10月8日 日曜日 「恐怖の雪女登場」


 「えっと……女神さんが言うには、他の家族も影になっていると。そいでもって女神さんに渡せば元に戻してくれると」

 「そういう事らしいな」

 「そこで問題になってくるのが、影がめっぽう強いという事なのですよ。
  女神さんの所まで連れて行くだなんて、とても近くのリサイクルボックスに発泡スチロールを持っていこうみたいなノリで出来る事じゃないのですよ」

 「だろうね。っていうか家族をリサイクル品扱いか」

 「いくらこっちにはウサギさんが居ると言っても、向こうは不死身の暗殺者ですからね。
  気を抜く事なんて許されませんよ。例え元がへっぽこだったとしても」

 ダメダメ暗殺者も、影になったら少しは使えるようになっているかもしれません。
 もちろんリーファちゃんの事です。紛れもなくリーファちゃんの事なのです。



 「まあそれでもさ、このままにしておくわけにはいかないだろ。
  早くみんなを助けて戦力を集めないと、黒い星の民と戦うどころじゃないし」

 「う〜ん……それもそうですねウサギさん。とりあえず、やれるだけやってみましょう。
  まずは雪女さんの影から探してみましょうか? 影を倒すという難易度でいうと、おそらく最低レベルだと思うので小手調べにはもってこいでしょう」

 「最低レベルって言ったら加奈ちゃんの影じゃないのか?
  いくらなんでも子どもより弱くなるなんて事……」

 「いいえ違いますよ。ウサギさんはなにも分かっていませんねえ。
  雪女さんのその弱さの秘密はですね……自分の持ちうる力すべてを発揮できない要領の悪さにあるのですよ!
  きっとあの人は核兵器を保有しても誰も殺せないね! むしろ自爆する人だね!!」

 「なんて言いようだ」

 「その気質は影になったとしても消えて無くなるものじゃありません。
  だから楽勝なのです。加奈ちゃんよりも全然問題外なのです」

 「でもさ、もしかしたら影になった事で今まで発揮されなかった潜在能力やなんかが完全にコントロールされたら……」

 「はーはっはっはっ! 潜在能力ですってウサギさん!?
  雪女さんに限って、そんなたいそうな物持っているわけないじゃないですか!!
  雪女さんを叩いて出るのは埃か冷凍庫にこびりついているような霜だけですって!!」

 「本当に酷い言いようだな」

 今までが今までだから仕方ありませんって。




 「ふぇ……ふぇっくしょん!! うぅ、どうしたんだろ。風邪ひいちゃったかな?」

 「……千夏。なんだか肌寒くなってきてないか?
  いや、肌寒いというよりは、一気に熱を奪われた感じなんだが……」

 「あは、何を言っているのですかウサギさん。そんな非科学的な事があるわけないじゃないですか。
  一瞬の内に、気温を零下まで下げるなんて……」

 「……まずい、な。手足、まともに動かない。
  どうやら内部から凍結させられたらしい」

 「それはまた常識外れな能力をお持ちで……」

 私たちの背後から、ものすごい冷気を感じるんですがどうしましょうか?
 なんだか、すっごく振り向きたくないですが?
 今振り向いたら、予想通りの人の影が居そうなんですが?



 今までで、一番怖い雪女さんなのですが。



 10月9日 月曜日 「壁の煙」


 「う、ウサギさん……どうしましょうか? なんだか後ろにとんでもない奴がいるみたいなんですけど?」

 「どうやら敵の手に堕ちて力の使い方を学んだみたいだな。
  こっちの駆動系を狙って攻撃してくるだなんて、前のアイツからは考えられない」

 「どどど、どうしましょう!? 逃げますか!?」

 「それは多分無理。手足、上手く動かないから」

 まずこちらの逃げ足を封じ込めるなんて、なんと知略に富んだ戦術ですか。
 バカの癖にっ! 少し前まで、ただのバカだったくせにっ!!



 「じゃあやっぱりここは真っ正面から戦うしかないんですかね?」

 「そうだろうね。このままだと、体力を全部奪われかねない」

 「くそう……出来れば遠くから狙撃とか、遠くからミサイルとか、爆撃機で殲滅とか、そういう戦法を取りたかったのに」

 「なんだか攻撃の仕方が近代国家レベルだね」

 「もうここは覚悟を決めましょう! 振り向くよウサギさん!!」

 「ああ、分かった!!」

 出来ればこのまま無かった事にしたかったのですが、そういうわけにもいかなくなりまして、雪女さんの影と対峙するために私たちは後ろを振り向きました。
 振り向いた先には変わり果てた姿になった雪女さんの姿が…………という風に思っていたのですが、
 なぜかそこには誰も居ませんでした。あれ? 私が感じていたあの冷気は気のせいだったのですか?

