11月5日 日曜日 「女神屋」

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 「いらっしゃいませー」

 「うおう。まさか店員が居たとは……」

 私とウサギさんと雪女さんは、コンビニで食べ物を補給しようとしました。
 すると、コンビニの隣に女神屋というエキセントリックな名称のお店を見つけてしまいました。
 これはもう入るっきゃないよね的な感じで入店したのですが……
 まさかきちんと店員が居たとは。コンビニと同じでどうせ無人店舗だと思っていたのですけどねえ。


 「今日はどの女神をお探しですか?」

 「おお……本当にここで女神を売っているんですね? てっきり悪い冗談か何かと思っていたのに」

 「もちろん売っていますよ。ここをどこだと思っているんですか? 女神屋ですよ?
  仏さまを売っていたら仏屋って看板に書くでしょう?」

 「どこかずれた返答ですけども……まあそうですね。女神を売っているから女神屋なんですね」

 普通に人身売買のような気がしますけど……。
 あ、神様だから人ではないのか? そういう捕らえ方でおっけーなのか?
 どちらにしてももうちょっと敬えとは思いますけど。



 「ええっとですね……影を人に戻せる女神をください」

 「千夏さん!? なんか本気で女神さんを見捨てようとしていません!?」

 「な、なにを言っているのですか雪女さん!! 私はただですね、やっぱり予備ぐらい用意していなきゃと思いまして……」

 「予備ってそんな。ほとんどモノ扱いしているじゃないですか」

 「とにかく、今女神さんが居なくて困っているんだから、その穴を埋めなくちゃいけないでしょう?
  そういう事だから仕方ないの!!」

 「困っているなら探しに行けばいいのに……」

 それはそれで面倒だからね。
 お手軽に済ませたいというコンビニ感覚でこの店を利用しているんですよ。



 「すみません……ちょうど今その種類の女神は切らしてまして……」

 「あ、そうなんですか。っていうか女神にもいろいろな種類があるのですか」

 「ありますよ。たくさん。人の煩悩の数だけ女神が居ます」

 「なんかイヤな女神ですねそれ」

 「例えばですね、この女神なんて素敵ですよ。『耳掻き上手な女神』です!!」

 「へぇー。死ぬほどしょぼい」

 「だって女神が膝枕してくれて耳掻きしてくれるんですよ?
  一人暮らしの男性の夢です! 夢が詰まっているんです!!」

 「何かのプレイなのかそれは」

 「じゃあですね、これなんてどうですか? 『ヨットの舵取りが上手い女神』」

 「意味が分かりやすすぎて逆に分からん」

 「ヨットの舵取りがすごく上手いんです」

 「でしょうね。きっとそうだと思っていた。
  っていうかいらないじゃん。そんな女神」

 「なにを言っているんですか! 万年弱小ヨットチームにとってはまさに救世主ですよ!!
  大海原の上の女神ですよ!!」

 「なんだか良く分からないですよそれ……」

 「ただこれらの女神にはちょっとした欠点がありまして……」

 「欠点? なんですかそれは?」

 「食費が、すごくかかるんです」

 「…………でしょうねえ」

 女神という存在が、なんだか良く分からなくなりました。




 11月7日 火曜日 「必然の再会」

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 「ああ……完全に手詰まりですよ。チェックメイトですよ。
  私たちに女神さんとリーファちゃんの影の居場所を知る方法なんて、もう残されていないんですよ」

 「千夏……。そう絶望するなよ。まだ何か方法が……」

 「だから、さ。もう全部諦めちゃって、家に帰りましょうか? どうせ私たちに宇宙崩壊の危機を防ぐ力なんて無いんだからさ。
  だから、帰ろう?」

 「絶望していたというよりはさっさと帰宅したかっただけなのか。
  そういう諦めだったのか」

 「ダメ?」

 「ダメですね」

 そうですか。ウサギさんは、私にまだ戦えというのですか。
 でもですねえ、もうそろそろ疲れてきたんですよ。
 コンビニのご飯だけで命を繋ぐ生活も、もううんざりなんですよ……。
 ああ、日の光を浴びたいなぁ。

