4月10日 日曜日 「ゲームクリア」

 「これで、123枚目ー!!」

 島に辿り着くこと一週間。ようやくモンスターカードを123枚集めることに成功しました。
 なんて辛い一週間だったのでしょうか。
 特におばあちゃん戦が苦労しました。ホントに。
 とにかく、これで全部コンプリート&ゲームクリアです!!


 (千夏さん……千夏さん)

 「その声はラルラさん!?」

 (ええ、妖精界では高額所得者なラルラレイです)

 そんなプチ自慢されても。

 (よくやりましたね千夏さん。これで、この島の秘宝への道が開けます)

 「道? まだゲームクリアじゃないんですか?」

 (ええ。123枚のカードを集める事によって、ラスボスを召喚できるんです)

 「この期に及んでまだラスボス!? どう見たっておばあちゃんがラスボス的な存在じゃないですか!!」

 (まあそういうゲームですので)

 そんな一言で説得されても。

 (それでは千夏さん。ラスボス召喚と馬鹿っぽく声高らかに叫んでください)

 「馬鹿っぽくは嫌ですが、一応叫びます。
  ……ラスボスしょうか〜ん!!」

 ラスボスって言うからには相当強いんでしょうけど……今の私の力でどうにかなるとは思えません。
 APがゼロだし、アサルトライフルの弾はもう使い切っちゃったし。
 ……うわぁ、勝てる気しないよぉ。


 「どうも。ラスボスの海賊です」

 「やけに親しみやすい形でラスボスが登場したー!?」

 とにかく、ラスボスの海賊さんらしいです。

 「っていうか海賊さん。以前会った事ありますよね? 確か夏休みに行った無人島で……」

 「ええそうです。アウグムビッシュム族の宝を守る海賊でございます」

 「そんなキャラでしたっけ?」

 またアウグム何とかですか……。あいつらには全然いい思い出が無いんですけど?


 (さあ千夏さん!! 彼と闘って秘宝を得るんです!!)

 「闘うって言っても……相手は一応海賊ですし……」

 「さあ千夏どの。わたくしと闘いましょうでござる」

 うろ覚えなんですが、夏の時より絶対キャラ変化させてるだろ?



 「千夏どの! 覚悟!!」

 「侍と海賊のごっちゃ混ぜになった奴に負けてたまるかー!!」

 ウサギさんから貰ったサバイバルナイフを片手に持ち、海賊に特攻します。

 「秘剣、絶刻滅殺剣!」

 海賊さんの秘剣が私を襲います。
 おそらく秘剣という名称はハッタリなその剣技は、当然のごとく一直線の攻撃で避け易かったです。

 「おばあちゃんと闘った後だからか緊張感が無いですね……」

 (千夏さん! 早く攻撃しちゃってくださいよ!!)

 「はいはい。そりゃ」

 「ぎゃー! やられたぁ!!」

 「弱っ!?」

 ちょっとサバイバルナイフで切っただけで倒れる海賊さん。
 ……弱いにも程があると思うんです。

 「おお、何と強いのか。そなたには我が財宝を授けよう……」

 「うわーっ、すげえRPGっぽくなったよ。こういう所だけ」

 『チナツハ タイセツナ タカラモノヲ テニイレタ』

 そんな所だけファミコン表示にされても。


 (おめでとうございます千夏さん!! これで、ゲームクリアですよ!!)

 「こんなにバランスの取れてないRPGは初めて経験しました」

 (千夏さん……これでもうお別れですね)

 「ええ、そうですね……って、秘宝は?」

 (千夏さんはもう秘宝を手に入れてますよ)

 「え? それってどういう……」

 (さようなら千夏さん。あなたに会えて本当に良かったです……)

 「ラルラさん!?」

 (ありがとうございます千夏さん。これで、このゲームは終わりです。
  本当に、さようなら……)

 「ラルラさんってば!!」

 急に真っ白になっていく私の視界。どこかに転送されているみたいです。
 何となく雰囲気は出てるかもしれませんが……でも、こんな終わり方ってないですよ!!
 ラルラさんはどうなるんですか!? このゲームが終わっちゃったら、一体どうなるんですか!?
 ちゃんと自分の夢を叶えて……自由になれるんですか!? どうなるんですか!?

