1月14日 日曜日 「食べ物領域」

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 「お待たせしました千夏さん。ここがあなたたちが目指していた……」

 「おおっ! ついに銀河の中心に……」

 「『コロッケという存在が偏っている空間』でございます」

 「わーい♪ コロッケがいっぱい……ってコラ!
  目的がいつの間にか宇宙の珍しい場所を見る旅にすり替わってるじゃないか!!」

 そんな旅のために必死になってコーンポタージュというパスワードを探し当てたわけじゃないんですけどねえ。

 「夢にまで見た光景だと思いませんか? 大宇宙に存在しせめし、限りなく密集したコロッケというものを……」

 「そんなコロッケを荘厳に言われてもほとほと困るのですがね」

 「ここでならコロッケのベッドで寝られるという、子どもの頃からの夢も叶いますよ?」

 「ひとの子どもの頃からの夢を、勝手にそんな油で大変な感じに仕立てあげないでください」

 迷惑にも程があります。



 「っていうかなんで宇宙空間にいっぱいコロッケがひしめき合っているんだよ。誰がこの量のコロッケを作ったというのですか。」

 「ですからですね、昨日も説明した通り……」

 「はいはい。『存在が偏っている空間』なんでしょう?」

 まったく納得できないのですが。

 「まあそういうのどうでも良いからさ、さっさと銀河の中心部に行こうよ。
  終いには怒りますよホント」

 「わ、分かっておりますよ。いやね、なんだかワープ装置の調子が悪くて……。
  いきなり長距離の空間跳躍をしてしまうと何か事故につながる可能性があったんですよ。
  でもこれで大丈夫です! もうテストは終わりました!! 思う存分、ワープする事が出来ます!!」

 「よし! じゃあさっそく飛び立ちましょう!! あの、諸悪の根源が居る場所へ!!」

 「ええ! あの、『お好み焼きという存在が偏っている空間』へ!!」

 「っておーい! ちょっと待った!! なんですかその大阪人が狂喜乱舞しそうな場所は!!」

 「え!? もしかしてたこ焼きの方が良かったですか!?」

 「そういう話じゃない!!」

 「……ああ。気づきませんで失礼しました。女の子にはやっぱりパフェとかそういう甘い物が一番なのですよね。
  分かりました。進路はそこにとりましょう」

 「……もしかしてさ、宇宙名物食べ歩きツアーみたいな事になってるの? 今」

 ほんの少しだけそのツアーにそそられはするのですが……でも、いい加減にしなさいな。



 1月15日 月曜日 「お久しぶりの我が子」

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 『ドガアアアンッ!!』

 「うわあっ!? いきなりなに!? 出だしからこの衝撃は何なの!?」

 宇宙人のUFOに乗って銀河の中心部へ移動中だった私たちに、正体不明の爆発が襲い掛かりました。
 船体が激しく揺れ、誰かの叫びのような機体の軋みが聞こえて……パニックのあまりその場にうずくまる事しか出来ませんでしたよ。

 「あわわわわわ……こ、これは一体……」

 「宇宙人さん!? これはどういう事なのか説明してくれませんかね!?
  もしかして人を撥ねたとか!? 横断歩道を渡ろうとしていたおばあちゃんを、撥ねちゃったとか!?」

 「ち、違います! これは何か大きな力で引っ張られて……。
  でも、ワープ航行中の船を通常空間に引きずり出すなんてそんな事……」

 「やっぱり撥ねたのか!? バカみたいに左右確認さえしない子供でも撥ねたのですか!?」

 「撥ねていません! なんでそんなに人身事故に仕立て上げたいのですか!!」

 「……っ!? わあああ!! 窓! 今窓に!!」

 「え? 窓? 何か居たんですか!?」

 「手が! 人の手らしきものが、窓に張り付いていたんです!!」

 「人の手? そんなバカな……」

 「本当なんですってば! 宇宙服も着てなかった!!
  ……はっ! もしかしたら先日の高倉健領域に着いた時、ひとりぐらい高倉健がUFOに張り付いていたのかも!!
  きっとこれから高倉健による粛清が行われるんだ! UFOの乗員が一人ずつ、消されていくんだ!!」

 「そんなエイリアンみたいな物なわけないでしょう! よりにもよって高倉健が!!」

 まさか宇宙人の口からエイリアンについてのツッコミが聞けるとは思ってもみませんでした。
 っていうかエイリアンの事知ってたのね。

 「とにかく外に出て確認してみましょう」

 「えー……それってモロ死亡フラグじゃないですか。
  カモがネギしょって頭にリボルバーを押し付けているような物ですよ」

 「よく分かりませんが、そうしないわけにはいかないでしょう!?
  はい、宇宙服です。どうぞ頑張ってきてください!!」

 「って私!? 私が行くの!?」

 「私はほら……家族とか居るから」

 なんて言い訳なんですか。あまりにも行きたくないって事がびしっと伝わるその言い訳に思わず納得してしまいましたよ。
 はぁ……こういうのはお母さんに任せておけばいいんだけどなあ。
 でもあのひと、なんだか高倉健圧迫のダメージで寝込んじゃったし。




