4月24日 日曜日 「日記代筆、雪女」


 お義母さんが、『今日のお昼ご飯はバナナでいいや、バナナで。なんか作るの面倒だし』と言い出しました。
 それじゃああんまりにも千夏さんたちが可哀想なので、私がチャーハン作る事になりました。
 みんな美味しい美味しいと言って食べてくれたのがとても嬉しかったです。
 ただ、千夏さんは細切れにした人参を、丁寧に分別してウサギさんにあげてました。
 口ではウサギさんの大好物だからって言ってましたけど、多分というか絶対に嫌いなんだと思います。
 次からは気をつけますね。



 お義母さんに掃除しましょうと提案すると、ビデオに録画していたドラマを見るのに忙しくて出来ないと言ったので、仕方なく私1人で掃除することにしました。
 雑巾がけをするために汲んだ水が、すごく冷たかったです。

 掃除をしていると少しばかり気合が入りすぎちゃって、地下シェルターまで潜り込んでしまいました。
 帰り道が分からなくなってしまって、すごく困りました。
 きっと誰かが助けに来てくれるだろうとずっと待っていましたが、3時間経っても誰一人として私を探しに来てくれませんでした。
 フラフラになりながら家に戻った時は、すでに皆さん夕飯を食べていました。

 お義母さん。
 お昼ご飯の時はあれだけやる気無かったのに、
 なんで今日の晩御飯はすき焼きなんていう手の込んだ物作ってるんですか?
 しかも私が食卓に付いていないときに限ってこんな……。
 もしかして私、お義母さんに嫌われてます?

 でも私、負けません!
 一生懸命やっていれば、きっとお義母さんも私の事を認めてくれるはずです!!
 きっと、私を千夏さんの妻だと……




 「何やってるんですか雪女さん?」

 「うっはぁ!! 千夏やん!?」

 「誰が千夏やんか。
  で、そんなことよりもさ、人の日記になに書いてるの?」

 「若妻のラブラブ日記です」

 「どこがだよ! むしろいいように使われている召し使い日記じゃん!!」

 「酷い! それは酷すぎですよ!!」

 「っていうかさ、そんなの悲しい日記、私のサイトにUPしないでくださいよ。
  辛気臭くなるから」

 「ちょ、ちょっと千夏さん? それは人の日常を辛気臭いって言わないでくださいよ」

 「お母さんといい雪女さんといい、なんでみんな私のサイトに日記書いてるんですか。
  訳分かんないですよ」

 「ほら、最近千夏さん大変そうじゃないですか?
  だから皆さん気を使ってですね、少しでも負担を軽減してあげようと……」

 「大変? 別に私、大変と言われるような状況になった事無いんですけど?」

 「えっとほら、無人島にサバイバルに行ったり」

 「いつの話だ」

 「とにかくですね! これはみんな千夏さんのためなんです!! そういうことにしといて!!」

 「分かりましたよ。そういう事にしておきます」

 なんて恩着せがましいんですか。
 ……とりあえずパソコンにロックかけておかないと。







 4月25日 月曜日 「日記代筆、リーファ」

 ○作戦報告書

 ・AM7:00
  ターゲットを起床させるという目的を装い、寝室に侵入。
  武器は現地調達した鉛筆を使用。
  寝息を立てているターゲットを襲おうすると、ちょうどターゲットが目を醒ます。
  慌てて「うふふ、お姉さまったらお寝坊さんなんだから。もうめっ♪」
  と言って誤魔化す。
  めちゃくちゃ怪しげな目で見られていた。



 ・AM7:30
  ターゲットの朝食に毒物を仕込む。
  一口食すだけで死に至らしめるはずだったが、何故かターゲットと一緒に食卓についていた女神の味見の所為で計画を阻止される。
  あともう一息だったのに残念だ。
  ちなみに女神は身体を痙攣させてぐったりしていた。



 ・PM5:00
  ターゲットが帰宅する。
  家の玄関を開けると矢が飛んでくるようにトラップを仕掛けた。
  これでターゲットはウイリアムテルに狙われたリンゴになるはずだったが、ちょうど出かけるつもりだったウサギにトラップを解除される。
  ちくしょう。あの長耳野郎め。


 ・PM8:00
  ターゲットのお風呂時刻に合わせてドライヤーを湯船に叩き込む予定。
  これできっと作戦は成功し……



 「……何やってるんですかリーファちゃん?」

 「あ、千夏お姉さま。実はですね、ちょっとばかしパソコンをお借りして……」

 「人のパソコンに暗殺計画打ち込むな!! っていうか私、もう少しで普通にお風呂入る所だったじゃないですか!!」

 「それは奇遇ですね」

 「リーファちゃんがそう狙ったんでしょうが!!
  しかも私、今日一日で4回も殺されかけてるんですか!?
  どんだけ命の危機に晒されてるんですかって話ですよ!!」

 「一日平均5回です」

 「よく生き残ってましたね私!?」

 というかさ、どうやってパソコンのロック解除したの?

