9月19日 日曜日 「間違い電話」


 『ぼぉくらはぁ、なんのぉためにぃ、
  うまぁれて、きたぁんだ、こんちくしょう〜♪』


 家に、ふざけたメロディーと、それにあわせた歌が響きます。
 すごく、恥ずかしいことですが、私の家の電話の着歌です。
 誰の歌なんですか、一体。


 「はいはいはい……今出ますよ」

 しかし……別に家の電話の着信音は着歌にしなくてもいいと思うのに。


 「はい、もしもし」

 『あ、ソバ屋のケンちゃんですか?
  きつねうどん三つ、出前お願いしたいんですが』

 そうだったんですか。私んち、いつの間にかソバ屋の副業を……。

 「間違いですよ」

 当然ながら、間違い電話です。


 『あ、そうなんですか、すみません』

 分かればいいんですよ。分かれば。

 『それじゃ、天ぷらうどん三つで』

 分かってませんでした。
 どこをどう間違ったのか、全然理解できていませんでした。


 「違います!! 
  うちはソバ屋のケンちゃんなんて言う、
  なんとなく全国チェーンは無理そうな名前のソバ屋じゃありません!!」

 『……ソバ処のケンちゃん?』

 「違う!! 名前が違うんじゃないです!!」

 どうしたら分かってくれるんでしょうか?

 

 『まあいいじゃない。早く出前してよ』

 「はあ!? 何わけの分からないことを言っちゃってるんですか!!」

 『ソバ作れないの?』

 「作れるわけ無いでしょう……?」

 なんというか、すごくムカつく奴ですね。


 『じゃあ鮭定食で……』

 「お前!! 住所教えやがれ!! 殴りこみに行ってやる!!
  首洗って待ってろや!!!」


 地獄をお届けいたします。


 

 9月20日 月曜日 「敬老の日」


 今日は敬老の日です。
 お年寄りを、敬う日なのです。

 私も心優しい純粋な小学生として、
 お年寄りにご奉仕しなければいけません。

 ……いけません、が。

 

 「お母さ〜ん」

 「どうしたの千夏?」

 「私のおじいちゃんとおばあちゃんは何処にいるんですか?」

 実は見たことなかったりするんです。


 「……生まれてこのかた気にしたことなかったくせに」

 それを言われると何も言えませんけど……。

 「今日気付いたんだから仕方ないでしょう」

 「まったくもう……今まで自分のおじいちゃんとおばあちゃんの存在を
  忘れてたなんてありえないわね」

 「いいから、教えてくださいよ」

 「おじいちゃんは死んだわよ。随分昔に」

 「え!? そうなんですか……」

 一度も顔をあわせることなく逝ってしまったなんて、
 とても寂しいです。


 「いつお亡くなりになったんですか……?」

 「ん〜と、3000年前ぐらい」

 「そこはボケる所じゃないでしょう」

 おじいちゃんに失礼な。


 「それじゃおばあちゃんは?」

 「元気よ。ピンピンしてる」

 「そうなんですか、良かった……。
  今、何処にいるんですか? 敬老の日だから何かしたいんですけど」

 「オーストラリアあたりで、カンガルーとボクシングしてると思う」

 「すっごい元気ですね!?」

 っていうか、ちょっと頭がダメになってないですか?


 「おばあちゃんってどういう人なの……?」

 すごく気になります。

 「とても強い人よ」

 まさかそう返されるとは思いもよりませんでした。
 優しいだとか、厳しいだとか、そんな言葉が出てくると思ったのに。


 「何度もチャンピョンベルトを防衛したしね」

 「えー!? 精神的に強いとか、そういうんじゃなくて!?」

 しかも格闘家だったんですか?
 ウチのおばあちゃんは。


 「必殺技、かっこ良かったなぁ……」

 「おばあちゃんは必殺技なんて持ってたんだ……?」

 「『オメガティックブラスト』っていう名前でね?」

 なんだかビームっぽいネーミングですね。
 打撃技なんだか関節技なんだか判別できないんですけど。


 「悪いことしたらよく焼かれたなぁ」

 「火を吐くの!? おばあちゃんは火を吐いちゃうの!?」

 今おばあちゃんの想像図を描いたら、間違いなく怪獣を描いちゃうんですけど。

 

 

