10月24日 日曜日 「最強決定戦」


 「さあ、千夏ちゃん!! おばあちゃんと一緒に遊ばないかい?」

 「べ、別にいいですけど……どんな事して遊ぶんですか?」

 「リアルわにわにパックン」

 「怖いですよ!! 本物のワニをハンマーで叩くなんて出来ませんよ!!」

 「オーストラリアでは大流行してるのよ?」

 「おばあちゃんだけでしょ!! そんなことしてるのは!!」

 さすが家にしかけた罠を力づくで突破してきたことだけあって、
 豪快な人ですね。


 「おいあんた。千夏によく訳の分からない遊びをさせようとするな」

 ウサギさんが見かねて止めに来てくれました。

 「あら、ただの孫とのじゃれあいじゃない」

 孫とのじゃれあいで、凶暴な野生動物と遊ぼうとしないでください。


 「ところであなた。居候の身なのよね?」

 「そうだけど……それがどうかしたか?」

 「この家に居候することを許されるのは、私に勝った人間のみなのよ!!」

 おばあちゃんが急にファイティングポーズをとります。
 顔は笑っているので、ただ単に体を動かしたいだけなんでしょう。
 アクティブすぎだぞおばあちゃん。


 「そんなのいつ決まったんだよ」

 「今決めたの。この家での一番の年長者は私だからね。そういう権利はあっても良いと思うのよ」

 見た目は普通の20代の女性のくせに……。


 「くだらない……」

 ウサギさんは今日はいつに無く乗り気じゃないようです。

 「じゃあ、私に勝てなければ千夏とじゃれあうの禁止」

 「……」

 静かにファイティングポーズを取るウサギさん。
 これは、そういう風に解釈してもいいんでしょうか?


 「さあ千夏ちゃん!! ゴングを鳴らして!!」

 本当に楽しそうですねおばあちゃん。
 まあ元気なのはいい事だと思います。外見が若すぎですが。


 「はい、ファイト〜」

 ゴング代わりに近くにあったバケツを木の枝で叩きます。


 「手加減しないわよウサギちゃん!!」

 「ちゃん付けはやめろ。ちゃんは」

 互いに歩み寄る二人。先に手を出したのはウサギさんでした。

 「年寄りには悪いけど、少し眠っててもら……」

 「遅い!!」

 巻き上がった土煙と共に姿を消したおばあちゃん。
 漫画かよ。本当に。

 「ウサギさん!! こういう時は大体後ろに現れますよ!!」

 ウサギさんに勝って欲しいので、少しだけズル。

 「分かった!!」

 ウサギさんが後ろを向いて防御体制を取ると、やっぱりその方向におばあちゃんが現れました。

 「ああ!! ずるいよ千夏ちゃん!!」

 超スピードで姿を消すのは、この世界に生きる者としてもっとずるいですけどね。


 「でも薄い!!!」

 防御しているウサギさんに構わず右の拳でパンチするおばあちゃん。
 普通なら腕のガードでなんてことは無いはずなのに

 『ドガアァン!!』

 なんて、絶対にパンチでは出ることの無い音と共にウサギさんが吹っ飛びました。


 「う、ウサギさん!!」

 背中を家の塀に打ち付け、ウサギさんが咳き込みます。
 戦闘用ボディのウサギさんがここまでダメージを受けるなんて……。

 「がっはぁ……な、なんだ今のは……?」

 「念能力です」

 しれっと言ってのけるおばあちゃん。
 やはりあなたは富樫的キャラなんですか?


 「この……」

 「ウサギさん!! もう無理ですよ!! 立ち上がらないでください!!」

 「ふっ……私の一撃を喰らいながらまだ立ち上がるなんて、中々いい根性してるわね」

 「おばあちゃん!! なんとなく漫画のキャラ的な煽り方しないでくださいよ!!」

 「今度は本気で行くぞ……」

 「どんと来なさい!!」

 「二人ともやめてよー!!」

 戦闘モードに入った二人には、私の声はもはや届かないみたいです。


 「うらああぁぁ!!!」

 おばあちゃんに向かって行くウサギさん。
 本気を出しているらしく、そのスピードは弾丸のそれを超えています。

 「ザ・ワールド!! 時よ止まれ!!」

 「「なんか変なビジョンが見えたー!!??」」


 おばあちゃんの愛読書は、多分週刊ジャンプです。

 


 ちなみにこの後、こてんぱんにやられてしまったウサギさんを慰めるが少し大変でした。
 でも世にも珍しいいじけてるウサギさんの姿を見れたので、少しラッキーです。


 

