11月19日 日曜日 「妹さんの盾」

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 「ああ! あそこに敵が隠れてますよ!!」

 「なんですって!? えーい! 投石攻撃!!」

 「……」

 「……」

 「…………あれ? 違ったかな?」

 「妹さん! 当てにならなすぎ!! 本当に霊能力あるの!?」

 「ありますよ。ただ、敵側から見た視点だとその位置が分かりづらいんです」

 「昨日はあんなに自信満々だったくせに!!」

 リーファちゃんの影の呼び出しに応え、たった一人でジャングルの部屋を訪れた私。
 やはり呼び出しは罠だったらしく、リーファちゃんの影にパキョっと殺されてしまいそうでしたが、冥王星探索団の妹さんという助っ人が現れてくれました。
 なんと言っても悲しいのは、その助っ人がまったく役に立たないという事なのですが。
 おい。本当にどうにかしてくれよ。


 「……妹さん。もう邪魔だからさ、帰って貰ってもいいよ?」

 「そんな! 千夏さんだけで姿を消した敵と戦うなんて無理がありますよ!!」

 「いや、二人でも別に変わらないと思うんだ。というか、 妹さんの存在意義が、今のところ盾ぐらいしか思いつかないんだ」

 「盾にする気は満々なんですか千夏さん」

 緊急避難として。

 「だからね、正直妹さん邪魔なんだけど……」

 「むむっ! あそこに敵が居るような……」

 「聞いてよ。人の話聞いてよ」

 「でも私が居なかったら千夏さん、どこに攻撃をすればいいのか分からないじゃないですか。
  どうするんです? むやみやたらに石を投げたって当たりませんよ?」

 「まあ確かにそれはそうなんですが。
  えーっと…………このジャングルで火事でも起こして、辺り一帯を焼き尽くしたらリーファちゃんの影も巻き込むんじゃない?」

 「なにさらりと環境破壊的な攻撃をやろうと思い立っているんですか。
  見境なしですか」

 勝つためには仕方ないじゃないですか。



 「そもそもですね、生きている木は燃えにくいですよ? ジャングルって湿っているし、火事なんかで全部焼けないと思う」

 「ああ、そっか……。確かにね。じゃあ除草剤でもばら撒いて……」

 「っ!? ベトナム戦争を思い出させる発言中失礼しますが、敵が持っているライフルの銃口をこちらに向けてます!!」

 「へ? ライフル? …………本当に? また嘘なんじゃないの?」

 「本当ですってば! 今照準が千夏さんの頭に固定されています!!」

 「……マジなんですかそれ」

 「伏せて!!」

 「う、うわっ!!」

 妹さんが私の頭を掴み、無理矢理伏せさせます。そしてその直後に鳴り響く銃声。
 なんと、妹さんの言っていた事は本当だったのです。
 すごい! なんだか今、ちょっと役に立った!!


 「千夏、さん……良かった……」

 「妹さん……ありがとうござい……っ!? 妹さん!? この血はなんなんですか!?」

 「ふふふ……ちょっと、怪我しちゃったみたいですね…………ガクッ」

 「ちょっと!! 本当に大丈夫ですか!? なんか今にも死にそうな雰囲気なんですけど!?
  もしかして私の代わりに撃たれて!?」

 「だ、大丈夫です……大丈夫なのです……。ただちょっと……」

 「妹さん!!」




 「伏せてって言った時に、舌を噛んでしまって……」

 「それでこの体たらくか。いっそ噛み千切ってしまえばいいのに」

 というか血が出すぎでしょ妹さん……。
 血圧大丈夫?