 「あ、あれぇ!? いない!? どうして?
  ………………もしかして、私たちに恐れをなして逃げて言ってしまったのですね!?
  やったー! 不戦勝だ!! さすが雪女さんだぜ!! へたれなのは影になっても変わらない!!」

 「……いや、そういうわけじゃないみたいだぞ」

 「へ? どういう事ですかウサギさん?」

 「ほら……気温、まだ下がり続けているだろ……? 多分さ、千夏の戦い方をやろうとしてるんじゃないかな」

 「私の戦い方って……」

 「遠くから、チマチマと攻撃する作戦」

 「そんなチンケな事やりませんよ私!!」

 「そんな舌の根も乾かぬ内に……」

 「うう、しかしですよ、つまり雪女さんの影は私たちがこのまま凍死するのを待っているという事ですか?」

 「そうでなくても、体力がなくなった所でようやく姿を現すんだろうな」

 「くそう! そんなわけにいくもんですか!! とにかく、体を温めましょう!!
  凍死なんて、餓死に次ぐ情けない死に方だ!!」

 「そういうランキング、千夏の中にあったのか」

 「よし! とりあえず部屋の壁を燃やそう! そうして暖を取ろう!」

 私たちは大急ぎで部屋の壁を剥がし、薪にしました。
 ちょうど持っていたライターで火をつけて、なんとかこの場を凌ごうとします。



 「ふふふふ……見てなさいよ雪女さん。あなたの思惑通りには決して、げふん! いかないですよげふん!!
  このままなんとか凌ぎきってごふんげはんっ!! 雪女さんをおびき出し……がはっ! ごほっ! ぶはっ!!」

 「おい千夏……大丈夫か?」

 「んだよこれ! 壁からなんかやばい煙出てるんじゃないですか!?
  冥王星ではいいの!? そういう素材使って家建ててさ!!」

 やばい。このままだと暖を取る前に毒やら何やらで倒れてしまうかもしれません。





 10月10日 火曜日 「生きるために」


 「寒い寒い寒い寒い!! なんでこんなに寒いんですかウサギさん!!」

 「雪女の影のせいだろうね」

 「そういえばそうだった! すっかり忘れてた!!
  というか思い出したくなかったですよ!!」

 ええそうです。
 今私たちがこの黒い星の民のお城で凍死しかけているのは、全て雪女さんの影のせいなのです。
 ちくしょうめ。普段はただのバカだというのに、悪の手先になった時だけパワーアップしやがって。
 本当に役に立たない人ですね。私たちの足を引っ張ってくれてばかりです。



 「ううう……クリームシチューとか、おでんとか、そういうのが無性に食べたい。
  そう思いませんかウサギさん?」

 「ああ……本当だな。本当に、おでんとか食べたいな」

 「……そうだ! このままここから離れてですね、コンビニにでも行きませんか?
  知ってます? このお城、無人コンビニがあるんですよ」

 「それは良い考えかもしれないが……そもそも廊下も部屋も雪が降り積もっていて、雪山みたくなっているじゃないか。
  こんな状況で下手に動くと、本当に遭難するんじゃないか?」

 「遭難!? 何を言っているのですかウサギさん!!
  私なんてね、実はまだ迷子中なんですよ!? 未だにこの城から出る道知らないんだから!!」

 「そこを誇られても」

 「だからこの際遭難したってどうでも良いです! どうせ似たような状況だったというか、まさに遭難してたわけですから!!
  遭難中の人間が遭難したって、どうって事ないですよ!!」

 「さらに状況が悪化しているような気がするけどな。
  まあ確かに千夏の言うとおりだ。このままじっとしていて体力を奪われるぐらいなら、
  危険を冒してでも体力の回復をはかった方が良いかもしれない」