 10月25日 月曜日 「夢へのいざない」

 今は夜の10時。
 真面目な小学生な私はもう眠くてしかたないです。

 「ふあぁ……もう眠ろう」


 愛しの我が寝床へと向かう途中。
 枕を抱えながら、ふらふらと危なげな足取りで歩くお母さんを見かけました。

 「お母さん? どうかしたんですか?」

 「ああ、千夏ね……。
  ちょっと、もう寝てしまおうかと思って」

 「大人のくせにこんな早い時間に……」

 「千夏こそ、最近の小学生らしく夜更かししなさいよ」

 眠い時は寝るってのが、私のモットーなんですよ。


 「最近寝不足でどうしようもないのよね」

 「寝不足? 何かあったんですか?」

 「お母さん……つまり、あなたのおばあちゃんが来てから心労で眠れなくて……」

 お母さんの辞書に『心労』という文字があっただなんて。


 「あれ? その枕って新品ですか?」

 「ええ。なんでもぐっすり寝られる安眠まくらなんだって」

 「へぇ〜、見た目は普通の枕みたいですけど」

 「中に使われてるチップが違うのよ」

 「何が入ってるんですか?」

 「10ドル札がぎっしりと」

 「そのチップなんですか!?」

 っていうか、枕いっぱいの10ドル紙幣って、すごい金額になるんじゃ……。
 私だったら、余計に眠れませんね。

 

 「ちなみに布団も安眠仕様なの」

 安眠できないような布団は欠陥品だと思うんですけど。


 「なんでも布団の中に入っている羽毛が、
  乱獲で絶滅した鳥の羽らしくて、すごく貴重なの」

 「乱獲っていうか、その布団のせいで絶滅したんじゃ……?」

 何か気分悪いでしょ。
 そんな布団で寝ても。

 

 「これでも眠れなかった時のこともちゃんと考えているの!!」

 「無駄に用意周到ですね」

 「じゃ〜ん!! 催眠術ツール!!」

 別名、『5円玉の穴に糸を通したやつ』ですね。


 「本当に効くんですかね?」

 「う〜ん、やってみれば分かるんじゃない?」

 お母さんが催眠術ツールを手渡してきました。
 かけてみろという事なのでしょう。

 

 「さあお母さん。
  この5円玉をよく見て」

 「はい」

 「この揺れている5円玉を見ているとお母さんは段々眠くな〜る……」

 「むむむむむ……」

 そんなに力んで見ても、眠くなるわけないじゃないですか。


 「眠くな〜る眠くな〜る……」

 「ぐぬぬぬぬぬ……」

 いや、だから……。


 「眠くな〜……」

 やっぱり催眠術なんて、効くわけ……。

 

 ……
 …………
 ………………


 「千夏!! 今あなた寝てたでしょ!?」

 「そ、そんなことありませんよ!!」

 「親を置いていくだなんて、千夏の薄情者!!」

 「うっさい!! お母さんが寝れようが寝れまいが、知ったことですか!!」

 「酷いわ千夏!! こうなったら私が寝れるまでモノポリーに付き合ってもらう……」

 『ゴス』

 という聞き慣れない音が響き、お母さんが倒れます。
 その倒れたお母さんの後ろには、いつのまにかおばあちゃんが。


 「もう春歌ちゃんったら、夜に大声出したら近所迷惑でしょ?」

 そんなことを意識の無いお母さんに諭すおばあちゃん。
 ……眠れて、よかったですねお母さん。

 心労の原因、少しだけ分かりましたよ。

 

 

 10月26日 火曜日 「片付けは忘れずに」


 「どうしよう……」

 私は、今ものすごく困っています。
 何故かって?
 どうしてかと言いますとね、目の前にいっぱいあるんですよ。

 地雷が。


 多分、第1次おばあちゃん戦線の時に仕掛けてたトラップ類を、片づけ忘れてたみたいです。
 地雷等は何十年も残り続ける兵器だと聞きますが、こんな形でその恐ろしさを体験することになろうとは。

 

 「このまま直進できないし、仕方ないから迂回しよ……」

 なんで家の中を移動するのにこんなに気を使うのでしょう?


 カチリ。


 何やら、不吉な音が鳴りました。
 私の足元を見ると、そこには綺麗に廊下に埋め込まれている地雷が。
 スイッチを踏んで、足を離したら爆発するタイプだったらしく、
 あっと言う間に昇天とはなりませんでした。

 最悪な状況には変わりありませんけど……。


 「誰か〜。誰か助けて〜」

 近くに地雷処理のプロの方、いませんか〜?


