12月3日 日曜日 「バスの中での決意」

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 「次は飯田橋〜、飯田橋〜」

 「……なんか全然目的地へ向かっている気がしませんねウサギさん。
  いや、むしろ逆走してるような気がします」

 宇宙的尺度で考えれば大差ないのかもしれませんけど……冥王星から地球まで行かれるとなあ。
 しかも今度は飯田橋だし。



 「まあ時間が出来てくれた事はありがたいんじゃないか?
  作戦のひとつやふたつ、立てられるしさ」

 「作戦かぁ……本当に、今度の戦いでは死力を尽くさないといけないんですよね……」

 「ああ。これが本当に最後の戦いだからな。
  ここで負けたら、今までのたくさんの事が無意味になってしまう」

 「そっかあ……そう思うと、なんだかこの戦いの日々も感慨深いものに感じますね。
  思い起こせば、女王のメッセージ入りのアンドロイドを購入したのが全ての始まりだったんですよね……」

 「そんなスターウォーズ的な壮大な始まりかたしてないだろ。
  どういう美化の仕方してんだ」

 「あれ? 違いましたっけ?
  ……っていうか私たち、なんで黒い星の民と戦う事に なったんでしたっけ?」

 「そりゃあ、黒い星の民の奴がこの宇宙を滅ぼそうとしてるからだろ?」

 「で、なんで私たちがそれを止めなくちゃいけないんでしたっけ?
  こういうのとか、アメリカに任せるもんじゃん。ハリウッド映画では」

 「ハリウッド映画じゃなくて現実だからじゃねえの?
  一番黒い星の民に因縁があったのが俺たちだっただけだろ」

 「ああ、そうなんですか……。
  こう考えてみるとあれですね、私たち、とてもじゃないですが世界を救う志しをしっかりと持っているとは言えませんね」

 「まあ、現実なんてこんなもんじゃねえの?
  英雄なんて呼ばれてる奴みんなが、たいそうな意識持ってたわけじゃないだろ。
  それに……のらりくらりと世界を救った方が、俺たちらしい」

 「そうですね……確かに私たちらしいです」

 今はこうやって戦いの中に居ますけど、それはあくまで、私たちの日常の延長線上なんですよね……。
 しょうもなかったあの日常を取り戻すために、そこに戻ってくるために戦っているんです。
 そんなしょぼくて、でも何よりも大切な物のために戦っている私たちには、大儀なんて似合わないのかもしれません。

 「ウサギさん……絶対に、勝ちましょうね」

 「……ああ。絶対な」

 私たちはこのバスの中で静かに、でもしっかりと戦う意志を固めたのでした。




 「次は五反田〜、五反田〜」

 「まだ地球をうろつくつもりなの!?」

 快速とか無いんですか? このバス。



 12月4日 月曜日 「ついに到着」

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 「次は黒い星の民〜、黒い星の民〜」

 「う、ウサギさん!! 今の聞きましたかっ!?」

 「ああ……ようやく到着するみたいだな」

 「ふぅ……良かったですねえ。このままだと本当に乗り物酔いで死にそうでしたよ。
  さすがに数日間バスに乗り続けるのは辛かった……」

 東海道を走り始めた時は、さすがに絶望しましたね。
 なんにせよ、黒い星の民の所へ到着できて良かったです。


 「いよいうよだな千夏。準備はいいか?」

 「ええ。トイレはもう済ませました」

 「そういう事じゃなくて。ほら、武器とかそういうの」

 「武器ですか? 私、武器なんて持ってきてませんよ?」

 「え!? そうなの!?」

 「はい。どんな戦場でも身ひとつで挑むのが私のポリシーですから」

 「どこの格闘家の信念なんだそれは……。
  そういうのは腕に自身があってからやれよ」

 ほら、よく言うじゃないですか。素人が武器を持つと逆に危ないって。
 そういう所を加味して、武器を持ってないんですよ。
 まあ本当の所を言えば、扱いが下手すぎてどうにもならないだけなのですが。



 「終点〜、黒い星の民〜。黒い星の民です〜。
  ご乗車、まことにありがとうございました。またのご利用をお待ちしておりますー」

 「ついに到着しましたよウサギさん。
  あのドアの向こうには、全ての元凶である黒い星の民が居るんですよね……?」

 「ああ、そうだろうな。……よしっ! 行くか!!」

 「ええ! そして黒い星の民の奴をいくつかぶん殴ってやりましょう!!
  さあ! 最終決戦だ!!」

 私たちは自分たちを奮い立たせ、バスから降り立ちました!!





