2月10日 日曜日 「銀行員という名の兵士たち」

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 「さあ! はやく答えるんだ!! お前らの目的はなんだ!!」

 「だ、だからですね、私たちはただの観光客で……」

 「嘘をつくな!! 観光客なんかが、砲弾の飛び交う激戦地に迷い込むわけがないだろ!!」

 「そ、そういわれてもですね、それが事実なわけですから私たちにはもう他になんとも言う事などできな……」

 「ほう……。じゃあ拷問でもしちゃおっかなー? 膝の可動を今よりもっと柔軟にしてあげよっかなー?」

 「うわあああああ!! ウサギさん! この人、へし折る気だ!! 私たちの膝をへし折る気だよ!! 最悪のサドだ!!」

 銀行を襲う会(略)の作っていた穴を、途中で方向を変える事によって地上へと脱出した私たちでしたが、日の目を見た所はあの武装した銀行の前でした。
 おかげでいくつか命をすり減らしまして気絶いたしました所、こうやって銀行員の手によって捕縛されてしまったのでした。
 というか銀行員に見えないのですが。ただの歴戦の傭兵にしか、見えないのですが?


 「う、ウサギさん……どうしよう。これからどうしよう?」

 「ああ、本当に困ったな……。というかまさか銀行の奴らがここまで疑心暗鬼になっているとは思わなかったな」

 「そうですね……。おそらく毎年毎年、この祭りの時期には酷い目にあったんでしょうね……」

 「しかし千夏……よくよく考えてみるとチャンスかもしれないぞ?」

 「え? チャンス? どういう意味ですかそれは?」

 「確かに今俺たちは銀行員に捕まってピンチかもしれないけれど、逆に考えるとすんなり銀行の中に侵入できたって事じゃないか」

 「ま、まあ確かにそうかもしれないですけど……」

 「だから、なんとか隙を見てここから逃げ出して、地下金庫まで行く事ができれば……」

 「おおっ! 一気に大金持ちですか!?」

 「そうだ。悪い話じゃないだろ?」

 「ええ! 全然オッケーですよそれは!! ……でも、そもそもこの状況をどうにかしないといけないじゃないですか」

 「そこが問題なんだよなぁ」

 「うわー。そんな一番大事な事を考えてもくれなかったんですか。ホントどうにかしてよ。
  今私たちに必要なのは幸せな妄想じゃなくて現実的な作戦なんだから」

 「ああ、本当に面目ない……」

 「おい! 見ろよこれ!! 金塊だぜ!!」

 「え? ああ!! ウサギさん!! どうしよう、私たちの金塊があいつらに見つかってしまいましたよ!!」

 「これは……本当にまずいな」

 あああ……このままだと私たちは一文無しに。このままだとゲームオーバー間違いなしですよぉ。
 どうしよぉぅ。



 2月12日 月曜日 「預金」

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 「おいお前ら! これはどういう事だ!?」

 「う、うわー……どうしましょうウサギさん! 金塊が、あいつらの手に渡ってしまいますよ!!」

 「落ち着くんだ千夏。冷静に対処しろ」

 「い、いや。冷静にって言ったってですねぇ……」

 「おい! 話を聞いているのか!!」

 「あ、は、はいっ! 聞いていますとも!!」

 「この金塊はいったいなんなんだお前ら!! 一体何者だ!!」

 「な、何者だと言われましてもね、だからここらへんをフラフラしていた観光客だと……」

 「普通の観光客が金塊なんて持ってあるいているもんか!!」

 「ど、どうしてそういう事を言い切れるのですか! 世の中にはたくさんの人が居るのですよ?
  その多くの人の中には金塊をマイ枕代わりにしないと寝れなくて、いつも持ち歩いているなんて人が居たっておかしくない……」

 「おかしいだろ」

 「そうですね。おかしいですね。ふざけてごめんなさい」

 「怪しい奴だなお前たち……まさか、お前ら」

 (げっ。もしかしてここを襲おうとしていた事を気付かれた!?)

