2月4日 日曜日 「蘇生」

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 「あー、びっくりした。死ぬかと思った」

 「おー。逃がし屋さん。私たちも死ぬかと思ってましたよ。あなたが。頭を打ちぬかれたあなたが」

 「人間って割りと丈夫なんですね」

 「そうなのかな? そういう風に片付けていいのかな?」

 「それに腕の良い闇医者に見てもらいましたからね。もう大丈夫です。昨日のようにあんな怪我で意識を失ったりする事なんてもうありません」

 「なにかをいろいろ間違えているような気がしないでもないけど、まあ分かりました。
  一応信頼しますよ。その言葉」

 いやぁ……ダメ元で医者の所にこの逃がし屋さんを連れて行ったのですが、まさか本当に治療してくれるだなんて。すげえな。宇宙の医療って。
 まあそれよりも驚いたのはこの街に正規の医者がひとりも居なかったことなんですけど。
 闇医者ばっかりの町っていったいどうなんですか。

 「さて。ではようやく私たちも祭りに参加することが出来るのですね。頑張りましょう!!」

 「はぁ。やっぱりそっちに話が戻るわけですか……。そうですよねえ、どうにかしてお金集めないと」

 「という事なので、銀行を襲いましょう!!」

 「おー、一気にショートカットしますかね」

 「お金を簡単に手に入れられる犯罪なんて、やっぱり銀行強盗ぐらいしかありませんからね」

 「確かにそうかもしれませんけどさあ……」

 「じゃあさっそく行きましょう!!」

 「え? もう行くの? 準備とかは!?」

 「何を言っているのですか。早くいかないと、お金を皆取られてしまいます!!
  さあ! 急ぎましょう!!」

 「まるで生き返ったかのように元気ですね……」

 いや、実際生き返ったのでしょうけど。




 「お客さんお客さん。元気になるのは良いことだけどさ、そのまえにお金払ってもらえないかね?」

 「え? ああ……確かにそうですね。逃がし屋さん。お医者さんがお金払って」

 「……」

 「…………逃がし屋さん?」

 「ダッシュ! ダッシュですぞ!!」

 「ちょ、ええ!? 踏み倒すの!? お金持ってなかったの!?」

 「お前ら待てえええええ!!!!」

 「きゃああああ!! 闇医者がメス持って追っかけてくるよー!!!」

 この唾吐き街における、私たちの記念すべき初犯罪は医療費の踏み倒しでした。
 ……こ、こんな形で前科が。



 2月5日 月曜日 「戦場」

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 『ドガアアアーーンッ!!』

 「ぎゃあああ!!!」

 「誰かー! 誰か助けてくれええ!!」

 「衛生兵! 衛生兵!! 早くこっちに来てくれ!!」

 「お、お母さん……そこに、居たん、だね……」

 お金を手っ取り早く手に入れるために唾吐き街の銀行へと向かった私たちの目の前に広がっているのは、戦場でした。
 犯罪し放題とは聞きましたが、この世で一番残酷な犯罪である戦争が行われているとは聞いてないのですが?
 なんですかこの惨状は。

 「くっ……さすがに一筋縄にはいかないようですね」

 「えーっと、あのー、ひとつ聞いてもよろしいですかね? 逃がし屋さん」

 「なんですか?」

 「この惨状はいったい……?」

 「ああ、これはですね、銀行がとっている防衛手段ですよ」

 「銀行の防衛手段?」

 「そうです。銀行側からしてみれば、この祭りの期間中は絶対に賊が侵入する事が分かってますからね。
  だからこうやって武力でもって賊たちを追っ払おうと必死になっているのです」

 「ああ……なるほどね。そりゃそうだろうね。どんな犯罪でもありな祭りなら、銀行なんて恰好の標的なんだもんね」

 「ちなみに銀行側の主な装備は迫撃砲と対人地雷らしいですね。
  これじゃあ中々銀行の入り口までたどり着く事なんて出来ませんよ」

 「っていうかさ! もしかして私たちもこの戦場に突入しないといけないの!?」

 「もちろんですよ。そうしないでどうやってあの銀行を落とすというのですか」

 「もうちょっと優しい感じのお金儲けの方法が良いのですけど!?」

 「もうちょっと優しいねえ……。それならそこら辺を歩いている人を追いはぎするのが手っ取り早いですけど……多分その通行人も銃などで武装してますからねえ」

 「そ、そうなの?」

 「この祭りの期間中は、みんな何かしらの武装を施してますよ。
  油断して小さい子などを誘拐しようなんて考えない方がいいですよ? 大抵そういう子は銃やら爆弾やらを身体に忍ばせていますから」

