4月3日 日曜日 「無人島、到着」

 「あうあぁぁ〜うが、むふぬあぁぁ〜……」

 いきなり妙な奇声を上げてごめんなさい。
 えっとですね、今私が置かれている状況を説明しますとですね、
 貨物船のですね、貨物庫にいるんです。

 ……ええ、そうですよ。
 密入国的感じな乗船してるんですよ。
 おばあちゃんのチケット、全然意味ありませんでした。

 で、何故私が奇声を上げているかと言うとですね、ええ、もちろん船酔いですよ。
 貨物庫にいる私に容赦なく襲ってくる波の揺れがですねそれはもうすごいんですよ。
 身体中シャッフルされたような嫌悪感がですね、凄いことになっちゃってるんですよ。


 「うあう、むはぁ……みょふぅ〜……」

 ごめんさい。いろいろ、見せられない状態になりました。
 乙女の恥じらいとかそういうのに気を使う人間じゃないので言っちゃいますと、
 リバースしました。
 何をと聞かれたら、具体的な食品名を挙げちゃいますよ?
 だから、聞かないで。





 「よ、ようやく着いた……」

 昨日の出港から役30時間で無人島に到着。
 おばあちゃんに聞き忘れたんだけどさ、この島って何処にあるのかな?
 なんていうか、絶対に日本国の領土では無いっぽいんですけどー?


 「ふぅ……世界で始めて船酔いで死にそうでしたけど、なんとか助かりましたね。
  さて、これからこの島で我が家の家宝を探して……」

 目の前に広がるのは、熱帯雨林、断崖、そして謎の遺跡。
 ……なんだこのテレビゲームちっくな無人島は。っていうか謎の遺跡って。


 「は〜いこんにちは♪ 新規のチャレンジャーの方ですか?」

 ……どうやら船酔いは脳に重大なダメージを与えたらしく、私の視界に妖精という素敵幻覚を見せてくれました。
 あう〜、誰か、至急酔い醒ましを。むしろ、精神安定剤を。

 「おおう! 呆然という言葉を絵に描いたような表情ですね!!
  素敵です! 素敵リアクションです!!」

 「えっと、あの……」

 「いやいやいや!! みなまで言わなくてもいいです!!
  あなたは今、こう思っているはずです」

 ちっこい少女の姿をして、背中に虫の羽を生やしている妖精。なんていうか、存在自体がふざけているように思えます。
 そんな奴が両手を腰に当てて偉そうな表情&態度。なんだろう。夢みてるのかな?

 「これから大冒険が始まると思うと、ワクワクするぜえ!! って、思ってらっしゃるんでしょう!?」

 「いや、昆虫羽少女、キモいって思ってました」

 「そんな馬鹿な!? 私の予想が外れたことも驚きですが、何より愛らしい妖精という存在を侮蔑する乙女なんて、聞いたことありませんよ!!
  こんなに可愛いのに! 私、こんなにも可愛いのに!!」

 「あのですね、外見では無くて、たった2、3言交わしただけで感じる性格的なアレがですね……」

 「さーて! あなたにはこの島におけるルールを説明したいと思います!!」

 その切り替えの速さは天才的ですね。
 っていうか……島のルール?

 「あの〜、ここって無人島なんじゃないですか?
  ルールって……何かの保護区とか?」

 「だから、その疑問を今説明しようとしてたんでしょうが。
  口、挟むなよ」

 「ご、ごめんなさい」

 何ですかこの態度の変化は。情緒不安定?


 「まずこの島における目的ですが、123枚のモンスターカードを集めることです。
  全部コンプリートしたものだけが究極の宝への道が開いてですね……」

 「質問があるんですけど、モンスターカードって? この島で売ってるんですか? 土産?」

 「モンスターを倒すと手に入れることが出来るカードです」

 ……あれ? なんだか話がおかしくありません?

 「あとですね、これの亜種でアイテムカードというのがありまして、これを全種類72枚集めることで伝説の武器が……」

 なんだか、すごくゲームっぽいっていうか。

 「あとスペルカード全種類30枚で素敵な特典を受けることが出来るんです。余裕があったら集めてみてはいかがでしょうか?」

 「すみません。すごく聞きたいんですけど、これってまるでテレビゲームの世界みたいなんですけど?」

 「ええ、テレビゲームの世界です」

 「なんですってー!?」

 さらっとすごく困惑すること言わないで欲しいです。
 っていうかテレビゲームの世界って、船で行けるんですね。
 知らなかった。知りたくなかった。


 「あ、それよりもまずチケットを拝見してよろしいですか?」

 「チケット? ……ああ、おばあちゃんから貰った奴ですね。ここで使うんですか」

 「はい、拝見いたしま〜す。……ってこれは!? ゲームマスターの特製チケット!?」

 「ゲームマスター!? おばあちゃんってこのゲームの支配者だったんですか!?」

 「はい。あの人が作ったんですよ。この島」

 なんてことしてんだよ。





 「さあ、いよいよあなたの冒険が始まります!!」

 「まさか、こういう形の冒険するとは思いませんでした。サバイバル止まりだと思ってたのに、RPG的冒険だとは」

 「それではっ、ゲームスタート!!」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……あれ? 行かないんですか?」

