3月6日 日曜日 「我が家の家宝」
「千夏ちゃん。こっち来て」
「ど、どうしたんですかおばあちゃん。そんな真剣な顔して……」
私、何か怒られるようなことしましたっけ?
怒られるにしても、殴られるのは嫌だなぁ。
おばあちゃんのパンチ、普通に死ねますし。
「実はね、千夏ちゃんに我が家に伝わる家宝を渡そうかと思って……」
「家宝!? なんでまた私に!?」
「春歌ちゃんだと、すぐに売りそうだから」
実の親にそんなこと言われてるお母さんって一体……。
「はい、これが私たち家に代々伝わる壷よ」
「うわ〜、すごく古そうな壷ですね。
なんていうかこう、時代を積み重ねてきた雰囲気というかそういうのを感じる壷ですね」
「まあこの壷は最近100円ショップで買ったものなんだけどね」
「えー!! なんとなく分かったような口を利いた私がバカみたいじゃないですか!!」
どうしてくれるんですか。この恥ずかしさ。
「これは壷が大切なんじゃなくて、壷の中身がすごいのよ」
「壷の中身?」
「そう。これの中には梅干が詰まってるの」
「梅干!? 梅干が家宝なんですか!?」
なんてクエン酸溢れる家宝なんですか。
「これはただの梅干じゃないわよ。私がこんなに若いのも、この梅干を毎日食べていたからなんだから」
「いや、おばあちゃんの身体は義体だからなんでしょ?」
「炭を片手で圧縮してダイヤモンド作れるのも、この梅干のおかげなのよ」
「それも義体のおかげ……っていうかすごいこと出来ますね、おばあちゃん」
握力どれだけあれば出来るんですか。
「さあ、この梅干を受け取って」
「はぁ、一応貰っておきます」
家宝って言うから、なんだかすごいものを想像してしまった私が情けないです。
まあ、私たちの家系ですしね。こんなものでも家宝って言いそうです。
「さて、次の家宝ですが……」
「え!? まだあるの!?」
「もちろん。古い歴史を持つ我が家には108個の家宝が……」
多すぎですよ。108個は。ありがたみが何だか薄れてる気がします。
「じゃ〜ん!! 宝刀チゲナベ!!」
「すごい辛そうな日本刀ですね。なんていうかなまくらっぽい」
「これはね、私がまだ若かった頃に熊に襲われていたお殿様を助けたご褒美としてもらったものなの」
「へぇ……お殿様ですか。何時代に生きてたんですかおばあちゃんは」
「なんでも一振りでご飯が3杯おかわりできるくらいなんですって」
辛さだけで飯食べるんですか。
「はいどうぞ千夏ちゃん。大切にしてね」
「分かりました。ご飯しか食べるものが無い時は使用させていただきます」
まったくもって日本刀の使用方法ではないですけどね。
「えっと、次の家宝はね……」
「冗談じゃなかったんだ。本当に108個あるんだ?」
「私の夫兼、あなたのおじいちゃんの胆石」
「死ぬほどいらねぇ」
そんなものを家宝にしないでください。
「記念に集めていた、今まで私が倒した相手の歯」
「怖いから。なんだか怨念とかこもってそうだから」
もう一度言いますけど、そんなのを家宝にしないでください。
3月7日 月曜日 「乙女会議」
「でさ、その隙に奪い取るのよ」
「なるほどね。そしたら全力ダッシュよね」
電車に揺られてる私の耳に、やけに物騒な会話が聞こえてきました。
物盗りの作戦会議ですか? すごく堂々とした窃盗犯ですね。
声のした方をちらりと見ると女子中学生らしい2人が、電車のドアの近くで話しこんでいました。
最近の犯罪の低年齢化はここまで進んで……。
「でもさ、これってちょっとヤバイんじゃない?」
「仕方ないでしょ? これもみな先輩の第二ボタンを手に入れるためなんだから」
ターゲットは先輩の第二ボタンなんですか!?
