12月17日 日曜日 「黒い星の民の正体」
「千夏よ。私の素顔を拝むための心の準備はもう済んだか?」
「ええ……もう覚悟決めましたよ。
というか、律儀に私の事を待ってくれていたラスボスの存在に、再び心がかき乱されそうですよ」
「じゃあもう少し待っておいてやろうか?」
「いえ。結構です」
何ですかその無駄な優しさは。
逆に怖いです。
「それでは私の姿を見せてやろう。せいぜい気をしっかり持っていられるように頑張るんだな」
「くっ……たいそうな言いぐさじゃないですか。よほど自分の容姿にある意味での自信があるんでしょうね!!」
まあどうせ酷く醜く、息を止めてしまいそうな化け物とか、
私の身近な人が黒い星の民の正体でした的な、そんな驚きぐらいなんでしょうね。
特に身近な人が黒い星の民の正体だった! ……とかいうのはありそうです。
私の身の回りで一番意外だと言えば……もしかして加奈ちゃん!? 加奈ちゃんが黒い星の民の正体!?
それは……ありえなさそうで逆にありえそうです!!
そもそも加奈ちゃんって生まれがかなり特別な子だから……。
う〜む……考えれば考える程疑いが強まっていくような気がする。
「私の正体は、これだぁっ!!」
「私は加奈ちゃんがどんな子でも決して見捨てたりしない…………って、あれ?
あの黒い星の民…………私?」
そうなのです。嫌悪感すら感じる闇の空間から現れたのは、まさしく私そのもの……。
頭にアンテナを生やした、素敵な美少女だったのですっ!!
……美少女は言い過ぎか。我ながら。
「なっ、なんて嫌な趣味してるんですか黒い星の民っ!!
自分の敵である私の姿に化けて、混乱を誘うだなんて……それでもラスボスですか!! みみっちい!!
ドラクエでラスボスがマネマネだったらどうするんですか!?
あなただってがっかりするでしょう!?」
「違う……」
「違わないです! マネマネだったら絶対がっかりする!!」
「そういう事を否定しているんじゃない……。
私は、お前の姿に化けているという発言に対して否定の意を唱えているのだ」
「え……? でもそれは、どう見たって私の……」
「まあ似ていて当然だろうな。
私はお前にとって、『17周期前の千夏』なのだからな」
「なっ……!? そ、それは、どういう意味なのですかっ!?」
「では説明してやるので、お配りしたテキスト21ページを見るように」
「ご丁寧も本を使ってお教えくださるのですか!?」
ほんとどれだけ親切なんだ。
12月18日 月曜日 「ラスボスの冗談」
「それではこれより、黒い星の民である我がなぜ千夏というモノに非常によく似ているのかについての説明を行いたいと思う」
「それはまあ……ご丁寧にどうも」
どういうわけか、私たちは真のラスボスである黒い星の民から講義のような物を受けなければならなくなってしまいました。
なんだろうね? この不可解展開は?
「おい千夏……。今がチャンスなんじゃないのか?
油断している今こそが、勝負を決する最良のチャンスじゃないのか?」
「ううん……そうかなあ? そうなのかなあ?
なんだか私には攻撃しようだなんて気が起こらないのですよ」
「どうしてそんな…………。
……あいつが、千夏によく似ているからか?」
「そんな事は……いや、そうかもしれません。
今あの黒い星の民を倒してしまったら、それらの秘密が一生明らかにならない気がして……。
どうしても、攻撃できないのです」
「しかしそれじゃあ……」
「はい。では今から説明しますのでよく聞いておいてください。
一度しか言う気がありませんので、そのつもりで」
ウサギさんの声を遮るように、黒い星の民の講義が始まってしまいました。
私は一言一句聞き逃す事がないように、前のめりになって講義に挑みました。
「この紙に書かれた直線を見てください。
これは人の視点では2次元の物……つまり、縦軸と横軸の世界にあるものだと認識できます。
しかし、実際にはそうではありません。ミクロ的に見ればこのインクで描かれた線にも分子レベルでの『厚み』があります。つまり、三次元の……いえ、時間と共に分子構造の劣化、また原子の振動およびガンマ崩壊が起こるわけですから4次元的な……」
「あー! あー! ちょっといいですか!?
その話と私たちが互いにそっくりなのに、何の関係が!?
もうちょっと簡単に説明できませんかね!?」
「今のは拡大された視点からの俯瞰であれば、多次元的な空間であろうと至極単純な認識とされるという事についての説明を行おうと思っての語りだったのだが……」
「それ、本当に必要なんですか? 説明するにいたって」
「ああ。割と」
「……出来るだけ簡単にお願いします」
「我とお前は生き別れた双子の姉妹だ」
「え!? うそ!? そうなの!?」
そして説明はやっ! 一言で済んでしまったじゃないですか!!
