8月29日 日曜日 「決戦後」

 目を醒ましてみると、ウサギさんの傍で土下座している魔王の姿が目に入りました。

 ……これは一体?


 「お! ようやく起きたか」

 「ウサギさん?
  あの〜……この状況は?」

 「ちょっとシメたらこういう事に……」

 魔王をシメたんだ……?


 「許してください許してください許してください……」

 魔王がブツブツ呟いてます。
 どんなシメかたしたんですか?


 「いいから顔上げろって」

 「あ、姐さん……許してくれるんでっか!?」

 魔王はどうやらチンピラに成り下がったみたいです。
 登場時から一度もキャラが固まってない人ですね。


 「いいから早く元いた世界に帰れって」

 「は、はい!! ご迷惑をおかけしました!!」

 魔王はそういうと駆け足で去っていきました。
 さらば魔王。
 もう会う機会が無いことを心より祈ってますよ。

 


 「千夏、体は大丈夫か?」

 「あ、はい。なんとか」

 ウサギさんが心配そうに頭を撫でてくれます。
 ちょっと気持ちいいかも。


 「しかしとんだ夏休みになったな」

 「ホントですよね、まったくもってアンラッキー……」


 あれ?
 今日って何日でしたっけ?


 「って、あー!!!
  夏休みの宿題全然終わってないー!!!」

 残り二日。
 修羅場になりそうです。


 

 8月30日 月曜日 「夏休みの宿題(修羅場)」


 師匠とか魔王とかのせいで夏休みの計画が大幅に狂いました。
 おかげさまで夏休み終了間近に大慌てというお約束な展開に。
 こんちくしょうめ。


 とにかく、さっさと終わらせてしまいましょう。

 

 図工の宿題。ハニワ型貯金箱(別名HANIWA BOMB)は
 リーファちゃんにあげちゃったので、新しく作らなきゃいけません。

 「お、ちょうどいいタイミングで黒服が昼寝してますね」

 私は用意していた紙粘土を寝ている黒服の顔に押しつけました。
 これで型を取って、石膏でも流し込んで人の顔の彫刻と言い張る気です。
 ええ、ズルですよ。これくらいしなきゃ宿題が終わらないんですよ。

 とりあえず黒服がチアノーゼ状態になったところで取り外しました。
 よし、これで宿題一つ終了。


 漢字の書きとりはコピー&ペーストで済ませることにして、
 算数のドリルは自分でなんとかしなければいけません。

 

 「うう、もうだめ……」

 算数ドリルと向かい合って2時間後、見事KOをくらいました。
 あんたは強いよ、算数ドリル……。

 「ふう……」

 床に寝っ転がり、天井を見ながらため息をつきます。
 まったく、なんで夏休みの宿題なんてあるんだろう?
 と、誰もが一度は考えてしまうことを脳内議論します。
 完全な現実逃避ですが気にしないでください。
 若いうちにはこういうことも必要なのです。


 テーブルの上に置かれた宿題の束が、難攻不落の城塞に見えます。


 ……っていうかこの量はどう頑張っても終わりませんね。

 と、いうことで

 「ウサギさ〜ん、人生ゲームしませんか〜」

 ギブアップさせてもらいます。
 あはは、どうにでもなれ。


 

 8月31日 火曜日 「ラジオ体操」

 もう夏休みも終わりですね。
 本当に早いものです。

 日々繰り返していた自堕落生活との別れが近いというのは、
 ものすごく寂しいです。


 ……ところで、
 なにか夏休みにやり残したことがあるような気が……。
 あ、もちろん宿題以外で。あれはもう諦めましたので。

 ……
 ………
 …………


 ラジオ体操、全然行ってなかったー!!!!


 まずいですね。
 確か終了式間際に、ラジオ体操のスタンプの数を確認するって言っていたような……。
 スタンプの数が1桁だったらやっぱり怒られますよね。

 

 そういうことなので、今日で一ヶ月分くらいのラジオ体操をやることにしました。
 宿題をやるよりは楽だと思います。

 1日で1ヶ月分やっても、ラジオ体操の趣旨から外れてるだろとか、
 そもそも1ヵ月分のスタンプもらえるのかよとかいう
 ツッコミは受け付けません。

 

 〇午前8時

 『ラジオ体操、第1〜』

 ラジオからお馴染みの音楽が流れてきます。
 その音楽に合わせて、私は体操をやり始めました。

 

 ○午前11時

 『ラジオ体操、第21〜』

 ……最近のラジオ体操はやけに長編なんですね。

 『腕を胸で組んで、信仰心の運動〜』

 精神面をほぐそうとしてるよ。
 このラジオ体操。

 

 ○午後3時

 『ラジオ体操、第65、覇者の栄光〜』

 ついに妙なサブタイトルまで付いてきましたよ。
 っていうか体が持ちません。

 『他人を跪かせて背中に足を置いて、権力に酔いしれる運動〜』

 人の心の中に、何を育てようとしてるんですか。

 

 ○午後7時

 『ラジオ体操、第1、アコースティックバージョン〜』

 ネタが尽きてきたのか、ミュージシャンが良くやってるアレで茶を濁してます。

 

 ○午後9時

 『ラジオ体操、第1、2004〜』

 ついにリバイバルブームに乗りやがった!!!

