1月23日 日曜日 「悪の秘密結社、ナンバー2現る」

 「あれ……? いまさら年賀状が届いますよ」

 ポストに入っていた手紙には、でかでかと謹賀新年の文字が。
 まったく、どこのどいつですか?
 いまだに正月気分なバカは。

 

 「今年もよろしくお願いします。悪の秘密結社より。
  けっこう普通な年賀状ですね……って!?」

 悪の秘密結社!?
 そういえばいましたね。そういう奴ら。
 今年もまたウサギさんを付け狙うつもりなんでしょうか?


 「ふはははは!!
  私の名前はドラゴン副会長だ!!
  ウサギ! 今日こそお前の息の根を止めてやるぞ!!」

 うわぁ、さっそく来ちゃったよ。


 「あ、千夏さん。
  明けましておめでとうございます」

 「あ、明けましておめでとうございます……」

 さすが副会長。
 妙に礼儀がいい。

 「ウサギさんはご在宅でしょうか?」

 「えっと……確かさっき、ジョギングにしてくるって出かけていきましたけど」

 「それじゃあ待たせてもらってもよろしいでしょうか?」

 「はいどうぞ……って、あ!」

 ついつい丁寧な口調に乗せられて了承してしまいましたよ。
 招かれざる客なのに。

 


 「あら千夏ちゃん。
  その人、お友達?」

 「残念なことに、私にはドラゴンな友人はいませんよ」

 家の中に怪人を連れて入ると、おばあちゃんが迎えてくれました。
 っていうか驚きもしないんですね。
 さすがおばあちゃん。肝が座りすぎです。


 「ドラゴンさん、なんだかとってもお強そうねぇ」

 「はい。一応これでも秘密結社のナンバー2ですので。
  腕には多少自信があります」

 礼儀が正しすぎて気味が悪いんですけど……。


 「あら、それじゃあ一度手合わせしてみたいわ」

 「おばあちゃん……またそんなこと言って」

 「ええいいですよ。ぜひやりましょう」

 「やって勝手に死ぬのは構いませんが、人に迷惑かけないようにしてくださいね」

 「うわっ、なんだか冷たいわ千夏ちゃん」

 仕方ないじゃないですか。
 おばあちゃんが戦うと、いろんな被害が出るんですから。
 人的被害とか。人的被害とか。後は人的被害とか。

 

 「じゃあウチの庭でやりましょうか?」

 「ええ、いいですね。丁度身体を動かしたいと思っていましたし」

 また私んちの庭先で、流血事件が起こるわけですか……。
 やけに血生臭い庭になったもんですね。

 

 

 さて、おばあちゃんとドラゴン副会長が戦い始めてから30分後。
 おばあちゃんのパワーバランス崩壊パンチですぐに決着がつくかと思ったのですが、
 以外にも怪人が普通に強かったらしく……いや、普通は怪人なんだから強いはずなんですけどね。
 とにかく、なんだか互角に戦ってます。
 先にウサギさんと闘っていたら、結構やばかったのかもしれません。


 「さすがドラゴンさん。強いわね……」

 「お、おばあちゃん、大丈夫なんですか?」

 「千夏ちゃん……もし、私がやられたら春歌ちゃんに……」

 「おばあちゃん!! そんな弱気にならないでよ!!」

 「春歌ちゃんに、今日の9時からのドラマを録画しておいてって伝えてね?」

 「余裕あった!? ボケちゃう余裕あるんだ!?」


 「くっ……おばあさん、あなたはなんてパワーをしてるんだ」

 「これもみな、養命酒のおかげです」

 養命酒にそんな秘薬的な効果は無いと思います。


 「あなたのその身体……機械の身体ですね?」

 「厳密には違うけど、まあ似たような物よ」

 ええ!? おばあちゃんもロボットだったんですか!?
 道理で若い姿だと思いましたけど……隔世遺伝みたいで嫌ですね。
 祖母と孫が揃って機械の身体って。

 

 「しかしいくら機械の身体でもここまで強い力を出せるはずは……そうか、そういうことか!!
  まさかあなたはっ……!?」

 「口止めキック」

 「びでぶふぁっ!?」

 「あー!? ドラゴンさんがそれはもう可哀想なぐらい口止めされちゃったー!?」

 ビルの屋上から生卵を落とした様を思い浮かべてください。
 その卵が、今のドラゴンさんです。


 っていうか結構余裕だったんですね、おばあちゃん。

 

 

 1月24日 月曜日 「秘密結社からの挑戦」


 ピンポーン。

 突然わが家に鳴り響く呼び鈴。
 まあ突然じゃなかったら、どう鳴るんだって話ですけど。
 とにかく、誰かが訪ねてきました。

 

 「千夏、お客様よ。
  お出迎えしなさい」

 「嫌です。お母さんが行きなさいよ」

 「私だって嫌よ。
  何が悲しくて、コタツから出て玄関まで歩かなくちゃいけないの」

 「客が来てるからに決まってるでしょうに」

 ピンポーンピンポーン!!

 「あ、連打しやがった」

 「早く来なさいってことでしょうね」

 「じゃあお母さん……」

 「嫌よ」

 「即答ですか……」

 ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン!!!!