 「……そ、そうなんですか」

 私はなんて所に来てしまったんでしょうか……。

 「ま、まあ私たちにはウサギさんが居るから大丈夫ですよね! なんてったってウサギさんは世界一の戦闘用義体を持った兎さんなんですからね!?」

 「え? あ、ああ……まあ頑張っては見るけども、さすがに俺でもあの砲弾の嵐は……」

 「さあ、それでは行きましょう千夏さん、ウサギさん。これ持って。人生に大きな花火を打ち上げてやりましょう」

 「や、やっぱり私も行かなきゃいけないんですか……。って、これは何?」

 「鍋です。頭に被ってください」

 「な、なんで被らなきゃいけないの……?」

 「頭に被弾したら大変でしょう? 昨日の私みたいになっちゃいますよ?」

 「いや、迫撃砲だったらこんなものなんて関係ないんじゃ……? かすっただけで頭吹き飛びますよね?」

 「さあ、突撃だー!!」

 「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!! 腕を引っ張らないでー!!」

 数々の戦場を渡り歩いてきた私ですが、ようやく神風特攻隊の気持ちが分かりました。
 何故こんなにも勝ち目の無い戦いに挑まなければならないのか?





 2月5日 火曜日 「地下組織」

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 『ドガーンッッ!!!』

 「きゃああ!!!!」

 「ち、千夏!! 大丈夫か!?」

 「大丈夫じゃない! 全然大丈夫なんかじゃない!! 数センチ横をっ! 数センチ横を砲弾があっ!!」

 「と、とりあえず撤退だ千夏!!」

 「ちくしょーこの武装銀行員どもめー!! 覚えてろよー!!」

 えー、大量のお金を手に入れるために行った銀行襲撃ですけども……見事返り討ちにあってしまいました。
 いやぁ。やっぱりダメですよ。素手の人間が迫撃砲の嵐に立ち向かえるわけが無いんですよ。
 少し考えれば分かることなのに、何故私たちはああも簡単に戦場に出てしまったのか。
 やはりどこかなめてかかった部分みたいなモノがあったのでしょうか?


 「いや〜、ダメでしたね」

 「ダメでしたねじゃないでしょうが。逃がし屋さんがこの突入プラン考えたんでしょ?
  プランっつってもただ突っ込むだけのものだったけど。ホント責任とってよ」

 「怪我なかっただけでも良かったじゃないですか」

 「他人事みたいに言っちゃって……。というかね、これからどうするの?」

 「これからとは?」

 「もちろん銀行襲撃の事に決まってるじゃないですか!! どうやってあそこに突入するの!?
  もうむちゃくちゃな突撃なんて通じない事分かったでしょう!?」

 「ちょ、ちょっと千夏……もしかしてまだあの銀行に挑戦するつもりなのか?」

 「当たり前じゃないですかウサギさん!! ここで逃げたら女が廃りますよ!!」

 「廃らないと思うよ。さすがに武装した銀行から逃げ出すのは誰だってはだしで逃げ出すと思うし」

 「じゃあ歴戦の傭兵としての誇りが廃れます」

 「いつからそんな誇りを持っているようになったんだよ……」

 「とにかくっ!! 今私は頭にきてるのです!! なんだよあの銀行!! 迫撃砲だけかと思ったら重機関砲まで装備してやがって!!」

 「ふっふっふ……やる気ですねえ千夏さん。安心してください。こんな事もあろうかと、プランBを用意してましたから」

 「プランB?」

 「ええ。さっき私たちが行ったプランAよりも安全ではあるのですが、ちょっと時間がかかってしまうのが欠点の作戦です」

 「それをまず先に薦めろよ。なんでいきなり命を捨てるかのような突撃作戦を決行するんだ」

 「時間が無かったものですから」

 だからって死に突き進まなくてもいいでしょ。

 「で、そのプランBってのはなんなの? どういう作戦?」

 「協力者を募るんです」

 「協力者? 何か当てとかあったりするの?」

 「ええ、もちろんですとも。この街でひそかに活動しているというある組織……そこに協力を求めるのです。
  ふふ……ふふふふふ……」

 なんか、ものっそい不安なんですけど。




 2月7日 水曜日 「踏み絵」

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 「ようこそ。唾吐き街地下組織、『真剣に銀行陥落を考える会』へ」

