8月8日 日曜日 「夏休みの宿題(国語)」


 私は夏休みの最後の週に宿題を一気にやる、
 お約束タイプだったのですが、今年は違います。
 真面目に、きちんと効率よく終わらせてみせます。


 「えっと、国語の宿題は……」

 ランドセルの中から夏休みの宿題の課題が書かれた紙を出します。
 そしてその紙に書かれていたのは……

 『国語の宿題:読書感想文(本は自由)、作文(テーマは『この世界で一番の幸せとは何か』)


 ……ん?

 『この世界で一番の幸せとは何か?』

 間違いなく哲学ですよね?
 これ。

 なにが哀しくてこんな事を十年ぐらいしか生きていない子どもの意見を聞きたいんですか?
 これも総合学習の一つですか?

 

 とにかく、幸せとは何かなんてことを作文(ほとんど論文ですが)で書くために
 家に居るみんなに意見を聞きたいと思います。

 あれ?
 前にも同じようなことしたような……。

 

 「リーファちゃん、幸せってなんだと思う?」

 「人生における無上の幸福は、自分が愛されているという確信である。
  byユーゴー」

 すごいですねリーファちゃん。即答ですか?
 ……でも私の偏見かもしれないけれど、
 こういう普通なら困る質問(愛だ人生だ等)にすぐに答えを用意している人間は、
 絶対にそれに満たされていない人なんだと思うんですけど。
 いつも考えているってことだし。

 「ど、どうしたんですか? 千夏お姉さま……」

 「いや、別になんでもないよ……」

 頑張れリーファちゃん。

 


 「ウサギさん、一番の幸せってなんだと思います?」

 「一番の幸せ? ……う〜ん」

 やっぱ悩みますよね。普通は。


 「一番の幸せってのは……自分の不幸に気付かないこと。
  とか」

 「え? どういう意味ですか?」

 「井戸を所有して満足している人間は、水道の存在を知るべきではないってこと」

 「えっと、つまり自分が幸せだと思っていたことが、
  他人にとっては普通以下だったりすることがあるってこと?」

 「逆も言えるけどな。
  自分にとっては普通でも、他人にとっては幸せだとか」

 「ふ〜ん……」

 「だから、そんなの気にしてたらきりが無いから、
  自分が心から幸せなんだと思えたときが幸せなんじゃない?」

 なるほど。なんだか納得できちゃいます。

 「ちなみにウサギさんが一番幸せだと感じたときは?」

 「……この家で暮らして、千夏と遊んでる時が幸せだと感じるよ」

 ……嬉しいこと言ってくれますね。

 

 

 「お母さん……一番の幸せって……」

 あまりこの人には聞きたくないんだけど。

 「千夏がいてくれれば私は幸せよ?」

 「……」

 「な、なに!? その怪訝な視線は?」

 日頃の行いって大切だと思うんですよ。


 「ホントよ? 千夏が私の子どもで本当に良かったって思っているんだから!!」

 「例えばどんな時にそう思うんですか?」

 「メイド服が似合いそうだなって思った時とか」

 なんであなたはそんなにメイド服にこだわるんですか?


 「もういいや、それじゃね」

 「千夏」

 「なんですか?」

 もうこれ以上ボケコメントなんて聞きたくないんですけど。


 「私は至らない母親かもしれないけど、
  千夏を愛してるということに関しては、誰にも負けないわよ」

 「お、お母さん……」

 そんなに、私のことを……。


 「ちなみに、メイド服のこだわりも誰にも負けません」

 「知るかボケ」


 すげえ台無し。


 

 8月9日 月曜日 「悪魔」

 