 って、いつまで続けさせる気なんですか!!

 

 やっぱり、ラジオ体操は毎日コツコツとやりましょう。
 今さらそんなこと言っても遅いんですが。

 

 9月1日 水曜日 「久しぶりの学校」


 今日からついに二学期です。
 学園ラブコメのモの字も出ない、退屈な日常が始まるのです。
 いや、初めからモは入ってないですけどね。

 ……ちょっとハイです。

 

 そんな生活が始まりますが、結構楽しみだったりします。
 久しぶりですしね。
 長い間会っていなければ、自分を捨てた親にも会いたくなるものなんです。

 ……どうかと思う例えですね。

 

 「わあ〜、なんだかドキドキするかも」

 こんなに学校に行くのが胸高まるものだったなんて。
 ちょっと感動しちゃいます。


 「おはよ〜」

 ウキウキ気分で教室のドアを開けた私を待っていたのは


 私の机に置かれた菊の花。

 


 ああ、そうでした。
 そう言えば私、思いっきりイジメられてたんですね。
 夏休みにはイジメっ子の恐怖から解放されてたんですっかり忘れてましたよ。


 ……今日から二学期かあ。
 はははは……冬休みまだかなぁ。

 

 

 9月2日 木曜日 「宿題の提出」


 「千夏……これはどういうことだ?」

 放課後、私は担任の先生に怒られてました。
 理由は私が夏休みの宿題を全然やってこなかったからです。

 私へのイジメには知らんぷりしてるくせに、こういうことだけはまともな教師をやっています。
 どうかしてるよ本当に。

 

 「真面目にやってきたのが図工の工作だけで、その工作だってデスマスクを作ってくるなんて……」

 デスマスクじゃないですよ。
 黒服の寝顔です。


 「夏休みの間は一体何をしてたんだ!!」

 「えっと、無人島に行ったり、27時間絵を描いていたり、魔王と闘ったり……」

 「そうか。遊んでたんだな?」

 違いますっば。


 「千夏、今月中までには夏休みの宿題を全部終わらすこと。
  いいな?」

 「えー? 夏休みにしなきゃ夏休みの宿題じゃないですよ〜」

 「そう思うなら夏休みにやれよ!!」

 それはごもっとも。

 

 さて、夏休みの宿題を何が悲しくて九月にやるのか知りませんが、
 とにかく終わらせなければいけません。

 えっとまず算数のドリルから……。


 「千夏ちゃん!!」

 「うわあ!!」

 「びっくりした?」

 「玲ちゃん……」

 私の座っている机から、急に手が出てこれば、誰だって驚きますよ。
 っていうか、玲ちゃん。もしかして自分が幽霊だって気付いていませんか?


 「あれ? 千夏ちゃんはまだ宿題終わってないの?」

 「ええ、いろいろあって……」

 ん? 千夏ちゃん『は』?


 「あの〜玲ちゃん? もしかして夏休みの宿題は……」

 「私はちゃんと全部やったよ〜」

 「それで、提出したんですか?」

 「ううん。なんでか知らないけど、先生が受け取ってくれないんだよね」

 そりゃそうでしょう。見えてないんだから。


 「玲ちゃん!! お願い、宿題貸してくれない?」

 「え〜、でもぉ……」

 「お願い!! 一生のお願い!!」

 「そこまで言うなら……いいよ、貸してあげる」

 やったあ!!! これで宿題に悩まされずにすみますよ!!


