1月2日 日曜日 「おせちの食べ方」

 「……」

 「あれ? どうしたんですか千夏さん? どこか調子悪くしました?」

 「雪女さん……」

 「はい、『常温でプラズマ化、燃え盛れマイハート』がキャッチコピーの若妻です」

 「いや、そんなのどうでもいいんですけど……っていうか、キャッチコピーが前よりパワーアップしてる感じですね?」

 「で、どうかしました?」

 「いや……なんか、おせち飽きちゃったなぁって」

 「早いですよ千夏さん!! まだ二日目ですよ?」

 「やっぱりおせちってカレーみたく、日にちが経っても美味しくならないんですよね……」

 「我慢して食べてくださいよぉ。私、すごく頑張って作ったんですからね?」

 「……餅も食べ飽きたし、もうお正月料理は嫌だよぉ」

 「千夏さんはお正月初心者ですねぇ」

 「一応10回ほどお正月を経験してきましたけど」

 「こういう料理は、工夫して食べることによって、新鮮味を与えるんですよ」

 「工夫して食べるって……例えば?」

 「餅を踊りながら食べます」

 「え!? 味付けとかを変えるとか、そういう意味じゃないんですか!?」

 「さあ千夏さん!! どうぞ餅を踊り食いしてください!!」

 「踊り食いってそういう意味じゃないと思うんですけど……。
  それに踊りながら食べたら、確実に喉に詰まらせますよ」

 「あとおせちはですね……」

 「お正月早々わが道を行ってますね。もう少し、私の方を振り向いて欲しいんですけど」

 「黒豆を、白豆にしてみるとか」

 「それってすでに別の食べ物じゃないですか!!」

 「数の子を、一粒一粒バラバラにしてみるとか」

 「食べてない!! それって食べ方じゃない!!」

 「バームクーヘンを……」

 「おせちの中にバームクーヘンは無い!!」


 

 1月3日 月曜日 「空き巣」

 「……こんにちわ」

 「こんにちわ」

 「おじさん。人んちの前で、何してるんですか?」

 「気にしないでください」

 「気にしますよ。めっさ気にします」

 「少しだけ、あなたの家を見ていただけなんです」

 「……なんでですか?」

 「世界遺産だから」

 「ああ、そういえばそうでしたね……」

 「あと、あなたの家が留守になるのを待ってるだけです」

 「うわぁ!! なんとも不審なことを聞いてしまいましたよ!!」

 「冬休みなんだし、どこかへ出かけたらどうですか?」

 「誘導してる!! なんだか私、誘導されてる!!」

 「近くに遊園地もあることですし」

 「っていうかおじさん、空き巣でしょ?」

 「何を失礼な!! 窃盗犯です」

 「言い方変えてもどうしようもないですよ!! むしろ身を落としてますし!!」

 「でもあれです。このまま強盗になってしまうかもしれません」

 「強盗は大罪ですよ? 割に合わなさすぎだと思うんですけど」

 「そう言われても……家族を養うためには仕方ないじゃないですか!!」

 「……ちなみに今の月給はいくらなんですか?」

 「3万円ほどです」

 「普通にバイトすれば?」

 「さて、今からあの家に乗り込もうと思うのですが、人質として来てくれないでしょうか?」

 「すごい。こんな紳士的な人質勧誘がこの世界にあっただなんて」

 「さあ、一緒に来てください」

 「そんな包丁じゃあ、うちに突入するのはやめといたほうがいいと思うんですけど。
  せめてクラスター爆弾でも抱えなくちゃ」

 「要塞ですか? あなたの家は」

 「意味合い的には同じようなものです」

 「さあ、レッツゴー!!」

 「……まあ頑張ってくださいよ」

 

 


 「……あれ、なんですか?」

 「ウサギさんとおばあちゃんです」

 「君たちの家のウサギと祖母は素手で衝撃波を出せるようなものなのかね?」

 「だからクラスター爆弾を持ってけっていったのに」


 

