8月15日 日曜日 「夏風邪」

 

 「ゲフン!! ガヒョン!! ブヒャン!!」

 何の音かって?
 私の咳です。

 なんだか夏風邪をひいちゃったみたいで……。
 ……ロボットって風邪ひくものなんですかね?


 「千夏……大丈夫か?」

 ウサギさんが私のベッドに腰掛けて、額に手を当ててくれます。

 「ボヒュン!! リュヒャン!! ザビュン!!」

 「……大丈夫じゃなさそうだな」

 ええ、かなり言語野にダメージがありますよ。


 「なにか精のつくもの買って来るけど、食べたいものとかあるか?」

 「ウビュン!! ブハッフ!!」

 「ミカンか。わかったよ」

 こんな時に電脳って便利ですね。

 

 「……」

 ウサギさんが買い物に行ってしまったあと、
 私は何もすることなく、ボーっと窓の外を見ていました。

 口を開くと訳の分からない咳が出るので、
 独り言をするわけにもいきません。

 ……独り言しまくるのも別に意味でヤバイんですけど。

 

 「ギャボン!!」

 あ、また咳が出ちゃった。


 「呼ばれて飛び出てボボボボ〜ン!!!」


 ……何故か私の部屋に変な女性が。
 だれか、警察に電話を……。

 「私は咳の大魔王です」

 ああ、そうですか。
 ところで携帯電話持ってませんか?
 警察に電話したいんですけど。


 「あなたの余りにも個性的な咳に、
  思わず召喚されてしまったのです」

 ……そんなバカな。


 「せっかく呼び出されたことですし、
  何か私に出来ることはありませんか?」

 「ゴリュヒュッ!!」

 「ああ、とろけるチーズを買って来て欲しいのですね」

 違います。
 この咳をどうにかしてくださいって言ったんです。


 「バミョン!!」

 「いや……そんな恥ずかしいことはさすがに」

 どういう言葉に聞き取ったんですか?

 「バハン!!」

 「せ、セクハラですよそれ!!」


 出てけって
 言ったんですよ。

 

 

 8月16日 月曜日 「27時間企画前夜祭」

 明日は待ちに待った、27時間絵を描き続けるという暴挙企画の日。
 そのため今日は明日の準備をいろいろとしました。

 一日の半分くらいを寝て過ごしてたり。
 ……さすがに寝すぎでしたかね?

 

 さて、私が準備することにしたのは、
 二日間の食料と雑貨です。
 インスタント食品は準備に時間をかけずに済むので大助かりです。


 「えっと、ラーメンばっかりじゃ飽きちゃうから、
  他の物は……」

 私が何か新しいインスタント食品を探していると……。

 「お姉さん!! これ、試食してみない?」

 あ、やばい。
 店員らしいおばさんに目を付けられてしまいましたよ。
 こういうのって断るの大変なんですよね。

 ……と、心の中で思いながらも、
 試食品に手を出してしまう私をお許しください。

 貧乏です。
 貧乏が全て悪いのです。


 「新しい技術を使った次世代のインスタント食品なんだけどね」

 「へぇ〜、見たこと無い料理なんですけど、
  どこの国の物なんですか?」

 「ヘビョウ・プニッシモ国です」

 本当にあるのか。
 そんな国。


 「お湯をかけて三分で、愛が芽生えます」

 間違ってますよね?
 いろんな所が。


 「10分後には子どもが出来ます」

 「早いなオイ!!」

 結局どんな料理なのか全然分からないんですけど。


 「まあ、食べてみれば分かりますよね……」

 私は一口サイズの試食品を口に運びました。

 

 「……」

 「どう? 美味しい?」

 「なんか、砂の味がするんですけど」

 「ああ、それは
  『高校最後の年に、甲子園出場をかけた試合に、負けてしまった青春の味風味』だから」


 なるほどね。
 だから嫌な砂の味が……。


 いりません。
 こんなの絶対いりません。


 ……と、言いながらも押し負けて、
 二袋ほど買ってしまった私に自己嫌悪です。

 

 8月17日 火曜日 「27時間企画中」



今日は一日コレをやってました。

……今日の日記はいりませんよね?