 「ラルラさん!!」

 私の話を、聞いてくださいよ!!





 視界が回復した私が見たものは……私の部屋の天井。
 そう、部屋の床に私は寝そべっていました。まるで、今までのことが夢だったかのように……。

 どこか現実感の無い思考で居間へと行くと、そこにはいつもの面子がのんびりしてました。

 「あら千夏。いつの間にか帰ってたの? お土産は?」

 「お母さん……本当にいつも通りですね」

 「千夏。お前が島に言ってる間にいくつかケーキ作ってみたんだけど、食べるか?」

 「ウサギさん……ありがたく頂きます」

 「あ、千夏お姉さま。死んでこれば良かったのに♪」

 「リーファちゃん……お前こそ死ね♪」

 「千夏さん! 新婚旅行の下見はどうでしたか? ちゃんと2人で泊まれる旅館ありました?」

 「雪女さん……いつもながらな妄想っぷりですね」

 「よう千夏。後で弾道ミサイルの料金払ってもらうからよろしくな」

 「黒服さん……っていうかあれ、有料だったんですか?」

 「はろー千夏さん♪」

 「……」

 「無視!? 私だけ無視!?」

 「ああ、女神さんもいたんでしたね」




 「どうだった千夏ちゃん? 私の作ったゲームは?」

 「おばあちゃん……最悪でしたよ。特にゲームバランスあたりが」

 「そう。楽しんでもらえたようで何よりだわ」

 「……」

 おばあちゃんイズムは相変わらずですね。

 「それであの〜……我が家のすんごい家宝は?」

 「千夏ちゃんはもう家宝を手に入れてるわよ」

 「はい? だからそれはどういう意味……」

 「千夏ちゃんの周りに居てくれる家族こそが、何よりの宝なんだって……長くて辛いサバイバル生活で知ることが出来たでしょう?」

 「おばあちゃん……それを私に分からせるためにあんなゲームを…………」

 そうですよね。家族こそ、宝なんですよね。
 ありがとうおばあちゃん。本当に大切なものが何か、分かった気がします。















 「って納得いかねえ!!」

 産まれて初めてガッカリで死にそうです。







 追記,
 私んちに『ラルラ』と銘打たれた首輪を付けている子猫が住み着き始めました。
 人の家の庭で飯をねだるようににゃーにゃー鳴いてるその猫を見ながら、
 まあこういう事なのなら私の冒険も無駄では無かったのだろうと思えました。






 4月11日 月曜日 「新しい命」

 夢を見ました。
 ジャングルで、自分がどこを歩いているのか分からずに歩き続ける夢です。
 暑いやら、生えてる草が痛いやら、虫に刺されるやら散々でした。

 こんな夢を見たのは、多分無人島でのサバイバル生活のせいなんでしょうね。
 さすがにあれですって、トラウマになりますってあの一週間は。
 やっぱり駄目ですよ。原始的で自然いっぱいな生活を夢みたりしちゃ。いいこと1つもありませんでしたもん。
 日本人はやっぱり日本が一番……。



 「おか〜さ〜ん」

 「な〜に? 千夏〜」

 「なんで、朝起きたら、目の前には樹が生い茂ってるのかなぁ〜?」

 「和むわよね〜」

 話を、すり替えようとするな。


 「っていうか何なんですかこの状況は!!??
  私の部屋だけじゃなくて、家全体に樹が生えてるじゃないですか!!」

 今日から新しい学校生活が始まるので、結構早起きした私を出迎えてくれたのは、
 どっかの馬鹿がジャングル風な部屋にしたいわ♪ なんてのたまってコーディネートしたような風景。
 壁も床も天井も、何の種類か分からない木々のツタがつたって深い緑の葉をつけています。
 昨日寝る前は全然普通だったのに……。

 「バイオハザードよ。バイオハザード」

 冗談じゃないです。
 さらりと恐ろしいこと言わないでくださいよ。

 「お母さん。原因とか分かりませんか?」

 「心あたりはあるわよ。
  この木と同じ種類、見たことあるし」

 「本当ですか!?」

 「うん。だってこの木、千夏が育ててた木だもの」

 …………え? 本当に?