「まあ嘘だけど。
じゃあ次の説明に入るぞ」
「……」
冗談を言うラスボスってのも斬新だなあ。
なんというか、かなりカチンとくるけど。
12月19日 火曜日 「長い講義」
「えー、そういうわけであるからして、つまり拡大解釈的に言えば時間概念でさえ、2次元という単純階層に落とし込む事ができ……」
「……」
黒い星の民の講義……『なぜ私と黒い星の民が双子の如く似ているのでしょうか講義』は、いまだ続いていました。
まったく、何が言いたいのか分かりません。だって半分ほど寝てましたからね。この講義。
しかしまあ……寝て起きてもまだ講義が続いてるって事は、まだ結論まで達していないという事なのですよね?
長い。死ぬほど長い。なんでこんなに時間かかってるんですか……。
「あの〜、もうちょっとスピードアップを………」
「うるさい。黙ってなさい」
「はい」
講義のスピードアップを要求したらこうずばっと一刀両断されてしまいましたよ。
ああ……なんて強情さなんですか。
「つまり、時間移動時空移動は、超次的な俯瞰視点で見れば投下点を設定してやればいいだけの単純な機構によって可能であるのです。
この超次的な俯瞰視点の持ち主……つまり星の民は、ある程度自由に空間を越えることができるものの、その時空観測技術がいまだ不明瞭のため、
ピンポイントでの設定がいまだ出来ずに……」
「……ウサギさん。もうほんと、どうしましょうか? ちょっと耐えられなくなってきたんですけど……」
「……zzz」
「ウサギさんっ!? もしかして寝てるんですか!?」
「zzzzz…………」
ウサギさんもどうやら私と同じようにこの講義が退屈でしかたないようで、ぐっすりと寝てしまっていました。
自分には関係ない事だという気持ちが強いためか、私よりも深く寝ることが出来たみたいですね。
羨ましい。その立場は、すごく羨ましい。
結局私は彼女の……黒い星の民の話を最後まで聞き続けなければならないんですもんねえ。
ちょっとめまいがするわ。
「だからそれによって宇宙は一定の周期で誕生と消失を繰り返すことが立証されました。
これはもちろんパラレル的……多重世界的に誕生と消失を繰り返すわけでして、一定軸上にならんでいるわけではないのですが、
宇宙的な座標を計測する事によって、その宇宙の直属の祖先とも言える空間の存在を特定する事ができ……」
そもそもさあ、私、ここに黒い星の民を倒しに来たんだよね?
それなのにこうやって正座して勉強してるって……いったい何の冗談だって言うのですか。
「つまり、私はこの宇宙が誕生する前に、この宇宙の座標に存在していた宇宙……17回周期前に存在していた宇宙で、
『千夏』として生きていた存在だったというわけなのです」
はぁー、お腹空いたなぁ。早く授業終わらないかなぁ。
……あはは、これじゃまるで本当の学生生活を送っているような……って、ええええ!!!?? 今終わった!?
「い、今授業終わりました!?」
「はい。終わりました」
「それで!? 結局なんだったんですか!? 私とあなたが似ている理由は!?」
「だから言ったではないか。二度、説明するつもりは無いと」
「そう言わずに! どうか!! どうか教えてくださいよ!!」
「私とあなたは、生き別れた双子の姉妹です」
「だからそういう冗談は良いって言ってるでしょうが」
この世界が生まれる前の、17回前の存在だって言ってたのは気のせいだったのですか?
気のせいじゃないよね?
12月20日 水曜日 「いざ最終決戦」
「つまり、私はお前と同質の存在……パラレルワールドで生きていた、他の世界の千夏という事なのだ」
「な、なーるほど!! ……っていうか、そうならそう言えや!! 何今までまどろっこしく説明してくれたんですかっ!!」
「お前、割とバカそうだから、最初からきちんと説明してやろうかと思って」
「失礼な!! これでも聡明なお子さんで近所では通っているんですよっ!!」
というか最初から説明しようというその親切な心意気は買いますが、
原理や仮説なんかから説明されると、誰だって混乱するっての。
そんな事いちいち説明されるよりは、他の世界の自分って言ってもらった方がいい。
「…………ってええええ!!?? 他の世界の私!? ラスボスが、他の世界の私自身だって言うのですかっ!?」
「その通りだ。ようやく上手く飲み込めてきたか」
「そんなバカなっ!! 私ほど無害で可愛く、みなに愛される存在は居ないというのにっ!!
