6月6日 日曜日 「善いも悪いもリモコン次第」


 朝起きたら頭がなんかくらくらしました。

 風邪かなと一瞬思ったのですが、
 そもそもロボットのはずの私が風邪なんて
 ひくはずないとすぐに気づきました。

 重い足取りで洗面台に向かい、
 顔を洗おうとして鏡を見ると
 頭からアンテナが生えてました。

 ……うわ〜、絶対流行らなさそう。

 じゃない。なんでこんな物が生えてるの?
 昨日までは普通……よりちょっと間抜けな頭だったのに。


 こういう体の変調(?)のことは黒服さんに聞くのが一番だと思い、
 彼の居るであろう居間へと向かいました。

 予想通り黒服さんは居間のTVで野球中継を見ていました。
 っていうか人の家に馴染みすぎです。

 「く、黒服さん。これ何?」

 「それ? アンテナ」

 それは誰でも分かります。

 「じゃなくて、なんでこんな物生えてるの?」

 「昨日の夜に取り付けた」

 勝手に人の部屋に入らないでください。
 そして人の頭にヘンな物つけないでください。

 「なんのためにですか……?」

 もう泣きそうです。

 「そりゃもちろんリモコンで動かすために……」

 リモコン!? なんでそんなもので動かされなきゃ……。

 ふと黒服さんの近くに、DVDのパッケージが見えて、
 そのDVDの題名が「鉄人28号」で。
 なんというか全てを理解して。

 多分、彼がマジンガーZにはまり出したら、
 私の腕が飛ぶようになります。

 


 

 6月7日 月曜日 「ココロの繋がり」


 白加奈ちゃん(やさしい加奈ちゃん)と二人で(他の人はサボり)
 化学準備室の掃除を喋りながらしていたら、
 好きな人の話題になりました。

 私は半ば強引に加奈ちゃんの好きな人を聞きだしてしまいました。

 あまりにも恥ずかしくなったのか加奈ちゃんは半泣きで、
 私に何度も誰にも言わないでねとお願いしてました。

 なんだか加奈ちゃんの秘密を無理やり聞いたことに罪悪感が芽生えたので、
 私の秘密も教えてあげることにしました。

 「加奈ちゃん。実は私、ロボットなんだ」

 頭のアンテナ見ればなんとなく分かりそうですが、
 どうやら誰も気づいていなかったらしいです。
 その証拠に加奈ちゃんはとても驚いてました。

 「二人だけの秘密ね」

 私がそう言うと加奈ちゃんは大きく頷きました。

 親友と秘密を分け合うと、なんだか心がドキドキします。
 とても大切な部分で、繋がったみたいに思えます。

 二人だけの大切な秘密です。

 

 

 6月8日 火曜日 「某俳優のマネでは無くて」


 今日学校に行ったら私がロボットだということが皆に知れ渡ってました。

 ……おのれ黒加奈ちゃん(嫌な方の加奈ちゃん)。
 昨日、いつの間に入れ替わってたんだ?

 


 私がロボットだと言うことがばれると、
 なんだかイジメがもっと酷いものになっていきました。

 具体的に言うと、三階の窓から投げ出されたり。

 ロボットだからってここまでやるいじめっ子たちは
 どうかしてると思いますが、
 地面に頭から着地(?)して生きている私もどうかしてます。


 痛みで起き上がることが出来ずに空を見上げていると、
 窓から身を乗り出し、地面に叩きつけられた私の見て
 笑っているいじめっ子たちの姿が見えます。

 その中に加奈ちゃんの姿を見つけながら、
 「イジメを苦にして投身自殺」ってのは私には無理そうだ。
 そう思いました。

 というかこの体。
 弱いくせに頑丈みたいです。
 めったなことでは死ねそうにありません。


 ……ある意味地獄です。

 

 

 6月9日 水曜日 「飛べ!! ウサギ」


 「俺は自由になりたいんだ。
  こんなウサギ小屋じゃなくて、広い大地を駆けたいんだよ」

 飼育小屋にいる黒いウサギが突然こんなことを口走りやがりました。

 というか喋るな。

 「ここから出ちゃうと仲間のウサギはいないよ?
  ウサギって寂しいと死んじゃうんでしょ?」

 私がそんな質問をすると黒いウサギは馬鹿にしたように言いました。

 「あんた、何にもわかって無いよ。
  人ってのはな、夢を掴むためには孤独になって、
  そしてその辛さを超えていかなければならないんだ。
  ぬるい馴れ合いの中では、思いっきり駆けていけないんだよ」

 お前、人じゃないだろ。
 なんて無粋なつっこみが出来ないほど、
 黒いウサギの言葉は決まってました。

 ウサギの言葉に感動した私は
 彼を小屋の外まで抱えていってあげました。

 「外には天敵がいっぱいいるかもしれないよ?
  敵だらけなんだよ?」

 私が最後の確認をするとウサギは

 「お前だって、敵だらけの中生きてるじゃないか」
 と一言。

 心の奥底を突かれた気がしました。

 「私には……加奈ちゃんがいるから」

 その言葉を聞くとウサギは少し呆れた表情をしながらも、
 優しい笑みをうかべました。

 「あんたは本当にお人よしだな……。まあ、いいや。
  そんなに心配してくれるなら、
  あんたが俺にとっての、その加奈ちゃんってのになってくれ。
  そうすれば、俺は敵だらけの世の中でも生きていける」

 かっこよすぎですウサギ。
 心なしか夕日を背負っているような気がします。

 私がウサギを地面に下ろしてあげると、
 彼は私を一度見て、駆けていきました。

 いってらっしゃい。
 自由の世界へ。

 

