5月1日 日曜日 「おばあちゃんのホームページ」

 「千夏ちゃん」

 「はい? どうかしましたかおばあちゃん?」

 「私ね、ワールドワイドウェブ界に進出しようと思っているのよね」

 「WWWね。別にそんな正式名称いらないんですけど? ネット界でいいじゃん」

 「だからさ、すでにホームページを持っている千夏ちゃんに、作り方を教えて欲しいの♪」

 「えっとですね、面倒なので丁重にお断りさせて……」

 「教えて欲しいの♪」

 「だ、駄目ですよ! 今日こそはおばあちゃんの暴力には屈しませんからね!
  昨日までの私とは違うんですからね!!」

 「お・し・え・て・欲・し・い・の・♪」

 「……だ、だからですね」

 「お・し・え・て・く・れ・る・よ・ね・?」

 「………………はい」

 どうにかしてください。
 このジャイアンポジションなおばあちゃんを。




 「それじゃあ千夏ちゃん。さっそくホームページの作り方を教えてちょうだい」

 「えっとですね、まず初めに言っておきますけど、
  『ホームページ』という名称だと、ブラウザを起動した時に初めに来るWebサイトの意味を持ったりしてしまいますので、
  『サイト』で統一した方が、何かと誤解が無くていいですよ?」

 「ホームページの作り方教えて?」

 「……まあ別にホームページでもいいですけれど」

 これからちゃんと人の話を聞いてくれるのかどうか心配なんですけど?


 「取りあえずHTMLタグの説明がなされている本やサイトを5回は読んでください。
  じゃ、私はその間テレビ見てきますんで」

 「ちょっと待ちなさい千夏ちゃん」

 「うがふっ!? ちょっと!! 首掴んで引き止めるのは止めてください!!」

 「なんだかね、どうせ挫折するだろうって思ったから、適当に済ませようって感じが見え見えなんだけど?」

 「き、気のせいですよ! それにですね、HTMLタグの基本的な知識は絶対に必要なんです!
  フリーのホームページ作成ソフトを使う場合でも、無いと困るんです!!」

 「う〜ん……それって面倒だからさ、千夏ちゃんが打ち込んでよ」

 「素直にブログやれよ」

 そっちの方が絶対に簡単だから。


 「そう言えば千夏ちゃんのサイトってさ、別にブログにしたっていいと思うんだけど……
  なんで普通のHTMLページにしているの?」

 「トラックバックとかされたら恥ずかしい日記だからに決まってるじゃないですか」

 死ぬほど恥ずかしいもの。

 「トラックバック? 何ソレ?」

 「何かのきっかけによって過去の記憶が瞬間的に思い出される事を……」

 「フラッシュバックよね、それは?」

 「室内で発火した炎は、しばらく燃え盛ると部屋の中の酸素を食い尽くして勢いが弱まっている状態になります。
  その状態の時に窓ガラスが割れるなどといった、急に酸化剤である酸素が入ってくると、急激に炎の勢いが増し、まるで爆発したかのような火柱が……」

 「それはバックドラフトよね?」

 「トラックの後ろの方です」

 「思いつかなくて簡単な事を言い出した気がする」

 放って置いてください。



 「で、どうするんですか? ブログにします?」

 「別に日記を書きたいわけじゃないから、普通のホームページにするわ」

 「……っていうか、どんなサイトを作りたいんですか?」

 「漬物のホームページ」

 「知らなかった。おばあちゃんにそんな歳相応の趣味があっただなんて」

 私的にはおばあちゃんの常日頃の格闘風景を載せた方が大うけすると思うんですけどね……。

 「とにかくですね、その漬物サイトを作りたいのなら、まずはHTMLを理解して……」

 「もうちょっと簡単にならない? パソコンに漬物ぶち込んだらネットにUPされるとか」

 「初めて聞きましたよ。そんな豪快な更新の仕方」

 「はぁ……やっぱり私にはワールドワイドウェブは荷が重いのかしら……」

 「ええ。重すぎですね。綺麗さっぱり諦めてください」

 「じゃあさ、携帯電話用のホームページなら簡単に……」

 「別にですね、携帯電話だから簡単になるなんてことないですからね?」

 おばあちゃんはネットに触れるべきじゃないと思います。




 5月2日 月曜日 「加奈ちゃんの成長」

 「うに〜……ママぁ、だっこしてぇ……」

 自分のベッドでぐっすりと寝ていた私の所に、加奈ちゃんがやってきました。
 寝ぼけた声を出しながら私のベッドに潜り込んできます。

 「ふぁ? 分かりましたよぉ。ほれ、こっち来なさい」

 「うな〜……」

 「なんだよそのうめき声は」

 「うなぎの鳴き声〜」

 「ウナギは鳴かねえ。少なくとも私の知識内では」

 ……っていうか。


 「加奈ちゃん!?」

 「ふぁひ? どうしたのママ?」

 「なんていうかっ成長してる!?」

 昨日までは確かにただの赤ん坊だったはずの加奈ちゃんは、何故か一晩で幼稚園児程度の年齢に成長していました。
 ……いや、これは成長だなんていえない気がします。
 どっかで取り替えられた?


