12月5日 日曜日 「朝起きてみると……」


 「……リーファちゃん」

 「何ですか? 千夏お姉さま」

 「……何してるの?」

 「ドアに挟まってます」

 だから、何で私の部屋のドアに挟まっているのかと聞いているんですけど。
 朝起きたらこういう状態で、すごく驚いています。


 「なんで挟まってるの?」

 「趣味です」

 「嘘吐くな!!」

 ありえないですよ。それは。


 「もしかしてさ、夜のうちに私の部屋に忍び込もうとした?」

 「あはは、まさか。ちょっと侵入に失敗して、
  いつの間にやら仕掛けられていたセキュリティシステムに引っかかったわけじゃありませんよ?」

 なるほど、よく分かりました。


 「へ〜、私の部屋にそんなシステムが付いていたんだ?」

 「そうだったみたいですね。私もこうなって初めて気付きました」

 「あはは、災難だね」

 「ええ、本当に」

 「……」

 「……」

 「……それじゃ、私は二度寝するんで」

 「ちょ、ちょっと千夏お姉さま!?」

 もう……せっかく人が気持ちのいい惰眠を貪ろうと思ったのに……。


 「なんですか?」

 「な、なんですかじゃないですよ! ここから出してください」

 「……趣味なんでしょ? それ」

 「ぐっ、それは……」

 「どうぞ、心ゆくまで挟まっていてください。それじゃおやすみ……」

 「あー!! あー!! ちょっと待って!!」

 うるさいなぁ。本当に。


 「飽きました!! この趣味はもう飽きちゃいました!!」

 「そんなの知ったこっちゃありませんよ。
  私は寝たいんです。静かにしててください」

 「ここから出してくれなかったら、千夏お姉さまが眠れないように
  取って置きの怪談話をしますよ!? 怖くて、全然寝れませんよ!?」

 「どうぞご勝手に」

 「昔々あるところにドアに挟まった少女が……」

 「それ、リーファちゃんじゃん」

 「助けてくれない姉のことを怨みながら死んでいきました……」

 「いいんですか? そんな風に自分の行く末を言っちゃって?」

 「え……? 私死ぬの?」

 「リーファちゃんの怪談によるとそうらしいですよ」

 「それじゃ……助けてくれない姉のことを怨みながらお腹を空かせていきました……」

 「普通っぽくないですか?」

 「姉のことを怨みながら……あ、足を攣りました!!」

 「あ〜……それは大変そうですね」

 「痛っ!! 足、痛っ!?」

 「お休みなさあい……」

 「ち、千夏お姉さま!? いや、本当に、助け……!!」


 素敵な朝のひと時です。

 

 

 

 

 12月6日 月曜日 「どっちのプリンショー」


 「千夏〜、プリン作ったんだけど食べるか?」

 「プリン!? もちろんいただきますよ!」

 ウサギさんは料理の趣味をまだ続けているようです。
 私だったら確実に三日坊主になってしまうので、尊敬してしまいます。


 「うわ〜、美味しそうですね」

 「ちょっと作りすぎたから、どんどんおかわりしていいぞ」

 あまりデザートの類はおかわりしない人ですが、ウサギさんが作ったというのなら話は別です。
 いやってぐらい食べてやりますよ。

 

 「それじゃいただきま〜……」

 「ちょっと待った!!」

 美味しそうなプリンを口に入れようとした瞬間、なぜかストップがかかります。


 「リーファちゃん?
  一体どうしたんですか……」

 私の手を止めたのは、やけに大きなボウルを抱えたリーファちゃん。
 よほどボウルが重いのか、フラフラしています。


 「どっちのプリンショー!!」

 「へ?」

 訳の分からないことをリーファちゃんが叫びます。
 最近寒いから、脳の血管でも凍らしてしまったのでしょうか?