 「そもそも俺たち、このお城から出られないじゃないか」

 「そうなんですよねえ。いまだに、このお城の出口への道のりが分からずじまいなんですよねえ。
  あはは、もしかしたらここで一生を過ごしてしまうかもしれませんね♪」

 「……」

 …………冗談じゃないですよね。ホント。




 「おっす千夏さん。お久しぶり」

 「…………ああああああ!!!!???? あ、あなたは……冥王星探索団の妹さん!?」

 「そうです。貯金残高4200円の妹さんです」

 そんな悲しい資産報告されても困るんですが。

 「ど、どうしたんですか!? 久しぶりじゃないですか!!
  いやその前に……生きていたんですか!?」

 「ええ。千夏さんとはぐれてからも、なんとか生き延びておりました」

 「そうですかあ。いやあ、心配しましたよ。もしかしたら行き倒れてしまったんじゃないかと思ってて。
  でも元気そうで何より……」

 「ええ。ゴミを漁りながらも、なんとか命を取り繋いでおりました」

 「そ、そうですか……。なんか大変だったんですね」

 さっきコンビニの食事が嫌だとか言っていた私たちへのあてつけみたいですねえ……。
 なんかごめんなさい。


 「で、でも本当に良かったあ。ホント、良くぞ生きてくれていたなって感じですよ妹さん。
  これでお兄さんにもきちんと報告できます。まさにこの再会は奇跡ですね」

 「いいえ。奇跡ではありません。これは、必然の再会なのです」

 「え? どういう事ですか妹さん?」

 「千夏さんが私を求める声が、私の心に届いたのです。だから、ここまで来ることが出来たのです」

 「私が妹さんを求める声……?」

 「そうです。
  …………千夏さん、誰か、お探しなんでしょう?」

 「ま、まさか妹さん……女神さんとリーファちゃんの影の居場所を探してくれるというのですか!?
  妹さんに備わっていると言われている霊能力によって!!??」

 「千夏さん……。私、今までの生き方にずっと疑問を覚えておりました。
  グダグダと意味の無い生活を繰り返し、何も生み出さない。ただ、呼吸と食事と排泄を繰り返すだけの単純な生命……。
  私は、自分の事をどうでもいいような命だと……単細胞生物と、何も変わらぬ生き方をしているのだと思っていました」

 「妹さん……」

 「でも私、気付いたんです。それが嫌ならば、そういう生き方が嫌なのであれば、自分から行動すべきだと!
  その生き方を自分から変えてやるべきなのだと!! だから私は……千夏さんの役に立ちたい!!」

 「あ、そういう長い話は別にいいんで」

 「もうちょっとあったのに。もうちょっと、感動的なセリフを言おうと思っていたのに」

 あのですね、私たちにはあまり時間が……。

 「じゃあさっそくお願いしていいですか!? 女神さんと、リーファちゃんの影を……」

 「…………バタン」

 「って妹さん!? 何故にお倒れになられるのですか!?」

 捜索を頼もうとした矢先、妹さんが倒れてしまいました。
 ちょっと。急に死なないでよ。そして死ぬのであればもうちょっと役に立ってから死んでよ。





 「…………その、お腹が…………空いて」

 「……………………コンビニのおにぎり、食べる?」

 食品添加物たっぷりなおにぎりですが、命を繋ぐには十分ですよ。



 11月8日 水曜日 「高級なおにぎり」

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 「もーぐもーぐもーぐ」

 「……どうですか妹さん。コンビニのおにぎりの味は」

 「機械が握ったかのような味がします」

 「実際機械が握ってますからね。っていうかそんな事まで分かる味覚持っているんですか?
  絶対嘘だろお前」

 「いいえ。私には分かるんです。このおにぎりには、愛が詰まっていない」

 「へぇ……。そういうものですか」

 「まあ愛は詰まっていないですけど美味しいです」

 じゃあ別にいいじゃねえか。



 私たちは冥王星探索団の妹さんにご飯を食べさせ、どうにかその霊能力で女神さんとリーファちゃんの影を探してもらおうとしています。
 だからさっさと食って体力を回復させて欲しいのですが……なんか食が遅いんだよね。この人。