 「えっと、今日はここにベースキャンプを張ろうと思ってまして……」

 「今まで見たことが無いほど消極的な冒険者だー!?」

 現実的と言ってください。





 ○RPG的、現状のステータス

 名前:千夏

 状態:船酔い

 装備:サバイバルナイフ。アサルトライフル。C4爆弾。弾道ミサイル。

 カード:保健手帳




 「保健手帳はカードに含まれませんよ!!」

 「え? そうなの!?」

 心底どうでもいいですが、私って攻撃力が高すぎる気がします。



 4月4日 月曜日 「初エンカウント」

 「あー清々しい朝ですねー。やっぱり無人島とかになると、車とか工場とか、
  そういう類の排気ガスが無いからなんでしょうね。
  空気がとっても綺麗です」

 「もしもーし。千夏さーん?」

 「ん? なんですか昆虫少女」

 「なんて可愛げのない呼び名なんですか!! 私にはラルラレイという立派な名前があるのですよ!!」

 「レルラルイ?」

 「微妙に違います。ラルラレイです」

 「ランバダ?」

 「もっと遠くなっちゃったじゃないですか!! ラルラレイですってば!!」

 「面倒だから、ラルラでいいですか?」

 「くっ……嫌だと言ったら?」

 「ランバダで統一したいと思います」

 「ラルラでお願いします」

 最初からそう素直になればいいのに。


 「で、私の名前の話は置いておいてですね、さっそく冒険の旅へと出発してくださいよ!
  初めてですよ!? ゲーム開始5分でベースキャンプ張った冒険者は!?」

 「あのですね、昨日は船酔いしてまして」

 「だからってですねえ……まあいいです。さあ、今日こそはカード集めに奔走してください!!」

 「分かりました! さっそく出発いたします!!」

 「おお、さすが!!」

 「ところでどこかに水場ありませんか?」

 「へ? 水場なんてどうするんですか? 飲料水はまだ足りているでしょう?」

 「私、朝シャン派なんで」

 「全然冒険する気無かったー!!」

 やはりここは乙女らしく身なりを整えてからですね……。




 「とりあえず基本ルールからお教えしますね」

 「はいどうぞ。私、髪洗いながら聞きますんで」

 「……そのマイペースさは神レベルですね」

 褒め言葉として受け取っておきます。

 今私はベースキャンプから10分の位置にある池にいます。
 大自然でお風呂入るなんて、中々できない経験ですよね。気持ちいいことこの上ないです。


 「この島にいるモンスターを倒すと、カードが現れます。
  それを、一枚一枚集めるんです」

 「すごいですね。この島にはモンスターがいるんですか」

 「念能力で作られています」

 その理論はあまり口に出さないほうがいいと思うんですよ。

 「それでですね、10分の1の確率でモンスターカードと共にアイテムカードが手に入るんです」

 「へぇ〜。この島ではアイテムまでカードなんですか」

 「念能力で」

 だから、それは言わないほうが。

 「で、そのカードって使用することできるんですか? もしかしてただ集めるだけ?」

 「もちろん使うことが出来ます。
  えっとですね、自分の武器のスリットに通すことによってですね、APを使用して特殊能力が……」

 そこはブレイドなのか。仮面ライダーなのか。


 「そんな素敵武器は持ってないんですけど?」

 「持ってるじゃないですか。一杯」

 「何を馬鹿なことを……ってもしかして!?」

 脱いだ服と共に置いておいた武器類を見てみると……確かにそこには妙なカードリーダーらしき物が。
 みなさん。こういうこと見越していて武器をくれたんですか?
 というか、おばあちゃんとグルだったんだ?


 「ちなみにですね、APは1人1000ポイントと決まっていまして、どの武器を使用しても千夏さんのポイントが減っていくんです。
  特殊なスペルカードを使わないとAPは回復しませんので、よく考えて使ってくださいね」

 「へぇ……やけにルールがこんでいるゲームですね」

 「それでそのスペルカードなんですけど……ッ!?
  大変です千夏さん!! エンカウントです!!」

 「へ? エンカウント? 敵ってこと!?」

 しまった。いくらなんでもリラックスしすぎでしたか!?

 「見てください千夏さん! あれがこの地域に生息しているモンスター……!!」

 ラルラさんの指さした方向を見てみるとそこにはっ!!



 ……カメラを持った、息の荒いおっさんが。

 「よ、小学生の裸ハァハァ……」

 「ただの覗き魔じゃん!! しかも救いの無いほど頭がおかしそうな!!」

 「モンスター『覗き魔』です」

 いや、ただの覗き魔でしょ?


 「いやあぁぁ!! 最悪だ! 本当に最悪だ!!」

 「千夏さん! 裸を隠してる場合じゃないですよ! 早く攻撃しないと!!」

 「あほかぁ!! あれ、ただの変態じゃん!!」

 「千夏た〜ん♪ こっち向いて〜♪」

 「誰が向くかボケェ!!」

 蹲る私と、順調にフィルムを消費していく覗き魔。
 なんていうか、ピンチな気がします。
 いや、戦闘と呼べるものなんかじゃないんですけど、なんだか心にダメージ受けてるみたいで……。


 「千夏さん!! このままだと千夏さんの写真だけで写真集作られてしましますよ!
  そして、ネット上で売られてしまいますよ!! コアな人に大人気なアイドルになってしまいますよ!!」

 初写真集で初ヌードですか。それはごめんだ。


 「うらあぁ!! 地獄に堕ちろぉ!!」

 傍にあったアサルトライフルを掴み、それを覗き魔もといモンスターに撃ち込みます。
 モンスターの身体に食い込む銃弾。飛び散る薬莢。どこの戦場だここは。


 「裸体少女にアサルトライフル……なんてマニアックなっ、ぐはぁっ!!!!」

 断末魔まで素敵な思考でした。覗き魔モンスター。
 モンスターの爆発と共に現れたのは一枚のカード。あの人本当にモンスターだったんですね。
 本当の人間かと思ってましたよ。人間だったとしても、攻撃の手を緩めるつもりは全然ありませんでしたけど。

 「千夏さん、おめでとうございます! 一枚目のモンスターカード、『覗き魔』をゲットですよ♪」

 「全然嬉しくない。一枚目がそれなんて絶対に覚えていたくない」

 「ちなみにですね、このカードの特殊能力は透視能力なんです。女の子の裸とか、見放題ですよ♪」

 「そんな売り文句を私に言われても」

 「あとですね、違うモンスターカードの『覚せい剤中毒者』と組み合わせることによって、
  2コンボ攻撃の『田代まさし』を発動することができ……」

 「やばいから! なんだかその表現はヤバイから!!」

 っていうかモンスターに覚せい剤中毒者がいるんですか。
 先がすごく思いやられるんですけど?