 「そ、それは……つまり」

 「家がこうなったのは、千夏のせいね」

 「そ、そんなわけ無いじゃないですか!!
  どんな育て方したら、家を取り込むほど成長するっていうんです!?」

 「なんか変な肥料あげたんじゃない? よく育つようにししゃもとか」

 「木にししゃもはやりません」

 「どうでもいいから何とかしてね? 千夏の木なんだから、責任は全て千夏にあるのよ?
  何とかしないと、朝ごはんを抜きにするから。ほれゴゥッ!」

 「いや、ゴゥッ! じゃなくてですね、私の責任って言われても困るんですけど……」

 「あ〜あ。今のタイムロスで千夏の朝ごはんからゴマが消えました」

 「ゴマを朝ごはんのメニューとして出そうとしてたんですか」

 「このままだと千夏のお味噌汁の具が全部無くなってしまいます。ああ大変」

 味噌汁の具だったのかよ。ゴマ。
 まあ何にせよ時間と共にメニューが減って行くようなので、さっさと解決しに行くことにします。





 私の歩みを邪魔するツタや葉を何とか切り開きながら、おそらく原因であろう私が育てていた木へと向かいます。
 庭って、こんなに遠かったのですか。

 そう言えば、あの木の種類なんて知ろうともしなかったんですよね。
 こんなに育つ木だなんて知っていたら対処のしようがあったのに……。

 なぜか日本で開拓を経験すること10数分。
 ヘトヘトになりながらも、ようやく木の元へと辿り着くことが出来ました。
 私の朝ごはんのメニューがどうなっているかが心配です。