 9月21日 火曜日 「通販番組」


 「さあ今夜も始まりました。
  『ワクワク通販生活』
  今日はどんな商品が私たちの目の前に現れるんでしょうか?」

 「あの〜……お母さん?」

 「なんですか?
  ゲストの千夏さん」

 「なんの脈絡もなく始まったこの番組は
  なんなんですかね?」

 「通販番組に決まってるじゃない」

 「いつからそんな商売を始めたんですか……」


 「そんな千夏さんのために、この番組の趣旨をお教えしましょう!!」

 なんだか私がその言葉を言わせるために
 前フリしたみたいじゃないですか。
 番組に協力してるみたいでイヤなんですけど。


 「この番組は、借金苦から逃れるために、
  使い古した家財道具を巧みな話術で、高額で売りさばいちゃおう!!
  という番組です」

 「今の説明で、この番組の意義が半分以上消えて無くなったと思うんだけど」

 こんなこと言っちゃって、買ってくれる人は居ないでしょう。

 

 「さあ、まずは一つ目の商品の紹介です」

 「勝算ないのに闘う気なんだ……」

 「最新技術の結晶!!
  スーパーエキセントリック掃除機です!!」

 うわぁ、名前にすごく安直な+αを付けてますね。
 最新技術の固まりのくせに古くさい印象を抱いちゃいますよ。

 

 「この掃除機、一見どこにでもある掃除機に見えますが……」

 どこにでもあるっていうか、私の家でよく見ました。
 ……本当にウチの家財道具を売りさばく気なんですね。


 「安全性が桁違いです!!」

 「掃除機の安全性って……なに?」

 「小さなお子さんが、吸い込まれそうになったら自動的に電源が落ちます」

 「ちょっと待ってくださいよ!!
  それって、電源が落ちなければ子どもを吸い込めるってことですか!?」

 その凶悪なパワーのほうを宣伝したほうがいいと思うんですけど。

 

 「続いての商品は、『ガニメデ炊飯器』です!!」

 ガニメデって木星の衛星の名前でしたよね?
 別に意味は無いけど、一応カタカナを付けとけみたいなの、
 止めませんか?
 すごい恥ずかしいんですけど。

 

 「この炊飯器のすごい所はですねえ、
  なんと!! 単独で衛星軌道に乗れます!!」

 ガニメデの意味あったー!?

 「お母さん!!
  どこの世界に第一宇宙速度を出せる炊飯器があるんですか!!」

 ちなみに第一宇宙速度ってのは、地球上から水平方向にその速度で射出すると、
 地球の周りを回り続ける速度のことです。

 ……なんでそんなこと知ってるかって?
 それはもちろん将来の夢が宇宙飛行……なんでもないです。
 忘れてください。

 

 「メイドイン黒服さんです」

 また無駄な改造しやがって……。

 

 「さあ!! これらの商品が欲しいかたはこちらのメールアドレスにメールをどうぞ!!」

starphlox@hotmail.com


 「うわ!! 本当にアドレス出しちゃったよ!!」

 「どしどしメールくださいね」

 「商品の値段とかは!?」

 「気分次第」

 「フリーマーケット感覚かよ!!」


 メールくれても、
 掃除機と炊飯器は差し上げられませんからね?

 9月22日 水曜日 「建設計画」


 ごきげんよう皆さま。
 「自分の全てをありのまま受け入れて欲しい」
 だなんてのたまってる輩に、
 「そういうお前は他人のありのままを受け入れようと努力したことあんのかよ」
 と片っ端からツッコミを入れている千夏です。

 


 さて、いつになくネガティブスタートを切った今日の日記ですが、
 多分、理由は私の家の目の前にあると思います。

 工事してるんですよ。
 朝っぱらから、大音量で。

 うるさい工事現場はれっきとした無差別テロだと思います。

 

 「もう……一体なにが建つんだろ」

 「かなり規模の大きな工事みたいだな」

 私の隣で一緒に工事現場へと冷たい視線を向けているウサギさんが言います。


 「本当にそうですね。
  周りの家なんて立ち退いちゃってますし……」

 ……え?