まあ卒業式が近いですしね……っていう感想はずれてますね。
いつの時代から第二ボタンは奪う物になったんですか。素直に頼んで貰えよ。
「そうよね。先輩のハートを掴むためなんだもんね」
言ってることは可愛いですが、やろうとしていることはただの物盗りなんですよね。
っていうか先輩の第二ボタンを窃盗したら、嫌われるだけなんだと思うんですけど。
「でもさぁ、先輩って陸上部でしょ? ちゃんと逃げ切れるかなぁ?」
逃げんなよ。その前に盗るなよ。
「大丈夫。トラップ仕掛けるから」
先輩に対する愛が感じられないんですけど?
「トラップってなに?」
「忍者とかがやるまきびし。釘とか押しピンとかいろいろバラ撒くの。
刺さったら痛くて走れないよ」
陸上部の先輩の選手生命が心配です。
「でもね、でもね、先輩ってガッツあるから痛くても追ってくるかも」
変な女に好かれてもへこたれないガッツは彼にあるのでしょうか?
「そういう場合は吹き矢使うしかないけど……」
気になるんですけど、さっきからまきびしとか吹き矢とか言ってるこの女は何者だ?
「吹き矢なんて危なくない?」
危ないです。
「大丈夫。急所外すから」
本当に何者だお前は。
「でもでもでもでも!! 先輩ってガッツあるから吹き矢刺さっても追ってくるかも!!」
逃げるよ。吹き矢放ってくる女見たら普通逃げますよ。
「そういう場合は毒矢しかないね☆」
窃盗が殺人にレベルアップです。
「危なくない?」
あぶねえよ。本当に死ぬほど危ないよ。
「象が少しだけ気を失うぐらいの毒だから」
「それじゃ安心だね♪」
なんか、人間の致死量を軽く越えてそうなんですけど。
「これで先輩とラブラブだね!!」
「うん♪」
最初から最後まで間違ってましたが、一番考え直さなくちゃいけないことは、
彼女が本当に先輩のことを好きなのかということだと思います。
普通の人間ならば、愛する人に吹き矢は放てませんよね。
3月8日 火曜日 「ダーツ」
「千夏ちゃん。私と一緒にダーツで遊んでみない?」
自宅で録画していたビデオをもう一回見るという、有意義なんだか無意味なんだかよく分からないことをしていた私に、おばあちゃんが話しかけてきました。
「暇だったんで別にいいですよ。
でもなんで急にダーツなんか?」
「自前の矢じりを研いでたらやりたくなっちゃって……」
自前で矢なんて持ってるんですか。
その矢で何を狩る気だったんだ。
「さぁ!! ダーツで遊びましょうか!!
千夏ちゃんはダーツのルールは知ってる?」
「なんとなくですけれど、中心に近いほど高得点ってイメージがあります」
「ああ、それはガニメデ方式ね」
木星の衛星がなにか関係あるんですか?
「今日はおばあちゃんルールでいきましょう」
「えー! なんですかそのルール!!