それがかたやどこか別の世界では、宇宙そのものを闇に葬ろうとしている魔王ですかっ!?」
「我とお前は同質の存在ではあるが、同位の存在ではない。片方がどうしようもなく人に忌み嫌われ、いじめられているクズだとしても、
私が神の力を有している事に対しては、何の関係もない」
「おおう……言ってくれるじゃないですかこの女。
っていうかあなたは何で神様の……星の民の力を持っているのですか?
星の民っていうのは遥かかなたの宇宙からやってきた神様の事で……私たちとは違う性質の生き物のはずなのに」
「その通り。星の民は遥かなる遠方の宇宙からやってきた。『17周期分』の遠方からな」
「え……?」
「お前たちが星の民と呼んでいる種族……それもまた、別次元の人類にすぎん。
もちろんこの世界とはいろいろな物が違っている世界で生きていたが……ある意味で同質だ。
太陽系の惑星は『4つほど多かったし』、『月は半分ほど欠けていた』。そういう世界で生きていた人類だ。
そして、『神様の積み木』たる力も、ほとんど最初から有していた」
「つまり……他の星の民も、あなたたちが生きていた時空からの来訪者……?」
「そういう事だ。くそったれた私の同胞者さ」
「と、という事は……あなたは、自分と同じ世界に生きていた者たちを、全部根絶やしにしたという事なのですかっ!?
あの、私のおばあちゃんとお母さんの居た集落を襲った時に!!」
「根絶やしとはいかないまでも、自らの時空から逃げのびた奴らはほとんど始末した」
「そんな……なんでそんな酷い事を……」
「酷い? あんて愚かなセリフを吐くんだお前は……。
お前は、何一つ酷いなんて思っていないはずなのに。自分の知らない者たち……自分とは関係のない世界に生きていた者たちの死など、
お前にとってはどうでもいいだろうに」
「まあ確かに、どこぞの誰とも知らない他世界の住人が死んんで涙を流してやるほど、自分と他人に対して境界線を引けていない人間ではありませんが……
でもね、それでもやっぱりムカつきますよ。あなたみたいな人は。あなたみたいに、自分の事しか考えていない人は」
「自分の事しか考えていない……? それは心外だな。私ほど、『世界の事』を考えて生きている人間はいないというのに」
他の世界の私……いえ、黒い星の民が立ち上がりました。どうやら、いよいよ決戦を始めてくれるようです。
長かった。ここまで本当に長かった。
「それじゃあ……覚悟はいいですね黒い星の民っ!!」
「お前こそ、死ぬ準備は出来たか?」
「言ってくれるじゃないのさ!! いざ、勝負!!」
私たちの決戦が、始まりました。
「…………zzzzz」
「ってあれー!? ウサギさん!? まだ寝てたのっ!? ちょっと起きてよっ!!」
ウサギさんが戦ってくれないと私が直接戦う事になっちゃうじゃないですか!!
それ、嫌です!! 助けてよホント!!
「…………お前、本当に情けないな」
うっせえコノヤロ。
12月21日 木曜日 「新ヒーロー登場」
「ウサギさんっ!! ウサギさんったら!! 起きてよ!!」
「zzzzz……」
最終決戦が始まろうとしているのにも関わらず、ウサギさんは夢の世界の旅行を楽しんでおられてました。
なんてのん気さんなんですかウサギさん。寝てる場合じゃないって。
宇宙の存亡がかかった戦いが、今まさに始まろうとしているのですよ?
もうちょっと緊張感持ってよ!! ………………いや、私もついさっきまで寝てましたけどさ。
「いきなり我が戦ってやっても興ざめだろう……。
まずは、我が星の民のつくりし異形な奴隷生物と戦わしてやろう」
「え!? いやいや! そういうのは後の人に取っておいてくださいよ!! 私には結構ですから!!」
「いやいやいや。そう遠慮するなって」
「いえいえいえいえ」
「いやいやいや」
なんだこの手に汗握る譲り合いは。
「我が呼び声に呼応せし鼓動、脈動、魂の震え。顕在せしめすは太古の泉から、肉の泥より生まれる者よっ!!
アルガウルゥ、ジャクリガァルッ!! ナァーアツラィル、フィクソアガリアッ!!
