11月26日 日曜日 「黒い星の民への道」

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 「ゲホッ! ゲホゲホッ!!」

 「あっ! リーファちゃん、気がつきましたね!?
  いやー、もしかして影のままなんじゃないかと心配しましたよ。
  なんて言ったってリーファちゃんって腹黒いから!
  臓腑の隅々まで影色だから!!」

 「ごぼがぼっ……ぶはぁ!!
  なにすんですかお姉さま!!
  なんで正気に戻ってるの知りながら、さらに海に沈めようとするの!?」

 「あっ。ごめんなさい。
  ついいつもの癖で」

 「いつもこんな事してるわけないでしょうが。
  なに嘘ついてるんですか」

 「いつも見てる夢ではって話です」

 「いつも人を溺死させる夢見てるんですか!?
  お姉さまの方が腹黒だよ!!」

 失敬な。せっかく助けてあげた人に対してなんて物の言いようですかね。



 「さてリーファちゃん。元気を取り戻してもらってさっそくなんですが……」

 「まだ全然元気を取り戻したなんて言えないんですけど?
  むしろ疲労感という泥を塗りたくられて、体中に不快な重みを感じているのですけど?」

 「喋れるでしょ?」

 「ええ、まあ」

 「それ以外は望まないのでまったく問題なしです」

 「休みたいって言ってるんですけど!?」

 全宇宙のために少しだけ頑張ってくださいよ。

 「えっとですね、実はリーファちゃんに聞きたい事があるのですよ。
  これ聞いたら自由に休んでいいから。
  なんなら永遠に休んでてもらっても」

 「なにさらりと怖い事言ってくれてんですか……」

 「あのね、リーファちゃんは自分が影になっていた時の事、なにか覚えていない? 例えば黒い星の民の居場所とかさ。
  この城の最深部までの道筋とか」

 「ああ。それならなんとなく覚えてますよ」

 「ええ!? 本当ですかリーファちゃん!?
  ダメもとで聞いてみたんですが、やっぱり聞いてみるもんですね!!
  思い出すきっかけを与えるためのバットが不用になっちゃいましたよ!!」

 「そのバットでなにしようとしてたんですかお姉さま!?」

 「で、その場所は!? 黒い星の民の所へはどうやって行くの!?」

 「落ち着いてくださいよお姉さま……。
  あのですね、黒い星の民の所に行くには、直通バスに乗らなきゃダメなんです。
  なんでも黒い星の民は別の次元に居て、その次元に到達するには、こちらも特別な乗り物に乗らなきゃいけないんですよ」

 「へーっ、そうなんですか。
  で、その定期バスって?」

 「名前をクロネコバスと言いまして……」

 え? ……それってもしかしてあの有名な?

 「時間帯指定やクール便の出きる便利なバスなんです」

 「ダブルミーニングなのかそれは」

 宅急便の方の能力は別にいらないでしょ。



 11月27日 月曜日 「バスを探せ」

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 「で、リーファちゃん。そのクロネコヤマトバスはいったいどこで乗れるのですか?」

 「なんかちょっと余計な文字が増えてますお姉さま。
  えーっとですね、きっとその辺を歩いていればいつか出会う事が出来るんじゃないですかね?」

 「うっわー。なんですかそのちょー適当な返答。
  あなた、事の重大さを分かっているんですか? 敵のラスボスへの道が、ようやく開いたというのですよ?
  あんまりにもふざけてっと足の小指をガンッてやるぞ」