 8月18日 水曜日 「27時間企画終了」



今日も一日コレをやってました。

……だから、今日の日記はいりませんよね?

 8月19日 木曜日 「夢の中の千夏」

 

 昨日の27時間企画の疲労から、今日はぐっすりと熟睡させてもらっています。
 ええ、起きる気ありませんよ。
 つまり、今日は一日中寝るつもりなので、日記に書くようなことなどおこりません。

 というわけで今日の日記はここらへんで……

 

 「初めに言っとくけど、これは夢だからな?」

 目の前にいるウサギさんが私に話しかけてきます。
 夢らしいですけど。

 「こんなふざけたこと、俺がやるわけないんだから。
 そこら辺、ちゃんと分かっててくれ」

 なんていうかウサギさん。
 前置きが長すぎるんですけど。
 せっかくウサギさんと夢の中でも一緒にいられるのに、
 興ざめしてしまいますよ。

 

 「さて……それじゃ、
  千夏よ!! そなたは見事勇者に選ばれたのだ!!」

 「え!? なに言い出すんですかウサギさん!!」

 「私はウサギではない……
  大魔導師、ということになっている」

 恥ずかしそうにウサギさんが言います。
 そんなにイヤならやめればいいのに……。

 それにしてもすごくファンタジーな夢ですね。
 正確に言うとファンタジーじゃなくてRPGって感じなんですけど。

 

 「勇者って、私になにをさせるつもりなんですか!?」

 「突如この世界に現れた、大魔王『ハハー』を倒すために冒険するのだ!!」

 大魔王『ハハー』って……
 もしかしてお母さん?


 「さあ千夏、まずは酒場に行って旅の仲間を揃えるのだ!!
  ってことでさようなら!!」

 本当に恥ずかしかったんでしょうね。
 最後の方はもう逃げて行ってました。


 なんだか分かりませんが、この夢の中で私は勇者らしいです。
 現実ならば、誰かのために命をかけて戦うなんてまっぴらごめんですが、
 せっかくの夢です。
 思いっきり楽しませてもらいます。


 さて、ウサギさ……もとい、
 大魔導師に言われて酒場に行ってみると、
 見知った顔が現れます。


 「千夏お姉さま!!
  是非私をパーティーに加えてください!!」

 剣士みたいなカッコをして、
 抜き身の刀を振り回してる姿が妙に似合ってるリーファちゃんに、


 「悪しき魂を、神の奇跡で光に返してあげます!!」

 そんなことをしたらあなたまで消えてしまうんじゃないですか?
 とつっこみたい僧侶姿をした玲ちゃん。


 そして……

 「三度の飯より銃撃が大好き。
  流れの警官です」

 「もう誰も覚えてないよ!!」

 いつぞやのバカ警官。
 もといアーチャー。


 この三人を引き連れて、魔王を倒すことになりました。


 続く。

 

 ……え?
 続くってことは私は明日まで寝たままなの?

 

 

 8月20日 金曜日 「いざ冒険へ」

 *あらすじ

 平和に暮らしていた千夏に、ある一つの真実が告げられる。
 実は千夏は勇者であるのだと。
 それとヘルニア持ちであるということを。

 真実を受け入れた千夏は、自らの運命と戦うために、
 魔王の元へと向かう!!

 

 言っとくけど私、ヘルニア持ちじゃありませんからね?