 「だ、誰かー? 居たりしませんよねー? 誰も居ませんよねー?」

 私は宇宙人さんから渡された宇宙服を着込み、恐るべき何かが居る宇宙空間へと飛び出しました。
 もしかしたら影からこうエイリアンがシャーって出てくるかもしれないと思ったら怖くて怖くて仕方ありませんよ。

 「……なつ。…………なつよ」

 「うわっ!? なに!? 声!? 声がする!?」

 ここらへんは一応真空のはずですし、宇宙服に付けられている通信機はUFOとしか繋がっていないはずなのに……なぜか私の耳には、
 しっかりとその声が聞こえたのでした。
 いや、耳に聞こえたというよりかは脳に直接届いたみたいな……。

 「……千夏。千夏よ。聞こえていますか……?」

 「だ、誰ですかあなた!? 一体どこに居るのですか!?」

 声からして女の人であるらしいですが、宇宙空間でそんな声聞いても不気味なだけです。というか怖いです。

 「千夏……。私は、ずっとあなたの事を待っていました。あなたがここに来るのを、何周期も待っていたのです」

 「だからあなたは誰なのですか!! 姿を見せなさい!!」

 「私は……唯一究極絶対神……加奈です」

 「へえ……神様ですか。奇遇ですね、実は私も神様…………ってええ!? 加奈ちゃん!?
  なんでそういう事に!?」

 子どもの成長は早いと聞きますが、まさか私が見ない間に神様と名乗るほどの図太い人間になっているとは……。
 っていうか、そのバカっぽい肩書きはいったいなんですか?


 1月16日 火曜日 「町工場の専務みたいなもの」

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 「加奈ちゃん!? 加奈ちゃんなのかい!?」

 「はい。そうですお母さま。加奈ことスーパーミラクルグレード神です」

 「昨日となんか肩書き変わってない?」

 ダサさはあまり変わってないけども。

 「加奈ちゃん、いったいあなたは……?」

 「お母さま……いえ、千夏さん。あなたにはもう全てを話さなければいけません。
  実は私は……お母さまの子では無かったのです!」

 「いや、それは知っているけども。
  というかそれは普通親である私が言うべき話だし」

 なんでいつの間に立場が逆転しているのですか。


 「実は私は……加奈という人間は、この世界で唯一、
  意識を持ったまま神の禁断の領域まで踏み込んだ者……そう、神の使いと呼ばれるような存在へと化した者なのです」

 「へえ。神様の使いだったんだ。木から生まれたから普通じゃないなとは思っていたけど。
  でもさ、そういう事はさ、別にスーパーミラクルグレード神じゃねえんじゃねえの? むしろ私よりレベル低くない?」

 「確かに肩書き的には神様の下ですけど、でもただの神の使いじゃないんです!
  私が仕えている神は、そこら辺にいるような神じゃないんです!! 神様と呼ぶことさえも冒涜になっていまうほど偉大な……畏れるべき存在なんです!!」

 「そう言われてもねえ……」

 「例えて言うなら………そう! 一流企業の係長と町工場の専務みたいなものです!!」

 「うわ。なんだかすごくムカつく喩えですね。
  町工場舐めんなよ」

 「やーい、やーい! 専務〜!!」

 「私は別に専務ではないよ」

 っていうか加奈ちゃんが成長して見えたのは気のせいなんですかね……?
 物言いが子どもすぎるよ。



 1月17日 水曜日 「加奈ちゃんの主の名前」

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 「さて、話を元に戻しますよお母様?」

 「加奈ちゃんのせいで脱線したんだけどね。この話は」

 しばらく見ない間に私たちの家族の特質……自分の都合のいいほうに自体を改変する事を覚えただなんて……本当に成長したのねえ加奈ちゃん。
 いや、素質は初めからあったのでしょうか。よく人の話を聞かない子だったし。

 「私はこれから衝撃的な事実をいくつかお母様にお話ししなければなりません。
  どうか、気をしっかり持って聞いてください」

 「え、ええ。分かりました。しっかり聞こうじゃないですか」

 別にそんな怖がらせるような事言わなくてもいいと思うんですけどねえ。



 「実は私は……お母様の元同級生だったのです!!」

 「ええっと……よく意味がわかんない」

 「覚えていないのも無理ありません。その頃の事など、もう当の昔に存在しない事になっているのですから」

 「はあ、そうなんですか」

 「あの月面での神様の積み木の起動実験……あれによって、私の存在はこの宇宙から消されてしまいました。
  まあ無理はありません。私はおそらく……お母様に嫌われていたのですから。だから、無意識のうちに改変後の世界からはじき出されてしまうのも無理ありません」