 「ちょっと軽い殺人予告しないでくださいよ」

 「もーっ! いいから早く思い出してくださいよリーファちゃん!!
  私たちには時間が無いんだ!!」

 「いや、だからですね、そこら辺を歩くしかないんですよ。
  なんて言ったってクロネコバスは気まぐれですからね。きちんと停留所に止まってくれないんです」

 「そんなバスがあってたまるかよ。時間通りに到着しないって、どこの田舎だ」

 「仕方ないでしょう? だって生き物なんだから」

 あ。やっぱりクロネコバスって生き物なんだ?
 クロネコヤマトが使っているっぽいバスとかそういう淡い期待を抱いていたんですけど、やっぱり違ったのか。

 「じゃあさ……いったい私たちはどうやってそのネコバスを見つければいいのですか。
  その辺歩いて探してたら、すっごく時間かかるじゃないか……」

 「これはもう根気との戦いしかありませんね」

 「はぁ……。ぱぱっと行けると思ったのに、結局こういう風に時間を無駄にしてしまうのですか」

 黒い星の民へと続く直通バスだと聞いたときは、いよいよ最終決戦かと意気込んだのになぁ……。




 「あっ! そうだ!! そう言えばですね、クロネコバスを自分の所に呼び出す方法があったんですよ!!
  すっかり忘れてました!!」

 「え!? そんな便利な物があるんですか!? もうっ! さっさと言ってくださいよ!!」

 「いやぁ、すみません。どうも脳に酸素がよく行ってなかったみたいで。
  きっとお姉さまに海に沈められたからですかね」

 「そっか。そりゃあ悪いことしたなぁ。
  で、その方法というのはっ!?」

 「その方法はですねぇ……」

 「その方法はっ!?」

 「カツオブシをですね、床に置いておけば寄ってくるのです」

 「まあ予想はついた」

 「ただ注意して欲しいのはですね、水入りペットボトルを見せると逃げ出してしまうって事ですね」

 「まあそれも、想定の範囲内。でもあれ、迷信だぞ?」

 「ちなみにクロネコバスを呼び出すための呪文は、『フングルイ ムグルウナフ クトゥルフ ルルイエ ウガ=ナグル フタグン』です」

 「それは予想できなかった」

 なんか海の底に居る邪神でも呼び出してしまいそうな呪文ですね。





 11月28日 火曜日 「バスを捕まえるために」

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 「千夏お姉さま! そっちです! そっちに向かいました!!」

 「よ、よーし! まかせなさい!!」

 「死んでも止めてくださいね千夏さん! あなたの肩に、人類の存亡がかかっているのですからね!!」

 「も、もちろんですとも! 分かってますよ雪女さん!!」

 私はしっかりと腰を落とし、今まさに迫ってこようとしている物体の前に立って、その動きを力まかせに止めてやろうと……

 「うわーっ! やっぱりだめ!! 無理!!」

 「ああっ、千夏さん!!」

 私はすごい速度でこちらに向かってくる物体を真正面から受け止める勇気があらず、ひょいと横に避けてしまいました。
 すると仲間たちの口から漏れるブーイングのため息といったらもう。
 ほんと、そんな風に言うのであればこっちきて代わってくださいよ。

 「へたれ! このへたれ!!」

 「ゆ、雪女さんなんかに言われたくないですよ!! 誰がへたれじゃ!!」

 「だって今避けたじゃないですか! かなり身のこなしのいい感じで!!」

 「今のは……避けたんじゃないよ! ただちょっと、舞を踊ってしまっただけなんだよ!!」

 「そんな言い訳がありますか千夏さん!!」

 うるさいやい。


 今展開された騒動は、私たちの『クロネコバスをとっつかまえようキャンペーン』の一部でございます。
 ええ、その名のとおり、黒い星の民の下へと私たちを運んでくれるクロネコバスを、無理矢理力で捕まえ、従えてしまおうというような作戦です。
 かつおぶしと妙な呪文でクロネコバスを呼び出したまではいいんですが……
 やはりバスというだけある巨体と、そのスピードは、本当に恐怖を感じる程の物でしたよ。
 あんなのが真正面から来たら、誰だって逃げますって。

 あ、そういえばですね、クロネコバスのデザインはまさしくネコバスそのものでした。
 これは、なんかいろいろとまずいと思う。



 「もう千夏さんっ! しっかりしてよね!!」

 「さっきから言いたい放題ですね雪女さん……。そこまで言うなら役目変わってよ。本当に。
  私だって雪女さんやリーファちゃんみたいに、クロネコバスを追い立てる役をしたいよ」