 「あ、そういえばですね、パスワードを誕生日にするのはやめておいた方がいいですよ」

 「ええ、参考にさせていただきますよ」

 ちくしょう。
 いくらなんでも安直すぎましたか。





 4月26日 火曜日 「日記代筆、おばあちゃん」

 ○対戦成績

 私○ー×訪問販売員 (戦闘時間20秒 KO  決め技:でこピン)

 私○ー×我が家に入って来た空き巣 (戦闘時間23秒 KO  決め技:くしゃみ)

 私○ー×近所の鈴木おじいちゃん (戦闘時間30秒 KO  決め技:格闘ゲームを参考にしたコンボ)

 私○ー×こともあろうに私のご飯にたかった蝿 (戦闘時間2秒 KO 決め技:箸でパシッと捕獲)

 私○ー×ゴジ……


 「ちょっとおばあちゃん! 何やってるんですか!?」

 「ああ、千夏ちゃん。いやね、私の今日の対戦成績をパーソナルコンピュータに打ち込もうかと思って」

 「パソコンでいいじゃん。なんで略称使わないで長いほうで説明するんですか。
  ……ってそんなことどうでもよくて、人のパソコンに変なもの書き込まないでくださいよ!!」

 「変なものとは失礼な。私の輝かしい戦歴だというのに」

 「変じゃん。その戦歴、ものすごく変じゃん」

 「どこがよ。華麗すぎる戦いじゃない」

 「えっとですね、まだ訪問販売員と空き巣は分かるんですけど、近所の鈴木おじいちゃんとはなんで戦ったんですか?
  しかも他の2人よりかなり攻撃力の高い技でキメてるし」

 「実は鈴木さんちののおじいちゃんは投げ技の仙人と呼ばれていて……」

 「初耳だそれは」

 「喧嘩ふっかけました」

 「おばあちゃん。それはもう頭の悪い不良レベルですよ。
  いい加減に歳相応に落ち着いてください」

 「いや〜、でも本当にやばかったわよ。何度も投げられそうになって……思わずコンボ決めちゃった♪」

 「年寄りに容赦ないな。
  あとですね、蝿を箸で掴むな」

 「どこかの剣豪を参考に……」

 「するなよ。みんな使う箸だっていうのに。
  あとですね、最後のゴジっていうのは……」

 「怪獣王さんです」

 「勝ったの!? 怪獣王に勝っちゃったの!?」

 「寄りきりで勝利しました」

 「相撲!? 相撲で勝ったの!?」

 どこの馬鹿だよ。
 ゴジラと相撲して勝つ奴は。



 「っていうかさ、私のパソコンはちゃんとロックしてあったよね?
  なんで普通に使ってるの?」

 「防壁を突破して普通に使ってるの」

 「え? おばあちゃんってもしかしてハッカー?
  頭も良かったの!?」

 「殴って突破」

 「結局力技かよ!!」


 明日あたり、女神さんが私のパソコン勝手に使いそうなので、何かトラップしかけることにします。







 4月27日 水曜日 「日記代筆、女神」

 「……千夏さ〜ん」

 「なんですか女神さん? 人の部屋でぶら下っちゃったりしてて」

 「……これ、なんですか?」

 「罠です。ブービートラップ」

 「助けて……」

 「嫌です」

 っていうかさ、人のパソコンに触ろうとしたでしょ?

