12月31日 日曜日 「お母さんの荒治療」

nakiaikon.jpg(45113 バイト)
 「「熱い熱い熱い熱いーっ!!!!」」

 「きゅいーっ! きゅいーっ!!」

 「うーん……やっぱりお湯につけたりしてもどうにかなるもんじゃないか」

 「お母さん酷い……」

 小さな兎になったまま戻らなくなったウサギさんと、いまだフュージョンが解けないユキーファちゃん。
 この2人のために、どうにか元の状態に戻そうと私たちは頑張っているのですが……なんともどうしようもない感じになっています。
 まずお湯という発想が間違っている。私も一応同意しちゃったけどもさ。

 「うーん……お湯がダメだとなると……次は冷水しか」

 「きゅいっ!?」

 「「れ、冷水ですって春歌さんっ!? それは、それはやめてくださいよ!! もう年末ですよ!?」」

 「年末はあまり関係ないだろ」

 まあ言いたい事は分かるけど。


 「あなたたちが戦力として役に立たないと、いろいろしわ寄せがこっちに来るんだから。
  だから、しっかりとその体、元に戻してもらいますからね!!」

 「「そ、その想いは分かります! でもですね、できればもっとソフトな方法で!!
   ソフトな方法でお願いいたします!!」」

 「ソフトな方法ってねえ……私が思いつくのがこういう方法たちなんだから仕方ないでしょうっ!!」

 さすがドSなお母さんですね。根性が曲がっている。捻じ曲がっている。

 「「と、というかそもそも! 私たち、別に分離しなくても大丈夫ですよ!! むしろ分離したらパワーダウンしちゃいますっ!!」」

 「よく言うわよそんなフラフラで……。あなたたち、かなり無理がきているんでしょう?」

 「「ううっ」」

 「まったく……フュージョンの術なんてドラゴンボールちっくな物を使うからよ。
  そんなの自分たちに似合うような力じゃないって分かるでしょう?」

 「ドラゴンボールの技が似合うような奴らもあまり居ないでしょうに」

 「「私は……私たちは、戦う力が欲しかったんです!! それこそ千夏さんの力に……頼れる仲間になりたかったんです!!」」

 「ユキーファちゃん……」

 「「でも……あははは、やっぱり私たちは足手まといのままでしたね…………」」

 「……」

 うっ、ちょっと感動です。雪女さんとリーファちゃんが、こんなに私の事を想ってくれていただなんて……。
 ほんの少しばかり泣きそうかも。


 「え、えーっとですね、別に、そんな無理して頑張ってくれなくても、雪女さんとリーファちゃんはちゃんと役に立っていると想いますよ。
  だから、そんな頑張らなくても、大丈夫です」

 「「千夏さん……ありがとうございまずっ!!」」

 「ず? ず? なに『ず』って」

 「「うわああああああんんんんっっ!!!!」」

 「うわっ! 泣き出したよこの人!!」

 本当に仕方の無い人ですねえ……。




 「よし! そういうわけだから早く元に戻らないとね」

 「「は、はい!!」」

 「うん! いい返事よ!! じゃあはい。これで頑張って」

 「「え…………? これって……」」

 「氷水です。Verシベリアの氷」

 「「べ、別にシベリアの氷使わなくたっていいでしょうが!!!!」」

 何はともあれ、頑張ってくださいね。






 「「ぎゃあああ〜〜〜〜っ!!!! 冷たいっ!!! 本当に冷たいっ!!!」」

 『ゴーン……ゴーン…………』

 「あ、除夜の鐘だ」

 最悪だなぁ……こんな年明け。




 1月1日 月曜日 「お年玉」

odorokiaikon.jpg(40409 バイト)
 「あけましておめでとうございますみなさーんっ!!」

 「あら千夏、あけましておめでとう」

 「あけおめお母さんっ!!」

 「あけおめ千夏」

 「あけおめっ!!」

 「あけおめ〜…………って結構古くない? あけおめって」

 「あけおめっっ!!! あけおめっ!! あけおめっ!!!」

 「………………なに?」

 「お年玉寄越せっつってんだろうがよおっ!!」

 「そんなの直接言ってもらわないと分からないわねっ!!」

 だから直接言ったんじゃないですか。何を言っているのですか。



 「ほら、お年玉寄越しなさいよ」

 「あなたね……今私たちがどこにいるのか分かるの?」

 「日本が極秘製造していた宇宙船でしょ? 今から地球に戻る所なんでしょう? 知ってますよそれくらい」

 「そうよ。宇宙船なのよ。今から日本に帰って、黒い星の民を補足するための作戦会議やらなにやらをしないといけないのよ。
  いわば、まだ最終決戦は続いているのよ。
  そんな状況にも関わらず……あなたはお年玉が欲しいっていうの?」

