11月7日 日曜日 「第三の刺客 カッコウ婦人あらわる」


 「勝負よ正義のウサギ!!」

 「……いや、今から千夏と遊びに行くんで、
  また今度……」

 「ええそうね、それじゃまた今度……ってバカ!!
  そんなことまかり通るわけないでしょ!!」

 まあ確かに。


 しかし前回といい今回といい、
 なんでいつもウサギさんとの楽しい一時を邪魔するように現れるんでしょうね?


 「タイミングが悪いんですよあなた達」

 「相手のことなんて考えてたら刺客なんてできないわよ」

 確かにその通りです。

 

 「まあいいや。さっさとやろう。時間がもったいない」

 「そうですね。ウサギさん頑張ってください。
  さっさと倒してカラオケに行きましょう」

 「カラオケ……ふふふ、いいことを思いついたわ。
  ウサギ!! 私と、歌合戦で勝負よ!!」

 やけに平和的な勝負になりましたね。 よほど歌声に自信があるんでしょうか?

 

 そんなこんなで怪人とカラオケ屋に行った私とウサギさんは、
 歌合戦を始める前のウォーミングアップと称して、しっかりとカラオケを楽しんでいました。
 その事実に気づかず、真剣な顔で発声練習をしている怪人が不憫です。


 「千夏上手い上手い」

 「えへへ〜そうですか?」

 「……」

 今度は選曲に集中しているらしい怪人。
 どうでもいいことですが、一緒にカラオケ行っても盛り上がらない人ですね。この怪人。
 ……怪人と盛り上がりたいかと尋ねられれば、微妙と答えるしかないんですけど。


 「えっと、怪人さんって歌が得意なんですか?」

 「ええ当然よ。
  なんていったって私は、この自慢の美声で、数多くの敵を葬り去ってきたのだからね」

 超音波攻撃が得意らしいです。
 でも、聞いたら死ぬ歌ってあまり上手に思えないんですけど。


 「そういえば、勝負のジャッジの方法はどうするんです?
  カラオケの採点機能で判断するんですか?」

 「それだと味気ないし……そうだ、あなたがやりなさい」

 ……え?

 「あの〜私、何がどうなってもウサギさんの味方でいる自信があるんですけど……?」

 敵に審判を委ねるなんて、自殺行為ですよ。


 「ふふふ、私の歌声を甘くみないことね。
  敵であるあなたですら、虜にしてしまう自信があるわ!!」

 ここまで言い切られると是非聞いてみたいです。

 

 「それでは、命をかけた歌合戦スタート!!」

 「それじゃまず私から行かせてもらうわよ!!」

 怪人がマイクを持って高らかに宣言します。
 さて、とりあえず適当に採点して、後のウサギさんを100点にすれば……。


 「ら〜♪ らら〜♪」

 カラオケの個室内に響く怪人の歌声。
 何故かこの歌声を聴いて、私の身体に電流が流れます。
 こ、この歌声は何ていうか………

 


 すごい、痛い。


 「あいたたたた……な、なんだか身体のそこからピキピキ言ってる気がするんですけど」

 「あ、ああ……もしかして、俺たち、攻撃されてないか?」

 「ら〜♪ ら〜♪ ら〜♪」

 「で、でも、楽しそうに歌ってますし、もしかしたら気付いてないんじゃ……」

 「それは性質が悪いな……いて」

 気持ち良さそうに歌っている所悪いですが、止めさせていただきます。


 「か、怪人さん。もういいです……って」

 「ららら〜♪ ら〜♪」

 サビに入りやがったのか、声量が大きくなります。
 破壊力もUP。個室の壁にひびが入ります。


 「おい、もうやめ……」

 「ら〜♪ らら〜♪」

 「か、怪人さん……ほんとに」

 「ららら〜♪ らら〜♪」

 「やめ……」

 「ら〜♪ ら、ガフゥッ!!??」

 歌声に耐え切れなくなったのか、ウサギさんがボディブローを食らわします。


 「が、がはっ……ひ、酷い。私は、私はただ歌っていただけなのに……」

 ……確かに、そうなんですけど。

 「ううぅ、これだから……正義の味方は……ぐはっ」

 ……。

 「……それじゃ、あなたの歌の判定をします。……100点でしたよ」

 「ち、千夏さん……!?」

 特別ですよ?

