12月24日 日曜日 「お久しぶり暴君」

odorokiaikon.jpg(40409 バイト)
 「ユキーファちゃん! ほら、起きろっ!!」

 「「うぐぐぐぐ……だ、ダメです千夏さん。私、もう戦えません……」」

 「え!? なに言ってるのユキーファちゃん!?」

 「「さっきの転倒で……足の骨を」」

 「弱っ! 弱いぞユキーファちゃん!
  雪女さんとリーファちゃんのカルシウムで骨の強度が2倍とかそういうの無いんですか!?」

 「「2倍な事は2倍なのですが、さっき私は3倍の勢いで転倒したものですから……」」

 「意味ねえなあフュージョン」

 もうちょっと頑張ってパワーアップしてきてくださいよ。
 助けられた方が迷惑だ。



 「どうした? 茶番はこれで終わりなのか?」

 「な、なに平然と涼しい言葉を言ってくれるんですか黒い星の民……。
  お頼みの異形をあんな簡単に倒されたあなたが、そんなセリフを吐けるとはね!!」

 「お頼みの異形? それはそこで元気よく跳ね回っているあいつの事かね?」

 「なっ……!?」

 なんと私の目の前では、ユキーファちゃんが命をかけて(?)倒した『光に嫌われし者』が、
 彼女の言うように元気よく飛び回っていたのでした。
 ユキーファちゃんの菌で食中毒になったとばかり思っていたのに……。

 「さて……じゃあそろそろアレに噛み砕かれて死んでもらえるか?
  我としては、それが一番望ましいのだ。お前がいなくなってくれれば、我はこの世界で神様の積み木の力を思う存分に振るう事ができるのだからな」

 「くっ……そ、そうだ。神様の積み木……。なんでそんな力を人間に……私のおじいちゃんになんかしたりしたんですか!?
  それのせいでいったいどれだけの人が不幸になったかっ!!」

 「あの男が他の星の民を殺してくれそうだったからな。我の手を汚さずに済むだろうと思って器を与えてやったのだが……まさか自害するとは。
  やはりこの世界の低俗な人類に、神の力は偉大すぎた。
  しかし……私が与えた器が、私と同質の存在であるお前の身に宿る事になり、そして我の邪魔をしてくれるようになるとは……
  なんたる偶然か。いや、むしろ必然性すら感じる」

 「結局は自業自得って事じゃないですか。ざ、ざまあみやがれっ!!」

 「ふん。だがその自業自得も、今ここで清算する。お前の死でもってなっ!!」

 ああっ、なんかやばいです!! 本気で私を殺しにかかる気だ!!
 えーっと、えーっと、どうにかして生き残る方法を……そうだ! 空舞破天流召還術!!
 相手が召還を使ってきたのなら、こっちもそれを使ってやるべきなんですよ!!

 「ええい! 誰か、私を助けて!!」

 私は冥王星探索団のお兄さんから貰ったペンダントを思いっきり握りつぶしました。
 この力任せの暴虐が、空間に亀裂を生み、私の最高の味方を召還してくれるのです!! 多分!!


