3月27日 日曜日 「花粉症」


 「……すごい目が痛い」

 「どうしたんですか千夏さん?」

 私と一緒にテレビを見ていた雪女さんが、私の呟きに反応して聞き返してきました。
 自然と出たぼやきだったんですけど、まあ彼女に聞いてもらうことにします。


 「なんだかね、最近目が痛いんですよ」

 「へぇ〜……恋じゃないですか?」

 目が痛くなる恋ってなんだよ。ろくなものじゃないだろそれは。

 「違うと思うんですよ。素人目ですけどね」

 「う〜ん……それじゃあきっと古傷が痛みだしたんじゃないですか?」

 古傷なんてハードボイルドな過去はありません。
 っていうか眼球の古傷って一体どんなことして傷を負ったんだよ。

 「多分、花粉症だと思うんですよね」

 「あははは!! まさか! 千夏さんはロボットですよ? ステンレス製ですよ!?」

 「違います!! ステンレスなんかじゃ作られていません!!」

 まあ確かにロボットなので、花粉症なんてあるわけないから、そういう結論に今まで至っていなかったんですけどね。


 「黒服さんに診てもらったらどうですか?」

 「う〜ん……あいつに身体を任せると、変な機能が1つプラスされて帰ってくることになりそうなんで嫌です」

 「じゃあ民間療法に頼りましょうか?」

 「民間療法……なんだか怪しい響きですね。民間って所が」

 「よく効きますって。私も調子が悪い時とか試しているんですから」

 「雪女さんにも調子が悪かった時ってあったんですね」

 「ええ。お義母さんに20時間労働強いられた時とか」

 それは治療うんぬんより、しかるべき所に訴え出るべきだと思うんですけど。


 「まず、ヨガを試しましょう!!」

 「ヨガ? ダルシム?」

 「は? なんですかそれ?」

 ……世代的にはあまりヒットするものでもないですか。

 「こうやって自分の足を背中で掴むポーズがですね、体調の改善に良く効くんですよ」

 「うわー柔らかっ!? すごいですよ雪女さん!! タコみたい!! タコ女って呼んでいいですか!?」

 「駄目です!! そのあだ名は断固拒否します!!」

 ぴったりだと思ったんですけどねえ。

 「ほら、千夏さんもやってみてください」

 「あいて、あいててて…………無理ですよ。手が届きません」

 「千夏さんって身体硬いですねえ……やっぱりステンレス製だからですか?」

 「違うってば。あいたたた……これは駄目だー」

 「関節を無視した感じで。こう、ばきってやっちゃってくださいよ」

 「簡単に言って……。ううっ、もう駄目」

 ヨガは早々にギブアップさせていただきます。



 「じゃあこのヨーグルトでも食べませんか?」

 「おー、いいですねそれ。食べるだけって言うのがやる気を誘いますねえ」

 ぐうたらな私にぴったりだと思います。

 「じゃあどうぞお食べください♪」

 「わーい♪ ちなみにこのヨーグルトは何か特別な製法でもされてるんですか?」

 「はい、特別製なんだそうです」

 「へぇ〜……」

 「……」

 「……いや、特別製ってだけ言われてもピンとこないんですけど?」

 「えっと、私もよく分からないんです。リーファさんに貰ったものですから……」

 「リーファちゃんに!? それってつまり毒物ってことじゃないんですか!?」

 「まさか。私、なんどか食べてますけど平気ですよ?」

 「……雪女さんは妖怪じゃないですか」

 「千夏さんはロボットでしょう?」

 人間並みの繊細な生命力を持ったロボットなんですよ。



 「ヨガもヨーグルトも駄目なら、今度は……」

 「はあ……ぱっぱと治す方法ないですかね?」

 もういい加減疲れたんですけど?

 「お〜い、千夏」

 「うん……? ああ、黒服ですか」

 「元気か?」

 「目が痛い以外は普通ですよ」

 「ふ〜ん、そうかぁ。やっぱり」

 ……やっぱり?