 「……さまか?」

 「へ? なんですって?」

 「お前らお客様かって聞いてんだよコラァッ!!!」

 「うわー! ごめんなさい!! なんかよく分からないけどそうですっ!!」

 「そうか! ならばいらっしゃいませーっ!!!!」

 どうやら私たちの事をお客様だと認識してくれたらしいです。
 しっかしすっごく怖い接客だな。

 「この金塊はお預け入れでよろしいですかっ!!??」

 「よ、よろしいです!! だから、そうやっていちいち銃をこちらに向けるのはやめてください!!」

 「ご利用ありがとうございまーす! 通帳を作成いたしますので、しばらくおまちくださーい!!」

 ここの星って金塊がそのまま通貨として流通しているのでしょうか?
 マネーロンダリングしなくても銀行に預ける事が出来ちゃったよ。

 「ま、まあとにかく……これで一難去ったみたいな感じですよね」

 「いや、これからどうするんだよ。金塊預けちゃって。どうにか取り返さないといけないじゃないか」

 「へ? 大丈夫ですよそれは。だって通帳貰ったらすぐに引き出せばいいわけじゃないですか。この銀行で」

 「でもさっき、定期預金にされてたぞ?」

 「…………これは、銀行襲撃の必要性が増しましたね」

 というかお客に内緒で定期預金にするなよ。怖い人だからそんな事言えないけども。




 2月13日 火曜日 「作戦会議」

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 「よし! 良い事考えたよウサギさん! あの金塊を取り返し、ついでにここの地下金庫にあるお金をごっそりと持っていく方法を!」

 「おーっ、すごいな千夏。それは頼もしい」

 「まずね、この銀行に飛行機が落ちてくるのを待つわけですよ」

 「え? なに? 待ってたら飛行機って落ちてくるもんなの?」

 「そうであってくれたら話が早く進みます」

 「そんな奇跡に似た前提が無いと進まない話なのか」

 「話続けますけどいいですか?」

 「あ、ああ……。まあいいけど」

 「ではまず、とにかく飛行機が落ちてくるのを待ちます」

 「そこは本当に譲れないのか」

 「で、もちろんですが飛行機が銀行に突っ込むと、みんなパニックになります」

 「そりゃそうだろうね」

 「ええ。そのパニック具合と言ったらそりゃあもう愉快なぐらいですよ。なんて言ったってボーイングですからね」

 「別に飛行機の機種名とかは関係ないと思うけど」

 「ボーイング、ナナヨンサン、みたいな感じですからね」

 「適当に数字はめ込むなよ。本当にあるのかその番号」

 「で、そんな風にてんやわんやになった隙をうかがって、私たちはここから逃げ出します。
  みんな銀行の防衛とか考えている場合じゃないので、割と楽に行動できると思います」

 「そうだな。みんな逃げるのに精一杯で、俺たちの事気にしてらんないだろうな」

 「そして私たちは地下金庫へと堂々と入っていく事ができ、そしてその金庫を開けて金塊と、大量のお金を手に入れるという寸法です。
  どうです? 上手くいきそうでしょう?」

