8月13日 日曜日 「怪しい人たち」


 「よし!! じゃあさっそくドラえもん(偽)さんの力を使って、冥王星に行きましょう!!」

 「わーい!! ようやく話が進みそうですねお母さん!!」

 「そうね! なんで私たち、今までずっと地球でくすぶっていたのかしらね!? 本当に不思議!!」

 その八割はあなたの所為でしょうが。
 まあいいですよ。一応お母さんのお陰でちゃんと冥王星に行けるっぽいですから。
 あまりにも時間がかかりすぎですけど。

 「それでドラえもんさん!! いったい何時に出発するんですか!?」

 「んー、そうだなぁ……俺的には早いほうがありがたいんだが。
  よし、じゃあ今から1時間後に出発する事にしよう」

 「……銀河鉄道ってそんなにアバウトな出発時間してるの?」

 「宇宙的な感覚で言えば、数分の遅れも数時間の遅れも数ヶ月の遅れも大して変わらないのさ。
  だから適当に出発時間を決めてるんだ」

 「すごい広大な心をお持ちなんですね宇宙は。都会人も見習うべき寛容さです」

 たださすがに数ヶ月の遅れは怒っても良いと思うのですが。



 「1時間後か……さて、どうやって時間を潰そうかなぁ」

 「なに言ってるのよ千夏! 私たちには遊んでいる時間なんて残されていないわよ!! さっさと準備しなくちゃ!!」

 「準備? …………なんの?」

 「黒い星の民を倒すための核弾頭を列車に詰め込まないといけないでしょう!?」

 「ああそっか!! すっかり忘れてましたよ!!」

 「もう千夏ったらバカなんだから! バカ! バカバカバカ!! 死ねバカ!!」

 「おい。チャンスとばかりにバカを連呼するな。気ぃ悪いわ」

 というか子供ですかあなたは。

 「でもさ、核弾頭50個なんて列車に積めるのかなぁ……?」

 「銀河鉄道を舐めちゃいけないわよ。それくらいの重量なんて、大して運行の妨げになる事も無いはずよ」

 「……いや、そもそも列車なんかに核弾頭を持ち込んじゃったりしていいの?
  安全性というかテロ対策というか、そういったので」

 「大丈夫大丈夫。銀河鉄道は危機対策も宇宙的な大らかさだから」

 それはダメでしょう。いくらなんでもダメすぎでしょう。

 「ほら! ぼけっとしてないいでさっさと手伝いなさいな!!」

 「はぁ〜い…………」

 はぁ、なんだか不安が積もっていくばかりなのは気のせいですかねぇ?



***


 「さあお嬢さんがた、もうすぐ銀河鉄道が出発しますよ。早くお乗りなさい」

 「はーい。わかりましたー」

 ドラえもん(偽)に促され、私とお母さんは銀河鉄道とやらに乗り込みました。
 ああ、ちなみに駅の場所ですけどね、普通に私んちの最寄り駅でした。
 知らなかった。銀河鉄道って普通の電車の線路走ってるんだ?
 …………夢がねぇ。

