5月30日 日曜日  「はじめまして」


 はじめまして、千夏といいます。
 揺らぎの無い水面のような退屈な人生に
 小石を投げつけるべく、
 日記を書き出すことにしました。

 星咲桔梗?
 何ですかそれ。


 自分の日常生活を誰かに見せるというのは恥ずかしいものですが、
 このサイトをきっかけに、いろんな人とお知り合いになれたらいいなぁと思っています。

 食べ物の名前ですか?


 中には恥ずかしい表現もあるかもしれませんが、
 若気の至りだと思って大目に見てあげてください。

 星咲桔梗って
 人の名前なんだ?
 ……ふ〜ん。


 頑張って毎日更新するつもりなので、
 どうか応援よろしくお願いします。

 星咲桔梗星咲桔梗って……。
 だから、知らないってば!!
 そろそろ怒るぞコラ!!


 それではまた明日。


 注) 星咲桔梗という人間について知りたい方は
    『アバウト』のページの所をCtrl+Aしてください。
    知りたく無い人は知らないままでいいです。

 


 5月31日 月曜日 「加奈ちゃん」


 「千夏ちゃん。一緒に帰ろっか?」

 靴箱で自分の靴を探していた私に加奈ちゃんが声をかけてきました。

 「うん。一緒に帰ろう」

 私は加奈ちゃんが大好き。
 でも加奈ちゃんはたまに別人のような時があるんです。


 例えば今日。
 私がクラスの男子に掃除で使われた、雑巾を洗うバケツの水を頭からかけられた時。
 加奈ちゃんはとっても残酷な笑顔で皆と一緒に笑っていました。

 その他に、私の靴がいつの間にかゴミ箱に入っていた時も笑っていました。
 机に『ゴミ』って大きな文字が彫られていた時も私が近付くとみんな逃げていく時も私の給食に虫が入っていた時も理科の実験中にアルコールランプを押し当てられた時も皆の前で無理やり制服を脱がされた時も体育倉庫に何時間も閉じ込められた時も私の名前がいつの間にか『ゴミ』になった時も。

 そんな加奈ちゃんは怖くて嫌いだけど、いじめっ子と一緒に居ない加奈ちゃんは好き。
 とっても優しくて、私の事心配してくれるから。

 

 一緒に話しながら帰っている時に思ったんだけど、
 もしかしたら加奈ちゃんは「多重人格者」って言う物なのかもしれない。
 そうじゃなきゃ、あんなに怖い人になるわけないもん。

 「多重人格者」っていうのは心に傷がある人がなるそうだ。
 きっと加奈ちゃんは小さい頃に大変なことがあったんだと思う。

 「加奈ちゃん……多重人格って辛いかもしれないけど
  頑張ってね。私応援してるから」

 私がそんなことを加奈ちゃんに言うと

 「ち、千夏ちゃん? 何言ってるの?」

 と返してきました。
 加奈ちゃんは自分が多重人格者であることを知らなかったみたいです。

 「ご、ごめん!! な、なんでもないから……」

 「なんでもないこと無いと思うんだけど……」

 知らないままの方がいい事だってあるのに……。
 私はなんて愚かなことをしてしまったのでしょう。
 自分の馬鹿さ加減に涙が出てきます。

 「私が多重人格者って……どういうこと?」

 加奈ちゃんが訳が分からないといった顔で聞いてきます。
 ここまで来たら仕方ないので加奈ちゃんに真実を教えてあげました。

 


 「……というわけなの」

 私が加奈ちゃんを多重人格者だと思った理由を簡単に伝えると、
 加奈ちゃんが呆れたように言いました。

 「千夏ちゃんって……すごくお人よしだね」

 「え!? どういうこと?」

 「なんでもないから気にしないで」

 なんだかとても気になるんですけど。

 「普通は自分もイジメられたくないから
  周りに合わせてるって思うんじゃ……」

 「ええぇ!? そうだったの!?」

 「わ、私は……多重人格者だから……なんだけど」

 私の目を見て話してくれないのが少し気になりますけど、
 加奈ちゃんがそう言うのだからそうなんでしょう。


 「千夏ちゃん……なんかいろいろごめん」

 加奈ちゃんが急に謝ってきました。
 多分学校でのことを詫びているのだと思います。

 「気にしないで。加奈ちゃんは悪くないよ。
  本当に悪いのはもう一人の加奈ちゃんのほうだし」

 「……本当にごめん」

 「いや、だから」

 「ごめん」

 

 な、なんでそんなに
 謝るんですか?