嫌ですよそんなの!!」
「このルールを使えば、お年寄りだって楽しく遊べるのよ」
おばあちゃんはお年寄りのグループには入らないと思います。
「的の中心に近いほど高得点なのがガニメデ方式だけど」
「ガニメデ方式ってガセでしょ?」
「的により多くのダメージを与えた方が高得点なのがおばあちゃんルールです」
「なんですか、より多くのダメージって。
ようは力任せってこと?」
「いいえ違うわ。
効果的なダメージを与えるには技術と運と握力と背筋力と足の指でジュースの缶を潰す力が必要なのよ」
結局力じゃん。
それに最後の力は本当に必要なのか分かんないし。
「先攻は千夏ちゃんからでいいわよ」
「はい、分かりました」
私はダーツの的から5メートルほど離れた所にある線の上に立ちます。
ここの上で投げるのがおばあちゃんルールなんですって。
「よ〜し、いきますよ〜……せりゃ!」
ダメージ重視らしいので、コントロールなんて気にすることなく力任せにダーツの矢を投げつけます。
私の渾身の力を込めた矢はまっすぐに的に向かい、バンという気持ちのいい音と共に突き刺さります。
……わが家の壁に。
「うあ!? 私、やってしまいましたよ!!」
お母さんにバレたら絶対に叱られてしまいますよ。
「千夏ちゃん、20点」
「えー? 壁に穴開けても得点入るんですか!?」
「ダメージ重視だから」
めちゃくちゃなルールだなおい。
「それじゃ私も投げるわね。えーい!!」
おばあちゃんの投げたダーツの矢は空気を切り裂く音を出しながら的へ。
そして思ったとおりというかなんというかな音を立てて突き刺さります。もとい、撃ち込まれます。
もはや銃弾の威力なんですけど。
「おばあちゃん。今のは何点ですか?」
「えっと、あれぐらいなら1200点かしら」
勝てない。1投目でもう勝利の可能性が無くなってしまいましたよ。
「さ、千夏ちゃん2投目どうぞ」
「分かりました……って痛い!!」
私が矢を投げようとした時、間違って針の方を触ってしまいました。
なんて間抜けな私。
「千夏ちゃん、30000点」
「今のが!? っていうか点数多!!」
3万点もらうほど痛いとは思えないんですけど。
「千夏ちゃんの間抜けさが痛かったからボーナスで」
全然嬉しくありませんよ。そのボーナスは。
3月9日 水曜日 「リーフトラップ」
「あはははは、千夏お姉さま、楽しいですねぇ。鬼ごっこ」
「うふふふふ、そうですねリーファちゃん。
その手に持ってるサブマシンガンを放り投げてくれたら、もっと嬉しいんですけどね」
リーファちゃんに襲撃され、空き地まで逃げてきた私。
向かい合って話し合うとマシンガンの連射を喰らってしまうので、身を伏せて長く生えた草に体を隠しています。
多分、リーファちゃんには場所を特定されていないでしょう。
「お姉さま、かくれんぼなんてしてないで鬼ごっこしましょうよ。
命がけの追いかけっこしましょうよ」
「私も歳を取ったものでしてね、命の駆け引きを好む若さはないんですよ」
リーファちゃんと話しながら逃げる準備をする私。
チャンスを見て走り出すことにします。
「よしっ、今だ!!」
勢いよく走りだす私。
このまま戦場から離脱しようとおも……。
「ぶべっ!!」
思いっきりこけてしまいました。
すげえバカっぽい。
「ふふふ、お姉さま。どうせ逃げ出すんだろうなと予測して、トラップを仕掛けてたんですよ。
ここら辺一帯にね」
「と、トラップですって!?」
足元を見てみると、長めの草が2束、互い同士結わえられています。
うわぁ……これじゃ勢いよく走ったら足を引っかかって転んでしまいますよ。
「どうですかお姉さま。すごいでしょう?」
「無駄努力は買いますけど……いつの間にこんなことしてたんですか」
「昨日の夜にこっそりと」
ほんとに無駄努力。
「さあ、千夏お姉さま。もう諦めて天国へと……」
ゆっくりと近付いてくるリーファちゃん。
やばい。なんか、マジでやばい。
「べふっ!!」
……リーファちゃんもこけました。
「いったぁ!! 誰だよ!! 草結んだ奴!!」
「リーファちゃんでしょ!? 自分でやったことでしょ!?」
自分の仕掛けたトラップに引っかかるとはさすがリーファちゃんです。
「違いますよ!! 自分が仕掛けたトラップに引っかかるわけないじゃないですか!!