 「そっちのウサギが作ったプリンと私が作ったプリン。
  これからそれぞれがやるプレゼーテーションで、どっちを食べたいか決めてください」

 「もしかして選んだ方しか食べれないというアレですか?」

 「ええ、まったくその通りです」

 「じゃあウサギさんのプリンで」

 「早っ!? まだ何もプレゼンしてませんよ!!」

 「いや、だって別にリーファちゃんが作ったプリンなんて食べたくないし……」

 「そ、そんなこと言ってていいんですかね!?
  私の作ったプリンを見れば、よだれが出すぎて干からびますよ!!」

 いやな死に方ですね。それは。

 


 「さあウサギ! あんたからプリンを紹介しなさい」

 「紹介つったって……普通のプリンです」

 「やる気あんのか? お前」

 「……愛情のこもったプリンです」

 「お前プレゼンというものをなめて……」

 「じゃあウサギさんのプリンで」

 「千夏お姉さま!! 絶対的にこいつだけひいきしすぎですよ!!」

 仕方ないじゃないですか。好きなんだし。

 

 「それでは私のプリンの紹介をしましょう!」

 「よだれでミイラになることを楽しみにしてますよ」

 「ジャジャーン!! これが私の作った『お化けプリン』で〜す」

 「うわっ、でか!?」

 リーファちゃんが作ったらしいプリンは、普通のプリンの五倍はあろうかという体積でした。


 「それじゃあ、ウサギさんのプリンで」

 「ちょ、ちょっと千夏お姉さま! まだ判定は待ってくださいよ!!
  これからなんですからっ!!」

 「分かりましたよ。
  でも、ただデカイだけのプリンなら、
  迷うことなくウサギさんのプリンを選びますからね?」

 「も、もちろん分かってますよ。私と私のプリンをなめないでください」

 プリンは別になめてもいいと思いますけど。


 「このプリン、ただデカイからお化けと名乗っているわけではございません!!
  その昔、とある宮廷料理人が心血を注いで作ったプリンがありました。
  そのプリンといったらまさに究極のプリンと言える味で、
  宮廷料理人はプリン王の名声を手に入れることが出来ると確信したそうです」

 えらく間抜けな称号ですね。プリン王。


 「しかし悲劇が起こりました。
  なんとライバルの料理人の罠によって、そのプリンのレシピを奪われ、
  なおかつプリン王という称号すらも横取りされてしまったのです!!」

 私個人としては、プリン王なんて称号はどうでもいい気がするんですけどね。
 なんか、TVチャンオンで貰えそうな名ですし。


 「そして悲しみに捕らわれた料理人が、
  自分の中にある憎しみを全て注ぎ込んで開発したというプリン。
  究極のプリンを越えるためのプリン。
  それがこのお化けプリ……」

 「う〜ん、やっぱりウサギさんのプリンは美味しいです」

 「そうか? 作った甲斐があったよ」

 「って食べちゃってるよ!?」

 あまりにも話が長いものだから、お腹が空いたんですよ。


 「千夏お姉さまなんて、プリン王に呪われればいいんだわっ!!」

 あまり威嚇できてない捨て台詞ですね。


 

 12月7日 火曜日 「忍者ごっこ」


 「千夏ちゃ〜ん! 忍者ごっこしない?」

 忍法壁ぬけの術、もとい霊現象で玲ちゃんが私の部屋に遊びにきました。
 もうちょっと普通な入室の仕方を私は薦めたいんですけど玲ちゃん。

 

 「忍者ごっこって……普通は男の子がやるものでしょ?」

 「別にいいじゃない、そんなの。
  これからはジェンダーフリーの時代ですよ!!」

 「ジェンダーフリーとはまた難しい言葉で説得にかかりましたね……」

 「それに、私たちって普段もそんなに女の子らしい遊びなんてしたことないじゃん」

 確かに。
 それを言われたら何も言い返せません。

 

 「分かりましたよ。やりましょう、忍者ごっこ」

 「やったぁ!! それじゃさっそくどこかの家に忍び込みに行こう!!」

 「え!? 忍者ごっこって、適当に手裏剣投げてればいいんじゃないんですか!?」

 何も本格的に隠密活動しなくてもいいじゃないですか。

 

 「人んちに忍び込まない忍者は紅くない紅しょうがと同じよ!!」

 例えがよく分かりません。

 


 「さて、成金豪邸で近所でも有名な濱ヶ崎さんちについたわけですが……」

 「玲ちゃん。玲ちゃん」

 「何? 落ちてる物でも食べてお腹壊したの?」

 「違いますよ。人を野犬にしないでください。
  ……っていうか、本当にやる気なんですか!?」

 「うん、もちろん。
  こういうのはリアリティを大事にしないと」

 「あの〜……いくつか不安な点があるんですが?」

 「え? 何が?」

 「何で、警備システムが張り巡らされているこの豪邸を選んだんですか?」

 「敵は強ければ強いほどいいと思って。
  それに成金ってなんとなく悪役っぽいでしょ?」

 なんて短絡的な理由……。


 「それに今は昼なんですけど。
  忍者って普通は夜に忍び込みますよね?」

 「門限あるし」

 幽霊に門限も何もないでしょ。

 

 「さあ、さっそく不法侵入しましょ!!」

 「一応悪いことしてるって自覚はあるんですね」

 余計にたちが悪いですけど。

 

 『ジリリリリリ!!』

 まだ何もしてないのに鳴り響く警報。
 な、何がどうなって……!?