 「……ウサギさん」

 「……どうした?」

 「……ここってさ、黒い星の民がいる場所なんだよね?
  なんか次元的に私たちの世界とは別な世界なんだよね?」

 「……らしいね」

 「でも……でもこれって……なんだか、すごく日本に似てません?」

 そうなのです。私たちが降り立った地は、まさに日本という風景で……いや、もっと言ってしまえば、
 私たちが住んでいた家の近所のような世界だったのです。

 「も、もしかしてこれは……私の家の近くに黒い星の民が住んでいたとか!?
  ご近所さんだったのでしょうか!? ちくしょうめ!! ご近所づきあいなんてしてなかったから、全然気付かなかった!!」

 「いや、さすがにそれは無いだろ。
  しかし……本当に俺たちが住んでいた町に似てるな」

 「ええっとまずとにかく……」

 「とにかく?」

 「私たちの家、見に行きましょうか?」

 「……そうだな。黒い星の民、探さないといけないしな」

 まさか最終決戦の場が、私たちの家になったりしないですよね……?




 12月5日 火曜日 「我が家」

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 「おお……見てくださいよウサギさん。
  これはまさしく、私たちの家ですよ………」

 「ホントだ。まさしく、俺たちの家だな」

 そうなんです。
 黒い星の民の居る次元へとワープしてきた私たちなのですが……何故かたどり着いた場所は地球にある私たちの家があった町でした。
 いや、正確言うには私たちの居た町に、恐ろしく似た世界というべきでしょうか。
 この町では人がひとりも見かけることが無かった事が、
 ここが私たちが住んでいた次元とはまったく違う世界なのだという事を証明しているようなものでした。

 「ねえウサギさん……。ここ、いったいなんなんでしょうか……?
  私たちの世界と似ているせいか、すごく懐かしくて、また酷く怖く感じるのですけど………」

 「まあ単純に考えるなら、黒い星の民が作った疑似的な世界なんだろうな。
  なんのために俺たちが住んでいた世界に似せたのか分からないが。
  ……いや、多分、千夏の事を大分意識したんだろう。
  他の星の民が俺たちの時空に存在しない以上、黒い星の民の目的の唯一の障害になるのは千夏だけだから」

 「くっ……別に気にかけてくれなくていいのに。
  私の事なんて放っておいてくれれば良かったのに」

 おかげでこんな大変な目に合わされているのだと思うと、ホントやり切れませんよ。



 「……ウサギさん。私、なぜだか分からないですけど、この家の奥に黒い星の民が居る気がします」

 「それは奇遇だな……。俺も、何故かそういう確信がある」

 もはや遺伝子的に退化したと思われた私たちの本能と呼べる部分が、
 とても恐ろしい存在の位置を教えてくれています。
 もはや私は機械の体のはずなのですが、細胞のひとつひとつがその家に入る事を、頑なに拒否しているのです。
 しかしそれでも、私たちは無理やり肉体を動かし前進しようとしました。

 「……さあっ! 行きましょうウサギさん!
  戦うために!!」

 「ああっ! 行ってやろうじゃないか!!」

 こうして私たちは、異世界にある私たちの家に、入って行ったのでした……。




 「パンパーン!!」

 「え!? なに!? この音なに!?」

 「「せーの……千夏ちゃん、誕生日おめでとう!!」」

 「え!? なに!? なんなの!?」

 私たちを家の奥で待っていたのは、
 女神さんと雪女さんとリーファちゃんと加奈ちゃんと……そして、お母さんでした。



 ……え? なにこれ? というかですね、私、今日は別に誕生日じゃないですよ?
 え? どういうこと?