 「ほ、本当に加奈ちゃんなんですか!?」

 「そうだよ? 闇夜の殺月花という2つ名を持つ加奈ちゃんだよ?」

 「そんな2つ名捨てちまえ」

 っていうかその語り草は雪女さんのモノですよね?
 あいつ、いつの間にそんなこと教えやがったんだ。


 「か、加奈ちゃん……どうしてこんなに大きくなっちゃったの?
  なんていうか、大切な過程をいろいろ飛ばした成長しちゃって……」

 「わかんないー」

 「変なもの食べたとか、心当たり無い?」

 「んー、えっとねぇ……イカの塩辛食べたー♪」

 「歳の割には結構渋い味覚してますね」

 つうか誰が食わせたんだよ。昨日まで乳幼児だった子に。

 「他には? 何か変なの食べた? もしかして黒服の部屋にある変なものとか触っちゃったとか……」

 「ラルラちゃんもはむはむしたー♪」

 「猫は食うな」

 「後はひいおばあちゃんもまぐまぐしたー♪」

 「おばあちゃんを!? すごい度胸ですね」

 それはちょっと尊敬しちゃいますよ。



 「う〜ん……原因となるものなんて、強いてあげればおばあちゃんをまぐまぐだけですねぇ……」

 あの人かじったら、なんか秘薬的なダシが出てきそうだし。

 「ねーえ、お腹空いたー」

 「はいはい分かりましたよ。なに食べたいですか?」

 取りあえず加奈ちゃんの急激成長は環境ホルモンの所為にしておいて、
 今はご飯を上げる事にします。

 「イカの塩辛♪」

 「本当に渋いな」

 どういう成長の仕方したんですか。






 5月3日 火曜日 「お風呂改良」

 「うぎゃあああああ!!!!」

 「どうしたの千夏? あられもない姿でお風呂場から飛び出してきちゃって?
  しかもまったく色っぽくない叫び声出して」

 「うっせえお母さん! そんな事気にしてる場合じゃないんですよ!! 何あれ!?」

 「なにって……なにが?」

 「お風呂に! なんだか見たことの無い魚が!!」

 「ああ、あれね。あれはピラニアって名前の魚なの」

 「ピラニア!? ピラニアですって!?」

 「そう、ピラニア」

 「なんで我が家のお風呂にピラニアが放し飼いされてるんですか!?
  危うくかじられる所でしたよ!?」

 「え〜っとね、アマゾン川なイメージを持つお風呂でリラックスしようかと思って」

 「それはせめてお風呂の近くに観葉植物置くだけにしましょうよ。
  お風呂そのものをアマゾンに近づけてどうするつもりですか?」

 「癒し空間にしようと……」

 癒しにはならないってば。
 むしろ大自然の厳しさを味わう事になりますし。


 「っていうかさ、急になんでこんな事し出したの?」

 「お風呂の時間って一番リラックスできる時じゃない?
  だからね、その癒し効果をもっと高めて、五月病なんかにならないようにしようかなって」

 「へぇ……ここまで好意を持ってやってるのに、思いっきり迷惑かけるなんてさすがですねお母さん」

 その迷惑資質は天才的ですよ。

 「とにかくさ、お風呂どうにかしてよ」

 「お湯を一杯出して、ピラニアを煮ちゃえば?」

 素敵に酷いことをあっさり言う人ですね。


 「ちなみにね、明日は電気風呂を作ってみようと思ってるの」

 「なんだかとても予想がつく展開ですね。
  感電死か。明日の私は感電死なのか」

 「死ぬほど強い電気を使うわけ無いじゃない。ドライヤーを湯船に落とすぐらいだもん」

 完全に致命的なダメージですね。それは。


 「明後日はね、流れるお風呂にするの♪」

 「流れるお風呂? 何ですかそれ?」

 多分流れるプールのお風呂版だと簡単に予想できるんですけど……
 どうも想像しにくいです。

 「2泊3日の旅行計画が、グダグダしている間に無かったことに」

 「そういった意味での流れるなんだ? 物理的な流動では無いんだ?」


 「いくつものスナックを、ギター1本持ってあちらこちらに」

 「流しのギター弾きね。何時の時代の人間だよおかん」

 「という経験がお風呂で出来るの。すごいでしょう? 流れるお風呂」

 「脳みそをもうちょっと綺麗に洗った方がいいんじゃないですか?」

 「それで明々後日はぁ……」

 「まだお風呂改造計画の発表を続けるつもりなんですか……。
