10月3日 日曜日 「まあじっくりマジでマジックでもなじってやろうじゃないか」

 「このトランプを見てください。
  タネも仕掛けもありません」

 「へぇ〜……」

 「……ごめんなさい。
  本当はタネや仕掛けがあります」

 「いや、そこら辺はこっちも暗黙の了解で何も言ってないんですから、
  正直に告白されても……」

 「ごめんなさい。嘘ついてごめんなさい」

 「嘘とかそう言うんじゃなくて、手品ってそういうものでしょ?」

 「このトランプを見てください。
  でも、タネとか仕掛けとかあるので、じっくり見ないでください」

 「だから、言わないでくださいよ。そういうの」

 なんていうか、すごく見る気が削がれるんですが。


 今、私が置かれている状況を説明させてもらいますと、
 家の近くの空き地で、手品の練習をしているらしいお兄さんがいたので、
 観客役として見学してるんです。

 お兄さんにはダメな所があったら遠慮せず言ってくれと言われましたが、
 まさか一つもマジック見せてもらってないのにダメだしすることになるとは……。

 

 「この中から一枚だけ好きなカードを選んでください」

 「はい、分かりました。それじゃこれで」

 「そのカードを憶えて、山の一番上に置いてください」

 「はい」

 「そしてこの山をよく切ります。
  するとこの一番上にさっきのカードが……。
  あなたが選んだカードはフュージョン・ジャックですね?」

 「違いますよ!! Jでも無かったし、ラウズカードでもありませんでした!!!」

 「あれ? おかしいな……」

 「というかトランプの中にそれを入れるのはどうかと思うんですけど」


 「それじゃ今度は、あなたが引くカードを予言して紙に書いて、
  この封筒の中に入れて置きます」

 「はい」

 「ハートの3って書きます」

 「え……!? それって言っていいんですか?」

 「まあ、仕掛けがあるわけだから、どうせ当たるわけだし……」

 「だから、そういうの言わないでくださいよ。
  それにもうちょっと演出には凝ったほうが……」

 「はい、どうぞこのカードの中からハートの3を引いてください」

 「これでハートの3を引いちゃったら、私のほうがなんだかすごいように見えませんか?」

 かなりすごい確率ですし。

 「えっと、それじゃこれで……」

 私が引いたカードは……スペードの7。

 「……」

 「……」

 「……はぁ」

 「なんですか、その目は」

 まるで私がしくじったみたいな感じになっちゃってるじゃないですか!!

 「それじゃさっき封をした予言の封筒を開けて見ましょう」

 「え!? もしかして!!」

 「奇跡は、信じていれば起こるんです」

 「奇跡、じゃなくて、手品なんですよね?」

 「祈ってください」

 「ちょっと待って、タネも何も無いのに予言の紙が変わるわけなじゃないですか」

 「信じれば……」

 「もはや、超能力の領域じゃないですか」

 手品の意味、分かってますか?


 

 10月4日 月曜日 「巨大ロボット発進」


 「ついに完成したぞ!!
  これで、世界は俺の物だ!!」

 妙にハイテンションな黒服が、すごく危険思想的な発言を口走ってます。
 大丈夫か? マジで。

 

 「一体どうしたんですか?」

 ことによっては警察に電話しないといけないんですけど。

 「長年の夢だった、巨大ロボットの建造に成功したんだ!!」

 「本当ですか!?」

 それは、ちょっとすごいです。


 「早速試運転してみることにしよう」

 「わ〜、なんだかドキドキしますね」

 「しかし、ただ試運転するだけじゃ味気ない」

 へ?

 「やっぱり敵が攻めてきて、ぶっつけ本番で起動!!
  そして活躍!!
  これこそが王道」

 なんで自分から危機的状況を望んでるんですか。


 「というわけで千夏さん。
  敵になってください」

 「え〜!? 私が敵なんですか!?」

 ちょっと酷いでしょ。それは。

 「大丈夫、ガオーってやるだけだから」

 子どもの遊びかよ。


 「そこを私が造った巨大ロボットがプチッと」

 「ちょっと!! 私、死んじゃってるじゃないですか!?」

 「大丈夫。身体が紙みたいにペラペラになるだけだから」

 そんなアメリカアニメみたいな演出になるわけないです。


 「絶対にお断りです」

 「そう言われると思って最初から敵役のロボットも造っておきました」

 先ほどのやり取りはなんだったんですか。
 じゃれあい?