 「ってもしかしてウチだけですか!?
  ここら辺で立ち退いてないのは!!」

 「……そうみたいだな。
  家の四方を防音防粉塵用のシートで覆われてるし」

 「イジメですか、これは……?」

 「なぜこのような状況に陥ったのか!
  私が説明したしましょう!!」

 お母さんが急にやってきて、そんなこと言い出します。


 なんていうか、多分、お母さんに原因がある気がするんですけど……。
 このパターンでいうと。


 「こうなったのは私のせいです!!」

 「うわ〜妙に潔い!!」

 「一体なにをしたんだよ」

 「ふふふ……よくぞ聞いてくれましたウサギさん。
  実はですね、3年ほど前から立ち退いてくれってお願いされてたんだけどね、
  無視してたら向こうが怒って工事を始めちゃった。
  てへ」

 てへ、じゃないですよ。てへじゃ。


 「なんでそんな意地をはったんですか!?
  立ち退き料は結構な額なんでしょう?
  それで借金を返せば少しは楽に……」

 「この家を、捨てるわけにはいかないのよ!!」

 「お、お母さん……?」

 今まで見たことの無いほど怒った顔で、
 お母さんが怒鳴ります。

 

 「この家には、数え切れないくらいの千夏との想い出があるのよ!?
  それに、あなたのお父さんとの想い出だって……」

 「お母さん……」

 今は亡きお父さんの残した想い出を失いたくないから、
 家を手放そうとしなかったんですね……。


 「あと、もうちょっと粘れば立ち退き料がもっとアップすると思ってたんだけどね。
  引き際を間違えたわ」

 「ええ!? 台無しじゃないですか!!」

 ギャンブルでやりがち的な反省するな。

 

 「まあみんな!!
  これからもこの家で仲良く暮らしましょうよ!!」

 「そうするしかないってのが本音でしょう……?」

 「ま、いいじゃない。
  工事が終わったらアミューズメントパークの中に家があるって状態になれるんだから」

 「えー!? この工事って遊園地造る工事なんですか!?」

 何年計画なんだろう……
 もしかして数年はこのままの状態?

 

 「遊園地の中に家があるなんて、
  まるで夢みたいね!!」

 「ウサギさん、これは夢なんですよね?
  悪い夢なんですよね?」

 「……まあ、その、頑張ろう」


 ああ、誰か助けて……。


 

 9月23日 木曜日 「リアリズム人生ゲーム」


 「ウサギさ〜ん、遊びましょう」

 「別にいいぞ。
  オセロでもやるか?」

 「オセロはウサギさんが強すぎて勝てないから、
  他の物にしましょう」

 「えっと……他に何かあったかな?」

 「人生ゲームをやりましょう!!」

 「うわ!! リーファちゃん!?」

 どこから現れたのか分かりませんが、
 リーファちゃんがそんな提案をしてきます。
 それにしても、せっかくウサギさんと二人っきりで遊べると思ってたのに残念です。

 

 「しかもただの人生ゲームじゃありませんよ!!
  『リアリズム人生ゲーム』です」

 「なんだよリアリズムって?」

 いいツッコミですウサギさん。


 「うっせえ、黙ってやればいいんだよ」

 「……」

 リーファちゃん、なんだかウサギさんへの態度が厳しいです。
 前にボディブローを打ち込まれたのをまだ根に持ってるんでしょうか?


 「まあそう言わずに教えて下さいよ」

 「はいお姉さま。
  この人生ゲームはですねえ、本当の人生っぽさを追求してるんです」

 「本当の人生?」

 「温泉を掘り当てて大儲けなんていうマスとかはありません」

 ああ、それは確かにリアリズム。

 「そしてなんと!!
  この人生ゲームで起こったことが、
  プレイヤーの本当の人生に起こるかもしれないという、
  ドラえもんの道具的機能付き!!」

 「え〜……それって本当?」

 「当たったり当たらなかったりします」

 ……それって、どうなの?