そんな間抜けなこと、私がやるわけないじゃないですか!!」
「いや、でも実際……」
「多分、近所のガキどもが仕掛けたんですよ!! 絶対に!! 間違いありません!!」
「わ、わかりましたよ……。そういうことにしておきますよ」
リーファちゃんって、プライドは無駄に高いんですよね……。
「さあ、お姉さま。今度こそ……」
「やられてたまりますか!!」
急いで立ち上がって逃げ出す私。
「ぶはっ!!」
3秒後にこける私。
またトラップかよ。
「はははは!! この空き地からお姉さまは逃げることなんて出来な……べふっ!!」
近付いてきたリーファちゃんもまたこけました。
「違うから!! 私の仕掛けた奴じゃないから!!」
「分かりましたって。もういちいちそんな言い訳しないでもいいです。
っていうかリーファちゃん。普通に歩いてるだけで引っかかってるのはどうかと思うんですけど」
「私、ドジっ子なんで」
ドジっ子なんて自覚している駄目な人に殺されたくはありません。
「うおおお!! 何がなんでも脱出を……がふっ」
こけました。
「無駄ですよお姉さま!! あなたはここで死……がふん!!」
リーファちゃんもこけました。
「い、今のうちに……がはっ!!」
また私もこけました。
「だから、逃げても無駄だと……ごふっ!!」
こけました。
「り、リーファちゃん、これってなんか……ぎゃふっ!!」
こけました。
「なんですかお姉さ……ぐはっ!!」
こけました。
「……リーファちゃん。一時休戦して、ここから無事脱出する方法を探しませんか?」
「そうですね。このままだと、一生出れそうにないですもんね」
なぜか、仲直りしてしまいました。
3月10日 木曜日 「怪しげアルバイト」
「ねえ千夏。アルバイトしない?」
「嫌です。みょうちくりんなカッコして男に媚び売るバイトなんかしたくありません」
「なによ。なにバイトよそれは」
お母さんが持ってくる仕事はそういうのしかないから。
「今日のはそんな精神を削るバイトじゃないって」
「一応今まで私に勧めてきたバイトは精神衛生上良くないって分かってたんですね。
分かってて、やってたんですね」
「この荷物を持って、新幹線に乗るだけで1日10万円の報酬が……」
「ちょっと待ったー!! なんだかそれ、危なそうなバイトなんですけど!?」
「どこが? 別に使用許可が出されていない薬の実験台になるわけじゃあるまいし、全然安全じゃない」
「比較対象がいろいろ間違ってますが、荷物の中身がなんだかとてもデンジャーな気がします。
中身、なんですか?」
「見ちゃ駄目だってさ」
ますます怪しいこと限りなしですよ。
「っていうかさ、お母さんがやればいいでしょ?
なんで私なんかに任せるんですか」
「小学生は逮捕されないから」
ちょっと待てい。
「やっぱり犯罪ですか!? 逮捕ありきなバイトなんですか!?」
「だから、11歳は逮捕されないんだってば」
「そんな問題じゃねぇ!! もっと大切なことが一杯ありますよ!!」
「もううるさい子ねえ……。
いつまでもくだらないことでグダグダ言ってると、人間不信になっちゃうバイトに送り出しちゃうぞ☆」
「うわぁ……こんなに爽やかな脅迫は見たことありませんよ」
私に拒否権は無いってことでしょうか……。
お母さんから渡された謎荷物を持って新幹線に乗り込む私。
まさかこの歳で闇の世界に片足つっこんでしまうとは思いませんでした。
自分の将来が本当に心配です。
「ううう……この荷物の中身、なんなんだろう?
やっぱりチャカとかシャブとかそういう893的なものですか?