 11月20日 月曜日 「トラップ×トラップ」

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 「よし。私、いい作戦考えた」

 「本当ですか千夏さん? この切迫した状況から、抜け出せるようなすごい策を考え付いたんですか?」

 「ええ。すごい作戦ですよ。自分が孔明に思えてくるぐらい、すっごい作戦を思いついてしまったのですよ。
  これでリーファちゃんの影の命もあと少しという感じです」

 「考えただけであと少しですか。ちょっと先走りすぎじゃありませんかね?」

 「ふふふふ……妹さん、将棋での詰みってのはね、数手前ですでに勝敗が決まるのですよ。
  そういう読み合いの果てに勝敗が決する物なのですよ」

 「ではその作戦とやらをさっそくお聞かせ願えないでしょうか?
  密林の奥から撃ち込まれるライフル弾を避けるもの疲れてきましたので」

 妹さんの霊能力、敵からの攻撃を避けるのには使えるんですよね……。
 もうちょっと応用が利きそうなんですけど、しょせん妹さんだからなぁ。

 「聞きたいですか? もー仕方ないなぁ。あのですね……妹さんにリーファちゃんをどうにか引き付けて貰ってですね、
  私があそこにあるドアから外に出るんです」

 「ふむふむ……それで?」

 「外でご飯食べてきます」

 「お腹空いただけなんじゃないですか千夏さん!! というか私を置いて出て行く気!?」

 「生きてればお腹が空くものでしょー!?」

 「そりゃあ分かってますよ。でも大切なのはそこでは無いと思います。
  完全に戦闘放棄じゃないですか」

 「もーっ、妹さんは分かってないなぁ。私が外に出ようとしたら、もちろんリーファちゃんはそれを阻止するか、
  もしくは後を追うでしょう? その時こそが、姿の見えないリーファちゃんの影を捕まえるチャンスなのですよ」

 「つまり……部屋の出入り口で待ち伏せするという事ですか?」

 「その通り。罠を仕掛けるものいいかもね」

 「おお……確かにそれはいい作戦に思えます」

 「でしょう? だから、少しの間だけ時間を稼いで」

 「ええ……? それはやらなきゃダメなの?」

 リーファちゃんを倒すためなんだから協力してくださいよ。
 というか一応私を助けに来てくれたんでしょうが。その事、忘れてもらっては困るんですが。




 「ほ、本当に少しの間でいいんですよね……?」

 「うん。どうせ妹さんにはあまり期待してないし」

 「あ。酷い」

 「じゃあ合図で私が走り出しますので、リーファちゃんの目を引き付ける役目をお任せします。
  その間にあの出入り口に罠を仕掛けるんで、ほんの少しだけ頑張ってくださいね」

 「……はい! 分かりました。罠の方、頼みますよ」

 「ええ。任せておきなさい。
  じゃあ……レッツゴー!!」

 リーファちゃんの事は妹さんに全て任せ、私は部屋の入り口に向かって走り出しました。
 あそこに罠を仕掛ければきっとリーファちゃんも引っかかって……。

 『ズキューン!!』

 「うわぁ危ない!! じゅ、銃弾!?」

 なんと私の足元にリーファちゃんが撃ったのであろうライフル弾が着弾しました。
 あともう少しで足の甲を貫かれていた事でしょう。

 「い、妹さん! 何やっているんですか!! 引き付けてくれって頼んでいたのに!!」

 「ご、ごめんなさい千夏さん……やっぱり私のコサックダンスでは、敵の目を引き付ける事なんて出来ませんでしたっ!!
  ああっ!! そんなにも私のコサックダンスは魅力が無いと言うのですか!!」

 どうでも良い。死ぬほどどうでも良いですよ妹さん。
 あと、なんで敵の目を引き付けろと言ったらコサックダンスを選択したんだ。




 11月21日 火曜日 「妹さんトラップ」

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 「妹さん! もういいや!! 盾になって!!」

 「盾に!? そんなの嫌に決まってるじゃん!!」

 「いいじゃん別に! 減るもんじゃないし!!」

 「減るじゃん!! 確実に減るじゃん!! 命という灯火が、確実に減っちゃうじゃん!!」

 「そんな尊いものでも無いからいいじゃん?」

 「尊いよ!! 命は尊いものじゃんか!! 人の命は地球よりも重いって良く言うじゃんか!!」

 「ああ、あれ嘘じゃん?」

 「え? マジじゃん? 私、ずっとそう信じ続けていたのに……じゃん」

 どうでも良い事ですけど、私たち、『じゃん』の使い方が変になってきてますよ。

 「とにかくですね、私はあの入り口にたどり着かなきゃいけないんですよ。
  このままだと本当にライフルで撃ち殺されてしまいます」

 「でも敵さんは千夏さんの方ばかり狙ってきますしねえ……。
  酷いと思いません? 私、かなり無視されているんですよ? リンボーダンスまでして気を引いたのに」

 「リンボーダンスまでしたのかよ。というかその無視っぷりは羨ましいですねえ。
  私にばっかり銃弾を打ち込むのは本当にやめて欲しいですよ」

 「千夏さん……何か恨まれるような事したんですか?」

 「割とした覚えはありますけど……でもですね、多分今の彼女は黒い星の民の命令を受けて私を殺そうとしているんだと思うんですよ。
  どうも私が居るといろいろ邪魔らしいんで」

