4月17日 日曜日 「ラーメンのデモ」

 「千夏! 大変よ!!」

 「どうしたんですか? お母さん」

 「インスタントラーメンがね、デモを起こしたのよ!!」

 インスタントラーメンがデモ。
 なんて、素敵なキーワード。


 「お母さん。そんなに疲れたのなら、言ってくれればいいのに。
  そう言う事なら、少しは私も家事をてつだ……」

 「違うわよ! 疲れから来る幻覚じゃないわよ!!」

 「それならさ、なんでラーメンがデモなんて起こすんですか?」

 「それはね、今日は日曜日だしご飯とか作るの面倒だから、3食全てラーメンで済まそうと思ったらね、
  急にラーメンが反乱を起こして……」

 それが事実ならば、私はラーメンのデモを支持しますよ?

 「そりゃあ大変ですね」

 「ええ、本当に。きっとね、ラーメンたちは日本の歴史問題の保障の追及を求めてデモを……」

 「デリケートな時事ネタを口走らないでください。フォローとか面倒だから」

 チューカ繋がりですか。ラーメンと某国と。


 「どうしようかしら! やっぱり靖国参拝を取りやめるべきかしら!?」

 「参拝したこと無いじゃん。一度も」

 だからね、そういう微妙なネタはすごく止めて欲しいんですけど?
 右だったり左だったり偏ってる人たちに気を使うのが面倒なんですってば。



 「ああ……インスタントラーメンが使えないなんて……一体、今日のご飯はどうしたらいいの!?」

 「普通の食事を作ればいいと思うんですよ」

 「あ〜、ちくしょう。なんだか食べられないと思うと、余計に食べたくならない?」

 「別に。インスタントラーメンよりドリアが食べたいです。チキンドリアプリーズ」

 「こうなったら意地でもラーメン食べてやる! 覚えてろよ思想弾圧国家!!」

 私の覚えたての英語が無視されてしまいました。
 こういう所を褒める事によってですね、子どもって育っていくと思うんですよ。
 ねえお母さん? そこんとこ分かってくれますか?


 「さて、そういう訳でラーメンを1から作ることにしました」

 「その意地を他のことに向けてくれたらなぁ」

 「取りあえず麺の材料は小麦粉、かんすい、塩、水、卵だそうです」

 「ふ〜ん……」

 「なんとなく普通っぽいので、これに隠し味に何か加えたいと思います」

 「別に普通でいいじゃないですか! どこに面白くする必要があるんです!?」

 「そういう気質で」

 主婦としていらないだろ。そんな気質は。


 「とりあえずさ、砂糖を入れてみたいと思います」

 「ドバーって入れないでくださいよ!?
  隠し味には砂糖って結構やりますけど、多すぎると本当にどうしようもなく……」

 「え? なんて?」

 「うっわぁお母さん!? 何袋ごと入れようとしてるんですか!?」

 味、隠す気ないだろ?

 「私、昔から思い切りのいい子だねって言われて……」

 「知らない! そんな通知表に書かれていそうな情報なんて知ったこっちゃない!!」



 「え〜っと次はですねぇ……」

 「もういいじゃないですか。隠しきれてない隠し味なんていらないですよぉ」

 「マヨネーズ、行ってみる?」

 やめて。悲惨になっちゃうからやめて。

 「お母さんさ、本当にラーメン作りたいんですか? っていうかラーメン侮辱してるだろ?」

 「ラーメンはむしろ敬愛しているわよ。あのスープのコク、ダシ、そして飲みやすい喉越し。全部好きだわ」

 「うん、そう。スープ以外はどうでもいいって事は分かりました」

 「千夏、ウスターソース取って」

 マヨネーズにソース……お好み焼き風味?



 「さて、今度はスープです!!」

 「へぇ、お母さんの大好きなスープですか……」

 私、もうこのラーメン食べる気しないんですけど?