 「黒服さん? やっぱりって、どういうことですか?
  なんだか、私の目が痛いことについて身に覚えがあるみたいな……」

 「はっはっはっはっ!! 面白いこと言うな千夏は」

 そんなに面白いこと言ってませんよ。

 「まるで俺が寝ている千夏をいろいろ改造していた時に、ちょっとヘマしちゃったみたいなこと言っちゃって」

 「うわー!! すごく綺麗な形での自供!?」

 っていうかやっぱりあなたが原因なんですか。


 「ほら千夏さん!! 今度は紐無しバンジーで治療しましょうよ!!」

 「原因が分かったからもういい……っていうか何させようとしてんですか」




 3月28日 月曜日 「喫茶店開業初日」

 「みんな!! サービス業は笑顔です。とりあえず、笑顔で誤魔化しなさい!!」

 「……」

 「あと、3秒に1回は、もうちょっと高いメニュー頼みやがれという視線をお客様に向けること。OK?」

 「……」

 「あと、千夏みたいに不機嫌メイドを装うことによって萌え度をUPさせる方法もいいわね。
  さすが千夏。あざとい」

 「ちげえよ! 本気で不機嫌なんですよ!!」

 「あ? そうなの? 紛らわしい」

 このダメ母親兼ダメ経営者め……。




 えっと、今日は我が家を改装して経営される喫茶店『チナツ』の営業初日です。
 喫茶店というか、メイド喫茶です。もっといえば、コスプレ喫茶です。もっともっと言えば、ある意味キャバクラです。

 「おかーさーん」

 「どうしたの千夏? またクレーム?」

 「似たようなものです。
  ダージリンティーが一杯700円って、ぼったくりじゃないですか?」

 「喫茶店って普通の食事を高く出す所なんでしょ?」

 お母さんの喫茶店観ってなんですか。

 「メニューにある、チナツラーメンって何?」

 「屋号のついたラーメンはその店の自慢の一品に決まってるじゃない」

 ラーメン屋を開け。喫茶店でやるな。

 「オプションメニューの『ドジ』っていうのは……?」

 「頼まれたら料理や飲み物をこけてお客様の頭にぶっかけなさい。
  で、そのあとに慌てて持っているハンカチで拭くべし。
  『ごめんなさいご主人様』と言いながら涙目ならばもっとよし」

 「どんなプレイだっつうんだよ!!」

 「もういい加減腹をくくりなさいよ千夏! 女の癖に諦め悪いわよ!」

 「女は関係ないでしょう!!」

 「ロボットの癖に諦め悪いわよ!!」

 「それこそもっと関係ない!!」

 「私の娘を11年間やってるくせに、諦め悪いわよ!!」

 「それは、うぐ、うぬぬぬ…………」

 確かにと、納得しちゃったじゃないですか。



 「さあクレーマー千夏は放っておいて、戦闘用アーマーに着替えましょう!」

 「戦闘用アーマーっていうか、ただのメイド服でしょ?」

 「これはただのメイド服じゃないわよぉ。動きやすさを重視した設計なの」

 「動きやすさっていうか、ただ露出を上げているだけな気がするんですけど?
  胸元開けても動きやすくならないと思うんですが?」

 「胸元開けると心が躍りやすくなります」

 上手いんだか上手くないんだか分からないこと言いやがって……。





 「うわー、これ、サイズ合ってないじゃないですか。ぶかぶかなんですけど?」

 「俺の方はキツキツだよ。マジで苦しい……」

 確かにウサギさんのメイド服はぱっつんぱっつんでした。どこがと言えば、その胸が。

 「ロリ系はぶかぶか、巨乳系はきつきつ。これが正しい服のサイズ選択よ」

 「お母さん。人間を、よく分からない2つの分野に分けるのは止めなさい」

 「もー、文句はいいからさっさと着替えてよ。まだいろいろとオプション装備つけるんだから」

 その手に持っている獣耳たちは一体……。




 「さあみんな!! いよいよ開店よ!! 頑張りましょう!!」

 おーっと一応なぜか乗り気の皆さんに合わせて、拳を振り上げる私。
 あまり、メイドには合わない気合の入れ方だと思いますけど?

 「いい? 私たちの武器は絶対服従っぽい雰囲気です!!
  ご主人様といいながら、私たちは相手から金をせしめるのです!!
  心は0.1ミリも服従してない所がポイントです!!」

 嫌な言い方だな。

 「意味無く店内を駆け回り、フリフリのレースをなびかせなさい!
  そのせわしい動き、千夏の如し!!」

 「人を落ち着きが無いみたいに言うな」

 「意味無く店内を駆け回り、無駄な巨乳をぷるんぷるんさせなさい!
  その腹が立つ動き、ウサギさんの如し!!」

 「うわぁ、すごくムカつく言い方」

 「意味無く客の傍に寄り添い、媚を売るように見せながら虎視眈々とチャンスを狙いなさい!
  その心構え、リーファちゃんの如し!!」

 「ちょっと! それはなんだか酷い!!」

 「あとは、え〜っと……いろいろ皆から学ぶような感じで!」

 最後まで例えるのが面倒になっちゃったんだ? 根気がないよ。



 「さあいきましょう!! 戦争の始まりよ!!」

 「「おーっ!」」

 微妙な感じの盛り上がりで始まりましたけど、とにかく喫茶店チナツ、開業です!!