 「そうでしょう?
  よし! じゃあいざこの城の無人コンビニへ!!」

 こうして、私たちは唯一の希望、豊穣たるオアシス、無人コンビニに向かって歩き始めたのでした。





 「……でさ、その無人コンビニってどこにあるの?」

 「えーっと……向こう側? いや、あっちだったかな?」

 「……」

 「だ、大丈夫ですってウサギさん!! 道ぐらい、ちゃんと覚えてますもん!!
  だからそんな顔しないでくださいよ!!」

 まったく関係ない話ですが、現実に遭難などをした場合、
 むやみやたらに動かずに救助を待った方が良いらしいですよ。

 まったく関係ない話ですが。




 10月11日 水曜日 「看板」


 「寒い! 本当に寒い!!」

 「千夏……大丈夫か?」

 「ダメ! 全然大丈夫じゃない!! いったいどうなっているんですかこの城は!?
  どこもかしこも雪だらけじゃないですか!!
  ここは冬の北海道ですか!?」

 「これも全部雪女の影の力なんだろうな…」

 「そんなバカなっ!! パワーのインフレが凄すぎます!!
  確かに気温を操るという能力自体は元よりすごい能力ではあるけども!
  これじゃあまるで強く設定しすぎた]メンのストームのようだ!!」

 「例えがよく分からないが、ムカついているんだな?」

 「その通りです」

 はぁ……コンビニへと歩いている私たちにとっては、これらの雪が非常に邪魔になって仕方ありません。
 地味に体温を奪っていくし、服が濡れて重くなっていくし……くそう。
 このままだと本当に雪山遭難してしまう。ここ、屋内なのに。

 「なあ千夏……本当にこの道であっているのか? 本当に、コンビニに続いているのか?」

 「え、ええ。おそらくは。多分この先にコンビニありますよ」

 「多分って……」

 「そ、そんな不安そうな顔しないでくださいよ! 大丈夫ですってば!!
  すぐにコンビニに着きます! そして暖かいおでんや肉まんなどを山ほど食べられますよ!!
  なんて言ったって無人コンビニだからね! 取り放題!!」

 「田舎の純朴さを踏みにじるような主張だな」

 「だから頑張りましょう……って、あれはなんでしょう?」

 「ん? あれは……」

 私たちの前方、雪に塗れた廊下の先に、一本の木の枝のようなモノがありました。
 よくよく見るとそれは……木製の看板でした。

 「看板? なんでこんな所に看板が……」

 「ほら! 見てくださいよウサギさん!! この看板にコンビニまで後5キロって書かれてる!!」

 「5キロ……って結構長くないか?」

 「まあそうですけど……でも決して無理な距離ではありませんよ!
  よし! 頑張りましょう!!」

 「っていうかそれ、本当に信頼できる情報なのか?
  なんというか、手作り感がいかにも怪しい…………」

 「れっつごー!! いざ、至高のコンビニへ!!」

 「お、おい千夏! 本当に大丈夫なのにか!? なんだかこの看板、すごく罠っぽいんだが大丈夫なのか!?
  不思議と雪が積もってなかったりするんだが!? 雪が降った後に突き立てられた事が丸分かりなんだが!?」

 「ウサギさん……RPGとかにある立て札が嘘をつく事などありますか?」

 「ないけど! でもそれは現実とは何も関係ないだろ!?」

 「でも今はこの情報を頼りにするしかないじゃないですか! コンビニの場所分からないんだから!!」

 「あっ! やっぱり千夏、コンビにがどこにあるのか分からなかったのか!?」

 「れっつごー!」

 「ごまかすな!!」

 さあ、コンビニに向けて歩き出しましょう。




 10月12日 木曜日 「コンビニ到達」


 「ほら見て見てウサギさん!! 向こうにコンビニが見えるよ!!」

 雪に塗れた屋敷内という不思議空間を歩く事数時間。
 私たちはようやく目的地であった無人コンビニにを見つける事が出来ました。
 やー、長かった。途中、本当に死にかけた。

 「なんと……まさか本当にたどり着けるとは」

 「ね? 言ったでしょ!? 立て札が嘘をつくわけが無いって」

 「う、うーん。それが世界の真理なのか?」

 「真理なんですよ! とにかく行きましょう! そしておでん食べて体力を回復させましょう!!」

 「あ、ああ。分かった。…………本当に大丈夫なんだよな?」

 「もう、ウサギさんは怖がりですねえ。悩んでいても仕方ないですよ。さっさと行きましょう」

 「千夏はホント行き当たりばったりなのな」

 それが私の良い所だと思っといてください。
 とにかく行きましょう。





 「いらっしゃいませー……」

 「うわっ!? びっくりした!!」

 意気揚々とコンビニ入った私たちに、声がかけられました。
 ええ、なんとですね、無人コンビニであるはずの店内に店員が居たのです。
 確かにこのお店は以前入った所とは違いますけども、まさか店員が居たとは……。
 うーむ、ちょっと予想外。

