11月12日 日曜日 「新鮮食材はどこに」

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 「いいですかウサギさん? 今から作戦を確認しますよ?」

 「作戦って何やるつもりなんだよ千夏」

 「もちろんあの市場のおじさんたちから、食材をゲットするんですよ。
  主に腕力を使って」

 「それって思いっきり強盗じゃないか。なんて物にやる気になっているんだ」

 「だってそうしないと妹さんに料理作ってあげられないじゃないですか」

 「食事のために強盗を働くってどれだけかねに困っているんだ俺たちは」

 「ちょっと良い話になるかもね」

 「ならない」

 そんなつれない言い方しないでくださいよ。

 私たちは次々と引き上げていく市場のおじさんたちの後を追っていました。
 その理由はもちろん、彼らがどこかで仕入れている新鮮食材の数々を手に入れるためです。
 そいつで料理を作ってやれば、いくら文句ばかりぶーたれている冥王星探索団の妹さんでも満足する事が出来ると思うのですよ。
 というか、もしあの食材で作った料理にも文句言いやがったら、本気で殴ってやる。




 「分かりました。強奪はやめましょう。ウサギさんがそこまで言うのであれば」

 「ここまで言わなきゃ分かってくれなかったか千夏」

 「その代わり、彼らがどうやって新鮮食材の数々を手に入れているかを確かめてから、
  それを横取りします」

 「またぶん取るつもりなのかよ千夏!!」

 「地球の資源は、みんなで分けあわなきゃいけないんだ!!」

 「冥王星じゃん。ここ、冥王星じゃないか」

 そう言えばそうだった。



 「ふっふっふ……さーて。さっさと新鮮食材を取っちゃってくださいよおじさんたち。
  私たちに、その仕入れ場所を教えるのです」

 「しかし本当にどこで食材を仕入れているんだろうな? やっぱり城の外から貰っているとかじゃないのか?」

 「うーん。まあそういう気もしますけどね。
  でものこの城の中で全てが済むように作られているみたいですからねえ……。
  食材補給ぐらいやってくれそうなもんなんですけど」

 「まあありなえいとはいえないが、それじゃあ…………あっ!
  見ろ千夏!! あのおやじ、なんだか挙動が不審だぞ!!」

 「本当ですねウサギさん!! あの怪しい動き……きっと近くに新鮮食材があるんですよ!!
  今からそれを獲ろうとしているんだ!!」

 「いや、近くに新鮮食材って言ったって、ここは廊下だぞ? どこに食材なんて……」

 「ああっ! ほら見てウサギさん!!」

 周囲を警戒するようにキョロキョロしたおじさんは、人目を忍ぶように近くの自動販売機に…………自動、販売機?

 「…………」

 「……どうやら、ただジュースを買いたかっただけみたいだな」

 「なんて肩透かしですかこれは。あーあ。期待して損した」

 『ガゴンッ』

 「アワビ獲ったどー!!!」

 「ええええ!!?? もしかしてその販売機で売ってるの!?」

 まさかここまで時代が進んでいるとは思ってもみませんでした。
 時代さん。もうちょっとスピード落としてもらえると助かります。



 11月13日 月曜日 「新鮮な料理」

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 「妹さん!! お待たせしましたね!! 美味しい食材たちを持ってきましたよ!!」

 「お腹すいたーお腹すいたーお腹すいたー」

 「ええいクソめ!! やっぱムカつく! 久しぶりに見たら、やっぱり妹さんムカつく!!」

 「ち、千夏。まあ落ち着け」

 「ぐぬぬぬぬ……」

 私たちは市場のおじさんたちが食材を仕入れている自動販売機を見つけまして、
 そしてそれを壊して……げふんげふんっ!!
 とにかく、自動販売機から食材を手に入れまして、こうやって冥王星探索団の妹さんのご機嫌を取ろうとしているのでした。
 うーん。やっぱり腹立つ。なんで妹さんのためにこんな事をしなくてはいけないのか。