 「あは、あはははは、あはははははははははははっ!!!!!」

 「そ、その声は……」

 光が弾け、私の目の前にとある人影が現れました。
 その高笑いはまた本当にお久しぶりなモノでありまして……。

 「史上最強主婦、はるかちゃんとうじょ〜うっ!!!!」

 「お母さん!!??」

 ああ……どうしてだろう。
 助けに来てもらったのに、こうも不安な気持ちになるのは……。でもこの感覚も久しぶりだなぁ。





 12月25日 月曜日 「お母さんの地獄の旅」

gimonaikon.jpg(42247 バイト)
 「誰だ〜!! 我を呼び出した愚か者は〜!!!!」

 「いいから。そういうのいいから。
  どこかの次元から呼び出された魔王っぽい演出はいりませんから。しっかりしてよお母さん」

 「あ、そうっすか。くそつまんねー……」

 なんで急にテンションダウンするんだこの人は……。
 一応最終決戦なんだから本気だして頑張ってくださいよ。

 「それにしてもお母さん……今まで一体どこにいたんですか?
  確かお母さんは冥王星に到着しようとした時に邪魔しに来た黒い星の民の刺客を止めようとして……」

 「そう。私が珍しく親心を出して千夏を逃がそうとしてしまったばっかりに……死にました」

 「え!? 死んだの!? お母さん死んじゃったの!?」

 「ええ。ものすごくあっさりと死にました。しかし、蘇りました」

 「その死にましたしかし蘇りましたの間に何があったのかたずねてもよろしいでしょうかね?
  すっごく気になるよ。いったいどういう事だ」

 「まあ別にいいけど……えっとね、まず死んだら地獄に行くわよね?」

 「ええ。お母さん程の極悪人なら間違いなく地獄に行くでしょうね」

 「地獄に着いたらさ、そりゃあもう当然の如く鬼に追いかけられるわけじゃない?
  これぞまさに本場の鬼ごっこって如く」

 「本場かどうかは知りませんけど。でも、地獄って鬼に追いかけられるものなの?」

 「そりゃそうよ。鬼はそういう仕事するために地獄にいるんだから」

 「ずいぶんと楽そうなお仕事で……」

 「手取り18万だそうだし。社宅付きで」

 「鬼ごっこしてるだけで!? すごいなその職業!!」

 「そうよ。すごいのよ鬼って職業は。千夏も大きくなったら鬼になってみなさい。
  慎ましく暮らすだけならすっごく楽だから」

 自分の子供に鬼になるように薦めるなよ。
 というかどうやったら鬼になれるんだよ。顔赤くしたり角生やしたりすればいいのか?


 「私も例に漏れず鬼に追い掛け回されたのだけど……3キロぐらい走った所でわき腹のあたりがすごく痛くなってきてね……」

 「地獄でも現実世界と大して変わらない感じな肉体反応を示すんですね。
  そこは本当に地獄なのですか?」

 「走るのももう嫌だったから、追ってくる鬼を迎え撃ってやろうと思ったの」

 「なんで!? そっちの方がはるかに大変そうじゃないんですか!? だって鬼ですぜ!? 金棒持ってるんでしょ!?」

 「こっちは銃持ってたから」

 「どっから仕入れた!?」

 「いやいや、なんとね、地獄には私の古い友人である運び屋のボブと掃除屋のジョージが……」

 「なんですかその見事に地獄に落ちて生きそうなお仕事をしてらっしゃいそうな外国人は……。
  そしてお母さんはそいつらと友達なのかよ」

 な、なんですかこの話は……? 本当にお母さんが登場する所まで説明できるんでしょうか……?




 「……」

 「……」

 そ、そして、なんであちらにいらっしゃるラスボスとその従者の異形生物は、こちらに危害を加える事無く話が終わるのを待ってくれているのでしょうか?
 そういうお決まりだから? 悪者は大切な話をしている間は攻撃しちゃいけないっていう、そういう法則があるからなのですか!?




 12月26日 火曜日 「神さまというモノ」

odorokiaikon.jpg(40409 バイト)
 「そして私は地獄の覇者となったのでした」

 「いきなり話が飛んだなお母さん。っていうかさ!! それ本当なの!?」

 「で、地球にいた仲間たちが神龍を呼び出してくれて、私は生き返る事が出来たのでした」

 「ドラゴンボールじゃん!! っていうかその話でお母さんが今まで何していたのかっていう説明はついたようなもんじゃんっ!!
  暗黒地獄編みたいな語りはいらなかったよ!!」