 「なるほど……。確かに千夏さんが傍に居るといろいろ邪魔ですもんねっ!!」

 「殴るぞお前」

 「そうだ!! じゃあ逆にですね、私があのドアの方まで行って、罠を仕掛けるというのはどうでしょう?」

 「どうでしょうと言われても。リーファちゃんが私の後を追ってドアを通ってくれないとこの作戦は成功しないじゃないですか。
  妹さんが私の代わりを勤めるって事は、妹さんがリーファちゃんに追われないといけないんですよ?」

 「大丈夫です。それくらいの覚悟は出来てます」

 「いや、だからそういう事じゃなくて。妹さん、さっきから無視されっぱだって言ってたじゃん。
  妹さんがドアに向かったって追ってきてくれないよ」

 「ぐっ……それならですね、あのドアを通って罠を仕掛けた後に、彼女の文句を言って誘いだすとか」

 「……例えばどんな文句?」

 「お前のカーチャンでーべそーっとか」

 「またそれですか。リーファちゃん自身が言ってた奴だよ。それ」

 最近の文句業界ではそれが流行りなのですか?

 「じゃあ私行ってきますね!!」

 「あっ! 妹さん!! 危ないですよ!!」

 私の制止も聞かずに飛び出していく妹さん。
 なんと驚いたことに、思いっきり背中を向けている彼女に、リーファちゃんの銃弾が撃ちこまれる事はありませんでした。
 マジで無視されてんのな。



 「千夏さーん! 罠仕掛けましたよー!!」

 「あっ、こらバカ!! そんな大声で言ったらリーファちゃんにバレるでしょうが!!」

 「よし! じゃあさっそく悪口言っておびき出すとするか!!」

 「その声も大きい!!」

 誘い出す気ゼロだろお前。

 「やーい! お前のカーチャンでーべーそー!! 悔しかったらこっちにきてみろーい!!」

 「うわぁ……どこの小学生だよ。いや、いまどきの小学生もこんな事しませんっての」

 「やーいやーい! バカー! えーっと……アホー!!」

 語彙力が少ないにも程があるだろ。



 『バキンッ!! メキャバキャッ!!』

 「え!? 何の音!?」

 「やった!! 私が仕掛けた罠に引っかかりましたよ千夏さん!!」

 「え!? 本当に成功しちゃったの!? この作戦が!?」

 なんてあっけない最期なんですかリーファちゃん……。
 あと、いったいどんな罠を仕掛けたんですか妹さん。あの音、結構凄そうだったんだけど……?


 11月22日 水曜日 「リーファちゃんの悪あがき」

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 「くっ……捕まってしまうとは、なんたる不覚ッ!!」

 「ふっふっふっふっふ。覚悟しなさいよリーファちゃん。もう、絶対に逃がさないですからね」

 「捕虜としての待遇を要求するっ!!」

 今までさんざん私たちに酷い事しておいて何言ってるんですかこの人は。
 そういうセリフはですね、戦争法がきちんと守られている所で叫びなさいな。
 少なくとも、冥王星と紛争地帯では決して守ってもらえない、儚い主張なのだと思い知れ!!