 「取りあえず鶏ガラを適当に煮ます」

 「スープに愛が感じられない」

 「でもただの鶏ガラを煮るだけだと面白く無いので……」

 「何か、他の骨でも一緒に煮るんですか?」

 「そうよ千夏! さすが私の娘! 分かってきたじゃない!」

 「あまり嬉しくないです……」

 「えっと取りあえずおばあちゃんコレクションの恐竜の化石と……」

 「それ、絶対にダシ出ませんよ?」

 「あとビルの鉄骨」

 「骨じゃねぇ」

 「あとは体制に屈しない心」

 「反骨精神ね。分かりにくい」

 というかどうやってスープに反骨精神を入れるんですか。




 「さあ! いろいろありまして出来上がった特製ラーメンです!
  これであのデモ大国に屈する事はないわ!!」

 「だから止めてってば。そういう表現」

 「ということで千夏さん。どうぞ一口目を頂いちゃってください」

 「ええ!? 何で私なんですか!? お母さんから先に食べてくださいよ!!」

 こんな劇物食わせるつもりなんですか。

 「大丈夫。毒になるような物は入ってないから」

 入ってんじゃん。ビルの鉄骨とか、思いっきり毒じゃん。

 「ほれ千夏。食せ」

 「嫌です! お母さんだけ勝手に中華人民共和国と闘ってくださいよ! 私はそんなん別にどうでもいいんですよ!!」

 「ほれほれ」

 「いやー!!」



 特製ラーメンのお味は、なんというか天にも昇るようなお味でした。

 「あ、死んだおじいちゃんが見える」

 「本当に? 私も久しぶりに合いたくなってきちゃった♪」

 じゃあラーメン食べればいいと思うんですよ。





 4月18日 月曜日 「何かの儀式」

 「ジャンバラヤ〜ジャンバラヤ〜」

 「うっはぁ、何やらヤバ気な集団にエンカウント?」

 加奈ちゃんの育児疲れをリフレッシュさせるために散歩に出た私。
 なんの因果か、たまたま立ち寄った空き地で、妙な儀式をしている集団に出会ってしまいました。

 妙な儀式というのを明確に説明しますと、地面に魔法陣を描いて、黒いローブを頭から被ってて、生贄らしき豚を縛ってて……
 なんていうか、邪教ですよって自分たちで証明しているような素敵な儀式です。

 なんだか面白そうなので、物陰から一部始終を見させてもらいましょう。

 「ああいう人たちってどういう神経してるんですかね……。何だかすごく病んでる気がします。
  それにしても、一体何の目的でこんなこと……」

 「この世を滅ぼせし悪魔大元帥よ! 我らのもとに、姿を現せー!!」

 どうやら、悪魔さんを呼び出そうとしているみたいです。
 うっひゃぁ。なんて捻じ曲がった精神の持ち主なのか。

 「って言っても、そもそも都合よく悪魔が召喚されるわけ……」

 「おおっ! 悪魔さまがお出でになられたぞ!!」

 「え!? 本当に来ちゃった!?」

 物陰から身を乗り出して、その悪魔さまとやらを確認します。
 黒いローブの集団に囲まれて敬われている人物は……。

 「あの〜、私、悪魔じゃないんですけど?」

 「雪女さん!?」

 なんで、ここにいるの?


 「お! さすが悪魔!! そう簡単には正体を現さないって訳ですな!!」

 「いや……そうじゃなくて……」

 その人は本当にただの雪女ですよ?
 世界を滅ぼすなんて、絶対に出来ません。
 彼女に出来る事といったら美味しいグラタンを作ることぐらいです。
 グラタン、食べたいなぁ……。

 「さあ悪魔さま! 今こそこの腐った世の中に鉄槌を!!」

 「え〜そう言われても……」

 「さあ!! 今こそ悪魔さまの力を!!」

 かなり困ってる様子ですね、雪女さん。
 そろそろ助けだしてあげましょうかね……。


 「分かりました! 私、世界を滅ぼします!!」

 「雪女さん!?」

 テンパって何言ってやがんだコイツ。

 「おお! 本当ですか!! ではこの生贄の豚をどうぞ……」

 「わぁい! 今日の夕飯はトンカツに決まりです!!」

 世界滅ぼしちゃったら夕飯も何も無いでしょうが。
 つうか滅ぼす気満々になってるんじゃないですよ。



 「さあ悪魔さま! その強大なる力で世界を破滅に!!」

 「行きますよぉ……世界破滅光線!!」

 なんだそりゃ。
 そんな最悪ネーミングな技、雪女さんって使えたんですか?