 「な、なんでこんな罠を……」

 「なんだか最近よくパソコンを勝手に触られるんでトラップ仕掛けてたんですけど……
  まさか本当に引っかかるとは。
  しかも予想通り女神さんが」

 「あ、あのですね千夏さん。私は千夏さんのお手伝いをしたくてですね……」

 「へぇ〜……」

 「うわあぁっ!? ロープ揺らさないでくださいよ!!」

 「っていうかさ、本当に最近何なんですか? 人のパソコンに勝手に触るだなんて、趣味悪すぎですよ」

 「だ、だからですね! 千夏さんのお力に!!」

 「うりうりうり」

 「あわわわわわ……本当にごめんなさい! 反省してますから許してください!!」

 まあこれ以上ミノムシごっこさせるのも可哀想なので降ろしてあげる事にします。

 「ううう……酷いですよ千夏さん。
  他の人たちは怒られながらもちゃんと日記を書くことが出来たのに……私は吊り上げられただけだなんて」

 「ちなみに女神さんが日記を書いた場合、どんなことをサイトにUPしようと思ってたんですか?」

 「え〜っとですね、今日は炊飯器の中に隠れていて、ご飯を食べようとしたウサギさんに金のしゃもじと銀のしゃもじを……」

 「そんな素敵ライフは絶対に私のサイトに書かせません」

 「酷い!? 私の日常ですよ!?」

 ご飯粒まみれの日常ですね。








 4月28日 木曜日 「弱い者を守る法」

 「頭の狂った犯罪者の被害に会うのは、いつも弱い子どもたちばかり」

 「今日はモノローグから飛ばしてますねお母さん」

 「そんな子ども達を守るために、新しい法律を作るべきだと思うのよね」

 「いつもは子どもの事なんてどうでもいいって感じなのに、今日はどうしてまた?」

 「奈良県でね、面白い条例が作られようとしてるから」

 「奈良……? どんな条例ですか?」

 「赤の他人の子どもに話しかけたら死刑」

 「どんなはっちゃけ条例だ」

 「死刑っていうのは冗談だけど、話しかけたら処罰されるっていうのは本当らしいわよ」

 「へぇ……いつから大人は子どもより頭悪くなったんですか?」

 気軽に大人と子どもたちがコミュニケーションとれなくなっちゃったら、
 地域と子どもたちの繋がりとかそういうのが無くなっちゃうんじゃないですかね?
 それが子どものためになるとはあまり思えないんですけど……。


 「そういうのを踏まえて、子どもを守るための法を作りたいと思います」

 「踏まえるな」

 っていうかさ、前にも似たような事しましたよね?
 たしか犯罪者を生み出さないような社会を作るためのなんとかって。
 全然役に立たない法案ばっかりでしたけど。

 「まずはえっと……『小学生というフレーズにニヤニヤした者は死刑』」

 「一発目から飛ばしますねお母さん。いきなり死刑か」

 「そういう人から取り締まっていけば世界は平和になると思うのよね」

 「どこの選民思想な宗教だよ。目を醒ませ」

 「『幼女というフレーズにえへへとしたらゾンビ化』」

 「ああ、どこかの部族にあるらしいですね、ゾンビにして死後も働かせるっていう罰。
  でもね、それはオカルトだから」

 「『つるぺたというフレーズを週に3回以上使う者は、ミサイルと共に太陽のもとへ』」

 「アトム? 鉄腕の人の最終話?」

 「『ロータリーをロリータと読み間違う人は、リモコン次第で正義の味方か悪の手先に』」

 「もやは罰則が訳分かりません。鉄人28号がどうかしたんですか?」

 「『事あるごとにフラグが立ったと言う輩は、親にもぶたれた事無いのにぶたれる』」

 「落ち着いてお母さん。ガンダムのネタを入れようとするあまり、罰則がしょぼくなってきてる」

 「『歩きながらタバコ吸う奴は、ラストなサムライとしてクーデター』」

 「歩きタバコは普通に罰則ありますから。
  そして、ラストサムライは別に関係ないから」

 「『飛べない豚は、ただの豚』」

 「本当に関係なくなってる! ただのセリフですよそれ!!}

 「こんな法があったらさ、いい世界になると思うのよね」

 「根本的に間違ってるんですけど、法と道徳っていうのは別な物ですからね?
  『やって欲しくない事』を封殺するよりも、『こう生きて欲しい』という事を導いてあげるのが正しいと思うんですよね」

 「そういう正論は奈良の県議会に言いなさい」

 確かに。







 4月29日 金曜日 「ゴールデンウイークの予定」


 「ウサギさんウサギさんウサギさ〜ん♪ ゴールデンウイークですよ? ゴールデンですよ?
  午後8時台ですよ?」

 「ゴールデンタイムは別に関係ないと思う」

 「楽しみですねえ。新学期というストレスからの開放ですよ。
  このために今まで耐えてこれたってもんです」

 「本当に楽しみにしてたんだな……。悲しみを覚えるぐらい」

 それは放っておいてください。



 「ねえねえねえ。どこ行きましょうか?」

 「ん〜……どこか行きたい所あるか? できる範囲でなら連れて行くけど」

 「さすがウサギさん! お母さんたちとは違う!!」

 「もしかしてどこか行きたいって言って断られた?」

 「ええ、ハワイに行きたいって言ったら殴られました」

 「さすがにそれは欲張りすぎだと思うぞ?」

 でも無人島には送り出すような人ですよ?