 「あ、千夏ちゃん。そんな所にいたんだ?」

 「この声は玲ちゃん!!」

 なんというか、すごくお久しぶりな気がします。

 

 「やっほ〜千夏ちゃん〜」

 わが家の地雷原の向こうからやってくる玲ちゃん。
 さすがの地雷も幽霊には反応しませんか。


 「玲ちゃん!! 急な質問だけど、爆弾とか解体できたりする!?」

 「え……そんな経験は無いけど」

 「じゃあどこかの紛争で傭兵として活躍してたとか」

 「残念だけど、そんなどっきり経歴は私の人生の中で存在しないよ」

 そりゃそうですよね。


 「それじゃあさ、誰かを呼んで……」

 ここまで口にして、気づきました。
 玲ちゃんは、霊感がある人間にしか、見ることが出来ないのです。
 故に、誰にも私の状況を知らせることなんて、まったくもって出来ないのです。


 「ん? 誰か呼んでこればいいの?」

 「……うん」

 呼べるのならば。


 「それじゃ、ちょっと待っててね〜」

 「で、出来るだけ早くね〜」

 この近隣に、霊感がとても強い人がいることを願います。

 

 1時間後、玲ちゃんが連れてきたのは、

 「こちら、花子さんって言うらしいです」

 「どうも、学校のトイレに不法滞在中の花子です」

 「よりにもよってまたお化け連れて来ちゃったよ!!!!」

 

 ちなみに、花子さんにも爆弾解体の経験は無いらしいです。


 

 10月27日 水曜日 「デパートにて」

 「新製品の万能包丁で〜す。奥さん、買っていきませんか?」

 「へぇ〜、すごいですね。どんな包丁なんですか?」

 「奥さ〜ん。見ていきませんか〜」

 「ねぇ、どんな包丁か説明してくださいよ」

 「新製品ですよ〜」

 「説明して〜」

 「……」

 「……仕事しろよ」

 「お前!! ただの冷やかしだろうが!!!」

 まあそう言われてしまえば、そうなんですが。

 えっと、私は現在、近所のデパートにいます。
 そこで何やら新製品の販売員を見つけたので、暇つぶしに冷やかそうとしてるのです。
 ちなみに、別にお母さんと離れ離れになって迷子状態なわけじゃありません。
 お母さんが、迷子なのです。


 「ねえ、その包丁はどこらへんが万能なの?」

 「うっさいなぁ、帰れよ」

 「一応お客さんなんだから、営業スマイルしてくださいよ」

 「購入する可能性の無い人間はお客とは呼ばない」

 素晴らしいプロ意識ですね。


 「あ、お客さん」

 「新製品の包丁ですよ〜。いかがですか〜」

 彼が向いた方向には、涼しい風が吹き抜けるばかり。


 「てめえこのガキ!!」

 「すごいですね。もう職業病レベルじゃないですか」

 「本当に帰れよ!!」

 「暇なんですもん」

 けっして、一緒にいたお母さんが見つからないからというわけじゃないです。


 「なんか買ってやるから、さっさとここから消えてくれ」

 「私の行動を金で買うんですね」

 「変な言い方をするな」

 「私を、金で買うんですね」

 「略すな。そういう略しかたをするな」

 とりあえず奢ってくれるらしいので、子どもらしく遠慮なしにやらせてもらいます。


 「あっちの電気屋に置いてあるプラズマテレビが……」

 「常識を考えろよ!!」

 「なんですか、奢ってもらう時の常識って」

 「子どもならお菓子とか、そういうの頼めよ!!」

 「じゃあその万能包丁が欲しいです」

 「こんな包丁を何で欲しがるんだよ」

 自分で売っておいて、こんな包丁とは何事ですか?


 「あなたの指紋がついた、包丁が欲しいです」

 「何目的だよ!! 何のために欲しがってるんだよ!!」

 「サスペンス目的」

 「何しようとしてんだよ!!」


 「あ、お客さん」

 「騙されるかこのガキ……」

 「……」

 本当にいるんですけどね。

 「お、お客さん!! えっと、新商品の包丁はいかがですか?」

 「あなたの指紋がついた包丁が欲しいわね」

 「そんなに需要あるのかよ!! サスペンス目的用の包丁は!!」


 っていうか、お客さんはお母さんでした。

 

 