 ○RPG的、現状のステータス

 名前:千夏

 状態:生まれたままの姿。

 装備:サバイバルナイフ。アサルトライフル。C4爆弾。弾道ミサイル。

 カード:モンスターカード1枚 『覗き魔』

 残りAP:1000P


 なんだろう。すごく頭の悪いステータスに見えるんですけど。





 4月5日 火曜日 「島、半壊」

 「千夏さん千夏さん」

 「うん? ……もう朝なんですか? ローラレイさん」

 「ラルラレイです。あのですね、早く冒険に出発して欲しいんですけど?」

 「冒険したじゃないですか、昨日。変態を突撃銃で撃ち殺すという冒険を」

 「あんなの冒険のうちに入りません!!
  さっさとこの島の奥地に入り込んでどっきどきのアドベンチャーしてくださいよ!!」

 「あのですね、昨日の覗きがPTSDになりまして……」

 「PTSDというのは1ヶ月間精神障害が続いた場合のみ認められるんですよ!
  1日やそこらじゃPTSDなんて言いません!!」

 そんな細かい境界線を説明されても。


 「っていうか今だ行動範囲が10キロにもなってませんよ!?
  やる気あるんですか!?」

 「やる気があるかと聞かれれば……」

 「聞かれれば?」

 「無いです」

 「ああやっぱり」

 だってさー、面倒ですもんよ。




 とりあえずアドベンチャーする気はさらさら無いんですが、食料調達のために森の中を進むことにします。
 いい加減うまい棒(非常食)だけじゃ飽きますし。
 美味しいもの落ちてないかなぁ?


 「千夏さん、ゲームの説明してもいいですか?」

 「え? まだ何か説明することあったんですか?」

 「ええ、昨日モンスターに邪魔されてちょっと説明できないことがあったんです」

 「ふ〜ん……食べ物探しながら聞いていい?」

 「……あなたといると私の存在意義がどんどん奪われていく気がします」

 「おっ、このキノコ食べられるかな?」

 「…………えっとですね、この島にあるカードには3つの種類がありまして」

 おお、私の事を気にせずに進みだしましたね。
 その調子で仕事していってください。

 「このゲームの収集目標であり、カードリーダーにスリットすることによって特殊能力が使えるラウズカード、もといモンスターカード」

 「今、ちょっとやばげな商品名出ましたよね?」

 「2種類目はゲームクリアには関係ないけどあると便利な、アイテムカード。
  これはAPを使用してアイテムを物質化できます。一度物質化するとカードに戻せないので、カードを集めている方は注意です」

 「そのアイテムの中には食料とかありますか?」

 「ないです。残念」

 ギター侍かよ。
 それにしても食料無いんですか……。このゲームって食料調達が一番難しいんじゃ?

 「3種類目はスペルカードです。APを使用することなくモンスターカードより強力な特殊能力を使うことが出来ますが、
  一度使うと消滅します。入手方法が大変なので、すごく貴重なカードです。よく考えて使ってくださいね」

 「へぇ……あの〜、食料はどうやって手に入れれば……」

 「ガンバ」

 ……なるほど、今目の前の敵は餓死なのか。



 「あ、千夏さん。今のうちスペルカードの取得方法をお教えしますね」

 「へ? あ、うん」

 「スペルカードはですね、他のプレイヤーを倒すと一枚もらえるんです。
  だから、すごく貴重なんですよー♪」

 「……他のプレイヤー!? 私以外の誰かもこの島にいるんですか!?」

 「はい、現時点で確認しているだけでも54人のプレイヤーがこの島でアドベンチャーしています」

 ……なんでそんなに見知らぬ他人が我が家の家宝のために頑張っちゃってるんですか。


 「そんなに人がいると、どこかでバッタリと出会ってしまうかもしれませんね」

 「ええ、っていうか実際会ってますからね」

 「へ?」

 ラルラさん指差す方を見ると、そこには迷彩服を着てサブマシンガンを構えるおじさんが……。


 「……逃げろぉ!!!!」

 大急ぎでおじさんとは逆方向に走り出す私。
 おじさんはサブマシンガンを乱射してきやがります。
 撃たれる立場になってようやく理解できることですが、結構怖いですねこれ。

 「きゃー!! 千夏さん!! はやく反撃しないと!!」

 「無理! 絶対無理!!」

 「ほら! 今こそモンスターカードを使用する時ですよ!」

 「透視能力なんて全然役に立たないでしょうが!!」

 「気分が楽になります」

 精神的なそれなのか。



 サブマシンガンおじさんに追いかけられること30分。
 なんとか岩陰に隠れることが出来ました。
 ろくな物食べてないんでもうヘトヘトです。

 「千夏さん。どうするんですか? このままだと3日目にてゲームオーバーになってしまいますよ?」

 「そういわれましても……ここから出たら狙い撃ちされてしまいますし」

 「ここから出ないで敵を倒せばいいじゃないですか」

 「そんなことできれば苦労しません……って、ああ!? その手があったか!!」

 そういやこういう時に役立ちそうな武器がありましたね。


 「え〜っと、『覗き魔』をスロットイ〜ン。使用APは50Pですか」

 「違うアニメになっちゃってますよ。その掛け声は」

 覗き魔の特殊能力で岩陰から敵の位置を確認。
 あとは弾道ミサイル発射装置で位置を設定して。

 「はっしゃ〜♪」

 ポチっとボタンを押しちゃいます。

 「何したんですか千夏さん?」

 「いやね、今弾道ミサイルを発射したんです。これで数分後には空からミサイルが降ってくるんですよ。
  ここから動かなくていいですし、楽々爆撃です」

 「ふ〜ん…………でも、そのミサイルの効果範囲ってどれくらいなんですか?
  もしかして私たちの方まで被害出ませんか?」

 「え……どうだろ? 陽電子爆雷って、どんくらいの威力ですか?」

 「なんとなく、すごく強そうな気がします」

 「……」

 「……」

 「……」

 「逃げろー!!!!」

 今度は自分が発射したミサイルから逃げる私たち。
 なんでこんなに走るはめになってるんでしょうか。





 「すごいですよ千夏さん! 今の攻撃で一気に21人のプレイヤーをゲームオーバーに!!」

 「まあ、島の半分を消し飛ばしましたしね」

 「安心してください千夏さん。この島で死にそうになった者は、強制的に島の外に転送されるんです。
  死者は1人もいませんから罪悪感に悩む必要はありませんよ!」

 「はぁ、そうですか……そういう問題でも無い気がするんですけどね」

 「さあ千夏さん。今の爆撃で倒したモンスターのカード53枚と、プレイヤー撃破のボーナススペルカードです♪
  ちなみにスペルカードは21枚全部『帰宅』です♪ 効果はもちろん名の通りこの島から出ることができますよ♪」