 「で、どこに行きたい?」

 「う〜んとですね……遊園地とか?」

 「隣の?」

 だれがあんなデンジャーゾーンに行くものですか。

 「カップルが馬鹿みたいにラブラブできるような遊園地に行きたいです。
  何が楽しいのか同じジュース飲んだり」

 「心なしか漂ってくる馬鹿にした感じが、本当に遊園地に行きたいのか不安になるんですけど?」

 「大して怖くないのにお化け屋敷で抱きついたり出来るような、そんな感じの遊園地がお好みです」

 「そういった駆け引きは口に出さないで欲しいなぁ」

 正直に生きようと思ってますので。


 「後は……映画館とかいいと思いませんか?」

 「ふ〜ん、どんな映画見たい?」

 「巨大化したカニが人を襲う映画とか」

 「B級臭いにも程があるぞ」

 「で、その後はカニを食べに行きましょうよ」

 「……食欲湧くかそれ?」

 「じゃーたこ焼きでいいです」

 「そういう問題じゃなくて……」

 「楽しみですねー♪ ゴールデンウイーク」

 「……まあいいけどね」

 楽しみにしてますよウサギさん。





 4月30日 土曜日 「背中の張り紙」

 せっかくの休みなので、近くの街をのんびりと散歩している私。
 目の前を通り過ぎる野良猫を眺めたり、流れゆく雲に想いを馳せたり……我ながら中々優雅な休日の過ごし方だと思います。

 「くすくす……」

 「?」

 さっきからなんだか気になっていたのですが、すれ違う人たちが、私の方を見て笑っているような気が……。
 いじめられっ子特有の被害妄想なんかじゃありませんよね?

 「私に何かついてるんですかね?」

 取りあえず私の服を注意深く見て見たり、顔を触って変なものが付いていないか調べてみました。
 変わった所なんて見当たらない……。

 「……なんだこれ?」

 私が見つけたのは、どうやら私の背中に貼られていたらしい一枚のA4サイズの紙。
 その紙には『どうぞ狙撃してください♪』と書かれていました。





 「おい! リーファちゃん!! 出て来い!!」

 「うっひゃぁ!? お姉さま!? どうしたんですかそんなにお怒りになられて……?」

 「そりゃあもうお怒りになるでごわすよ!!」

 「語尾が変ですよ……?」

 こんだけ怒れば語尾くらいおかしくなるってもんですよ。

 「リーファちゃんでしょ!? こんなヘンテコな張り紙を私の背中に貼ったのは!!」

 「な、なんの事ですかね〜? 全然身に覚えが無いですよ。
  第一、私だっていう証拠はどこにあるんですか?」

 「普通だったら『蹴ってください』だとか『殴ってください』だとか書くはずなのに、
  わざわざ狙撃って書く所が暗殺者っぽいんですよ!!」

 「そんなの暗殺者に対しての偏見ですよ!!
  それじゃあ何ですか!? 暗殺者だったら、必ず地獄ラーメンを注文するとでも思ってるんですか!?」

 「例えが分からん」

 「暗殺者だったらサイコな音楽を聞き入ってるとでも思っているんですか!?
  暗殺者だったらRPGで意味も無くレベル上げにいそしむとでも……」

 「はいはい分かりましたって。リーファちゃんの事信じますよ」

 「そうですか、それならいいです。実際私が貼ったのだけど」

 「やっぱりお前が貼ったのかよ!!」

 「道を歩いているゴルゴ13とかがその張り紙を見て、お姉さまのこと狙撃してくれないかなあって思ったんですけど……
  上手くいかなかったみたいですね」

 「日本の公道にスナイパーなんてそうそう歩いてるものじゃありませんよ」

 なんだか他力本願な暗殺に変わってきましたね……。
 いや、本腰入れられて特攻してもらっても困るんですけど。




 リーファちゃんに優雅な散歩を邪魔されてしまった私。
 しょうがないのでゆっくり昼寝させてもらう事にします。

 「はぁ……なんで昼寝ってこんなにも幸せな気持ちになれるんでしょうか?
  うふふ、幸せ〜♪」

 「千夏? 春だからアホっぽい笑いしてるの? 面白そうね」

 「……お母さんですか。私はアホっぽい笑いなんてしてませんよ」

 「してたじゃん。うっふっふぅ〜♪ って」

 やってねえ。そんな妙な呼吸法みたいな笑いかたしてません。

 「いいからどっか行ってくださいよ。
  お母さんが傍にいるといい夢が見られなくなります」

 「ひっどい言い草ね。
  というか千夏が私に絡んで欲しいって言ってるから、忙しい家事を置いといて話しかけたのに」

 「誰がお母さんなんかに絡んで欲しいだなんて言いましたか?」

 「千夏の顔にそう描いてあるもの」


 「は? なに言って……」

 近くにあったTVのブラウン管に映る私の顔には、確かに何か文字のような物が……。

 「リーファちゃん!! またやりやがったな!!」

 ちなみに私の顔に書かれていた文字は、『私にプロレス技かけてね♪』でした。
 確かに関節は絡むかもしれないけれど、普通そんな解釈しないでしょうにお母さん。











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