 「うん! 欲しい!!」

 「なんて強固な意志!!」

 だってやはり年明けはお年玉を貰わなければならないじゃないですか。
 お年玉の無い年明けにはなんの意味も無いじゃないですか。これは真実なのですよ。
 こればっかりは、揺らぐことの無い真実なのですよ。

 あ、ちなみにですね、どうでも良い事ですけど、ユキーファちゃんはちゃんと分離に成功しましたよ。
 冷水じゃなくてそばつゆの一気飲みで。ウサギさんはまだ兎のままですけど。



 「はぁ……もう仕方ないなぁ千夏は。そこまでいうなら……」

 「おっ! 本当にお年玉くれる気になったんですねお母さん!?
  やりぃ! 言ってみるもんだ!!」

 まさか本当にお年玉を貰うことができるとは……夢にも思ってみませんでした。
 なんて言ったってお母さん、いつも借金まみれだし。ケチなこと、岩盤の如しだし。

 「……かわいそうな、ゾウ」

 「……え? なに? いきなり何言ってるのお母さん?」

 「かわいそうなゾウの話をしてあげようと思って」

 「なんで!? なんでいきなりそういう話するの!?」

 「かなしい話をしたら、お年玉を貰うテンションじゃなくなるかなって思って」

 「姑息だ!! なんて姑息な心理戦なんだ!!」

 娘のいたいけな心を利用するなや。このクソ母親。




 「た、大変です裏首相!!」

 「む? どうかしたのかね?」

 「裏首相って……」

 宇宙船の客室……私たちが居るその場所に、日本政府の職員らしき人物があわてて入ってきました。
 彼は私たちと一緒の部屋にいた日本国裏首相とかそういう人に何かを伝えにきたらしいです。
 ただ事ではないその様子から、私は自然と聞き耳を立ててしまいます。