 「なんとなく、この島がとっとと帰れと言っているような気がします」




 ○RPG的、現状のステータス

 名前:千夏

 状態:へとへと

 装備:サバイバルナイフ。アサルトライフル。C4爆弾。弾道ミサイル(封印)。

 カード:モンスターカード54枚 『覗き魔』 その他いろいろ
     スペルカード21枚 全部『帰宅』

 残りAP:950P






 4月6日 水曜日 「プレイヤーキラー」

 「『麻薬中毒者』(飛翔 使用AP80)! 『隠れキリシタン』(踏み絵 使用AP50)! スリット!!
  2コンボ攻撃『スーパージャンプキィーック』!!」

 「ぶげらはぁぁ!!!!」

 人では到達できないくらいの高さまで飛び、落ちる速度を利用して蹴りを放つ私。
 まあ言ってしまえばライダーキックなんですけど、自分で思ったより綺麗に決まりました。

 「すごいですよ千夏さん! 見事モンスターカード『連続放火犯』(炎 使用AP100)ゲットですよ!!」

 「いい加減このモンスターたちはどうにかならないんですかね? 
  カード使って技を放つのも何だか嫌な感じなんですけど」

 なんだかこのゲームにも慣れてきちゃいまして、いい感じでモンスターカードを増やしてます。
 モンスターカードは123種類あるらしいです。今は92種類あるんで、もう四分の一以上集めちゃったみたいです。
 この調子だと明日には全種類集められるかもしれません。

 「ふっふっふっ、甘いですよ千夏さん。そう簡単にこのゲームがクリアできると思っているんですか?
  あのゲームマスターが作ったんですよ?」

 ……確かに、おばあちゃんが作ったものなら甘くなさそうです。

 「実はですね、あるスペルカードを手に入れなければ出てこないモンスターがいるんですよ」

 「え〜……それってつまりプレイヤーとも闘わないといけないって事ですか?
  すっげえ面倒じゃないですか」

 「そういうゲームですので」

 おばあちゃんは私に何をさせたいんですか。


 「はぁ……それじゃあさっそくプレイヤーを探しに……」

 ぱたり。
 そりゃあもう軽やかに倒れる私。

 「千夏さん!? いったいどうしたんですか!?」

 「お、お腹が減りまして……」

 「もう千夏さんったらぁ、びっくりさせちゃって♪」

 いや、笑ってる場合じゃないんですよ。
 本気で死にかけてるんですが? 飢えで。


 「ね、ねえラルラさん……食料は、どうやって調達すればいいんですか?」

 「そこら辺にある草でもかじればいいんじゃないですか?」

 そうですよね。ここは戦場なんですもんね。
 食料なんて、しょっぼい食物繊維しか無いんですもんね。
 死ぬほど、ここに居たくないです。

 「スペルカードの『帰宅』使っていいですか?」

 「え!? ここまできて帰る気なんですか!? こんなにもカード集めたのに!!」

 「空腹にはですね、勝てないんですよ……」

 我が家の家宝なんてもう別にいいですよぉ。
 家に帰ってコロッケとか思いっきり食べたいです。


 「千夏さん! この草とかすごく美味しそうじゃありません!?
  さあ!! ハモハモしてください!! この草を、ハモハモなさい!!」

 「嫌ですー! サバイバル能力の無いただの小学生だから無理なんですー!!」

 「ただの小学生がモンスターをコンボ攻撃でいたぶれるものですか!!」

 なんと的確な指摘を。

 「とにかく嫌ー! もう帰るー!!」

 「……そういえば、スペルカードの中にですね、プレイヤーの体調を回復させる効果があるカードがあった気がします。
  それ使えば、きっとお腹も膨れますよ」

 「面倒。それ手に入れるためにプレイヤーと闘うなんて面倒。
  それ以前にプレイヤー見つけなければいけないってのがさらに面倒」

 「……そう言えば千夏さん。この島の宝って何かご存知ですか?」

 「おばあちゃんが道端で拾ってきたゴミでしょ?」

 「違いますよ! なんでそんなものを宝にしてるんですか!!」

 おばあちゃんの家宝だし。

 「実はですね、この島の宝は……『幸せになれる宝玉』なんです!!」

 「どっかの雑誌で通販されてそうな一品ですね。軽い詐欺じゃん」

 「違いますよ!! 本当に幸せになるんですってば!!」

 「幸せねえ……具体的にはどんな感じに幸せになるんですか?」

 幸せっていうのは人それぞれだと思うんですけど。

 「春歌さんが真人間になります」

 「私んち限定の効力!?」

 確かにそれはすごい。確実に、幸せになれそうです。








 ○とあるプレイヤーの日記

 俺がこのゲームに参加してからもう1ヵ月経つ。
 この1ヵ月の間にいろいろなことを経験してきた。
 死に物狂いでモンスターから逃げ出したこともあった。
 島であったプレイヤーと同盟を組み、共に闘ったこともあった。
 そして……そいつに裏切られたことも。
 ふっ、今となってはいい思い出だ。


 さて、今日も狩りに出かけよう。ターゲットはもちろんプレイヤーだ。
 このゲームで生き残るには、スペルカードが何より必要になってくる。

 「スペルカード『交信』オン!!」

 貴重なスペルカードを使って、他のプレイヤーと連絡を取る。
 相手は俺と同盟を組んでいる一人のプレイヤー。
 同盟を組んでいると言っても油断ならない奴だが、報酬さえ与えてやれば確実な情報をくれる。
 利用できる間は利用するつもりだ。


