6月13日 日曜日 「すたんどあろーん・こんぷれっくす」

 

 ウサギとオセロしてた時、ふと思いつきました。

 「いつまでもウサギって言う名前じゃ
  味気ないと思うから、
  なにか他の名前付けたほうがいいんじゃない?」


 しかしウサギはオセロの盤面から目を離すことなく 

 「いや、いいよ別に。
  俺にとって名前なんて、大した意味を持たない。
  そんなものに自分という存在を当てはめられるのも嫌だしな」

 そう言って拒絶します。


 「でも呼ぶとき困るじゃないですか。
  他のウサギ呼んでるのか自分を呼んでるのか分からなくなるでしょ?」

 自分で言っててなんですが、
 お前は他のウサギを呼ぶことがあるのかと。

 本音を言ってしまえば、街中で「ウサギ〜!!」と呼ぶのが恥ずかしいんです。


 「大丈夫。お前が俺を呼んでるのかそうで無いのかは区別できる」

 ホントですかね、それ。


 「ウサギさん」

 試しに他のウサギを呼んでるつもりで話しかけてみました。
 ……ものすごく間抜けな想像ですね。

 「……」

 目の前のウサギin戦闘用ボディは呼びかけに答えず、
 私の白の陣地をひっくり返していました。

 っていうかいつの間にか角が取られてる。


 「ウサギさん」

 今度は目の前の彼に向かって。

 「なんだ? 降参か?」

 ちゃんと答えました。

 「……なんで分かるんですか?」

 本当に不思議なんですけど。

 「心が繋がってるからな」

 「な、何言ってるんですか!!」

 そんなこと真面目な顔で言われると恥ずかしいです。

 「事実だし」

 よくそんなことを恥ずかしげも無く……。

 「も、もうウサギさんたらぁ」

 ばしばしウサギの肩を叩くと迷惑そうに言いました。

 「いいから早くしろって」

 「はいはい……でもすごいね。私たち心が繋がってるなんて。
  これも愛の力?」

 なんだか私も浮かれ気分です。

 「いや、電脳の記憶の共有化の力だろ」


 ……電脳?

 

 ふと近くにいた黒服を見てみると、人のTVでDVDを見てるみたいで


 って鉄人28号の次は「攻殻機動隊」かよ!!

 

*電脳

 携帯電話やパソコンを脳に直接埋め込んだような物。
 多分。

 それで記憶を共有したり、感情の起伏を共に感じたり出来たりできなかったり。


 公式サイト の用語集を見ても全然分からないのが攻殻機動隊の尊敬すべき所であり、
 絶対マネしちゃいけない所だと思います。

 

 

 6月14日 月曜日 「日光浴には便利かもしれないけれど」


 朝起きると目の前にはきれいな青空が広がってました。

 小鳥が飛びかうのが見えるその風景は、
 寝ぼけ眼の私の心にも染み渡っていきます。


 ……なんで、屋根無いの?

 

 

 「お母さん!! 屋根が無くなってる!!」

 大慌てでお母さんの所に行くと、
 お母さんはいつもと変わらぬ様子でコーヒーを飲んでました。

 「ええ、屋根無いわね」

 ええって。なんでそんなに落ち着いてるんですか?

 「ど、どういうことなの?」

 「差し押さえられたのよ」

 「へ?」

 差し押さえ?
 屋根を?

 「実はこの家には結構な額の借金があって……その担保にね」

 こういう形で家の財政状況を知ることになるなんて……。

 それにしてもどういう神経してるんですか。
 屋根を差し押さえる借金取りも、
 抵抗せずに屋根を差し出すお母さんも。

 「もっと他の物差し押さえしてもらうべきだよ!!
  屋根ってものすごく大事じゃん!!」

 雨降ったらどうするんですか?

 冷蔵庫とかタンスとか。
 そんな家財道具がきれいに残されてるのはおかしいですよ。

 「う〜ん。あなたと屋根。どっち差し出すか迷ってたんだけどね。
  やっぱり千夏を差し出した方が良かった?」

 「屋根。よく考えてみるといらないよね」

 うん。
 屋根いらない。


 

 6月15日 火曜日 「ロボットにはよく付いてるやつ」


 いつも通り学校に行って、
 しこたまイジメられて帰ってきた私は、
 居間のテーブルの上に小さな箱に赤いボタンが付いている物を見つけました。

 これは絶対押して欲しいということなのでしょう。

 その意思を汲み取って、ボタンを押そうとしました。

 「ちょっと待ちなさい!!」

 突然お母さんが屋根裏から忍者のように登場し、
 私の手から箱を奪いました。


 ちなみに屋根はいつの間にか戻ってました。
 その代わり黒服さんの姿が見えませんが、
 知ったこっちゃ無いです。


 「ふう。大変な所だったわ」

 お母さんが額の汗を拭います。

 「それ、なんなの?」

 私が尋ねるとお母さんは、

 「私の自爆スイッチよ」

 と、簡潔に答えてくれました。

 なんかいろいろ間違っている気がしますが。


 「な、なんでお母さんに自爆スイッチがあるの?」

 「知らなかったの?
  去年から大人は携帯を義務付けられたのよ。
  たまにはニュースでも見ないからこういうことになるのよ」

 知りませんよ。
 大人には自爆スイッチがあるなんて。

 私には付いてても不思議は無い気がするんですけどね。

 


 夜。
 喉が渇いたので冷蔵庫を開けると、中にお母さんの自爆スイッチがありました。
 要冷蔵なんですか?