 「そうだな。でもさ、地下金庫ってやっぱり素人には開けられないようになっているんじゃないの?」

 「大丈夫ですそれは。爆薬で吹き飛ばせば、多分なんとかなりますよ」

 「でも爆薬なんて持ってないだろう。俺たちは」

 「落ちてきた飛行機に爆薬が積み込まれていれば大丈夫ですよ」

 「飛行機が落ちてくるだけでもすごいのに、その落ちてきた飛行機に俺たちに都合の言いように爆薬が積まれているのか。
  どんな奇跡だそれは」

 「ひとつ奇跡が起きたなら、2つ3つと連鎖するぐらいなんて事ないですよ」

 「どういう理論だ。というかさ、爆薬積んでる飛行機が落ちてきたら間違いなく助からないんじゃないかな? 俺たち」

 「大丈夫ですよ。そこは奇跡で」

 「そこもまた奇跡か」



 「よしっ! これで作戦の方向性が決まりましたね!」

 「え? 今のって作戦会議だったの?」

 「もちろんですよ! さあウサギさん! 私たちがやるべき事はもう分かりますね!!」

 「ええっと……飛行機が落ちてくる事を祈るとか?」

 「もちろん助けが来る事を願う、ですよ。飛行機なんて落ちてくるもんじゃないし。
  それよりは銀行を襲う会が来てくれる事を願った方が建設的です」

 「さっきまでの会話はなんだったんだよ!!」

 ただの、暇つぶしかなぁ……。




 2月14日 水曜日 「地下金庫へ向けて」

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 『ドッガーンッ!!!』

 「わあああああ! なに!? 何この揺れは!?」

 「大丈夫か千夏!?」

 「え、ええウサギさん……。あまりにもおおきな音にびっくりしただけですよ。
  しかし今の音は一体……っ? そうか!! きっと飛行機が……」

 「そんなわけない。そんな都合の良い事が起こるわけが無いから」

 少しぐらい夢見させてくれたっていいじゃないですか。


 「でもじゃあいったいあの揺れは……」

 「全員伏せろーっ!! この銀行は、唾吐き街を統括している『ポリエステル団』が乗っ取ったー!!
  言う事聞けないやつは蜂の巣にしてやんぞーっ!!!」

 「う、うわあ!!! なんか変な奴らが銀行に入ってきたー!!!」

 ポリエステル団とはまた石油くさい集団ですね……。
 でも名前はとにかく、すっごく悪者たちの徒党って感じがします。
 私たちが入っていた銀行を襲う会たちはどうしたのでしょうか? もしかしてここに来る前にこいつらに……。

 「ウサギさん。どうしましょう? 少しばかり事情が変わってきましたよ」

 「ああ、本当だな……。どうやら奴らが一番初めにこの銀行の防衛線を突破した奴ららしい。
  このままだとあいつらに地下金庫の金を全て奪われてしまう。
  そうなるともう俺たちにはどうにも……」

 「それは困りますよ! さっさとお金を手に入れて、この街からおさらばしなければならないんですから!!
  一生ここで暮らすなんてゴメンですよ!!」

 「まったくだ。よし、じゃあこの混乱の隙を突いてどうにか地下金庫へと急ごう。
  奴らよりも早く、金を手に入れるんだ」

 「よし、やってやりましょう! でも地下金庫ってどこにあるんですかね? 正確な場所なんて全然知らないんですけど」

 「そりゃあ地下金庫って言うんだから地下なんじゃないか?」

 「それはそうでしょうけど。地下金庫と呼ばれるものがタンスにあったりするのであれば、
  地下金庫なのかタンス貯金なのか分からなくなってしまいますもん」

 「そういう問題でもないけどな」

 「でも私が見た感じでは地下に続く階段なんてありそうにも無い気が……」

 「千夏さん、千夏さん。こちらです」

 「あ、あなたはっ!!」

 私をこっそりと呼ぶ声がしました。その声の主の方を見ると……そこにはあの懐かしの逃がし屋さんの姿が!!