 「客、いねえー!!!!!!!!」

 そういえば、全然宣伝してませんでしたね……。
 初日から、大コケです。




 3月29日 火曜日 「愚痴、オンパレード」

 「まああれよ。私もまさかこうなるとは思わなかったのよ」

 「……急に何を言い出すんですかお母さん」

 「喫茶店、こけるとは」

 ああ、それはあまり思い出したくないことなんですけど。

 「今日も客来ないわね」

 「そうですね。でもウサギさんとリーファちゃんが街にチラシ配りに行ったから、もう少し時間経ったら来るんじゃないですか?」

 「早くお客来ないかなぁ。オメガティック・ブラスト、いっぱい作ったのになあ」

 「カレーの方のオメガね。お客さまに必殺技食らわしちゃうと思っちゃった」

 まあ食べたら死ぬのは変わりない気がしますけど。


 「でもさ、人生って中々上手くいかないものよね。どう考えたって成功すると思われた喫茶店がこけるんだから」

 「絶対的にお母さんのミスのせいですけどね。
  っていうかなんでそんなに経営に自信があるんですか? その自信、どこからきているんですか?」

 「我が家はキャラが揃ってたから、どんなニーズにも応えられると思ってたのよ」

 風俗店的思考だな。
 あと、我が家には『純粋さ』も持ったキャラが絶望的に枯渇していると思います。


 「あ〜……客こないかなあ。これじゃあメイド服が腐っちゃうよ」

 「腐りませんよ。何で出来てるんですかこの服は」

 「デンプン質が主な主成分です」

 「え!? マジで腐るの!? なんでそんな服作ったんですか!?」

 「勤務中にお腹が空いたら食べられるように」

 「意味が分からん。間食を用意しておけばいいじゃないですか」

 「食べるときはスカートの裾や、胸の谷間の方から食べるべし。
  これで、集客率UP」

 なんでそんな馬鹿なアイディアを思いつくんでしょうか。
 親として、全然尊敬出来ないんですけどー?


 「あ、そうだ。お客さんが来た時のためにさ、予行演習してみない?」

 「面倒だから嫌です」

 「よし。それじゃあ私がお客役ね」

 「……別に、無視はいつものことだからいいですけどね」

 親に無視されることを慣れてしまうのはどうなんですかねぇ……?


 「じゃあまず私が店に入る所からね。よーい、スタート!!」

 「いらっさい」

 「カーット!! なによそれ千夏! どこの古びたラーメン屋の店主の迎え方なのよ!?」

 「どこのって言ってる割には何だか限定された例えですね……」

 「いい? メイド喫茶なら『お帰りなさいませご主人様』。これ基本。
  アカシックレコードにも刻まれている世の摂理。OK?」

 「はいはい。了解しましたよ」

 「もう一度行くわよ? よーい、スタート!!」

 「お帰りなさいませご主人様。今日も素敵にオタク臭ですね。うふふ」

 「カーット!! すごく馬鹿にしてる!! 馬鹿にした感じが滲み出てる!!」

 「自分なりにうふふという笑みで濁してみたんですけど?」

 「濁すことに気を使うよりも、そういう発言しちゃ駄目でしょ!!」

 「ついつい本音が、物の見事なストレートな感じで垂れ流しになっちゃいました」

 「もう1回行くわよ!? よーい、スタート!!」

 「お帰りなさいませご主人様。今日のメニューはいかがいたしましょうか?」

 「ナイス! ナイスよ千夏!! やれば出来るじゃない!! さすが私の娘」

 「いいの? 他人にご主人様なんて言う娘を、誇っちゃっていいの?」

 「うんうん誇っちゃう。あなたはどこに出しても恥ずかしくないくらいの服従っぷりよ」

 「恥じろよ。服従しちゃってんだから」




 「……客、来ないですねえ」

 「そうねえ」

 「せっかくどんなに嫌悪感を感じる人にも媚びることが出来るアビリティを得たっていうのに、使うこと出来ないじゃないですか」

 「あ〜あ、やっぱりホットケーキ1000円は高すぎたかなぁ」

 「……チラシに書いたんだ? そんなぼったくり価格を?」

 「借金返すためにはこれくらいやらないといけない感じだったのよ。
  あ〜あ、これならもっとメイド服の露出を上げるべきだった」

 「安くしろよ。料理の値段を」


 今日の入客数は12人でした。
 ああ……なんだかとても先行きが不安ですよ?