 「よお、聞こえるか? お前に仕事を依頼したんだが……」

 『お、お前か……久しぶりだ、な』

 「おい? どうかしたのか?」

 『プレイヤーキラーに……やられた……。足を怪我してしまったよ』

 「プレイヤーキラー? 何を馬鹿な事を言っている。プレイヤーキラーは俺の方だぞ?」

 『ち、違う。別のプレイヤーキラーだ……。
  いいか? そいつには絶対に関わるな。出会ったらすぐに逃げ出し……っ!?』

 「どうした!?」

 『あ、あいつがっ!! アイツが迫ってくる!! いいかっ、絶対に!!』

 「おい!!」

 『絶対にっ、アサルトライフルを担いだ女子小学生には気をつけろぉぉ!!!!』

 途絶える交信。
 そして訪れる静寂。


 「アサルトライフルを担いだ小学生、か……」

 この島には、まだまだ謎があるみたいだな。





 ○RPG的、現状のステータス

 名前:千夏

 状態:プレイヤーキラー

 装備:サバイバルナイフ。アサルトライフル。C4爆弾。弾道ミサイル(封印)。

 カード:モンスターカード92枚 『覗き魔』 『隠れキリシタン』 『麻薬中毒者』 『連続放火魔』その他いろいろ
     スペルカード28枚 『帰宅』×21 その他いろいろ

 残りAP:820P


 「やる気バリバリですね千夏さん!! この調子でどんどん行きましょう!!」

 「な、なんか変な称号が付いちゃってる気がするんですけど……?」

 これもみな我が幸せのためです。




 4月7日 木曜日 「ラスボス登場!?」

 「『連続放火魔』(炎 使用AP100)! 『辻斬り通り魔』(斬り 使用AP80)!
  『ドーピング短距離走者』(高速移動 使用AP50)! スリット!!
  3コンボ攻撃『すんごい速さで燃えてる剣で斬る攻撃』!!!!」

 「千夏さん!! もうちょっと技の名前考えて!!」

 いいじゃん別に。


 さて、3コンボをさらっと使ってモンスターを倒してしまうくらいゲームに慣れてしまった私。
 何故無人島でサバイバル能力より戦闘技術が上がっていくのでしょうか?

 「これでちょうど100枚目ですね」

 「はい……。でもなんだかカードの集まりが悪くなってますね。
  ダブりモンスターばっかりです」

 「まあ終盤になったらそんなものですって」

 「あ〜あ。これじゃあ今日中にはゲームクリア出来そうにないじゃないですかぁ」

 いい加減帰りたいんですけど?


 「それにしても『召喚』のスペルカードも手に入らないですねぇ……」

 ラルラさんの言ってる『召喚』っていうのは、特殊なモンスターを呼び出すことの出来るスペルカードらしいです。
 このスペルカードを使わないと全モンスターカードを揃えることが出来ないんですよね。
 すっげえうざったいシステムを組んでくれるものです。
 これが本当のテレビゲームだったら絶対コンプリートしません。

 「さ〜て。それじゃあそろそろプレイヤーを探しに行きますか」

 「おっ、千夏さん。プレイヤー狩りですね?」

 「嫌な言い方しないでくださいよ。ただ『召喚』のカードを手に入れるためにですね……」

 「あっちに居そうじゃありません? なんとなく獲物の匂いがプンプンしますぜ?」

 「何キャラだそれは」






 ラルラさんが指し示す方向に進むこと20分。
 うっそうと生え茂る木々の間を抜け、謎の遺跡へと出ました。
 まあ多分ここはダンジョンみたいなものなんでしょうね。

 「見てください千夏さん! ここに誰かの残した衣服があります! やっぱり私の言ったとおりでしょう?」

 「本当に人の匂いを感じてたんですか。犬なのかお前は。
  それにしてもなんでこんなところに服が……ッ!?
  もしかしてっ、これって罠っ……!?」

 「千夏さん!! 後ろ!!」

 「え?」

 振り返る間も無く襲ってきた衝撃。
 大型トラックにはねられた様な、圧倒的な圧力で私の身体は簡単に吹き飛びます。

 「千夏さん!! 今の漫画みたな飛び方でしたよ!! グっジョブ!!」

 グッジョブじゃねえよ。と突っ込みたかったんですが、
 残念ながら私は地面に打ちつけられた痛みでそれどころではありませんでした。

 「油断したなプレイヤーキラー」

 「がっ、はぁ……だ、誰ですか、あなた……」

 私が通ってきた道。つまり森の奥から1人の男性が歩いてきます。
 つまり……プレイヤーを追跡しているつもりの私の方が、この人に追跡されていたってことですか。
 彼は長身で引き締まった身体を持っていて。なんだか軍人らしき服を着てます。
 多分、こういったゲリラ的な戦闘のプロなんでしょうね。


 「まさか本当に小学生だったとはな。昨日連絡を貰っていなければ油断していただろう。
  しかし俺はお前がプレイヤーキラーだということを知っている。そして、手を抜くつもりは無い」

 「ふふっ……例え油断しなくてもですね、私がやられると思って……」

 「『カミナリ親父』(雷 使用AP100)! 『ヒステリー母』(バーサク 使用AP200)! スリット!!
  特殊コンボ『夫婦喧嘩』発動!!』

 「うわっ! ちょっと待って……きゃああぁぁ!!」

 男性の身体から迸る雷、そして地震&衝撃波。それが、何の躊躇いも無く私を襲います。
 特殊コンボと言うだけあって、普通のコンボではありえない無い効果を喰らわしてくれます。
 死ぬから。マジで。


 「千夏さん!! 大丈夫ですか!?」

 「うっ……な、何とか。左手の感覚が一切無いだけですし」

 「そうですか、それじゃあ平気ですね♪」

 私の強がりを真に受けないで欲しいんですけど。

 「なにっ? 妖精だと……? 案内役であるお前が、なんで1プレイヤーに付き添っている!?」

 「千夏さんには突っ込み役が必要ですし」

 そんな理由だったんですか。

 「というのは冗談で、この人はゲームマスターのお孫さんなんですよ。
  だからえこひいきです」

 それも果たしてどうなんですか。


 「ふん……まあいいさ。今止めを刺してやるからな」

 この島の中では死にはしないらしいですけど、ここまで来てゲームオーバーっていうのはごめんです。
 最後の最後まで、抵抗させてもらいますよ。

 「アイテムカード……『煙玉』(使用AP50)スリット!!」

 「なに!?」

 私が呼び出した煙玉が弾け、周囲一体を濃い煙幕が支配します。
 これで、私の姿は見えません。

 「ちっ! 逃げる気か!!」

 「いいえ! 倒します!!」

 「なにを馬鹿な。お前も俺の姿など見えない……」

 「『覗き魔』(透視能力 使用AP50)! 『ヤクザの鉄砲玉』(特攻 使用AP80)! スリット!!
  2コンボ『こんな煙幕の中でもちゃんと見えるんですよタックル』!!」