 「ふはははは!!!!」

 「えっと……」

 天下の公道でバカ笑いしてる男性がいます。
 かわいそうに……暑さで頭をやられてしまったのですね。


 「おい、そこの少女!!」

 げっ、まずいですね。
 目をつけられてしまったらしいです。

 「私と契約しないか?」

 ……そうですか。そっちのやばさなんですか。

 「売春するほど堕ちて無いんで」

 「いや……そういう意味では無くてね」

 じゃあどういう意味なんですか。


 「実は私、悪魔なのだ」

 「……本当に?」

 「ああ、悪いこといっぱいしてる」

 「例えば?」

 「ジャネット・ジャクソンの胸ポロリ事件は私の仕業」

 微妙な悪さだな。

 「タバコを人間に教えたのも私」

 核兵器より多く人を殺してますね。


 「で、その悪魔が私に何の用?」

 「だから、お前の魂と引き換えに、願いを叶えてやろうと」

 「なるほどね……」

 一応相づちをうっておきますが、全然信じてはいません。


 「お前、俺のこと信じていないだろ?」

 「分かっちゃいましたか?」

 「他人を信じないといい大人になれないぞ?」

 悪魔が人に説法するな。


 「仕方ないから、お試しとして一回だけ無報酬で願いを叶えてやる。
  これなら信じてもらえるはずだ」

 怪しい人間とこれ以上関わりあいになりたくないのですが、
 タダだと聞いたら逃げ出すわけにはいきません!!
 貧乏人の習性です!!


 「えっとそれじゃあ……」

 「なんでもドーンと来い」

 「無報酬で願いを叶えられる数を、10倍にしてください」

 「……」

 あ、すっごく困ってる。


 「お前、イヤな子どもだな」

 悪魔にそんなこと言われるとさすがにショックなんですけど。


 「なんでも叶えてくれるんでしょ?」

 「分かった。
  それなら願いを叶えられる数を1.3個にしてやる」

 「え!? ちょっと待ってくださいよ!!
  全然10倍じゃないじゃないですか!!」

 「ゆとり教育の被害で……」

 「嘘吐くな!!」


 さすが悪魔。
 ……と、言えるかどうか微妙なズル賢さですね。


 

 8月10日 火曜日 「れでぃおな時間」

 黒服「こんばんは、リスナーの皆様。
    この夏をどうお過ごしでしょうか?」

 千夏「あの〜……なにこれ?」

 黒服「何って千夏さん。寝ぼけてるんですか?
    もう放送が始まってますよ?」

 千夏「放送って?」

 黒服「『ドキドキ、千夏の朝まで生ラジオ』の放送に決まってるじゃないですか」

 そんなダサい名前の番組を持った憶えはございません。


 千夏「……なんでさ、セリフの前に名前が付いてるの?」

 黒服「ラジオだからです」

 そういうものなの?


 黒服「さて、今日はまずメールの方から紹介させていただきましょう」

 サイトにもメールなんて来たこと無いのに。
 アドレスを隠してるからでしょうけど。


 黒服「北半球にお住まいの、田所さんからのメールです」

 住所の範囲が広いだろ。
 まあ多分日本なんだと思うけど。

 黒服「『ドキ生、いつも楽しく聞かせていただいています』」

 ドキ生って略すんだ?
 どっちにしてもダサいな。

 黒服「『先日の放送の、『氷砂糖でアイススケートのリングを作って、
    トリプルアクセルを決める』と言う企画、本当に感動しました』」

 そんなアホ企画を……。

 黒服「『さて、話は変わりますが、千夏さんはお気に入りのミュージシャンなんていますか?
     私はオレンジレンジですvv』だ、そうです」

 なんともラジオらしいメールですね。
 っていうか黒服。
 そのメールの文章を忠実に声に出して再現するな。
 かなり気持ち悪いんですけど。


 黒服「いや〜本当に氷砂糖企画は大変でしたね〜。
    特に集まってくるアリを退治するのが」

 やっぱそっちが大変なんだ?

 黒服「えっと、それで千夏さんはどんなミュージシャンが好きなんですか?」

 千夏「う〜ん……東京エスムジカとか」

 黒服「さて、では今日の12星座占いのコーナーへと行きましょう」

 この野郎。分からないから無視しやがったな。
 あまり知られてないけど、でもいいミュージシャンなんだから!!!

 

 黒服「今日一番ラッキーだった星座は……」

 なにが悲しくて、もうすぐ終わってしまう今日の運勢を知りたいんでしょうか?
 確認か?
 今日一日の運勢を確認するんですか?


 黒服「獅子座で〜す。
    今日は待ってる人にすぐに出会える一日」

 ふ〜ん……なんとも当たり障りの無い、よくやる占いっぽいですね。


 黒服「サバンナの、水場がもっとも高ポイント」

 千夏「ってオイ!! それって獅子座じゃなくて、本物のライオンのことだろ!!
    もしかして待ってる人ってシマウマ?
    もとい肉!?」

 黒服「一番アンラッキーな星座はうお座。
    目の前に現れた美味しそうな餌には注意」

 千夏「やっぱ魚じゃん!! うお座の人へのメッセージじゃないじゃん!!」

 黒服「それでは皆さん。また来週〜」

 


 絶対に来週になってもやりませんからね?