 「おおぅ、すごく怒ってますね」

 「そりゃそうよね。
  今日、ものすごく外寒いし」

 「行ってあげれば?」

 「え〜? そんな面倒なこと……」

 ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン!!!!!!

 「あ〜……本当にキレてきましたね」

 「勝手にドア開けて入ってこればいいのに」

 それは便利かもしれませんが、嫌でしょ。


 「もう!! 千夏さんにお義母さん!!
  何でほうっておいてるんですか!?」

 「あ、ちょうどいい所に雪女ちゃん」

 「その寒冷用脂肪を駆使して、お客様をお迎えしてあげてください」

 「二人とも、人を何だと思ってるんですか……」

 わが家で唯一冬でも何の問題も無しに動ける人物だと思ってます。

 

 ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン!!!!!!!!

 「はいはい、今開けますから待っててください」

 雪女がいそいそと玄関に向かっていきました。
 頑張れ雪女。セールスか何かだったら、思う存分ドアで挟んでやりなさい。


 「どちらさまですか?」

 「いつもお世話になっております、悪の秘密結社ですが……」

 「あっ、これはこれは……」

 セールスよりもたちが悪いのが来ちゃいましたよ。
 雪女さん、そのまま無視して追い出してください。


 「本日は、ナンバー2であるドラゴン副会長が倒されたので、
  こりゃあマジでやばいんでないかい?
  と秘密結社内で論争が起こり、あなた達一家のことを我らの本当の敵だと認知したことを
  伝えにまいりました」

 今まで本当の敵だと思って無かったんですか。
 道理で微妙な怪人ばかり来るはずですね。


 「そんなこと私に伝えられても困るんですけど……?」

 「それでですね、あなた達一家を抹殺するために、
  東京ドームでデスマッチな試合を開催したいのですが、
  ご予定などございますでしょうか?」

 望まないデスマッチのためにスケジュールを開けておくバカがどこにいますか?

 「空いてますよ。
  思いっきり」

 ここにいたー!?


 「ちょっと雪女さん!!」

 雪女の暴走を止めるために、コタツから出て玄関に向かう私。
 やっぱり妖怪なんかに客の相手なんかさせるんじゃなかった。


 「あっ、千夏さん。
  聞きました? 天下一武闘会が開かれるんですって」

 「アホですかあなた!?
  そんな少年マンガのお約束展開は、私の人生には必要ないんですよ!!」

 「それでは、明日に迎えに来ますので」

 「あっ、ちょっと待っ……」

 「まあいいんじゃない?
  おばあちゃんもウサギさんもいるんだから」

 コタツのある方から聞こえてくるお母さんの脳天気な声。


 本当に、大丈夫なの……?

 

 

 1月25日 火曜日 「悪の組織とガチンコ喧嘩 一日目」


 『さあ皆さんこんばんわ!!
  今夜、ついに決戦の火蓋が落とされる東京ドームより、この放送をお送りいたしております!!』

 「……どちらさん?」

 『おおっ!! 人類側の代表、千夏さんですね?
  今日の戦いにかける意気込みを、どうぞ!!』

 「え? 私たちって人類代表だったんですか!?
  いつの間にそんな大層な肩書きを背負わされて……」

 『千夏さんはかなりリラックスされているようです。
  では、今度は千夏さんのお母さんである春歌さんにお話を……』


 えっと、今の状況を説明いたしますと、私たち家族は東京ドームにいます。
 何故かって言うと、悪の秘密結社とガチンコで戦うためだそうです。
 なんでわざわざこんな大掛かりなことしなければならないのかと愚痴りたくなりますが、
 秘密結社と名乗っている癖に妙に目立つのが好きなあいつらの事。
 大した意味などないのでしょう。

 

 「なんだかすごいことになってますね、ウサギさん……」

 「そうだな……観客席とか、満員だもんな」

 「こんなに私たちと悪の秘密結社の戦いに興味がある人が居ただなんて……」

 「いや、あれは皆悪の秘密結社側の知り合いとか親戚らしいぞ?」

 身内ですか。
 チケットとか、売りさばけなかったんですね。


 「ふはははは!!」

 突然スモークと共に現れたのは、黒いローブでその姿を隠している謎の人物。
 怪しいことこの上なし。

 『おーっと!! なんと人類の敵、悪の首領自らが現れました!!』

 アナウンサー(?)が言うには、彼が元凶みたいです。
 
 「よくぞ来たなっ、千夏一家!!」

 「私をこんな珍奇集団の代表者にしないでくださいよ」

 「それではまず、この『地球争奪大武大会』の説明を行おう!!」

 悪の首領のくせにやけに進行を大事にしてる奴ですね。


 「これから私たち、悪の秘密結社の四天王および首領である私と闘ってもらう!!
  なんでもありのデスマッチでな!!
  基本的に1対1で、それぞれの側から代表者を出して闘いあい、先に3勝した方が勝ちだ!!」