 12月6日 水曜日 「誕生日パーティー」

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 「誕生日おめでとーございます千夏さーん」

 「ああ……ネコバスにってきり消化されたものだと思っていた雪女さん……。
  無事だったんですか。っていうか、誕生日ってなんですか」

 「もー、何を言っているのですか。今日は千夏さんの誕生日じゃないですか」

 「いや、そういう設定になった覚えはないですけど?」

 「じゃあ今日からこの日を誕生日にしちゃえばいいじゃないですか」

 「なんでだよ。そんな事許されるわけないでしょうが。
  誕生日プレゼントが欲しいキャバクラ嬢ならまだしも」

 「いや、それも別に許される事では無いと思うぞ?」

 私と同じように呆けているウサギさんが、そう的確にツッコミを入れてくれました。
 いやしかし……本当にどういう状況なんですかこれは。

 「ほらほら、おふたりとも、そこで立ってないで、中に入ったらどうですか?
  素敵な料理やプレゼントを、いっぱい準備しているんですからね」

 「は、はぁ……。それもそうですねえ。
  じゃあ、おじゃましまーす……」

 「もう千夏さんったら、ここは自分の家でしょう? おじゃましますは無いんじゃないですか?」

 そうは言われてもですね……この、家全てから漂ってくる雰囲気は妙な違和感を感じさせてくれまして……。
 とてもじゃないけど、自分の家と同じものとして捉える事なんて出来ないですよ。
 本当に、異質な建物に思えるのです。


 私とウサギさんは雪女さんに促されるまま、家の奥へと入っていきました。
 私たちの野生の本能のような物では、この奥に黒い星の民の奴が居るものだと思っていたのですが……やはり気のせいだったのでしょうか?
 黒い星の民が居るという次元にワープしたつもりでも、本当はただ地球に戻ってきてしまっただけなのでしょうか?
 なんだかそういう事を考えていると、ぐるぐると思考がループしてしまう気がします。

 「はいどうぞ千夏さん! お誕生席にお座りください!!」

 「え、でも。やっぱり今日は、私の誕生日でも何でもないですし」

 「いやいやいや。いいですからいいですから。どうぞお座りくださいな」

 「だからですね、誕生日でも何でもないのに祝われるのはなんだか違う気が……」

 「いいから座れってんだろっ!!」

 「は、はいっ!!」

 うわぁ……びっくりしたよ。雪女さん、マジ切れするんだもん……。
 …………っていうかあの人、本物の雪女さん? 本物の雪女さんなら私に対して切れるなんていう命知らずな事しないはずじゃ……。
 じゃあやっぱりこの状況って、黒い星の民の罠…………


 「じゃじゃーん! どうですか千夏さん! 私特製の誕生日ケーキです!!」

 「へ、へぇー。よくできてますねー。本当にすごいですー」

 あ、やべ。警戒するあまりすげえよそよそしくなってる。

 「さあ千夏さん! このケーキに立っているろうそくの火を吹き消してください!!」

 「え、あ、うん……。あのさ、もしかしてこの火を消したらケーキの中に仕込まれている爆弾が爆発するとか……」

 「うふっ。なにを言っているのですか千夏さん? ケーキが爆発するわけないでしょう?」

 「あは、あははは……。そうですよね。そんなわけないですよね」

 「…………例えば敵の世界に入り込んだのならまだしも」

 「え? 今なんて言いました雪女さん!?」

 「さあ吹き消してください♪ このままだとロウが溶けてケーキに付いちゃいますよ♪」

 「ははは……そだねー……」

 なんか、今までに経験したこと無いほど恐ろしい誕生日パーティーなんですけど?