 「さあ、敵役ロボット『チナツ3号』!!
  思う存分暴れるがいい!!」

 「すっげえ失礼なネーミング付けてくれますよね」

 訴えますよ?


 グオー!!!!

 そんな雄叫びと共に、チナツ3号と名付けられた怪ロボットが地中より現れます。
 どうでもいいことですが、どうやって地中に仕込んだんでしょうね?


 「うわぁ……さすが敵役だけあって、凶悪そうな姿ですね。
  安直に角なんて生やしちゃってる所が特に」

 ますます私の名を借りているのが気に食わないんですが。


 「よし、今こそ正義のロボットの出陣だ!!」

 さっさと倒してください。
 早くしないと被害が出そうなんで。

 

 「え〜っと、鍵はどこに……」

 ロボットなのに鍵……もうちょっと、カッコのいい起動キーにしてくださいよ。


 「あれ……?
  鍵、どこに置いたっけ?」

 「そんなの私が知るわけないでしょ!?」

 「おかしいな……たしかにここら辺に置いて」


 グオー!!

 私が……じゃない、敵役ロボットが暴れ始めました。
 このままでは街に被害が出てしまいます。


 「早く!! どこに置いたのか思い出して!!」

 「う〜ん……あ」

 「思い出したんですか!?」

 「今の状況って、まさしく危機的状況だよな?」

 「こんな時に、『ちょっと燃える展開ですね』的な思考してんじゃねえ!!」


 結局鍵は、黒服の右のポケットに入っていました。

 見事敵役ロボットを葬ったお祝いに、
 黒服も葬りさってあげることにします。


 

 10月5日 火曜日 「アイドルへの道?」


 「今こそCDデビューのチャンスですよ!!
  絶対、あなたなら有名になれますって」

 目の前にいる、いかにも『業界人』っぽい男の人が、
 そんなこと言ってきます。
 街中を歩いてたら、スカウトされちゃいました。
 ただこういうスカウトの類は、怪しい以外の何物でも無いので、
 かなり微妙な心境です。


 「丁重に、お断りさせていただきます」

 「なんで!? 一生に一度、あるかないかのチャンスだよ?」

 「そう言われても……」

 「今の芸能界には、お茶の間には君みたいな子が必要なんだ」

 頭からアンテナ生やしてる子をですか?

 「具体的に言うと、ロリータキャラが」

 ……世も末です。


 「なんだか、ますますイヤになりました」

 「実はもうユニット名も決まってるんだ」

 無視かよ。
 しかも、ピンで出るんじゃないのかよ。


 「その名も『リーファとヤクザな仲間たち』」

 「え!? リーファちゃん!?」

 なんてことですか……。
 リーファちゃんとユニットを組むなんて……いや、むしろ私はオマケみたいな扱いですね。
 なんだよ、ヤクザな仲間たちって。

 

 「どうだい? 売れそうだろ?」

 どこら辺がですか。
 ただのネタグループじゃないですか。


 「ファーストシングルの構想だってちゃんとある。
  というかすでにセカンドアルバムまで考えている」

 「考えただけでは、ダメ人間の楽観的人生構想となんら変わりないですからね?」

 フリーターやってるだけでは、夢には近づきませんよ?


 「俺の思惑なら、5年後には紅白歌合戦に出れるんだ!!」

 「どうせ夢を語るなら、一年目で売れてもいいんじゃないですか?」

 なんでわざわざちょっと苦労しましたよ的なグループにするの?