 10月28日 木曜日 「れでぃおな時間 ふぉーす」

 リーファ「今日も始まりました。『千夏の朝までマスクメロン』」

 今日はリーファちゃんが担当なんですか。

 リーファ「千夏お姉さま、最近何か変わったことなどはありませんでしたか?」

 まずは世間話から始めるとは。
 なかなか自然な進行ですね。


 千夏「最近変わったことって言ったら……妹に寝首かかれそうになりました」

 リーファ「そうですか。それはよかったですね。
      さて、早速このコーナーに……」

 ああ……なんて酷い流し方。

 リーファ「千夏お姉さまの、人生相談のコーナーです。
      生きているだけで奇跡な千夏お姉さまが、不幸のどんぞこにいる人たちにエールを送り、
      お前のほうが不幸なんじゃないのかよ、とツッコミをもらうコーナーです」

 千夏「説明が細かすぎます。後のツッコミまで明らかにされると、
    やりにくいったらありゃしないじゃないですか」

 リーファ「さて、相談メール1通目は……」

 気のせいかもしれませんが、このラジオが始まってから一度も会話してないですよね?

 

 リーファ「東京都にお住まいの『酢豚にパイナップルを入れる人とは結婚しない』さんからのメールです」

 千夏「ペンネームに婚約破棄の条件を書かれても困ります」

 リーファ「『千夏さんはみにょろ〜』」

 ああ、そんな挨拶ありましたね……。

 リーファ「『私、今とても困ってます。実は……彼氏の他に2人の男性と関係を持ってるんで〜す☆』」

 文面からは何一つ困っているようには見えないのが不思議です。


 リーファ「『尻軽な女だと思われるかもしれませんが、違うんです!! 私はみんなを本気で愛してるんです!!
      でも、やっぱりこのままでいるわけにはいきません。
      いきませんが、私には彼らの中から一人を選ぶことなんてできないんです!!
      千夏さん、私は一体、どうしたらいいんですか?』
      ……だ、そうです」

 千夏「酢豚にパイナップルを入れない人を選んだらいいんじゃないですか?」

 リーファ「『酢豚にパイナップルを入れる人とは結婚しない』さん、
      彼らに酢豚を作らせてみろ、とのことだそうです。
      さて次のメールですが……」

 そのまま流しちゃって良いんですか?

 

 リーファ「愛知県にお住まいの『こしあんよりつぶあん派の部下とは杯を酌み交わせ無いさん』からのメールです」

 千夏「飲みニケーションの排他条件を言われても、困るんですってば」

 リーファ「『千夏さん!! 聞いてください!!
      実は今度任されたプロジェクトのアシスタントを
      部下の中から選ばなければいけないんですが……』」

 千夏「こしあん派の人にしなさい」


 リーファ「部下にあんぱんを作らせて見てはどうでしょうか、とのことです。
      さて、次のメールですが……」

 

 これは、違います。
 これは、人生相談とは言わない気がします。

 

 

 10月29日 金曜日 「9月13日あたりの……」

 デジャブという言葉を知っているでしょうか。
 初めて見た物を、過去に見たことがある光景だと『思い込む』心の変化だそうです。
 人間の記憶の曖昧さが分かる原因ですね。

 ま、そんなことどうでもいいんですけど。

 

 

 「ああ、困った。
  本当に困った」

 さて、皆さんに質問ですが、
 道ばたでそんなことをわざと聞こえるように言っている男性を見かけたら、
 どうします?

 私ですか?
 私はもちろん都会の人付き合いの希薄さに育てられた被害者として無視を……

 「お嬢ちゃん。
  ちょっといいかい?」

 「ダメです。何がなんでもダメなんです」

 「出会って間もないのにすごい拒絶!?」

 だって、関わるとろくなことに
 なりそうにないんだもん。


 「実は今、ソバの出前をしてる所なんだけどね」

 私の意思は関係なしに巻き込んでいくんですね。
 もういいよ。諦めましたよ。

 おじさんは確かにソバ屋とかラーメン屋の出前の人でした。
 傍らにあるスクーターも、出前用の改造がされています。

 ほら、あの後ろのほうにラーメンとか入れるやつ。
 それが付いてるんですよ。

 

 「それで道に迷ってしまって、困ってるんだ」

 「ふ〜ん、プロにあるまじき失敗ですね」

 「お嬢ちゃん……けっこう厳しいね」

 だってそうじゃないですか。

 

 「いったい何処に届けるんですか?
  知ってるところだったら道順を教えてあげますよ」

 「鈴木さんちです」

 「またえらくベタな名字を……」

 まあベタなわりにはそんなにたくさん会ったことがあるってわけじゃないんですけど。

 