 

 「多分あれだね。きっと先客がいたんだよ」

 「なんて間の悪い私たち……。
  とにかく、早く逃げましょう!!
  このままだと私たちまで捕まっちゃうかもしれませんよ!!」

 「そうだね。早くここから……」

 私の方を向いたまま、言葉を詰まらせる玲ちゃん。
 彼女の視線は私を通り越して後ろの方を見ているようで、私も振り返って見てみます。

 ……そこにいたのは犬が2匹。
 確か、ドーベルマンだとかいう種類です。

 

 「……」

 「……」

 「……」

 「……逃げろ〜!!」

 「うわぁ!? 玲ちゃん、ちょっと待ってよ!!」

 大慌てで逃げる私たち。
 そして追ってくる犬。
 絶体絶命の危機です。

 

 「って、あー!! 目の前に壁がー!!」

 これはまずい。
 逃げ場が無くなっちゃうじゃないですか。


 「玲ちゃんどうしよ……」

 慌てる私をよそに壁ぬけの術、もとい霊現象で壁の向こう側に消えた玲ちゃん。

 

 ……っていうか、酷くない?

 犬に囲まれながら、そんなことを考える私でした。


 

 12月8日 水曜日 「遊園地のマスコット募集」


 「千夏。あなた絵、描けるでしょ?」
 お母さんがそんなことを聞いてきました。


 「絵が描けない人はあまりいないと思うんですけど」

 「じゃなくて、何を描いているか分かるぐらいのレベルの絵は描けるでしょってことを聞いてるの」

 「はあ……まあ描けるって言えば描けますけど。
  ……それが何か?」

 「じゃ〜ん!! ことを見てちょうだい!!」

 「マスコットキャラクターアイディア、募集のお知らせ……何これ?」

 「隣の遊園地がね、人気集めのためにマスコットキャラクターを作ることにしたんですって」

 人気が無いのはマスコットキャラクターがいないからじゃなくて、
 アトラクション全てに安全性が無いからだと思うんですけど。


 「でね、そのキャラクターのアイディアを一般公募してるのよ。
  賞金も出るらしいし、是非千夏さんに応募して欲しいなあって」

 「う〜ん……まあやってもいいですよ」

 ちょっと面白そうだし。


 「頑張って千夏!!
  あなたの肩には今月の食費がかかってるわよ!」

 勝手に人の肩にわが家の命綱を巻き付けないでください。


 「っていうかさ、食費ぐらいおばあちゃんのお金でなんとかしてくださいよ」
 こういう時こそあのお金を使うべきだと思うんですけど。

 「お母さんに借りを作るといろいろ大変そうだから……」

 思いっきりはしゃいで散財しようとしていた人が何をいまさら……。

 

 「う〜ん……遊園地のマスコットって、どんなのがいいんだろう?」

 「適当な動物を擬人化していけばなんとかなるんじゃない?」

 それは確かに一理あります。
 某ネズミーランドも大体そういう系統ですし。


 「それじゃどの動物を擬人化しようかな……」

 「ハマチとかどうよ千夏さん?」

 「分かりづらいよ、ハマチ」

 「アナゴとかは?」

 「あれはどうあがいたってかわいくならない顔ですよ!?」

 っていうか、パーティーのアイディア出しの時も思ったんですが、
 なんでお母さんが思いつくのは魚介類ばかりなんですか。
 そんなに魚が好きなんですか?