 「よし! じゃあさっそく美味しい料理を食べさせてあげますからね妹さん!!
  楽しみにして待ってな!!」

 「はやくーはやくーはやくー」

 やっぱうぜえ。




 「どーん!! どうですか妹さん! これが私の料理です!!」

 「え……? えーと、確か雪女って人が作ってくれるんじゃなかったの? 千夏さんが作るの?」

 「まあなんというか雪女さんの料理は時間がかかるもんでしてね。
  さっさとこの件を解決してやりたい私にしてみれば、ノロノロしててたまらないのです。
  だから、私がお手軽料理を作って食べさせてやろうかと」

 「まあ美味しければ文句は無いけれど…………というか、これ、なんです?」

 「マツタケです」

 「わーい♪ マツタケー♪ やっぱりマツタケだよね。秋だし」

 「秋というかもはや冬ですけどね。まあどうでもいいです。さっさとお食べください」

 「……でもこれ、生ですよね? 七輪であぶったりしないんですか?」

 「新鮮な食材はね、生で食べた方が美味しいの。そういう物なの」

 「はぁ、そうですか。じゃあいただきまーす。
  もぐもぐもぐ…………」

 「どうですか妹さん?」

 「うーん。まあなんていうか、これがマツタケかぁ……」

 さほど美味しくは無かったらしいですけど、マツタケという事もあって文句を言えずにいますね。
 やはり貧乏人舌です。

 「じゃあこれもどうぞ。お食べくださいな」

 「……これは?」

 「生肉です。松坂牛なんですよ」

 「生肉!? まさかこれを料理と言い張るのですか!?」

 「肉が高級だから生でも口の中で溶けるんですよ。すっごくグルメな楽しみ方ですね。
  うらやましい」

 「ほ、本当に……? じゃあいただきます。もぐもぐもぐ…………う〜ん、やっぱり焼いた方が」

 「では最後のお料理です。
  たーんとお食いなされ」

 「毎度毎度失礼ですが、これはいったい?」

 「生フカヒレ…………よりもっと生の、サメの活け造りです」

 「活け造りっていうか、ただサメを丸ごと出しているだけだよこれは!?」

 「活きがすごくいいのです。どうぞお食べください」

 「食べられないこんなの!!」

 「食べられないのなら、むしろ逆に妹さんをこのサメに食べさせます」

 「うっ……なんて脅迫」

 だってもう、料理するのも妹さんの機嫌とるのも疲れたんだもん。


 11月14日 火曜日 「謎の物体T」

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 「さて……それじゃあ約束どおり、探してあげようかなぁ……」

 「おおっ! ようやくやる気になったんですか妹さん!! やはりああは言っていてもあなたの中にも正義の心があったんですね!?」

 「正義の心というよりは、このままだと命が危ないと判断した自己防衛本能のおかげです」

 まあその動機の種類なんてどうでもいいですよ。
 大切なのは、妹さんが女神さんとリーファちゃんの影の場所を探し出してくれるという事なのです。

 「私の兄から私の霊能力についての説明は受けましたか?」

 「えーと、どういう理論か分からないですけど妹さんが冥王星衛星軌道上に存在している衛星とリンクして、
  それで探すとかなんとか聞いた覚えがあります」

 「そう! 私はこの世界にあるありとあらゆる『眼』とリンクする事が出来るのです。
  すごいでしょう?」

 「眼って基本的には?」

 「もちろん物を見る奴ですよ。外の世界の造形を、光の反射で捕らえるモノとリンクできます。
  だから私にとってはビデオカメラも人の目もどちらも同じなのです。
  ただ、同じセンサーの類でも超音波などの音の反射を使った物や、サーモグラフのような熱……正確に言えば赤外線を使ったモノとはリンクできません。
  これは私がそれらを『眼』とみなしていないため、能力に制限がかかってしまっているのだと思います」

 「まあとにかく、他の人の目を盗み見る事ができるという事なのですね?
  それで女神さんとリーファちゃんを見つけると」

 「そういう事です。私の能力の特性上、絶対に見つける事が出来るはずです。
  なぜならば、彼女たちの目とリンクすれば、すぐに居場所が分かるのですから」

 「まあ確かになんだかすごそうですね……。よし! じゃあ期待してますよ妹さん!!
  その霊能力を使って、二人を探し出してくださいな!!」

 「おまかせあれ!! うむむむむ……」

 妹さんは目を閉じ自分の両手を合わせ、何かに拝むような姿勢をとりました。
 ほほう。これが霊能力使用のフォームなのですか。
 いい大人が何やってるんだというツッコミしか湧いてこないのですが、今はそっとして置きましょう。
 機嫌崩してもらったら困るし。