 「地球に……巨大な隕石が! いや、隕石というのもはばかられるようなモノが! 接近しているとの事です!!」

 「地球に……隕石だと!?」

 「な、なんですって!? 地球に隕石!? なんてベタな!! ……いや、違くて。どうしてそんな事に!!」

 「どうしてなんて愚問ね千夏。アイツの仕業に決まっているじゃない。黒い星の民の……」

 そ、そんな……新年早々そんな話を聞いてしまうだなんて……なんて最悪の年明けなんですか。
 結局お年玉も貰えてないし。

 「でも良かったじゃない千夏」

 「へ? 良かった? 何がですか!?」

 「おっきいお年玉を貰えて」

 「あー、そうですね。隕石ぐらい大きなお年玉だったら私の懐もぱんぱんに……ってアホかっ!!」

 「初ノリツッコミおめでとう」

 あー、あー。そんな事より、隕石が。隕石がー。




 1月2日 火曜日 「望遠鏡の向こうに見えた絶望」

odorokiaikon.jpg(40409 バイト)
 「ほら覗いてごらんなさい千夏。この天体望遠鏡を」

 「ええ……なんか嫌なんですけど?」

 「どうして?」

 「どうしてって……だってその望遠鏡にはさ、地球を壊滅させるような隕石の姿が映っているんでしょ?
  そんなのね、正月なんかに見たくありませんっての」

 「どうせすぐ間近に見ることになるんだからさー、今見たって変わらないって。
  いや、むしろさ、全体図を把握した方が降りたときに分かりやすいかも」

 「全体図!? 全体図ってなに!? 降りたときに動きやすいってどういう事!?」

 「どういう事も何も……そのままの意味だけど」

 「も、もしかしてお母さん……。私たち、件の隕石に……行っちゃったりするんですか?」

 「おうおう。行く行く。っていうか今むしろ向かっている状態」

 「なんですとっ!? なんで!? なんで向かってるの!? 今私たちが乗っている宇宙船、地球行きじゃなかったの!?」

 「そうだったんだけど、進路を急変更する事になってね。ほら、だってさ、世界の危機なわけじゃん?
  だったら向かわない手はないよね」

 「なんでだよ! いつから私たちは地球防衛軍みたいな感じになったんだよ!!
  そういうのさ、アメリカとかに任せておけばいいいじゃん!!」

 「今更なにを言っているのよ。大宇宙の危機のために冥王星まで行った英雄が」

 「あれは! なりゆきで!!」

 「ほらほら、駄々こねてないで見てみなさいよ。すっごく綺麗だから」

 「そんな死を内包した美なんて見たくありませんよ……」

 「あれ、千夏ったらずいぶん詩的」

 うっせえ。



 「えーっと、何々……?」

 私は渋々ながら、望遠鏡を覗き込む事にしました。
 まあ一応は見ておかないとね……。はぁ、覚悟決めましたよ。

 「……お母さん? あのさ、隕石、見えないんだけど?」

 「えー? そんなわけないでしょー? ちゃんと座標合わしたんだから」

 「いや……でもこの望遠鏡には、綺麗な銀河ぐらいしか映って無いんですもん」

 「そうそれ! それが隕石!!」

 「…………もう一度言いますよお母さん? この望遠鏡からは、銀河しか見えないのですけど?」

 「だから、それで良いんだって言っているじゃない。その銀河こそが、地球に向かっている隕石なのよ」

 「え!? な!? はぁっ!!?? アホですかお母さん!! これはもう隕石なんて呼べないですよ!?
  銀河だ! 銀河そのものじゃないですか!!」

 「そうよ。隕石なんて呼べないの。銀河がね、地球に向かってきているのよ。確実に」

 「へ!? ああっ!? な、なんですって!?」

 銀河レベルの衝突って…………そんなの、一体どうすりゃ防げるんですか。
 あまりにも桁が違いすぎますよ。

 「お母さん? これ、どうすれば……」

 「銀河を吹き飛ばせるだけの爆弾なんて、今のところ地球のどこにも無いしねえ……。
  本当にどうしましょうかしら」

 「あ、あああああ…………」

 本当に、望遠鏡覗かなければ良かった。




 1月3日 水曜日 「今後の方針、決定」

gimonaikon.jpg(42247 バイト)
 「さーって、本当にどうしようかしら……?」

 「……お母さん。何悩んでいるの?」

 「あの銀河を、どうやって粉砕するか」

 「アホか! そんなこと、今晩の夕食のメニューは何にしようかなぁ的な事しか考えた事の無い主婦がどうにか出来るものではないでしょう!!」

 「あなた……主婦というのをバカにしすぎよ。主婦だってね、ひとつの銀河を消滅させるぐらいのアイディアぐらい、頑張れば思いつくものなのよ」

 「そんなわけあるか!! 天文学者に謝れ!!」

 はぁ……でも私たちがどうにかしないといけない事は確かなんですよねぇ……。
 うわぁん。ホント、なんでこんな事に……。

 「あのー、ちょっと聞きたいのですけどいいですか?」

 「どうぞ」

 「銀河がぶつかるって……いったい地球はどういう事になるんです? あまりにも規模がでかすぎてぴんとこないっていうか……」

 「まあとりあえず、銀河の端の方で何かの天体にぶち当たって、砕け散るのでしょうね。
  それより前に、重力異常やなんかでとんでもない被害は受けそうだけど。
  地球と太陽の距離がちょっと変わっちゃうと、地球環境が激変しちゃうから」

 「うわ……中心部に行く前に滅ぼされてしまうんですか。
  これじゃあ勝ち目なんてないじゃあないですか……」

 「大丈夫! 相手が黒い星の民の作ったものならば、私の腕がうんと効くはずよ!!
  なんて言ったってこの腕は、『歪んだ現実』には非常に強い威力を発揮するのですからね!!」

 「……そういえばさ、その腕ってどうしたの? 誰かに改造してもらったの?」

 「言わなかったっけ? 神様に貰ったの」

 「神様? 星の民?」

 「ううん。そういう偽者じゃないやつ。外なる神々みたいな奴」

 「いや……よく分からないのですけど」

 なにやらお母さんは、その腕の出所に関してはあまり口にしたくないみたいです。
 まあ別に無理して聞かないですけどさ。



 「少しいいかね? 春歌くん」

 「あっ! 裏首相だ!!」

 この宇宙船に乗っていた職員から、地球に向かってくる銀河の事についていろいろ聞いていたらしい裏首相が、
 私たちが居る部屋へとわざわざ来てくれました。
 っていうかさ、一応裏の首相が乗っている宇宙船がさ、危険極まりない銀河行きへの船に乗っているのは許される事なのかな?
 こういう要人って、真っ先に保護されるべきじゃないのかな?

