12月19日 日曜日 「ペット」
「おか〜さ〜ん。ねえ、ペット飼ってもいいでしょう?」
「駄目よ。ペットを飼うっていうことが、どんなに手間がかかることかあなた知らないでしょう?」
……言っておくけど、ペットを飼いたいって言ってるのは私じゃないですからね?
私はいつも通り、雑誌を見ながらTV見てるんで、そんなわがまま言ってないです。
「おか〜さ〜ん、お願いぃ」
「もう、駄目だって言ってるでしょ。リーファちゃん」
っていうか血も繋がっていないくせに、私のお母さんをお母さんと呼ばないでください。
なんだかムカつくんで。
「だってすごい可愛いんだよ? 目がくりくりしてて、毛がフカフカで……」
っていうか居候の身のくせに、わがまま言うのが間違っているんですよ。
もうちょっと自分の身の丈というのをわきまえてですね……。
「足が六本もあるし、それにね……」
……ちょ、ちょっとリーファちゃん?
あなたは何を飼おうとしているんですか?
毛がフカフカで足が六本もある生物なんて、私の知識に存在しないんですけど。
「人の言葉も分かるんだから!!」
「あら、それはすごいわねぇ」
待ってよお母さん。そんな薄いリアクションは間違っていますよ。
「人を背中に乗せて空も飛べるんだから」
ファンタジーか。昼間から頭ん中がファンタジーなんですか、リーファちゃん?
「でも世話が大変でしょう?」
世話が大変というよりか、もっと大事な理由があるような気がしますが、
認めちゃ駄目ですよ。お母さん。
「絶対にみんなには迷惑かけないからぁ! お願いぃ!」
そんなこと誰でも言いますけどね、結局は世話しなくなっちゃうんですよ。
「そうね……リーファちゃんならきっと大丈夫ね。
いいわよ。その子を飼っても」
「やったぁ!!」
え……?
「お母さん!? なんか、リーファちゃんに甘くない!?」
「そんなこと無いわよ」
「なんだか、すごい寂しさを感じるんですけど!!」
「気のせいよ」
もし私がペットを飼うようにおねだりしたら、絶対に認めてくれなさそうなんですけど。
「じゃ、じゃあさ、私もペット飼っていい!?」
「駄目」
「即答!? 酷いよお母さん!!」
実の愛娘に対して、そういう態度は無いんじゃないでしょうか?
「だってあなたもうペットを飼ってるじゃない」
「そんな覚えないんですけど」
「ウサギさんとか……」
「ウサギさんはペットじゃありません!!」
何失礼なこと言っちゃってるんですか。
「雪女とか」
「アレがペットな訳ないでしょう!?」
「妾で囲ってる」
「囲ってないよ!!」
小学生で妾って……。
「女神とか」
「え……あの人ペット扱いだったんですか?」
すごい不憫な気がするんですけど……。
12月20日 月曜日 「電話相談室」
「はい、もしもし。こちらは子供電話相談室です。
あなたのお名前はなんですか?」
「千夏です……」
「そう、千夏ちゃんですか。
それじゃあ千夏ちゃん。今日相談したいことって何かな?」
「えっと、自宅に死体がある時の対処の仕方を教えて欲しいんですけど……」
「え……!? ち、千夏ちゃん?
どうしてそういう状況になったのかな?」
「……事故?」
「いや、私に聞かれても困るんだけど……」
「殺意のある事故です」
「それは事故じゃない!!
ま、まあいいわ……。それで、その死体さんは顔見知りな人?」
「死体にさんを付けるだなんて、素敵なセンスしてますね……」
「こっちもテンパってるんだよ!!
……そうじゃなくて、誰だか知ってる人?」
「妹です」
「家族殺し!?」
「義理の妹です」
「昼ドラ的抗争!?
……ち、千夏ちゃん? どうしてその妹ちゃんは……」
「妹にちゃんを付けるだなんて、素敵なセンス……」
「今は、そういうのどうでもいいでしょ!?
どうしてそういうことになったの!?」
「えっとですね……まずリーファちゃ、妹がですね、
ままごとをやろうと言いだしまして」
「それで? どうしたの?」
「ままごとをして……死にました」
「なんだか大切な部分が抜けてる!!
ままごとして死ぬなんて、どんな死因よ!?」
「面倒だったんで省きました」
「そこは省いちゃいけない所でしょ!?