 「そ、それはそうかもしれませんけど……でもほら、この役ってクジで決めたものだから!
  だから、天命がそれを許さないんじゃないですかね!?」

 「むしろクジなんかで決める事自体が間違っているでしょうが。
  もうちょっと考えて役割分担するべきだったんですよ」

 「そう言われましてもねぇ……私たちの中に、あのバスを真正面から受けられる者たちなんていませんし」

 「じゃあなおさら私はどうして前面に押し出されているんだ」

 「千夏さんは血が出てもおっけーって事なんじゃないですか?
  ビジュアル的に」

 ちょっとばかり異議を唱えさせていただきますよこのやろう。



 「ふう……。お二人ともまったく使えませんねえ。
  分かりました。私がどうにかして差し上げましょう」

 「え……? リーファちゃん、本気ですか?
  でもリーファちゃんは、お世辞にも私たちより体が強靭というわけでも無いんじゃ……」

 「ふふ、うふふふふ……大丈夫です。私にはこの秘密アイテムがあります」

 「そ、それはっ!!」

 リーファちゃんが高らかに私たちに見せてくれたのは……ご飯に味噌汁がかえられた物体。
 そう、つまりは、ねこまんま!!

 「これでてなづけて見せます」

 「っていうかまたねこまんまなんて古い物を……」

 今の子たちには全然分からないでしょ。



 11月29日 水曜日 「ネコのご飯のランク」

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 「ぎゃー!!」

 「ああっ! リーファちゃんがネコバスにじゃれつかれている!!」

 「違う! これはじゃれつきじゃない! おそわれ、襲われているんですよこれはっ!!
  痛いっ! 噛むな!! めっちゃ本気で噛むな!!」

 「リーファちゃん! そのねこまんまを早く離すんです!! 多分それの所為でリーファちゃんを襲って……」

 「ぎゃああああ!!!!」

 「ああっ! リーファちゃーん!!!!」

 なんとも悲しい事に、リーファちゃんはクロネコバスに咥えられたまま連れ去られてしまいました。
 ああ。また私たちの元から去っていってしまうのですかリーファちゃん。
 戻ってきたばかりだというのに。