 


 「えっと……まずどうしたらいいのかな?」

 ここはファンタジーの世界。
 というより私の夢の中。

 「まず地道にレベル上げしましょうよ。千夏お姉さま」

 いや、私はどうしたらこの夢が醒めるのかと……。
 まあいっか。
 どうせなら楽しみますよこの状況。


 そんなこんなで村の外を歩いていた私たち勇者一行。
 五分ほどフラフラしてたらエンカウントしました。

 ……フラフラしてると敵と戦うなんて、
 本当にRPGっぽい不条理で殺伐とした世界ですね。


 「よし、初戦だしガンバロー!!」

 一応リーダーらしく皆をまとめようとする私。

 「はっはっはっ!! そう簡単にはいくかな?」

 そんな私たちを笑い飛ばすお母さん。

 

 ……お母さん?


 「ってなんでお母さん!?」

 「なんでって、エンカウントしたからじゃない」

 「そうじゃなくて!! お母さんって魔王じゃないの!?」

 「魔王よ。歌って踊れる魔王よ」

 しらねえよそんなこと。


 「魔王ってさ、なんだか住みづらそうな城に、
  一日中歩くこともせずに大きな椅子にふんぞり返っているものじゃないの?」

 偏見ですか?


 「そのライフスタイルはもう時代遅れなのよ」

 魔王のライフスタイルって流行すたりがあるもんなんだ?

 「これからは魔王だってもっと活動的にならなくちゃ」

 「だからってザコ敵並に外をうろつきますかね?」

 

 「千夏ちゃん」

 「え? なに玲ちゃん?」

 「とりあえず、倒しちゃったらいいんじゃないですか?」

 「あ、うん。そうだね」

 さっさとこんな夢、エンドロールに向かわせましょう。


 「ということで覚悟!!」

 「ドーンと来なさい!!!」

 さあ、戦闘開始です。

 


 「千夏お姉さま!! 指示をください!!」

 「よし、リーファちゃん!! ダメ母親、もとい魔王に攻撃!!」

 「はい!!」

 リーファちゃんは剣士らしく剣で魔王に攻撃……

 「ってぐはぁ!!」

 「千夏ちゃん!!!」

 私が攻撃されました。
 このくそアマ……。


 「り、リーファちゃん……何してくれてんのかな?」

 「すみません、私、実はバーサーカーなんです」

 「へ、へぇ〜……そうなんだぁ」

 どう見ても正気っぽいのは気のせいですか?

 

 「そ、それじゃ、名も知らぬ警官さん……魔王に攻撃を……」

 「了解」

 バン!!

 「ガフゥ!!!」

 撃たれました。
 っていうかファンタジーの世界で銃使うなよ。


 「れ、玲ちゃん……回復魔法を私に……」

 「はい!! 分かりました!!」


 玲ちゃんは何となくそれっぽい杖を振りかざして……

 「痛いの痛いの飛んでけ〜」

 

 

 意識が遠のいていく中。
 次に目覚める時は現実であることを切実に願う今日この頃。

 ……っていうか今日も一日中寝たままなんだ?

 

 

 8月21日 土曜日 「夢の終わり」


 一昨日、そして昨日の悪夢とも言えなくもない夢は
 一応の終焉を迎えたらしいです。

 目が醒めると目の前にウサギさんの顔がありましたし。

 

 ……なんで?

 

 「あ、起きたんだ千夏?」

 「ウサギさん? あの〜……この状況は一体?」

 「二日間も寝たままだったから心配したんだぞ?」

 私のベッドの傍らを見ると、
 ハンマーやら金ダライやら明らかに私の部屋には無かった品物が……。


 「な、何なんですか? このやたらと物騒な物は……」

 「全然起きそうに無かったから、いろいろ試してみたんだけど……」

 なるほどね。頭がやけにガンガンしてるのはそのおかげですか。


 「それで、さっきは何で私の目の前に……」

 「もう手段が無くなったから、白雪姫戦法でいこうかと思って……」

 白雪姫戦法……?
 って王子さまがキスして目覚めるってやつですよね!?


 「や、やっちゃったんですか!? ウサギさん!!」

 「いや、その前に千夏が起きたから」

 「ええぇ!?」

 未遂!?
 ……なんかもったいない。


 


過去の日記