 「よ、ようやく着いたぁ……」

 私の目の前の木は、悪びれることなく大地に根ざしています。
 まあ木はただ生きてるだけなんですけどね。

 「どうしよう……この木」

 やっぱり、迷惑になるだけだから、切ってしまうべきなんでしょうか?
 ちょっと酷い気がしますけど……仕方ないんですよね。


 「ごめんなさい……本当なら別の場所に植え替えるだとかそういう方法があるのかもしれないけど、
  あまりにも大きすぎて運べないから。だから……本当にごめんなさい」

 用意してあった斧を手にして、木の幹に渾身の力を込めて切りかかります。
 斧は簡単に幹に食い込み、木を死に追いやる……

 「おんぎゃー!! おんぎゃー!!」

 「うへぇ!? 木の中から赤ん坊が!?」

 どこの昔話だ。この展開は。



 「お母さんお母さん!! 木を切ったらね、中から赤ちゃんが!!」

 「どこの昔話よそれは」

 私と同じツッコミしないでください。

 「本当なんですってば! ほら! この子!!」

 私は手に持っていた赤ちゃんをお母さんに見せます。
 さすがにこの動かぬ証拠に驚いたのか、お母さんは青ざめてました。

 「千夏……いくらなんでも親に知られたくないからって秘密裏に出産するなんて……」

 「ちげえよ! お母さんじゃあるまいし、こんな若さで出産しねえよ!!」

 「それじゃあ誘拐の線?」

 「しません! 赤子を誘拐なんてしません!!」

 「まさか本当に木の中から出てきたの……?」

 「だからそうですってば!!」

 ようやく分かってくれたみたいで、お母さんはしげしげと赤ちゃんを見てました。
 赤ちゃんはお母さんを見て、あうあうと訳の分からない言葉を発していました。

 「うっは。かわええ」

 「お母さんキモい」

 「ふむふむ……女の子か」

 「何を確認してるんですかあなたは」

 もっと気にかけるべき所があるでしょうに。

 「そっか、ほぼ10ヶ月近いもんね」

 「……何が?」

 「千夏があの木を植えてから、10ヶ月経ってるでしょう?
  だから、人間の受胎から出産までの期間と同じぐらいねって」

 「……関係あるんですかそれは?」

 「つまりね、あれは木の姿をした子宮だったのね。
  なるほど。これなら納得がいく」

 いきません。
 木から人が生まれるなんて、どこの昔話ですか。
 ってやばい。同じつっこみを何度もしちゃってます。


 「それじゃあこの子の名前はどうしようか?」

 「へ!? 育てるつもりなんですか!?」

 「千夏の子どもでしょ!?」

 「違いますよ!! 孕んだ覚えありませんよ!!」

 「でも千夏が植えた木から生まれたんだから、これはもう千夏の子どもよ。
  そして私の孫よ。これは当然の思考なり」

 木から生まれた赤ちゃんをすんなりと受け入れる人間が、当然の思考を持っているとは思えません。

 「私が名前決めていい?」

 「好きにしたらええ」

 「え〜っと、じゃあね…………加奈ちゃん! 加奈ちゃんにしよう!!」

 「加奈……ちゃん?」

 「そう!! 加減の知らない奈良大仏という意味を持つ加奈よ!!」

 その意味はいらないと思います。
 にしても、加奈ちゃんって懐かしい響きですね……。


 「加奈ちゃん、か……」

 なんだかよく分からないけど、我が家にまた1人家族が増えました。
 まあ今さら、こんなことでは驚いたりしませんけどね。



 「千夏ちゃん? どうしたかしたの?」

 「あ、おばあちゃん……実は木の幹から赤ちゃんが産まれてですね……」

 「おっ、無人島の秘宝だ」

 「これが件の秘宝だったんですか!?」

 確かに手に入れてましたね。
 というか、最初から家にあったんじゃん。




 4月12日 火曜日 「我が家の保母決定」


 「うわぁ!? 加奈ちゃんが何だかものすごいものを垂れ流してる!!」

 「ほら千夏!! とっとと着替えさせなさい!!」

 「りょ、了解ですお母さ……きゃー! 加奈ちゃん! それ食べちゃダメ!!」

 なんていうか朝から素敵にパニクってます。我が家。
 さすが赤ちゃん。さすが育児。



 「千夏。今日は学校休みなさい」

 「何言ってるんですかお母さん!? 新学年の始まった一週間はですね、すごく大切なんですよ!?
  ここで新しい友達を作らないと、また一年間虐められ続けることに……」

