8月22日 日曜日 「れでぃおな時間 つヴぁい」


 女神「さあ、今週も定時どおりに始まりました
    『ドキドキ、千夏の朝まで生ハムラジオ』。
    リスナーの皆さん、どうお過ごしですか?」

 千夏「とりあえず、どこからつっこめばいいんでしょうね?」


 定時通りって、前は火曜日に放送してたじゃん、とか。
 微妙に番組タイトル違ってんじゃん、とか。
 黒服がMCじゃなかったのかよ、とか。


 女神「ではまずいつも通りリスナーのメールから」

 千夏「ああ……展開が速くてつっこめ無かった……」

 女神「ヘビョウ・プニッシモ国にお住まいの田中さんからのお手紙です」

 千夏「どこにあるんですか、そのおもしろネーミング国家は」

 女神「千夏さん、女神さん。はみにょろ〜。
    はみにょろ〜です。田中さん」

 千夏「ちょっと、なに自然に奇怪な挨拶を交わしているんですか」


 つっこみが全然追いつきません。


 女神「突然ですか、千夏さんは生まれ変わるとしたら何になりたいですか?
    ちなみに私は生まれ変わったら桃缶になりたいです。てへ。
    ……とのお便りです」


 桃缶って……。


 女神「では千夏ちゃん。生まれ変わったら何になりたいですか?」

 千夏「え〜っと、そうですね……鳥になって、大空を自由に飛び回りたいですね」

 女神「うわ〜、ありがちぃ」


 腹が立つ言い方だな。


 女神「でもこう考えたことない?
    鳥が空を飛ぶことが、人間にとっては
    1500mを疾走するのと同じぐらい疲れるものだとしたら……」

 千夏「……」

 女神「飛びます?」

 千夏「飛ばないねぇ」


 ビバ、運動不足。


 

 8月23日 月曜日 「空舞破天流 新奥義」


 「よう、久しぶりだな千夏」

 「ああ、ロリコン師匠ですか。
  本当に久しぶりですね」

 「その呼び名はやめろ……」

 だって本当のことだし。


 「しかし本当にしばらくだったな。
  あまりにも会わなかったから、奥義を覚えたら用無しなのかと思ったぞ」

 私もそう思ってましたとも。
 まあ何かとても深い事情があったんでしょう。
 きっと。


 「まあ世間話はこれくらいにしておこう」

 「何か私に用でもあるんですか?」

 「実はつい先日、ふと新しい空舞破天流奥義を思いついてな……」

 へぇ〜……奥義って思いつくものなんだ?


 「それを愛しい弟子であるお前に伝授してやろうと……」

 「伝授って、やっぱり厳しい特訓とかするんですか?」

 「当然そうに決まってるだろう?
  武術とは、一朝一夕にならず。
  日々繰り返す修練こそが、極みへ向かうための道であり……」

 「それじゃ遠慮しときます」

 どうせ人間には攻撃できないんだし。

 

 「なっ!? 今どきの子どもにありがちな冷めた態度!?
  どうしたんだ千夏!! 昔のお前はそんなんじゃなかっただろ!!」

 失礼なことをさらっと言いやがって。
 前からこんなんですよ。私は。

 「どうでもいいんですよ。新奥義なんて」

 「今なら奥義伝承のあかつきには、
  特製『師匠ストラップ』がついてくるんだぞ!?」

 ますますいりませんよ、そんな物。
 子どもだからって物で釣ろうとして……。

 「しかも夏色バージョンだぞ!?」

 夏色じゃないバージョンも用意してあるってことですか。
 一体なんのために……?

 

 「今しか手に入らない限定物なんだぞ!!
  この機会を逃したら二度と……」


 なんだかあまりの必死さに、可哀想になってきました。


 「新奥義ってどんな奥義なんですか?」

 一応どんな技なのか聞いて、それから習うかどうか決めることにします。

 「金を作り出す奥義でな……」

 「錬金術!?」

 全然武術と関係ないじゃないですか。


 「そうか……やはり駄目か。
  分かった。私はもう諦め……」

 「ちょっと待った!!」

 金を生み出せると聞けばもちろん私は


 「是非!! この私に伝授してください!!」

 当たり前のように土下座して頼み込みます。

 これもみな貧乏が……。


 

 8月24日 火曜日 「師を越えた日」


 私はいま山にいます。
 別に夏休みだからキャンプしてるんだとか、
 そういうわけじゃございません。

 昨日の日記を見れば分かる通り、
 空舞破天流の新奥義を伝授するための山ごもりなのです!!