 「ど、どうしたんですか逃がし屋さん!? ……はっ! もしかして金塊を持って逃げ出した私たちの事を追って……」

 「いえいえ、そういうわけじゃないですけど。っていうか金塊って何のことですか?」

 「それはあなたが知るべき事ではないです」

 「……まあいいでしょう。とても気になりますが。それよりも早く、地下金庫へと行きましょう。私はそこへの道を知っております」

 「本当ですか逃がし屋さん!? さすがですよ!!」

 こうして私たちは、ポリエステル団に見つからないように、地下金庫のある部屋へと急いだのでした。



 それにしてもポリエステルは無いだろ。


 2月15日 木曜日 「金庫を開けっ!」

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 「ここですねっ! 銀行の地下金庫というのは!!」

 「ええ、そうですよ千夏さん。ここに唾吐き街全ての人間が預けたお金が集められているのです」

 「ほー、それはすごいですね……。でもですね、ここの銀行って毎年襲われてるわけでしょう? この犯罪祭りのたびに」

 「ええ、まあそうですね」

 「じゃあさ、誰もここにお金を預けようなんて思わないんじゃないの?
  それともバカなの? ここにお金預けている人は」

 「まあバカです」

 バカなのか。そこまではっきりと言い切られてしまったら返す言葉も無いわ。

 「でもですね、ここの銀行の防衛率はすごいんですよ。やはり狙われるという事は最初から分かってますからね。
  気迫が違うんです。他の人たちと」

 「そういうところをあえて攻めようとする私たちはどんだけバカなんですか……」

 「ええ、バカですね」

 そこまではっきり言われてしまうと返す言葉も……いや、あるね。そもそもこの銀行を攻めるという提案は逃がし屋さんが発案したんだもの。

 「よし、とにかくさっさとここの金庫からお金を失敬してしまいましょう。
  ぐずぐずしてるとポリエステル団とか言うやつらがここに来ちゃいますからね」

 「うーむ。それはそうなんですが、ちょっと問題がありまして……」

 「え? 問題? どうしたのいったい?」

 「この巨大金庫を開くための鍵……暗証コードが分からないのです」

 「暗証コード……なるほど、やっぱりそういう仕組みはあるわけか」

 「まあそう簡単には渡してくれないでしょうね」

 「何かいい方法ないの? その暗証コードを知るためのさ」

 「一番良い方法は上の方からひとり従業員を拉致して、暗証コードを聞きだすとか」

 「うーん……でも上に行くのは勘弁したいなぁ。ポリエステル団の奴らが居るし」

 「じゃあこの暗号表をなんとか解読するしかないですね」

 「暗号表? そういうのあるの?」

 「はい。地下金庫に思いっきり張ってありました」

 「無用心なんじゃないのそれ……?」

 「暗号化してあるから、こう目立つところに置いといても大丈夫だと思ったんでしょう。
  さあ、頑張ってこの暗号を解読しましょう! きっとこの中に金庫を開ける鍵があるはずなのです!!」

 「ふーん。まあやってみる価値はありそうですね。で、その紙にはなんて書いてあるの?」

 「まったく不可解な内容ですよ。いったいこの文が何を意味しているのか、私にはさっぱりで……

  『たたたたたたたたたたた
   たたたたたたたたたたた
   たたたたたたたたたたた
   たたたたたたたありんこ

   たぬき』

  と書かれています。なんなんでしょうね? これって?」

 「えーっと、多分この文から『た』を抜いて残った言葉が暗証コードなんじゃないかな?
  っていうかさ! やる気無いだろこの暗号文!! 今更た抜きの謎なんて流行らないし、
  そもそもなんで答えとなる文字が最後のほうに固まってるんだよ!!」

 「なるほど。つまり暗証コードは『ありんこ』ですか。さっそくやってみましょう」

 『ガゴンッ! ギギギギギギギ…………』

 「おおーっ! 開きましたよ千夏さん!! さすがですねあなた!!」

 「うわ……。本当に開いちゃった」

 銀行としてどうなんでしょうか。この暗証コードのやる気の無さは。



 2月16日 金曜日 「密室な金庫」

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 「ここが銀行の地下金庫の中ですか……。なんだかこざっぱりしてますねぇ」

 「この壁一面に埋め込まれている扉ひとつひとつの中に、そりゃあもうたくさんの金銀財宝が詰まっているはずですよ千夏さん。
  これらが全て私たちの物なのです! 笑いが止まりませんねホント!!」

 「金銀財宝なんて単語、御伽噺か何かでしか聞いたことありませんでしたからあまり現実感がないですねえ」

 「さあ! さっさとここからお金を盗み出してしまいましょう! グズグズしてるとポリエステル団のやつらが来ますよ!!」

 「そ、そうですね! 仕事はさっさとやってしまいましょう」

 ああ……私の人生の履歴書に銀行強盗経験という文字が刻まれてしまうのですね。
 これじゃあもう将来銀行勤務はやらせてもらえないかもなぁ。
 いや、まあ黙ってりゃいい事なのかもしれませんが。

 『ギギギギギギギィ…………バタン』

 「え? あれ? 今の何の音?」

 「別に私はオナラなんてしてないですよ」

 「いや、別に逃がし屋さんがオナラしたとは思ってないよ。というかさっきの音がオナラだったら、間違いなく何かの病気でしょ。
  医者いけよ」

 「今の音は多分……地下金庫の扉が閉まった音でしょうね」

 「ええええ!!?? 地下金庫の扉!? ちょっとそれ大丈夫なの!?」

 なんだかすごく不安になって、私は地下金庫の扉の方に飛んで行きます。
 そこには私より一足先にその音を聞きつけたらしいウサギさんが居ました。

 「あ、あの、ウサギさん! 今さっき扉が……」

 「ああ。閉じちまったらしい。どうもこの金庫、中からじゃ開かないみたいだ」

 「中から開かない!? それってつまり私たち、閉じ込められたわけですか!?」

 「ああ。まさにそうだな」

 「そんな……じゃあお金を手に入れたって意味がないじゃないですかあ。
  これからどうすれば……」

 「大丈夫。まだ希望はあるさ」

 「え? 希望?」

 「上にはまだポリエステル団とかいうチンピラどもがいるだろ?」

 「え、ええ。そうですけど」

 「あいつらは金を手に入れようとするために、ここの金庫の扉を開けなくちゃいけないわけじゃん?
  だから俺たちは、あいつらがここを開けてくれるのを息を潜めて待って……」