 「はっぁああ! み、見えます……見えますぞ!!」

 「ぞ? ぞ? なにその語尾」

 「これは……白くてプルプルしているモノが見える……」

 「白くてプルプルしたモノ? それが女神さんの眼に映っているのですか!?」

 これがヒントになるのでしょうか?
 白くてプルプルしたもの……? なんだそれ。

 「そ、そうか! これは……これはあれなんだ!! 人を死にいざなう、究極の兵器!!」

 「究極の兵器!? 白くてプルプルしたものが? そんなもので人が死ぬのですか」

 私は妹さんの見ている映像を見れないので、なんの事を言っているのかまったく分かりませんね……。
 図で紹介して欲しいものです。


 「でもなんで女神さんがそんな物を見ているんだろ……?
  はっ! もしかして、それって黒い星の民が作っているという兵器なのでは!?
  女神さん、もしかして黒い星の民の近くにいるんじゃないんですか!!??」

 「ああ……その白い物に、文字が刻まれている……。
  これは……この文字は……」

 「文字!? な、何かのヒントになるかもしれません!! いったいなんて書かれているのですか!?」

 これはもしかしたらかなりまずい状況になっているのかもしれません。
 はやく女神さんを助けてあげないと。



 「この文字は…………『男前』、と読める……」

 「それ豆腐じゃねーか!!!!」

 なんだよ人を死にいざなう究極の兵器って。
 豆腐の角に頭ぶつけて死ねる人間なんていませんってば。



 11月15日 水曜日 「頼りにしてるぜ探索団」

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 「はぁ……どうしましょうかウサギさん」

 「どうしようって言われてもなぁ。とにかく女神さんたちを探しに行くしかないんじゃないか?」

 「そう言ったってですねえ、冥王星探索団の妹さんの霊能力で分かったのは、
  昨日の女神さんの食事が豆腐だったって事ぐらいですよ? 健康に良さそうだねぐらいしか言えないですよ」