 

 


 「ふははははは!! さあ、それじゃあお前たちの命を貰おうかぁゲハァッ!!??」

 「調子に乗るな」

 

 

 11月8日 月曜日 「リラクゼーション・タイム」


 私はお風呂が好きです。
 心からリラックスできるっていうか、魂が洗われるっていうか。
 とにかく、お風呂でのんびりするのが私の毎日の楽しみだったりします。


 「あ、シャンプーが無くなっちゃった」

 こういう時って本当に困るんですよね。
 お風呂から出て自分で取りに行くのは面倒ですし。


 「お母さ〜ん! 替えのシャンプー持ってきてください〜!」

 私がキッチンにいるであろうお母さんに向かってそう言うと、
 しばらく間を置いてから、お母さんの返事が届きます。


 「今、夕飯の材料のワニと闘ってるからだめ〜!」


 ……今晩の夕食は、おばあちゃんのリクエストみたいです。
 さすがオーストラリアから来ただけありますね。
 ……あまり、食べたくないんですけど。

 

 「私が持って来ましょうか〜?」

 お母さんと一緒にキッチンに居たらしい雪女が、そう言ってきます。
 雪女が高温多湿なお風呂場に足を踏み入れるのは自殺行為のような気がするんですけど……。


 「はい、どうぞ。新しいシャンプーですよ〜」

 雪女の溶解風景を想像しているうちに、とうの本人は替えのシャンプーを持ってきちゃいました。

 「あの〜……大丈夫なんですか?」

 「何がです?」

 「……お風呂とか」

 「ああ、言ってませんでした? 私、沖縄生まれの雪女なんですよ」

 初耳です。沖縄に雪女が居たなんて。
 どうりで熱いのも平気……

 「っていうか嘘でしょ?」

 「にへ〜で〜びる」

 「今し方覚えたばっかしのような沖縄方言でごまかさないでください」

 もしかしてこの人、雪女ってのも嘘なんじゃないですかね?
 実はすごく体温の低い、かき氷好きなただの一般人なんじゃ……。


 「お背中お流ししましょうか?」

 「あ、とうとうお湯にまで触れちゃったよ」

 「さあ、早くこちらに腰掛けて。
  私に全てをさらけ出して」

 「妙な言い方はやめてください」

 渋々雪女の言うとおり椅子に腰掛け、雪女に背中を預けます。


 「それじゃまずはシャンプーしてあげますね」

 そう言って私の髪を雪女が洗います。
 何故か知りませんが、他人に髪を洗われるのってとても気持ちのいいものですよね。

 普段は迷惑でしかないこの押しかけ女房ですが、こういう使い方をすれば役に立つもんです。
 雪女とハサミは使いようってことでしょうか。


 「かゆい所とかありませんか?」

 「ないですよ〜」

 「じゃあ切ない所とか」

 「ないよ。そんな所」

 「ムラムラしてる所……」

 「ない」


 「それじゃあ泡を洗い流しますね。
  目をつぶっていてください」

  ……さっきのは何の確認だったんですか?


 「いきますよ〜? それ〜」

 「わあ〜気持ちい……」

 ……冷たっ!?


 「ちょっ、冷た!! 冷水じゃないですかそれ!?」

 「え? そうですか?
  かなり温かいと思いますけど」

 「どこがですか!? 危うくショック死する所でしたよ!!」

 「おかしいですねえ……」

 不思議そうに首を傾げる雪女。
 ……もしかしてこの人、体感温度がめちゃくちゃ狂ってるんじゃないでしょうか?