 3月30日 水曜日 「家宝、追加」

 「千夏ちゃ〜ん、これあげる」

 「え? なんですかこれ?」

 おばあちゃんが私に日本人形をくれました。
 ……なんで?

 「前にね、千夏ちゃんに家宝あげたでしょ?」

 「ああ、本当に108個あったやつね」

 「で、それの109個目なの」

 「いい加減いらないんですけどー!?」

 私の部屋、我が家の家宝で一杯なんですが。
 すっごい困ってるんですけど。


 「っていうかさ、なんで家宝が増えるんですか? 普通、そんなにポンポン増えないでしょ?」

 「私がね、散歩すると家宝が増えるの」

 「へ? なんで?」

 「いろいろね、道に落ちているものだから」

 拾ったんだな? 道に落ちてる物、拾って家宝って言ってたんだな?
 というか今までもらった家宝も誰かの落し物だったんですか。そんなのを、家宝と呼ぶな。



 「さあ、この家宝も貰ってちょうだい♪」

 「なんかさ、私に押し付けてるよね? 家宝と言いながら」

 「この人形すごいのよ? 髪とか伸びちゃうし」

 「びっくりするぐらい分かりやすい霊現象じゃないですか」

 「夜中にはうめき声を上げるし。最近の技術って凄いわね♪」

 「何か宿っちゃってる気がするんですけど?」

 「ほら千夏ちゃん。貰え」

 ついに命令口調に……。
 おばあちゃんに逆らえるわけ無いので大人しく貰っておくことにします。
 まあ、後でこっそりリーファちゃんの部屋にでも置けばいいだけですしね。




 「そしてなんと! 記念すべき110個目の家宝をどうぞー♪」

 「うわー、もうなんていうかさっきの人形が数合わせなのが丸分かりじゃないですか」

 おばあちゃんが私にくれた物は……たった一枚の紙。


 「うわぁ、すげえしょぼいぃ……。
  110個目でこれかよぉ。さっきの人形貰ってまで欲しいものじゃないですよ」

 「別にこれは家宝じゃ無いわよ。この紙はただのチケット」

 「チケット? なんの?」

 「船のチケットなの。この船で行ける島にね、私のすごい家宝が隠してあるのよ」

 「へぇ〜……島に宝を隠すなんて、どこぞの海賊みたいなことやってますね」

 「あら、言わなかったっけ? 私、昔は海賊やっててね、七つの海をぶいぶい言わせていたのよ?」

 「知りませんでしたよ。まさかおばあちゃんが犯罪に手を染めていたとは」

 「海賊って言ってもアレよ? 夢と宝を追い求めて後悔する素敵な旅人のことよ?
  たまに他の船を襲ってたりしたけども」

 「それが、犯罪だというのです」



 「というわけで千夏ちゃん。最強の家宝が欲しいのなら、その島に行って自分の力で宝をゲットしてきなさい!!」

 「面倒なので行きたくないです」

 「その島に行って、自分の力を宝をゲットしてきなさい!!」

 「いや、だからですね……」

 「宝を、ゲットしてこい」

 「はい」

 また面倒なことになりそうです…………。






 3月31日 木曜日 「冒険の準備」

 何故か家宝を取りに行くことになった無人島。
 ものすご〜く行きたくないんですけど、おばあちゃんの命令だから仕方ないです。
 ……憂鬱だあ。


 「千夏? 何してるんだ?」

 「あ、ウサギさん……あのですね、実は無人島に行くことになりまして……その準備してるんです」

 「は? なんでまた無人島に?」

 私が聞きたいです。


 「俺も一緒に付いて行こうか?」

 「本当ですか!? それはすごく心強い……」

 「ダメー!! 絶対ダメー!!」

 ウサギさんの素晴らしい気遣いを亡きものにしようとしてきやがったのは、何故かお母さん。
 私に何の恨みがあるっていうんですか。

 「何なんですかお母さん。嫌がらせなら他所でやってくださいよ」

 「ウサギさんが家から出て行っちゃったらさ、喫茶店の売り上げ落ちるじゃん!
  千夏の代わりはリーファちゃんで務まるけど、ウサギさんの代わりはいないのよ!!」

 「属性的に?」

 「そう、属性的に」

 誰か、馬鹿に付ける薬持ってませんか?