光に忌み嫌われる世界より、堕胎せよ! 堕胎せよ!! 堕胎せよ!!」
「うっわー! いいから!! なんかそんなそれっぽい呪文唱えなくてもいいから!!」
黒い星の民が呪文を唱えだすと、彼女の目の前の空間がわずかに軋みだしました。
聞いた事の無い音……おそらく、空間がたわむ音があたりに響き、どこから流れ込んできたのか分からない風が私たちの頬を撫でます。
ああ……なんか出てこようとしているのですよ。あのたわみから、何かとてつもない生き物が出てこようとしているのですよ。
「ゴアアアアアアアアガガアアアアガガアアアアアアアッッッ!!!!!」
「ひいぃっ!!??」
おぞましい叫びと共に何かとても異様な者が、空間より生れ落ちました。
私の目にはぽっかりと空間に開いた黒い穴のようにしか見えなくて……おそらく、それは光という物がソイツの事を『嫌っていて』、
避けているからそう見えるのでしょうけど……。
とにかく、普通の生物じゃないことだけは分かります。こんなのと戦えるかっ!!
「ウサギさんっ! ウサギさんってば!! お願いだから
起きてくださいよ!!」
「ふふふ……無駄だ。そいつはここで、ガス状生物を吸気していた。
もう二度と目覚める事は無い」
「な、なんですって!? でもしっかりガスマスクをして……」
「そんなもので語るもおぞましきガスの生命どもから身を守れるものか。浅はかだったな。
ああ、ちなみにお前の意識を刈り取らせなかったのはね、お前だけは我が直接手を下したかったからさ」
「くっ……この人でなし!!」
ど、どうしましょうか……? このままじゃ本当に嬲り殺されて……。
「「千夏さんっ!! 助けに来ましたよ!!」」
「え……? その声は雪女さんとリーファちゃん!?」
なんて事でしょうかっ!! ネコバスに消化されたと思われていたお二人が、なんと私の事を助けに……信じられませんっ!!
「ってえ? あの、どちらさま?」
しかし不思議な事に、2人の声がした方向にはただ一人の見知らぬ女性の姿しかありませんでした?
あの人誰?
「「ふふふ……やっぱり驚いていらっしゃいますね千夏さん。
私たちはネコバスに食べられる事によって……フュージョンする事が出来たのです!!
そうっ!! 2身合体ユキーファちゃんにっ!!」」
「ええー!? どういう原理で!?」
な、なんだかよく分からないですけど、フュージョンしたって事は強くなったって事なんですよね?
多分、私たちを助けてくれるんですよね?
12月22日 金曜日 「ユキーファちゃんの力」
「「千夏さん。ここは任せてください……この、ユキーファちゃんにっ!!」」
「どうでもいいですけど、名前、すっごくださいですよ雪女さん。あとリーファちゃん」
私が黒い星の民の呼び出した、非常におぞましい生物と戦う羽目になってしまいそうなその時、
どこからか、救いのヒーローが現れたのでした。
その名はユキーファちゃん。なんでもクロネコバスに食べられた雪女さんとリーファちゃんが融合した姿らしいのですが……
いったいどういう原理で融合したんだろうね? ドラゴンボールのノリなのかね?
「「私たちは……きっとここで活躍するために生きていたのです!!
今こそが、まさに私たちの存在意義の全てを証明するための、決戦なのです!!
千夏さん! 見ていてください!! 私たちの生き様を!! 私たちの、戦いをっ!!!!」」
「な、なんかよく分からないですけど気合入っているんですね……えーっと、ユキーファちゃん?
……というかあなたたち、本当に強くなったんですか?
役立たずが2人合体した所で何かが変わるとは決して思えない……」
「「ふふふ。確かに私たちは単体では役立たずですが……でも、3本の矢の話にあるように、力を合わせれば強大な敵であれど、倒す事は不可能ではないのです!!」」
「まあ3本の矢の話を持ち出されると、私としては1本足りないじゃんと突っ込むしかないわけですが……」
「「何を言っているのですか千夏さん。その足りない1本は千夏さんの力ですよ。
一緒に戦ってあの光に嫌われた化け物を、そして黒い星の民を倒しましょう!!」」
「え? いや、別にユキーファちゃんたちが頑張ってくれればそれで……。私は、後ろで応援していますから」
「「一緒に倒しましょう!!」」
はいはい。分かりましたよ。人の話を聞いてくれない所まで2倍になってますね。この人ら。
「グガガアアアアガガガアアアアアアッ!!!!!」
「う、うわっ!? なんか化け物が怒ってますよ!?」
「「安心してください千夏さん……。このユキーファちゃんは無敵です!!