 「同じ人が何度も試合に出てもいいんですか?」

 「それは駄目。1人につき1試合のみが許されている」

 ちぇっ。おばあちゃんに5回闘ってもらって、さっさとこの大会を終わらせてもらおうと思ったのに。

 「あと、選手の体調維持やトレーニングのため、1日1試合として5日間この大会は行われます」

 5日間もこの大会に構わなきゃいけないというのは嫌ですが、
 まあ1日の日記に出来事全てを書き記さなくて良いってのは楽でいいですね。

 ……なにか、神の意思を感じます。


 「それでは第一回戦を行います!! それぞれの代表者をリングへ!!」

 いつの間にかドームの真ん中に、格闘技の大会でありそうなリングが設置されていました。
 そこにいくつものスポットライトが当てられて、光輝いています。

 

 「……怖いわ」

 「お母さん……」

 お母さんがガタガタ震えて呟きます。
 そりゃあそうです。だって死ぬかもしれない闘いなんだから。
 怖いに決まってますよ。

 「私、千夏、おばあちゃん、ウサギさん、黒服さん、リーファちゃん、雪女ちゃん、そして女神さん。
  8人ってことは……3人の出番が無いわ。
  つまり、これから5日間はその3人は背景の一部と化すということ……っ!!
  お、恐ろしい」

 ごめんなさい。怖がってませんでした。
 いや、怖がってはいたのかもしれないけれど、微妙にずれてました。


 「私出ます!! 闘いたいです!! っていうか、闘わせてください!!」

 「め、女神さん……」

 出番欲しさに命かけるなんて。
 愚かとしか言いようがありません。

 「私、実はめっさ強いし!! 腕相撲とか、男の子にも勝ったことあるし!!
  ほら、見てこの筋肉!! 見てこの筋肉!!」

 「女神さん。無理しなくていいのよ? 無い筋肉を無理矢理引き出さなくても……」

 「無理じゃないし!! 見て、この構え!! なんか強そうじゃない? ここら辺のラインが、強そうじゃない?」

 「そんなこと言ったって明らかに戦闘要員では無いあなたを……確かに、そのライン強そうね」

 おばあちゃん。女神さん。二人でコントやってないでくださいよ。


 「分かったわ。今日の試合……第1試合目は、女神さんでいきましょう」

 「お母さん!? 何言ってるんですか!! そんなの自殺行為ですよ!!」

 「千夏、人には命をかけて闘わないといけない時があるの。
  そして女神さんの場合、それが今日なのよ」

 「そ、そんな……」

 「女神さん。出来るわね?」

 「はい、まかせてください。私、こう見えても、神様ですから」

 「さあ皆!! 女神さんを送り出しましょう!!」

 ウサギさん、黒服、おばあちゃん、リーファちゃん、雪女さん。
 皆が女神さんのために道を開けます。
 その道の向こうには、戦いの場であるリングが。


 「女神さん……」

 「千夏さん。行ってきます」

 「なんていうか、気付いてくださいよ。
  ものすごく、死亡フラグ立ってますよ。今の演出は」

 

 

 『第1試合!! 千夏家ぇ代表ぅ、女神ぃ!!
  紙よりも薄いその存在感は、生まれながらに持つ光学迷彩のようだ!!』

 結構酷いこと言ってますね。

 『対するは秘密結社代表ぅ、四天王ビートル東王ぅ!!
  この世界でもっとも個体数の多い昆虫たちを統括するその力は、
  大地の王と言っても過言ではありません!!
  間も無く、試合が始まります!!』

 「うわぁ、相手、ものすごく強そうじゃないですか。
  あんなのに女神さんが勝てるわけないですよ」

 相手は昆虫人間みたいなやつで、四天王というだけあって強そうです。


 『それでは第1試合、始めぇ!!』

 カーンというゴングの音が鳴り、ついに試合が始まりました。
 とにかく女神さん。頑張れ。

 

 「うおぉ!! ここで目立たなきゃ、いつ目立つって言うんだぁ!!」

 『おおっ、女神の身体から、それはもう迸る金色のオーラが!!
  これはすごい!! ビートル東王がたじろいでいます!!』

 すごい。すごい執念です。
 執念でスーパー化っていうのも、どうかと思うんですけど。


 「喰らいなさい!! ひぃさつぅ……」

 

 

 『緊急ニュースが入りましたので、一時放送を中断して報道させていただきます。
  今日未明、ベーリング海付近で謎の爆発があり、航行していた民間船に被害が出るという事故がおきました。
  キノコ雲状の爆煙が目撃されたとの証言もあり、核兵器の実験が行われたのではないかとの疑いもありますが、
  日本政府は確認出来ていないと、発言を控えています。

  なお生存者はうわ言のように『ゴジラが……ゴジラが』と呟いているという情報がありますが、
  この事件とメジャーリーグで活躍中の松井秀喜選手との関係は明らかになっていません。

  繰り返します。今日未明、ベーリング海付近で謎の爆発があり、民間船に被害がありました。
  犠牲者の数は分かっておりません。
  以上で、緊急報道を終わります』

 

 

 「勝った!! 勝ちましたよ千夏さん!!」

 「せっかく勝ったのに、ニュースに全部潰されちゃってるー!!??」


 しかもゴジラが復活したそうですし。

 


 

 1月26日 水曜日 「悪の組織とガチンコ喧嘩 二日目」

 