 「つまり、そういういろいろな事をしていて、千夏たちと合流するのが遅れちゃったの。
  ゴメンネー」

 「ゴメンネー、じゃないっ!! そのウソっぽ過ぎる話を信じろと!?」

 「信じる信じないは千夏の勝手。ただ、私はこれ以上は何も話してあげないわよ♪」

 「な……つまり何していたかなんて秘密だと?」

 「まあ、そういう事にしておいてくれればいいわ」

 ううう……いつもながり捉え所が無い奴ですね。久しぶりだとそのイラつきも段違いですわ。


 「えーっと、そこのあんたが黒い星の民ね? あら、本当に千夏にそっくり。『聞いた通り』だわ」

 「……お前が春歌か。器を最初に授かりし者。そして今は、神鉄の四肢を持つ者」

 「何が器を授かりし者だ。あれは、そんな神々しい言い方が出来る物じゃあなかったぞ?
  ただの手術であったし、ただの生体実験だった」

 「ふっ……確かにそうかもしれんな」

 「お前ら星の民だってそうだ。てめえらは自分で自分の事を神だ神だなんて言っているが……本当のところ、何一つ『神域』には達していない。
  ただお前らはその多重世界の可能性において、一番他の次元に介入できる進化を遂げただけの人間……そうだろう?
  時空を超える『技術』、自分が好きなように世界を書き直す『理論』。それらは全部、科学技術の延長にしかすぎない。
  私たちでは観測できない事象が、お前たちの世界では容易に観測できた……ただそれだけの事。違うか?」

 「いや、まったくもって正論だよ。私たち星の民は神ではない。多次元の同一存在を極力排除してはいるが……それでも『唯一のモノ』になれない。
  私と同質の存在であるそこの小娘が、この世界に存在してしまったようにな」

 「ちなみにお前たちの世界で観測された物質の最小単位はなんだ?
  こちらではレプトンとかクォークとかいう物らしいのだけど……いや、あれはまだ仮説だったか?」

 「空間だ」

 「なに?」

 「我々の世界では、『空間』が観測できる。暗黒物質が、暗黒物質ではないのさ。
  仮説やら定説などではなく、きちんと『観測』できる」

 「ああ、なんという事だ……。その事を聞いてしまったら、世の物理学者はどんな事をしてでもお前たちの世界に行きたがるだろうな。
  私たちの世界では停滞してしまった物理学の……いや、宇宙の謎を知るという純粋な夢を救う、天国のような世界に見えるからな」

 「残念だがそれは無い」

 「何? どういう事だ?」

 「お前たちが暗黒物質と呼んでいる物を観測する技術がある我らでも……さらに、観測できぬ事象がある」

 「あはは、なるほど。最小単位の下には、さらに極小な単位が在るという事か。
  しかしお前ら星の民にも知る事が出来ない事が存在しているとなると……ますますお前らは神という名から遠のいたな」

 「ああ、そうだ。だから私は神と恥じる事無く名乗る同胞が嫌いだったのだ」

 「おまえ自身も、似たようなものじゃないか……」

 お母さんは黒い星の民をまっすぐ見据え、拳を握り構えます。
 それを見た黒い星の民は後ろに下がり、奴隷の異形生物を前に立たせました。

 「お前の拳などで、こいつの存在を消せるとでも思っているのか?」

 「さっきから何度も言っているじゃないか……。お前ら星の民は、おごり高ぶりすぎなんだ。
  自分を超える存在は無いのだと、本気で信じている……」

 お母さんは腰を落とし、右手をしっかり引いて、正拳突きの構えを……。

 「私が千夏とはぐれている間、何をしていたのか。誰と、会っていたのか。その事の真実をちょっとだけ教えてやる。
  ―――本物の、神様に会っていたのさ。お前らとはまったく違う、偽者なんかじゃない、本当のっ!!!!」

 お母さんは勢いよく足を踏み出し、一瞬で黒い星の民との距離を詰めました。
 黒い星の民の前に立つ光に嫌われた異形は、主を守ろうと向かってくるお母さんに牙を剥きますが…………