 

 


 そのあとウサギを逃がした事で先生にとても怒られました。
 どこからか持ち出した棒でお尻を叩かれました。
 あまりの痛さに失神しそうになりましたよ。


 ……おのれウサギ。

 

 

 

 6月10日 木曜日「自由な世界の残酷さ」


 放課後。
 昨日のウサギが野犬に喰われている所を目撃しました。

 私は何も考えず、ただがむしゃらに犬のほうに駆け出し、
 引っ掻かれたり、噛まれたりしながらもウサギを助け出しました。

 

 ウサギはすでに息はありませんでした。


 私は泣きながら彼のお墓を作り、
 埋葬して花を添えてあげました。

 道端に咲いている名も知らぬ花なのに、
 今だけはとても哀しく
 そして綺麗に見えました。

 


 自由な大地は、
 彼にとっては残酷すぎたのでしょうか?

 彼をこの世界に放ったのは、
 いけないことだったんでしょうか?

 

 私の質問にウサギは答えてくれません。
 だけど、私はお墓の前で呟くように
 ウサギに話しかけました。

 

 ……そうだ。
 もう一つウサギに聞きたかったことあったんだ。

 

 


 ねえウサギさん。

 

 私はあなたの加奈ちゃんになれましたか?

 


 


 6月11日 金曜日 「なんだか納得いかない日々」

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 ウサギが死んだことに少なからずショックを受けた私は、
 学校を休みました。

 なんだかとても憂鬱なんです。


 「はあ……」

 何度目になるか分からないため息。
 もしかしたら私はあのウサギを敬愛していたのかもしれません。

 見てくれは可愛かったけどかっこよかったし。

 

 「千夏。ちょっといいか?」

 家に居座り続けている黒服が話しかけてきます。
 返事する気力もないので無視。

 「君にプレゼントがあるんだ」

 横目でちらりと一瞥します。
 いや、別にプレゼントという言葉に惹かれたわけじゃなくて。
 だから違うって。

 「君がウサギの死に悲しんでいることをしっている。
  だから私たちの技術でウサギを甦らせたのだ」

 「ふ〜ん……って、ええ!?」

 甦らせた?
 ……剥製とかだったらぶっ殺します。


 「さあ、ウサギさん。
  こちらへ」

 黒服がドアの向こうへ話しかけます。
 ま、まさか本当に!?


 「千夏……心配かけたな」

 「ウサギさん!!」

 部屋に響く凛とした声。

 というか女性の声。

 

 ……女性?

 

 「あの……どちら様ですか?」

 目の前にいるウサ耳をつけた無駄にグラマーな女性に尋ねます。

 「なんだよ、もう俺のこと忘れちまったのか?」

 ……見た目は確かに女性なんですが、
 話し方がウサギです。

 っていうか黒服!! この野郎!!

 


 私の矢のような視線を受けて黒服が答えました。

 「空いている体がこれしか無かったものだから」 

 「だからってこんな身体……
  何も性的愛玩用に……」

 「いや、彼は戦闘用」

 「……」

 

 なんか、すごい不公平じゃありません?
 私もばったばったと悪人を倒せるようになりたいんですけど。

 

 とにかく変な同居人が増えました。


 ……なんだかなぁ。
 

 6月12日 土曜日 「緑色の湿った奴」


 今日は朝から大雨が降っていました。
 だからどこにも出かけられませんでした。

 でも十二時をまわる頃には朝の光景が嘘のように
 雲ひとつ無い青空が天に広がってました。


 やることなかったので外に出てみると、
 家の門に誰かが寄りかかってました。

 河童でした。

 


 ……カッパ?


 「もしかして……河童さんですか?」

 緑色で頭に皿が付いているその人(?)は
 どう見てもカッパなんですが、
 とりあえず聞いてみました。

 「ええ、そうですよ。河童ですよ」

 ビンゴです。
 妙に卑屈なのが気になりますけど。

 「人の家の前でなにやってるんですか?」

 河童なんて初めて見たので興味しんしんです。
 河童って普段何しているんでしょうか?

 「干からびてます」

 最悪です。
 何してるんですかホント。

 「朝に大雨降ってたでしょ? だからさ、調子乗って陸に上がっちゃったのよ。
  そしたら急に晴れるんだもんな。マジ勘弁して欲しいよ」

 人の家の前で干からびるのも勘弁して欲しいんですけど。

 「お家まで歩けないんですか?」

 「無理。絶対無理。ほらこの足見てよ。もうパサパサだもん」

 そんな足がパンパンみたいなノリで言われても。
 っていうか本当にパサパサしてるのが気持ち悪いです。

 このまま干からびてもらうと近所になんて言われるか分からないので、
 仕方なく水をあげる事にしました。

 

 「どうぞ。お水です」

 そう言って私は水の入ったコップを差し出しました。

 「お水、どうも」

 カッパは水を頭の皿にかけるわけでもなく、
 ただ飲み干しました。

 なんかとてもがっかりなんですけど。

 「そのお皿、水で湿らせなきゃ駄目じゃないんですか?」

 「水入れるとさあ、歩く時大変だから」

 河童にとって皿の中の水は、
 携帯電話の通話中にアンテナを伸ばすか伸ばさないかというぐらい
 どっちでもいいことみたいです。

 「それじゃ、皿いらないんですか……?」

 「これなかったら河童って分からないでしょ?」

 画家の人はベレー帽。
 っていうぐらいの認識なんでしょうか?

 「それじゃ帰るわ」

 河童は帰っていきました。
 自転車で。


 ……夢は夢のままが一番です。

 河童は御伽噺に出てくるだけで十分なのです。

 


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