 「ふう……これで世界が破滅します」

 えー!? こんなにあっさり!?

 「本当ですか悪魔さま!!」

 「ええ。今の技で地球の平均気温が2℃下がりました」

 それって……地球温暖化を食い止めただけなんじゃないですかね?
 地球の寿命伸ばしてんじゃん。



 「さすが悪魔さまですじゃー! 皆の者! 悪魔さまを崇めよー!!」

 「え? 私、そんなにすごいですか? えへへ……」

 ヤバめな人たちに褒められてその気になるのは止めてくださいよ。




 「しかし! 悪魔さまだけではきちんと世界を滅亡できるか不安である!!」

 いや、雪女さんに世界を滅亡させることなんて出来ません。

 「ゆえに! 大魔王様も召喚したいと思う!!」

 無駄な事を……。

 「さあ! 現れよ!! 大魔王様!!」

 そんなんで大魔王なんて奴らが現れるわけ……いや、私の人生の中で何度か大魔王に出会ってる気が……。
 やっぱり邪魔した方が良いですかね?

 「おお! 大魔王様が現れましたぞー!!」

 「え!? 嘘!?」

 私が再び物陰から身体を出して大魔王とか言う人の姿を確認すると……


 「どうもー、大魔王でぇす♪」

 「お母さん!?」

 本当に大魔王的な人来ちゃったよ。

 「大魔王様! どうか世界を滅ぼし……」

 「うっせぇ」

 「ごがはぁっ!?」

 すごい。大魔王的な理不尽暴力だ。


 「……で、何か献上品は?」

 「わ、私の全財産です……」

 「巻き上げてる!?」

 本物の大魔王より怖いよ。







 4月19日 火曜日 「おばあちゃん。第2の人生」

 「私、小説家になることに決めました」

 「おおう、おばあちゃん。さすがに身体は若くても頭は年寄りなんですね。
  いろいろ支障が出ちゃってますよ?」

 「うふ♪ 千夏ちゃん、二度と瞬きが出来ない身体にするわよ♪」

 どんな身体だよ。
 嫌なことには変わりありませんけど。

 「で、なんでそんな事を言い出したんですか?」

 「ほら、なんていうかさ、私に足りないのは知的な部分だと思うのよね」

 「うん。そうですね。その発言に対しては全面的に肯定いたしますね」

 「千夏ちゃん。二度と指を鳴らせない身体にするわよ♪」

 そ、それって……私の指をどうにかしちゃったりするんですか?
 すごく怖いんですけど……?


 「とにかく、知的な部分を前面的に出してみようかと思いまして」

 「それで小説家なんですか。安直」

 「それでね、さっそく物語を作ってみようと思うのだけど、千夏ちゃんにその手伝いして欲しいの」

 「物語作りの手伝いですか……? それって一体どんなことすれば……」

 「ほら、やっぱり物語作りにはインスピレーションが必要でしょ? 
  だからね、なんか閃いちゃうような面白エピソードを千夏ちゃんから提供してもらいたいなぁって」

 「役立つような面白エピソードは私の人生に存在しません」

 「あるじゃん。無人島で一週間ほどサバイバル生活したとか、悪の秘密結社に誘拐されたとか」

 「うん。それらは全部おばあちゃんが種を蒔いた奴だけどね」

 「千夏ちゃん。ウダウダ言ってると二度となんでやねんと言えない身体にするわよ?」

 それは本当に困る。


 「え〜っとですね……週に3回は、妹に寝込みを襲われます」

 「う〜ん……インパクトとしてはイマイチね」

 私、命の危機に晒されてるんですよ? それなのにイマイチですか?