 「さあ!! 私たちと一緒に、地上で輝くスターになろうじゃないか!!」

 「だから、イヤなんですってば」

 「……売れれば印税がガッポリ入ってきます」

 「ぐ、ぐぬぬぬぬ………」

 早まるな、私。
 今まで散々お金に釣られて大変な目にあってきたじゃないか?
 今ここで、また同じ間違いを繰り返すのか?
 成長だ千夏。成長しなくちゃいけないんだ!!


 「お、お断り……」

 「あと、有名になったらイジメっ子たちを見返せるし、
  イジメられることもありません」

 「やります!!
  是非やらせてください!!」


 ……あ。


 私、アイドルになりました。


 

 10月6日 水曜日 「奇抜な個性より、平凡な幸せをください」


 「この世界、個性だけじゃ駄目なのかもしれない……」

 目の前にいる女神が、私にそんな愚痴を漏らします。
 あ、ちなみに昨日スカウトしてきた人ですが、あれっきり連絡がありません。
 騙された匂いが、プンプンします。


 「どうしたんですか?」

 「いやね、私ってさ、すごく個性的じゃない?」

 「まあ、女神ですしね……」

 「そうよね。女神なんだものね。
  女神なんて、そこら辺探してみてもなかなか見つけられないわよね」

 そこら辺に女神がうじゃうじゃいたら、神としてのありがたみが薄れる気がしますしね。
 ちなみにあなたには元よりありがたみなんて感じないですけど。


 「でもね、女神だけど私、ちょっと影が薄いでしょ?」

 「ええ、そうですね」

 「……何もそんなにはっきり言わなくても」

 「女神さんは、影が薄いです。
  影踏みできないくらい影が薄いです」

 「駄目押し!?」

 いっそのこと、止めを刺してあげたほうが良いのかなって思ったから……。

 

 「で、でもそんな私のままじゃいけないと思うのよね。
  もっと、もっといいキャラにならないといけないと思ったのよ!!」

 まあ別にいいんだけど、自分の存在に悩む女神って、
 なんだか滑稽です。

 

 「だから千夏ちゃん。
  何か、いいアドバイスない?」

 「なんで私にそんなこと聞くんですか……」

 「千夏ちゃんみたいになりたいの!!
  千夏ちゃんみたいに、何の取り柄も無いくせに、
  やたらめったらキャラが立ってる人になりたいの!!」

 あなた、結構私のことバカにしてますよね?


 「ねえ、どうやったら千夏ちゃんみたいになれるの?」

 「知りませんよそんなの」

 「やっぱりアレ?
  胸、凹ませたらいいの?」

 「凹んでませんよ!! 私の胸は!!」

 存在を、知覚できない大きさですけども。


 「分かった!!
  三度の飯より、テレビにツッコミ入れることが好きになればいいの?」

 「別に、私は絶食してまでテレビにツッコミません!!」

 まあ確かに、よくつっこんじゃうことはありますけど。


 「それとも妙に卑屈になればいいの?」

 「こっのぉ……!!」

 本当に、切れそうです。


 「ねえねえ、お願い、教えてちょうだい」

 「……多分、私の代わりにイジメられれば、
  何か掴めると思いますよ」

 「え〜!? イジメられっ子なんて、
  人生においての負け犬登竜門じゃん」

 「ムガ―――!!!!」

 「う、うわぁ!! ご乱心!?」


 負け犬候補……もとい、イジメられっ子に愛の手を。

 

 10月7日 木曜日 「教育ママ」


 「私ね、教育ママになろうと思うのよ」

 10年間近く、一人娘を放任主義ならぬ放置主義で育ててきた人間が、
 今さら何言ってるんですか。


 「お母さん……なんて言うか、もういろいろと手遅れだと思うんですけど」

 それに私、強制される勉強は嫌いなんですが。


 「いいえ!! 今からでも、充分千夏を天才に育ててみせるわ!!」

 「はあ……そうですか。
  まあ、頑張ってください」

 「……妙に他人事ね?」

 だってどうせすぐに飽きそうなんだもん。
 子どもの教育に飽きるのはどうかと思いますが、
 勉強をさせられるよりはずっとマシです。

 