 

 

 8月11日 水曜日 「家事の手伝い」


 「ああん、もう!!
  千夏!! 邪魔!!」

 寝そべってテレビを見るという、なんとも有意義な午前の過ごし方をしている私に、
 お母さんが怒鳴ってきます。


 「夏休みだからってそんなにゴロゴロして!!
  たまには家事を手伝ったらどうなの!?」

 あ、なんかすごい。
 お母さんが母親らしいこと言ってる。


 「夏休みはゴロゴロしてないと罪にとわれるんですよ」

 「国民の生産性を下げるような法律なんて、あるわけないでしょ」

 あ、なんかすごい。
 お母さんが私にツッコミしてる。


 軽い感動を覚えながらも、これ以上怒らせてしまうと、
 何されるか分からないので、渋々立ち上がります。


 「まず手始めに、このゴミ袋をゴミ捨て場に持っていってね」

 お母さんはそう言って、やけに大きな黒いゴミ袋を押しつけます。
 黒いゴミ袋って条例違反じゃなかったっけ?


 「なんだかすごく大きいね。
  人の遺体でも入ってるの?」

 「……」

 オイ。
 なんでここで黙るんですか。

 

 仕方なく、なにやら怪しいゴミ袋を担いで、
 炎天下の公道に出ます。

 「……暑い」

 玄関から五歩進んだ時点で早くも弱音が。
 気温は暑いはゴミ袋は重いは、もううんざりです。


 「本当に何が入ってるんだろう……」

 好奇心に負け、ゴミ袋の中を見てみると……

 

 

 話は変わりますが、最近ラジオ体操を始めたんです。
 やっぱり朝早く起きるのは気持ちいいですね。


 ワタシハ、ナニモミテナイデスカラ。
 ホントデスヨ?


 

 8月12日 木曜日「美味しいパン屋」

 「本日は開店記念により、全てのパンが半額だよ〜。
  お買い得だよ〜」

 ふらふらと散歩していた私の耳に、そんな呼び込みが聞こえてきます。
 甘い匂いも漂ってくるので、足が勝手に声のする方へと歩き出しちゃいます。


 「へぇ〜、こんな所にパン屋ができたんだ……」

 私の目の前には小さなパン屋さん。
 店の看板にはでかでかと『美味しいパン屋さん』と書かれています。
 ……自信が溢れ出てますね。
 羨ましいくらいです。


 「お嬢さん、一つ食べていかないかい?
  特別にタダにしてあげるから」

 「本当に!?」

 店主さんらしいお兄さんのサービスに大喜びです。


 「それじゃこれをどうぞ」

 お兄さんが私にくれたのはメロンパンでした。


 「わあ〜美味しそう〜」

 「本物のメロンの果汁100%で作ったんですよ〜」

 「へぇ〜、そうなんですかぁ」

 果汁を100%使っている物が、パンの形をしていることなんてあり得ませんが、
 美味しそうなメロンパンに免じてつっこまないでおきます。


 「いただきま〜す」

 ぱくっと一口食べると、甘い味と……
 足元が揺らぐような幸福感。

 

 ……何か盛りやがったな?

 

 「ちょっと!! これ何か入ってんだろ!!」

 「果汁100%」

 いや、だからそんなわけないって。


 「それと変わったキノコを……」

 「それだ!!」

 間違いなくやばげなマッシュルームでしょ。
 絶対に。

 「た〜んと召し上がれ」

 「いや、もういいです」

 廃人の仲間入りはごめんなんで。


 「そうか……それは残念だ。
  そこのおねえさ〜ん、パンを食べていきませんか〜?」

 えっと……世間のために、私がやるべきことは……


 「空舞破天流奥義、BREAK・break・DEATH・dance!!!」

 「ああ!! やめて!! 店を壊さないで!!!」


 世直し、バンザイ。

 

 