 「雪女さんが事あるごとにマイホーム建築の資料を私の目の前に置いてきます」

 「イマイチ」

 「ウサギさんの胸のサイズが、また増えやがったらしい」

 「イマイチ」

 「黒服の着ている服が、最近白っぽい」

 「イマイチ」

 「女神さんが見当たらない」

 「イマイチ」

 「最近お母さんが優しい」

 「イマイチ」

 こんなにもいろいろ並べたのにイマイチだなんて……。
 特に最後のは衝撃的なのに。


 「千夏ちゃんの人生って結構普通ねぇ……」

 「どこが?」

 平穏が一番だと思いますけど、なんか嫌な感じになりますねぇ。
 馬鹿にされたみたいで。



 「え〜っとえ〜っと……加奈ちゃんがドロップキックを覚えました」

 「それ採用!!」

 「ホントに!?」

 わ〜い♪ なんだかとっても嬉しいぞぉ♪


 「さて。じゃあそのエピソードを使って小説を作りたいと思います」

 「加奈ちゃんのドロップキックでどうやって?」

 「近日中に、千夏のサイトで公開予定」

 「勝手に人のサイトで作品発表しないでよ!!」

 サイトの乗っ取りですか?






 4月20日 水曜日 「ひき逃げ隠蔽」

 「がはあぁっ!!!!」

 日記一行目で車に追突されて吹き飛ばされるというロケットスタートを切った私。
 こんな人生、まっぴらなんですけど?

 「お嬢さん! 大丈夫かい!?」

 車に乗っていたおじさんがそんな事聞いてきますが、
 どこの世界に車にはねられて大丈夫な少女がいるんですか?
 ちなみに私は、頭を打ってしまったのか、一言も喋る事ができません。


 「おい……これ、やばいんじゃねえのか?」

 助手席に乗っていた男が、倒れている私を見てそう言います。
 だからですね、やばくないわけないじゃないですか。

 「ど、どうすればいいんだ!? こんな歳で人殺しだなんて!!」

 いや、私まだ死んで無いんですけど?

 「やっぱりここはサスペンス的思考で、死体を山奥にでも埋めに行った方が……」

 相方の男が的外れなアドバイスをしてきやがります。
 どうでもいいから、救急車を早く呼んでよ。


 「よし! 誰も見てない内にこの子を運ぶぞ!」

 「分かった! 俺は頭の方持つから、お前は足の方を持ってくれ!」

 うわっ! やばいですよこれ。
 このままだと生きながらにして埋められてしまいます!!


 「あれ? 千夏さん? 何してるんですか?」

 今まさに車のトランクに詰め込まれようとしていた私の名を呼んだのは、おそらく買い物帰りの雪女さんでした。
 それにしても何してるんですかは無いでしょうに。
 小学生の少女が大人2人組に車のトランクに詰め込まれようとしているんですよ?
 どう見たって異常です。

 「えっと……この娘さんとお知り合い?」

 「はい。妻です」

 さり気ない所で自分の立場を浸透させようとするな。

 「そ、そうかい……。実はね、この子が結膜炎で倒れちゃって……」

 「へぇ、そうなんですかぁ。それは大変ですねぇ」

 うん。すごく大変です。
 結膜炎が原因ではないけど。
 だから助けろ。


 「そういう訳なんで、今から病院へと連れて行ってあげようかと……」

 嘘っぱちですよそんなの!
 このまま山奥にドライブして私を土の中に不法投棄するつもりなんですよ!!

 「へぇ〜。それじゃあ私も付いて行きましょうか?」

 「結構です。この子に近付くと、結膜炎がうつっちゃいますよ」

 「じゃあ遠慮しておきます」

 おい。馬鹿雪女。
 結膜炎ぐらいどうでもいいという気持ちで妻を名乗らんかい。

 「それじゃ千夏さんをよろしくお願いしますね」

 「はい。私たちに任せてください」

 いかないでー! 雪女さーん!!


 「ふう……危なかったな」

 「ああ。まさか偶然にもこの子の妻に会うだなんて」

 人を車で轢いたからパニクってたりします?
 もうちょっと細かい所を気にしようよ。

 「よし。とにかくさっさとトランクに詰め……」

 「あれ? お姉さま? 何してるんですか?」

 今度はリーファちゃんですか。
 この際人を選んでいる場合では無いので、心底助けて欲しいです。
 届け! 私の想い!!