 「別にその言葉も言う必要は無いがな」

 「もう……ヒントにもなりゃしないですよ。いったいこの女神さんの食事事情から何を得れば良いというのですか。
  これじゃあ見つけられないよ」

 「このお城にある豆腐の流通ルートからあの豆腐の販売店をピックアップして、
  リーファの影でも来なかったかと聞き込みして回れば?」

 「そんな刑事みたいな事できませんよぉ……」

 「そうだよなあ。そんな事素人の俺たちに出来るわけ無いもんなあ。
  それにちんたらやってると黒い星の民の兵器が完成するだろうし」

 「うううう……。本当にどうすれば……」

 ここで手詰まりなのでしょうか。
 あーあ。なんともやるせない。どうしてくれるんだこの虚無感。



 「もーぐもーぐもーぐ。どうしたんですか千夏さん。そんなに黄昏ちゃって」

 「くっ……また何か食べてるんですか妹さん。今機嫌悪いんで近付かないでくださいよ。
  うっかり四の字固めやっちゃいそうだから」

 「うっかりやる技じゃなさそうだけどそれ……。
  そういえばさ、まだ女神とかいう人を探しに行かないの? もしかして飽きたとか?」

 「確かに飽きましたけど、飽きたくて飽きたわけじゃないですよ!!
  あなたの霊能力が大して役に立たなかったからこういう風に黄昏ているんでしょうが!!」

 「飽きていたのか千夏」

 ちょっと口が滑っただけですよウサギさん。


 「えー? あれだけ手がかりあげたのにまだ見つけられないのー?
  ダメだねー、あなたたち。探偵には向いていないよ」

 「くっ……言いたい事言わせておけば!! じゃああなたには女神さんたちを見つける事が出来るっていうんですか!?」

 「私は無理だけど、お兄ちゃんなら出来るよ」

 「え!? そうなんですか!?」

 「うん。だってあの人探すの専門の探偵だし」

 「そう言えばそうでしたね……。すっかり忘れていました」

 「私から頼んであげるよ。女神っていう人探してって」

 「本当ですか!? それは助かります!!」

 やりましたね! これできっと女神さんたちも見つかり…………



 「ってそう言えば前に私が家族を探してくれって頼んだ時、全然見つけてくれなかったじゃないか!!!!
  全然頼りにならねえ!!」

 「そ、それは……きっとご家族が、このお城の中に居たから探しようが無かったんだと思うんだよ……」

 「女神さんたちはこのお城の中に居る事確定なんですけど!?」

 見つけてくれるとはまったく思えないのですが?
 なんで私たちはそういう人たちを頼らなければならないのだろうか。


 11月16日 木曜日 「失くした手紙」

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 「どうもー♪ 毎度お世話になっています冥王星探索団でーす!!」

 「……」

 「あれ? どうしたんですか千夏さん? なんだか元気ないみたいですけど」

 「……えっと、冥王星探索団のお兄さん」

 「はい。なんですか? 何か御用で?」

 「……なんでここに居るの?」

 「妹に呼ばれたから。なんでも千夏さんたちが探して欲しい人が居るってね。
  そう言われちゃったらさ、協力しないといけないでしょう?
  こうさ、プロ意識が騒ぐんだよね。この不可思議な城の中での捜索……腕がなるぜ!!」

 「いや、そういう事聞いているんじゃなくて。どうやって、この城の中にこれたのかって聞いているんですけど?」

 「そりゃあ玄関から入ってきたのさ。そしてここまで歩いてきた」

 「じゃあもしかして外に出る道筋とか覚えてたりします?」

 「いいや。全然」

 「こんちくしょうめ!!!!」

 まだ私たちはこの城から出ることが出来ないのですか。
 いや、まだリーファちゃんと加奈ちゃんと、もしかしたらお母さんも影のままだから撤退するわけにはいかないのですが……。
 でも、ちゃんとした朝日という物を久しぶりに浴びたかったのに。

 「さあ千夏さん! 何か仕事の依頼があるのでしょう!? 早く言ってくださいよ!!
  私、ここ数年で一番燃えているんですからね!!」

 「へぇ、ここ数年で一番ですか。なんで?」

 「だってまさかあの城の中にこれだけの広大な土地があるとは思わないじゃないですか!!
  隅々まで探索してみたいと思うのは探偵の本能のようなものですよ!!」

 「探偵は別にそんな変な性癖なんて持っていないだろ」

 まあいいか。協力してくれるっていうんだから使わない手はないですね。

 「えーとですねお兄さん。私たちの仲間に女神さんという方がいるのですが、
  その人が誘拐されてしまったのですよ」

 「なんと! 誘拐ですって!? 大事件じゃないですか!!」

 「そう。大事件なの。だから探して欲しいんだけど……出来るかな?
  ちなみにあなたが溺愛している妹さんの霊能力で分かった事は、女神さんの食事に男前豆腐が出てたって事だけですよ。
  その程度の事だけですよ」

 「それだけ分かれば十分です」

 そうなのか。すげえな探偵って。

 「じゃあ一応期待して待っていますよ」

 「あっ、そういえば少し気にかかったんですけど、いいですかね?」

 「ん? なんですか?」

 「その女神さんという方……誘拐されたんですよね?」

 「ええ、そうですけど?」

 「じゃあ何か要求みたいな物は来ていないのですか? 身代金などの金銭であったり」

 「電話がありませんからねえ。今私たちがねぐらにしている所は」

 「じゃあ手紙などは?」

 「手紙? 別にそういうのも見ていな……」

 「いな?」

 「……」

 「……思い当たる節があるんですね千夏さん?」

 「いや、でもあれは、まさか……」

 確かに少し前、私たちが寝泊りしている部屋のドアに何か紙切れが挟まっているような気がしましたけど……あれってもしかして。

 「とりあえず、その手紙を探すところからはじめましょうか?」

 ま、まさかこの状況で掃除を始めることになるなんて……。



 11月17日 金曜日 「リーファちゃんからの要求」

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 「あったー!! ありましたよ!! おそらくリーファちゃんの影からであろう手紙!!」