 「もーぐもーぐもーぐ……ごっくん。ごちそうさまでした」

 「よし! じゃあさっそく女神さんたちの捜索をお願いしますよ妹さん!!
  その自慢の霊能力で、どーんと見つけちゃってくださいな!!」

 「……何を言っているのですか千夏さん? たかがこのおにぎり一個で、私が霊能力を使えるぐらいに体力が回復したとでも?」

 「え……? おにぎり一個じゃダメなの?」

 「当たり前ですよ! どれだけ燃費がいいんですか私の霊能力は!!」

 「いや、標準的な霊能力の燃費なんて知らないし……」

 「だから、もっと何か食べ物ください」

 まだ食い足りないだけならそう言いなさいよ。
 まどろっこしいな。

 「じゃあはい。これでもどうぞ」

 「…………これはなんですか?」

 「なんですかってさっき食べたじゃないですか。コンビニのおにぎり、二個目です」

 「えー!? またコンビニおにぎりー!? 信じられなーい!!」

 「いいじゃないですか別に!! それにですね、エネルギーと言えば炭水化物でしょう!?
  なんの問題もないじゃん!!}

 「こちとら霊能力を扱っているんですよ!? 心霊的なものなんだから、炭水化物なんてエネルギーになりません!!
  心の充足がエネルギーとなるのです!!}

 「心の充足……? つまり、あなたを満足させろと?」

 「そういう事です。美味しくて高級なモノを食べると、心の満足度がよりアップしますんでよろしく」

 「ふざけんなー!! なにさまだこのニート!!」

 「に、ニートじゃない! ただの家事手伝いです!!」

 「それだ! それが体の良いニートだという事に何故気付かんか!!
  とにかくあなたはおにぎりだけ食ってりゃいいんですよ!! ほら、ツナマヨ食いな!!」

 「そんな! よりにもよっておにぎりの中でも一番値段の低いツナマヨを勧めるだなんて!!」

 うっさい。あなたにはツナマヨがお似合いですよ。


 「まあまあ千夏……。彼女の協力を得ないと女神たちを探す事なんて出来ないんだからさ、ここはちょっと我慢しようよ」

 「ウサギさん……。でもですね、この女はすぐに付け上がる最低ニートなんですよ?
  優しくしようとしても体が拒否するような人間性を秘めているんですよ?」

 「すっごい嫌いっぷりだな」

 「くっ……でもここは確かに我慢しなければならないかもしれませんね。ちくしょうめ。
  まさか彼女にこの取って置きの食事を食べさせてやる事になろうとは。
  あとで、私がじっくり食べるつもりだったのに……:

 「そんなの隠し持っていたのか千夏」

 「はい妹さん……これを食べて、その心のエネルギーとやらを溜めてくださいな。
  あなたにはみんな期待しているんですからね?」

 「千夏さん……ありがとう」

 そう言って、妹さんは私の差し出した食べ物を受け取ってくれました。



 「…………ってこれもおにぎりじゃん!!」

 「ただのおにぎりじゃありませんよ。イクラ入りのおにぎりです。
  おにぎりの中の高級品です」

 「でもおにぎりじゃん! いらねえ! こんなのいらねえ!!
  こんな質素な高級品いらねえ!!」

 「ちょ、ちょっと何言ってくれてんですか妹さん!! イクラをバカにする奴を私はゆるさねえ!! こればっかりは絶対ゆるさねえ!!」

 この後、大喧嘩になりました。





 11月9日 木曜日 「食材を求めて」

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 「ごはーんごはーん。なにかおいしいごはーん。すごくたべたーい」

 「このっ……」

 「まあまあ千夏。落ち着いて落ち着いて」

 「ウサギさんよく平気でいられますね。あの小鳥のように口をパクパクさせてご飯を求める妹さん…………死ぬほどムカつくじゃん」

 「死ぬほどって……さすがにそこまでじゃないでしょ」

 「だってさ、ご飯をねだってやがるんですよ? 大の大人が。かー情けないね。
  見ているだけで腹立ってくるよ」

 「まあまあ。あいつに良い物食わせてやらなきゃ、女神さんたち見つからないんだからしょうがないじゃないか」

 「そういう甘えがよくないんですよ。その甘えが、彼女をダメ人間に成長させたんですよ。
  それに良い物だと言われてもですね、ここって黒い星の民のお城の中ですよ? 大したものあるわけないんだから。
  どうやったってコンビニレベル以外の食事を揃える事なんて無理ですよ」

 「まあそれもそうなんだが……」

 「はぁ……。どうしましょうかねえ。こうなったら拷問してでも彼女に女神さんたちを探させて……」

 「いきなりそこまで話を飛躍させるのはまずいと思う。
  …………そうだ。俺たちが食事作って、それを食わせてやればいいんじゃないか? コンビニにもさ、ある程度食材はあるわけだし」