 「ウエイトリフティングが趣味の鈴木さんだけど」

 「そんなプチ鈴木情報を教えられても誰だか分からないです」

 「今年、還暦を迎えた鈴木さん」

 「還暦なのにウエイトリフティングが趣味なんですか!?
  それってちょっとした有名おじいちゃんレベルじゃないですか!!」

 心あたりは全然無いんですけど。

 

 「血のつながっていない孫が三人いる鈴木さん」

 「なんだか複雑な家庭なんですね……」

 「血のつながっていない犬を二匹飼っている鈴木さん」

 「犬とはどうなっても血はつながらないでしょ」

 

 「やっぱり分からないかい?」

 「ええ、全然。
  もうちょっと個人を特定できる情報はないんですか?」

 「う〜ん……あとは三丁目に住んでいることしか」

 「その情報で、ものすごく範囲が狭まりましたよね?」

 最初からそれを言ってください。


 「三丁目の鈴木さんだと確か……」

 「アリゾナの三丁目に住んでいる鈴木さん」

 「分かるわけないだろ!!
  っていうか日本にいる限り会えないよ!!!!」


 アリゾナも三丁目と表記するのかは謎です。

 


 …………あれ? デジャブ……?


 

 10月30日 土曜日 「妖怪大集合」


 「寒っ!!」

 これが、私の今日の目覚め一番に発した言葉です。

 「うう……何なんですか今日の気温はぁ」

 数ヶ月前、暑い暑いと言っていた夏の日が懐かしいです。
 私、寒いの苦手なんですよね。
 千夏という名前らしく、夏の方が私にとっては過ごしやすいんです。

 

 「布団から出たくないよぉ……」

 今日はこのまま二度寝コースへ……


 「千夏さん。千夏さん」

 何故か一度目の眠りよりとても気持ちのいい至福の二度寝を、
 邪魔する人がいます。
 耳元で私の名前を呼んで、肩を揺すってくるんです。


 「ん〜、誰ですか……?」

 こんなことするのはお母さんとリーファちゃんぐらいかな……。
 あ、リーファちゃんは起こさずに止めを刺しますね。


 「千夏さん、起きてください」

 「だから、誰なんですか……って」

 「雪女です」

 「……」

 どうやら、気付かないうちに二度寝してしまったらしいです。
 まったく、私ったら変な夢を……。


 「えっと、雪女さんが何の御用ですか?」

 布団から出ずに私が言います。
 布団の外には肌の白い20代の女性がいました。
 確かに、雪女っぽいです。
 もしくは黒髪のロシア人です。


 「私の正体をばらさないと約束したあなたが、誰かに喋らないかと見張るために、
  こっそりと嫁いで来たのです」

 ああ、確か昔話の雪女はそういう話でしたね。
 ただ残念なことに、私は雪女を見たことがありませんし、男性でもないので、あなたを嫁にもらうことはできません。
 むしろ、婿が欲しいです。
 石油王な婿が欲しいのです。

 

 「どうぞ、お帰りください」

 「あなた、もう起きる時間よ?」

 おいコラ。勝手におままごとを始めるな。


 「朝ごはん作ったの。冷めないうちに食べて」

 そう言って雪女が差し出してきたのはカキ氷。
 ……冷めようがないじゃないですか。

 「こんな寒い日に、カキ氷なんて食べれるわけないじゃないですか!!」

 「あら、もしかしておはようのキスが欲しいの?」

 確か雪女と口付けすると、カチコチに凍ってしまうと聞いたことがあります。
 お断りだ、そんなキス。


 「山に帰れ!! っていうか、もしかしてこの寒さもあなたの仕業なんじゃ!?」

 「ひ、酷い……」

 よよよと泣き崩れる雪女。
 何だか私が悪いみたいで嫌な感じです。

 「千夏ちゃ〜ん。遊びに来たよ〜」

 目の前で泣いている雪女をどうしようかと思案してる時に、
 玲ちゃんが私の部屋に入ってきました。

 「住所不定無職の花子です。お邪魔します」

 この前連れて来たトイレの花子さんも一緒に。
 っていうか花子さんは学校のトイレを追い出されたんですか?


 「あれ? こちらの方は?」

 「押しかけ女房です」

 「変な言い方するな!!」

 「すごいよ千夏ちゃん!! その歳で妻を持つなんて……」

 「さすがっすね千夏さん」

 玲ちゃんと花子さんがともに私を尊敬の眼差しで見てきます。
 どこか、間違ってるぞお前たち。


 ……気付けば、私の部屋は何だか霊的濃度が高い空間に……。

 

 




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