 「それじゃ千夏、早速勉強を始めましょう」

 「はいはい、分かりましたよ」

 こんな風に突っ走ってるお母さんには、
 何を言っても無駄なので、素直に従っておきます。


 「じゃあこの算数の問題からやりなさい」

 「え〜と、なになに?
  タカシ君はお使いを頼まれました」

 なんだかこの冒頭文だけで、やる気の無くなる問題ですね。


 「タカシ君は電車に乗り、次の街まで……」

 一応こうして問題を読んでますが、全然頭には入っていってないです。

 「……から、なので……市松模様が……ずっと……」

 長い。長いですよこの問題文。
 もう最初の所は覚えてません。
 こうなったら、最後の所だけ読んじゃって、
 そこから大切な所を抜き出していくことにします。


 「……さて、問題です」

 ここまで来るのに3ページもかかりました。

 「……タカシ君を殺した犯人は誰でしょう?」

 ……タカシ君が死んでるー!!!!


 「え!? ええ!?
  どうなってるの一体!?」

 真相を知るために、
 また始めから読み直しました。

 

 …………というか、これは算数の問題じゃないです。
 サスペンスです。

 

 

 

 10月8日 金曜日 「5年B組殺人事件」


 「犯人は、この中にいる!!」

 教室で、ロッカーの中に閉じこめられるという典型的なイジメを受けている私の耳に、
 そんな声が聞こえてきました。

 どうでもいいから、出してください。


 「そんな……!? いったい何を根拠に……?」

 外では金田一少年ごっこでもやってるんでしょうか?

 どうでもいいんで、ロッカーから出してください。


 「教室の中央の席に座っていた佐々木さんに毒入りのお菓子を食べさせるなんて、
  よほど親しい者で、なおかつこのクラスに何食わぬ顔で入り込める者しかいない!!
  それは、間違いなくこのB組の人間だけだ!!」

 佐々木さんは毒殺されたそうです。
 ご冥福を、お祈りいたします。

 あと、誰か早くここから出してください。

 

 「誰か、佐々木さんに恨みを持ってそうな人間を知るものはいないか?」

 佐々木さん限定ではなく、B組の人間全員に恨みを持ってる人間ならここに居ますけど。

 お願いだから、出してください。

 

 「そういえば千夏さんの姿が見えません!!」

 ここに居ますよ。
 掃除用具が入るべき場所に、私は居ますよ。

 「本当だ!! ……まさかアイツが」

 ……もしかしなくても、私がここに閉じこめられているってこと、
 みんな忘却の彼方へですか?

 

 「アイツならやりかねないぞ。
  日頃イジメられてる恨みで……」

 残念ながら私じゃありません。
 私がロボットじゃなくて、ロボット三原則だなんて規則に守られてなければ、
 とうの昔にこの学校で大虐殺が起こっても不思議じゃないですけどね。
 よかったですね。
 命拾いして。

 ……ちくしょう。

 

 「みんな!! 何を言ってるの!?
  千夏ちゃんはそんなことする子じゃないよ!!」

 ……どこの誰だか知りませんが、ありがとうございます。
 先ほど、ロボットじゃなければずっと前に殺してるなんて思ってしまった私が情けないです。
 そうですよね、人を愛する心を忘れてしまったら、
 もう終わりですよね。


 「確かに千夏ちゃんはクズだしドジだし間抜けだしキモイし天然っぽい所があるしそれが狙ってるみたいで嫌いだし
  援助交際してるし麻薬やってるし実は女の子が好きな変態だけども!!
  人を殺すなんて酷いこと、やるわけないよ!!」

 多分、今の私の心に渦巻いているドス黒い物が『殺意』なんですね。
 よく分かりましたとも。

 それにしてもなんて言われようですか、私。
 まあこのおヒレが付きまくった噂の発生元は少しだけ心あたりがあるんですけどね……。
 やたらと私を売り払いたがる母親とか、私が敬愛している兎な人とか……。

 

 「それじゃ一体誰が……?」

 「あ、見て!! こんな所にチケットが!!」

 チケット?