 「あー、疲れた疲れた。やっぱり核弾頭を50個積み入れると疲れるわねぇ」

 「……いまさらこういうの気にするのは間違っているのかもしれませんけどさ、被爆とか大丈夫なの?
  私たち防護服なんて関係ない的な勢いで作業してたけど」

 「まあさ、人間っていつか死ぬわけだし……さほど問題でもないんじゃない?」

 どういう人生を送ったらそういう風に刹那的に生きれるんだ。
 ある意味で悲しいわ。

 「……あれ? ちょっと見てくださいよお母さん」

 「なに? メーテルでもいた!?」

 「いねえよ。
  ほら、あそこの席に乗っている人たち……なんだか怪しくない?」

 「どこが? 私たちと同じように宇宙に旅立とうとしている集団じゃないの?」

 「いや、だって……全員黒服を着込んでサングラスしてるんですよ?」

 「…………だから?」

 「え!? マジで何も思わないんですかお母さん!?」

 「え!? え!? 何か疑問に思うべきなのそれは!?」

 「怪しいじゃん!! どう見たって怪しい人たちじゃん!!」

 「じゃ、じゃあ黒服さんとかはどうなのよ!?」

 「あれはもとより怪しかったでしょうが!!」

 「そ、そうだったの……?」

 お母さんのその全てを受け入れる心は宇宙クラスですね。
 まったく褒め言葉として使ってませんけど。





 8月14日 月曜日 「銀河鉄道の旅」


 「これより銀河鉄道、地球発ゆーこりん星経由冥王星行き、発車いたします。
  駆け込み乗車はおやめください」

 「いよいよ発車するみたいね千夏!」

 「……なんだかんだ言ってもう半日ぐらい待たされましたよね? 昨日は1時間後に出発だって言ったのに」

 「ほら、やっぱり宇宙的スケールで言ったら半日ぐらいの誤差はどうでも良いんじゃない?」

 「業務改善した方が良いと思いますよ。銀河鉄道の連中は」

 まあ何はともあれ出発してくれるという事でホッとしています。
 気のせいか冥王星の途中で余計な所に寄るみたいですけど。

 「出発、しんこー」

 「おおっ、動き出しましたよお母さん」

 列車内のスピーカーからドラえもん(偽)さんの声がして、ゆっくりと私たちが乗っている列車が動き出しました。
 あの人、本当に銀河鉄道の職員だったんですね。傍目からは人生に破れた中年にしか見えないのに……なかなか立派じゃありませんか。



 「さーて。じゃあ冷凍みかんでも食べましょうか?」

 「へ? どうして?」

 「こういう列車の旅では冷凍みかんを食べるのが決まりになっているからよ」

 「食べないとどうなるの?」

 「腰を痛める」

 ずいぶんと具体的な不幸が襲いかかってくるんですね。
 というかそれは旅の楽しみではなくて何かの呪いになってますよ。

 「そちらさんも冷凍みかんどうですか?」

 「ちょ、お母さん何やってんの!!」

 お母さんが列車の旅の触れ合い的な事をやろうとしている相手は、昨日私たちと一緒にこの銀河鉄道に乗り込んだ黒服の一団。
 ええ、あの怪しい連中です。マトリックスのコスプレ連中です。

 「何やってんのって……私はただ冷凍みかんをあの人たちに……」

 「冷凍みかんがどうじゃないでしょ!! あんな見るからに怪しそうな人たちに関わっちゃダメ」

 「何を言ってるのよ千夏! 人を見かけで判断しちゃダメって言ったでしょう!?」

 「私の人生において見た目が怪しく人はもれなく中身までも人並み外れてましたけど!?」

 「なるほど。それも一理ある。
  でもね千夏……このまま冷凍みかんを誰にもあげなかったら……私は50個もひとりで冷凍みかんを食べなくちゃいけないのよ?」

 「そんなの知らないよ!! っていうかなんで50個も冷凍みかん持ってるの!?」

 「だからはいどうぞ。遠慮せずにお食べください」

 「いえ、結構ですんで……」

 「お母さん! 人の話を聞きなさいよ!!
  そっちの黒い人たちも関わらないで欲しいって顔して断ってんじゃん!!
  明らかにそっとしておいて欲しいって顔してんじゃん!!」

 「ほら、みかん食べなさいよ。ほらほら」

 「本当に結構ですんで……」

 「お母さん!? なんだか雰囲気が列車の旅のほのぼのさじゃなくなってるよ!?」

 絡まれてる黒い人たちが、すっごくかわいそうですよ。
 というかお母さん、酔ってるでしょ?