 「千夏は加奈ちゃんのお母さんでしょ? だから育児しなさい。むしろ育児なさい」

 「妙な略し方しないでくださいよ。っていうかさ、私が学校行ってる間はお母さんが世話してくれればいいじゃない」

 「自慢じゃないけど、私は育児嫌いなの」

 自分の母親からその事実は聞きたくなかった。



 「千夏さん。私が加奈ちゃんのお世話しましょうか?」

 「雪女さん! 本当にやってくれるんですか!?」

 「ええもちろん。なんて言ったって私たちの子ですもんね

 「違うけど、ありがたいです」

 「ほ〜ら加奈ちゃん。お母さんですよぉ〜♪」

 違うって言ってるのに。
 まあいいです。雪女さんに任せて私は学校に……

 「おぎゃー!! おぎゃぁー!!」

 「うっわぁ、加奈ちゃん!? どうして? ママの愛を受け入れられないの!?」

 「ああ……やっぱり子どもって敏感だから妖気を感じ取ってしまったんじゃないですかね」

 「酷いですよ! こんなに無害なのに!!」

 妖怪としてそれを誇るべきなのか。



 「千夏……それじゃ俺が面倒みようか?」

 「大丈夫なんですかウサギさん?」

 「この家に居る他の奴らに比べたら、幾分かマシだと思います」

 確かに。

 「それじゃあお任せしますね。はい加奈ちゃん、お父さんだよぉ」

 「ちょっと千夏。ドサクサに紛れてものすごく重い立場を背負わせないように」

 「おぎゃー!! おぎゃぁぁぁぁー!!」

 「うわぁ、加奈ちゃん!? ウサギさんでもダメなんですか!?」

 一体誰に預けたらいいんですか。


 「千夏お姉さま。私が預かりますか?」

 「……リーファちゃんですか。すんごく拒否したいですね」

 「なんでですか? 戦場の聖母と呼ばれる程の優しさを発揮する私なのに」

 「聖母はそもそも戦場なんかにはいないものです。
  リーファちゃん。一体何を企んでいるんですか?」

 「その子に暗殺技術を仕込んで、傍に居ることが多いであろう千夏お姉さまをやっちまおうかと」

 「その素晴らしい自白っぷりに免じて、ゲンコツ一発で許してあげます」




 「ああ……どうしよう。加奈ちゃんを一体誰に預ければいいんだろう……。
  さすがに学校まで連れて行く訳には行かないし……」

 唯一懐いてるっぽいお母さんはダメ母親ですし……。
 おばあちゃんは……無理か。あの格闘バカには。

 「千夏さん。どうかしたんですか?」

 「おおう女神さん。まだこの家に居たんですか」

 「はい。今はコタツの女神やってます」

 春にそのチョイスは無いでしょう。余計出番無くなりますよ。

 「実はですね加奈ちゃんを預かってくれる人を探してまして……」

 「へぇ、それは大変ですねぇ」

 私の手から加奈ちゃんを受け取り、あやそうとする女神さん。

 「いや、だからですね……それやったら泣く」

 「あうあうー♪」

 「加奈ちゃんが懐いてる!?」

 すごいよ女神さん。さすがだよ女神さん。
 誰しも1つぐらいはいい所があるんですね。

 「女神さん!! それじゃ任した!!」

 「へ? 千夏さん!?」

 「学校に、レッツゴー!!」

 女神さん、ありがとう!!
 心の底から感謝しますよ。


 「千夏さーん!! 待ってぇ!!」




 4月13日 水曜日 「喫茶店チナツ大繁盛」

 「うっわぁ!? なんじゃこりゃ!!」

 久しぶりに覗いてみた我が家の不良債権もとい喫茶店。
 なんていうか、すごくたくさんのお客様が集ってらっしゃいます。
 ……どして?


 「あら千夏、帰ってきたのね。じゃあさっそく手伝ってもらおうかしら」

 「お母さん! なんでこんなにお客さんがいるんですか!?」

 「あら千夏ったら面白いこと言うのね。うふふって笑っちゃうわ。
  いや、おほほの方がいいかしら?」

 笑い方なんてどうでもいい。事実だけを的確に教えてください。

 「で、一体どんな集客方法を行ったんですか?
  脱がせたとか? 誰か脱がせたんですか?」

 「あなたね、この喫茶店を何だと思ってるのよ?」

 風俗店かと。

 「きちんと地道に宣伝を続けた効果なのよ。急がば回れっていう諺は本当だったのね」

 「その真意に気付くまで20数年間何やってたんですか」

 「そういうわけだからとっても忙しいの!! だから、早く千夏も手伝って!!
  フリフリの服着て、いろいろ服従しちゃって!!」

 そう言われるとすんごく働く気無くなるんですけど?