 8月13日 金曜日 「夏休みの宿題(美術)」


 今日は図工の宿題をやろうと思います。
 風景画か粘土工作のどっちかをやればいいみたいです。

 「お、何故かちょうどテーブルの上に粘土が!!」

 これはもう粘土工作にしなさいという、神様からのメッセージなのでしょう。
 まあこんなどうでもいいことにメッセージをくれる神様なんて居やしないと思いますけど。


 「やっぱり貯金箱がスタンダードかな」

 とりあえず工作の定番の貯金箱を作ることにします。
 作っても使うことなんてないんですけどね。
 ウチ、貧乏だし。

 

 「あれ〜? ここに置いてあったはずなのになあ……」

 ハニワ型貯金箱(制作時間1時間)を作り終え、
 お茶でも飲もうとリビングに行くと、そこには何かを探しているリーファちゃんの姿。

 ……なんだかイヤな予感がしますね。

 「何探してるのリーファちゃん?」

 「あ!? 千夏お姉さま!!
  べ、別になんでもないですよ?」

 嘘をつくの下手すぎです。


 「別にここに置いておいた爆弾なんて探してませんよ?」

 「爆弾!?」

 なんだか私の家は爆発物と関わることが多すぎませんか?


 「だから違うんですって!!
  見た目はただの粘土みたいなプラスチック爆弾なんて探してません!!」

 ……ああ、ビンゴです。
 なんだかすごく思い当たる節がありますよ?


 「リーファちゃん、つかぬことをお聞きしますが
  その爆弾ってすぐに爆発するの?」

 「いいえ、信官をセットしなければ無害ですよ?」

 精神衛生面にはかなり有害だと思いますけど。

 

 「リーファちゃん、いつもご苦労さま。
  これはほんの気持ちだよ」

 そう言って私はさっき作ったハニワ型貯金箱(別名HANIWA BOMB)を差し出します。


 「ち、千夏お姉さま!?
  お姉さまが私にプレゼントだなんて……」

 あ、もしかしてバレちゃったんですかね?

 「……」

 「リーファちゃん……?」

 「こ、これくらいの物で、
  私を懐柔できるなんて思わないことね!!」

 よほど嬉しかったのかキャラが素に戻ってます。


 「ふん!! こんなヘボイ貯金箱なんて……」

 そうブツフツ愚痴を言いながらリーファちゃんは自分の部屋へと帰っていきました。
 言葉とは裏腹に、嬉しそうだったのは気のせいじゃないと思います。


 もう、リーファちゃんったらかわいそ……
 間違えました。
 可愛いなあ。
 ホント。ホントだってば。

 

 8月14日 土曜日 「夏休みの宿題(国語)」

 今日は国語の読書感想文の宿題をやることにします。
 題材の本は自由ってのが嬉しいですね。

 ということで私が感想文の題材として選んだ本は……

 ドストエフスキー作
 『罪と罰』


 ……我ながら小学生らしくないチョイスです。
 普通の小学生ならハリー・ポッターとかを選んで、
 魔法がどうのこうのだとかいう感想文を書くものなのに。


 とにかく、私は無駄に分厚くて、読むのが難解な文学作品を読み始めました。

 

 朝に読み始めたはずなのに、気づけばもう夜。
 それほどまでに長い時間をかけて、ようやく読み終わりました。

 さて、この『罪と罰』のあらすじを私なりにまとめてみますと、

 『1の悪行は100の善行によって許される』という自論を持った主人公が、
 貧困から抜け出すために金貸しのおばあさんを殺し、
 罪の意識と熱病にさいなまれ、
 娼婦でありながら純粋に神を信じ続ける女性に救われるという、
 一人の人間の堕落と更正の物語です。
 多分。


 この作品の素晴らしい所は、主人公の心の動きをこれでもかってぐらいに文章にしている所だと思いますが、
 私が何より注目したのは物語の中の金銭の重要さですね。

 なんていうか、この作品をきちんと読めば、
 主人公の現在の所持金を把握できるのではないかというぐらい
 細かく支払い、収入などが描写されています。

 昔の小説って、みんなそんな感じなんですかね?
 前に『椿姫』を読んだ時も同じ印象を受けたのですが……。

 ……私の読んでいる本の趣味にケチをつけないでください。

 

 さあ!! とにかくさっさと読書感想文を書いてしまいましょう!!

 えっと、まずこの本を読んで一番深く心に刻まれたことは……


 『ソーニャ(ヒロイン?)萌え〜』


 ……さて、もう一度読み直さなきゃ。

 


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