 1月4日 火曜日 「カルタ大会」


 「さて、今から我が家伝統の行事、第4回『カルタ大会』を始めます」

 「お母さん!! 質問があります!!」

 「質問を認めません。さて、それではルール説明ですが……」

 「ちょっと!! なんでですか!?」

 「だって千夏ったら、どうせ『第4回って言ったって、一度もやったことなじゃないですか!!』とか、
  『しかも第4回って微妙に本当っぽい嘘つかないでくださいよ!!』とか、
  『そもそも今さら思い出したように正月行事をやらなくてもいいでしょ!!』とかいうに決まってるんだもの」

 「うぐっ……」

 かなり図星でした。
 っていうか言われるの分かってるなら止めてくださいよ。


 「こういう雰囲気の読めない人は嫌よね。黙ってなさいっての」

 「うわっ、すごい酷いこと言われてるよ私」

 ただ突っ込もうとしただけですのに。


 「さて、ルールの説明をします。
  私が今から読み上げる文にあったカルタを、取り合うゲームです。
  個人戦で、一番多くカルタを取った人の勝ち。
  優勝者には豪華な賞品が贈られます」

 「豪華優勝賞品って何ですか? まだ残っている餅とか?」

 「そんなみみっちいものな訳ないでしょ」

 私はそんなみみっちいものを1日20個は食べてるんですけど……。


 「豪華クルージングの旅、ペア旅行券がもらえます」

 「ちょっと!! 凄すぎじゃないですか!! その予算は一体どこから出てるんですか!?」

 そんなにお金があるなら、私のお年玉がアレだったのは何でですか?


 「機密費から捻出いたしました」

 「知らなかった。ウチに機密費があったなんて知らなかった」

 「ちなみに、おばあちゃんは船が苦手らしいので、
  おばあちゃんのみオーストラリア直行飛行機の片道切符に変更されます」

 それってただ追い返したいだけじゃないんですかね?


 「さあ、皆さん頑張っていきましょう!! 特におばあちゃん!! 本当に頑張って!!」

 「ええ春歌ちゃん。私頑張っちゃう」

 騙されてますよおばあちゃん。
 これはおばあちゃんの追放計画なんですよ。

 


 「それではまず一枚目を読みます……」

 ペア旅行券をもらって、ウサギさんとクルージング旅行したいので、本気でいかせてもらいます。

 「犬もあるけば〜……」

 おお、またなんとありきたりな。
 えっと、犬の絵。犬の絵……。

 「デビルマンも飛ぶ」

 「なんですかその文は!?」

 「みっけ!!」

 私が突っ込んでいる間にリーファちゃんが犬と共に大空を飛んでいるデビルマンが描かれたカルタを取ってました。
 斬新だ。すごい斬新さだ。

 「どうしたの千夏? クルージング旅行が欲しいなら真面目にやりなさい」

 「いやね、あまりにもニュージェネレーションすぎるカルタに、
  パニックになってしまいまして」

 「まったく……それじゃあ二枚目行くわよ?」

 落ち着かないと……所詮ただのカルタなんです。
 頭文字と同じ絵札を取ればいいだけなんですから……。

 「笑う角に〜……」

 わ。わ。わ。
 わを探せば……。

 「健康ランドが出来たってさ」

 「どんな会話ですかそれは!!」

 「見つけました!!」

 と、突っ込んでしまった間に雪女に取られてしまいました。


 「しっかりしなさいよ千夏」

 「ど、どうしても突っ込んでしまうんですよ……」

 明らかに、私に不利なゲームでした。


 ちなみに、優勝したのは今まで一言も発していなかった女神さんでした。
 なんていうか、クルージングの旅に出てしまうと、ますます出番がなくなってしまう気がします。

 

 

 1月5日 水曜日 「三学期初日」


 ついに今日から3学期です。
 またしこたまイジメられることになるかと思うと、絶望のあまり目眩がします。

 「はぁ……憂鬱。
  でもまあ1月2月3月は、『行く・逃げる・去る』ように早いって言いますし、
  少しの辛抱ですよね」

 なんて自分を励ましながら通学路を歩き続けること5分。
 目の前に大きな荷物を持って歩いている年寄りを発見いたしました。


 「おじいちゃん。その荷物持ってあげましょうか?」

 「おや、小さいのに偉い子だねぇ……」

 いや、単に学校からの逃避の理由を作り出しただけなんですけどね。


 「それじゃあ手伝ってもらおうかね……」

 「やけに重たそうな荷物ですね。
  いったい何が入ってるんですか?」

 「息子たちからのさっさと老人ホームいけよっていう無言の圧力」

 「そりゃ重いやぁ」

 悲しい世の中になりましたね。

 