 「とにかく、お姉さま、今こそ不幸続きの人生から抜け出すチャンスですよ」

 リーファちゃんがそう耳もとで囁いてきます。


 「ちょっと質問があるんだが」

 「んだよ小動物」

 本当に根に持ってますね。


 「この真っ白な無地のマスは何なんだ?」

 「あ、もしかして不良品ですか?」

 「そこは自分が好きに書き込めるマスなんですよ。
  一人5マスづつくらい割り当てられるんで、
  人生で起こって欲しいことをどんどん書き込んじゃいましょう!!」

 「いいですねそれは!!」

 とびきり幸せになるチャンスです。

 

 10分後、無地のマスをそれぞれが書き終わりました。


 ちなみに私がマス書いたものは

 『借金が無くなる』

 『宝くじが当たる』

 『石油王に見初められ、玉の輿に乗る』


 ……等でした。


 「すごいですお姉さま。
  5つ中4つがお金関係なんて。
  さすがです」

 「なんか、蔑んでるでしょ?」

 残り一つはウサギさんと海外旅行にしときました。
 ハネムーンです。

 

 「ウサギさんのは……」

 『千夏たちとのんびり暮らす』×5

 たち、が余計に思えますが、何よりうれしいです。


 「えっと、リーファちゃんのは……」


 『死ぬ』×5

 ってオイ!!

 「なに途中のマスで人生を終わらせようとしてるんですか!!」

 「というかお前どさくさに紛れて完全犯罪やろうとすんなよ!!」

 私とウサギさんの双方向ツッコミを無視して、
 リーファちゃんは勝手にルーレットを回します。

 「さあ、どんどんやっちゃっいましょう!!
  まず私の番ですね」

 「誰がやるか!!」
 そしてそんなリーファちゃんが回したルーレットが指したの数字は4。


 「えっと4は……」

 本当に無視して進んで行きますね。


 「4は……」

 『死ぬ』

 

 「リ、リーファちゃん……」

 「……」


 うわぁ、すごくイヤな空気……。


 「……まあ、ゲームだしね」

 「そう、ですね……」

 不憫だよリーファちゃん。


 

 9月24日 金曜日 「ああ、止まらない、止められない」


 「ううっ、うえっ、ぐすっ……」

 涙が、止まりません。


 「千夏、そんなに泣くなって……」

 「で、でもぉ……」

 ウサギさんが慰めてくれますが、ちっとも泣き止めません。


 「……っていうかさ」

 「うぅ……なんですか? ウサギさん……」


 「なんで、プロ野球中継見て泣けるんだよ」

 私が聞きたいよコンチクショウ。


 最近、っていうか今日。
 なぜかとても悲しくて、
 ちょっとやそっとのことで泣き出してしまうようになっちゃいました。

 テレビのニュースで、悲しい事件が放送されたら泣いて。
 隣の家の犬が吠えたら泣いて。
 リーファちゃんがマシンガン持って部屋に突入してきたら泣いて。

 ……最後のは、普通泣きますか。
 とにかく、日常生活に支障でまくりです。

 

 「黒服……なにかっ、心あたり、ぐす、ないですか!?」

 「お前、壊れたんじゃねえの?」

 ぶん殴ってやりたいぐらい投げやりな返答ありがとうございます。


 「直せ、うぐっ、今すぐ直しなさい!!」

 「まあいいじゃないか。ほうっておいても」

 「いいわけ無いですよ!!!」

 「女の涙は最強の武器って言うし」

 その武器で、目の前にいるあなたを冥府送りに出来れば言うことなしなんですが。


 「じゃあ今から直すから、動くなよ?」

 「ちょっと、黒服さん。その手に持ってる『ロストメモリーアタックツール』はなんですか?」

 「なんだそれは? ハンマーだよ。ハンマー」

 お母さんがそう呼んでいただけですよ……ってそんなことは今はどうでも良くて。


 「まさかそれで……」

 「壊れたTVはやっぱり叩くのが一番……」

 「私はTVじゃありません!!
  例えTVでも!! ハンマーで叩けば一発でお釈迦ですよ!!」

 ああ、なんだか泣きたくなってきました。


 「いいから、さっさと頭部を殴打させろ」

 「うわっ、生々しい……」

 「それじゃ、行くぞ?」

 「ちょ、ちょっと待って!!」


 ベコンッ


 「〜〜ッ!!!」

 あまりの激痛に、地面を転がります。

 「涙、止まったか?」

 「ぼろぼろ出まくりですよ!!
  っていうか、さっき何か凹んだ音がしましたよ!!」

 「それじゃ今度は反対側から……」

 「あなた、本当に科学者ですか!?」


 こんな奴が作ったものなんて、ろくな物があるはず無いです。

 ……あ、私も含まれちゃいますか。

 9月25日 土曜日 「マゾ企画再び」


今日は
コレをやってました。



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