 「ち、千夏さん! 悲しがっている場合じゃないですよ!!
  リーファちゃん、どうするんですか!!」

 「どうするんですかと言われましてもねぇ……助け出すしか無いんじゃない?
  ああ……連れてかれちゃったよ。どうしよっか雪女さん?」

 「すっごくやる気なさげですね」

 「うーん……しかしねこまんま作戦は失敗ですかねえ。
  あんな風に襲い掛かられては、捕まえるどころじゃないと思います」

 「やっぱりウサギさんに助けを求めた方がいいんじゃないですかね?
  私たちだけじゃ無理なんですよ」

 「でもウサギさんは何か他の調査を冥王星探索団の方々とやっているみたいですからねえ。
  邪魔したくないんですよ」

 「ううぅーん……そうですかぁ。でも餌作戦は微妙に成功はしているんですよね。
  クロネコバスを引き寄せる事には出来たんですから」

 「まあね。でもどうも餌が魅力的すぎてクロネコバスの理性を奪っちゃったみたいだね」

 「……ネコバスにも理性とかあるんですかね?」

 「知りませんよそんな事。
  とにかく、餌作戦でいくならば、クロネコバスを引き付けておきながら、でもあまり飛び掛るほどでもないエサを用意しないと」

 「なんて絶妙なチョイスをしなくちゃいけないんですか。
  ただのエサ選びなのに」

 「そんな事言うのであれば雪女さん、このねこまんま持ってネコバスの前に立ってみてくださいよ」

 「いや、それは遠慮しておきます……」

 やっぱりへたれか……。




 「シーチキンとかどうですかね?」

 「えー? シーチキンですよー? それって、ネコにとってはすっごくご馳走なんじゃないの?」

 「でもねこまんまよりはランク低くないですか?」

 「雪女さんの中でのシーチキンとねこまんまのランキングなんてよく分かりませんですけどさ。
  じゃあ一体何がいいって言うの?」

 「うぅん……カツオのたたきとか?」

 「えー? そっちの方がランク高くない? だって生魚ですよ?」

 「でもでも、しょうゆとかかかっているし」

 「ネコってしょうゆ嫌いなの?」

 「さあ? でもあまり好きそうには見えなくありません?」

 「まあ確かに」

 「グダグダしゃべってないで早くたすけくださーいーぃーよぉー…………!!」

 「あ、リーファちゃんとネコバスが戻ってきた」

 「周回ラインなんですね。多分」

 …………っていうかこのままグルグルと回り続けていたら、リーファちゃん死んでしまいますね。



 11月30日 木曜日 「衝突事故によって起こった、何よりの不幸」

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 「ぎゃー!!」

 「ああっ! 雪女さんっ!!」

 なんて事でしょうか。リーファちゃんに続いて雪女さんまでもが、ネコバスに咥えられて連れ去られてしまいました。
 くそうっ! こう続けて仲間を失う事になろうとはっ!!
 ……あっ、ちなみにですね、雪女さんがネコバスを引き付けようと持っていたエサはですね、カツオのたたきでした。
 ほら、だから言ったのに。カツオのたたきは、ネコにとってランクが高いって言ったのに。
 私の意見を無視するからこういう酷いことに……。



 「千夏ー。大丈夫か? クロネコバスとやらは捕まえられたか?」

 「ああっ、ウサギさん!! ちょうど良いところにっ!!
  えーっと、私はなんとか大丈夫なんですけど、リーファちゃんと雪女さんが……」

 「え? どうにかなったのか?」

 「ネコバスに咥えられて……」

 「どういう経緯でそうなったのかはわからないけど、結構大変な事になってるなそれ」

 「そうなんですよ。本当に大変なんです。
  どうしましょうかいったい……」

 「うーん……食べ物で釣ろうとしたからダメだったんじゃないか?
  猫が喜びそうなおもちゃで誘ったらどうだ?」

 「猫が喜びそうなおもちゃ……? それって猫じゃらしとかですか?」

 「そう。それとか」

 「ダメですよウサギさん!! あなたは、あのネコバスの恐ろしさを全然分かっていないんです!!
  あんな大きなものにじゃれつかれてみなさいな!! 本気で死ねますよ!!」

 「うーん……でもいい方法だと思うんだけどなあ。
  一度試してみなよ。危なくなったら俺が助けるから」

 「ううう……それしか方法ないんですかねえ」

 まあ食べ物よりは飛びつかれる心配が無いかもしれないけどさ、でもやっぱり怖いですよ。




 「ほーれほれほれー。ねこじゃらしですよー。おもしろいですよー。
  でも絶対飛びかかってくるんじゃねーぞこら! 飛び掛ってきたらマジでぶん殴るぞこら!!」

 「……ニャー」

 ウサギさんにそそのかされるまま、私はクロネコバスの目の前で、ねこじゃらしを振っています。
 ああ……すげえ怖いよ。なんつったってでかいもん。バスぐらいの大きさのネコだもん。
 恐怖に足が竦みますよ。
 ちなみにですね、クロネコバスの奴はまだリーファちゃんと雪女さんを咥えてやがりました。
 租借されなかっただけマシだとは思いますが、このままだと本当にやばいかもしれませんね……。
 私がなんとかがんばらなくちゃ……。

 「にゃー!!」

 「うっわ! 怖っ!! このネコ怖っ!!」

 やっぱ無理です!! 私なんかにはどうにかやるような代物じゃございません!!
 逃げさせてくださいな!!

 「にゃぁああああ!!!!」

 「うっわぁあああ!!!」

 飛び掛ってこようとするクロネコバスがあまりにも怖すぎて、
 私は手に持っていたネコじゃらしを近くにあった壁の方へと投げてしまいました。
 だって怖かったんだもん!! 怖すぎたんだもん!!