 「えええー!? 開けてもらったら、一気に飛び出すとかそういうのですか!?」

 「そういう事」

 「それは危険ですよウサギさん! その作戦だと、どうやってもポリエステル団と対面しなくちゃいけないじゃないですか!!」

 「しかしそれ以外に方法は無いだろう」

 「ま、まあ確かにそうかもしれませんけど……」

 ここまでせっかく流血沙汰を免れたっていうのに……。結局は戦わなければならないのでしょうか?
 痛いのは嫌だなぁ……。



 「おい千夏! ポリエステルの奴ら降りてきたらしいぞ!!」

 「ま、マジですか!? もう戦闘!?」

 ま、まだ私は心の準備がですね……。

 『おいお前、なんか暗証コード入れないといけないみたいなんだがよ、この暗号解けるか?』

 『へいボス! あっしに任せてくだせえ!!』

 そういえばここに入るには暗証コードが必要なんでしたっけ。
 確か答えは『ありんこ』です。

 『えーっと……すいやせん!! あっし、頭が悪いもんでなんとも……』

 「えええええ!!?? あんなに簡単な暗号が解読できないの!?」

 『よーし! じゃあみんなで考えようぜ!!』

 なんて妙に連帯感の強いチンピラですね……。
 でもやっぱりただの頭の悪いチンピラっぽいです。私たち、出れるのかな? ここから。




 2月17日 土曜日 「金庫の中の人間国宝」

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 「はぁ……本当にどうしよう」

 銀行の地下金庫になんとか侵入した私たち。しかし調子に乗りすぎたのが悪かったのか、私たちはその地下金庫に閉じ込められてしまいました。
 このままだと間違いなく酸欠とか飢餓で死んでしまいます。なんてカッコの悪い最期なのでしょうか?
 絶対に嫌ですね。そういう死に方。

 「ねぇねぇウサギさん。ウサギさんのスーパーパワーでさ、なんとかこの金庫を破る事は出来ないの?」

 「そんな簡単に言うなよ……。というかそういう事が出来るなら、最初からこの扉をぶち壊してるに決まってるじゃないか」

 「ああ……確かにそうですね」

 ううう……それじゃあやっぱり外に居るポリエステル団の奴らがここを開けてくれるのを待つしかないのでしょうか?
 でもあの人たちバカっぽいからなぁ……。ここを開けてくれるのはいつになるか……。



 「ほっほっほ。何かお困りかなお嬢さん?」

 「えーっとですね、実はこの扉が閉まって出れなく…………ってあなた誰ですか!?
  どこから現れた!?」

 私の前に、いったいいつからそこに居たのか、見知らぬおじいさんが立っていました。
 何者なのですかこの老人は!

 「私はずっと前からここに居たんじゃよ……。そう、君たちがここに入ってくる前からね」

 「ずっと前から!? それってつまり……ここに住んでたって事?」

 「まあ、そういう事になるかねえ」

 そういう事になるんですか。初めて見たよ。銀行の地下金庫の中で暮らしてる人なんて。

 「おじいさん……何者? もしかしてこの銀行の関係者?」

 「ほっほっほ。この金庫にはね、この星中の値打ちのある物がたくさん仕舞われているんだ。
  紙幣も、金塊も、骨董品も。そして価値のある命も」

 「へ? どういう事?」

 「つまり私は……人間国宝であるからここの金庫に大切に保管されているという事だね」

 「へぇー。なるほどー。…………ってそれおかしいでしょ!! 人を金庫に仕舞うだなんて初めて聞いたよ!!」

 「人間国宝だからねえ」

 「なんかその言葉に騙されてない!? 人は人であって物じゃないでしょう!!」

 それに人間国宝自体に価値があるわけじゃなくて、その人の技術や作った物に対して価値が発生するものじゃないの?
 人そのものを金庫に仕舞いこんだって意味無いと思うのですが。


 「お嬢さんや。私がその扉を開ける手伝いをしてあげましょうか?」

 「え? もしかしておじいさん、この金庫の扉開けられるの!?」

 「ほっほっほ。人間国宝の私にとっては朝飯前ですよ」

 「す、すごい!! もしかしておじいさん、錠前師の人間国宝とか!?」

 「いや、私はビデオテープの爪を綺麗に折る人間国宝だよ」

 「そんなしょぼい人間国宝見たことないよ!!」

 というかその技術でどうやってこの扉を開けるんですか……。

 「あ、いや、むしろビデオテープのラベルシールを綺麗に貼れる人間国宝だったかな」

 「どっちでもいいですよ。ビデオテープだし」

 全然当てにならねー。









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