 「死せろっ!!」

 「グガアアギャガヤギャアヤヤアアアアアアアアアアアッッッッッッ!!!!!」

 一撃。そう、たった一撃で、その化け物をお母さんは爆砕させてしまったのです!
 いや、あれは爆砕というよりも、まるで分解―――

 「しょせん『人間』であるお前らに、この私の一撃は……神の拳の一撃は、防ぐ事など出来ぬぞ!!」

 お母さんはそう高らかに吼え、黒い星の民に鋭い視線を投げつけたのでした。



 12月27日 水曜日 「謎のバックアップ政府」

odorokiaikon.jpg(40409 バイト)
 「ふん……何をいい気になっているのか知らないが、その程度の奴隷生物、いくらだって呼び出せる」

 お母さんに自分を守ってもらっていた異形をたやすく片付けられても、黒い星の民は決してあわてた素振りを見せませんでした。
 その冷静さが非常に不気味です。

 「いくら呼び出したってこちらわ構わないけどねー。また、さっきみたいに倒しちゃえばいいだけなんだから」

 「ふふ、面白い事を言うなお前は。いくら強がった所で、お前の体力は無限ではないのだろう?
  幾千、幾万、幾億の戦いを超えてもなお、立っている事はできるかな?」

 「何を言っているのだお前は……。それこそ、お前にも当てはまる事じゃあないか。
  あんたの力だって、無限ではない。幾千、幾万、幾億の兵を呼び出せるのであれば、やってもらいたいね。
  持久力勝負に持ち込むほどの勇気が、お前にあればなのだけど」

 お母さんはあざけるように黒い星の民を笑いました。挑発なのかなんなのか知りませんが、恐ろしく物騒な顔をしています。

 「長期戦になれば、実力があるものが必ず勝つ。裏打ちされた実力を持っているという自信があればいいのだけど……
  お前は今、私の力を計りかねているのでしょう? お前たちとはまったく違う力でもって敵を滅ぼした私の事を、警戒しているのでしょう?」

 「自意識過剰だな」

 「それならそうで結構。私にとってはなんのマイナスにもならない思考論理だからね。
  でも残念ながら、私は持久戦に持ち込むつもりは無いわ。ここで、この場で、ただ一瞬で! 終わらせるっ!!」

 お母さんは再び構えを……あの、恐ろしい威力を持つ正拳突きの構えをしました。
 本気で、彼女を打ち滅ぼそうとしているのです!!

 「ちっ……」

 「あら? 圧倒的な戦力差を感じていながら逃げないのかしら?
  ……いえ、逃げる事が出来ないのよね? あなたが『唯一のモノ』になるための機構が……
  千夏の存在を気にせずともこの世界を組みかえるための装置がまだ出来てないのよね?」

 「っ!」

 「うふふふ、図星って所かしら? それなら話が早いわ。私が今やるべき事も、しっかりと分かった」

 お母さんは懐に入っていたらしい携帯電話を取り出し、どこかへと電話をかけました。
 今はそんなことしている場合ではないと思うのですけど!?

 「もしもーし。国家首席? うん、ああ、そうみたいなの。だからさ、気にせずやっちゃってちょうだいよ。
  じゃーねー、あとよろしくぅ♪」

 「お母さん、いったい今どこに……」

 「え? んふふふふ……ひ・み・つ♪」

 「うわ。普通にきめえ…………って、わああああっっ!!!!」

 『ドガガガアアァァン!!!!』

 急に、私たちが居た空間が酷く揺れました。
 こ、これっていったい何!? 何が起こったというの!?

 「ま、まさかお前……空爆っ!! ここごと破壊する気か!?」

 「そう。その通り。お前が神に近付くための機構が完成されていないのであれば、何一つ気にする事はない。
  このパラレルワールドの地下シェルターごと……いや、この次元ごと、吹き飛ばす!!」