 「にゃああっ……ゴガンッ!!」

 「え……?」

 やけに鈍い音が鳴ったなと思ってネコバスの方を見ますと、どうも私が投げたねこじゃらしを追って、壁に頭から激突してしまったらしいです。
 頭に星を飛ばして伸びていました。

 「…………やったぁ!! クロネコバスを捕まえる事ができましたよ!!
  これで黒い星の民の所へ行ける!!」

 いよいよ最終決戦でしょうか。加奈ちゃんとお母さんの行方が気になる所ですが、今は止まっていられない状況ですよね。
 よしっ!! この調子で進軍だーっ!!

 「おい千夏! 大丈夫か!?」

 「あ、ああウサギさん。大丈夫ですよ。怪我ひとつありません」

 「そうか。それならいいんだけど…………っていうかさ、ちょっと気になったんだけど聞いていいかな?」

 「へ? なんですか?」

 「リーファの奴と雪女は、どこいった?」

 「どこ行ったって、そこに……」

 クロネコバスの口に咥えられていたはずの雪女さんと女神さんの姿は、不思議な事に消えていました。
 まさか黒い星の民の所に行くのが怖くなって逃げたのかと思いましたが、それにしては逃げ足の早い…………まさか。

 「……壁にぶつかった衝撃で、あのクロネコバス、口に咥えていた雪女さんたちを飲み込んじゃったんじゃ……」

 「……どうしよっか?」

 「ど、どうしましょうか?」

 消化されてしまう前にどうにかしないと……今度会う時は変わり果てた姿になってしまいそうですね。
 具体的に言えば、排泄物に。





 12月1日 金曜日 「雪女さんとリーファちゃんの行方」

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 「にゃぁー」

 「おーよしよしよしよし。改めて見ると結構かわいいですねぇ。クロネコバス。
  ただでかすぎるだけのネコって感じで」

 「もうすっかり千夏になついたな」

 「そうですね。きっと昨日の私の見事な策略を目にして、獣の本能がこいつには服従しなければと思わせたんでしょうね」

 「そこまですごいもんじゃなかったじゃないか。ものすごく偶然の策略だったじゃないか」

 まあいいじゃないですか。そういう所、あまり気にしないでくださいよウサギさん。

 「さーて。後は黒い星の民の所に突撃するだけですよね!!」

 「……その前に、雪女とリーファの奴をどうにかしないと」

 「……そう言えばそうでしたね」

 実はまだ、雪女さんとリーファちゃん、出てきてないんです。
 クロネコバスのお腹を切開して取り出すにも、私たちにはそんな医学的な能力なんて無いし……こうやって出てくるのを待っているわけですが。
 ホントどうしましょうかねこれ?


 「お困りのようですね千夏さん。なんなら私がいろいろお助けしましょうか?」

 「え……? 大妖怪さん!? 本当に、助けてくれるんですか!?」

 「ええもちろん。同じ釜の飯を食った仲間じゃないですか」

 「いや、でも大妖怪さんって私たちの敵なんじゃ……」

 「改心しました!!」

 「またですか大妖怪さん!? あなたね、改心したり裏切ったりを繰り返してません!?
  全然信用ならないのですが!!!」

 「失敬な! 今度は本当に改心したんですよ!! そんな事言ってると、また裏切りますよ!?」

 「ほら! どんだけ簡単に裏切れるんだよ!! もうちょっと大変なことじゃないの!?
  裏切るとか改心するってさー!!」

 「まあまあ千夏……。えっとさ、具体的にどうやって雪女たちを助けるんだ?
  お前、何か医療についての知識あるのか?」

 「ふっふっふっふ……私を誰だとお思いで? 大妖怪ですよ? 妖怪の中の妖怪ですよ?
  大きなネコの胃の中から人を取り出すことぐらい、朝飯前です」

 「その発言を信じる根拠という物が不足しまくっている気がしますが……まあいいでしょう!
  そこまで言うならやってみなさいな!!」

 「がってんです千夏さん!!」

 なんだか妙にやる気を出している大妖怪さんは、クロネコバスの方へと近付いていきました。
 何をやるのかとハラハラしながら見ていると、大妖怪さんは自分の手を思いっきりクロネコバスの口の中に突っ込みました!!