 8月15日 火曜日 「衝撃の事実……?」


 「あっ、やっべえ。そいつはオリックスだ……」

 「……」

 お母さんが呼び出したドラえもん(偽)さんの協力もあって、冥王星行きの銀河鉄道に乗せてもらった私たち。
 しかしいくら銀河鉄道といっても冥王星に着くまでは結構な時間がかかるらしく、私たちはこの列車内で就寝するはめになってしまったのでした。
 ええそうです。冒頭に登場したよく分からないセリフは、私の隣で寝ているお母さんの寝言です。
 いったいどんな夢を見ればオリックスに危機感を持てるのでしょうね。頭おかしいんじゃないでしょうか。


 「はあ……ちっとも眠れませんねえ……」

 慣れない列車内での睡眠のためか、はたまた隣にオリックスとどうにかなってる夢を見ている母親がいるためか、まったく寝れる気配がありません。
 冥王星に着けば黒い星の民との最終決戦のため、少しでも体を休めておきたいのですが…………
 寝たいと思っている時に限って一向に睡魔が訪れてくれないのはどうしてでしょうね?



 「千夏さん千夏さん……」

 「ん……? あなたは……なんだか怪しい乗客Cさん?」

 こんな夜遅くにまだ起きていたらしい怪しい黒服集団のひとりが、暗闇に乗じて私に話しかけてきました。
 真っ暗な場所だからその服が闇に紛れて……と言いたい所ですが、割とばっちり見えてます。
 黒い服って闇夜だと余計にその輪郭を際だたせてしまったりするんですよね。
 だから本当の忍者は闇に紛れるために黒い服なんて着ない……って、まあそれはどうでも良いですか。



 「な、なんですかあなた!? まさか今がチャンスとばかりに私の命を……」

 「誤解です! 私たちはあなた方の味方です!」

 「そんな事言ったって信じられるわけ……」

 「ならばこれを見てください。きっと信じる気になりますから」

 黒い人Cさんがその懐から取り出したのは……なぜかサングラス。

 「……なんですかこれは?」

 「エージェント箱根……あなたが黒服と呼んで慕っている者のサングラスです。
  私たちは彼の仲間なのです」

 「サングラスなんて出されてもそれが黒服のものかどうかなんて分かるわけないでしょうが!!
  というかなんだよエージェント箱根って!!」

 「コードネームです。私たちは全員過去と名前を捨て、有名観光地の名を関して諜報活動をしているのです」

 「なんで有名観光地の名前やねん。
  ちなみにあなたのコードネームは?」

 「エージェント鎌倉です」

 「なるほど。分かりました。お前らバカだろ?」

 「バカとののしられても構いません。こうして自分の身分を明かしてまであなたに接触したのには理由があるのです」

 「な、なんですかその理由って……?」

 「前にあなたの家で、家族の中にスパイがいるのだと騒ぎになった事がありましたよね?」

 「ええ……。なんだかんだでうやむやになりましたけど、確かにそういう事件がありました。
  というか、それがどうしたんですか……?」

 「そのスパイの正体が判明したんです」

 「え!? いまさら!?」

 「ええ……。その人物は……あなたの言う黒服さん。つまり、コードネーム伊豆が黒い星の民のスパイだったのです!!」

 「箱根じゃなかったのかよ。コードネーム」

 …………って、ええー!? マジですか!?




 8月16日 水曜日 「ちょーほーぶいん」


 「そんな……黒服さんがスパイだったんなんて……。
  ある意味予想が簡単な結果でしたけども……信じられませんよ」

 黒服さんの仲間だと名乗る黒い人から、黒服さんが黒い星の民と繋がっていたのだと聞かされました。
 ショックですよ本当に。あんなにうちに馴染んだ顔して、裏では私たちの情報を敵側に流していただなんて……すっごくムカつく。