 「君のおじいちゃんやおばあちゃんは、家族と仲良く暮らしているかい?」

 「言い争うことはありますが、仲はいいと思いますよ。
  ただ1人だけ追い出そうとやっきになってる人が居ますけど」

 「羨ましいねえ……。
  君の家に比べて私たちの家族は……」

 うわ、年寄りのネガティブオーラは若い人のそれに比べて酷く重い気がします。
 年とってからも悩まれると、すごく困るんですけど。

 

 「お、おじいちゃん!! ウチなんか全然ダメですよ!!
  月に1回は何かが爆発してるような家ですし!!」

 あまりやりたくないことですが、自分を不幸に見せて相手を励ます作戦を実行しました。

 「賑やかそうでいいねぇ。ウチなんて月に一度ぐらいしか会話が無いし……」

 爆破事故を賑やかと言えるポジティブさを、もうちょっと自分に向けてあげて欲しいです。


 「おばあちゃんなんて家に訪ねてくる人全員に戦いを挑んでるような人で、
  近所では『蘇った弁慶』って呼ばれてるんですよ?
  それに比べておじいちゃんのまともさは神ですよ!!」

 「私なんて近所では『冷やせない冷蔵庫』って呼ばれてるよ……」

 粗大ゴミってことですか。
 かなり酷いこと言われてますね。上手いですけど。


 「女神って人も居るんですけどね、その人は……えっと、うんと……何も話すことが無いほど存在感が薄い人なんですよ!!」

 「居ても居なくてもいい人か……。
  私は居ない方が絶対的にいいって言われてるよ」

 「……え、えっと、私の知り合いに、無理矢理性的愛玩用ロボットに改造された人がいて」

 何が悲しくて自分の事をまるで他人事のように話さないといけないの知りませんが、
 今まで私が経験してきたことをおじいちゃんに話しました。

 


 「わっはっはっは。そりゃ可哀想に」

 「……」

 「イナゴって、そりゃいくらなんでも。漁師じゃあるまいし」

 元気になってくれたのはいいんですけど、なんだか今度は私が落ち込んできましたよ。

 「まるでそれはユーラシア大陸のようだなぁ」

 「さっきから笑いすぎですよこのジジイ!! それに、イナゴとか漁師とか話した覚えない!!」

 

 1月6日 木曜日 「突発的衝動」


 「ラーメンが」

 「……はい? どうかしました千夏さん?」

 「ラーメンが食べたいです」

 「……そう、ですか」

 「ラーメンが食べたいんです。それはもう突発的に。
  恐ろしいぐらい麺を欲しています」

 「それで……私にどうしろと?」

 「雪女さん……ラーメン作れる?」

 「作ろうと思えば作れますけど……冷たいですよ?」

 「ウサギさ〜ん」

 「ああっ!? 見捨てられた!?」

 

 「というわけでウサギさん。ラーメンが食べたくなったんです」

 「俺に言われてもすんごく困る」

 「ほら、ウサギさんって料理とかやってるでしょ?
  だから、ラーメンも作れるんじゃないかなぁって」

 「無理。全然作れません」

 「ショートケーキ作る要領でポンポンと作って……」

 「どう流用すればいいんだ。お菓子作りの技術を」

 「……やっぱ無理?」

 「うん」

 「……使えねぇ」

 「千夏!? っていうかホントに千夏!?」

 「おかーさーん」

 「見限られた!? 見限られたのか俺!?」

 


 「お母さん」

 「うなぎ」

 「……へっ!?」

 「うなぎが食べたいです」

 「……はぁ」

 「めっさ、ものごっつ、でーじ食べたいです」

 「それで私にどうしろと?」

 「さあ千夏、獲ってきなさい!!」

 「無理ですよ!! っていうか、ラーメン食べたいです!!」

 「訳わかんないわよ!! うな重食べたいの!!」

 「そっちこそ訳がわかんないんですよ!! とんこつでお願いします!!」

 「正月早々ボケないで欲しいわね!! 山椒抜きで!!」


 「春歌ちゃん、千夏ちゃん……あなた達本当に親子ね」

 「「ええっ!?」」


 