 

 「どうせならあの遊園地の本質を表すキャラクターがいいわよね」

 「あの遊園地の本質って……入園者数の1割が変わり果てた姿で出てくるってこととか?」

 「それよ!! もうそれしかないわ!!」

 「例えそんなキャラクターを描いたとしても、絶対に採用されませんって」

 「ものは試しだって」

 「採用されなかったら」

 「一ヶ月間デス・ダイエット」

 年を越せない気がします。


 

 12月9日 木曜日 「クリスマスツリー」

 

 「お嬢さん、お嬢さん。
  これ、買っていかないかい?」

 ああ……街を歩いていたら久しぶりに謎の路上販売員に捕まってしまいましたよ。
 捕まるたびに思うのですが、こんなみすぼらしい小学生を相手にするよりも、
 もっといいターゲットがいるばずなのに、なんで私を狙うんでしょうか?
 そこにいる昼間っから酒を飲んでるおっさんとか。
 すぐに騙せそうですよ?

 

 「お嬢さん……なにブツブツ呟いているんだい?」

 「あなたのためを思った独り言です」

 「そういうのは独り言にしないで私に伝えてくれよ」

 まあごもっともですけど。

 

 「で、どんな品物を子ども心につけこんで売りつける気ですか?」

 「お、よくぞ聞いてくれました。
  今日お嬢さんにお薦めしたい一品は……」

 『子ども心につけこんで』の部分は否定しないんですね……。

 

 「次世代型クリスマスツリーです!!」

 「間にあってます」

 「あら? お嬢さんちはクリスマスツリーがもうあるのかな?」

 「いいえ。『次世代型』が間にあってます」

 「お嬢さんちって一体何があるの!?」

 それはもうすごい次世代型たちがいっぱい……。


 「とにかく、お嬢さんには素晴らしいこのクリスマスツリーを買って欲しいんだ」

 「これのどこが次世代型で素晴らしくて欠陥品なんですか?」

 「えっとこのクリスマスツリーはね……」

 また『欠陥品』の部分は否定しないんですね。

 

 「なんと、クリスマスになれば自動的に飾り付け、
  そしてクリスマスが終われば自動的に片づくという、全自動型クリスマスツリーなんです!!」

 「クリスマスツリーって、飾り付ける所も楽しみの一つだと思うんですけど?」

 「さらにこのクリスマスツリーは……」

 無視かよ。

 

 「春になると勝手に周囲に種をまいて、増えます」

 「ちょっとそれは気持ち悪いんですけど……」

 「しかもたった2ヶ月で成木に」

 むやみやたらに生命力の強いクリスマスツリーですね。


 「要りませんか?」

 「まったくもっていりませんねえ」

 「今なら生きたトナカイがついてきます」

 「絶対いりません」

 トナカイなんて飼ってどうするんですか。


 「今なら生きたサンタもついてきます」

 「生きたサンタ!?」


 生きていないサンタとかもあるんですかと、聞いてみたいような。
 聞いてみたくないような。


 

 12月10日 金曜日 「ファミレスにて」


 「さあ、みんな!!
  好きな、そしてできるだけ安い料理を頼んじゃいなさい!!」

 遠慮しなくていいのか、するべきなのか、判断に迷うんですけど。


 私たち一家は、今ファミレスに居ます。
 家族揃って外食に出かけるなんて滅多にないことなので、少しウキウキ気分だったりします。

 

 「それにしても……なんで今日は外食なんですか?」

 高い料理を頼もうとしているリーファちゃんを牽制していたお母さんに聞きます。


 「え〜っとね、お母さんの歓迎会とか」

 開催時期が遅すぎですよ。
 まあせっかくの美味しい物を食べるチャンスなので、
 しっかりと楽しまさせてもらいます。

 

 「ウサギさんは何を頼むんですか?」

 「う〜ん、そうだなぁ……このスパゲティとか美味しそうだな」

 「シーフードスパゲティですかぁ。
  とっても美味しそうですね」

 「食べたかったら半分くらい分けてやるけど?」

 「本当ですか!?
  それじゃあお返しに私の料理もウサギさんに分けてあげますね」

 「千夏は何を食べるんだ?」

 「えっとですねぇ、私はこのチーズハンバーグセットを……」

 「お子様ランチよね?」

 「……え?」

 「千夏は、お子様ランチが食べたいのよね?」

 お母さんが真剣な眼差しを私に向けて尋ねてきます。
 なんでそんなこと言うのだろうと思いましたが、
 お子様ランチとチーズハンバーグセットの値段を見比べてみたらすぐに理解出来ました。


 「いいえ。チーズハンバーグセットが食べたいです」

 「ちょっと!! 親が必死に伝えようとしているアイコンタクトを受け取ってよ!!」

 受け取ってはいたんですが、無視したんですよ。

 