 


 

 6月1日 火曜日 「米一年分=娘」


 上履きを履いたまま家に帰ると黒い服を着た男の人が居間にいました。

 上履きを履いていたのは靴がなくなっていたから。
 多分明日にはどこかのゴミ箱で見つかると思うから、それは大したことじゃないです。

 「ゴミさん」

 「はい、なんですか?」

 思わず返事してしまいました。

 言っておくけど、私の苗字は『五味』じゃないです。
 いつも学校で「ゴミ」って呼ばれてるから、くせになってるの。

 多分私の隣にゴミ袋があっても「ゴミ」と呼ばれたら、
 私が返事をするんでしょう。

 いや、はじめからゴミ袋は返事したりしないけど。


 その男の人は私を見るとお辞儀して名刺を渡してきました。

 「私たちは国の命令で、ロボットを作っているのです」

 自己紹介もせずにそんなことを言う。
 目が真剣なのがとても怖いです。

 「それで実は、あなたを改造して、ロボットにすることに決めました」

 決めましたって。そう言われても。
 私、鉄の体になるのは嫌だよ?
 人とは違う悲しみとか、過ぎた力を持った哀愁だとか、
 仮面ライダー(初期)の葛藤を持つような主人公じゃないですよ?

 「ロ、ロボットになっちゃったらお母さんが怒るから」

 自分でももうちょっとマシな言い訳思いつかなかったのかと思う。
 何? お母さんが怒るからって。

 「お母さんには米一年分で手をうちました」

 おかん……。

 

 

 6月2日 水曜日 「空港のゲートも通れません」


 お嫁にいけない体になりました。

 具体的に言うと、磁石がくっつく体になりました。

 ……グスン。

 

 

 なんて泣いてる場合ではありません。

 そう。学校に行かなければならないのです。

 いじめられるのは分かっているけど、実は少し楽しみでした。

 だって私は鉄の体を手に入れたのだから!!
 今まで私をいじめていた人たちを八つ裂きにだって出来るのです!!

 うふふふ……首を洗って待ってなさい。いじめっ子ども!!

 

 

 

 


 いじめっ子にパンチしたら、全然痛そうじゃなくて。
 逆に殴られたらすごく痛くて。

 あ、あれ〜?
 なにこの体?

 


 家に帰って、何故か居座っている黒服の人に聞いたら。

 「その体は戦闘用じゃなくて、性的愛玩用だから、力は無くて当然。
  だけど快楽とか痛みとかの感度はすごく良好」

 だ、そうです。

 

 ……性的愛玩用。

 今まで何度もイジメにあっていましたが、
 死にたいなんて思ったことありませんでした。


 ……初めて自分の手首にカッターナイフを押し当てたくなりましたよ。

 

 いや、痛いから嫌ですけどね。

 

 

 6月3日 木曜日 「正直者は得をするのか?」


 学校から帰ってきてすぐ、洗濯機に体育着を投げ入れました。
 すると何故か洗濯機から白い煙が。
 爆発でもするのかと思って離れると、
 洗濯機から一人の女性が後光を背負って出てきました。
 ……なんでだよ。

「私は洗濯機の女神」

 ずいぶんと居住性の悪そうな所に住んでる女神ですね。

「あなたが投げ入れたのは金の体育着ですか?
 それとも銀の体育着ですか?」

 この言い回しはどこかで聞いたことがあります。
 えっと、確かこう言うんでしたよね?