 「なんですかそのただ名乗るだけで公安に目を付けられそうな会名は」

 私たち銀行にしてやられた一向は、今こうして唾吐き街に存在しているという地下組織に助けを求めました。
 犯罪者崩れどもの巣窟であるにも関わらず、意外と快く迎え入れてくれました。あまり不安は消えないのですが。

 「さあ! まずお三方には我ら『真剣に銀行陥落を考える会』の活動趣旨を理解してもらいましょう」

 「いや、大体分かります。ここに来る途中で逃がし屋さんに概要を聞きましたし、それになにより今その会名を聞いたので」

 「ならば話が早い! ではぜひとも我々に協力してください! 私たちは今慢性的な人員不足に陥っているのです!!」

 「私みたいな子供の手さえ借りたいというのですか……本当に人、足りてないんですね」

 「ええ……。実はもっと前には総勢500人ぐらいのメンバーが居たのですが、今ではたった30名となってしまったのです」

 「すっごい減りっぷりですね。インフルエンザにでもかかった?」

 「別に伝染病が蔓延したわけではありません。これもすべてあの忌々しい銀行の奴らのせいで……」

 「へ? 銀行? 銀行に何かされたの?」

 「あいつら、俺たちの所にスパイを送りこんで、内部からズタボロにしたんです!!
  ちくしょう! あいつらが仕掛けた爆弾のせいでジョニーがっ!!」

 「どこまで攻性的な銀行なんですか。普通そんな事しないでしょ」

 「向こうも必死なんですよ。お金を盗られるという事は本当に死活問題ですからね」

 「死活問題だからって他人を殺害するのはどうかと思いますよ逃がし屋さん……」

 「でもっ! 我らはそんな悪魔の巣窟、銀行にどうしても打ち勝たねばならないのです!!
  そしてっ! あの銀行の奥にあるこの星の至宝をどうやったって手に入れなければならないのです!!」

 「至宝? 何それ?」

 「どうやら彼らはお金の他に何か目的があるみたいですね。
  でも千夏さん、そういう事はいちいち気にしちゃダメですよ。他人には知られたくない肝心な部分ってのが、確かに存在しますしね。
  私たちはただ、彼らの功績に乗っかってお金を手に入れることだけを考えましょう」

 「なんてあくどい事をさらりと言うのですか逃がし屋さん。でもまあ、言いたい事は分かります。
  そうですね、あまり気にしないでおきましょう」


 「さて、それではお三方……一つ入会テストみたいなものを行いたいのですがよろしいでしょうか?」

 「え? テストとかあるの!?」

 「そりゃあもちろんです。先ほども言いました通り、銀行の奴らが……そうでなくても他の組織の奴らが、スパイを送り込まないという保障はありません。
  だからちょっとしたテストを受けてもらいたいのです」

 「はぁ……まあいいですけど。痛いような奴でなければ」

 「はっはっはっはっは。痛みなんてありませんよ。すぐに終わります。そう、すぐにね……」

 うわっ。なんか怖っ。不気味っ。

 「入会テストとは……これだーっ!! これをお踏みくださいっ!!」

 「こ、これはーっ!!?? …………? え? 紙幣?」

 「そうです! 紙幣です!! 紙幣というのはいわば銀行員にとっては商売品! そしてもっとも崇める神っ!!
  まさしく偶像であり経典であり聖書であるようなこの紙を、あなたは踏む事が出来ますか!?
  踏めぬのであれば…………」

 「そりゃ」

 「おおおおお!! 何の迷いも無く踏んだっ!?
  ……いいでしょう。あなたの、この『銀行を(略)会』への入会を認めます。
  良い踏みっぷりでしたよ」

 「あ。そっすか。そりゃ良かった」

 踏み絵とかさ、私たち地球の何年前の事やってんですか。



 2月8日 木曜日 「一番悪い人」

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 「入会おめでとうございます千夏さん! この『銀行を……」

 「はいはい。そんな長ったらしい会に入った事を誇りに思います。
  でさ、具体的にこの会はいったい何をするの? ちゃんと銀行を陥落させるためになにか行動を行っているんですよね?
  突撃以外の方法で」