 「お、お母さん!? く、空爆って一体だれが……」

 「千夏とはぐれている間にさ、とある国家の首席と親密な仲になっちゃって。
  えへへー。黒い星の民殲滅のためにいろいろ力をを貸してもらちゃったんだー」

 「うわっ、うわわわっ!! すっごい空爆ですよねこれ!!
  とある国家って……もしかしてアメリカ!? アメリカと協定結んだの!?」

 私たち家族と戦争をしたアメリカと共に戦うだなんて……なんだか燃える展開ですねえ。

 「いえ、違うわ。アメリカも一応協力してくれているけど、彼らはあくまで後方支援なの。
  なんでも私たちに関わるの、もう嫌なんだってさ〜」

 「そりゃあそうだろうねえ……一般家庭相手に敗戦してたらそうも思いますよ……。
  っていうかそれじゃあいったいどこの国なの!?」

 「その私たちに協力してくれている国というのは……」

 「く、国というのは!?」

 「その名は……」

 「その名は!?」






 「…………ジャパーンッ!!」

 「そうか! ジャパンかっ!! …………ジャパン!? JAPAN!?
  え? ええ!? 日本!!??」

 「そのとおりー」

 「いや、でも日本って空爆できるような軍事力なんて無いんじゃ……。だって専守防衛の国で……」

 「大人の世界って怖いわね。だって、何が隠してあるのか分からないんだもの」

 …………そういう事なのですか。



 12月28日 木曜日 「破壊」

nakiaikon.jpg(45113 バイト)
 『ドガアアアアアアンッ!! バッガァーンッ!!!』

 「うわああっ! わわわっ!!」

 「おーほっほっほっほっほっほっ!! 壊しなさい!! どんどん壊しなさいっ!!」

 「怖いよ! 空爆の衝撃も怖いけどお母さんの顔も怖いっ!!」

 びりびりと地面が震えます。まるでそれは何かに怯える大地の泣き声のようで……本当に、おぞましく聞こえます。

 「っていうかこれ、日本の空爆なんでしょう!? 信じられないっ!! こんな軍事力を日本が隠し持っていたなんて!!
  ちょっと軽蔑しちゃうんですけど!?」

 「何を言っているのよ千夏。これは、軍事力ではないわ」

 「は!? 何言ってるんですかお母さん!! そんな珍妙な言い訳でどうにか説明がつくのだと思っているのですか!?
  お前は政治家かっ!!」

 「今私たちがいる地下シェルターを攻撃しているのは……ただの岩盤掘削用のドリルミサイル!!
  地下を掘るために作られたただの実験用機械だから……何一つ法外な事はありません!!」

 「そ、そうなの!? そういう事なの!? なんだか私にはバンカーミサイルにしか思えないのだけど……そういう解釈でいいの!?」

 「このシェルターの上にはそのドリルミサイルを62機搭載できるステルス輸送機があるのだけど……
  あれも、超高度から星々を観測するためのただの実験飛行機です。ステルス性能を持っているのは……そう、あれなの。
  夜寝ている人を起こさないように……そういう配慮をもってしてのステルス性能なの!!
  きちんと騒音公害について考えているなんてすっごく素敵よねっ!! さすが日本だわ!!」