 「ねぇウサギさん……」

 「ん? どうかしたか?」

 今は休憩時間で、ウサギさんと一緒に紅茶とケーキを嗜んでいます。
 このような労働の合い間のひと時が、何より楽しいです。

 ……小学生の思考じゃないですね。労働の合い間のひと時なんて。


 「なんていうか、お客の増え方が異常すぎる気がするんですけど……私が無人島行ってる間に何かありましたか?」

 「そうだなぁ……そう言えば千夏のお母さんが」

 「私のお母さんが!?」

 何だかすごく聞くのが怖いんですけど……。

 「町内会をパレードしたぐらいで」

 「パレード!? なんでそんな面白イベントを!?」

 「実は千夏が無人島に行ってた間に宇宙人が攻めてきて……」

 「宇宙人!?」

 そんなことあるわけ……無いとも言えない人生送ってますけども。

 「その……なんで宇宙人が攻めてきたんですか?」

 「虫の居所が悪かったそうで」

 すげえ攻撃理由だ。

 「それで、それとお母さんのパレードに何の関係が?」

 「それを千夏のお母さんが撃退しました」

 「うへえぇえぇ!? どういうことそれ!?」

 「まずその宇宙人たちが俺たちの家に攻めてきたんだけど……」

 なんで?

 「ちょうど洗濯物を干していた千夏のお母さんが、物干し竿でアクション映画ばりの棒術で全滅させたんだよ」

 すげえなお母さん。
 というかそんな特技持ってたんですか?