 「おおっ! やっとですか千夏さん!! もう待ちくたびれましたよ!!」

 「冥王星探索団のお兄さんの方……。あなた、探すの得意なんだから手伝ってくれても良かったじゃないですか。
  なに人事のようにこの部屋でくつろいでいたんだ」

 「いや、だってほら、ゴミとか漁るの嫌じゃないですか」

 「それをやっていた私たちに面と向かって言ってくれるとは。
  なんとも言えない怒りが湧き上がってきましたよ」

 「それにこの部屋、私の勘がまったく利かないほどごちゃごちゃ物に溢れているし」

 生活の名残だと思ってくださいよ。他人の家だと思って、片付けとかする気がおきなかったんです。



 「よし! とにかくこの手紙を読めば、女神さんを助け出す事が出来るかもしれないんですよね!?」

 「ええ、おそらく。ただ大抵の誘拐の場合は金銭との交換という形をとっている事が多いのですが……大丈夫ですか?」

 「全然大丈夫じゃないですねえ……。お金なんてまったく持ってないですし。
  1万円とか要求されたらどうしよう……」

 「たった1万円でも払うの惜しいんですか。これはちょっと円満に解決を迎えるのは難しそうですねえ」

 「誘拐の身代金の相場っていくらぐらいなんですかね?」

 「大抵は100万超えは当たり前って感じだけど……」

 「よし。どうにか力づくで取り返しましょう」

 「手紙を読む前から交渉放棄か」

 だって、そんな予算は……。




 「まあ気を取り直してリーファちゃんの手紙を読んでみましょう。もしかしたら3千円くらいで女神さんを帰してくれるかもしれないし」

 「3千円くらいなら払ってもいいんだ? CDアルバムか何かか」

 「えーっとなになに……?
  『女神を返して欲しくば、ジャングル部屋まで千夏ひとりで来る事。以上』…………ですって!?」

 「良かったじゃん。お金払わなくて済みそうで」

 「その代わり私の命を支払いそうですよ!! どう見たって罠じゃないかこれは!!」

 「しかしなんでジャングル部屋なんてごちゃごちゃした所に……?
  木やなんかがいっぱいありそうで邪魔だろうに」

 「きっとその障害物に隠れて私を待ち伏せしようとしているんですよ!!
  リーファちゃんって一応暗殺者だったから!! ちくしょうめ! 本気でヤルつもりだなあの女っ!!」

 「そうですか……まあ仕方ないですね。千夏さん、さっそく今からジャングル部屋とやらに向かいましょうか?」

 「ええ!? 嫌だよ!! 女神さんの命なんかより自分の命の方が1万倍大切だよ!!
  誰がアイツのために命をかけてやるもんか!!」

 「ここまで自分に正直な人は初めて見た……」

 それが私の生き方ですからね。


 「大丈夫ですよ千夏さん。私だってなんの考えもなしに出向けと言っているのではありません。
  千夏さんがリーファさんの気を引いている間に、私が女神さんを探し出して救出するのです!
  そしたらもう人質の事を気にしないでいいのだから、全員で部屋へ乗り込めばいいのですよ!!」

 「う、うーん……でも私が先に部屋に乗り込むのは変わりないんでしょう?
  ちょっと不安なんですけど」

 「大丈夫大丈夫。私の事を信じてくださいよ」

 だからちょっと怖いのですが……まあ仕方ないか。
 なんだかんだ言ったって女神さんは助け出さなくちゃいけないんだから。


 「……分かりました。行きましょう!」

 「よし! では出発です!!」

 こうして私たちは、リーファちゃんの要求に応じるために、ジャングル部屋を目指したのでした。

 「…………でさ、ジャングル部屋ってどこにあるの?」

 「…………さあ?」

 そこから探さなきゃいけないのか。


 11月18日 土曜日 「ジャングル部屋での死闘」

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 「ここがリーファちゃんが来いって言ってきたジャングル部屋ですか……。
  相変わらず本当に部屋の中にジャングルがあるんですね。これ、いったいどうやって作ったんだろ」