 「千夏さん! だから技の名前をですね……」

 そんなこと今は本当にどうでもいいじゃないですか。

 「ぐはあぁぁ!!!!」

 吹き飛ぶ男性。かなりダメージを与えたはずです。

 「くっ、くそ……」

 「よぉし!! このカードで止めです!! 『麻薬中毒者』(飛翔 使用AP80)! 次は……」

 『ブーッ! APが足りません』

 「なんですってー!?」

 「千夏さん!! 千夏さんの残りAPは30しかありませんよ!!」

 こ、こんな時に限って……!!

 「ふふふ……詰めが甘かったみたいだな。それじゃあ俺の攻撃だ!!
  『カミナリ親父』(雷 使用AP100)スリット!!」

 『ブーッ! APが足りません』

 ……相手もかよ。

 「くっ、くそ!! こんな所で!!」

 「その気持ち、すごく分かります」

 さっき経験したばっかりですし。
 さて、APが無くなってしまったらしい私たち。
 あとは殴り合いになりそうですが、私より相手の方がダメージ大きそうなので、なんとかなるでしょう。


 「くそっ……このままやられてたまるかぁ!!」

 そういって相手はカードをスリットに通して……!!

 「スペルカード『召喚』オン!!」

 「え!? なんのつもりですか!?」

 「お前も一緒にゲームオーバーになろうってことに決まってるさ!!」

 「うわ!! なんてみみっちい!!」

 こういう人、ネトゲー内にいそうです。

 スリットされたカードが光を放ち、私たちの周囲を真っ白に塗りつぶします。
 こんな派手なエフェクトで呼び出されるモンスターって一体なんなんでしょうか?
 でもまあ、C4爆弾もアサルトライフルもあるからなんとか……。


 「お久しぶり千夏ちゃん」

 「おばあちゃん!?」

 絶対勝てない。ゆえに、逃げるなり。



 「千夏さん!? 今の、ゲームマスターでしたよね!?」

 「いいから!! とにかく逃げて!! 振り返らないで!!」

 近くにあった遺跡に逃げ込む私。後ろの方からは、先ほど戦っていた男性の断末魔が聞こえます。
 ああ……可哀想に。


 「千夏ちゃ〜ん♪ 待ちなさ〜い♪」

 「いやあぁ!! 追いかけてくるぅ!?」

 逃げろ。とにかく逃げろ。
 あれは、絶対にラスボスだから。




 ○RPG的、現状のステータス

 名前:千夏

 状態:左腕がなんだかふわふわしてます。

 装備:サバイバルナイフ。アサルトライフル。C4爆弾。弾道ミサイル(封印)。

 カード:モンスターカード100枚 『覗き魔』 『隠れキリシタン』 『麻薬中毒者』 『連続放火魔』
     『辻斬り通り魔』 『ドーピング短距離走者』 その他いろいろ
     スペルカード32枚 『帰宅』×21 その他いろいろ

 残りAP:30P








 4月8日 金曜日 「おばあちゃんとの対決」

 まるで迷宮のような遺跡内を逃げ回り、なんとかおばあちゃんの追跡を逃れました。
 多分、まだ私のことを探し回っていると思いますけど。
 なんか、遺跡の壁を壊しているような音が定期的に聞こえてくるんで。


 「千夏さん。大丈夫ですか?」

 「ラルラさん……全然大丈夫じゃないですよ。っていうかおばあちゃんが出てくるなんて反則です。
  絶対勝てないじゃないですか」

 「そこをどうにかするのがこのゲームの醍醐味でして……」

 「もういいです。いくらなんでもあの人に勝てるわけないんですもん。
  スペルカードの『帰宅』を使わせてもらいます」

 「そんな千夏さん!! あとモンスターカードを23枚集めればゲームクリアなんですよ!?
  もったいなさ過ぎですって!!」

 「おばあちゃんという名の召喚モンスターが何よりの壁なんですよ」

 「やれるだけ頑張ってみてくださいよ!!」

 「言うのは簡単ですけどね、やる方の身になってくださいよ。
  おばあちゃんがどれだけの戦闘能力を秘めているか知ってるんですか?
  拳で山を破壊する攻撃力、ゴジラの如し。ミサイル直撃しても死にそうにない頑丈さ、ゴジラの如し。
  というか多分無敵っぽさ、ゴジラの如しなんですよ!?」

 「ゴジラしか如しってないじゃないですか」

 「おばあちゃんはゴジラなんです」

 「初耳です」

 「とにかくですね、あの生物には勝てないんですよ。無理ったら無理なんですよ!!」

 「……千夏さん。何故、ゲームマスターがあなたをこんな無人島に送り込ませたとお思いですか?」

 「嫌がらせ?」

 「違います。いいですか? ゲームマスターはですね、きっと千夏さんに諦めない心をお教えしたかったんだと思うんですよ」

 「……どう考えても今取って付けたかのような意義を唱えられても」

 「ここで諦めてしまったら千夏さんはゲームオーバーです。ここでいうゲームオーバーって言うのは、この島の中での事だけじゃありません。
  人生においてどんなに絶望してても踏ん張れるような、そんな心の強さを身に付けられなければ……千夏さんはずっと負け犬なんですよ!!
  素晴らしい大人になんて、なれないんですよ!!」