 あ、ちなみに特製『師匠夏色ストラップ』はやっぱり微妙な代物でした。

 

 「さて、まず基礎トレーニングから……」

 「そんな煩わしいもの飛ばして、
  さっさと金を作りましょうよ」

 そして億万長者です。

 「前にも言ったが、日々鍛錬が武術の基礎であり、また極みなのだと……」

 「師匠ぉ、お願いしますぅからぁ、
  私に奥義をご指導くださいぃ」

 リーファちゃんの猫かぶりをまねて、精一杯ロリロリな声でお願いします。
 なれないことしたため、ストレスで脳が焼き切れそうです。

 

 「……」

 「し、師匠?」

 ……バタン。

 なんとも綺麗な倒れかたで、師匠が大地に横たわります。


 ……どうやらさっきのが師匠のウィークポイントを見事に
 えぐってしまったみたいですね。
 これで私が空舞破天流の師範ですか?

 

 ……やっぱロリコンなんじゃねえか。

 8月25日 水曜日 「特訓開始」


 「さて、それじゃあ気を取り直して奥義の特訓を始めよう」

 ようやく意識を取り戻した師匠が、
 危なげな手つきで小さなメモ帳を取り出します。

 とりあえずそのメモ帳に、『ネタ帳』と書かれていたことは流させてもらいます。


 「……師匠?」

 何故か師匠はチラチラとこちらを見ています。
 ……多分、ネタ帳ってのは仕込んだネタなんでしょうね。
 ツッコミを今か今かと待ってますし。


 「師匠、さっさと教えて下さいよ」

 「そ、そうか……」

 意地でも流してやりますよ。

 

 「えっと、金を作るのには次の材料が必要となる」

 本当に武術とは関係ないですね。


 「一つ目は火竜のウロコ」

 「あの〜……気のせいかもしれませんけど、
奥義を修得できる確率がたった今、0になりませんでしたか?」

 「二つ目は……」

 あら、今度は私の方がシカトされてしまいましたよ?


 「アリの涙」

 昆虫に涙腺は無いだろ。


 「それと『三つのき』だそうだ」

 「お、これだけは揃えられそうですね。
  木の種類は?」

 「元気、勇気、負けん気」

 もはや物質ですら無いのですか。

 

 「これらの材料と少量の金を特別な方法で混ぜる」

 「え!? 金を作るのに、金が材料として必要なんですか?」

 「ああ、なんでも10g作るのに11g必要らしい」

 「へぇ〜そうなんですかぁ……
  10g作るのに11gも金を……」


 ……あれ?


 「1g損してますよ!!」

 「あははは、すごいだろ?
  質量保存の法則を、普通に無視してるんだぜ?」

 負けん気とか材料に入れてる時点で
 いろいろな法則をつっぱねてるでしょうが。

 

 「材料も用意してあるし、試してみようじゃないか」

 「見せてください。
  材料の負けん気を見せてください」


 「空舞破天流奥義、錬金術ぅ!!」

 師匠はそうのたまって、材料を握り潰しました。
 どうやら特別な方法で混合ってのは、
 握力まかせで潰して混ぜるってことだったらしいです。
 ここらへんの荒っぽさは、格闘家っぽいです。

 

 「千夏!! 失敗してしまったようだ!!」

 「ふ〜ん、そうですか」

 成功するなんて思って無かったのでどうでもいいです。

 「錬金術が失敗の影響で召喚術に変化してしまったらしい!!」


 私と師匠の目の前には、
 広辞苑で『魔王』と引いたら挿し絵にされてそうなほど、
 わかりやす〜い魔王さまが。

 いや、多分広辞苑には魔王の挿し絵なんて無いでしょうけどね。


 「ふはははは!!!!  我の復活のあかつきに、この星の半分を焼き尽くしてくれるわ!!」

 「半分ですか……」

 魔王が手加減してるのかどうなのか分からない人類滅亡計画を口走ります。

 ……さて、どうしましょうか?

 

 

 8月26日 木曜日 「イカサマ」


 昨日、武術の流派の師匠に何故か錬金術を習い、
 そいでもって魔王が召喚されました。

 わけ分かんない。
 全然理解できない。

 

 とにかく、いま私たちは「世界を滅亡させてやる」
 なんてことをのたまう魔王をなだめている最中なのです。


 「ま、魔王さん!!
  せっかくこの世界にいらしたばかりなんですから、
  そう急がなくったっていいんじゃないですか?
  今はゆっくり休んで……」

 「え〜でもなぁ、確かに働きすぎかもしれないけどぉ」

 コイツ、魔王のくせに優柔不断みたいです。
 おかげで昨日から引っ張り続けてられたので万々歳ですけどね。

 

 「おい、いい加減休むか働くか決めろ。
  私はそういうどっちつかずな態度が一番嫌いなんだ」

 おいコラ、ロリコン師匠。

 なに言いやがるんですか。

 「休みたいんだけど、でもぉ働かないと怒られるし……」

 魔王が頼りなさげな声でそう言います。
 っていうか昨日とキャラ違ってない?