 「……なんでさ、お母さんはいきなり宇宙人を撃滅させたのかな?
  あの人、人類の存亡とかそういうのには全然興味無さそうなんだけど?」

 「虫の居所が悪かったそうで」

 なんだか嫌な世界を救う理由だ。

 「そういうわけで、人類を救った英雄って祭り上げられてパレードしたんだけど、
  その時にこの店の事を宣伝して…………」

 「ああ、なるほどね……。そういうわけでしたか」

 何が急がば回れですか。
 思いっきりショートカットしてるじゃないですか。
 しかも邪道に。


 「でも安心しましたよ。もしかしたらお母さんの奴、裸でも見せて客集めたのかと思ってましたから」

 「……」

 「ウ、ウサギさん!? なんでそこで黙るんですか!?」

 「実は……パレードの途中で酒を飲んで……」

 「脱いだの!?」

 これ以上、生き恥さらすなよ。





 4月14日 木曜日 「育児疲れ」

 「……」

 「あうあうー♪」

 「……」

 「あうあ、うああー♪」

 「……」

 「千夏? なんでさ、加奈ちゃんを背中におんぶしたまま廊下で倒れるなんて面白いことしてるの?
  もしかして赤ちゃんの情操教育にいいの? 私もやるんだったかな?」

 「お母さん……あまりにも子育て疲れましてね、気を失ってただけなんです」

 「へぇ、そりゃあ大変だ」

 助けろよ。

 「夜泣きするわ昼泣きするわジタバタ動くわ泣くわ……本当に大変ですよぉ」

 「そうでしょう? 母親の偉大さを理解できたでしょう?」

 「悔しいですけど、確かにお母さんはすごいなって思います」

 「まあ私の場合は楽だったけどね。千夏ってば物分り良かったし」

 「そうなんですか……?」

 「ええ。2時間ぐらい放っておけば泣き止んだし」

 確かに物分り良いですね私。
 お母さんに頼るだけ無駄だと理解したんですね。赤ちゃんの時に。
 死ぬほど可哀想だ。


 「お母さん……少しの間だけ、加奈ちゃんを預かっててくれませんか?
  すんごく眠いんで、ちょっと休憩したいんです」

 「良いわよ。あ、そうだ。加奈ちゃんを寝かしつけるついでに千夏にも子守唄歌ってあげましょうか?」

 「……なんで?」

 「一年に数回あるか無いかの親心で」

 レアすぎるだろそれは。


 「どっきどき〜ビバ! くるくるみょ〜ん♪」

 「何!? いきなり何なのお母さん!?」

 「何って、子守唄よ」

 衝撃的すぎる歌い出しですね。

 「もう、邪魔しないでよね。ノリノリなスタート切れたのに」

 確かにノリノリでしたね……。


 「どっきどき〜ビバ! くるくるみょ〜ん♪
  どっきどき〜ビバ! くるくるみょ〜ん♪

  うっはぁ、なにコレ? なんか粘っこいし。なんかヒリヒリするし。
  え? ダメ? 触っちゃダメなのこれ?
  多分きっと絶対毒物〜♪ けっこうヤバ気な色〜♪」


 歌い出しに負けないぐらい衝撃的な歌詞だ。

 「どっきどき〜ビバ! くるくるみょ〜ん♪
  どっきどき〜ビバ! くるくるみょ〜ん♪

  いや、そっちに回すんじゃなくて。だからね、違うってば。そっちに回しても開かない……。
  あ、開くんだ? へぇ〜……いや、別に知っていたけども。
  そんな勘違い〜♪ らららすれ違い〜♪」


 聞いてるだけで脳みそおかしくなりそうなんですが?

 「どっきどき〜ビバ! くるくるみょ〜ん♪
  どっきどき〜ビバ! くるくるみょ〜ん♪

  え、うそマジで!? やったぁ! 3等だよ!! 100万円!? 100万円じゃん!!
  ……って、あぁ。9じゃなくて8、ね。ああ……そう。
  悲しい期待〜♪ 年に三度はやること〜♪」



 「お母さん……もういいですから。これ以上聞くと、いろいろ疾患が出そうですから……」

 私はこれを聞いて眠ってたんですか。






 4月15日 金曜日 「黒服の最新兵器」


 「最新の殺傷兵器を開発しました」

 「テロが横行している時代になんて物騒なこと言うんですか」

 黒服の兵器開発は今に始まったことじゃないんですけど。
 っていうか毎日我が家で何してんだよ。勝手に武器製造工場にするな。

 「どんな殺傷兵器なんですか?」

 「おっ! 今日は積極的だねぇ。いつもならそんな当たり前の前フリしないのに」

 聞かなくても話進めるじゃん。あなた達は。


 「人を殺さずに戦闘不能にすることができる、文字通り平和維持活動用の兵器です」

 「へぇ〜! それって本当にすごいじゃないですか。自衛隊の葛藤が無くなりますね!!」

 「平和維持活動兵器その1、『強制脚部痙攣銃』!!」

 「……なにそれ?」

 「これで撃たれると、足がつります」

 「確かに戦闘不能になるぐらい切ない痛みだけど」

 足をつる銃で世界の平和が守られるんですか。
 切ない平和だ。


 「千夏、試してみる?」

 「え?」

 「喰らえ! 平和の痛み!!」

 「訳分かんない事をっ、うぎゃぁ!! 足、つった!!」

 すごい悲しい痛みが私を襲います。
 痛みを倍に感じるから、死にそうなんですってば。

 「足をつると悲しくなるのは何故なのだろうね?」

 「イタタタ……し、知りませんよ……そんな事ぉ!!」

 とりあえずこの痛みをどうにかしてください。



 「さて、平和維持活動兵器その2ですが……」

 「もういいよ。さっきの銃で充分ですよ。あれで平和守れますよ」

 だからこんな会話さっさと止めましょう。
 すごい先行きが不安なので。

 「今度は何と細菌兵器!」

 「細菌兵器!? なんかそれって凶悪そうですよ!?」

 「『感染すると花粉症になるウイルス』です」

 凶悪すぎますよ。特効薬も作られて無いのに。
 ……っていうかさ、花粉症にすることが出来るんなら、そのメカニズムを利用して治療も出来るんじゃないですか?
 そっちの方が、すごく人のためになると思うんですけど?

 「これを中東あたりの紛争地域にばら撒けば、兵士たちの戦意を奪って……」

 「多分、中東にはスギ花粉は舞ってないですけどね」

 「マスクが馬鹿売れします」

 「平和維持目的じゃなくなってる!! お金稼いじゃってどうするの!!」



 「応用品として、感染するとラーメンが食べたくなるウイルスも開発しました」

 「関係ないじゃん。平和維持活動と全然関係ないじゃん」

 「ラーメンは世界を救う……」

 「救わない」



 「さて、気を取り直して平和維持活動兵器その3!
  『撃たれると深爪する銃』!!」

 「基本的に一番目をあまり変わらないんじゃないですか?
  それに、なんていうか威力が下がってます」

 「その4! 『撃たれると猫舌になる銃』!!」

 平和はどこさ行った?