 お母さんのほうをちらりと見ると、バラエティ番組に釘付けです。
 そう。今がチャンス。

 そっと自爆スイッチを手に取り、思い切ってボタンを押しました。
 好奇心には勝てないのです。

 ボタンを押すとお母さんは……

 

 

 

 「私、昔にアイドルのオーディションに
  書類送ったことあるの」

 そう言いました。


 確かに自爆です。

 っていうか自虐です。

 

 6月16日 水曜日 「アジアからのシシャ」


 明日。どうやら私のクラスに転入生がやってくるらしいです。
 しかも外国人。
 そして何と韓国からだそうです。

 私はもう楽しみで仕方ありません。


 別に他の国の人とお知り合いになれるから
 嬉しいわけではないです。


 中途半端な時期での転入生。外国人。
 極めつけは韓国。


 まさに条件の揃ったイジメられキャラです。


 何故だかよく分かりませんが無駄に韓国を意識しすぎている日本人のこと、
 絶対にいろいろ難癖つけてイジメだすに違いありません。

 そうなればもちろん私の負担は軽減。
 うまくいけば私へのイジメが消滅することだってありえます。

 汚い?
 何を言うんですか。
 一番汚いのはいじめっ子たちの方です。
 私はただ自分の身を必死に守ろうとしているだけです。

 

 ……でも、やっぱりイジメの辛さは分かるから。
 少しくらいなら、転入生に手を差し伸べてやってもいいです。

 助けてはあげられないけど、
 傍にいることは出来ますし……。

 なんでイジメなんてあるんだろう……?


 

 6月17日 木曜日 「まあそんなものよね現実は」


 今日クラスにやってきた韓国人は
 とても可愛い女の子でした。

 名前はキムチちゃんです。
 発音が難しく、聞き取れなかったので私の中ではそう呼んでます。
 本当の名前は……えっと。


 とにかく明るい性格で、すぐに皆の輪に入っていけてました。
 すぐに人気者になっちゃいました。

 

 私ですか?
 ええ、イジメられたままですよ。
 しかもキムチちゃんがいじめる側に加わってました。


 国籍がどうであれ、可愛い子は優遇されるみたいです。

 

 こんちくしょう。


 

 6月18日 金曜日 「悪寒な予感」


 学校の授業の五時間目。
 私は屋上に居ました。

 別にサボりたかったわけじゃないです。
 昼休みに屋上に呼び出されて、唯一の校舎へ入るドアを閉められただけです。


 泣き喚くのもみっともないので、諦めて空を眺めることにしました。

 「あなた、ここで何してるの?」

 声がしたほうを向くと、なんだか白い女の子がいました。

 白いというのは服装が、という訳ではなく、なんというか雰囲気が白いんです。
 言いたいこと分かりますか?

 彼女も私と同じ制服を着ていることからこの学校の生徒なのでしょう。
 背丈から言うと私と同学年か、一つ上ぐらいかな。


 「イジメられてるの」

 私は正直に答えました。
 改めて事実を口にしてみると、とても哀しくなりました。

 「そう、私と一緒ね」

 彼女はそう言いました。
 私と同じように屋上に閉め出されたのでしょうか?

 「私ね、皆に無視されてるの。話しかけても、誰も返事してくれない。
  まるで私を死者のように扱うの。
  この前なんて私の机に菊の花が置いてあったのよ?」

 私みたいに殴られたり、服の中に見たことも無い虫を入れられたり、
 橋の上から川に投げ込まれたりするよりはマシなんじゃないでしょうか?

 まあ辛さなんて人の主観でしか計れない物なので何とも言えないですけど。

 「だから久しぶりなの。他人と話すの……。
  とっても嬉しい」

 そう言って彼女は微笑みました。
 なんだかいい友達になれそうです。

 「ねえ。私と友達にならない?」

 私がそう言うと白い彼女は一瞬びっくりしたようですが、
 すぐに復活して大きな声で言いました。

 「うん!! ぜひ、あなたと友達になりたい!!」

 この関係は傷の舐めあいかもしれません。
 でも、ずっと血を流したままでいるよりは健康的です。

 「私の名前は千夏。あなたは?」

 「玲って言うの。よろしくね千夏ちゃん」

 久しぶりに千夏ちゃんって言われたのが嬉しくて、
 頬が緩んでしまいました。

 「あ!! 私、用事があるんだった。
  それじゃまたね、千夏ちゃん!!」

 「うん、それじゃまた……」

 って、用事って。
 ここから出られないんじゃどうしようも……。


 「バイバイ〜!!」

 そう言うと玲ちゃんは鍵がかかっているドアをすり抜けて行ってしまいました。


 ……そりゃ話しかけても誰も気付かないし、死者扱いするよなぁ。

 とりあえず、私は気絶しますんで、
 あとよろしく。

 


 ばたり。


 

 6月19日 土曜日 「四コマ@」



 どう食べろっていうんだ。



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