 「えっと……君もこの子の知り合い?」

 「はい、そうですけど……どうしたんですか?」

 「こ、この子はね、スギ花粉に気道を詰まらせて呼吸困難に……」

 私の気道はどれだけ細いっていうんですか。


 「本当ですか!?」

 私をはねた男達に詰め寄るリーファちゃん。
 もしかして彼女は私の事を心配して……。

 「やったぁ! お姉さまの部屋を爆破する手間省けたじゃん!!」

 まあ、予想通りと言えば予想通りだったんですけどね。
 っていうかリーファちゃん。私の部屋を爆破するつもりだったのか。

 「え、えっとね、だから私達は彼女を病院に連れて行こうかと……」

 「へ? 何言ってるんですか? そんなもったい無い」

 もったい無いとはどういう意味ですかリーファちゃん。

 「し、しかしそれではこの子はどうしたら……」

 「山にでも埋めたらいいんじゃないですか?」

 おいコラ。さっきまで男達がやろうとしてた事を勧めようとしないでくださいよ。

 「い、いや……しかしそれは不味いのでは……」

 数行前まで思いっきり私を埋葬しようとしてた人が何を言うんですか。

 「ああ……たしかに不味いかも。お姉さまって一応ロボットだから、萌えないゴミだもんね」

 燃えないゴミだよ。愛されないクズみたいな誤変換するな。
 ってそこに突っ込むのも違いますけど。

 「まあ私に任せなさいよ。いいゴミ捨て場知ってるから。
  死体とか捨ててもさ、全然ばれない所」

 おおう、リーファちゃん。もしかして、いざと言う時のために死体の隠し場所を探してましたね?

 「さあ! 私と一緒にお姉さまを捨てに行きましょう!!」

 「いい加減にせんかー!!」

 怒りのあまり、身体の機能を全て取り戻した私。
 ようやく声を出すことが出来ました。


 「うわぁ!? 小学生ゾンビ!?」

 「お姉さま! 成仏してください!」

 「死んでないっての!!」

 「萌えるゴミに分類しますから!!」

 また誤変換してやがる。






 4月21日 木曜日 「今日は何の日?」


 「にゃーにゃー」

 「……ラルラさんはいいですねぇ。悩みなんてなさそうで」

 「にゃ?」

 「猫なんて適当ににゃーにゃー鳴いてて、勝手に人んちの柱で爪を研げばいいだけなんですもんね。
  それだけで可愛いとか言われて餌もらえるんですもんね。いいなあ猫」

 「に゛ゃ!!」

 「痛い! なにすんですかラルラさん!!」

 「に゛ゃーに゛ゃー!!」

 「なに? もしかして猫だってそんなに甘くないって抗議してるの?
  はいはい。私が悪かったですってば。だからそんなに引っかかないで……」

 「……千夏?」

 「あり、お母さん? どうしたんですか?」

 「遂に……猫と真面目に話し合うような精神状態に……」

 「違いますよ!」

 「だって実際猫と殴り合いの語りを……」

 引っかかれてただけです。どこぞの根はいい奴な不良がやるような語らいなんてしない。


 「なんだあ。心配しちゃったじゃない。
  もしかして千夏ったら、普通のお友だちが作れないからといって小動物に逃避したんじゃないかと思って」

 「友だち居ますよ。私」

 「例えば?」

 「え〜っと……ウサギさんとか雪女さんとか」

 「ウサギさんはペットで、雪女さんは和風メイドさんでしょ?
  そんな子たちはお友だちなんて言えないわよ」

 ウサギさんをペット扱いするなんて酷いですよ。
 っていうか雪女さんはお手伝いさん扱いだったんだ? あんなに私の妻だってアピールしてたのに。

 「……玲ちゃんとか」

 「誰それ? 私、見たことないんだけど」

 故人だったりしますんで。
 っていうかお化けが見えないお母さんには紹介のしようもないかぁ……。

 「なに? 想像上のお友だち? そういうのってさ、すごく対応に困るから止めて欲しいんだよね。
  腫れ物に触るような問いかけしか出来なくなっちゃう」

 「すっげえストレートに自分の気持ちを伝える母親ですね。
  びっくりするわ」

 しかし考えてみれば、普通のお友だちって全然居ませんね。
 ちなみにここで言う普通っていうのは、新しいクラスメイトたちのような、
 去年私が虐められていた事を知っていて、じゃあ自分達もと便乗してくるような非人間の事ではありません。
 普通の、一般常識を持った優しい人たちの事です。