 「本当なんですかそれ?」

 「ええ。私たちの組織では彼が何度も黒い星の民と接触していた事を確認しています」

 「……ちょっと気になっていたのですけど、あなたの組織ってなんなんですか?
  えーっと、CIAとかそういうの?」

 「いえ、違います。私たちはPOPのものです」

 「ポップ? なんだかえらく陽気そうな組織名ですね。聞いたことねえよ」

 「”Pop Or Pop”の頭文字を取っているんですよ」

 「Pop全面大売出しじゃねえか。頭文字を取ったっていうか、それそのものじゃん。
  どういう意味なんだ」

 「とりあえず陽気に行こうぜみたいな?」

 「斬新な諜報組織ですね。どこの国の所属だよ」

 「日本です」

 「日本かっ!! 我が国の組織だったか!! なんか怒るに怒れませんね!!」

 「ほら、よく日本人って暗いって言われるじゃないですか。だからそのイメージを払拭するためにですね」

 「諜報部員がそのイメージを払拭しようと頑張るなよ。そういうのは他の方々に任せておきなさい。
  ……っていうか日本にもそういう組織があったんだ」

 「ええ。公表はされていないのですけどね」

 「公表されたら批判が相次ぐだろうからね。名前だけで判断しちゃってごめんなさいですけど、なんとなく税金の無駄遣いに思える」

 「私たちはずっとあなたたちを見守ってきたのですよ。それなのにお金の無駄だなんて……」

 「見守ってきた? なんで?」

 「一応あなたは世界の命運を握る鍵ですからね……日本政府としても放ってはおけないのです。
  日本という国の特性上軍事力を派遣する事は出来ませんが……法に触れない形で、私たちはあなたを守ってきました。
  それは黒服と 呼ばれるコードネーム箱根でしたし、彼が製造した戦闘用義体、ウサギさんであったのです」

 「はぁ……そうなんですか」

 「あなたたち家族がアメリカと戦争を始めた時も、影で私たちがアメリカ側と外交努力をして戦争をあの程度に収束させたのです。
  目には見えなかったかもしれませんけど、きちんと働いていたのですよ」

 「でも直接助けてはくれなかったんだ?」

 「アメリカとは同盟関係にありますから」

 なんだかなぁ……突然現れて今までずっと助けてきたと言われても納得は出来ないんですけどねぇ。
 一応信じるしかありませんか。



 「それで……その諜報組織さんは、なぜまた私の前に姿を現したんですか? こんな銀河鉄道になんか乗っちゃって。
  今までどおり影から私たちをサポートしていればよかったのに」

 「それがそうもいかなくなってきたからこうして千夏と会話しているのです……」

 「え? なにがあったんですか?」

 「コードネーム箱根の裏切りも分かりましたし、それに……」

 「それに?」




 「実はですね、組織内で大規模のリストラが起きまして、多くの職員があぶれる形に……」

 「もしかしてあなたたちあぶれものですか!?」

 「黒い星の民を倒せば復帰できるかなって……」

 「手柄を得るために私たちと一緒に乗り込んだんですねっ!?」

 なんて分かりやすい人たちなのでしょうか……。
 まあ嫌いじゃないですけどさ、そういう正直さは。



 8月17日 木曜日 「ひみつのネックレス」


 「それでは千夏さん。くれぐれも私たちの事は春歌さんなはご内密にお願いしますね」

 「お母さんに内緒? なんでまたそんな事。
  今でもどう足掻いたってバレバレなぐらい怪しいのに」

 私が言わなくたっていずればれるでしょうに。

 「私たちの組織の情報収集によって、春歌さんに関わるとろくな事にならないという研究結果が出まして……」

 「なるほど。それはすっごく賢明な判断ですね」

 っていうか、そんな風に諜報部員に警戒されてるお母さんはなんなんでしょうね。
 トラブルメイカーの名を欲しいままにしているじゃないですか。



 「というかさ……あなたたち、私と一緒に冥王星に行って何か意味があるの?
  私にはどう考えても足手まといにしか見えないのですけど?」

 「失礼な!! これでも数年間あなたたちをマークしていた諜報機関ですよ?
  ちょっとした戦闘能力ぐらい持っています!!」

 「う〜ん……でもそういう人ほど実戦では役に立たなかったりしますからねえ」

 「なんですか千夏さん。小学生の癖に歴戦の傭兵みたいな貫禄のある事言っちゃって」

 仕方ないでしょうに。一応これでも戦争やなんかを生き抜いた人間なんですから。
 まあ微妙な戦争であった事は認めますけど。

 「腕力などの直接的な力ではあなたたち家族には確かに及ばないかもしれませんが……私たちには知恵と技術があります。
  これらばかりは千夏さんたちにも絶対負けません!」