 「ええ。もちろんですよ! あなたにもさっそくその活動を手伝っていただきたいほどです。
  なにせ、人員がまったく足りませんので」

 「はぁ……そうなんですか」

 「はいどうぞ。これをお使いください。これで一緒に銀行までの道を切り開きましょう!!」

 「これはえーっと……なに?」

 「スプーンですよ。ほら、スープとか掬う時に使う奴」

 「用途の説明は別にいらないですけど。
  え? なに? なんでスプーンなんかが必要なの?」

 「これでですね、銀行の奴らと戦うんですよ。つまり、このスプーンこそが私たちの武器なのです」

 「へ? は? どうして? どうしてこれが武器になるの!? こんなのであの迫撃砲の嵐に立ち向かえるわけがないじゃない!!」

 「千夏さんは見かけによらず馬鹿ですねえ」

 「なんだその言い草は」

 「いいですか? このスプーンでですね、穴を掘るのです! 銀行の地価金庫に向けて!!」

 「えええええ……おそろしく地味な」

 「何を言っているのですか! 小さなことからコツコツとやっていけば、絶対に実を結ぶのですよ!!」

 「そういう風にコツコツ何か出来るならもうちょっと何かマシな職に就けよ」

 基本的に犯罪者に向いてないんじゃないか? この人。



 「逃がし屋さん……ここ、ダメじゃない?」

 「そうですか? いいと所じゃないですか」

 「でもさあ、このままじゃ銀行にたどり着くのもいつになるか」

 「いや、もう穴は殆ど掘りおえているらしいですよ。だから私たちが手伝うとしたら内部に忍び込んでからの戦闘でしょうね」

 「前と同じで突撃兵なんですか……」

 「でもいいじゃないですか。一番お金に近い所に居る事が出来るという事は……つまりお金を独り占めする事も……」

 「……逃がし屋さん。あなた、もしかしてこの妙にしょぼそうな組織に私たちを招待したのって、
  あの人たちなら出し抜けやすいだろうって理由だったからなんじゃ……」

 もしかしてこの人が一番の悪なんじゃないだろうか?


 2月9日 金曜日 「大発見」

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 『ザックザックザック』

 「……ウサギさん」

 「んー? どうした?」

 「なんていうか……穴掘りってのも大変ですね」

 「そうだな。まったくゴールが見えないからな」

 私たちは銀行を襲う会(否正式名称)の手伝いをしています。
 そう、つまり、銀行に突入するための穴掘り。穴掘りっていうか脱獄ににたような雰囲気の職場なのですが。

 「なんかこのまま永遠に掘り続けなきゃいけないんじゃないかって思えて……普通に落ち込んできますね」

 「千夏は家庭菜園とかダメそうだな」

 「そうですね。全然ダメそうですね。ゴメンね、ガーデニングとか似合わない女で」

 「なんだその卑屈っぷりは」

 『ザックザックザック……』

 「……しかし思ったんですけね、いくらなんでもスプーンで掘る事ないよね」

 「まったくもってそうだな。なんで昨日その事に対して異議を申し立てなかったんだよ」

 「この街じゃあそれもありかなって思っちゃったんですよ。
  あーあ、ドリルとか使えばいいのに」

 「そういうの使うと振動で銀行にバレちまうらしいぞ。だから手堀なんだと」

 「へー、そういう理由がきちんとあったんですか。ならシャベルとかスコップでいいのに」

 「まったくだな」

 『ザックザックザック』

 「ねぇ……ウサギさん」

 「今度は何だ?」

 「バックレません?」

 「ずいぶんと思い切るな」

 「だって無理だよ! こんなので銀行を襲うなんてさ!! よくよく考えてみると、銀行の地価金庫なんて一番鉄板とかそういうのに守られているはずじゃん!!
  私たちがスプーンで掘り進んでもその鉄板にぶち当たったらどうにもならないじゃん!!
  それに早くしないと祭り終わっちゃうしさあ!!」

 「確かにそれもそうだ。やっぱりこの組織は捨てた方が俺たちのためにも……」

 『ザックザックガギィンッ!!!』

 「あれ? 何かに当たった? もしかして銀行?」

 「いや、こりゃ何かの袋みたいだな。袋というよりもバッグか? なんでこんなものがここに埋まってるんだ?」

 「ウ、ウサギさん? その袋の端から見えてるのって……金塊じゃ?」

 「何? 金塊だって!?」

 銀行に向かって掘り進んでいた私たちは、その途中で金塊の詰まったバッグを拾ってしまったのでした。
 これは多分どこかから盗まれた物なのだとは思いますが……そんな事、私らに関係あるかっ!!