何せ、雪女とリーファ、2人の能力を100パーセント引き出せるのですからね!!」」
「2人の能力……? そんな大層なモノ、お2人にありましたっけ?」
「「草で足引っ掛けトラップを作る事が出来たりするんですよ」」
「だからどうした? それが、今いったい何の役に立つんだ?」
すっごく不安だよ。この人たち。
「グゴオオオオゴゴオオオオオオッ!!!!」
「「う、うわぁっ!?」」
「ああ!! ユキーファちゃん!?」
なんと、あれだけ大見得を切っていたユキーファちゃんが、『光に嫌われたモノ』に、おそろしいぐらいあっさりとぱっくり食べられてしまいました。
そのままごくんと飲み込まれて……ああ、何しているんですかユキーファちゃん。
クロネコバスに飲み込まれた時と同じじゃないですか。どれだけ飲み込まれやすい体質をしているんだあなた達は。
そんなに喉に優しいのか? すんなりと食道を通っていくのか?
「グガガガガアアアアアッガガガガッ!!!!!」
「あは、あはははは…………ど、どうしよう」
このままだと私もコイツに食べられて……。
「グッガ、ガガッガ、アアッアアアッ、アァァ……」
もうダメかと思った瞬間、急に『光に嫌われたモノ』が苦しみだし、びくんびくんと痙攣し、ものすごい音を立ててその巨体を地面に横たえてしまいました。
いったい何が起こったのかと私が眼を白黒させていると、『光に嫌われたモノ』の口からユキーファちゃんが悠然とその姿を現したのです!!
「「雪女とリーファの全ての能力が2倍になっているこの状態……。
つまり、私たちの肉体の表面についている、なにやら妙な細菌の毒性も2倍!!
よく洗わずに食べたのがあだになりましたねっ!!」」
「最悪だ!! その敵の倒し方は、死ぬほど最悪だ!!」
こんな酷い倒し方はなかなかできないですよ。
さすがだなユキーファちゃん。
12月23日 土曜日 「ユキーファちゃんのダメダメな所」
「よしっ! 黒い星の民の隷属生物を倒しましたよ!! これで残るは……黒い星の民ただひとり!!
観念しなさいなっ!!」
「「そうです!! 観念しなさいっ!! この全ての元凶、黒い星の民っ!!
…………ってあれー!? なんであの人千夏さんによく似た姿してるの!?
コスプレ!? そういうコスプレなの!?」」
「アホですかユキーファちゃん……。どこの世界に私のコスプレをする奴がいるというのです。
あれが、黒い星の民の正体なのですよ」
「「えええ!? これは……いったいどういう事なのですか!?」」
「いいから。別に気にしなくていいから。ちょっと似ているだけの人だと思えばいいから」
「「いや、そう簡単に割り切れる物じゃ……」」
「とにかくっ! さあいきなさいユキーファちゃん!! 諸悪の根源の黒い星の民を、倒しちゃいなさい!!」
「「相変わらず千夏さんは水戸黄門ポジションから離れようとしないのですね……。
でも、そこがいつもにも増して素敵です♪」」
「皮肉はいいですから。最後の戦いまで前線に出ようとしない私に対する批判はいらないですから」
「「でも分かりましたっ!! やい! 千夏さんに似た人!!
今までの所業を詫びて、お死になさいっ!!」」
雪女さんとリーファちゃんの能力を持つ、パーフェクト戦士ユキーファちゃんが、黒い星の民の方へと向かっていきました。
まあパーフェクト戦士だとか言いましたけど、全然期待してはいないのですけどね。
とりあえず、黒い星の民の攻撃方法が分かればいいかなって思っていたんですけど……。
「「にああああああっっっ!!!!」」
「っ!? どうしたんですかユキーファちゃん!?」
黒い星の民へと直進していったユキーファちゃんが、突然間抜けな声をあげて吹き飛びました。
一切起き上がろうとしない事から……おそらく気を失ってしまったのでしょう。
攻撃のようなものは一切見えなかったというのに……。まさかサイコキネシスとか、そういう超能力系!?
「ちょ、ちょっと黒い星の民!! そういう攻撃は卑怯すぎやしません!?
超能力だなんて……反則だっ!!」
「何において反則というのか、その基準が分からんな。
反則だと騒ぎ立てるならば、先に我が『光に嫌われるモノ』を呼び出した時にこそ文句を言うべきだろう」
「だってあれは……よくありそうじゃないですかっ!!」
「お前はああいうのが良くある世界に生きてたのか」
うるさいやい。人の生まれに同情するな。
「それに……我は、超能力など使ってはおらんぞ」
「へ? そうなの? じゃあなんでユキーファちゃんは倒れて……」
「大方、そこらへんの小石で躓いたんだろ」
「…………」
そうか……雪女さんとリーファちゃんがそれぞれ持っている、
『どうしようもない感じで物語から退出する能力』がフュージョンによって強化されて……このような、惨状に。
もうダメダメだな。あの人らは。
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