死因は何なの!? 言いなさい!!」
「服毒死?」
「だから、私に聞かれても困るんだってば」
「ままごと中に妹がジュースを持って来まして、飲もうかと思ったんですけど、
妹のポケットに劇薬のコソコソの瓶が見えた物ですから……」
「何? コソコソって?」
「……ヒソヒソ?」
「ああ、ヒ素ね。
人の内緒話みたいな覚え方しないで」
「で、そのジュースにモソモソが入ってるんじゃないかと思いまして……」
「なんだか変な食感みたいになってる。モソモソ」
「こっそりと私と妹のジュースを取り替えまして。そしたらそれを飲んだ妹がパタリと……」
「そうだったの……千夏ちゃんは、被害者の立場だったのね……。
でも何で妹さんはあなたを暗殺しようと……」
「え〜っと……王位継承権のため?」
「そんな壮大な抗争がこの日本で!?
千夏ちゃんの家ってどうなってるの!?」
「あ、今ちょうど黒服が帰ってきたんで、修理してもらうことにしますね」
「え!? 修理って何の?」
「それじゃありがとうございました」
「あの、ちょっ……」
『ガチャ、ツーツーツー……』
「ほ、本日の子供電話相談室は、ここまでです。
電話をくれたよい子の……よい子?のみんな、また明日ね〜……」
12月21日 火曜日 「目薬」
「いったぁ!! 目にゴミが!!」
学校からの帰宅途中、冬の木枯らしのせいで目にゴミが入ってしまいました。
「ううっ……本当についてないよ」
あまりにも痛くて目をこすろうとすると……
「お嬢さん危ない!!」
と叫んだ見ず知らずの人に、まるでタックルのような抱擁を、
……っていうかタックルそのものを受けました。
「むぎゃ!!」
「危ないところだった……。
あのまま目をこすっていれば、もっと目を傷つけるところだったぞ」
多分、あなたにタックルを受けた方が、ダメージ大きかった気がするんですけど?
「お、おじさんは一体何なんですか?」
「目とマグロの味方、目薬マンだ!!」
何故にマグロですか?
「……そうですか。
それじゃ私、先を急ぐんで」
「説明しよう!!
目とマグロの味方、目薬マンとは……」
聞いてないのに説明し始めちゃいましたよ。このマグロの味方。
っていうか説明聞かなくても何となくあなたのこと分かるし……。
「早い話が、君の目を救いにきたのだ!!」
ああやっぱりね。
その要らぬお節介で、私に迷惑をかけにきたんですね?
「私の必殺技にかかれば目に入ったゴミなど、赤子の手をひねるような物よ」
必ず殺すと言っている技に、私の目は預けたくないんですが。
「それじゃあ早速失礼して……目薬パンチ!!」
「うわぁ!! 何するんですか!?」
何をトチ狂ったか、私に向かってパンチを放ってくる目薬マン。
その攻撃を紙一重で避け、思いっきり抗議します。
「目薬パンチというのは、自然に涙を分泌させる奇跡のパンチであって……」
「それって、ただ痛くて泣いちゃうだけでしょ!?」
何が奇跡ですか。
ただの身体の反応です。
「お気に召さないか?」
「お気に召しません」
「それなら目薬キックを……」
「その名だけでどんな技か、そしてどんな結末が私に待っているのか分かりました」
力ずく以外で私の目は救えないんですか?
「それじゃあ仕方ない。
目薬マン秘奥義『市販用目薬』を使うしか……」
「初めからそれを使ってください!!」
っていうかそれ以外の物を、目薬とは呼びません。
12月22日 水曜日 「世界遺産我が家」
「え〜、今日はみなさんに、大事なお話があります」
夕食中、持っていた箸を置きながら、お母さんがそんなことを言います。
みんなはまだ食事を続けてました。
「実は本日をもってわが家は、めでたく世界遺産に登録されました!!」
へぇ〜、それは確かにめでたいですねえ。
……え?
「え、え〜っと、私たちの家がデオキシリボ核酸に?
何でそういう展開に!?」
「デオキシリボ核酸じゃなくて世界遺産よ。
無理があるでしょ。その間違いは」
「すごいですねえ。
観光客とかいっぱい来ますかねえ?」
雪女が的外れなことを言ってます。
自分の家が観光客でいっぱいになったら心底嫌だと思うんですけど。
「経済効果とかもたらしてくれるのかな?」
リーファちゃん?
そういうことを論じるよりも、大切なことがあると思うんですよ?