 1月7日 金曜日 「師匠VSおばあちゃん」


 学校から帰ってきてみると、家に珍客が来てました。


 「よう千夏。久しぶりだな」

 「ああ、ロリコン師匠。
  お久しぶりです」

 「実は今日はお前に新しい奥義を伝授しに……」

 とうとう『ロリコン師匠』と呼ばれてもつっこまなくなりましたね。
 諦めたのか、それとも受け入れたのか。


 「また新しい奥義ですか。
  どうせ使えないものでしょ?」

 「いやいや、今度の奥義はすごいぞ。
  全ての商店が免税店に……」

 その奥義発動の理論が分かりません。


 「ただいま〜」

 「あ、おばあちゃん」

 どこかに出かけていたらしいおばあちゃんが、帰ってきたようです。


 「あら、お客さんなの?」

 「客は客でも招かねざる客です」

 「その言い方は酷いだろ」

 だって本当のことですし。

 

 「はじめまして。
  千夏の祖母です」

 「千夏の師匠です。
  おばあさん、お若いですね」

 「師匠さんったらお上手なんだから」

 二人とも、互いを認めるのが早すぎです。
 少しは相手の存在に疑問を持ってください。
 孫に武術の師匠がいることって、そんなに普通のことですか?

 

 「実は私、少しばかり武術の心得がありますの」

 「おお、それは本当ですか?
  ならば是非一度お手合わせをしたいものですな」

 おばあちゃんの悪い癖、『とりあえず強そうな人とは手合わせ』が出ましたね。
 その無駄に有り余ってる闘争心は、何か別のものに転用してくださいよ。

 

 「それじゃね千夏。
  私たち、近所の空き地で戦ってくるから」

 「私も見に行きたいです」

 「さすが我が弟子!! 私たちの戦いを見て、勉強する気なんだな?」

 いや、ただ師匠の最期を見たいだけなんですけど。

 


 さて、ウサギさんとおばあちゃんの人外な戦いを何度か見てるため、
 もう私はちょっとやそっとのことでは驚きません。
 例えば、師匠とおばあちゃんが不思議なオーラを身にまとって、
 空中戦を繰り広げても、別に何とも思わないのです。
 そう、何とも……


 んなバカなぁ。

 

 「ちょっと二人とも!!」

 「どうしたんだ千夏?」

 「どうしたんだじゃないでしょ!!
  なに物理法則無視して空中浮遊なんかしちゃてるんですか!!」

 「これは空舞破天流の基礎の技で……」

 「そんなすごく便利な技、教えてもらってませんよ!?」

 「お前が基礎なんていいから、
  奥義をさっさと教えろって言ったからじゃないか」

 う……確かに。

 

 「しかし、何故この技をおばあさん、あなたが……」

 「空舞破天流か……懐かしいわね。
  ずっと昔に、流派の継承者をやっていたような、いなかったような」

 どっちだよ。

 「っていうか、え!? おばあちゃんは師匠より前の継承者だったんですか!?」

 謎の経歴が、また一つ増えましたね。


 「なるほど……先代だったとは。
  ならば、手加減はいりませんな!!」

 師匠が本気を出したみたいです。
 よほど、昔の継承者と戦ってみたかったのでしょう。

 「空舞破天流奥義……BREAK・break・DETHぐはぁっ!!」

 ああ師匠。
 いつぞやの魔王にやられた時のように、技名を言ってる間にやられてしまいました。
 少しは勉強してくださいよ。


 「ちょ、ちょっとおばあちゃん。
  卑怯ですよ?」

 「勝負に卑怯も何もないわよ。
  武器を使おうが核兵器を使おうが、勝てばそれでいいのよ」

 さすがに核兵器を使われるといろいろ困るんですけど。


 「ち、千夏……空舞破天流奥義『究救招来』で救急車を……」

 「そんな訳の分からない奥義なんて覚えた記憶が無いので、携帯電話で呼ばせてもらいますね」

 

 

 1月8日 土曜日 「連続更新企画」



コレをやってましたよ。




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