 『今日も東京ドームからお送りしております、『地球争奪大武会』。
  本日は第2回戦が行われる予定です。今のところ地球代表側が1勝。
  まだまだ始まったばかりですが、幸先のいいスタートを切れました』


 というわけで、悪の秘密結社とのガチンコ喧嘩が今日も始まります。
 昨日は予想外の女神の活躍で、1勝目を取ることが出来ました。
 まあ予想通りの不幸のおかげで、その活躍は全世界の人々の目に映ることは無かったんですけど。


 「……死にたい」

 「さて、妙な鬱状態に入ってる女神さんはほっといて、今日闘う人を決めましょうか?」

 酷いなお母さん。

 「ウサギさんとおばあちゃんを続けて出して、
  相手に1勝も与えることなく終わらせちゃったらどうですかね?
  こんなことに時間かけているわけにはいきませんし」

 「う〜ん、でもねぇ……それじゃ盛り上がらないしなぁ」

 「別にいいじゃないですか盛り上がりなんて!!」

 「TV局から謝礼もらっちゃってるしなぁ……」

 うわっ、世界を守る闘いのはずなのに、大人の意地汚い世界がちらちらと……。


 「え〜っと、それじゃあもうあみだクジで決めましょうか」

 「うわぁ、人類の未来を守るとか、そういう意識が全然感じられない選抜方法ですね」

 あまりにも我が家らしいですが。

 

 

 

 『それでは!! それぞれの代表者をリングへ!!』

 「……それじゃ行ってきます」

 「頑張れリーファちゃん!! 2戦目という微妙な役どころですが、似合ってますよ!!」

 「お姉さま!! どういう意味ですかそれ!!」

 ってな訳で、2戦目の代表者はリーファちゃんに決定いたしました。
 純粋な戦闘要員とは言えないかも知れませんが、血の気が多いという意味合いではぴったりです。


 『地球側代表、リーファ!! 数々の暗殺拳を駆使する、生粋の狩人です!!』

 なんとなくカッコのいい紹介の仕方ですけど、普通に犯罪者ですからね?

 『対する秘密結社代表、バード西王!!
  鳥類の全てを統べるその力は、まさに天空の覇者と言っても差し支えないでしょう!!』

 うわぁ、またしても相手の方が強そうです。
 でもまあ昨日は女神さんでも勝てましたし、希望はあります。

 

 『それでは地球争奪大武大会第2試合、始めー!!』

 「先手必勝!!」

 まるでフライングに見えるほど……というか、実際フライングなタイミングで敵に詰め寄るリーファちゃん。
 さすがです。修羅場をいくつもくぐり抜けているだけあって、殺し合いにはルールも何も無いことを知っているんです。
 ただ、一応人類代表なので、もうちょっと正義っぽさを出してもバチは当たらないと思うんですけど?


 「仕込みパンチ!!」

 リーファちゃんの繰り出したパンチが、バード西王の顎にクリーンヒットし、
 明らかにパンチの音で出ることの無い『グシャァ』とか言う音が奏でられます。
 彼女が宣言しているように、多分拳の中に何か入れてたんでしょう。
 おっそろしいぐらい卑怯です。宣言してたのはある意味潔いですけど。


 『バード西王、ダウーン!!』

 「いいわよ、リーファちゃん!! そのままやっちゃいなさい!!」

 「そうですよー!! 残虐悪魔と呼ばれることになっても、そのままやっちゃいなさい!!」

 「うるさいですよお姉さま!!」

 これでも応援してるんですけどね。

 

 「ぐはぁっ……お前、見かけによらず、なかなかいいパンチ持ってるじゃないか」

 「え? あ、うん」

 「久しぶりにいい闘いが出来そうだ……」

 「そ、そうね……」

 ああ、バード西王。違うんですよ。そのパンチにはいろいろ入ってるんですよ。
 リーファちゃんなんて褒められちゃって、少し罪悪感を感じてるみたいですし。


 「10年ぶりだが……本気にならせてもらう!!」

 「う、うわぁ!?」

 バード西王が翼をはためかせ、強風を発生させます。
 あまりの風の強さに、立っていることすらままなりません。


 『おーっと!! バード西王の力、『風の結界』が発動したー!!
  風を操る力を利用したこの結界に捕らえられた者は、
  身動きがとれず、相手に嬲られるままになるという、何とも恐ろしい技なんです!!』

 「すごい!! すごく説明っぽい実況だ!!」

 「きゃあああっ!!」

 『あー!! 動けないリーファ選手にバード西王の鉄拳が炸裂ー!!』

 リーファちゃんの方を見てみると、すでに何発も殴られてしまった彼女が、
 フラフラになりながらも立っていました。


 「すごいわ……千夏ちゃんの1ツッコミの間にあんな数の打撃を加えるなんて……」

 「おばあちゃん。それは何かの時間の単位ですか?」

 「このままじゃ後4ツッコミの間に決着がついてしまう……!!」

 「だからなんですかその単位は!?」

 『もうリーファ選手は虫の息だー!!』

 「え!?」

 確かにリング上には虫の息で倒れているリーファちゃんの姿が。
 ……まさか私が2回つっこんだからですか?
 っていうかバード西王もなんで私のツッコミに攻撃のタイミングを合わせているんですか。


 『うわっ、また鉄拳が炸裂!!』

 「リーファちゃん!!」

 ま、またしても私のせいですか?