「千夏ちゃん、お醤油取って」
マイペースすぎですよおばあちゃん。
「お母さん! ちゃんと一から説明してください!!」
「ええ、そうね。
世界遺産っていうのは、歴史的または文化的に貴重な建築物および自然物に……」
「違う!! そこからの説明じゃなくて、助さん角さんに何で登録されたのかってことを……!!」
「世界遺産よ。
何で私たちの家が老人のぶらり日本旅の付き人に登録されなきゃいけないの?」
世界遺産に登録されたことも充分おかしいと思うんですけど。
「この家が世界遺産に登録された理由、
それはわが家がすごく貴重なものだからです!!」
「組み立てにプラモデルのポリキャップが使われている家は、
貴重じゃなくて珍しいだけなんでは?」
「かの有名な建築家、死谷 冥府郎先生が設計したと言われるこの家は……」
やけに不吉な名前ですね。
死谷 冥府郎。
「住んだ者がすべて不幸になり、家系が途絶えるという言い伝えがあり、
それに伴う数々の歴史的な資料が……」
「お母さ〜ん。
なんだか今、ものすごく不吉なこと聞いちゃった気がするんですけど?」
家系が途絶えるって……。
「そんなこんなで世界遺産な訳です」
「全然意味が分かりませんよ!!」
理解出来たのは、
わが家が呪われた家だってことだけでした。
12月23日 木曜日 「妖精のいざない」
「千夏さま!! どうか、お力をお貸しください!!」
……私もそろそろヤバイのでしょうか?
目の前にちっちゃくて、羽の生えた小人……言ってしまえば妖精みたいな物が見えてるんですけど。
「千夏さま!! 聞いてるんですか!?」
「ええ、聞こえてますよ。私にとっては、聞こえてる事がヤバイんですよ」
「それは良かった。私の話を聞いてください」
私はカウンセラーの人に話を聞いて欲しくて仕方ないですよ?
「実は、私たち妖精の国では、どこから来たのか分からない闇の魔王が国を荒らしているのです」
闇の魔王って、腹痛が痛いみたいな言い方っぽいですよね?
「……聞いてます?」
「ハイ、シンケンニキイテマスヨ?」
「……まあいいです。とにかく、その闇の魔王を勇者千夏さまに退治して欲しいのです」
「はぁ!? 何を言ってるんですか!? なんで私がそんな事!?」
「え……? だって千夏さまは、魔王を倒したことがおありなんでしょう?」
「確かに魔王と呼べるような変態たちと何度か戦った事はありますけど、
私自身の力で何とかしたことなんて一度もありませんよ」
……今振り返ってみると、結構すごい事経験してますね。私。
「まあいいじゃないですか。新たな歴史の1ページを刻むと思って……」
「そんな自己顕示欲のために命かけるような人間じゃないんで、お断りします」
「あれですよ。魔王って言っても、そんなに怖い人じゃないんで」
「いや、今さらそういうフォローされても」
そんな魔王に好き勝手やられているあなた達の国は何なんですか?
「趣味もスノーボードですし」
「なんだかお見合いみたいになってる」
「だから倒しに行きましょうよ」
「未だかつて経験したことのない斬新な魔王討伐への誘導の仕方ですね」
運命だとかそういうのを匂わせて罠に誘うものだとばかり思っていましたよ。
「今なら妖精の国までの旅費も安いですし……」
「自腹だったんですか!?」
普通そっち持ちに決まってるでしょ!?
「ますます行く気なくしたんですけど」
「ホテルもいい所ですよ?」
「今度は旅行の宣伝になってる」
「ヨン様にも会えますし」
「どんなツアーなんですか!?」
っていうか、妖精の国って韓国にあるの?
12月24日 金曜日 「クリスマスパーティー」
「メリークリスマスイブ!!」
学校から帰ってきたら、お母さんがそんな風にはしゃいでました。
「ああ、そういえば今日はクリスマスイブでしたね」
「もう千夏ったら、お祭り好きな日本人としては外せない日でしょ?
今日と明日は」
私にとっては今日ははようやく二学期が終わった日なんですけどね。
「それでね、今日はパーティーをやることになったのよ」
「へぇ〜、そうなんですか」
「だから、千夏も飾り付けとか手伝って欲しいの」
「いいですよ。
こういう手伝いなら喜んでやりますとも」
なんだかんだ言って、やっぱりクリスマスは楽しみな行事ですからね。
「さあ始まりました。
第500回目、クリスマスパーティー!!」
「もうお母さんったら。第500目ってことは500年前からやってるってことじゃないですか」
「あらやだわ私ったら。てへ」
妙なテンションでごめんなさい。
少しお酒が入ってやがるみたいです。
居間の飾り付けも無事終わり、料理も出来上がったので、
お母さんの妙ちくりんなボケでパーティーが始まっちゃいました。
ウサギさんもリーファちゃんも黒服も雪女もおばあちゃんも。みんな仲良く料理を囲っています。
「メリークリスマス!! メリークリスマス!!」
うるさいぞお母さん。
それに今日はまだイブですし。
「確かにクリスマスっぽいけど……何か足りなくないか?」
ウサギがそう言います。
確かに、なんだか物足りない気がしますね。
「クリスマスツリーじゃないですか?