 心強い味方であるウサギさんを連れて行けないので、無人島に持って行く道具はすごく気を使って選別しないといけません。
 さっきまでリュックに入れていたうまい棒は取り出すことにします。
 ……いや、非常食にですね?

 「千夏……本当に一緒に行かないで大丈夫か?」

 「ウサギさん……。まあアレですよ。お母さんの傍若無人ぶりは今に始まったことじゃないですし。
  それに家宝を手に入れるのに誰かの手を借りてしまったらおばあちゃんに何か言われそうですし」

 「そっか……それじゃこれ、持って行けよ」

 ウサギさんが渡してくれたのは一本のサバイバルナイフ。
 そういや以前無人島に行った時にもウサギさんはそれを持っていましたね。

 「ありがとうございます。これでサバイバルしまくりますよ!」

 「無理しないようにね。サバイバルなんて、やらないに越したことな無いんだから」

 「はい、分かりました」

 さすがに私じゃナイフ一本で無人島を生き残ることなんて出来ませんしね。
 そこはちゃんとわきまえてますよ。


 「千夏お姉さま! 無人島にウサギと心中しに行くって本当ですか!?」

 リーファちゃんがそんなこと口走って我が部屋に突入してきました。
 誰から聞いたんだ。多分、お母さんかおばあちゃんなんでしょうけど。

 「540°くらい事実が湾曲してますね。
  ウサギさんとは行きませんし、ましてや死に行くつもりもありません」

 「ちぇー、すっげえ残念」

 最近リーファちゃんって本音が垂れ流しじゃありませんか?

 「で、本当の所は何処に行くんですか?」

 「無人島にですね、我が家の家宝を取りに……」

 「よく若気の至りでやる、自転車で北海道一周とかそういうノリなんですね?」

 「違います。どんな至り方だそれは」

 「じゃあお姉さまの旅の安全を願って、このC4爆弾をプレゼントいたします」

 「心なしか旅の危険度が10倍以上に」

 「使い方はですね、この信管を爆弾に差してスイッチを押すだけなんです。すっごい簡単でしょ?」

 「はあ……一応いただいておきます」

 船に乗る時に没収されそうですけど。



 「千夏さん!! 新婚旅行の下見に行くって本当ですか!?」

 今度は雪女さんがやってきました。
 しかしまあ自分に都合のいいように仕上がった勘違いですね。

 「違います。断じて違います」

 「あ、そうですよね。私を驚かすためにひっそりと行こうとしていたんですもんね。
  今ここで真実を明かす訳には行かないんですもんね」

 「だから違いますってば。っていうか私と雪女さんは結婚してないでしょうに」

 「大丈夫です! 私、気付いてないフリしますから! こう見えても演技は得意なんですよ!!
  あー、千夏さんが旅行に行っちゃうけど、全然その理由が分からないよー。ね?」

 何が『ね?』なんだ。何が。
 大根を通り越してゴボウって感じです。なんとなく。

 「びっくり旅行を妻にプレゼントしようとしてくれる素敵な千夏さんに、お守りをあげちゃいます♪」

 「妻じゃないじゃん」

 「はいどうぞ。アサルトライフルです♪」

 「えー!? なんでアサルトライフル!?」

 「AKなんとかっていう種類らしくて、テロリストも使ってる素晴らしい性能の銃らしいですよ♪」

 「今の説明聞いても嬉しく思えない」

 「旅先に何があるか分からないじゃないですか。
  ほら、日本には自己責任論という恐ろしい集団意識がありますし。
  あれの矛先をその身に受けないためにも、持って行くべきだと思います」

 「私は別に戦時中の国に行くわけじゃないですよ?」

 まあ貰っておきますけど。
 絶対に、船の入り口で止められますけどね。




 「千夏ー。次の武闘大会に向けて修行するんだって?」

 今度は黒服です。

 「私はどこぞの戦闘種族じゃないのでそんなことしません。
  そして、少年漫画的展開みたく何度も武闘大会なんて出ません」

 「そんな頑張りやさんなお前にプレゼントが……」

 もしかして皆、私の荷物を重くしようとしてるんじゃないですよね?
 嫌がらせに思えてくるんですけど?