 「さあ、まだ泡がついてますよ?
  流してあげますからこっちに……」

 「ね、ねえ? その氷いっぱいの桶は何?」

 やっぱりこいつは雪女です。


 

 11月9日 火曜日 「ジグソーパズル」


 「う〜ん……なかなか完成しないなあ、このジグソーパズル」

 「そうですね……っていうかピースが多すぎな気がするんですけど」

 私とリーファちゃん以外みんなどこかへ出かけてしまったわが家。
 暇で暇で仕方なかったので、リーファちゃんを誘ってジグソーパズルをしています。
 とっておきの暗殺チャンスのはずですが、あまりの暇さに勝てなかったらしく、
 リーファちゃんは喜んで参加してくれました。

 

 「何ピースのジグソーパズルだったっけ?」

 「確か1万ピース以上はあったと思いますよ」

 「うわぁ……」

 暇つぶしにはいいかもしれませんが、
 すごく長丁場になりそうです。

 

 「ふう……ようやく一番端の方を埋めることが出来たね」

 「本当ですねお姉さま。ここまでくるのに結構時間かか……」

 『ビュオォ〜』

 突如わが家に吹き荒れる突風。
 多分、家のどこからか吹き込んだ風なんでしょうけど。


 そして、その風のおかげでバラバラに飛び散る端の埋まったジグソーパズル。

 「……」

 「……」

 ……やり直しです。

 


 「お、なんだか絵の形が見えてきましたね」

 「ええ、ここまでくればやりやすくなりますよね」

 不幸な事故を乗り越え、私たちはうっすらと絵が確認できる所まで辿りつきました。
 本当に苦労しましたよ。


 「よし、この調子で頑張ろ……」


 「お、お願いだ!! 俺をかくまってくれ!!」

 突然私たちのいる部屋に傷だらけの男が入ってきました。
 どうでもいいことですが、土足です。

 「ポールさん。こんな所に入って、私たちから逃げられると思ったんですか?」

 そして謎の男を追ってきたらしい複数のギャングっぽい人たち。
 本当にどうでもいいことですが、こいつらも土足です。

 

 「ち、ちくしょう!! こんな所で、死んでたまるか!!」

 「裏切り者には、死あるのみですよ!!
  やりなさい、あなた達!!」

 ギャングっぽい人の合図で、部下らしき人たちがマシンガンを撃ちます。
 人んちで。

 謎の男の人も物陰に隠れながら、持っていた拳銃で応戦します。
 これまた人んちで。


 飛び交う銃弾。&パズルのピース。


 「ちょっ、あなた達!! 銃撃戦ならよそでやってくださいよ!!」

 「娘を一目見るまでは、死ぬ訳にはいかない!!」

 「人んちで勝手に変なドラマを繰り広げないでください!!」

 謎の男とギャングたちが銃撃戦をしながら去っていった後には、
 再びバラバラになったジグソーパズルが……。


 …………またやり直しです。

 

 その後も、ジグソーパズルを完成させないために誰かが仕組んでいるとしか思えないことが、
 私たちの身に起こりました。

 

 「千夏お姉さま!! 飛行機が、ジャンボジェット機が落ちてきます!!」

 「は、早くシェルターに!! ってうわー!!」

 


 「た、大変ですお姉さま……」

 「どうかしたんですか?」

 「どうやら、ガスが漏れてこの家に充満しているらしいです……」

 「……と、とりあえず窓を開けて……ってあれー!?
  なんであんな所にすごくショートしてそうなボロいトースターが!?」

 「あれタイマー動いて……ぎゃー!!!!」

 

 そんなこんなで

 「……ようやく、ここまできたね」

 「ええ、あと1ピースで完成ですね」

 何故こんな苦労をしてまでジグソーパズルを完成させるのかと問われれば、
 『意地』としか答えようがありません。


 「……で、その肝心の1ピースは?」

 「見あたりませんね……」

 ここまで来てそれはないでしょう。


 「ゴジラが上陸した時に無くしたんですかね?」

 「私は家の冷蔵庫が意志を持って反乱した時だと思いますけど」

 どっちにしたって最後のピースは見あたらないのです。

 

 「お姉さま!! あれを見てください!!」

 「どうし……あれはっ、最後のピース!?」

 私たちの目の前にあるピース。
 もっと詳しく言うと、わが家の地雷源の真ん中に堂々と落ちている最後のピース。
 なんて言うか、輝いて見えます。

 