 「ステルス性能の有無なんて夜寝ている人には何の関係もないでしょうが……。
  どう見たって他国の国境を越えていくためのものでしかないじゃないですか……」

 何時の間に私たちの日本はそんな軍事力を有していたというのですか……。
 ちょっと怖い。



 「というか質問なのですがお母さん……。私たち、どうやってここから逃げればいいの?」

 「え? なにそれ? どういう事?」

 「どういう事じゃなくて!! このままだとこのシェルターが潰されてしまうじゃないですか!!
  そうなったら私たちまで!!」

 「ああ。そういえば確かにそうだった。すっかり失念していた」

 「失念していたの!? ちょっと! その物の考えてなさはどうにかしてくださいよマジで!!」

 「大丈夫よ! だってほら、よく言うでしょう? 喉元すぎれば熱さもまた涼しって」

 「どうにかなる問題じゃないですよこれは!!」



 「おまえらっ、覚えておけよ……」

 「ああ、黒い星の民……。お前、まだここに居たのか。逃げ出していたのかと思っていたのに」

 「そこにいる小娘、絶対に殺してやる。何があろうと絶対に、殺してやるっ!!」

 「ええ、そうするしかないわよね。あなたはもう千夏を殺すことでしか、この世界を手にする事が出来ないのだから」

 「くっ……」

 黒い星の民は苦々しい顔をして、その姿をうっすらと消しました。
 ちくしょうめ……逃げやがりましたね。

 「さて、敵も去ったことだし」

 「そうですね。早くここから逃げ出さなくちゃいけませんよねお母さん」

 「…………どうしようか?」

 「ええええ!!?? まさか本気で脱出の方法考えてなかったの!?
  これからどうするのさっ!!??」

 ま、マジでどうしようこれ……。




 12月29日 金曜日 「オメガティックブラスト」

odorokiaikon.jpg(40409 バイト)
 『ドッガーン』

 『バッゴーンッ』

 「お母さんお母さんお母さんっ!!」

 「ん? なあに? どうしたの千夏?」

 「どうしたのじゃない!! この空爆を早くやめさせてくださいよ!!」

 「それはダメよ。だってまだ完全にここを破壊しきっていないんだもの」

 「それが問題だろうに!! ここを破壊しきっちゃったら、私たちまであの世行きじゃないか!!」

 「それもそうねえ。どうしましょう」

 「どうしましょう、じゃ、ねーよっ!!」

 あーもうっ! なんでお母さんはいつもこうなのですか!!
 黒い星の民の機械を壊したって、私が死んじゃったら意味が無いのでしょう!?
 もう、マジで、どうにかしてよ!!


 「……そ、そうだ! お母さんのパンチ! あのすっごいパンチならば、上の地層をぶち破っていけるんじゃないんですか!?」

 「あー、そりゃ無理ね」

 「無理なの!? なんで!? 力任せのバカが似合うのはお母さんだけなのに!?」

 「まったく褒めてない感じの評価ありがとう。
  えっとねえ、このパンチにはいろいろと制約があるのよ。
  『正常な世界でないモノ』にしか効力を発揮しないの」

 「正常な世界でないモノ……?」

 「そう。例えば星の民の力によって曲げられた現実とかね。そういうモノたちにしかすっごいパワーを発揮できないのよ……。
  ここはパラレルワールドではあるけども、本当にただ普通のシェルターでしかないから。
  星の民が神様の積み木の力を使ってある程度強化とか施していたら、何の問題も無かったんだけどね」

 「そ、そうなんですか……。お、お母さんのその腕ってさ、なんかパワーアップというか機能増強みたいな事したの?
  おばあちゃんの腕の時にはそんな能力無かったよね?」

 「うふ、うふふふ……ひ・み・つ♪」

 「だからきもいってのそれ」

 ああ……でもこの状況はいったいどうすれば。
 本気でこのまま死んでしまったら笑えませんよぉ。



 「う……っ、あ……」

 「っ!? ウサギさん!? 目が覚めたんですか!?」

 「あ、ああ……なんとか」

 「そうですかぁ。本当に良かったぁ」

 黒い星の民が去っていってしまったから、それに付随するようにガス状生物も姿を消してしまったのでしょうね。
 でも本当に良かったぁ。このまま目覚めないんじゃないかった思ってましたから。

 「ううっ、頭痛い……というかなんだこの状況は? なんで千夏のお母さんがいるんだ?
  しかもこの地鳴りは……」

 「あ、あのですねウサギさん! 実は今……私たちは、空爆を受けているんです!!
  だからさっさと逃げ出さなきゃいけないんですけど……その脱出手段が無いんですよ!!」

 「へ? なんで? なんでそういう事になってるの!?」

 「えーっと、簡単に言うと、お母さんの所為です」

 「ああ、納得」

 納得されちゃいましたよ。ただお母さんの名前を出しただけだったのに。すごいね。

 「まあ……とにかく、ここから出よう。地面に押しつぶされて死ぬのだけはごめんだ」

 「そ、それはそうなんですけど……ど、どうすれば」

 「…………くそう。この技は、あの黒い星の民のために取っておいたんだが……今は贅沢言ってられないか」

 「え? 技!? どういう事ですかウサギさん!?」

 「千夏のおばあちゃんから……ひとつだけ、技貰ったんだ。
  あまりにも反動が強すぎて何度も使うようなモノじゃないんだが……今は迷っている暇はないっ!!」

 「反動!? それって何か命に関わる事じゃ……」

 「……後は頼んだぞ、千夏」

 「ウサギさんっ!?」

 ウサギさんは思いっきり腰を落とし、私たちの上に広がる岩盤を睨みつけます。
 そして、体を引き絞り…………爆発的に跳躍しました!

 「オメガティック、ブラストォォッ!!!!」

 「っ!?」

 オメガティックブラストッ!? それはつまり……お母さんが誇る必殺カレー!!!!
 じゃなくて、おばあちゃんの必殺技ですね!? それをウサギさんが習得していただなんて……すごい!!