やっぱりあれが無いと、クリスマスって感じがしませんし」
お手製のアイスケーキを持ってきた雪女が発言します。
また冷たい料理かよ!! とつっこむ所ですが、ケーキなんで許します。
「あ、本当だ。
どうしましょうか? クリスマスツリー……」
「ふふふふ、クリスマスツリーぐらい準備してあるわよ。
じゃ〜ん!! ごらんください!!」
お母さんが大声を上げ、今まで閉めてあった土窓のカーテンを開け放ちます。
そこにはきらびやかな装飾を施された立派な大木が。
これは間違いなくクリスマスツリーですね。
「おお!! すごいじゃないですかお母さん!!」
「ふふん、まあね」
「本当にすごいクリスマスツリー……っていうか、家の庭にこんな大きな木ってあったっけ?」
私たちの家には不釣り合いすぎる大きさなんですけど。
「ほら、千夏が育てていた木があったじゃない?
それがね、クリスマスになったら急に成長しちゃって」
成長っていうレベルじゃないですよこれは。
私の背丈よりちっちゃかった木が、一晩で成木になっちゃいますか?
「まさにクリスマスの奇跡ね……」
「不思議ですね。
その言葉を使えば、気味の悪さが消えて無くなった気がします」
3時間後。
思いっきりパーティーを楽しんだ私たち。
料理も無くなってきたので、そろそろお開きです。
「さあ!! 明日の朝、靴下の中にサンタからのクリスマスプレゼントが入っていることを祈って、
今日はもう寝ましょう!!」
未だにサンタからのプレゼントって言い張っているお母さん。
一応私の夢を壊さないようにしてくれているのでしょうか?
「いや〜、楽しみね。
今年はどんなプレゼントをもらえるのかしら?」
……え!?
「お、お母さん!?
もしかして、まだサンタからプレゼントもらっているの!?」
「ええ、そうよ。
毎年来てくれるの」
「そ、そうなんだ……」
お母さんの瞳は透き通っていて、真剣な眼差しで私をみていて。
誰が見ても、マジだと分かります。
その歳になって、まだサンタを信じているんですか?
……っていうか、それじゃあサンタの正体は?
「千夏ちゃん」
「お、おばあちゃん……」
「一生嘘を吐き続ける覚悟が無ければ、
真実を偽る資格は無いのよ」
おばあちゃん。
あんたですか、サンタの正体は。
12月25日 土曜日 「クリスマス」
昨日のクリスマスパーティーから一夜明け、12月25日の朝。
つまり、今日がクリスマスであり、そして冬休み最初の日だったりします。
かなり嬉しい日です。
「ん〜……相変わらず寒い朝ですけど、今日だけは心地よいで……すね?」
思わず言葉が途切れ途切れになってしまったのは、
私の枕元に、やけに大きな包みを発見したからです。
サンタやらトナカイやら雪だるまやらをあしらった模様のその包み紙は、
ただそれだけで中身がクリスマスプレゼントであることを示しています。
「お母さん!! これ、何!?」
ドタドタと慌ただしい音を発しながらキッチンに飛び込んだ私。
そんな私をお母さんはすがすがしい笑顔で迎えます。
「おはよう千夏。
あら、あなたもクリスマスプレゼントをもらったのね?」
「ク、クリスマスプレゼント!? そ、そんなわけないです!!
リーファちゃんが仕掛けた爆弾か、お母さんの嫌がらせの何かに違いありません!!」
「すさまじい人間不信ぶりね。
あ、こういう場合はサンタクロース不信か」
これもみなあなた達のせいですよ。
「も、もしかして……本物のクリスマスプレゼント?」
「ええ、そうよ」
「お母さん……」
感動です。
てっきり今年はそんな物もらえないと思ってましたから。
いい子にした覚えありませんでしたし……。
「お母さん……ありがとう。
来年は、きっといい子でいるから……」
「まったくもう。
お礼ならサンタクロースに言いなさい」
「え? でもこれはお母さんが……」
「なんで、私が千夏にプレゼントしなくちゃいけないのよ?」
すげえ傷つく言葉だな。
「ということは……まさか本物のサンタクロースが!?」
今まで毎年決まった日時に人んちに不法侵入する、
赤い老人の存在なんて信じていませんでした。
でももしかして本当は……。
本物のサンタクロースからもらったかもしれないプレゼントの包み紙を、ゆっくり開けます。
やっぱりこういう時間はワクワクします。
そして中から現れたのは……
メイド服。3着セット。
「おかーん!!!!」
「え? ええ!?」
危うく騙される所だったじゃないですか。