 12月7日 木曜日 「寝床ににて」

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 「……ウサギさん。起きてます?」

 「……ああ。まだ眠っていないよ」

 私とウサギさんは、私たちの家……に良く似た家の一室のベッドで、横になっていました。
 自分たちの家であるはずの天井の木目が、今日はなぜか酷く不気味に見えます。

 「いやぁ……あのパーティー、一体なんだったんでしょうね……?」

 「なんだったんだろうなぁ? とにかく、すごい勢いで祝われたのは確かな事だよな」

 「そうですねえ。本当にすごい勢いで祝われましたよねぇ。
  リーファちゃんなんて、私たちを祝うためにリアルくろひげ危機一髪という芸を見せてくれましたからねえ」

 「本当にすごかったな。命かかってたもんな。もう芸の域を越えて行っているよな」

 「知ってました? あの芸やったあと、リーファちゃん少しわき腹押さえていたの。
  絶対あれひとつ刺さったんですよ」

 「真剣使ってたからなぁ」

 「多分私が刺してやった奴かも。何か感触あったし」

 「千夏、思いっきり刺してたからなぁ。さすがに皆びっくりしてたぞ。
  あそこまで命を奪いに行くような刺し方するのかって」

 「私、何事も本気主義なんで」

 「その熱意は決して人殺しに使うべきものじゃないよな」

 それもそうっすね。


 「結局誕生日ケーキには何も仕掛けありませんでしたしねえ……。
  爆弾のひとつやふたつやみっつぐらい、入っているかと思ったのに」

 「美味かったな。あのケーキ」

 「そうですね。美味しいケーキでした……。
  はっ!? もしや、あのケーキの中に遅効性の毒が入っていたんじゃ!?」

 「それは無いだろ。俺たちロボットなんだし。
  そういうのあまり関係ないと思うぞ」

 「そういえばそうでしたね。すっかり忘れてました。私、ロボットだったんだぁ」

 「そこは忘れずに居ようよ」

 「じゃあ右手の甲にでも『私はロボットですよ、お忘れなく』とか書いておきましょうかね?」

 「それはかなり変な人に見えるだろ。やめときなさい」

 「はーい」

 「……」

 「……」

 「……」

 「…………平和ですね。すっごく」

 「そうだな」

 「本当にここ、黒い星の民の本拠地なんですかね?」

 「さあ、どうなんだろうな」

 「私実はね、パーティーの途中、ちょっと怖い事思っちゃったんですよ。
  ここに居るお母さんや雪女さんやリーファちゃんたちは、現実のそいつらよりすっごく優しくて……。
  だから、もしずっとこっちに居たらすごく幸せなんじゃないかなって……」

 「千夏……」

 「ウサギさん。絶対に、明日は黒い星の民を倒しに行きましょう。
  ここにずっと居ると、なんだかすごくダメになる気がする。
  優しすぎる夢に毒されて、現実に帰れそうに無くなるっ!!」

 「……そうだな。明日は、絶対に黒い星の民の奴を倒しに行こう」

 こうして、私とウサギさんは懐かしいベッドの中で、黒い星の民への敵意を固めていったのでした。






 「それはそうとしてウサギさん……」

 「……なんだ?」

 「なんだかさ、さっきから下の階から包丁を研ぐような音聞こえませんか……?」

 「……実はさ、俺もそれ気になっていたんだよね。
  幻聴だったと思っていたんだが」

 …………朝、ちゃんと無事に迎えられるんでしょうかね?



 12月8日 金曜日 「連日パーティー」

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 「おはようございますウサギさん」

 「おはよう千夏。よく眠れたか?」

 「いえ。昨日の包丁の音が気になって……。
  というか結局何もありませんでしたね」

 「本当だな。なんか肩透かしくらった気分だな」

 「誕生日パーティーのケーキといい昨日の包丁の音といい……中途半端にびびって損しましたよ。
  もしかしてそういう作戦なんですかね?
  意味の無い事でびくびくさせて、不安感を募らせていくみたいな」