  っていうか止めてくださいよ。電気風呂も流しのギター風呂も要らないですよ」

 「明々後日はね、電気風呂と流れるお風呂を合体させた、エレキギター風呂に……」

 もはや何がしたいのか分かりません。

 「ピックとか観客席に投げたりしながら入浴するの♪」

 「新世代的すぎて付いていけません」

 とりあえず今日は銭湯に行くことにします。
 ピラニア煮殺すのもなんか嫌だし。





 5月4日 水曜日 「鯉のぼり販売」

 「お嬢さんお嬢さん」

 「ちくしょうめ!」

 「え!? ど、どうしたの!?」

 「最近路上販売に引っかからないなぁって思ってたのに……ちくしょう!!」

 「そこまで悔しがられると、何だか悪いなって気になります」

 そう思うなら声かけてくんなよ。

 さて、今日も今日とて素敵黄金週間を楽しむべくグダグダと散歩をしていたわけですが、
 思いっきり怪しい販売員に話しかけられてしまいました。
 コンチクショウ。


 「お嬢さん、鯉のぼりはいらないかい?」

 「知らなかった。最近は鯉のぼりまでキャッチセールスしてるんですか」

 というかさ、明日しか使わないじゃん。
 そんなものを買わせようとしてるんですか。

 「最近の鯉のぼりはすごいんだよ〜?」

 「心底興味ない。っていうか私女の子だし。こどもの日ってあまり祝ってもらえないし」

 「なんて言ったってね、のぼり方が一昔前の物と全然違う!
  単独で大気圏を出て行ってしまう程の推進力を備えていまして……」

 「いつから鯉のぼりは大陸間弾道ミサイルの性能が必要になったんですか。
  どこの国に戦争しかけるつもりだよ」

 「今ならなんと五匹の鯉のぼりが付いてくるんです」

 「そんなにいらない気が……。3匹程度で充分だと思うんですけど?」

 「お父さんの鯉とお母さんの鯉と子どもの鯉と愛人の鯉と……」

 「4番目のはどうなんですか?
  なんで日本の空で修羅場ちっくな事させようとしてるんですか?」

 「5番目は美人秘書の鯉」

 「完全に赤の他人じゃん」

 「美人秘書の恋物語」

 「売れなさそうなドラマタイトルっぽい」

 「そんな素敵な鯉のぼりセットがたった3万円であなたの物に」

 「いらない。力の限りいらない」

 「ちなみに今ならこのセットにオマケが付いてきまして……」

 「どこぞの通販的展開なんだよ。ジャパネットか? ジャパネットなのか?」

 「3匹の鮭のぼりが付いてきます」

 「鮭!? サーモン!?」

 「お相撲さんと弁護士と医者の鮭が付いてきます」

 「本当に家族と関係ないじゃん。どういった設定だよ」

 「突如鯉のぼりの家族達の家に侵入してきたお相撲さんな鮭が……」

 「シュールすぎる物語ですね。びっくりするわ」

 「愛人な鯉のぼりを踏みつけて、それを救うために医者な鮭が登場して、弁護士が傷害事件として立憲するように勧めて……」

 「あのね、無理矢理物語を作らなくてもいいと思うんですよ?」

 「美人秘書がチラリズム」

 「完全に関係ないな。美人秘書」

 っていうか私はなんの商品を売りつけられてるんでしたっけ?


 「ちなみにですね、鮭のぼり以外にイクラ型風船が付いてきます」

 「キモイ。どこをどう楽しめばいいんだよそれは」

 まったく購買意欲が刺激されません。



 5月5日 木曜日 「五月病特効薬」


 「うふふふ♪ 千夏、元気?」

 「……どうしたんですかお母さん? いつに無く不気味なんですけど?」

 ♪マークなんて使っちゃって。
 正直キモい。

 「なんつうかね、すんごくハッピーって感じ?
  ビバ黄金週間って感じ?」

 「ゴールデンウィークとかはあまり関係ないじゃん。
  主婦なんだし」

 「にへへへ♪ サイコーね五月って。これからも私、頑張っていくわよ♪
  あははははははっはははっはははっはっははっははははっはは…………」

 「お、お母さん? 本当に何だか心配しちゃうんですけど?
  大丈夫ですか?」

 「えっとね、黒服さんにね、お薬もらっちゃったの♪」

 「へぇ〜、ついにお母さんがドラッグに手を出しましたか。
  お母さんの破天荒ぶりを見てれば時間の問題だと思ってましたけど、まさか本当にやっちまうとは……」

 アップ系と呼ばれる奴を服用したんでしょうか。
 もう人としてどうなのよ?