 「くっ……こんな所で負けるわけには」

 よろめきながらも立ち上がるリーファちゃん。

 「ほう……まだ立てるとはな。中々やるようだ」

 「まだここで、こんな所で死ぬわけにはいかないんです」

 「リーファちゃん……」

 そんなに人類のことを思って……。


 「お姉さまの寝首をかくまではっ、私は死ねないんだぁっ!!!!」

 うっわぁ、されても全然嬉しくない魂の叫びですよ。

 「頑張ってリーファちゃん!! 今のあなたは、玉虫色に輝いているわよ!!」

 「微妙です!! 輝き方が微妙ですよ!!」

 

 …………あ。

 「地球争奪大武会第2試合、勝者はバード西王です!!」

 わ、私がつっこんだからじゃないですよね?

 

 

 

 

 

 1月27日 木曜日 「悪の組織とガチンコ喧嘩 三日目」

 

 『今日はついにこの大武会の折り返しとなる3試合目!!
  人類代表側、秘密結社側、互いに1勝ずつで、まったくもって先が読めない展開になっております!!
  しかしながら、先に王手をかけることのできる今日の勝利を物にしたチームは、確実に有利となります!!
  絶対に取りたい今日の試合! いったい、どちらが勝利を手にするのでしょうか!!』

 

 という訳で、ガチンコ喧嘩も今日で3日目です。
 アナウンサーが言ったように、確かに今日の試合は大切だと思います。


 「今日の代表者の選抜は気を使わないといけませんね。
  昨日みたいなあみだクジじゃなくて」

 あ、ちなみに昨日負けてしまったリーファちゃんは、近くにあるホテルで昏倒したままです。
 うわ言のように『お姉さまのせいで……お姉さまのせいで……』と寝言を言ってますが、気にしないことにします。

 

 「そうね……今日は真剣に代表者を選ばないとね……」

 「そうですよ。それはもう真剣に……ってお母さん。
  その手に持ってるサイコロはなんですか?」

 「だって残りは6人じゃない?」

 「サイコロなんかで決める気なんですか!?
  さっき真剣に決めようって言ったばかりでしょ!?」

 「真剣に考えてこうなのよ!!」

 余計にたちが悪いです。それは。

 

 


 『それでは両チーム、代表者をリングへ!!』

 「行ってきます。千夏さん……」

 「雪女さん……なんていうか、ファイトですよ」

 妖怪だし、戦闘能力も少なからずありそうだけど、
 あまり期待できそうにないです。
 家で家事してる場面ぐらいしか見たことないですし……。


 「そんな心配そうな顔しないでくださいよ……。
  大丈夫、千夏さんの唇のためにも頑張ります!!」

 「ちょっと待て。
  私はテストで頑張ったね的なご褒美に、我が口唇を差し出した覚えは無いですよ」

 「ええっ!? そうなんですか!?」

 「勝手に変な賞品作ってるんじゃありませんよ!!
  どれだけポジティブシンキングな妄想なんですか!!」

 「だってお養母さまが……」

 「おかーん!!
  なに娘を士気向上のための褒美にしてるんですか!!」

 「いいじゃない別に。
  減るもんじゃないし」

 私の人権が確実に摩耗してます。


 「ちなみに昨日の試合でのご褒美は、千夏の命でした」

 あっぶねえ。
 リーファちゃんが勝ってたら間違いなく命奪われてたじゃないですか。

 

 「それじゃ千夏さん。私行ってきます!
  千夏さんとの甘い一夜のためにも、絶対勝ちますから!!」

 「ちょっと待って!!
  なんだかご褒美のランクが上がってる!! 上がっちゃってる!!」

 


 『人類側代表! 雪女ぁ!!
  何人もの人間を凍てつかせたその妖力は、悪の怪人たちにも通用するのでしょうか!?』

 私にとってはその妖力より、妄想力のほうがものすごく驚異です。


 『対するは悪の秘密結社代表! フィッシュ北王!!
  地球の70%以上を占める海を支配するその力は、果たして陸上であるこのリングでも通用するのか!?』


 今度は魚類系ですかぁ……。
 水と氷だと、氷が強そうな気がするし、
 大丈夫ですよね……?

 

 『それでは地球争奪大武会第3試合……始めー!!』

 ゴングが鳴り、ついに3試合目が始まりました。


 「冷凍マグロになっちゃってください!!」

 雪女はフィッシュ北王に両手を向け、手のひらから輝くほどの冷気を出しました。
 一瞬にしてこの東京ドームの気温を下げたそれを真正面から喰らえば、
 間違いなくカチコチに凍ってしまいます。


 「バカめっ!! ウォーターウォール!!」

 対するフィッシュ北王は水の壁を作りだし、それで防御。


 「なっ……!?
  私の冷気を受けても、水の壁が凍らない!?」

 「ふはははは!!
  この水は海水だからな。そう簡単には凍らねえよ!!」

 塩分とかそういうのが入ってると、凍りにくくなるんですよね。
 スポーツドリンクを凍らせた時に、最初のほうに甘いのが溶けだしてしまうのも、
 確かそれのせいだったはずです。

 

 「そ、そんなっ!!
  それじゃ私の攻撃は効かないってことですか!?」

 「ふはははは!!
  その通りさ!!」

 別に冷気を遮断してる訳じゃないんで、
 そういう訳じゃないと思うんですけど……。

 

 「それじゃあ、今度はこっちから攻撃させてもらうぜ!!」

 あっ、ついにフィッシュ北王の攻撃が……!!