 「さて……それじゃ行ってきますね」

 「お姉さま!? いくらなんでも無理ですよ!!
  あそこは地雷源なんですよ!?」

 「知ってますよリーファちゃん。
  でも、人間には罠と分かっていても踏み出さなければいけない時があるのです」

 「お、お姉さま」

 「強く、生きてくださいね……」

 「おねーさまー!!!!」

 


 ……ふと、正気に戻ってしまう私。
 何しようとしてるんですか。こんなの本当に自殺行為ですよ。
 ふう、何はともあれ助かっ……。

 感動しているらしく、私を尊敬の眼差しで見ているリーファちゃん。
 ……何となくですが、ピースを取りにいかなくちゃ、なんだかまずい気がします。

 ど、どうしようこの状況?


 

 11月10日 水曜日 「しつけ」


 「千夏!! あんたって子は本当に……っ!!」

 今、私はお母さんに怒られています。
 今日は珍しく私が全面的に悪いんです。
 本当に、珍しく。

 「聞いてるの千夏!?」

 「そんな大声出さなくても聞いてますよ!!」

 やっぱり自分が悪いと分かっていても、怒られると腹が立っちゃいます。


 ちなみに何故私が怒られているのかと言うと、子どもらしいイタズラをしてガラスを割ってしまったのです。

 

 「千夏はいつも人の話を聞かないで……」

 ……本当に一生の不覚です。
 ガラスを割ってしまったことがじゃなくて、お母さんに正当な怒る理由を与えてしまったことが。
 いつものような理不尽な怒りなら思う存分つっこめるのですが、
 今回はそうはいきません。

 しかもさっきからやけに正論ばかり並べやがって……いや、これが普通なはずなんですけどね。

 

 「コラ! またぼーっとして人の話を聞いてない!!」

 「ううう……」

 「もうそこら辺にしときなさいよ。
  かわいいもんじゃない、窓ガラス割ったぐらい」

 突如私に差し伸べられる救いの手。
 その手の持ち主はおばあちゃんでした。


 「お母さん!! こういうのは甘やかしちゃいけないの!!」

 おばあちゃんにも正論で挑むお母さん。


 「春歌ちゃんが子どもの時は、もっと酷いことしてたじゃない」

 対するおばあちゃんはお母さんの過去を取り出してガード。


 「そんなことないわよ」

 「あれはよく燃えてたなぁ。
  隣のシルビアさんとこの家」

 「ぐ、ぐぬぬぬ……」

 隣家に放火したことあるんですかお母さん!?
 ……しかもシルビアさんって……お母さんたちは子どもの頃はどこに住んでたんですか?

 

 「ああ、確かあれもあったわよね。
  近くの港に原子力潜水艦が停泊してた時……」

 「あれも覚えてたの!?」

 「半径500キロメートルにいた人たちが避難したのよね。確か」

 ほ、本当に何をやったんですか……?

 

 「昔っから春歌ちゃんはお茶目だったわよね?
  あんなことしてもゴジラは生まれないっていうのに」

 ……多分ですけど、お母さんは原子力潜水艦を爆発させてゴジラを生み出そうとしたらしいです。
 お茶目じゃ済みませんよ、絶対に。

 

 「そんなの昔のことよ!! 今母親である私には関係ないわ!!」

 けっこう拭い去れない罪もあった気がしますけど、
 とにかくお母さんが立ち直って反撃します。

 

 「え? それじゃ昨日千夏ちゃんの……」

 「わー! わー!! それダメー!!」

 「ちょっ、ちょっとお母さん!?」

 「人には誰だって失敗する時があるんだから、それを分かった上で怒って、
  そして許してあげないとね」

 「あの〜……」

 「分かったわお母さん……。
  ごめんね千夏。怒りすぎちゃって。でも、あなたのためを思って怒ったのよ?
  ガラスで怪我したら大変でしょ?」

 「いや、だからその……」

 「さあ!! それじゃ怒りを忘れるために、家族そろっての団らんタイムといきましょうか?」

 「っていうか……」

 「もう、お母さんったら。
  千夏、あなた何か食べたい物……」

 「昨日!! 何したんですか!?
  ことと次第によってはすごく怒りますよ!!」


 「……今日は千夏の大好きなコロッケ作ってあげる」


 ……ね、年に数回の大好物で話を逸らすほどの事を……?