 「対戦車ライフル(黒服スペシャル)です。どうぞお受け取りを」

 「でかっ!? 重っ!? こんな大砲みたいなライフル持っていけるわけないじゃないですか!!」

 「大砲なんて大げさな。一般的な対戦車ライフルと同じぐらいだぞ?」

 私は一般的な対戦車ライフルを知りません。

 「無理です。持っていけません」

 「今なら弾である劣化ウラン弾が15発も付いてくるのに……」

 素敵に被爆りそうなんで却下します。


 「じゃあ代わりにこれを貰ってくれ」

 「……なんですか? この怪しげな携帯電話っぽい物は?」

 「弾道ミサイルの発射装置です」

 そのミサイル、核とか積んでませんよね?

 「こいつで座標を指定して発射してやれば、世界中どこに居てもミサイルをぶち込むことが出来ます。
  まあ発射基地との兼ね合いで時間はかかるかもしれないけどさ、大抵の軍事施設なら一撃だから」

 「ねえ。私さ、別にテロリストを駆逐するような任務を負って旅に出るわけじゃないんですけど?」

 「こっちのボタンでミサイルの種類を選ぶんだ。俺的にはバンカーミサイルとBC兵器搭載のミサイルがお勧め」

 聞いちゃいねえ。




 さて、準備が一通り終わったので、もう寝ることにします。
 明日はついに無人島ですか。一人旅なんて本当に初めてなので、とても緊張します。
 なんだか、遠足の前の日みたいですね。今日は寝れないかも♪




 ふと私の頭に、明日の光景が浮かびます。
 サバイバルナイフを腰に差し、アサルトライフルを担ぎ、プラスティック爆弾をリュックに詰め込んだ、歩くミサイル発射管制塔と化した私が、大海原を突き進む船に乗っている光景。



 私は、どこに行こうとしているのですか。





 4月1日 金曜日 「エイプリルフールネタでいろいろ苦労したので今日は短め」

 今日はいよいよ我が家の家宝があるらしい無人島へと行く予定です。
 準備は昨日で全て済ませましたので、あとは朝10時に家を出て船に乗り込めば……。

 「ううぅん……? あり? 今、何時……?」

 なんだかやけに窓から入ってくる日差しが眩しいと思って、枕元にある目覚まし時計を見てみますと
 ……その、12時でした。もちろん昼の。

 「あっれえぇ!? なんでアラーム鳴らないの!? これじゃ船に乗れないじゃん!!」

 無人島への船は一日一本しか無いんですよ。
 つまり、もう今日は無人島へと行くことが出来ないんです。

 「どうしたの千夏? 騒がしいったらありゃしないわね」

 「お母さん! なんで起こしてくれなかったんですか!! おかげで船に乗り遅れましたよ!!」

 「目覚まし時計セットしておいたんでしょ? まったくもって私の責任じゃないわよ」

 「た、確かにそうですけど……。もう、なんで今日に限ってアラーム鳴らなかったんだろ?」

 「多分、エイプリルフールだから時計さんも嘘をついて、音を鳴らさなかったのね」

 「歳に合わないメルヘンな妄言吐くな」

 「千夏。埋めるわよ?」

 そ、それはエイプリルフールな嘘ですよね……?





 そんなこんなで暇になっちゃったので、こんなものを作りました。
 ええもちろん。今日は、そういう日ですから。

 ……それにしても時間かかりました。サンプル画面の奴が。
 普通の絵だし。




 4月2日 土曜日 「ついに出航」

 今日はなんとか10時前に起きて、船の出港前に港に着くことが出来ました。
 これで慌てずに無人島行きへの船に乗れます。
 ……家宝探しに。

 「ふう、なんとかこれで一安心です」

 「千夏、何か忘れ物とか無いか?」

 「大丈夫ですよウサギさん。何度も荷物の確認しましたから」

 「そっか……それじゃいよいよ出発か。
  少し寂しいな……」

 「ウサギさん……」

 「そうですよ千夏さ〜ん! 1人で新婚旅行の下見なんて止めてくださいよぉ」

 傍に居た雪女さんが勘違いコメントを吐きます。
 意味的には、行かないでという事なんだと思います。


 「ダメよ雪女ちゃん。これはね、千夏ちゃんの成長のためには必要なことなんだから」

 「はい……分かりました」

 おばあちゃん。いつから家宝探しにそんな意味が付加されたんですか。
 ただの、おばあちゃんの娯楽だったんでしょ?