うっはぁ……心底関わりになりたくないですよ」
頭を抱えてブツブツ言ってる小学生こと私。
傍目から見ると結構気味が悪いだろうと思います。
「お嬢さん。お隣いいかな?」
「へっ!? ああ、はいどうぞ……」
悩んでいた私に話しかけてくるおじさん。
黒いコートに黒いサングラス。そして何故か口元を大きく覆うマスク。
……怪しいをイメージ検索したら出てきそうな格好してますね。
「も、もしかしておじさんが893……?」
「はっはっは、何のことだいお嬢さん」
怪しい。その妙な笑いかたがすごく怪しい。
全国の「はっはっは」笑いの人には申し訳ないですが。
「さて、お嬢さん。例の物を渡してもらおうか」
「れ、例の物ですか……」
まあ多分この謎荷物のことだと思うんですけど。
「あの〜、つかぬことお聞きしますが、この荷物の中身ってなんなんでしょうか?」
「……お嬢さん。世の中にはね、知らなくてもいいことっていうのがあるんだよ」
「ご、ごめんなさい!!」
おじさんがとても怖い顔したので、やっぱり聞いてはいけない事だったみたいです。
「実はこの荷物はね……」
「あっれー!? 教えてくれるの?」
「これは別に知っててもいいことだから」
じゃあなんだったんですか。さっきのセリフは。
「この荷物の中にはたくさんのDVDが入って……」
「DVD!? 私はこんなもののためにドキドキしっぱなしだったんですか!?」
「デュー・バイオレンス・デュー。の略です」
「わけわかんねぇ」
何となく危なさそうなのは理解できるんですけど。
「デリンジャー・バイ・デリンジャーの略でもあります」
「デリンジャーってやっぱり銃のことじゃないですか!!」
私が銃の運び屋になっていたことに比べたらどうでもいいことですが、
バイはBYなので、Vにはなりません。
3月11日 金曜日 「寝不足なウサギさん」
「ふあぁ……」
「あれ? どうしたんですかウサギさん。寝不足?」
「ん〜……なんだか最近寝れなくて」
「コーヒーとか飲みすぎて?」
「そういうわけじゃないけど」
「コーヒーとか、バケツで飲んじゃって?」
「なんだ、その豪快な飲みっぷりは。
寝れないのは多分、精神的なものだと思うんだけど」
「精神的って……何かストレスが溜まるようなことしてるんですか?」
「あなたの祖母に、よく闇討ちされます」
そりゃあストレス溜まりますよね。
「それじゃあよく眠れるように、私がいろいろやってあげましょうか?」
「いろいろって?」
「いいからいいから。ほら、横になってください」
「はいはい……」
「安眠秘技その1、膝枕」
「寝れるのそれ? なんか、効果あるの?」
「乙女の膝枕はどんな安眠枕より高性能なんですって」
「……誰が言ってた?」
「お母さん」
「確かに、あの人ならそう言いそうだけど」
いいからさっさと膝枕されちゃいなさい。
「気持ちいいですかウサギさん?」
「ん〜……確かに、気持ちいいかも」
「私は脚が重くて仕方ないですよ。こ、これ、結構辛いなぁ……」
「……やめよっか?」
「いやいや!! なんか、自分で言い出した事なのに恥ずかしいじゃないですか!!
愛の重みだと思って耐えますよ!!」
「愛の重みで脚を痺れさせないようにね」
「さて、それじゃあ安眠秘技その2、子守唄」
「子守唄とはまた古風な……」
「お母さんとかリーファちゃんとかが、眠れない時によく歌ってくれます」
「お母さんは分かるけどリーファちゃん? なんで、アイツが千夏に子守唄なんて歌うの?」
「とっとと眠りにつけと言って、いつも枕元で待機しているので」
「すごいな。あまりにも斬新な寝込みの襲い方だな」
「さあ歌いますよ〜。
ララララ〜ラ〜♪ ラララ〜♪ ラ〜ラ〜中目黒〜♪」
「ちょっと千夏!? 中目黒? なんで中目黒?」
「どうしたんですかウサギさん?」
「子守唄の歌詞の中に中目黒という単語が入ってるというなんだかとっても不思議なことを経験しました。
っていうか、メロディーだけだったのになんで中目黒の所だけちゃんと歌うんだ」
「目黒じゃないからです」
「わけわかんね」
「ほらほら。無心になってリラックスしてくださいよ」
「うん……」