 「よしウサギさん! これ持って早く逃げましょう!!」

 「いや、ダメだ」

 「どうして!? どうしてそいういう事言うんですか!!」

 「出入り口には組織の連中が居る。あいつらにこの金塊が見つかったら、分け前を寄越せとかそういう話になるぞ。
  そうなったら俺たちの儲けは殆どなくなる」

 「た、確かに。それは嫌です……」

 「だから……このまま掘り続けよう。今度は掘る方向をちょっと上に向けて」

 「なるほどっ! この穴を私たちの脱走路にしてしまうわけですね! さすがですよウサギさん!!」

 「ふふふ……まあね」

 「あは、あはははは、わっはははははははっっっ!!!!」

 「はははっははははははは!!!!」




 「しかしずいぶん悪くなりましたね、私たち」

 「ホントだな。さっさとこの街から逃げ出そう。心を病んでしまう」

 環境に馴染んでしまうもんなんですねえ。


 2月10日 土曜日 「穴掘り終了」

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 「ああ……もうダメだ。疲れちゃいましたよウサギさん」

 「千夏、もうひと踏ん張りだ。もう少しで地上に出るはずだ!!」

 私たちは銀行に向けて穴を掘り続けてきたのですが、途中で金塊を見つけたというドッキリハプニングがありまして、
 今ではここから逃げ出すために地上に向けて穴を掘り続けています。
 今では穴もかなりの角度で上の方向に掘られており、ウサギさんの言うとおり地上までもう少しのはずでした。

 「で、でもですね……もうスプーンを持つ手がヘトヘトで。
  なんか持ってるスプーンもいつの間にか先割れスプーンになっちゃってますし」

 「そう。そりゃ良かったな。堀やすくなって」

 「そうだね。確かに掘りやすくなったよ。でもさ、大切なのはそこじゃないと思うんだよね。
  今一番議論しなければいけないのは、普通の丸いスプーンが先割れスプーンになってしまうほど、穴を掘り続けたという事なんだよね」

 「そうだな。良く頑張ったな」

 「いや、別に褒めてもらいたいわけでも……まあいいです。もうひと踏ん張りだとウサギさんが言うのであれば、頑張ってやろうじゃないですか!
  うおおおお!! 待ってろよ地上!! そして大金持ちにっ!!」

 「わざわざ迫撃砲飛び交う銀行に攻め入らなくていいんだから、かなり得した気分だな」

 「そうですね。そもそも銀行に攻め込むだなんてどうかしてるんですよ。
  やっぱり人間、マジメにコツコツ働かないと」

 「マジメにコツコツ働いた結果ではないけどな。この金塊は」

 あまり気にしないでくださいよウサギさん。世の中、結果が全てなのです。
 結果オーライなら誰も文句言わないのです。


 『ボゴッ』

 「あっ! やった!! 空が見えた!! ついに脱出成功だあ!!」

 「よし! やったぞ千夏っ!!」

 よし。とりあえずこの金塊をお金に変えたらすぐに関所に行って、冒涜街へ乗り込みましょう。
 そこでこの星から逃げ出す算段を立てて、どうにか銀河中心部に向かっているお母さんに追いついて……
 ああ、そういえばそういう話だったんですよね。なんだか長い間本筋を放って置いたもんだから、思い出すのに時間がかかりましたよ。

 「ふう。よし。これでようやく先に進む事が……」

 『ドッガアアンッ!!!』

 「きゃああああ!? 何事!?」

 「千夏! 伏せろ!! どうも俺たち、銀行の前……よりによって激戦地に出てきちまったらしい!!」

 「え!? ええええ!? せっかく脱出したと思ったのに……もしかして私たち死ぬ!?」

 ああ……よくよく考えてみれば、銀行に向かっている穴を途中で上向きに掘れば、
 どうしたって銀行の近くに出るのは当然ですよね。
 なんで、私たちこんなに詰めが甘いんだろ。







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