 「なんだ、普通に店員いるじゃないか」

 「ええ……そうみたいですね」

 「……」

 このコンビニのただひとりの店員らしいその女の人は、じっと私たちの動向を無言で見ています。
 強盗だか万引きだとかと勘違いしているのではないでしょうか。
 まあ確かにあやしい人達であるという自覚はありますが、そんな目で見られるとすっごく不愉快です。


 「じゃあとりあえずおでんとか暖かい食べ物買って、体力回復させようか?」

 「そうですね。もう体の芯まで冷え切っていて、へとへとですから。
  ……あ、そうだ。ついでに雪女さんの影に対抗しうる武器とかを、ここで仕入れましょうか?」

 「武器? 武器なんてコンビニに置いてあるわけないだろう」

 「いやいや、よく探してみれば見つかりますって。
  ほら、例えばおでんの熱々のお汁とか。リアクション芸人以外にとっては凶器になりますよ」

 「それを雪女の影にかけるつもりなのか? すっごく嫌な攻撃方法だな」

 「うめぼしオニギリの種が入っている方を、思いっきり噛ませるとか」

 「歯が心配だな」

 「コンビニに備え付けられている電子レンジに突っ込んで、暖めてみるとか」

 「普通に死ぬな、それは」

 「そこまでやらないと、こっちがやられますよ」





 「…………」

 「…………」

 「…………」

 「…………」

 「…………」

 「……………………後は、あの無言でこっちを見ている店員をぶん投げるとか。
  っていうか何見てんだアイツ」

 「さすがにそれはまずいだろ……。あまり、気にするな」

 「ううう……、なんか嫌な感じだなあ」

 さっさとこのコンビニで物買って出て行くのが吉かもしれませんね。
 不気味すぎる。


 10月13日 金曜日 「コンビニ宿泊券」


 「えーっとじゃあ、これぐらいでいいかな?」

 「そうですね。おでんにおにぎり、あとカップラーメンにいくつかの携帯食料。
  吸収の良いスポーツドリンク……そして断熱シート。うん。これぐらい買っていけば十分冬と戦えるのではないでしょうか」

 「冬と戦うわけじゃないけどね。雪女の影と戦っているんだけどね」

 そう言えばそうだった。

 「よし。じゃあ会計済ませるか」

 「そうですね。無人コンビニじゃないから持ち逃げが出来ないのが悔しいですけども」

 「まだ拘っていたんだ。それ」

 だって本当はタダになっていたんですよ? まあ今更言ったって仕方ないですけど。




 「じゃあお願いしまーす」

 「…………はい」

 レジに品物を持っていって計算をお願いしたのですが、相変わらず無愛想というかやる気を感じないというかむしろ生気を感じない人でした。
 大丈夫なんでしょうかこの人は? 電池などを平気で暖めますかと聞いてきそうな雰囲気があります。

 「ご会計は…………5.620円となります」

 「うーん、結構高いですね。まあ仕方ないですか」

 「ちりんちりーん。おめでとうございまーす」

 「え? 急になに!?」

 「あなたは記念すべき当店の1人目のお客様でーす。
  なので、特典として全て無料となりまーす」

 「えー!? 本当ですかそれ!? それはめでたい! いや、めでたくない!! 少なくともこのお店にとっては!!
  なんだよ来客一人目って!!」

 お店としてやっていけているのですかそれは。

 「ついでに宿泊券もプレゼントいたします」

 「宿泊券!? どこの!? 温泉!? ここに温泉あるの!?」

 温泉ぐらいこのお城にいっぱいありそうですね。海さえもあるんだから。

 「いえ。このコンビニに泊まることが出来る宿泊券です」

 「へー。このコンビニに。それはまた斬新な宿泊施設で。
  ……いらねえ!! めっさいらねえ!! 誰が好き好んでコンビニなんぞに泊まるか!!
  っていうかどこで寝ればいいの!? そこの商品棚!? それともレジ!?」