 「君の力ならあの銀河を消滅させる事が出来ると聞いたのだが……本当かね?」

 「ええ、大丈夫だと思います。この腕の力は、別に質量や体積などに関係したエネルギーでは無いですから。
  ただいかんせん銀河の端にあるガスを殴ってもどうにもならないっていうか……」

 「なるほど……つまり、銀河の中心部へと行かなければならないという事なのですね?」

 「ええ。その中心部を思いっきり殴ってやれば、多分なんとかなるかと」

 なんとかなるんですかお母さん……。

 「……よし! 分かった!! では私たち日本政府は全面的に春歌くんをバックアップしよう!!
  この宇宙船『地球号』をフル稼働して、銀河の中心部へと向かおう!!」

 「えええー!? 地球号!? そんなダサい名前だったのですかこの宇宙船は!?」

 というか地球に向かっている銀河に向かって地球号が行くって…………なんかややこしい。




 1月4日 木曜日 「日本国最強兵装」

niramiaikon.jpg(46810 バイト)
 「はぁ……ねえお母さん。私たちが今向かっている銀河の中心ってさ、どれくらい時間かかるのかな?」

 「んー、なんでも昨日観測した時点での距離は、60万光年って言ってたからなあ」

 「60万光年!? なにそれ!? 光の速さでも60万年かかっちゃうの!?」

 「そうらしいわよ」

 「じゃあもう私たちが生きている間には到達できそうに無いじゃん!!」

 「大丈夫よ。この宇宙船には冷蔵庫がついているし」

 「そりゃ宇宙船には冷蔵庫ぐらいついているでしょうが……。
  っていうかさ、それがいったいどうしたの?」

 「ほら、よくSF物であるでしょう? 人工冬眠って奴!!」

 「冬眠って言いましてもね! 冷蔵庫なんかでどうにかできるもんじゃないでしょうが!!」

 「原理は一緒よ。冷蔵庫の冷凍庫と」

 「じゃあまずお母さんが試してみてくださいよ。
  冷凍庫で人工冬眠」

 「私、冷凍食品嫌いなのよね」

 別に人工冬眠させる時でも冷凍庫の中に物いれているわけじゃないでしょうに。
 普通は物を出しておくよ。…………というかそういう問題でもないけど。



 「でも大丈夫よ。60万光年離れているって言ったってね、相手は光速をはるかに超えるスピードでこっちに向かってくるんだから。
  だから銀河の中心部に着くにはもっと早くで済むと思うわ」

 「え? へ? 光速をはるかに超えるスピード!? そんなの物理学的にありえないんじゃないんですか!?
  光よりも早い物なんてあるはずがないんじゃ……」

 「多分黒い星の民の力なんじゃないかしら?」

 「うわぁ……マジですか。…………本当に大丈夫なんですか? そんな所に向かっていって」

 「うーん、私たちが向かう分には何の問題も無いんだけどねー」

 「え? やっぱりなにかあるの!?」

 「この船に居る科学者が計算した結果だとさあ、私たちがあの銀河の中心部に着くまでに、
  外側の淵の部分がきっちり地球に当たっちゃうんだよねー」

 「や、やっぱりそれってまずいの?」

 「小さいながらも曲がりなりにも隕石の集合部分だからねえ。
  地球自体は壊れなくても、人類絶滅ぐらいはいっちゃうかも」

 そ、それはすっごく困るじゃないですか。地球だけ守れても人類滅んじゃったら意味ないよ!!

 「だから! 私たち地球防衛軍……宇宙船『地球号』は、銀河の中心部に達する前に、
  周辺部のガスおよび隕石、惑星群を吹き飛ばす事に決めました!!」

 「いや、決めましたって言われても。どうにか出来るレベルを超えているように思われるのですが?」

 銀河の周縁部だけでも何万光年もありそうなのは気のせいですか?

 「私たちは日本国の秘密兵器を使用する事に決めたのよ。それを使えば、ガスや隕石なんかは何光年広がっていようと大丈夫なの♪」

 「…………ちなみにその兵器の名は?」

 「名付けて、ブラックホール爆弾!!」

 なんてものを所持しているんですかこの日本はっ!!!! 核兵器どころの騒ぎじゃないじゃないか!!