 「必殺、ウォーター……ぐはっ」

 突然倒れるフィッシュ北王。
 雪女の攻撃が決まった訳じゃないし……一体どうしたんでしょう?


 『フィッシュ北王、酸欠でダウン!!』

 「エラ呼吸してたんだ!?」

 なにはともあれ勝利です。


 

 1月28日 金曜日 「悪の組織とガチンコ喧嘩 四日目」

 

 『いよいよ今日は第4試合目!!
  人類側が2勝を手にしているため、今日彼女たちが勝てば人類側の勝利が確定します!!
  まったくもって、目が離せなくなってきました!!』


 さあ、ついに第4試合目。
 今日私たちが勝てば、このガチンコ喧嘩も終了です。


 「さて、今日の代表者決定の方法だけど……」

 「お母さん。その手に持ったダーツは何なんですか」

 「1枚10万円相当の金貨と交換して……」

 どこぞのフレンドパークですか?


 「っていうか今日は真面目に選びましょうよ」

 「だから昨日も言ったように真面目に考えてこれ……」

 「ウサギさん!! おばあちゃん!!
  どちらか出てください!!」

 確実に勝利するためにはこの二人に任せるっきゃないと思います。

 

 「よし、それじゃあ私の弟子であるウサギちゃんが行きなさい」

 「ちょっと待て。
  いつから俺はあんたの弟子になったんだ?」

 「私に負けた者は皆、私の弟子よ?」

 「そんな同じ釜の飯を食べたら兄弟みたいなこと言いやがって……」

 「ほらほら、早く行きなさい。
  師匠は高見の見物してるから」

 大したご身分ですねおばあちゃん。

 

 『第4試合! 人類側代表、ウサギぃ!!
  そのグラマーな肉体に秘められた、イージス鑑並みのパワーが今宵も炸裂するのでしょうか!?』

 気になっちゃうのですが、イージス鑑並みの戦力とかって、どう計算してるんですかね?


 『対する悪の秘密結社代表、ビースト南王!!
  驚異のパワーを持つ獣の王! 今ここに、君臨しました!!』


 今度は哺乳類系の怪人な訳ですね。
 やっぱり強そうですが、1試合目や昨日の3試合目のような事があるので、
 不必要に怖じ気ずくことはありません。


 「ウサギさーん!!  頑張ってー!!」

 「そうよウサギさん、頑張って!!
  4試合目で終わっちゃったら、当初の予定より尺が短くなって、
  テレビ局があたふたするけどもっ!!
  頑張ってね〜!!」

 お母さん。
 何だか負けてくださいって言ってませんか?

 


 『それでは第4試合……始めー!!』

 ゴングが鳴り、死闘が始まります。


 「最初から本気を出させてもらうぞ……。
  俺は、兎を狩るときでも全力を出し切るたちなんでな」

 「兎をなめてたら、背中に火を点けられるぜ?」

 「残念だが、俺は狸じゃない!!」

 台詞を言い終わる前に、ビースト南王がウサギさんとの距離を詰めました。
 あまりの速さに、驚きの声をあげる暇もありません。


 「こいつっ……!?」

 「もらった!!」

 ウサギさんの懐に入ったビースト南王が、強烈なブローをウサギさんのボディに叩き込みます。

 「ウサギさん!!」

 攻撃をまともに喰らったウサギさんはリングのコーナーまで吹き飛んでしまいました。
 とてもじゃないですが、無事だとは思えません。

 

 「ふん。この程度か……」

 「ウサギさん!! 大丈夫ですか!?」

 「あの攻撃を喰らって、無事な訳……」

 「あいててて……」

 「ウサギさん!!」

 「なにっ、バカな!?」

 お腹を押さえながらも、しっかりとした足取りで立ち上がるウサギさん。
 それを驚愕の表情で見ているビースト南王。
 どんなもんですか。
 やっぱりウサギさんはすごいんです!!


 「よくあのブローを喰らって立ち上がれたな」

 「今まで散々『師匠』のパワーバンス崩壊パンチをごちそうになってたからな。
  あれぐらいじゃもうなんともねえよ」

 「ふんっ……ならば、なんともあるまで殴り続けるだけだ!!」

 また先ほどの攻撃のように、目にも止まらぬスピードで距離を詰める怪人。
 ウサギさん危ない!!


 「そう何度もっ、同じ手喰らうかってんだよ!!」

 「なっ……!?」

 なんと、ビースト南王のブローを、ウサギさんは彼と同じようにパンチで受け止めました!
 拳と拳がぶつかり合った瞬間、何かが破裂する音が鳴り響きます。

 「ぐああああっ!?」

 右手を押さえてのけぞったのはビースト南王。
 押さえている手からは赤い血が滴っています。


 「鍛え方が足りなかったみたいだな」

 「このっ、兎があっ……!!」

 「今よウサギちゃん!!
  必殺技、ラビットシュートを使うのよ!!」

 セコンドのように指示を出すおばあちゃん。

 「ねえよ!! そんなキャプテン翼に出てきそうな技、持ってねえよ!!」

 あ、やっぱり無かったんですか……って!!