「ルリラルラララ〜♪ ルリララ〜♪ 奥沢〜♪」
「奥沢!? 今度は奥沢!?」
だから気にしないでくださいってば。
「はぁはぁはぁ……う、ウサギさん。寝れそうですか?」
「いや、少しはウトウトするけど、まだ眠れそうじゃないよ。
……なんでちょっと息荒いの?」
「ウサギさんを膝枕している脚がですね、予想以上に大変なことになっています」
「……降りようか?」
「まだ、まだ大丈夫ですよ! ウサギさんが心地よい眠りにつくまでは、耐えてみせますよ!!」
「そう……ありがとう」
「うっひゃぁ!! 頭、動かさないでぇ!! 脚が、こうジンジンと!!」
「ご、ごめん」
「さ、さて……安眠秘技その3、おやすみのチューを……」
「なっ何言ってんだよ千夏!!」
「チューするととっても素敵に眠りにつけるんですって。まるで薬を服用したかのように」
「ほんとかよそれ」
「って、雪女さんが言って、毎晩私にせまってきます」
「なんで千夏が眠りにつく時はいろいろとピンチなんだ。命とか貞操とか」
「だからチュー……」
「うっわぁ!? 千夏、ちょっと待っ……」
「がふぅっ!? ウサギちゃん、そんなに動いたらっ!! ぐびょふぅ!!」
「千夏? 大丈夫か千夏!?」
脚から来たあまりの激痛に、意識が遠のく私。
こんな形で失神できるんですね。
「おい千夏、大丈夫か? っていうか俺より先に寝るなよ!!」
おやすみ、なさい……。
「千夏ってば!!」
うるさいですよウサギさん。
3月12日 土曜日 「部屋の片付け」
「こらー千夏!! たまには部屋を片付けなさい!!」
「うっわぁ、お母さんに母親らしいこと言われちゃいましたよ……」
「何気に失礼なこと言わないでよね。まったく、私が何も言わないとまったく片付けないんだから」
「はぁ、ごめんなさいね。誰かさんみたいなずぼらな性格で」
「まったく、どうしようもないわね」
いや、あなたに似ちゃったんですけど。
さて、お母さんに言われるまま片付けを始めた私。
コツコツと地道に片付けをやらせてもらいます。
「う〜ん……確かに散らかっちゃってますね。
なんていうかいらないゴミが多いです……」
捨てないといけないと分かっていても、なんだか溜まっちゃうんですよね、ゴミ。
これじゃあ将来は片付けられない主婦になってしまうかもしれません。
「ってうわぁ!! なんだこれ!?」
私が埋もれているゴミの中から見つけたのは削岩機。
なんで、私の部屋にこんなものが埋もれているんでしょうか?
誰か、岩でも砕こうと思ったんですか?
「えっと、これは間違いなくゴミ捨て場行きで……ってなにコレ!?」
次に見つけたゴミは、銃弾の薬莢。
……ああ、リーファちゃんがアサルトライフル担いで突入してきた時に落ちた物なんでしょうね。
こんな物が落ちてる少女の部屋って一体……。
「……こ、これは」
まったくもって、私にゃサイズの合わないブラジャー……。多分、ウサギさんの物だと思います。
っていうか私はまだブラなんて着用してないし。
……なんにせよこの大きさは羨ましい。
「うわぁ……こんな物までありましたよ」
多分、雪女が落としていったであろう雪だるま。
全然溶けていなくて形が残っていることから、最近落としていった物だと思います。
っていうか、雪だるま落とすってどんな妖怪だ。
「これは多分……おばあちゃんが持ってきた物でしょうね」
私が手にしているのは、熊の毛皮で作られた絨毯。
っていうかおばあちゃん。こういうの孫の部屋に持ってくるのは止めてください。
すごく怖いんで。
「……これは、黒服ですね」
謎のスイッチ。
いや、謎のスイッチというのは間違いですね。
思いっきり『スーパーフュージョン』と銘打ってありますし。
これ押したら、私はどうなってしまうんでしょうか?
「……」
手作り感溢れるメイド服は、間違いなくお母さんが持ってきたものですね。
とにかく、これらの物は全部ゴミ捨て場行きです。
「…………え〜っと、その、なにしてるんですか女神さん?」
「いやですね、千夏さんの部屋に住んでいればですね、出番が増えるんじゃないかと……」
「……女神さん、ゴミ捨て場行きで」
「ひどいっ!?」
その魂胆が、なにより汚いのです。