「私が投げ入れたのは普通の体育着です」

「あれえ? おかしいなあ。普通の体育着なんて入ってこなかったよ?」

 なんだかすごくいじわるな顔で言ってきます。
 ……こいつまさか。

「ちなみにちゃんと答えられなかったら体育着はどうなるんですか?」

 一張羅なんで無くなると困るんですが。

「私が責任を持ってブルセラショップに売り払います。
 写真つきで」

「あんた最悪だ!!」

 とても女神のセリフだとは思えません。
 いや、洗濯機から出てきた時点でどこか間違ってるんですが。

 とにかく私の体育着を見知らぬ人間の
 性欲のはけ口にされるわけにはいかないので、
 恥を忍んで言葉を吐き出します。

「私が投げ入れたのは……五月雨ミルクティーのかかった体育着です」

「ぶふー!!」

 女神(自称)が私の言葉を聞いて吹き出しました。
 やっぱり知っててやりやがったな?

 

 ちなみに五月雨ミルクティーとは今日出てきた給食の一品です。
「なんで五月雨なんだよ!!」とか「そもそも牛乳が標準装備の給食に、もう一本飲み物だすな!!」
 のツッコミにも負けず、給食のおばさんが出し続けているメニューなのです。

 ……どんだけ頑固なんですか。

 

 なんだか妙にネバネバしていて、
 飲みにくいったらありゃしないこのミルクティーは
 誰にも食されることなく、いつも残されます。

 で、今日の五時間目の体育の授業で
 私はその最悪な飲み物を頭からぶっかけられました。

 なんのことは無い、いつも通りのイジメですよ。
 ネバネバしてて臭いったらありゃしない液体まみれな私は
 なんだかものすごく惨めでした。

 ……なんかヘンな意味ではエロっちぃかったですけど。


 お母さんに体育着を汚したことを言うと怒られるので、
 さっさと自分で洗ってしまおうと思っていたのに、
 洗濯機に勝手に住んでる女神に邪魔されたのです。

 

「あははは、あんなミルクティーをかけられるなんて災難だったねぇ」

 なんで五月雨ミルクティーのことを知ってるのでしょうか?
 もしかして私の学校の卒業生なんでしょうか。
 ……なんか嫌だな。

「それじゃ、正直に話したあなたに敬意を評して金の体育着と銀の体育着をあげます」

「はあ……どうもです」

 絶対こんなの着て体育できませんよ。

「売ったらいくらくらいかな……」

 確かに金色と銀色なんですが、
 使われている金銀の量はとても少なそうです。

「一着1200円くらいよ」

 うわ、すごく微妙。

「でも私はね、その体育着をもっと高い値段で売る方法を知っているわ」

「本当に!?」

「ええ」

 ぜひ教えてもらいたいです。
 小遣いなんて貰ってないんで
 いろいろ大変なんですよ。

「まずあなたが一回着て、それでしばらく運動した後にブルセラショップに……」


 バタン ←洗濯機のふたを閉める音。

「ちょ、ちょっと何!?」

 ピッ、ピ ←洗濯機の電源を入れる音。

「ち、千夏さん?」

 バシャー ←注水の音。

「うわ、水攻め? そういうプレイ?」

 グゴゴゴゴゴゴゴ…… ←洗濯機のドラム、回転。

「あああああああああああああああ………!!!!!!」

 

 洗濯機は汚れを洗う物です。

 どうぞ、その汚れた心を思う存分洗ってください。

 

 

 

 

 6月4日 金曜日 「Mは『もういや』のM」

odorokiaikon.jpg(40409 バイト)


