぬと書かれたマスには止まらないかもしれませんが、このままずっとスタートで立ち止まっていても勝てないじゃないですか。
あの新船長さんには確かに豪運がありますし、このまま守りに徹していても勝てないんじゃ……」
「ええそうね。いくら私が死ぬマスを踏まなくても、彼がゴールしてしまえばそれで地球はおしまいね。
でも安心しなさい千夏。私には奥の手があるのだから」
「奥の手ですか!? それはいったい……?」
「私にはあるのよ。
『分裂殺人魔球14号』がね……」
「なんかいろいろダメっぽそうですよ!?」
なんというか名前からは残念な結果しか感じ取れません。
これはちょっと期待できないなあ。
「ちなみに私のお母さんから授かった技です」
「おばあちゃんから授かった技!?」
これはちょっと悲惨な光景しか感じ取れませんね。
いろんな命が悲しい結果に終わりそうです。
というかそんなの使うなや。
7月28日 金曜日 「すごろくの終結」
「さて……それではさっそく分裂殺人魔球14号を……」
「お母さん。そんな物騒な物を使うのは止めなさい」
「なによ千夏……。まるで分裂殺人魔球14号がどんな技なのか知っているみたいじゃない。
私、あなたにこの技見せたっけ?」
「見せてくれなくても大体分かりますよ。
どうせ投げたサイコロが分裂でもして海賊さんたちに当たって、全員倒しましたでハッピーエンドでしょ?」
「違いますー。そんなまるで分身必殺魔球みたいな事にはなりませんー!」
「似たような名前じゃねえか分裂殺人魔球さんよ!!」
とにかく、何が起こるか分からない魔球なんて使わないでください。
どうせあまりいい結果なんか期待できないんだから。
「千夏……私はね、なんとしてもこのターンで勝負を決めたいの。勝たなければいけないのよ」
「なんでまたそんな事言い出してるんですか……。
昨日まであんなに逃げの姿勢だったのに」
「それはね、次に千夏の番がまわってこれば、あなたが確実に死ぬ事が分かったからよ。
だから私は千夏のためにも、絶対に勝たないといけないの」
「なっなんですって!? 私が確実に死ぬ!?
どんな根拠があってそんな不吉な事を……」
「嘘だと思うなら見てみなさいな。あのすごろく盤をねっ!!」
お母さんに言われるままに、私はすごろく盤を覗き込んでみます。すると、すぐにお母さんが言わんとしている事が分かりました。
私のコマがあるマスから6マス先までみんな……つまり、サイコロが出せる最小の数から最大の数まで、死ぬという内容の命令が書かれたマスで埋まっているのでした!!
このままだとお母さんの反則技で0を出さない限り、次の番で100パーセント死んでしまいます!! これは確かにヤバい!!
「というか誰でもこの地帯を越えられないじゃないか!!
ゴール、誰にも到達できないじゃん!!」
「まあそもそもいかにして死ぬマスを回避して進むかというゲームだったからねえ。ゴールなんて初めからどうでも良かったんじゃないかしら」
いつからすごろくはそんな地雷避けゲームになったんだ。
基本的に間違っているだろ。
「でも大丈夫よ。安心しなさい。私がこの一振りで勝利へと導いてあげるから」
/p>
「いや! いくらなんでもたった一振りじゃどうにもならないでしょう!? だってお母さん、1マスもスタートから出てないんだから!!」
「大丈夫よ。この今から踏み出す一歩こそが、未来を照らす希望の一歩となるのだから」
なんだかよく分からない事を言ってくださって、お母さんはサイコロを投げました。
私の命がかかっているんだから、そんな簡単に投げないで欲しいです。
「さ、サイコロの目はいくつなんですか!?」
「言ったでしょう千夏。今から踏み出す一歩が、希望なのだと」
お母さんの投げたサイコロは赤い真円を上に向け、堂々とすごろく盤の上に立っていました。
これはまさしく……『1』っ!!
「そして私のコマの1マス先に、つまりスタートから1つ目のマスに書かれた命令は…………『ゴールにワープ! 見事勝利する!!』」
「ゴールにワープですって!? つまり、無条件勝利ですね!?
やったあ!! これで私たちの勝ちです!!」
地球も救われましたし、言うことなしですね♪
「…………っていうか何その卑怯なマス!? 誰が作ったんだそれ!?」
「もちろん私に決まってるじゃない」
「うわー! さすがですねお母さん。
ずる賢さがバイキンマンレベルだ」
「褒めてるのよねそれ?」
最大級の賛辞ですよ。
7月29日 土曜日 「帰宅」
「やったー!! やりましたですよお母さん!! これで私たちの勝利です!! 地球が救われたんです!!」
「ええそうね!! 本当に長かった!! なんかずっとすごろくやってたみたいに長かった!!」
そこはあまり触れちゃいけない部分だと思うんですよ。
「くそう……流れは完全に俺の方へときていたはずなのにっ!! まさかあんな1マスにやられてしまうなんて……」
「新船長さん……。なんというかその……やっぱり運に任せた生き方はダメだと思うんですよね。
だからこれからはどうか真面目に……」
「しかしっ! 俺には運に全てをかけることしか許されていなかったんだ!! このまま奴隷で終わる事なんて、絶対に嫌だったんだ!!」
「まあ確かに嫌ですけど……奴隷」
「お前にオール漕ぎ生活の辛さが分かるかっ!? どれだけ辛かったか、分かるっていうのか!?」
「いや、別に奴隷生活からの成り上がりを否定しているわけでは……」
「手にマメとか一杯出来て大変だったんだぞ!?」
「それだけ!? それだけの辛さなの!?」
「バカ! マメはすげえいてえっての!! ちょっと笑えないっての!!」
「笑えないかもしれないけど泣けもしないだろ」
なんだか話している事がみみっちいんだよなあ。
「はんっ!! みみっちい男ねっ!! 人の上に立つ者としての度量が無いわ!!
さすがギャンブルで成り上がっただけのぽっと出船長!!」
「な、なんだとっ!?」
お母さんが言いにくい事をさらりと言ってのけてくれました。
爽快ではあるけども……ちょっと可哀想な気が。
「千夏の言うとおり、運に任せて生きるなんて愚かでしかないわ。
確かにあなたはすごい強運の持ち主だったけども……その運を、強引に捻じ伏せた私の力の方が、何よりも強かったのよ。
人生を切り開く物は自分自身の力しか無いのよ!! よく覚えておきなさい!!」
「くそう……」
「まあなんか良くわかんないけど、一件落着ですね。よし、じゃあ私たちは……」
「家に帰りましょうか? ちょうど地球に着いちゃったわけだし」
「そうっすねー。久しぶりに家のベッドで寝たいです」
やっぱり地球の我が家が一番ですねえ。
「……ってあれー!? 冥王星行きは!?」
「もう……いいじゃん別に」
「よくないでしょ!! 冥王星ではウサギさんたちが戦っているのかもしれないんですよ!?」
「それにさ、別に私たちがいかなくてもなんとかなっちゃうんじゃないの……?」
「勝手にダウナーになるのはやめなさいよ!!」
私たちにくつろいでいる時間はないんですってば。