 「そういう時はこれで決めればいい」

 師匠は懐から一枚のコインを取り出しました。


 「コインを投げて地面に着いた時、表が上を向いたら休む。
  裏だったら地球を破壊する。
  これでどうだ?」

 「あ、うんいいですよ」

 押しに弱いな魔王。
 それにしたも師匠は一体なにを考えて……!?
 ま、まさか、そのコインは両面が表なんじゃ……。

 私の視線に気づいたのか、ウインクしてきます。


 どうでもいいけど、男のウインクは気持ち悪いんでやめてください。

 

 「それじゃいくぞ?」

 師匠がコインを上に放り投げます。
 こんな小さなコインが、地球の運命を決めてしまうなんて。
 ……いや、結果はもう決まってるんですけどね。


 数秒の間、空を泳いでいたコインが、地上へと帰ってきます。
 そして上を向いている面はもちろん……。

 


 「え!? 裏!!??」

 「あ、間違えた」

 「師匠ー!?」

 どうやらバカ師匠は、うっかり表の面が無いコインを投げてしまったようです。


 ……ふざけんな。

 

 「よ〜し、滅亡させちゃうぞぉ」

 家族揃って海に出かけようかぁ、
 みたいなノリで滅ぼさないでください。


 「まず、幻の大陸、アトランティスから破壊したらどうですか?
  後で伝説になった時に泊が付きますよ」

 「うん、そうだね。
  その方がカッコいいもんね。
  それじゃ、アトランティスへ出発〜!」


 私の機転でいくらかは時間が稼げたようです。
 なんとかその時間内に対策をとらなきゃいけませんが、

 


 ……とりあえず今は師匠をシメときますね。

 

 8月27日 金曜日 「召喚術」


 今、私と師匠は対魔王作戦会議を開いています。

 「千夏、召喚術のメカニズムが判明した」

 「もしかして、魔王を送り返すことができるんですか!?」

 「いや、それは無理だ」

 「……」

 「まあそんな、取っておいた冷蔵庫のプリンの仇、みたいな目で見ないでくれ」

 普通ここはスマートに親の仇でいいんじゃないですか?


 「とにかく聞いてくれ。
  どうやらこの世界の物質を愛情を持って握り潰せば、
  潰した物の種類によっていろいろな生物が召喚されるらしい」

 もうちょっと優雅な召喚の方法は無いんですかね?


 「つまりだ。
  目の前にある物を片っ端から握り潰して召喚していけば、
  魔王に対抗できる力を持つ者を呼び出せるかもしれない」

 「なるほど!! それはいい考えですね!!」

 「ああ、自分の手を汚さずに済むしな」

 なんかやな言い方だな、それ。
 とにかく、私たちはいろいろな物を使って召喚してみることにしました。

 

 「まず初めにこれでやってみようと思う」

 「……それって玉ねぎですよね?」

 「長ねぎに見えたのか?」

 そういう意味じゃなくて。

 「もうちょっと強そうな物で試してみた方がいいんじゃないですかね?」

 「なんだよ強そうな物って?」

 ……確かに。変な言葉ですよね、強そうな物って。

 でもね? でもね?
 なんとなく、玉ねぎじゃ強い奴は召喚できないような気がするんですよ。
 なんとなくなんですけどね。

 

 「空舞破天流奥義、召喚術!!」

 うわ、偶然の産物を奥義にしちゃったよ。この人。
 それにしても素手で玉ねぎは潰したくないですね。
 臭いが付いちゃいそうだし。


 「ほら!! 千夏、見てみろ!!」

 お、何か召喚できたみたいです。

 「なんかドロドロしたものが召喚できたぞ!!」

 「うわ!! キモ!!」

 スライムっていう奴なんでしょうか?

 「よし、これで魔王を……」

 「無理ですって。
  顔にぶち当てれば精神的なダメージはあるかもしれないけど」

 「それじゃあ今度はジャガイモで……」

 どうして食べ物ばかりなんですか。
 カレーでも作ろうと思って用意してたの?