「私は、あなたのドッペルゲンガーです」

 道を歩いていたら見知らぬ女の子に
 そんなこと言われました。

 ちなみにドッペルゲンガーっていうのは
 そっくりさんのことです。
 多分。

「あの、一ついいですか?」

「何? 私こう見えて忙しいの。手短にね」

 私のドッペルゲンガーのくせに忙がしいのですか。
 本体は今こんなにも暇してるというのに。

「あなた、全然私に似てませんよね?」

 そうなのです。
 目の前の女の子は爪の先ぐらいも
 私に似ていないんです。

 これでドッペルゲンガーっていうなら詐欺です。
 誇大広告です。


「私はあなたの心のドッペルゲンガーなの」

 心? 心がそっくりさんなんですか?
 なんだかすごく嘘っぽいです。

「信じて無いわね?」

「分かるんですか?」

「あなたの心の動きは全てお見通しよ」

 なるほど。
 だてに心のドッペルゲンガーと言うだけのことはあります。

 まあ冷静に考えてみれば、
 誰でもこんなこと信じないんですけど。
 それをわざわざ言われても。


「私はあなた自身も気づいていない
 心の闇を暴露することが仕事なの」

 すごく迷惑な仕事ですね。
 そんなの自己嫌悪になるだけじゃないですか。

「あなたは実は……」

 うわ。許可無く話し始めましたよ。

 で、でも自分の心の中を知りたいとも思うし……。
 どうしよう。聞いちゃおうかな。

「すごくマゾです」


 ……なるほど。
 だからイジメにも堪えられて、


 ってなんでやねん!!


 心の闇っていうか、
 ただの性癖じゃないですか!!


 い、いや、別に私がMってことを認めたわけじゃなくて、

 だからそうじゃなくて。

 

 

 6月5日 「国家の犬にはちゃんと首輪つけといてください」


 「警官ってさ、本当に大変な職業なんだよ」

 目の前にいる警官が愚痴ってきます。
 っていうかなんでこんな状況になったんでしょうね?


 「なにかあったら税金ドロボウって言われるし」

 「あ〜、それは大変そうですねぇ」

 「少し職務を怠けてただけなのにドロボウって言われてもさあ」

 いや、多分それを税金ドロボウって言うんだと思うんですけど。

 「なにかやったらすぐに人格を疑われるしさあ」

 それは多分普通の人も同じだと思いますけどね。

 「俺の憧れた警官の仕事ってこんなもんじゃなかったのになぁ……」

 「どんな警官に憧れたんですか? やっぱりドラマとかの?」

 TVドラマの警察の人はかっこいいですもんね。


 「いや、天才バカボン」

 「え!? 本官さん?」

 確か日本一銃を撃ちまくってるお巡りさんのことですよね?
 ……そんなのに憧れもって警官になったんなら人格疑われて当然ですよ。

 「撃ちてえなぁ、銃」

 ぶっちゃけやがった。

 「ドロボウとかその辺に歩いていないかな?」

 「いや、詳しいこと知らないけど
  多分ドロボウなんかに発砲しちゃまずいと思いますよ?」

 「ルールに縛られてちゃいい大人になれないぜ?」

 法を守らない警官より、悪い大人にならないからいいですよ。


 「そういやあんたロボットなんだって?」

 「そうですけど……それが何か?」

 警官が私をじっと見ています。
 な、なんですか一体?

 「ロボットに……人権は無いよな」

 「え? ええ!?」

 ま、まさかこの人……。

 「1発だけ撃ちこんでいい?」

 「いいわけ無いでしょ!!」

 この体は痛みは倍なんですよ!?


 「じゃあ1マガジンだけ」

 弾数増えてんじゃんか!!
 っていうかなんでオートマチックの銃もってんだよ!!
 確か警察の銃はリボルバーじゃなかったっけ?

 「せっかく買ったからさぁ、撃ってみたかったんだよね」

 それ……銃の不法所持ですから。

 「逃げていいよ〜。当てる自信あるから」

 「いやあああああぁぁぁぁ!!!!」

 大急ぎで逃げます。
 なんで私はこんな目に会うのでしょうか?

 「はっしゃ〜」

 すげえ嬉しそうな声を出して引き金を引きます。
 もう駄目かと思ったその時。

 銃口から眩い光が!!

 「い、一体何が?」

 そして私の目の前に現れたのは……。


 「あなたが撃ったのはこの金の弾?
 それとも銀の……」

 「「銃の女神!!??」」


 もうなにがなんやら。

 


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