 「なんでもね、五月病にすごく効くお薬なんですって。
  これでもう家事をやろうとするとやる気が無くなるなんて状態にならずに済むわ♪」

 「うん。絶対にアップ系だね。
  どうしようもないくらいヤバ気なお薬だね」

 つうかそんな薬を処方するなよ黒服。




 「ちょっと黒服。話あるんですけどいいですか?」

 「おー千夏。ちょうど良かった。お前に試して欲しい薬があるんだけど……」

 「精一杯拒否します。っていうかさ、お母さんにあげた奴でしょ?」

 「あれ? もう話伝わってるの? じゃあ話が早くていいや。
  実はね、五月病を克服する薬を作ったんだけど、試してもらいたくて……」

 「嫌ですよ!! 絶対的にやばいクスリじゃないですか!!」

 「失礼な!! 主原料は『優しさ』だぞ!?」

 「余計に怪しいわ!!」

 「ちなみに他の材料は、『廃校を見た時に感じる哀愁』です」

 原子配列によって作られている物質が見当たらないんですけど?


 「なんでこんなドラッグなんかを製造して……」

 「そりゃあもちろん、一億五千万人が悩まされている五月病をどうにかするために……」

 「日本国民全員が五月病みたいな事言うな」

 嫌過ぎるでしょ。そんな国。


 「これ一錠でもう五月病なんかに悩まされずに済むんだぞ?
  すごく有意義な発明じゃないか」

 「服用したらしいお母さんの状態を見る限り、悩まされずに済むって言うか、悩む事を忘れさせられているって言うか……」

 「うん。文字通りぶっ飛びますよ」

 「駄目だと思う。ぶっ飛んじゃうのは、すんげえ駄目だと思う」

 っていうか、やっぱりアップ系の薬物なんじゃん。







 5月6日 金曜日 「癒し系宣言」


 「千夏さん! 私、癒し系の妖怪になります!!」

 「おーっ、雪女さん。さすが妖怪。言ってることが異次元」

 「怖がらせるだけが妖怪の仕事じゃないと思うんですよね。
  これからは人の役に立つ妖怪っていうのも必要とされているはずなんです」

 「私、雪女さんで怖がったこと一度もありませんけど?
  あと、人の役にだったら充分役立ってるじゃないですか。
  我が家の家政婦として」

 「酷いわ千夏さん! 妻に向かって家政婦だなんて!!」

 お母さんの奴隷って表記したら不味いと思って、結構気を使ったつもりなんですけど?