 なんとかジャングル部屋を探し出した私は、リーファちゃんの要求に従って単身で乗り込みました。
 間違いなく罠なわけですが、要求に従わずに女神さんが殺されてもらっても困るので仕方なくここに居ます。
 あー、早く帰りたい。早くここから逃げ出したい。

 「はぁ……ウサギさんと冥王星探索団のお兄さんたち、リーファちゃんが私に気を取られている隙に女神さんを救出するって言ってましたけど……
  早くして欲しいなぁ。いつまでかかるのかなぁ。
  待っている間に私、やられちゃったりしないよね……?」

 もう考える事全部が不安に塗りつぶされてますよ。
 くそう。たかがリーファちゃんの影にびびるだなんて、すっごく悔しい。



 「ははははっ!! 良く来たな!!」

 「その声は……リーファちゃん!? の、影!?」

 「ノコノコやってくるとは愚か者め!! ここにお前を呼んだのは……始末してやるためさ!!
  ここに女神は居ない!! ただの罠だったのさ!!」

 「いや、それは知っていましたけども。
  というかリーファちゃん!! ……の影!! なんて口の聞き方してるんですか!! 前のお前のカーチャンでべそ発言も含めて!!
  私はあなたのお姉さんですよ!? もうちょっと敬意を払いなさい!!」

 「敬意を払ってもらえるような生き方してると思っているのはお前は」

 あ、なんか今酷く傷つく事言われた。

 「それに私はリーファという少女の影であって本体そのものとはなんの関係もない!!
  能力はもちろん人格も趣味も違う!!
  リーファの奴は生きたまま皮を剥ぐのが好きだったが、私は一瞬で首の骨を折るのが好きだ!!」

 「え、えーっと、それはカワハギの調理法か何かなのかな? そういう料理が好きって事なのかな?」

 というか本体のリーファちゃんの方が残虐に思えるのは気のせいですか?
 いいや、気のせいじゃないね。

 「しかしお前だけは特別にじわじわと殺してやろう……。期待してるんだな……」

 「リ、リーファちゃん!?」

 目の前に居たリーファちゃんの影は、すっと姿を消しました。
 どうやら彼女は自分の姿を見えなくさせる事が出来るらしいです。
 くそう……暗殺者にとっては欲しくて仕方のない能力じゃないですか。


 「ど、どうしよう……ここはやっぱり逃げるべきかな? でも時間を稼がないと女神さんが……。
  ああ! だからといって戦えるわけでもないし……誰かっ、助けて!!」

 「よーし。じゃー助けてあげよう」

 「うえええ!!?? 冥王星探索団の妹さん!? びっくりした!!
  急に後ろから声をかけないでよ!!」

 「私が千夏さんを助けに惨状いたしました」

 「参上の字が違うんですけど?」

 なんだか嫌な未来を想像してしまいましたよ。

 「でもさぁ……ぶっちゃけ妹さん、あまり役には立たないでしょ?」

 「立ちます。すっごい役に立ちます。私の能力を使えば、姿が見えない敵などなんの問題も無いのです。
  言うなれば、ジャンケンのグーに対するパーといったものでしょうか」

 「無敵さをあらわす表現にしてはちょっとほんわかしすぎだと思うんですよね。ジャンケンって。
  っていうか妹さんの能力って……」

 「そう。眼とリンクする力! あの影の目とリンクして彼女の見ている風景を見ることができれば、どこにいるのかなんてすぐに分かります。
  千夏さんを殺そうとしている視点で見れば、簡単に回避する事ができます」

 「おお……確かにそれは役に立ちそうな」

 「あっ! あっちです! 今あの方向から私たちを見てます!!」

 「え!? 本当ですか!? え、えーい!! 投石攻撃!!」

 私は自分の足元に落ちていた小石を、妹さんの指示に従って投げました。
 小石と言ってもバカにしてはいけませんよ? 古代では武器としてちゃんと使われていたんですから。



 「……」

 「……あたったの?」

 「……あれ? 違ったかな?」

 「おい」

 本当に当てにあるんだろうか……?








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