 「そ、そこまで自信を持って言われると反論なんてする気も起きないですけど……本当に大丈夫なの?」

 「大丈夫です!! この橋渡るべからずと書かれた橋の真ん中を歩く事でことなきを得るぐらいの機転が利きます!!」

 一休さんかよ。それは機転というかただのとんちでしょうに。
 とてもじゃないけど厳しい戦いを生き残れるような知恵じゃねえ。




 「そうだ、千夏さんにこれを差し上げます。秘密兵器ですので、大切に持っていてください」

 そう言ってコードネーム鎌倉さんがくれたのは、青い石のはめ込まれたネックレスでした。
 綺麗と言えば綺麗ですが、怪しいと言えば怪しさ大爆発な一品です。

 「え? なに? 秘密兵器?
  もしかして私の自爆装置とか?」

 「なんでそんな物を秘密兵器にしなくちゃいけないんですか……」

 「いや、過去に何度か私に内蔵されている爆弾の話がありまして…………」

 まあ違うなら違うで良いんですよ。


 「そのネックレスはですね、私たちが開発した最終兵器の巨大ロボットを呼び出すのに必要な鍵なんです」

 「へぇ……そんなもの作ったんですか」

 「さすがに技術力では裏切り者の黒服……コードネーム箱根には叶いませんが、それでもすごい一品ですよ!!
  なんて言ったって超合金で出来てますからね!! 超合金で!!」

 うさんくさい事限りなしですね……。
 まあくれるっていうんだからありがたく貰っておきますよ。
 ちゃんと役に立てば良いのですけど、でも所詮黒服の同僚が作った物だからな………。



 8月18日 金曜日 「急停車」


 「えー、次は冥王星ー。冥王星ー」

 「お母さんお母さん!! ついにもうすぐ冥王星ですよ!!
  ようやくここまで来ましたよ私たちはっ!!」

 「そう、とうとう冥王星に……」

 「あれ? お母さん嬉しくないんですか?
  もしかして……今さらびびってるとか?」

 「いえ違うわ。ただ、あまりにも長い旅だったなあって……」

 確かに長すぎですね。どれだけ時間かかってるんだよ。
 いや、人類の技術レベルからすれば、これだけの期間で冥王星に行けるのはすごいかもしれませんが……でも本当はもっと早くに到着できるはずでしたしねえ。


 「……でも安心しちゃダメよ千夏」

 「へ? それはどういう意味ですかお母さん?」

 「今まであんなに苦労してたのよ? 今回だってそう簡単にたどり着く事なんて……」

 「な、なに不吉な事言ってくれてんどすかお母さん!
 もしそれが本当の事になったら……」

 『キキーッ!!』

 「ってうわぁ!!」

 なんの前触れもなく車体を急停止させる銀河鉄道。
 その突然のブレーキのおかげで私は思いっきりバランスを崩して椅子に頭をぶつけてしまいました。
 いったい何があったと言うのでしょうか。
 まさか本当に何か起こって……

 『ガーガガッ…………、お客様にお知らせいたします。
  ただいま当列車線路内に、障害物を発見し、オートブレーキ機能によって急停車いたしました。
  ご迷惑をおかけした事をお詫び…………なっ、なんだあれは!? ま、まさか伝説の……ぎゃああああ!!』