 「ウサギさん危ない!!」

 「なにっ!?」

 ウサギさんの後ろには、今にもウサギさんに殴りかかろうとしているビースト南王が。


 「死ね!! 兎ぃ!!」

 ビースト南王の鋭いパンチがウサギさんの後頭部に……!!

 

 

 「……え!?」

 なにが起こったんでしょうか?
 ウサギさんがビースト南王に殴られたかと思った瞬間、
  ビースト南王のパンチは空を切り、あぜんとしている彼の後ろにウサギさんが現れたんです。


 「お前……一体なにを!?」

 「戦闘用の義体には、いろいろ便利な物積んであるんだよ。
  例えば、加速装置みたいなやつとかな」

 「このっ……!!」

 「これで、終わりだ!!」

 振り向こうとしたビースト南王の顔面に、ウサギさんの鉄拳が炸裂します。
 ビースト南王はそのパンチで、リング外まで吹っ飛んでいってしまいました。

 『勝者、ウサギ!!
  そして地球争奪大武会の勝利は……人類のものです!!』


 「ウサギさん!!
  すごくカッコよかったですよ!!」

 私はリングの中にいたウサギさんに抱きつきました。

 「まあ、自称師匠にたんまりしごかれたからな」

 「まだまだ至らない部分もたくさんあったけど、とりあえずは合格よウサギちゃん。
  今日から千夏ちゃんといちゃついてもいいわよ♪」

 そういやそんな縛りありましたね。
 すっかり忘れてて、普段通りにウサギさんにじゃれついてたんで気づきませんでしたよ。


 「ついでにCまでなら許しちゃう!!」

 「『まで』ってなんですか。
  Cの時点でほとんどやりつくしてますよ」

 「駄目よお母さん!! 千夏はまだ嫁にやれないわ!!」

 「でももうそろそろ真剣に考えたほうが……」

 気が早いよ。
 あんたら。

 

 「このままハッピーエンドで終わるとでも思っていたのか!!!!」

 「きゃああ!!
  何すんですかあんた!!」

 突然横から現れた秘密結社首領に抱きかかえられる私。


 「千夏!!」

 「ウサギさん助けて!!」

 「あ、いいな〜。お姫さまだっこ」

 「お母さん死ね!!」

 「ふはははは!! この少女は預かっていくぞ!!
  返して欲しければ、我が秘密結社のアジトまで来い!!
  罠をしかけて待ってるぞ!!」

 「卑怯だぞオイ!!」

 「悪の組織だも〜ん! 別にいいじゃ〜ん!!」

 子供かよ。お前は。


 「それではっ、首を長くして待ってるぞ!!」

 「ウサギさぁん!!」

 「千夏!! 待ってろよ! すぐ助けてやるから!!」

 

 という訳で、さらわれました。
 ……ぐすん。

 

 

 1月29日 土曜日 「悪の秘密結社との最後の闘い 前夜祭」

 今、私は悪の組織のアジトにいます。
 囚われの身のお姫さまと言えば聞こえがいいのかもしれませんが、
 実状は退屈で退屈で仕方のないものだったりします。

 

 「っていうか首領さん。
  なんでこんなバカな真似したんですか?
  素直に負けを認めて、カタギな世界に戻ればよかったじゃないですか」

 「だってほら、あのままだと出番がなさそうだったから」

 そんな理由で私はさらわれたんですか。

 

 「そうだ、前から聞きたかったんですけど、なんで悪の秘密結社なんて作ったんですか?
  ここまで私に迷惑かけておいて、何となくという理由だったらそりゃあもう酷いことしますからねっ!?
  冷蔵庫の中の醤油を、イソジンに入れ替えたり……」

 「急に何を……って、本当に酷いことするな。
  俺が……秘密結社を作ったのは、世界平和のためだ!!」

 「へぇ……」

 「オイ待て、そのイソジンは何だ?」

 「早く、続きを話しなさいよ」

 「この世界は間違っている!!
  今この地球で1日1ドル以下の生活をしている人間がどれだけいるか知っているのか!?
  一部の者たちが幸福を手にし、それ以外の者たちが苦渋を強いられる!!
  そんなことがまかり通るような世界など、正しいはずがない!!
  だから私は世界に鉄槌を下すために……っ!!」

 「ふ〜ん……」

 「オイオイオイ、いつの間に人んちの醤油を持ってきたんだ」

 「別に気にしないでください。
  で、首領さんの主張を要約すると、貧困国にも愛の手を……ってことですね」

 「すげえ軽くなっちゃったけど、そういうことです」

 「イソジン投入決定」

 「うおおおいぃ!! ちょっと待て!!
  素晴らしい主張じゃないか!! 幸せを皆のものに!!
  かつて誰一人として成しえていない偉業だぞ!!」

 「ガキっぽいんですよ!! 主張が!!
  皆が幸せになれない? 人が踏みにじられて傷つけられる?
  そんなの当たり前じゃないか!! 10年生きてるだけの私にだって分かりますよ!!」