 「えー。私たちが食事作るのー? すごくめんどくさーい。いいじゃん、カップヌードルで。
  カップヌードルを新作のイタリア料理だとか言えばさ、きっと美味しく食べるよ。あの女」

 「さすがにカップヌードルは見分けがつくと思う。あまりにもポピュラーすぎる食事だから」

 「そうですかー? じゃあ……酢昆布を3大珍味だと言えばきっと騙されますよ。
  えーっと、トリュフ。あれだって言えばきっと騙される」

 「本当に食事作ってやりたくないんだな……。ウチには雪女の奴が居るじゃないか。
  彼女にまかせりゃいいだろう。俺たちは食材を集めるだけで」

 「そりゃあそうかもしれませんけど……」

 「なんか不満?」

 「うーん…………仕方ないか。分かりました。その作戦で行きましょう。
  私たちが食材を集めて、そして雪女さんに調理させる。
  そしてそのコンビニじゃないきちんとした料理を妹さんに食べさせる。
  …………もし何か料理に文句言ったら今度こそゲームのコントローラーで波動拳のコマンドを入れれない体にしてやる」

 「何をする気なんだ千夏……」

 「よし! じゃあさっそく食材を求めて出発です!!
  やっぱりここの中で食材を見つける事が出来る所なんて、コンビニしかないんでしょうかね?
  そういうのはやっぱりどこか美味しそうには感じられないんですけど……」

 「あ。そういえば大妖怪の奴に聞いたんだけど……」

 ウサギさん。一応、あの人敵なんだからそんな仲良くしないでくださいよ。
 まあ情報源になるから少しはマシなのかな……?

 「この先に、市場 の部屋があるんだってさ」

 「へー……市場の部屋。それはもしかして部屋の中にぎっしりと市場のおっさんたちが詰め込まれていて……」

 「まさしくそうらしい」

 …………なんとなく蒸し暑そうなのは気のせいですか?
 おっさんたちの怒号が飛び交って居そうなのは気のせいですか?



 11月10日 金曜日 「豪快な市場へ」

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 「へいらっしゃお譲ちゃん!! 新鮮な魚あるんだけどさ、買っていかないかい!?」

 「え、えーと、ちょっと見て回って決めますんで……」

 「そうかい! そりゃあ残念だな! あははははは!!!!」

 なんと豪快なおじさんなのでしょうか。まず笑い方が豪快です。そして売り方も豪快そのものです。
 豪快という文字を辞書で引いたら挿絵に出てきそうなぐらいな方でした。
 そして、そんな方々がこの部屋にはいっぱい居ます。

 「いやぁ……すごいですねウサギさん。これは本当に……市場の部屋ですね」

 「ああ、そうだな。っていうかなんで黒い星の民はこんな部屋を自分の城に作ったんだろう……?」

 「多分新鮮な食材がいつも手に入るようにとかじゃないですか?」

 「意外とグルメだな。黒い星の民」

 食は全ての人の心を癒しますからねえ……。
 って、そんな事はどうでもいいのです。今私たちにとって大事なのは、
 この部屋で冥王星探索団の妹さんが満足する食材を手に入れなければならないという事なのです。

 「妹さんっていったい何が好きなのかなぁ……?」

 「そうだなぁ。千夏ってさ、あの子と結構長い間行動を共にしていたんだろ?
  何か好物とか知らないのか?」

 「知らないですねえ。そんなに親しくなる気は無かったですし」

 「辛らつな言い方だな……」

 「だってどう考えてもまともな人間じゃなかったですからねえ……。
  うーん、あの人の言い方だと、高級品なら心の充足度がアップするらしいですよ。
  つまり結局庶民舌なんですよ。お金に騙されるって事は」