 「くだけろーーーーっっ!!!!」

 ウサギさんの拳は凶悪な質量を持つ岩盤を、一瞬にして吹き飛ばしました。
 土砂やなんかが重力に逆らって空に落ちていく様子は……まさに、圧巻!
 もうもうと砂埃が舞う中、私たちの上空にはしっかりと青空が見えたのでした。

 「す、すごい……。地下シェルターの上部を、重い地表ごと消し飛ばすだなんて……」

 「さすがねウサギさん! 私が認めた兎ね!!」

 「また勝手な事を……あれ? ウサギさん!? ウサギさんはどこ行ったんですか!?」

 まさか……技の反動とかいうので死……

 「千夏! あれを見なさい!!」

 お母さんが指差した先に居た物は……………………

 「……きゅい」

 「う、兎だ!! 小さな兎が居るっ!!」

 え? これってまさか。え……?



 12月30日 土曜日 「首相との接見」

waraiaikon.jpg(47330 バイト)
 「私が日本国首相……大泉です」

 「あ、あれー? 微妙に次元が。次元の歪みが」

 ウサギさんの必殺技で地下シェルターから逃げ出した私たちは、
 私たちの事を支援してくれた政府…………日本の総理と会見を果たしたのでした。
 でも、うちらの首相ってこんな人だったっけ?

 「えーっと、これは何? パラレルワールドって奴なの?」

 「いいえ。違うわ。この方は本当に私たちの世界の日本の首相であらせられる方なのよ」

 「でも確か私たちの今の首相は安部……」

 「こら! そんな、数ヵ月後に読み直したらもうすでに時代遅れになってそうな事を言わないのっ!!」

 「それもまたずいぶんと失礼だろ。ありえなくは無いけども」

 えーっと、そういうどうでもいい話はいいんで、さっさと本題に……。

 「彼はね、日本の裏首相なの」

 「へぇ……裏なんだ」

 「あれ? すんなりと納得してくれちゃった?」

 「いや、もうなんというか、突っ込むだけヤボかなぁって」

 「とにかく、彼が私たちをバックアップしてくれているの。
  諜報部もなにやら力を貸してくれているらしいし」

 「諜報部……ああっ!! たしかTOPだかPOPだかそういう名前の組織ですよね!?
  そういうの居たのすっかり忘れていたっ!!」

 「そうよねー。すっかり忘れちゃっていたわよねー。私も今思い出した」

 「でもなんで日本国が私たちのバックアップなんか……」

 「いろいろ脅しました」

 「お、脅した!? そんな脅せるようなネタ持ってたのお母さんは!?」

 「日本も千夏を……器の力を狙ってた事知ってたからねー。
  数々の暗躍、全て知っているのですよ。うふふふ……」

 政府すら手玉に取るなんて……ホントどんな暴君気質なんですか。



 「とにかく、今からはこうやって日本の前面バックアップがあるわけだから、すごく楽になるわけ。
  さっき逃がした黒い星の民だって、すぐに追跡してぶっ殺してやるわ」

 「あー、まあ、そうか。ちょっとは楽になるのか」

 それは素直に嬉しいですがねえ……。やっぱりいろいろと不安です。
 政府とつるんでいい結果が出た事が無いんで。

 「でもお母さん……黒い星の民を追う前にやっておかないといけない事あるんじゃないですかね?」

 「ん? なにそれ?」

 「いや、だからその……ウサギさんと、ユキーファちゃんの事です」

 「ああ……どうしようか? あれ」

 私たちの目の前には……昨日の必殺技の反動で小さな、本物の兎になってしまったウサギさんと、
 フュージョンの効果が消えずに、融合したままになっているユキーファちゃんでした。
 どうも長時間のフュージョンは体に悪いらしく、ユキーファちゃんたちはぐったりしています。
 …………こりゃマジでやばいなぁ。

 「とりあえず、元に戻るように頑張ってみましょうか?」

 「頑張ってみるって……具体的には?」

 「お湯で戻してみるとか」

 「増えるワカメか」

 お母さんは彼らをなんだと思っているんだ。

 「………………でもまあやってみるか」

 ちょっとだけ我慢してね♪








過去の日記