 「ちょ、ちょっと車掌さん!? いったい何が起こったの!?」

 『く、クロマティが…………ブツッ』

 「なにと出会ったの!?」

 やべえ。今すぐ先頭車両に見に行きたい。

 「千夏! きっとこれは黒い星の民の妨害工作よ!!」

 「クロマティが!?」

 「クロマティかどうかは知らないけども!!
  なんにしてもマズいわ……。このままこの銀河鉄道に乗っていると一緒に制圧されてしまうかもしれない」

 「そ、そんな! どうしましょう!? 私、クロマティと喧嘩して勝てる自信が無いよ!!」

 「もういいから。それは」

 そうですか。




 「千夏さん千夏さん……」

 「あ、あなたは例の諜報部員のコードネーム……」

 「鎌倉です」

 「そう。そのありがたそうな。
  で、なんのようですか鎌倉さん」

 「こんな時こそ私たちにお任せください。知恵と勇気で解決してみせますよ!! 見ていてください!!」

 「知恵と勇気と言われましても……具体的にはどうするんですか?」

 「じゃじゃーん! 見てくださいこの諜報部開発の特殊兵器!!」

 「これは……銃?」

 「そうです! 対野球選手用の特殊光線銃です!!」

 「ワオ! こんなにもこの場に適し武器があっただなんて!!
  さすが黒服の同僚!!」

 っていうか、あなたたちは野球選手と戦わなきゃいけなかったんですか?
 そんな銃持ってるって事は。



 8月19日 土曜日 「ガッツが足りない」


 『ドカーン! バキーン! メメッキョー!!』

 「うわぁ……なんだかよく分からない破壊音が、先頭車両からこの車両に近づいてくる……」

 クロマティさん大暴れですね。

 「千夏さん! 何をしてるんですか!!
  早く後部車両に!!」

 「は、はい分かりました」

 日本の諜報部らしい黒い服を着た方々に促され、私とお母さんは後部車両の方へと向かいました。
 この列車の中に詰め込んだ核弾頭50発の安否が気になるのですが……今はそれを言ってる場合でもありませんか。



 「千夏。あの人たちはいったいなんなの? やけに手際が良いのだけど……素人じゃないわよね」

 「ああ、お母さんは知らないんでしたよね。
  えっとあの人たちは……黒服さんの同僚の諜報部員さんがたらしいですよ」

 コードネーム鎌倉さんには黙っていろと言われましたが、もうそんなのどうでも良い感じに大変なのでばらしちゃいました。
 まあ別にそれで人の生き死にがどうにかなるわけじゃないし、良いですよね?

 「諜報部!? つまり私たちを監視していたって事? ストーキング真っ最中だったって事!?
  …………ちくしょう。殺してぇ」

 あ、ごめん。人の生き死にに関係あったかも。
 今のお母さんに諜報部員の方々が会ったら死んじゃうかも。
 良かったね、私たちをさっさと追い出しておいて。



 「まあいいわ。とっととここから逃げ出しましょう」

 「はぁ……これでまた冥王星到着は遠ざかるわけですか……。何度目だよ、本当に」

 「まあ大丈夫じゃない? 距離的には割りと近いから、宇宙遊泳してけばいつか着くわよ」

 そんな命がけの宇宙遊泳なんてしたくないですよ……。
 もうちょっとそういうのには夢が欲しい。




 「よし、じゃあこの車両の連結部を切り離して脱出しましょう」

 「はい、わかりました。でもあの諜報部員さんたちは大丈夫ですかね……?」

 「まあ死ぬ覚悟ぐらい出来てるんじゃないの?」

 すげえつめたいお言葉で。確かに全部監視されていたという事実はあまり気持ちの良いものではありませんが、そこまで嫌わなくても……。

 「やっぱりちょっとぐらい待った方がいいんじゃないですかね? もしかしたらクロマティの撃退を諦めて後退してきた鎌倉さんとか来るかもしれないし……」

 「でもねぇ……あれ聞いてもまだ待つ気になれる?」

 「え……?」

 『あ、ごめんなさい。マジごめんなさい。ちょっと調子に乗ってました。
  私たちならなんとかあなたを抑えられるんじゃないかとか、そういう事考えてました。本当に浅はかでした』

 「あっれー!? なんだかクロマティに屈服してる!?」

 「ね? 全然待つ気になんてなれないでしょ? めちゃくちゃ簡単に裏切ってるし」

 ……もうちょっと根性見せてよ。勇気と知恵だけあってもガッツがなけりゃダメですよ、ホント。








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