 「私、加奈ちゃんの事嫌ってたの?」

 「気にしないでください。私もお母様にたいしてそれなりの事をやっていたのです」

 「それなりって?」

 「ええっと……週に一回はバックドロップしたり」

 「ずいぶんと武闘派な関係だったんですね私たち!?」

 「そして宇宙からつまはじきにされてしまった私は、長い間その存在すら確定しないモノとして、事象の狭間をさまよいました。
  いえ、正確にはさまよってさえ居なかったのですが。私は、ただの存在の穴としてあっただけなのです。

 「存在の穴ねえ……」

 「しかし! そんな私を助けてくださった方が居ました! 私に新たに存在を与え、この世界へと返してくれるお方が!!」

 「え……? でも話を聞いている限りではそんな事出来るの星の民ぐらいなんじゃ……」

 「いえ、星の民なんてレベルじゃございません!! 彼の方はとても偉大で……全ての事象を憂いてらっしゃる、剛き方っ!!
  その名も……っ!!」

 「その名も!?」

 ようやく話がここまで来ましたか。加奈ちゃんの主の事がようやくわかります。
 まあテンプレート的にはここで一発突拍子もない事を加奈ちゃんが言ってうやむやに終わるという未来が簡単に予測できるわけですが……

 「その名も……ビルゲイツです!!!」

 「えええええ!!!??? っていうかえええええええええ!!!!!?????
  なんかそれまずくないかい!?」

 思った以上に突拍子もない事言ってくれるじゃないですか。
 驚きのあまり失神しそうだわ。

 「あ、ごめんなさい。間違えました。タモリです。…………あれ? 違ったかな?」

 絶対違うと思うよ、それは。



 1月18日 木曜日 「伝説の武器」

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 「えーっと……その偉大な存在の名は……」

 「名前は?」

 「えー……忘れました」

 「え!? 忘れた!?
  だって加奈ちゃんの主人でしょ!? なんで名前忘れちゃうの!?」

 「だってほら、名前で呼ぶことなんてあまりないと忘れちゃう事あるでしょう?
  自分のお父さんとお母さんの名前とか、あまり言えなかったりするじゃないですか」

 「えー? そうかなあ?」

 「じゃあお母さまはご自分の母の名前をちゃんと言えたりするんですか?」

 「私のお母さんのですか? もちろん言えるに決まってるじゃないですか。
  んーっと……『もけっぴ』とかそういう名前でしたっけ?」

 「なんですかその珍妙な生物の鳴き声のような名前は」

 「良いんですよ別に。しょせんお母さんの名前なんだし」

 「ほらね! 自分の親の名前だってそんなものでしょう!?」

 「そんな鬼の首を取った如く……」

 「だから別に主の名前なんてどうでもいいのです! 偉大なものはどうあっても偉大なのですから!」

 「なんていうか無理やりだなあ……」

 「そしてその偉大な存在は憂いておられなのです。黒い星の民という存在が宇宙の秩序を乱そうとしている事を。
  その憂いを解決するために、私がお母様の下に使わされたのでございます」

 「へぇ……そうなんですか。なんとなく事情はわかりました。
  しかしだね加奈ちゃん。別に、加奈ちゃんは何か特別なことをしてくれたわけじゃないんじゃ……?
  それって使者としてなにか意味が……」

 「ああ! 千夏お母様!! 勇気ある行動で世界を救おうとなさるあなたに、偉大なる王に代わって秘宝をさしあげましょう!!」

 「おいコラ。なんか無理やり今自分の存在意義を作ろうとしてませんか?」

 「この秘宝画あれば歪んだ現実であるもの……黒い星の民によって作り変えられたものを、一瞬にして消し去る事ができるのです。
  そう、お母様の母に与えた力のように」

 「え!? そんなすごいものをくれるんですか!? っていうかお母さんにあの力を与えたのって加奈ちゃんたちだったの!?」

 「まったくものってそのとおりです。では、これをお受け取りください」

 「伝説の武器とかそういうものですね!? そういう類の素敵アイテムなのですね!?」

 「ええ、そうです。これがまさしく伝説の……」

 「伝説の!?」

 「伝説の、おたまです」

 「それでどう戦えと!?」

 「この宇宙にはびこるアクと戦えます」

 悪と灰汁をかけているのですか。
 うまい事言ったつもりかね?