 

 11月11日 木曜日 「玲ちゃんと鬼ごっこ」


 「千夏ちゃ〜ん、鬼ごっこして遊ばない?」

 私の家に遊びに来た玲ちゃんがそんなことを言います。

 「え〜……それはちょっと」

 「ぶう〜なんで〜?」

 だって玲ちゃん、当たり前のように壁をすり抜けるんですもん。
 圧倒的に私が不利じゃないですか。


 「じゃあね、かくれんぼとか」

 「それも……どうかな」

 『薄く』なられると、霊感の強い私でも見るのは困難ですから。

 

 「もう、千夏ちゃんってわがままだなあ。
  そんなに文句ばっか言うなら、千夏ちゃんが何して遊ぶか決めてよ」

 「分かりましたよ。
  私が決めればいいんでしょ? え〜と……」

 缶けりは……玲ちゃんが缶を蹴ると、周りの人には超常現象に見えるからやめといて。
 ままごとは雪女と四六時中やってる状態だし。え〜と……。

 

 「千夏ちゃんまだ〜?」

 「う〜ん……なかなかいいものが思いつきませんね」

 「それならやっぱり鬼ごっこやろうよぉ」

 「何でそんなに鬼ごっこにこだわって……」

 っていうか、今気づいたんですが、
 私たちがやろうとしている遊びって、かなり古くさいものばかりですよね。
 今時の小学生らしく、大人が呆れるような遊びをするべきだと思うんですけど。
 家にこもってゲームとか、小学生のくせに渋谷に遊びに行くとか。
 まあ残念なことに貧乏なうちにはテレビゲーム機なんかありませんし、
 渋谷に行けば万札をちらつかせるおじさんに、声をかけられるだけなので行かないんですけど。


 「千夏ちゃん。鬼ごっこの噂話知ってる?」

 「鬼ごっこの噂話?」

 「鬼ごっこっていうのはね、自分の中にいる鬼を他人になすりつけるものなんだって。
  だからみんな触られようとすると逃げるの」

 急に声のトーンを落として話し始めた玲ちゃん。
 怪談モードにスイッチが入ったらしいです。
 存在が怪談のくせに。


 「それでね、鬼をなすりつけあっているうちに、まるで雪原の中で雪玉を転がしたみたいに、
  どんどん鬼もおっきくなっていくの……」

 「ふ〜ん……」

 「それでね、鬼ごっこをやり始めて百回目に触られた人は……」

 「触られた人は?」

 「何と……お前だー!!」

 「いや、わけ分かんないですから」

 ありがちな怪談話のオチで驚かそうとしてるのは分かりますが、
 もうちょっと前の文を気にかけてください。
 あれじゃあ百回目の記念すべき鬼が私ですよってだけじゃないですか。

 

 「まあ別に大したことないんだけど、
  百回目の鬼が本当に鬼になっちゃうってだけだよ」

 えらく気の抜けた言い方ですね。
 これじゃ台無しでしょ。


 「そもそも鬼ごっこを始めてから百回も鬼が交代するなんて、普通ないですよね」

 「よほど鬼ごっこが好きでずっとやってないとね」

 「それじゃあ鬼ごっこでもやりますか?」

 「百回交代できるようにがんばろ〜」

 そんな目標持たなくてもいいと思います。

 

 二時間後。鬼ごっこ一つでこれだけの時間遊び続けるのはどうかと思いますが、
 なんだかんだで玲ちゃんが99回目の鬼になってしまいました。
 つまり、二人だけの鬼ごっこでは、どうあがいても次の鬼は私ってことです。


 「ついにここまできちゃったね、千夏ちゃん……」

 「まさか鬼を百回交代するバカが私たちのことだとは夢にも思いませんでしたよ……」

 すんごく自慢できないことですね。

 