 「どうです? 私の言った通りになったでしょう千夏さん?」

 「ええ、すごいですね妹さん。でもこの罠って……」

 「ベアトラップです。別名トラバサミですか? がちゃんて、こう足を挟む奴です」

 「すっごくえげつない罠使ったんだね。下手したら足切断しちゃうじゃん」

 「まあ別に、私にダメージがあるわけでもないですしね」

 「こええよ。そしてお前はなんでそんな罠を常に携帯しているんだよ」

 「お兄ちゃんにクレジットカードと罠だけはいつも携帯しておきなさいよって言われていたから」

 どんな教育だそれは。



 「くっくっくっくっく……それで勝ったつもりか」

 「む。なんだか含みのある事言いましたねリーファちゃんの影」

 「このリモコンを見ろ……。これは、なんだと思う?」

 「え……DVDプレイヤー?」

 「違う! 爆弾の起爆スイッチだ!!」

 「爆弾ですって!? もしかして自爆して私たちを巻き込むつもりなんですか!?」

 「そんな怖い事するわけ無いだろ!!」

 いや、無いだろって言われても。まったく戦士じゃない事を堂々と言い切らないでくださいよ。
 情けないなぁ……。

 「爆弾はな……お前たちの仲間の、女神の奴にくっつけておいたのさ」

 「な、なんですって!? 女神さんに!?」

 「今頃きっと、コーンフレークみたいにバラバラになっているだろうぜぇ!!
  ひゃははははははは!!」

 「なんて小物っぽい笑い方するんだリーファちゃん!! の影!!
  で、でもどうしよう……。もしそれが本当なら、女神さんが……」

 「大丈夫ですよ千夏さん。女神さんは、無事です」

 「え? 何言っているんですか妹さん……?」

 「もう忘れてしまったんですか? 私は他人の眼とリンクする能力を持っているって事を。
  私、今女神さんの視界を見ているんですけど、まったく無事ですよ」

 「ほ、本当ですか!? 良かったぁ……」

 「何!? そ、そんなわけが……」

 リーファちゃんの影は悔しそうに唇を噛んでいました。
 いやー、本当に何にしても良かったです。おそらく、ウサギさんたちが私たちごちゃやっている間に助け出してくれたのでしょう。

 「女神さんは元気そうですよ? だから心配しないでください。
  ほら、今だってお花畑が一面に生えた場所でうふふと駆け回って……ああ、あの川の向こうに見えるのはおばあさんかしら?
  こっちへおいでと手招きしているわ」

 「妹さん!? それってもしかして死んじゃってない!?」

 なんかモロに死後の風景に見えるのですけど?




 11月23日 木曜日 「女神さん帰還」

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 「よう千夏。そっちはよくやったようだな。
  リーファの奴の影を捕まえたんだって?」

 「ああ、ウサギさん……まあ私たちは大丈夫でしたけど……女神さんが……」

 リーファちゃんの影が仕掛けた爆弾によって、バラバラになってしまったのですよね?
 ああ、なんて事でしょうか。彼女しか影になった私の家族を元に戻す事が出来ないというのに。
 人生で唯一役に立った瞬間だったのに。なんとも物悲しいですね……。

 「ん? 女神の奴なら無事だぞ? 俺たちが助け出したからな」

 「え!? 本当ですか!? でも妹さんの霊能力では死後の世界が!!」

 「まあちょっと謎の爆発に巻き込まれて、頭を強く打ってしまったみたいだけどな」

 「ああ。その時の幻覚だったんですかあれは」

 ふぅ……。なんにしても良かったです。今彼女に死なれるとすごく困りますからね。
 もうちょっと頑張ってから死んでください。

 「で、女神さんは大丈夫なんですか?」

 「ああ、もう正気に戻ってる」

 「それは良かったぁ。さっそくこの捕まえたリーファちゃんの影を元に戻して欲しいのですけどね」

 「大丈夫なんじゃないか? ちょっと頭へこんでるけど」

 そんなに強く頭をぶつけたのか女神さん。




 「おお女神さんっ!! お久しぶりです!!」

 「千夏さん! ああ、私、もしかしたら見捨てられたんじゃないかって心配してたんですよ!?
  もうちょっと早く助けに来てくださいよぉ……」

 「いや〜、ごめんごめん。なんだかいろいろと手間取ってしまって。
  これも全部冥王星探索団の方々の所為なので責任追及はそちらにしてくださいな」

 「酷いよ千夏さん! あんなに手伝ったのに!!」

 何を言うのですか妹さん。あなたの食事を用意するために、私たちがどれだけ時間を無駄にした事か。

 「さあ女神さん! さっそくで悪いんですがお仕事をお願いします!!
  このリーファちゃんの影を、元のリーファちゃんに戻してください!!」

 「そうしたいのは山々なんですが……今はちょっと無理です」

 「無理!? なんで!? 頭がちょっと凹んだから!? それぐらいなんだい!! 凹んだぐらいでなんなんだい!!」

 「結構大変な事ですよ頭の凹みは!?
  …………ってそうじゃなくて、私の女神の力が……そう、女神力が弱まっているのです」

 「なんだよ女神力って。そんな取ってつけたようなような名前」

 「女神力って言うのは、女神の力の源となる超常的なパワーな事です」

 「だろうね。文字の感じからそういう事なんだろうと思っていたよ」

 「それでですね、私はその女神力を一刻も早く回復しなければならないのですよ……。
  だから、手伝ってくれませんか千夏さん?」

 「まあ別に良いですけど……具体的には何をすればいいのですか?」

 「美味しい高級料理を食べればすぐに回復し……」

 「妹さんと同じ事言ってるよ!!!!」

 普通に怒りますよ女神さん?