 「なっ、なんだと!?」

 「この世界では大した理由も無くイジメられるし!!
  イジメっ子はそんなことに全然罪悪感なんて持ってないいかれた奴らだし!!
  玲ちゃんみたいに自殺しても、すぐに皆忘れちゃってるし!!
  そんな世界だって、普通に生きてれば分かりますよ!!」

 「おっ、おい?」

 「この残酷な世界で生きてく勇気無いならっ!!
  死ぬほど苦しいことばかりで、幸せなんて期待できないけど、そのことに耐えていけないならっ!!
  さっさと、首くくって死ね!!
  この世界で生きていく資格がある奴は、血反吐はいても、身体中ボロボロにしながらも、
  それでも足引きずって歩いていける奴だけだ!!
  弱い人間は、仕方がないけどっ……弱さを逃げ場にしてる奴なんて、構ってられるかぁ!!」

 「……」

 「私は弱いけどっ……でも、生きていくからな!!
  すごく嫌な世界だけど、ここで生きていくからね!!
  イジメなんかに、殴り殺されてたまるかぁ!!
  不幸なんかにっ、絞め殺されてやるもんかぁ!!」

 

 「よく言った!!」

 アジト全体が震動し、爆発音が鳴り響きます。
 突如そばにあった壁が吹き飛び、砂埃がたちこめます。

 

 「も、もしかしてっ、ウサギさん!?」

 かっこいい登場の仕方です!!
 やっぱり助けに来てくれるヒーローはこうじゃなくっちゃ!!

 「いえ、あなたの母です」

 「なんでー!?」

 おばあちゃんだったらまだ分かりますが、
 何故よりにもよって一番役に立たなさそうな人間が助けに来てくれるのでしょうか?


 「お母さん!? ウサギさんとおばあちゃんはっ!?」

 「えっと彼らは、『ここは私たちに任せてっ、先に行って!!』『ええ、分かったわ!! 私に任せなさい!!』
  という会話がここにくる途中であってね?」

 「そういうのは普通、一番戦闘力がある人間をボスに向かわせるものでしょう!?
  何でお母さんがここに来ちゃってるんですか!?」

 「なりゆきで」

 なりゆきでボスの所までくんなよ。

 

 「……ふっ、ふははははっは!!
  よく罠をかいくぐってここまで来たなっ!! 褒めてやる。
  だがしかし、ここがお前の墓場になるのだ!!」

 呆然としていた悪の首領が、ようやく自分の役割を思い出したようです。
 でも、その言葉が、ただの主婦に向けられていると思うと、どうも気が抜けます。

 

 「うっさい、3流悪役。
  その子を返しなさい。それは私のもんよ」

 物扱いしないでください。

 「ふんっ、こいつから聞いた話では、あまりいい母親でないようではないか。
  そのくせこんな時だけ立派な母親面か?」

 あっ、お母さんがこっち睨んでる。
 仕方ないじゃないですか。暇だったんだからいろいろ話ちゃったんですよ。


 「私は駄目な母親だけどね、駄目は駄目なりに愛してるのよ。
  あんたも悪役は悪役っぽく、とっととやられなさい」

 「ふん、一般人であるお前に何が出来る!!」

 「主婦パーンチ!!」

 お母さんがぶち切れたらしく、主婦パンチなるものを首領に放ちます。
 首領は余裕顔で受け止める気らしいです。そりゃそうか。

 「そんな蚊の鳴くようなパンチなど……ぐひょうぶひょぉ!!!!????」

 「うわぁー!? 今まで見たこともないような感じで首領が吹っ飛んだー!!」

 なんでこんなに威力があるんですか!?
 まるでウサギさんのパンチみたいですよ!!


 「あ、腕折れた」

 「弱ー!? お母さん、パンチ強いけど骨弱っ!?」

 「やっぱ駄目ね。へっぽこ義手だと」

 「へっ? 義手? その腕って義手なんですか?」

 「あれ? 言ってなかったっけ?
  両手両足、最新鋭の義手に義足よ」

 「そうだったんですか!? なんでそんなことに……!?」

 「そういうプレイで」

 ……聞かなきゃよかった。

 

 「くっ、くそ……今のは油断してただけだ!!」

 「左手、両足あるから、あと三発はいけるわよ」

 なんて攻撃回数の少ない打撃技なんですか。


 「千夏ちゃん、春歌ちゃん!! 助けに来たわ!!」

 「っていうかお前、先に行くなよ!!」

 あ、ウサギさんとおばあちゃんがやってきました。
 っていうかやっぱりお母さんは1人で突っ走っていっただけなんですか。
 何にせよ、これで我が家の主砲が揃いました。
 もう絶対負けません。


 「さあ悪の首領!! もう年貢の納め時よ!!」

 「くっ、くそ……」

 ついに、悪の秘密結社との最後の闘いが始まります!!

 

 「あっ、ちょうど今日の日付が変わりますね……」


 ということで、詳しいことは明日の日記で。

 

 

 …………何か問題あります?

 

 

 




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