 「ち、ちなみにお母さん…………その、お母さんが手に持っているボタンはいったい……?」

 「え? これ? これはもちろんその件のブラックホール爆弾の……」

 なに考えているんですか日本!! よりにもよって、この人に最強兵器のスイッチを持たせますかね!?
 気が狂っているとしか思えないよ!!!

 「ん? なに? どうかしたの?」

 「いえ、別に…………」

 あとでそのボタンをどうにか奪取するとして、とりあえず今は気に障らないように良い子にしてましょうかね……。


 1月5日 金曜日 「お母さんから奪え!」

odorokiaikon.jpg(40409 バイト)
 「zzzzzz…………」

 「よーし、お母さんの奴、ぐっすりと眠ってやがりますね」

 地球に向かって銀河が爆進中だというのに、よくもまあそんなに気持ちよく寝息を立てられるものです。
 ちょっと感心しますよ。そういう大人になろうとは思いませんけども。

 「さーって、さっさとお母さんの懐から例の物をいただきましょうかね」

 そうです。別に私はお母さんの無防備すぎる寝顔を拝みにきたわけではないのです。
 これも全て人類の危機を駆逐するため……そう、銀河なんかが迫ってくるより確実な危機な、
 お母さんに最終兵器のスイッチを持たせるという頭がいかれたとしか思えない愚行を、阻止するためなのです!
 というか日本政府はいったいどういうつもりでお母さんにそんな物を渡したんですか。
 気が狂ってる。

 「えーっと、じゃあ失礼しますよお母さん」

 「むにゃむにゃ……」

 お母さんの体を探り、ブラックホール爆弾のスイッチを探します。
 お母さんの荷物はすでにいろいろ物色したのですが、そこには爆弾のスイッチらしいものはひとつもありませんでした。
 という事はおそらく身につけているという事なのでしょうけど……やめて欲しいですね。
 そんな危険な物を持って寝るのは。寝相の悪さでもってスイッチ押しちゃったらどうするんですか。

 「ごそごそっと……おっ? もしかしたらこれ……」

 「んがっ!!」

 「ひぃっ!?」

 何かそれらしきものをお母さんの服の胸ポケットに見つけた私のすぐ目の前を、お母さんの鉄拳がすごい速度で通過しました。
 私の前髪がいくつか吹き飛んだのですけども…………私、もしかして今、死に掛けました?

 「あわ、あわあわあわ、あわわわわわ…………」

 「zzzzz…………」

 「な、なんて寝相の悪さなんですか。人を殺しうる寝相なんて、初めて目にしましたよ……」

 やっべえ。これ、ちょっと私が思っていたよりも難易度の高いミッションですよ。
 死を覚悟して望まなければならない、恐怖の作戦でしたよ。




 「……千夏お姉さま? なにしてるんですか?」

 「うっわぁびっくりした!! ……なんだ、リーファちゃんか。起きてたんだね」

 「ええ、まあ。なんというか体がいまだギスギスしてまして、中々寝付けなかったんです」

 リーファちゃんはまだ、雪女さんとフュージョンした時の後遺症が残っているらしいです。
 やっぱり大変だよね。あの雪女さんと合身したんだから。

 「あのね、実はお母さんからブラックホール爆弾のスイッチを取り上げようと……」

 「よし。手伝います」

 「話が早いなリーファちゃん」

 助かるけども、その物分りの良さはなんだ?

 「暇なんですよ、私。ちょっとは緊迫感のある事すれば、寝付けるかなって思って」

 「ずいぶんとギャンブラー気質の生き方してますねリーファちゃん。
  まあいいや。私には関係の無い事です」

 こうして心強い(?)味方を得た私は、再びお母さんの手から爆弾のスイッチを盗み出す作戦を決行したのでした。

 「とりあえずリーファちゃんはさ、お母さんの腕を押さえててよ。これ、マジで危ないから」

 「はい。分かりました」

 「その隙に私はお母さんのポケットからスイッチを……」

 「うう〜ん…………んがっ!!」

 「ぎゃあああああ!!!!!」

 「り、リーファちゃん!?」

 なんと、お母さんの寝相……とはもはや呼べないパンチによって、腕を押さえていたリーファちゃんはあっさりと粉砕されてしまいました。
 ああ、なんとなくこんな事になると予想はできていましたけども、まさかここまで綺麗な形で吹っ飛ばされてしまうだなんて……
 いい散り際でしたよ、リーファちゃん。