 「千夏もぼーっとしてないで早く召喚しろ」

 もっともなことを言われてしまいました。


 「それじゃ私はこれで召喚してみます」

 私が取り出したのは師匠特製ストラップ(夏色)。

 「ひど!?」

 師匠の叫びを無視して握り潰します。

 「空舞破天流奥義、召喚術!!」

 ……ほら、なんかさ、叫んだ方が雰囲気でるかなって思って。

 

 そして私が夏色ストラップを使って召喚したものは……

 

 「あなたが潰したのは金のストラップですか?
  それとも……」


 「絶対勝てねー!!!!」


 その後、10回ほど召喚してみて8回も女神が出てきました。

 魔王と渡り合える奴はいまだ出てきません。


 

 8月28日 土曜日 「魔王との決戦」


 いくら召喚しても強そうな奴が出てこなかったので、
 師匠が直接戦うことにしました。

 いい加減この話を終わらせたいですし。
 何日間引っ張ってるんだって話です。


 「お前たちぃ、私を騙したなぁ!!」

 またキャラが変わっている魔王が怒ってます。
 そりゃそうですよね。トラウマ級の恥ですもん。


 「魔王よ、おとなしくもといた世界へと帰れ。
  さもなくば千夏がお前に酷いことするぞ」

 「そうそう、私が魔王をギタギタに……っておい、ちょっと待て」

 思わずノリツッコミしてしまいましたよ。


 「ほほう、面白い。
  やってもらおうじゃないか」

 あら〜……なんだか大変なことにぃ。


 「し、師匠助け……」

 師匠の姿が見あたりません。
 一体どこに……。

 「……」

 見つけました。
 某有名野球マンガ「すたー・おぶ・じゃいあんと」
 の薄情な姉のように木の陰からこっちを見ています。

 ……この野郎。


 「さあ闘おうじゃないか」

 「ちょ、ちょっと待って……」

 このままじゃ間違いなく殺されてしまいます。

 「なんだ? 怖気づいたのか?」

 ええ、そりゃあもう。

 

 「千夏!! 今こそ魔法少女チナチナに変身するのよ!!」

 ……気のせいか、お母さんに訳分かんないこと言われた気がします。

 「お、お母さん!? なんでここ……に!?」

 声のする方を見ると、なぜかお母さんは切り立った崖に立っていました。
 ……某(なにがし)と煙は高い所が好きと言いますから、なんだか納得できちゃいますけど。


 「さあ!! 変身しなさい!!」

 いや、変身しろって言われても。

 「そんなみょうちくりんな特技は持ってないんですけど」

 「黒服さんに頼んでトランスフォーム機能を取り付けてもらったから大丈夫よ」

 トランスフォームって、明らかに魔法少女とは正反対のジャンルですよね?


 「早くトランスフォームって叫びなさい!!」

 どうせならもっと可愛らしい変身方法にして欲しかったです。
 それ、絶対にスポーツカーとかに変身しちゃいそうじゃないですか。


 「……トランス、フォ〜ム」

 ……こんなセリフを言うことになるとは。
 とにかく、その言葉を唱えると私の体から光が!!
 うおぅ、本当に変身しちゃうんですか!?

 「っていうか遅い」

 「ガフウゥ!!」

 変身中は黙って待つというお約束を無視した魔王の鉄拳が、私を襲います。
 さすが魔王。悪の根源。
 ここまで酷いことするなんて。


 「千夏!! よくここまで頑張った!!
  あとは俺に任せろ!!」

 さっきまで木の陰に隠れていた師匠がさも今現れたヒーローのように飛び出してきます。
 てめえこのやろ、と文句の一つでも言いたい所ですが、
 思いっきり魔王の拳がクリーンヒットした私にはそんな余裕はありません。


 「よくも私の一番で死を可愛がってくれたな」

 弟子ですよ、弟子。なに一番目の戦死者的な誤変換してるんですか。

 「俺の怒りの鉄拳をくらえ!!
  空舞破天流奥……ガブハァ!!!」

 魔王がまたセリフの途中で攻撃しやがりました。
 それにしても師弟そろって同じようなやられ方って……。


 「うう……もうここまでなの?」

 こんなことで私の人生が終わってしまうなんて絶対イヤですが、
 体が言うことを聞いてくれません。

 ああ……もっと楽しく生きたかったな。

 薄れゆく意識の中、私が最後に見た光景は……
 魔王に小手投げ喰らわしてるウサギさんでした。

 

 

 ……ああ、やっぱりウサギさんは私にとってのヒーローですよ。
 ただもう少し映える技で助けてくれると嬉しいんですけど。

 ガフッ(気絶)


 


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