 「『暗殺券』って書かれてるわ!!」

 ……それって確か、私がリーファちゃんからびっくりパーティーの時にもらったやつですよね?


 「迷宮入り……か」

 ……あの〜、犯人、分かっちゃったんですけど。

 古いか。『ケイゾク』はさすがに。


 

 10月9日 土曜日 「台風との戦い」

 「うわぁ!! お母さんっ!! 至る所から雨漏りしてるんですけど!!!」

 「あ〜、やっぱり古傷から漏れ出しているみたいね……」

 借金のかたにたびたび分解してましたしね、私たちの家。
 レゴブロックみたいな使い方して……。


 「お、お母さん……」

 「何? 今穴を塞ぐのに急がしいのだけど」

 「屋根が、屋根が今にも飛びそうなんですけど……」

 「……やっぱりあの時千夏を差し出してれば」

 その前に借金をきちんと返してください。


 「とにかく、ウサギさんとリーファちゃんと黒服さんを呼んで来て。
  避難しましょう」

 「避難って……どこに?」

 「地下のシェルター」

 「そんなものなんで家にあるんですか!!??」

 「備えあれば憂いなしよ」

 何に備えてたんですか。何に。

 

 さて、お母さんに言われるままウサギさんたちを呼び、
 今までその存在を知らなかったシェルターへの入り口へと向かいました。

 「さあ皆さん!! シェルターでこの台風をやり過ごしましょう!!」

 「大丈夫なのか……?」

 ウサギさんが心配そうに聞きます。

 「中には食料も沢山あって、100年は生活していけるから大丈夫よ」

 本当に、何から身を守るために作ったんでしょうか?
 ……核戦争とか?

 

 シェルターの中に入ると真っ暗で、一寸先すらまともに見渡せない状況に置かれます。
 私たちはその中を、手探りで進みました。

 「お母さ〜ん、スイッチどこぉ?」

 「え〜と、作ったの何年も前だからなぁ……」

 「俺が探してこようか?」

 「え? ウサギさん?」

 「一応戦闘用だから、夜間用のセンサー積んでるんだよ」

 さすがですねウサギさん。
 どこぞの性的愛玩用ロボットとはわけが違います。


 「それじゃ頼むわねウサギさん」

 「じゃ、ちょっと待っててくれ」

 そう言ってウサギさんはどこか行ってしまいました。


 「ん……? 誰ですか、私にじゃれついてくるのは?」

 うざったいんですけど。

 「私はそんなことしてませんよ?」

 真っ先に暗闇に乗じて命を狙ってくるかと思ったリーファちゃんが、少し離れた所から言います。
 っていうことは?

 「黒服? それともお母さん?」

 「俺はここにいるぞ?」

 「私はここよ」

 ……あれ? それじゃこれは……?

 私がこのやけに生暖かい存在の正体を推理していると、
 突然明かりが点きました。
 多分、ウサギさんがスイッチを見つけてくれたみたいです。

 「あ、電気ついた……」

 私の目の前にいたのは、でかい虎。

 ……え? なんで?


 「お、お、お母さ……ん?」

 虎は私に懐いてくれているようで、手をガジガジと噛まれている以外には何もしません。
 ……いや、もしかしてこれは喰われてるのですか? 私?

 「あ、檻から逃げ出してたのね」

 「に、逃げ出した?」

 「いやね、このシェルターの中には数多くの希少動物をは入れておく檻があってね?」

 「な、なんでそんな物が!?」

 「ノアの箱舟を目指して」

 「一般家庭で何壮大なプロジェクトを立ち上げてるんですか!!」

 っていうか虎を勝手に飼うのはいけないんじゃないんですか!?


 「おかぁさぁん……はやく、ここから出ましょう……」

 腕が、虎にスルメがごとくかじられてるんですけど。

 「でも家の中はすでに水没してるし……」

 「そ、そんな……」


 前に虎、後には水害。
 ……ここは、日本ですか?


 




過去の日記