 「ずいぶんとみみっちい作戦だな……」

 「確かにそうですね……。そんな事あるわけ無いか」

 「お誕生日おめでとーございますっ!!」

 「うっわぁっ! びっくりしたぁ!! いきなりなんですか雪女さん!?」

 「お誕生日おめでとうございますウサギさん!!
  パーティーの準備が終わりましたので、どうぞこちらにお越しくださいっ♪」

 「は? 俺? 俺の誕生日今日じゃないぞ?」

 「いいじゃないですかそんな細かい事」

 「細かくは無いだろ別に。一年に一回の大切な行事だろ」

 「さあっ! はやくリビングへ!! みんな主役の登場を首を長くして待っているのですよ♪」

 「いやいやだからだから」

 「いえいえどうぞどうぞ」

 なんだこの攻防。

 「じゃあっ、じゃあいおかりなさいパーティーという事にしましょう!!
  それでどうですか!?」

 「どうですかと言われても」

 「じゃあ私の誕生日パーティーという事で! そういう事なので祝ってくださいよ!!」

 「なんだか無理やりだなオイッ!!」

 「だからどうかリビングに!! 一緒にパーティーしましょうよぉ!!」

 「わ、分かったよ。後からいくから、そんな詰め寄らないでくれ……」

 「本当ですか!? じゃあ待ってますからね!!」

 雪女さん、嬉しそうに走って行っちゃいました……。




 「千夏……。やっぱりおかしいぞこの家」

 「そうですよね。本当の私たちの家ならば、連日パーティーをやるなんていうお金があるわけが無い」

 「そういう判別方法はどうかと思うが……まあ、言いたい事は分かる」

 「なんで皆そんなにパーティーをしたがるんですかね……?」

 「さあな。全然わかんねえ。ただ言える事は、すごく恐ろしいものが潜んでいるような印象を受けるって事だ……。
  なんだかとてつもなく不吉な予感がする」

 「そうですね……」

 「千夏。ずっとここに居るのは本当に拙いかもしれない。早くこの家の中にいるかもしれない黒い星の民を探すぞ!!」

 「ちょ、ちょっと待ってくださいウサギさん!! それをやるより先に、やっておかなければならない事があると思いますっ!!」

 「え? それって一体……」

 「お腹、すっごい空いたっ!!」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……少しだけパーティーに顔出して、ご飯食べて行こうか?」

 「それしてもらえると嬉しいです……」

 ほ、ほらっ!! 腹が空いたら戦も出来ないって言うしさぁっ!!
 言うしさあっ!!



 12月9日 土曜日 「黒い星の民を探して」

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 「ふう……ようやくパーティーから抜け出せた……。
  あー、危なかった。あのまま楽しんでしまいそうでしたよ……」

 「本当に危なかったな。あのままお酒を楽しんでいたら、絶対にそのまま酔いつぶれてしまいそうだったよ」

 「ああ、ウサギさん……。ウサギさんの方も抜け出すのにやっぱり大変だったんですか」

 「まあね。千夏のお母さんが、すっごく絡んできてたから」

 「我が親ながら恥ずかしいです」

 「さて……それより、これからどうしようか?」

 「もちろん、この家の中に潜んでいると思われる黒い星の民を探しましょうよ」

 「探すって言ったってなぁ。この家で寝泊りした時にいろいろ調べて見たけども……ここの家族以外の人間の気配なんて感じなかったぞ?
  使われていない部屋も見て回ったが、怪しい人影すら見なかったからなぁ……」

 「もうウサギさんったら……忘れたんですか?
  私たちの家に潜む秘密の事を?」

 「秘密? なんだそりゃ」

 「地下シェルターですよ!! そして、そのシェルターよりも下に広がる地下世界のことですよ!!」

 「ああっ!! 確かにそういうのあったな!!」

 「敵が隠れるならきっとそこですよ! なんていったって、あそこほど人目に付かない場所はありませんからね!!」

 「うん。確かにそこに黒い星の民が居る可能性は高いと思う。
  そうか……そこの事をすっかり忘れていたよ」

 「よし! じゃあさっそく地下世界を探索しましょう!!
  長期滞在しても良いように、パーティーのご馳走いくつか失敬してきましたから!!」

 「用意いいな千夏……」

 いざ、地下の世界にレッツゴーです。




 「いやぁ……しかし久しぶりですね。この地下シェルターの扉を開けるのは」

 「本当だな。そういえば最近、入る事無かったよな。なんでだろ?」

 「そもそもシェルターなんてよほどの事がない限り入らないものですからね……。
  今までが緊急事態が多すぎたんですよ」

 「確かにそうだな。というかこのシェルターの中に、トラとか居たよな?
  そいつとか今どうしてるんだろ……? もしかして餓死とかしてないか?」

 「ああ……私にやたらと噛み付いてくるトラですか。
  まあ大丈夫じゃないですか? シェルターの中にも一応いくらかの食料が蓄えられていたみたいですし。
  それに死んでも大して困らない存在ですしね♪」

 「うわ。酷い」

 あんなに噛み付いてくるトラに親しみなんて持てるもんですかい。
 どうなっていようが知りませんよ。

 「さて……開けるぞ千夏?」

 「はいっ! どんと来いです!!」

 ウサギさんは重たく閉じられているシェルターの扉を、一気に開きました。
 よし! 黒い星の民の奴を、絶対に見つけ出してやるからな!!

 「…………って臭!? なにこの臓物が腐ったかのような匂い!?」

 「うわぁ……少し開けない間にとんでもない事に……」

 こ、この中に入っていかなければならないんですか……?
 あ、あのー、ガクマスク用意する時間貰ってもいいですかね?








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