 「にゃー!!!」

 「ちょ、何やってるの大妖怪さんっ!!」

 「喉を刺激して吐き出させてやろうかと思って」

 「ひどっ! なんて酷い方法を!!」

 「仲間が消化されるのをじっと待っているよりは酷くないと思いますよ」

 「あっ。なにちょっと私たちへの批判含ませてるんだこのやろう」

 「おい! 見てみろ千夏!!」

 「うえー」

 ウサギさんが見ろと言っていた方向を向いてみると、大妖怪さんに腕を突っ込まれたクロネコバスが、げーげー吐いていました。
 うっわぁ……ホント苦しそう。


 「…………あれ? 雪女さんとリーファちゃんは? 全然出てこないんですけど?」

 「ホントだな。…………もしかして、もう消化されちまったとか?」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……」

 「…………出発しますか。黒い星の民の所に」

 「それもそうだな」

 よーし♪ いよいよ最終決戦だ♪




 12月2日 土曜日 「最終決戦の場へ」

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 「千夏さん……いよいよですね」

 「女神さん……。ええ、いよいよ最終決戦です。
  黒い星の民へたどり着くための手段を手に入れましたし、あとはもうアイツを倒すだけなんです!!」

 「今までの、本当に長い戦いが、ようやく終わるんですね……」

 「そうです。終わりにさせるんです。
  私たちの手でね……」

 「力を貸せないのは非常に残念ですが、私はこの世界で千夏さんの事を応援しています!!
  千夏さんの傍にはいつも女神がついていたというをお忘れなく……」

 「ちょっとちょっと女神さん。一緒にいれなくて残念ってなにさ?
  なんであなたは来ない事前提で話進んでるのさ?」

 「千夏さん! 頑張ってくださいね!!」

 「おい!」

 「千夏さん!! 頑張ってくださいね!!!!」

 意地でも行かないつもりかお前。



 「千夏さん。これを持っていってください」

 「冥王星探索団のお兄さん……。
  あなたも一緒に来てくれる気は無いんですね?」

 「そんな事言われましても。私、ただの探偵ですし」

 まあ、別に私も期待していたわけじゃないですけどさ……。

 「で、なんですかこれ?」

 「私と妹が想いを込めて作ったペンダントです」

 「へぇ……よく出来てるじゃないですか」

 「これさえあれば銃弾が胸に当たっても生き残る事が出来ますよ」

 「こんな貧弱そうな物に命を預ける気にはなりませんけどね。
  銃弾が怖いなら素直に防弾チョッキ着るよ」

 「あとこのペンダントを開けるとですね、スイッチが現れます」

 「スイッチ? なんの?」

 「自爆装置のです」

 「いらねえ。死ぬほどいらねえ」

 黒い星の民を倒せそうに無かったら自爆してこいってか?
 おぞましい餞別だな。




 「じゃあ行くか千夏?」

 「はいウサギさん。
  ……女神さん、本気でついてこないつもりですね」

 「まあ良いだろ。あまり役に立たなそうだし」

 それは確かに言えてます。

 「……よし!! じゃあさっそく出発です!!
  いざ、黒い星の民のもとへ!!」

 こうして私たちは、熱く燃える勇気を胸に、最終決戦へといざなうクロネコバスに乗り込んだのでした。






 「冥王星発、黒い星の民行きをご乗車いただき、まことにありがとうございます。
  次は〜、次は世田谷〜」

 「各駅停車なのかこのバス!?」

 っていうか次の駅は世田谷なんですか。
 わざわざ冥王星まで来なくても、世田谷で乗れたんですか?








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