 「千夏ちゃん。この試練に耐え切って、立派な女になって帰ってきてね」

 「立派な女性はですね、無人島でサバイバルしないと思うんですよ」

 「これは我が家の家訓なんだけど……『牛革のバックより、仕留めた牛を担ぐべし』と言い伝えられていてね?」

 「そんなパワフルすぎる家訓が伝わっちゃってるんですか。我が家は」

 「女性は常に強くあるべしと言う事よ。私のお母さんにもそう教えられたわ」

 なんというか、私は将来なにがあってもプチセレブなんて名乗れないんだろうなあと思う教育方針ですね。
 優雅という言葉に一番程遠いです。



 「千夏」

 「お母さん……」

 なんだかいつもより真剣な顔のお母さん。
 一応お母さんはお母さんなりに心配してくれているんでしょうか。

 「おみやげはね、饅頭よりせんべいの方がいいわ。
  日持ちするし」


 「まったく別のこと考えてたー!?
  っていうかお母さん!! 無人島に観光用の土産はありません!!」

 「え? そうなの? めっさつまんないじゃんそれ」

 「めっさと言われても困るんですけどね」

 「千夏はさ、なんでそんなつまんない所に行くのよ?」

 「その真相については私のほうが深く追求したいのですけどね。
  簡潔に言うと、なりゆきです」

 「すごい人生ね」

 「ええ本当に」

 「まあ、さ。頑張ってきなさいよ。私たちの家の住所は覚えてるでしょ?」

 「覚えてるに決まってるじゃないですか。私を何歳の子どもだと思っているんですか」

 「じゃあ大丈夫だ。迷うことはあっても、必ず家に帰ってこれる」

 「お母さん……」

 一応、心配してくれているんですよね?



 その後、リーファちゃんに罵られ、黒服に適当に流され、女神さんには会えなくて。
 一応、皆との別れは済みました。
 なんだこの温度差は。

 「千夏。もう行くんだな……」

 「はいウサギさん。少しだけ家を留守にしますけど、必ず戻ってきますから。
  だから、なんていうか心配しないでください」

 「心配するなって言うのは無理な話だけどな。
  いくらなんでも、無茶すぎる旅だし」

 苦笑いするウサギさん。
 確かに、ウサギさんの言うとおり、無茶すぎると思います。
 まあこういう人生ですので、少し諦めてますけどね。


 「じゃあな千夏。必ず帰って来いよ」

 「はい。必ず帰宅します。
  ……で、お別れのキスとかやってくれないんですか?」

 「へ? やって欲しいの?」

 「ウブでロマンティックな少女としては、ここでドラマ的な展開を期待したいんですけど」

 「あはは、分かったよ。ほら、目ぇ閉じて」



 唇に温もりを感じながら考えます。

 人には数々の旅立ちの時があると思います。
 新しい世界への第一歩。新しい自分を探すための第一歩。
 それは人の可能性を示すもので、すごく希望に溢れたものだと思います。

 でも、万人がそういった旅たちを望むことはありません。
 みんな、怖いから。新しい世界への旅というのは、すごく怖いものだから。
 先に何があるのかなんて予想できなくて、ぶよぶよした柔らかい地面を歩いているみたいでとても不安で。
 だからみんな、躊躇してしまう。

 でも、私には家族がいます。帰ってくる場所が、確かにあるのです。
 ちゃらんぽらんで馬鹿馬鹿しくて救いようがない家族ですけど、私の帰ってくる場所を示してくれる、とても温かい灯台なんです。
 そんな後ろ盾があるから、私は迷いません。
 私は、絶対にここに帰ってきます!!



 ゴミとロボとイジメの関係 第1部『愛情のこもったチキンドリア始めました♪』 完

 第2部『我ら、イングランドのサポーターである』は今年の夏公開予定だよ♪ 楽しみに待っててね。









 「ってなんだコレー!? 少年漫画の、もっと言えばジャンプ的な打ち切りマンガの最後っぽい展開ですよ!?」

 私の人生は第1部とかそんな分け方するようなものではありませんし、
 何より明日も普通に日記書きますんで、そこんところよろしくお願いします。












過去の日記