 11月24日 金曜日 「女神さんのお腹を満たすもの」

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 「じゃあいつものやりましょうか?」

 「え? あっちゃんいつものやったげて、みたいなもんですか?」

 「ちげえよ。誰がオリエンタルなラジオの真似をすると言っているんですか。
  さっさと、リーファちゃんの影を元に戻してくださいと言っているのです」

 「えー。でも私、まだ美味しい料理食べてませんよ?」

 「意地でも食う気なのかコイツ。そんな食う気じゃないって分かるでしょうが」

 「でもでもー! お腹空いて何も出来ないんですー!! 監禁されている間、私、一体何を食べさせられたと思います!?
  男前豆腐だけですよ!?」

 「良かったじゃん豆腐。お酒と合いそうで」

 「そんなのんべえな意見を小学生が言わないでください!!
  それと、お酒なんて出なかったし!!」

 あ、そうなんですか。それはお気の毒に。




 「お腹空いたお腹空いたお腹空いたー!!」

 「はぁ……まったく本当にうるさいですねえ女神さん。このままだと首の骨をコキャッとやってしまいそうですよ」

 「コ、コキャ?」

 「でもここで死なれてはいろいろ困るんで、特別ですけど、私が貯蔵していた料理をあげます。
  大事に食べなさいよ? 本当に、大切に取っておいたんだから」

 「わーい♪ 千夏さんありがとうございまーす!! これからも一生千夏さんについていきます!!」

 「食べ物で忠誠誓うだなんて、お前は犬と猿とキジのどちらかか」

 私は女神さんのご機嫌を取るために、渋々ながらとっておきの食料を渡してあげました。
 あーあ。もったいない。

 「…………千夏さん? なんですかこれは?」

 「なんに見えます?」

 「えーっと、ちくわに見えます」

 「そうです。チーズ入りちくわです」

 「これのどこがとっておきの食料!?」

 「お酒のつまみに最適な食料ですよ?」

 「だから! なんでそんな飲兵衛の舌の意見なのか!? これじゃあ心は癒されませんよ!!」

 「えー? じゃあ後はシーチキンの缶詰しか……」

 「それもつまみです!! なんでそんなのばっかりなんですか!!」

 普通の食料はすでに全部食べちゃって、つまみ類しか残ってないんですよ。
 察して頂戴な。



 11月25日 土曜日 「女神さんのパワーの正体」

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 「ぷはーっ、ごちそうさまでした。シーチキン」

 「結局つまみ食べたじゃないですか女神さん」

 「だってこれしか無いんでしょう? じゃあ仕方ないかなって」

 「一応そういう分別はつくのか? じゃあせめてもっと困らせないように妙な事を口走るのをやめて欲しかった」

 「さーて……じゃあさっそく食後の軽い睡眠を……」

 「おーっとっとっと。ちょっと待った女神さん。おやすみする前に、やる事がひとつありませんかね?」

 「え……? 納税?」

 「違います。どこからその発想が出てくるんですか。
  いったいなんのために私が女神さんになけなしの飯を食べさせたと?」

 「あ、ああ! もちろん忘れていませんよ!! リーファさんを元に戻すんですよね!!」

 「すっごく忘れてたくせえなぁ……」

 「じゃあリーファさんの影をこっちの海に放り込んでください」

 「はーい。とうりゃああ!!」

 私はぐるぐる巻きにして置いといたリーファちゃんの影を、思いっきり海の中に放り込んでやりました。
 というかなんかすごい風景だね。ヤクザが、死体の処理をしているっぽいね。
 ……なんか気ぃ悪いわぁ。


 「さて。じゃあ女神さん。なにか質問くださいな」

 「あー、今日はそのくだり無しでいいですよ。ちょっと疲れたし」

 「あの質問群はいらないの!? 今まで散々やらされていたのに!?」

 「ええ。いらないです」

 「おい! じゃあどうしてあんな無駄手間私にやらせていたのさ!!」

 「少しでも心の触れ合いをと思いまして」

 心の触れ合いがどうとか良く分かりませんが、今確実に女神さんとの間には溝が出来ましたよ。

 「ちなみにですね、別に私じゃなくても影になった人を元に戻せるんです」

 「え!?」

 「あの影って、海水かければ元に戻るんですよ? ちょっとした家庭の知恵です」

 「家庭でもなんでも無いでしょうが!! 女神さんの不思議パワーでどうにかしたんじゃないの!?」

 「私にそんな力があると本気でお思いなのですかっ!?」

 そんな泣きながら言われたら…………ああそうだよこのクソ女神というセリフしか浮かんでこないじゃないですか。
 というか普通に怒りますよ?









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