 4月16日 土曜日 「水族館」

 「千夏〜、今日は休みなんだし水族館にでも行きましょうか?」

 「何ですか急に? もしかしてお母さんの年に数回あるかないかの親心?」

 「ええもちろん」

 年に数回が集中しすぎてる。今年の後半はどれだけ苦労するっていうんですか。

 「行く? それとも行きたくないの?」

 「そりゃあ行きたいですけど何だか怖くて……」

 「水族館って楽しいわよ〜。館内で食べるヒラメの塩焼きなんか最高なんだから」

 「うん。多分ね、水族館内では魚食べないから。
  いけすみたいになってるからそれ」

 「行きましょうよぉ。カニとか、見に行きましょうよぉ」

 絶対食う気だろ? お腹ぺこぺこで水族館に行くつもりだろ?






 「という訳で水族館にやってきたわけですが……」

 「海じゃん!! 水族館っていうか、ここって大海原じゃん!!」

 「天然の、水族館」

 「なんて屁理屈な!」

 というか4月の海でどうしようって言うんだ。

 「さあ、魚とかカニとか見ようか?」

 「すっごいサバイバティックな水族館だよ……」

 「なに? サバイバティックって?」

 サバイバルなって意味ですよ。


 「ね、お母さん。私、普通の水族館行きたい」

 「あり? 千夏は人口の海をご所望?」

 「はい。出来れば人工の方で」

 「もう仕方ないわねぇ……。たしかあっちにウナギのいけすが……」

 「養殖の奴じゃなくて。ペンギンとかアシカとか居そうな、和める感じの水族館がいいです」

 「ああ、洋式ね」

 ちげえ。一般的のだ。




 「じゃ〜ん! 水族館でぇす!」

 「うっわぁい! めちゃくちゃ普通の水族館だ!!」

 「え? 不満?」

 「全然! まったくもってぜぇんぜん!!」

 「じゃあさっそく見に行きましょうよ。ウニとか」

 「いい加減さ、食欲と切り離して欲しいんですけど?」

 お母さんにとっては海の生き物=食事なんですか。


 「イルカショー見に行きましょうよ! イルカの芸見て、キャ〜可愛い! って乙女らしいこと叫びましょうよ!!」

 「乙女は普通そんな事思わないけどね。さすが千夏。あざとい」

 うっせえ。とにかくイルカショー行きたいんですよ。

 「でもなぁ、私はイルカショーよりアシカショーの方が好きだなぁ」

 「へぇ……お母さんってアシカ好きなんですか?」

 「何となくさ、合コンの仕切りが上手そうでしょ? アシカ」

 「産まれて初めて聞いたアシカが好きな理由ですね。その想像力はどうにかしてください」

 「だからさ、アシカショー見に行きましょうよ。乙女らしく、アシカと一緒になってオウオウ言いましょうよ」

 乙女はそんな事しねえ。


 「じゃあさ! じゃあさ!! サンマショー見ようよ!!」

 「聞いたこと無いですよ!! サンマが芸するなんて!!」

 「芸っていうかトークショーよ?」

 それはもっとすげえ。

 「どんなサンマなんですかそれは……」

 「え〜っと、歯が出てて……」

 明石屋のほうか。




 お母さんと揉めること10分。恨みっこなしのジャンケンという、小学生から大の大人まで幅広く使用されている決闘方法で、
 イルカショーを見ることが決定しました。
 合コン仕切るのが上手いらしいアシカは、またの機会に。
 それと、明石屋さんまさんの方もまたの機会に。

 「あ〜あ、海砂利水魚のショー見たかったなぁ……」

 「それは魚じゃない」

 それに、今はくりぃむしちゅーだし。









過去の日記