 「さすがにそれは大げさすぎです。ゲームで人生決められちゃうなんて……」

 「千夏さん!! 頑張りましょうよ!! 一緒にゲームマスター倒しましょうよ!!」

 「…………はぁ。分かりましたよ。やれるだけやってみます」

 「さすが千夏さん!! このスッポン!! 諦めの悪さでは日本一!!」

 お前が諦めるなって言ったんじゃん。へんなあだ名をつけるなよ。




 APも底をつき、身体にダメージも蓄積しているというかなり不利な状態ですが、おばあちゃんを倒すための準備を始めました。
 具体的に言うと罠を仕掛けているんです。リーファちゃんから貰ったC4爆弾が結構あるので。
 もちろんそれだけで倒せるとは思いません。以前、我が家に張られていた防衛戦を強行突破した実績がありますし。
 突破されたら……身体でぶつかって行くしかないんでしょうね。初めておばあちゃんとガチンコな喧嘩になるかもしれません。

 「ふう……これで罠の設置完了ですね。後はこのスイッチを押せばドカンですか……」

 「千夏さん……」

 「はい? どうかしましたかラルラさん?」

 「私、千夏さんにこのゲームをクリアして欲しいんです」

 「はぁ……それはまたどうして?」

 「私はですね、このゲームのために生まれた存在なんです。やってきたプレイヤーにルールを説明して、見送って……そういう役割を与えられてるんです。
  でも……もう嫌なんです。繰り返しの日常が。永遠の牢獄に支配されたこのゲームが」

 「……ラルラさんは自由になりたいんですか?」

 「はい。自由が欲しいんです。それであの……このゲームをクリアされたら、私は自由になれるんじゃないかって思いまして……」

 「この島で生きていた方が幸せかもしれませんよ? 自由になってしまった方が、いろいろ困ることがあるかもしれません」

 「千夏さん。幸せは生きる『目標』になるかもしれませんが、生きていた『価値』にはなりません。
  どんなに幸せでも、価値を見出せない生き方っていうのは……確かにあるんです。
  私は、今までの自分の生き方に価値を見出す事が出来ません。不幸ではないのは確かなのですが……それだけじゃやっぱりダメなんです。
  死ぬ間際になって、胸を張って自分の人生に価値があったのだと、そう言えるような生き方がしたいんです。
  それが例え……不幸にまみれた人生でも、私にはすごく価値があるものなんです」

 「……そうかもしれませんね」

 「だから千夏さん……私をビンタしてください」

 「話の繋がりが訳分かんないですよ!? マゾ? そういう趣味!?」

 「違います!! いいから! いいからビンタを!!」

 き、気持ち悪いんですけど……。

 「え〜い、パシ」

 「きゃああああぁぁ!!」

 私のビンタを受けて地面に落ちるラルラさん。
 やはり小さい妖精なので、衝撃はかなりのものなんでしょうね。

 「げふっ……。千夏さん、頑張って、くださいね……」

 「ラルラさん? ちょっと!! しっかりしてくださいよ!!」

 ラルラさんの小さな身体が光り、肉体が小さな粒子になります。
 その粒子が一枚のカードに再構成されてしまいました。

 「ラルラさんもモンスターだったんですか!? それにこのカードは……」

 ラルラさんが変化して生まれた一枚のカード。
 もしかしたら、彼女はこのカードを私にくれるために自分から……。

 「ラルラさん……自由になりたかったんじゃないんですか。
  こんなカードになっちゃったら、その夢も叶わないじゃないですかぁ」

 目頭が熱くなって、泣きそうになってるのを必死になって堪えます。
 ラルラさんだったカードは妙に冷たくて、それがすごく寂しいんです。




 「千夏ちゃん」

 急に私に届けられた声。それは間違いなくおばあちゃんでした。
 今は敵だというのに、どうしても闘う気にはなれません。

 「おばあちゃん……」

 「この島にいるモンスターたちって、ある法則があるって事に気付いたことあるかしら?」

 「法則……ですか。犯罪者とかそういう類が多かった気がするんですけど……」

 「ここにいるモンスターたちは、全て『愚か者』たちなのよ。
  人間社会に適応できない、どうしようもないクズたち」

 「……隠れキリシタンは?」

 「宗教なんて、妄想者と差別者の温床じゃない」

 おっそろしい事をさらりと言いますね。


 「社会にはクズが一杯いるわよね。本当にどうしようも無い人たちが。
  人を傷つけることしか、自分を傷つけることしか出来ない人たちばかりよね」

 「それは……同感します。社会には、イジメっ子とかそういう人たち、一杯いますから」

 「人にとってのモンスターは、同じ人間社会にしか存在しない。そういう事なのよ」

 なるほどね……そういうこと、教えたかったんですか。
 手に持っていたラルラさんのカードを見ます。
 カードには『夢見る妖精』と書かれていました。


 「おばあちゃん……夢を見る人は、愚か者ですか?」

 「千夏ちゃんはどう思う?」

 「私も、愚か者だと思います。夢を求めるロマンチストなんて、バカ以外の何者でも無いですから」

 私がずっと握っていた所為なのか、ラルラさんのカードは温かくなってました。
 まるでそれは彼女の体温のようで、生きていたことを証明しているかのようで……。

 「でも私!! そんな馬鹿な人、結構好きですよ!! ラルラさんは、モンスターなんて呼ばせません!!」

 「そう。彼女の尊厳を守りたいなら、私と闘いなさい。
  闘って、自分と彼女のの意思を証明しなさい」

 戦闘体勢を取るおばあちゃん。私も、闘う覚悟を決めます。闘って、ラルラさんの意思を守ります。


 「モンスターカード『夢見る妖精』(成長 使用AP0)スリット!!」

 カードをスリットした私を包む光の衣。
 身体中に満ち足りる力が、ラルラさんの温もりを感じさせます。



 ○RPG的、現状のステータス

 名前:千夏

 状態:フェアリーフォーム

 装備:サバイバルナイフ。アサルトライフル。C4爆弾。弾道ミサイル(封印)。

 カード:モンスターカード101枚 『覗き魔』 『隠れキリシタン』 『麻薬中毒者』 『連続放火魔』
     『辻斬り通り魔』 『ドーピング短距離走者』 その他いろいろ

     ……そして、『夢見る妖精』

     スペルカード11枚 (『帰宅』を破棄した結果) その他いろいろ

 残りAP:10000P(フェアリーフォームの効果)




 さあ、闘いの始まりです!!