 「はいこれ」

 玲ちゃんから夏休みの宿題一式をもらいました。


 「ありがとう玲ちゃん」

 「えへへ、どうってことないよ」

 「……」

 「……千夏ちゃん? どうかした?」

 「とりあえず、この自由研究は返しておきますね」

 「えっ!?」

 いや、さすがに見知らぬおっさんの観察日記を提出するわけには……。


 

 9月3日 金曜日 「痛いの痛いの飛んでゆけ」


 「いったぁ!!!!」

 学校から帰る途中、突然私の右足に激痛がはしります。
 なんというか、タンスの角に小指をぶつけたような痛さです。
 痛みに対して敏感な私にとっては致死量ってことです。


 「うう……き、救急車を」

 まさかこんな形で初めて救急車を利用することになろうとは……。
 っていうか病院より修理工場に行ったほうがいいんですかね?
 私の場合。

 

 病院の診察室で身体を見てもらいました。
 ロボットのくせに。

 「いやぁ、災難でしたね。
  飛んできた痛みに当たっちゃうなんて」

 医者がよく分からないことを言います。

 「あの……どういう意味ですか?」

 「痛いの痛いの飛んでけっていうのあるでしょ?」

 「その気休めがなにか……?」

 「それで飛ばした痛みが、あなたに当たっちゃったんですよ」

 ……はあ!?


 「あの〜……ギャグですよね?」

 「とんでもない!!
  今、国際社会では新しい形の無差別テロとして問題になってるんですよ!?」

 「そ、そうなんですか」

 「日本ではすでに痛いの痛いの飛んでけは法律によって禁止されているはずなのに……」

 「……」

 「まあとにかく道を歩いている時は飛んでくる痛みに注意してくださいね」

 「……はい」

 私はショックを受けながら診察室から出ていきました。


 新聞をこまめに読まないと世間の流れに置いていかれてしまうみたいです。

 

 ……っていうか嘘だろ?

 9月4日 土曜日 「プロパガンダって、モビルスーツの名前みたい」


 家の近くの商店街をフラフラ歩いていると
 突然雨が降り出しました。

 大急ぎで近くにあった本屋の店内に入り、
 雨宿りをすることにしました。

 

 「傘持ってないしどうしよう……」

 見る限りでは降り止む気配はまったくありません。


 「少し私たちとお話しませんか?」

 ほら、ぐずぐずしてたから2人組の
 変な勧誘に目を付けられるんですよ。


 「変な力がある石なら間に合ってますので」

 そう言って無視します。


 「いや、そうじゃなくてですね千夏さん……」

 「え!? なんで私の名前を!?」

 もしかしてタッグ組んでるストーカーですか?
 ……ストーカーってチームプレイするものなの?


 「実は私たちはアウグムビッシュム族の者でして……」

 アウグム……ああ、前に私の家に立てこもった
 テロリストな人たちですね。

 ストーカーよりも危険度が五段階アップです。

 

 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、
  お仲間は多分うちの庭にいるんで、どうぞ回収してってください。
  っていうか本当に本当にごめんさい」

 「ああ……彼らですか。
  謝るのは私たちのほうです。
  あなたを危険にさらしてしまって……」

 今も心なしか危険なんですが。

 「私たちは本当にあなたとお話したいだけなのです」

 「はあ……」

 曖昧に相づち打ってしまったのが肯定の意に取られてしまったのか、
 アウグミュ、アウギィ、アウ……

 アウな人たちが喋り出します。
 ……噛むんですよ。名前。


 「昔々のことじゃった〜……」

 ってオイ。日本昔話調なんですか。

 「どれくらい昔なんですか?」

 「2億年前ぐらい」

 「規模がちげぇ!!!」

 恐竜の時代じゃないですか。


 「私たちアウグムビッシュム族は、幸せに暮らしていたのです」

 「ちょっとダウト」

 「何がです?」

 何がって、二億年前に人類は存在してないでしょうが。
 小学生相手だからって時代設定ぐらいちゃんとしてください。


 「しかし、平穏な生活は長く続きませんでした」

 お〜い、そのまま進めちゃう気ですか?

 「突如、アウグムビッシュム族の集落に日本軍が攻めてきました」

 「ちょっと!! 何なんですかこのバカ話は!!!」

 「日本軍は悪いですよっていうプロパガンダです」

 「言っちゃったよ!! 根底に隠すべきテーマを思いっきり言っちゃったよ!!」

 「ほら、やっぱり最近は情報戦をしなくちゃいけませんし、
  民衆を味方にもしたいですし」

 「それにしたってプロパガンダのメディアがおとぎ話って!!」

 もうツッコミ疲れました。

 

 「そんなあなたには絵本バージョンがあります」

 いや、最初からプロパガンダって言われているものを読む気なんて無いんですが……。

 「はいどうぞ、特別に差し上げます」

 「はあ、どうも……」

 絵本コレクターな私にとっては少し嬉しかったりしますけど……。

 

 ちなみに絵本の一番最後のページを見てみると、
 三版発行でした。

 ……けっこう出回ってるんでしょうか?

 


 


過去の日記