 1月19日 金曜日 「我が子との別れ」

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 「お母さま……さあ、その伝説のおたまを手にし、諸悪の根源、黒い星の民を討ち滅ぼすのです!」

 「無理! このおたまじゃ絶対無理!!」

 「絶対なんてこの世には無いのですよお母さま!! 頑張れば、努力すればなんでも願いは叶うものなのです!!」

 「簡単に努力って言いますけど、象を箸で倒せるようになるほどの努力が必要なんじゃないですか?
  このおたまでどうこうするってのは」

 「じゃあ大丈夫です。急所を突けばきっと象でもやれますっ!!」

 そういう問題じゃないだろう。
 というかそういう話でも無いだろう。





 「……そしてお母さま。悲しいお話がひとつあります」

 「いきなり改まってなんですか加奈ちゃん……。
  もしかしてこの銀河の星のひとつが地球にぶつかったとか?
  そうだったら圧倒的に私たちを無駄に引き止めておいた加奈ちゃんのせいですからね」

 「私はここでお別れなのです……」

 「え!? お別れ!? どうしてですか!?」

 「ビザが切れたからです」

 「ビザがあるのか? 別次元から来た人には、ビザが存在しているのか?」

 「お母さま……そういう事なので、さようなら……」

 「ちょ、ちょっと加奈ちゃん!?
  本当に行っちゃうの!?」

 「大丈夫ですよお母さま。黒い星の民を倒してこの世界が正常な姿を取り戻せば……きっとまた会えます」

 「加奈ちゃん!!」

 「『前』は言えなかったんだけど……ごめんね千夏ちゃん。
  あなたを助けてあげられなくて。ホントごめんね」

 「加奈ちゃーーーん!!」

 泣きそうになりながら別れの言葉を口にした加奈ちゃんは、光の粒子となって虚空に消えていってしまいました。
 彼女が言ったように、元の世界に帰っていったのでしょうか?
 それともまさか……

 「ううん。そんな事ないよね。私が頑張れば、きっと加奈ちゃんも元通りに……」

 そうです。頑張らなければいけないんです。加奈ちゃんのためにも、この宇宙に生きる全ての命のためにも!!

 「この、伝説のおたまで!!」

 …………というかやっぱり、この武器、他の何かと交換してくれませんかね?
  え? 無理?



 1月20日 土曜日 「伝説の武器、破壊」

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 「うおおおーし! とにかく、機は熟しました!!
  加奈ちゃんとの別れは確かに悲しいものでしたが、それを乗り越えた私は、一回り成長したように思います!!」

 「いきなり何言っちゃってるのよ千夏」

 「だから! もうこの勢いでぱぱっと銀河の中心部に行って、そこにおそらくいるであろう黒い星の民をぶん殴って、そして家に帰ろう!!
  大丈夫! 心配しなくてもいいさ!! なんて言ったって私にはこの伝説のおたまがあるもんね!!
  この伝説のおたまが……ってアホかーっ!! おたまでどうにかなるような事態かこれが!!
  というか銀河を殴るってなによ!? よりにもよっておたまで!!」

 「かわいそうに……情緒不安定なのね。思春期かしら?」

 冷静に人を見ようとするのはやめてくださいお母さん。母親の視点で。

 「まあ安心しなさいな。それは確かにおたまのような形をしているけど、私の腕と同じような力を持っているわ。
  黒い星の民なんて一撃で倒せるわよ」

 「はあ、そうなんですか。まあそれはいいんですけど……でもおたまじゃかっこつかないじゃん。
  おたまで世界を救う奴なんて初めて見たよ」

 「いいじゃない。家庭的っぽくて」

 この場面にその家庭的っぽさはいるのか? 誰に対してのアピールだよ。

 「豆腐とかが相手なら様にはなるかもしれませんが……やっぱりおたまは……」

 「鍋をしている時には大活躍かもね。
  うーん……じゃあ、そのおたまの形、無理やり変えちゃったらいいんじゃない?」

 「おたまの形を変える?」

 「ええ、だってそれ金属でしょ? 温めて柔らかくして打ち直せば、どうにかなるんじゃないかしら?」

 「そんな粘土みたく上手くいくわけ……」

 「まあ貸してみなさいよ」

 「ってわあ!? 人の物勝手に取らないでくださいよお母さん!!」

 「ここをこうやって引き伸ばせば……」

 「ちょっと……そんな無理に形を変えようとして壊すなんて事やめてくださいよ?
  一応おたまに見えても伝説の武器で……」

 「あっ」

 『ボキッ!!』

 「おかあさーんっ!? 今の音なに!? 何をしたの!?」

 「……大丈夫大丈夫。すぐにくっつくって」

 「やっぱり壊したんかいワレ!!」

 瞬間接着剤でどうにかしようとするのはやめてくださいお母さん。












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