 4月9日 土曜日 「おばあちゃんとの決戦」

 「さあ千夏ちゃん! 思う存分かかってきなさい!!」

 「ええ! 最初から本気でいかせてもらいますよ!!
  『連続放火魔』(炎)! 『カミナリ親父』(雷)! 『冬でも半袖小学生』(風)! 『親父ギャグ常習犯』(氷)!
  特殊4コンボ攻撃『エレメント……」

 「遅い」

 「ごぶはぁっ!?」

 昨日あれだけ引っ張ったにも関わらず、僅か30秒でやられてしまう私。
 なんていうか、ラルラさんに申し訳なさすぎです。

 「おばあちゃん!! なんだかパワーバランスがおかしい!! ゲームとしておかしい!!
  今の一撃で私、瀕死っぽいんですけど!? 足にきちゃってるみたいで、上手く立ち上がれないんですけど!?」

 「大した努力なしのパワーアップより日頃の鍛錬がモノを言う。これがこのゲームのリアリティよね」

 おばあちゃんの強さの方がもっともリアルじゃない気がするんですけど?

 「じゃあさ、このフェアリーフォームとか言うものの意味は?」

 「何となくパワーアップしたような雰囲気が味わえます」

 「意味ねえのかよ!!」

 昨日あれだけカッコよく演出した私が馬鹿みたいです。
 っていうかさ、パワーアップした私にやられるもんじゃないんですか? 物語的にさ。

 「やっぱりあれよね。人生そんなに甘くないっていうか」

 「おばあちゃん……お願いだから私に人生の甘い所を見せてください。
  今まで経験してきたことが塩辛すぎて、この歳で人生諦めそうです」

 「さあ千夏ちゃん。立ち上がって構えなさい。まだ戦いは終わってないわよ?」

 殺す気だ。この人、自分の孫を殺す気だ。

 「嫌です!! 立ち上がっちゃったらおばあちゃん本気で殴るもん!!
  そしたら私は画期的な吹っ飛び方して、決して映像では見せられない色んな物がはみ出すもん!!」

 「何言ってるの千夏ちゃん。この島では死なないんだってば」

 そういう問題じゃない。

 「それに私を倒さないと、ラルラちゃんが浮かばれないわよ?」

 「いいですよもう。虫女だし」

 「千夏ちゃん……確かに人生辛いことばかりだけどね、それでも踏ん張らなきゃいけない時があるのよ。
  今がその時かどうかは分からないけど、お友達の尊厳を守れない子なんて、何一つ大切な物を抱える資格がないと思うのよね」

 圧倒的武力を振りかざしながら正論を言うだなんて、なんというかすごく腹の立つ……。

 「あーもうっ! 分かりましたよ!! 最後までやりますよ!!」

 「さすが千夏ちゃん。私の孫」

 調子良すぎると思います。


 さて、私の力じゃ絶対におばあちゃんに勝てそうにありません。
 というか、全世界の武力を集めてもおばあちゃんに勝利できるヴィジョンが浮かんできません。
 それでもやらないといけないというのなら……私は、私の持てる全ての力を使って闘うしかないんです。
 全然、勝てそうにないんですけどね!!

 「『連続放火魔』(炎)! 『カミナリ親父』(雷)! 『冬でも半袖小学生』(風)! 『親父ギャグ常習犯』(氷)!
  特殊4コンボ攻撃『エレメント・アタック』!!」

 「腹筋シールド!!」

 いつぞやの秘密結社首領が使ってきた防御技を使ってくるおばあちゃん。
 気持ち悪いから止めてください。

 「っていうか防ぎ切った!? 結構すごい攻撃ですよ今のは!?」

 「これもみな気合なり」

 気合で防がれてしまったんですか。
 悲しいにも程がある。

 「パワーバランス崩壊パーンチ!!」

 おばあちゃんの殺人パンチが私に襲い掛かります。
 これを喰らったら本気で死ねます。

 「『ぶっさいくなのに妙にガードの固い女』(防御)!!」

 防御力を高めるこのカードを使えば、きっと防ぐことができ……

 「ぎゃひぃん!?」

 無理でした。ええ、無理でしたよ。


 「まだまだね千夏ちゃん」

 「おば……ちゃん……このゲーム……クリア、無理です」

 「さあ立ちなさい千夏ちゃん。あなたはまだまだこんなものじゃないはずよ」

 死ぬからー。これ以上やったら死んじゃうからー。

 「無理なの? それじゃさ、そろそろ飽きたから止めさしていい?」

 なんて恐ろしいことをさらりと。

 「こうなったら……破れかぶれパーンチ!!」

 私の最後の攻撃。まあ言ってしまえば、ただのパンチを泣きそうになりながら打っただけです。

 「うわー、やられたー」

 「ええ!?」

 私のへなちょこパンチを食らって倒れるおばあちゃん。
 ……なんで?

 「うわぁ、千夏ちゃんのパンチが強力すぎて倒されちゃったよぉ。
  決して見たいテレビがもうすぐ始まりそうだから、家に帰りたくなったわけじゃないよぉ」

 「今ので全部理解できました」

 「というわけではい。これが私を倒した記念にもらえるモンスターカードです。
  すんごくレアだから、思いっきり喜びなさい♪」

 「はぁ……ありがとうございます」

 「じゃあ頑張ってね♪ ゲームマスター特権、スペル発動『帰宅』!」

 光の粒子に包まれて消えて行くおばあちゃん。
 多分、家に帰ったんだと思います。



 「……ラルラさんがカード化した意味は?」

 なんとなく、それを考えたらダメな気がしてきました。



 ○RPG的、現状のステータス

 名前:千夏

 状態:呆れ

 装備:サバイバルナイフ。アサルトライフル。C4爆弾。弾道ミサイル(封印)。

 カード:モンスターカード102枚 『覗き魔』 『隠れキリシタン』 『麻薬中毒者』 『連続放火魔』
     『辻斬り通り魔』 『ドーピング短距離走者』 『夢見る妖精』 『ぶっさいくなのに妙にガードの固い女』
     『カミナリ親父』 『冬でも半袖小学生』 『親父ギャグ常習犯』 その他いろいろ

     スペルカード11枚 その他いろいろ

 残りAP:0P(フェアリーフォーム解除の効果)












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