 ……いや、今の世の中だと一般常識を持った優しい人なんて、全然普通の人じゃないのかもしれませんね。
 レア度という意味で、聖人君子かも。


 「ほ〜ら。千夏ってば全然お友だちいないじゃない。
  や〜い、千夏の1人っ子〜♪ MMO(ネットゲーム)が素で苦手な奴〜♪」

 「お前は小学生か」

 1人っ子であることはあまり関係ないじゃないですか。
 あと、ネットゲームが素で苦手なのは、インターネット上でも内気な私の性質上仕方ないことなんですよ。


 「もうダメだね千夏は。ダメダメ。
  私が千夏の母親じゃなかったらさ、絶対コイツとは付き合えないもん。
  人として全然愛せないもん」

 「……なに? 今日は精神的に私を追い詰めようって日?」

 私を言葉で殺そうってか?
 どんな親だ。

 「まあ逆に言えばさ、私が千夏のお母さんである限り、ずっと愛してあげるって事よ。
  人として好きじゃなくても、子どもとしては愛してあ・げ・る♪」

 「……」

 何様だ。おかん。

 「千夏の良い所ってさ、分かり辛いんだよね。
  一緒に暮らしている家族並みに一緒に過ごさなくちゃ、良い所とか可愛い所とか、全然分かんないんだよね。
  だからさ、友だち少ない事、あまり気にしない方がいいよ?
  好きになってくれる人は好きなんだろうしさ」

 「……最初、あんだけ凹ました人のセリフじゃないでしょうに。
  どうしたんですか今日は? ちまちまとイジメたかと思ったらフォローしたりして」

 「今日は4月21日だから」

 「……は? どういうこと?」

 「『酔(4)ってないのに(2)、良(1)いこと言う日』だから」

 どんなマイ記念日だよ。

 「ちなみに明日は?」

 「『よ(4)りを戻す気無いのに(2)、取りあえず指定された場所に行く。ニ(2)ッパー』」

 「最後のニッパーいらないじゃん! 完全に後付けじゃん!!」

 「ちなみに4月23日は、『し(4)しゃもより、シラスが好き。ニ(2)ッパー。ボブサ(3)ップ』」

 「増えてる! 後付けの方が増えてる!!」

 っていうかその日には何するんですか。





 4月22日 金曜日 「日記代筆、ウサギ」

 今日の日記は俺が代わりに書かせてもらう。
 本来この日記を書くはずの千夏はというと……

 「うしゃぎさ〜ん。構ってくださいよ〜」

 アルコールに、頭をやられやがった。


 「千夏」

 「はい、そうですよ〜。
  私はあなたの千夏ちゃんですよ〜」

 「なんで、酒なんか飲んでんだよ」

 「辛い現実を、お酒の力で忘れようとしてですね〜」

 不況の被害者ヅラしてるサラリーマンみたいなこと言いやがって。

 「本当のところはどうなんだ?」

 「お母しゃんに飲まされましゅた」

 ああ、なるほど。
 それなら納得できる。



 「うしゃぎしゃ〜ん!!」

 「うわぁ!! 千夏、急に抱きついてくるな!!」

 危うく自動迎撃システムで攻撃するところだったぞ。

 「ああん。うしゃぎしゃん柔らかい……」

 あえて何処をとは言わないけれど、触ってくる千夏の手を払いのける。

 「うしゃぎしゃんのケチ!!
  減るもんじゃなひんどぁし、いいじゃぁん!!」

 お前の乙女としての品位は確実に減っていってるけどな。


 「ほれ、千夏。
  ベッドまで連れてってやるから大人しくしてろ」

 「ええ!? いきなりベッドインでしゅか?
  もう、せっかちさんなんだから……」

 「はいはい、それじゃ持ち上げるぞ?」

 千夏の口から出る怪しげな言葉は無視。
 そのまま千夏の部屋へと連れていく。



 「はい、到着。
  思う存分寝ろよ?」

 「え〜!? これから始まる愛の共同作業は!?」

 前から聞きたかったんだけど、そんな言葉は何処で仕入れてくるんだ?