 「庶民舌ねえ……。じゃあ高そうな物買っていけばいいのかな? 伊勢海老とかアワビとか」

 「伊勢海老にアワビ!? よりにもよって妹さんにそんな物を食べさせるんですか!?」

 「仕方ないんじゃないか? こんな状況だしさ、彼女の協力を取り付けなければならないんだから」

 「ぐぬぬぬぬ……嫌だなぁ。本当に、嫌だなぁ」

 「まあさ、ここ市場なんだし、もしかしたら相場より安く買えるかもしれないじゃん。
  そこを期待しようよ」

 「そうですねえ……はあ。何が悲しくて他人のために大金を使わなくちゃいけないんですか……」

 なんかブルーになりますねえ。私でさえアワビ食べた事無いのに。




 「おじさんおじさん。良くて安くて大きいアワビとか無い?」

 「おっ、お嬢さん、アワビをお探しかい?」

 「ええ、お探しなんです。出来るだけ安くて、大きい奴がいいです。
  どうせ味なんて分からないだろうから、ちょっと悪い奴でもいいですよ」

 「うーん、じゃあこいつとかどうだい? 安くて大きいよ」

 「おーっ、確かに大きい。お値段はいかほどなんです?」

 「3万冥王星ドルです」

 「さ、3万冥王星ドル? ……それって例えるならどれぐらいのお金なんですか?」

 「えーっと、腎臓一個分?」

 「高っ!? それって高いんじゃないんですか!?」

 「そう?」

 「だって腎臓一個ですよ!?」

 「でも肝臓だと三分の一個で済むよ?」

 「知らないよそういう相場は!!」

 「持ち合わせないなら物々交換でオッケーだ」

 「この場で肝臓払えってか!?」

 支払いさえもなんて豪快な市場なのでしょうか。
 あとですね、私わりと忘れられがちですけどロボットなので、肝臓とかそういうのは関係ないと思うんですよ。



 11月11日 土曜日 「食材を求めて」

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 「はあ……ダメですねえ。まったく手頃な値段の新鮮食材がありません。
  このままだと冥王星探索団の妹さをに美味しい物を食べさせてやれないよ……」

 彼女の心を満足させるという割とどうでも良いことのために歩き回っているのかと思うと、少しばかりめまいがしますね。
 あーあ。なんだかやる気が無くなっちゃった。


 「千夏、大丈夫か?」

 「ああ、ウサギさん……。ねえ、これからどうしようか?
  なんだかここの食材、妙に高いしさあ。私、何度も臓器を要求されてしまいましたよ」

 「嫌な物々交換が主流になっている場所だな。ここ」

 「物は良いのかもしれないですけどさぁ……。これじゃあ食材を手に入れる事自体が無理ですよ」

 「そうだなあ。なんとかしないといけないんだが……」

 「…………そうだ! 良い事思いついた!!」

 「ん? なに? どうんな良い事?」

 「雪女さんの臓器で買う」

 「それはさすがに却下だろ」

 「じゃあ妹さんに文字通り体で払わせる。彼女のために食材探しているんだから、 これくらいの協力はしてもらわないと困ると思うんですよ」

 「絶対に協力してくれないだろそれは。どこの世界に食事のために自分の内臓を売り渡す人間が居るんだ」

 「そうなると……大妖怪さんしかいないか」

 「だから、絶対に無理だって」

 敵なわけだし気遣い無用だと思ったんですけどねえ。
 まあ確かに妖怪の内臓なんて誰もいらないとは思うのですけど。




 「……こうなったら最後の手段ですね。私たち自身で、食材を取りに行きましょう」

 「食材を取りにいくって言っても、ここは城の中だぞ? 食材なんて取りに行けるわけが……」

 「でもここの市場のおじさんたちはちゃんと食材を手に入れているじゃないですか。
  きっと、このお城の中に食材を取れる場所があるんです。じゃなければ、こんなに新鮮な食材が市場にならんでいる事はありません!!」

 「この城の中でか……。確かにそれはありえない話じゃないな。
  海がある部屋があるんだから、その気になれば食材くらい調達できそうだ」

 「そういうわけなので、私たち自らの手で食材を探しましょう! そうすればタダです!! 無料です!!
  無料より尊いモノは無いのです!!」

 「そ、そこまで熱を入れなくても」

 タダに対する私の熱意を侮ってはいけませんよウサギさん。



 「でさ、具体的にどこで食材を手に入れるんだよ。そんな場所の心当たりでもあるのか?」

 「もちろんそれは……」

 「もちろん?」

 「あのおじさんたちの後をつけるに決まっているじゃないですか。
  彼らの帰る場所には、必ず食材があるはずです!」

 「なんだかまるで食材を横取りするみたいな……」

 「……」

 「そうなのか千夏!? もしかして盗む気満々なのか!?」

 そこはノーコメントの方向で。








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