 「もうやめよっか? 鬼ごっこ」

 「そうですね。何となくですが、このままの流れだと本当に私は鬼になっちゃいそうですし」

 本当何となくですが。


 「……」

 「玲ちゃん?」

 「……鬼、見てみたいなぁ」

 オイ。


 「千夏ちゃん覚悟ー!!」

 「うわぁー!! 玲ちゃんのバカー!!」

 二時間も走り回っていた私には、玲ちゃんの手から逃れる力は残ってませんでした。


 ぺち

 玲ちゃんの手が私に触れます。
 ああ、これで私は正真証明の鬼に……。


 「どう? 千夏ちゃん。
  どこか、変わった所ある?」

 「……別にないですけど」

 やっぱりガセですか。


 「そっかぁ……あ、もしかして千夏は元から鬼のような子だから……」

 「言いたいことは、それだけですか?」

 「あは、あははは……ごめんなさい」

 罰として、一週間ご飯抜きです。
 多分、玲ちゃんにはどうってことないですけど。


 

 11月12日 金曜日 「おばあちゃんへのプレゼント」


 「千夏。おばあちゃんに冥土の土産、もとい感謝のプレゼントを贈りたいのだけど、
  何かいい物ないかしら?」

 リビングでくつろいでた私に、お母さんがそんなことを聞いてきます。


 「おばあちゃんにプレゼントですか……何か欲しい物があるって耳にはさみませんでしたか?」

 「歯ごたえのあるスパーリング相手が欲しいって言ってたけど」

 そんなの世界中を探したって見つからないと思います。

 


 「贈るなら手作りの物とかがいいんじゃないですかね?
  一生懸命作れば喜んでもらえると思いますよ」

 「手作りか……いいわねそれ」

 ということで、私とお母さんは紙粘土でおばあちゃんへのプレゼントを作ることにしました。
 なんだかんだでおばあちゃんには結構可愛がってもらっているので、いい恩返しの機会です。


 「う〜ん……やっぱり紙粘土だし貯金箱とか作ろうかな」

 おばあちゃんに貯金箱が必要なのかと問われれば困りますけど、こういうのは作り手の想いが大切ですからね。
 気にしちゃいけないんです。


 「お母さんは何を作るの?」

 「抱き枕」

 紙粘土で作成するものじゃないでしょう。
 朝起きたら粉っぽくて大変ですよ。

 

 「う〜ん……」

 いきなり行き詰まってしまいました。
 貯金箱にするまではいいんですが、外見をどうしようかという問題があるんです。
 ただ四角い貯金箱ってのは味気なさすぎですし。


 「お母さ〜ん、どんな形にしたほうがいいと思……って、何してるんですか!?」

 紙粘土で抱き枕を作るというチャレンジをしているお母さんは、
 何故か釘やら押しピンやらホッチキスの芯やらを紙粘土に混ぜ合わせてました。


 「この抱き枕を抱いて寝ればね、ツボが刺激されて健康に……」

 「嘘だよ!! 絶対に悪意がこもってる!!」

 「この想い、あなたに届けって感じ」

 確かに、痛いぐらい伝わるかもしれませんが。

 

 そんな感じで作業すること一時間。
 新しい紙粘土をくっつけたり削ったりしながら、貯金箱が出来上がりました。
 ちなみに貯金箱の形はおばあちゃんの大好きなワニです。
 正確に言うと、おばあちゃんが好きなのはワニの肉なんですけどね。


 そしてお母さんですが、作成途中に何度も釘や刃物やアレルギー物質を継ぎ足して、抱き枕を完成させやがりました。
 見た目は普通の抱き枕ですが、中には悪意がいっぱいに詰まっています。
 こんなの抱いて寝たら、血だらけ&かぶれで酷いことになりそうです。


 「さて、後は乾かせばおっけーね」

 「そうですね。
  おばあちゃん、喜んでくれればいいけど」

 少なくとも、私のだけは。

 

 「千夏お姉さま……」

 「ん? どうかしたんですかリーファちゃん?」

 「ここに置いておいたプラスチック爆弾……じゃなかった、粘土を知りませんか?」

 「……」

 またなのですかリーファちゃん。

 私が生涯の中で作った貯金箱は全て、爆弾になってしまう運命なのでしょうか……。


 

 11月13日 土曜日 「みたびマゾ企画」


今日はまた
コレをやってました。




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