 「んん……? 何の音ですか今の?」

 「あ、雪女さん。起きてらっしゃったんですか?」

 「ええ……。フュージョンの後遺症でちょっと体が痛くて……」

 「ああ、そうなんですか。それなら私を手伝って……」

 あれ? この展開、少し前にもあったような…………気のせいか。




 1月6日 土曜日 「謎のUFO登場」

gimonaikon.jpg(42247 バイト)
 「さて! 千夏! 到着しましたよ!!」

 「え!? もしかしてもう銀河の中心部に着いちゃったんですか!?」

 「もー、私の話聞いてなかったの? 銀河の中心に行く前に、その外周部のガスやら隕石やら星やらを吹き飛ばすんだってばさ。
  まあ正確には人工的に作り出したブラックホールで吸い込むって感じだけど」

 「あ、ああ……そうでしたね」

 そのブラックホール爆弾のスイッチはお母さんから取り戻したかったんですけど……尊い犠牲をいくつか出したにも関わらず、
 取り上げることなんて出来なかったんですよね。
 ああ、ちなみにですね、リーファちゃんと雪女さんは今ぐっすりと眠っております。
 もう、目覚めないんじゃないかって思うぐらい。

 「ええっとじゃあ……その爆弾の設置ポイントに到着したって事なんですか?」

 「うん。その通り。ここらへんにブラックホール爆弾を仕掛けて、どーんとね」

 「へぇ……そうなんですか。あ、でもちょっと気になったんですけど、ブラックホール爆弾なんて使っちゃうと私たちの地球とかに何か影響無いんですかね?
  重力の異常で何かなっちゃうとか」

 「あっはっはっはっはっはっはっは!!! 千夏ったら心配性ねえ」

 「あははは……そうですよね」

 「さあ、さっそく爆弾の設置を手伝いましょうか? なんでもこの宇宙船の乗員に任せておくわけにはいかないからね!」

 「あれ!? 私の質問に対しての答えは、ただ笑っただけなんですか!? 説明は何か無いんですか!?」

 「世の中にはね、何かリスクがあったとしてもやらなければならない事があるのよ……」

 「何その言い分!? っていうか人類はそういう事をやって間違いばっかり起こしてるじゃん!!
  過去の歴史に少しは学ぼうとしろよ!!」

 フロンガスとかさー。

 「まあ仕方ないじゃない。このままブラックホール爆弾使わないと人類滅んじゃうんだから」

 「そんな深刻な事をあっさりと言わないで欲しいんですけどね……」

 仕方ないんですかねえ。ホント。




 「ほら千夏ー! 見て見てー!! 逆立ちー♪」

 「いや、宇宙空間に上も下も無いんで、逆立ちとか言われてもリアクションにほとほと困るのですが」

 私たちは宇宙船地球号という壊滅的にテレビ朝日的な宇宙船の乗組員を手伝うために、宇宙服を着て宇宙空間に飛び出しました。
 しかし乗組員のみなさんも、宇宙空間に出た事なんてありゃしない素人を外に出そうと思わないでくださいよ。
 いや……もしかしてそもそも作業の役に立つとは思っていないのでしょうか? まあそれは正しい判断だと思いますけども……。

 「うわー! すげー!! 浮いてる! 浮いてるよ千夏!!」

 「はいはい。お母さんはいつも周りから浮いているでしょう? 今更そんな事で驚かないの」

 というかお母さん自体も爆弾の設置を手伝おうという気はなさそうですね。
 ただただ遊びに出たかっただけなんじゃん。

 「もー、一応手伝いに出たんだから、働く素振りぐらい見せてくださいよお母さん」

 「うーん、私、あまり働くという事が得意じゃなかったりするのよね」

 そういうのを家長の口からは聞きたくありませんでした。

 「……ん? お母さん? あれ、何かなぁ? 何か光の点みたいな物がふわふわと動いているみたいなんですけど……」

 「えーっと、多分UFOか何かなんじゃないの?」

 「何かなんじゃないのってそんな適当な事を言わないで……」

 『おーいお前ら!! 人んちの敷地で何やってくれとんじゃい!!』

 「え!? えええ!!?? UFO!? あの光の点から、声がしたの!?」

 あれ……もしかしてこれ、何か星間問題的な事に発展しそうな予感……?









過去の日記