 「それじゃ俺は行くからな?」

 「だめぇ!! 行かないでぇ!!」

 「お、おい……どうかしたのか?」

 「……月を見てると、不安になるの」

 月?

 「まん丸じゃない月が、とても怖い」

 「……」

 「なんだか、私の周りにある物、
  全部が夢なんじゃないかって、そう思えてくるの」

 「……夢じゃないよ。
  みんな、本当にここで生きている」

 「でも、いつか、消えて無くなってしまう気がする。
  夜に寝て、そして起きたら何もかも無くなってしまいそうな気が……」

 「だから怖いのか?」

 「うん……」


 「……大丈夫。
  俺はお前を置いて何処にも行ったりしない。
  約束する」

 「ホントに……?」

 「千夏に嘘ついたことなんて無いだろ?」

 「うん……」

 「それじゃあ安心して寝れるだろ?」

 「……」

 「どした?」

 「おやすみのキスして」

 「はいはい、それじゃおやすみ千夏」

 ちゅっ。


 「ええ〜!! よりにもよってオデコ!?
  口に、口にお願い〜!!」

 「酔った人間に本気のキスかますほど、相手のこと考えない奴じゃないんだよ」

 「ぶ〜」

 妙な声を出して膨れている千夏を残して部屋を出る。
 扉を閉めても何か聞こえてきたけど気にしない。







 『まん丸じゃない月が、とても怖い』


 ……今度はちゃんと、俺が守るさ。
 絶対に、前のようなことなんて起こさせない。


 命にかえても、
 俺が千夏を守るから。





 4月23日 土曜日 「日記代筆、春歌」


 ○本日の出費一覧

 ・近所のスーパーにて食料の調達 5200円

 ・ガス代の支払い 4900円

 ・千夏の塾の月謝 豚3頭

 ・次世代原子力潜水艦開発費 300億円

 ・黒服さんの部屋の維持費 8億円

 ・ポテトチップスコンソメパンチ味 8000円

 ・家族への愛 4500円




 「何してるんですかお母さん!!」

 「あら千夏。起きてたの?」

 「起きてたのじゃないよ!! 人の日記に、何書いてるんですか!?」

 「ちょっと家計簿を」

 「人の日記を家計簿にするな!」

 「だってさあ、千夏ったら昨日の飲み会で二日酔いダウンしちゃってるんだもん。
  日記書くの辛いだろうなあって思って、だから……」

 「大きなお世話ですよ! っていうかさ、今から突っ込みしていい?」

 「どうぞどうぞ」

 「私の塾の月謝、物々交換なのかよ! 兌換紙幣使えよ!!」

 「兌換紙幣なんて難しい言葉使うのね」

 「原子力潜水艦って、何て物作ろうとしてるんですか!?
  どこの国の防衛費から捻出してるんだよそれは!!」

 「私のヘソクリから」

 「無理があるだろそれは!!」

 「いや〜、頑張れば何とかなるものね。ホント」

 「それと! なんで黒服の部屋に億の桁のお金が必要なんですか!?」

 「やばいウイルスとか、やばい放射線とか、やばい生き物とかが漏れ出さないように必要なの」

 「くっ……これは確かに必要な気がしますけど……」

 「でしょ? 必要経費でしょ?」

 「そ、それじゃあポテトチップスコンソメパンチ味が、予算として別けられているのは何故ですか!?
  しかも8000円って! スナック菓子に使用するような金額じゃないでしょ!!」

 「私が好きだから」

 「完全にお母さんの勝手じゃん! 我が家の家計に圧迫加えてるだけじゃん!」

 「コンソメパンチ味は人類の至宝なのよ!」

 「あと、……こういう値段ネタってさ、最後の奴はプライスレスで締めるもんじゃないの?
  何家族への愛まできっちりお金で表しちゃってるんですか」

 「正直に生きようかなぁって」

 「正直にも程があるわ。しかも家族への愛は4500円かよ」

 「資本主義社会って怖いわよねぇ」

 「あんたの思考が怖いわ」












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