 「で、一体どんな気の迷いからそんな事言い出したんですか?」

 「今日のお昼ご飯の天ぷらを作ってるときにですね、少しばかり居眠りしてたんですけど……」

 「一歩間違えたら大火事だから二度とやらないでください」

 「夢の中にですね、私のお母さんが出てきたんです!」

 「へぇ〜……雪女さんのお母さんですか。どんな人なんですか?」

 「冷たい人でした」

 「だろうねぇ。雪女だし」

 「授業参観とかあまり来てくれなかったですし」

 「態度がか。態度が冷たかったんですか。
  体温的なものじゃなくて」

 早とちりしてごめんなさい。
 っていうか雪女さんも結構可哀想な人ですね。

 「母親がアレだと聞くと、何だか親近感が湧いちゃいますね……。
  頑張ってくださいね雪女さん」

 「いえいえ。千夏さんのお母様よりは全然マシですよ♪」

 「殴っていい?」

 「それでですね、その夢の中のお母さんが私にこう言うんですよ!!
  『仕送り、もうちょっと増やして頂戴』ってね……」

 「意味が分からん。そのお金の要求が、どうやって癒し系妖怪への変貌へと結びついてくるんですか。
  っていうかただの夢じゃん」

 「うちの家系は夢で連絡取り合うんです」

 「すごい。初めて雪女さんがオカルトちっくなアビリティを発揮」

 「あと、平泳ぎが得意です」

 「それは全然オカルトなアビリティじゃない」

 ここぞと言う感じで自分を売り込もうとするのは止めてくださいよ。


 「夢の中でそう告げられた後にですね、ぱっちりと目を醒ましてみますと、
  天ぷらを揚げていた鍋からもんのすごい炎が立ち上がってましてね……」

 「え!? それって火事……」

 「私の霊力で何とか火をおさめたんですけど、もう壁とかボロボロになっちゃってて……」

 「……」

 「皆さんのごきげん取らないと、まずいなぁって……」

 「それが原因じゃん!! 癒し系妖怪っていうか、ただ皆に許してもらおうって思ってるだけなんじゃん!!」

 「皆さんを癒そうと思います」

 「その前に謝れよ!!」






 5月7日 土曜日 「キャッチボール」

 「千夏!! 私とキャッチボールしましょうか?」

 「お母さん? 急にどうしたんですか?」

 「ほら、千夏って男親が居ないでしょ? だからね、こういう親子の触れ合いも大事なんじゃなかと思ってね」

 「そういうのは男の子な子どもとやって欲しいんですけど?」

 「いいからいいから。やりましょうよ」

 普段会話のキャッチボールすらも出来てない人間の癖に、よくもまあやる気になっちゃって……。



 さて、お母さんに推されるまま連れてこられた所はなんとまあ素敵な公園。
 確かにここでキャッチボールすれば気持ちの良い運動になるかもしれません。

 「いくわよ千夏ー♪」

 「はいはい。どうぞ投げちゃってくださいよ」

 「魔球、第31号!! 『天翔る着信拒否』!!}

 「ネーミングが意味不明だ!!」

 と突っ込んでいた私の顔の数センチ先を、衝撃波を撒き散らす速度で通過していくボール。
 直撃したら軽く死ねそうなんですけど?


 「お、お母さん? 今の、何なんですか?」

 「魔球31号。その名も『赤雷の代金引換』よ」

 「名前変わってんじゃねえか」

 「ふふふ……この魔球、千夏に捕れるかしら?」

 なるほど。キャッチボールは早々に諦めたわけですね。
 いい加減にしなさい。


 「あんなの捕れるわけ無いじゃないですか!!
  ちゃんとキャッチボールやってくださいよ!!」

 「私、人に合わせて投げるって言うのが苦手なのよね」

 今回の提案を根底から崩壊させてんじゃないですよ。

 「ほら千夏。さっさとボール取ってきなさいよ。キャッチボール続けられないでしょ?」

 「やる気ないじゃん。初めからキャッチボールなんてやる気ないんじゃん」

 「ほれ、早く取ってきなさい。ほれほれ」

 ちくしょう……。なんだかムカつきますね。




 「それじゃあ行きますよお母さん?」

 「どんと来なさ〜い♪ しっかりと受け止めてあげるわよ♪」

 「相変わらず変なテンションなんだから……」

 取りあえずお母さんの顔を狙ってボールを投げつけます。
 弾道が読まれていたのか、すんなりとお母さんにキャッチされてしまいましたけど。

 「ほほほほ!!!! 甘いわね千夏!! こんな事じゃ私は倒せないわよ!!」

 「倒さないし。これ、キャッチボールだし」

 どんなバトルロワイヤルなボールの投げ合いだって言うんですか。


 「それじゃあ私の番ね……。
  魔球第25号!!」

 ねぇ、お母さんってどこのぶっ飛び甲子園児だったんですか?

 「『万華鏡私書箱』!!」

 「相変わらず意味不明だ!!」

 お母さんが投げたボールは空中で5つに分身。そのまま速度を落とさずに私の元へと向かいます。
 ありえねえ。

 「うわぁ!? なにコレ!?」

 「これぞ我がライバル『覇道 大門』(34)を破った必殺投法なり!!」

 「そんな歴史は知らん!!」

 相変わらずめちゃくちゃな人生送ってるみたいですね。
 と言ってる間にも分身魔球は私の元へ。

 「ど、どうせ本体は1つなんだから、思い切って……これだぁ!!」

 私の勘を信じて、たった一つのボールを捕ります。

 「ふん! 外れよ千夏!!」

 「へっ? ってうわあああぁ!!!!」

 私の選んだボールは外れだったらしく、爆発しました。
 ……爆発!?

 「お母さん! 死ぬから!! なんかこのキャッチボール、死にそうになるから!!」

 「仕方ないでしょう? これが魔球『這い寄る車検』の力なんだから」

 「嘘だ! さっきはそんな名前じゃなかった!!」

 「さあ千夏、私に投げ返しなさいって」

 今度何か食らってしまったら、確実に殺されてしまいそうなんですけど?

 「ほら来い。ばっちこーい」

 マジムカつく。










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