 「お、お母さんなら私の心を汲み取ってくれるわよね?」

 お母さんがおばあちゃんにそんなことを聞くと、

 「じゃあ私は特上刺身盛り合わせセットを注文するわね」

 すごい高いやつを選びました。
 さすがおばあちゃん。

 

 「く、黒服さんは……?」

 「イクラ丼特盛り」

 ああ、これも高いやつです。


 「リーファちゃん……」

 「サイコロステーキとTボーンステーキとしゃぶしゃぶでお願いします」

 肉類3連コンボですか。
 っていうかリーファちゃんは本当に遠慮しなさいよ。
 注文しすぎです。


 「雪女ちゃんは……」

 「かき氷でお願いします」

 よかったですね。唯一安いもので。
 ……でも本当にかき氷だけでいいんですか?

 

 「ああ雪女ちゃん!! あなたは奢られる人の鏡だわ!!」

 「嫁としての当然のつとめですわ、お義母さま」

 雪女、変なところでポイントをあげないでください。

 

 「で、お母さんは何を食べるんですか?」

 「まあせっかくなんだし、ここは奮発してフカヒレの春巻きを……」

 「え!? 私だけ水分のみ!?」

 なんだかすごく雪女がかわいそうなんですけど……。


 

 12月11日 土曜日 「早起きスタンプ」


 「千夏、これあげる」

 お母さんが、綺麗にラッピングされたプレゼント用の小箱を、
 私に渡します。
 ……怪しい。

 「お母さん? 一体何を企んでいるんですか?」

 「何よその言い方。私がまるで腹黒みたいに」

 実際素の通りなんじゃ……。

 「いいから開けてみなさい」

 「はい……」

 すごく怪しい箱を開けると中には一つの目覚まし時計が。


 「これは?」

 「私からあなたへのプレゼント」

 「でもなんで目覚まし時計なんて……」

 「どっかの最近寒いからって布団から出ない子どものために、
  せっかく愛情たっぷり注いだ朝食が冷めていく現実を、
  どうにかしなくちゃいけないと思って」

 少し嫌味な言い方ですね。
 あと朝食が冷めてるのは、勝手に私の朝ごはんを雪女が作ってるからだと思います。
 朝からパフェは食べれませんよ。

 

 「でも多分この目覚まし時計でもどうにもならないと思いますよ?
  一度時計を止めて、そしてまた布団に入っていくんですもん。私」

 「どうしようもないわね、あなた……」

 寒いの苦手なんですよ。


 「でも大丈夫。なんて言ったってこの時計には人の声を入れてあるの」

 「ああ、確かにそういう時計もありますけど……あまり意味が無いんじゃ」

 「再生スイッチオ〜ン!!」

 

 『起きないとお小遣い抜きよ〜』

 ……お母さんの声が、時計からします。
 起きないよ。こんなものじゃ。
 むしろ目覚め悪くなりますし。


 「あとでウサギさんに録音しなおしてもらお……」

 「酷っ!! 千夏酷い!!」

 しょうがないじゃないですか。
 いい起床が期待出来ないんですから。


 「そして、その時計だけじゃないわよ! もっと確実に起きる方法があるの!!」

 「別にいいですよ。朝起きれなくても」

 「そういう訳にはいかないでしょ!! 学校とか、遅刻しちゃうじゃない!!」

 ま、真面目に突っ込まれてしまいました。
 でも別に学校なんて元から行きたくないですし……。


 「今日からちゃんと定時に起きれたら、この『早起きスタンプ』を一個押してあげます!!」

 「早起きスタンプねぇ……」

 「その冷めた眼差し……本当にあなた子どもっぽくないわね」

 最近の子なんてこんなもんですよ。


 「とにかく、この『早起きスタンプ』を50個集めると、おもちゃとか可愛いお洋服をプレゼント!!」

 貧乏の癖に子どもを物で釣ろうとして……。

 「どうせお母さん手作りのどうしようもないおもちゃとか、メイド服とかでしょ?」

 「……違うわよ」

 何だ? その間は?


 「500個集めたらもっと豪華な賞品をプレゼント」

 「豪華ねぇ……例えば?」

 「外国への旅行よ」

 「本当ですか!?」

 この家のどこにそんな余裕があるんですか。


 「行き先は?」

 「夏休みに行った無人島に……」

 「またサバイバル生活しろって言うんですか!?」

 全然いらないんですけど。

 

 

 




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