 「いえ、業務員の休憩室です」

 「なんの魅力も感じねー!!」

 「どうぞ。さあこちらにどうぞ」

 「いや……ちょっと遠慮したいのですが……?」

 「まあちょっと待て千夏」

 「へ? なんですかウサギさん?」

 「泊まれるなら泊まっておいた方がいいかもしれない。
  体を休めるには寝るのが一番だし」

 「それはそうですけど……でもコンビニの休憩室ですよ?」

 「今はそんな事言っている場合じゃないだろう。贅沢も言えないさ」

 「それに……あの店員、すっげえなんか嫌なんですけど」

 「……まあ確かにちょっと気になるな。来客一人目のサービスにコンビニ宿泊券なんて聞いたことないし」

 「やっぱりあれなんでしょうかね? あまりにも人が居なさ過ぎて人恋しいのでしょうかね?」

 「そういう事もあるかもしれないな……。まあとにかく、ここは状況を最大限利用するべきだと思う。
  不思議とこのコンビニの中までは雪女の冷気が来ていないみたいだし」

 「そういえばそうですね。空調関係がしっかりしているのでしょうか?
  …………分かりました。ここで泊まりましょう。そして明日から、雪女さんの影との戦争を始めましょう」

 はあ……まさかこういうお泊りを経験する事になろうとは。
 本当に予想外ですよ。




 「うふ……うふ、うふうふふ」

 「…………ウサギさん。あの気味の悪い店員、すげえ笑っているんですけど?
  思わずパンチをくれてやりたくなるような笑みを浮かべているんですけど?」

 「……ひさしぶりに出会った人間が泊まってくれて嬉しいんじゃないのか?」

 「すっげえ怖い。やっぱりちょっと嫌かも。泊まるの」

 「まあまあ。そこは我慢して」

 「……ううう。なんで、こんな事に」

 当面の敵は、雪女さんの影より目の前にいる気味の悪い店員かもしれません。
 なんか怖いよこの人。




 10月14日 土曜日 「不気味な店員」


 「あの〜すみませんコンビニの店員さん。おひとつお聞きしたい事があるのですがよろしいでしょうか?」

 なにが悲しくてコンビニなぞに宿泊する事になってしまった私は、宿泊の上で非常に重要な事を店員さんに聞こうとしました。
 店員さんは、快くその質問を聞いてくれます。

 「ふ……ふふふ。なんでしょうか……?」

 ごめん。なんていうか全然快くなかった。
 死ぬほど不気味に聞いてくれました。

 「……今なんで含み笑いしたの?」

 「すいません……なにせ他人に話しかけられたのが久しぶりでして……思わず、笑ってしまいましたぁ……」

 「今のどこに笑う要素があったんだ」

 「オイオイ。私、今まで全然人と話してなかったよ。という所です」

 「ああ。そこね。そういう自虐的な笑いね」

 「質問は以上でよろしいでしょうか?」

 「よろしくねえよ。っていうか別にあなたの含み笑いの意図を知りたくて話しかけたんじゃねえよ。
  あのですね、このコンビニってお風呂とかないんですか?
  体、あたためたいんですけど」

 「ふふっ、ふふふっ!! ふふふふふふふふっ!!」

 「ちょっ、どうしたんですか!?」

 「お客様は本当に面白い事を言いますねえ。お風呂がついているコンビニなんてあるわけないじゃないですか。
  もし大浴場クラスのお風呂がこのコンビニにあったのならば、それはコンビニにお風呂がついているのではなくて、
  お風呂にコンビニがついているって言った方がいいじゃないですか……。
  重要度から言えば、お風呂の方がコンビニより上ですって……」

 「そ、そうかもね。私別に、大浴場みたいなものを要求していたわけじゃないんだけど。
  あと、どこが面白いのか全然理解できないんだけど」

 「もう、本当におかしいなあ。
  こんなに笑ったのは久しぶりですよ」

 「それは気の毒な。じゃない。良かったですね」

 「ああ……こんなに楽しいのならば、いっそのことお客様たちがずっとここに居てくれればいいのに……」

 「ははっ。はははは……え、遠慮しますよ。
  じゃあ私、ウサギさんとこに戻るんで」

 「ええ、分かりました。ごゆっくりお休みください……ふふっ」

 私は店員さんから逃げるようにその場を立ち去りました。



 「ウサギさんウサギさん」

 「ん? どこ行ってたんだよ千夏。布団の準備、もうしちまったぞ」

 「ウサギさん……なんていうか、私たちはもしかしたら二度とここから出られないかもしれませんね。あははっ」

 あの店員さん、絶対何かあると思います。








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