5月8日 日曜日 「母の日とかそういうの」


 「あっれ〜? 今日って何の日だっけ? ここまで出てるんだけどな〜。
  何かの拍子で思い出せそうなんだけどな〜」

 「……」

 「え〜と、あれだよ、あれ。ほら、花とかそういうのに関係がありそうな奴。
  えっと……カーネーション? そういう花に関係がある奴!」

 「……」

 「ねぇ千夏、心当たりない? 脳細胞の一つ一つをくまなく探した結果、思いつくもの無い?
  過去の記憶と照らし合わせて、これだっていう奴ない?」

 「……母の日とか」

 「ああ! そうだ!! 母の日だったんだ!! ようやく思い出せたー♪」

 「わざとらし過ぎでしょお母さん!!」

 どんだけ母の日である事をアピールしてるんですか。
 一行目で気付いたわ。


 「と言うわけで千夏。今年の母の日は何かしてくれるのかしら?」

 「そこまで図々しくされると感謝の気持ちが薄れていく気がするんですけど?」

 「私的にはねぇ、バッグが欲しい!!」

 「小学生に物品をねだるな。私のお小遣いじゃ、買えるのはカーネーション一本程度ですよ」

 「この貧乏小学生が……」

 「貧乏小学生だなんて呼ばれる事になったのは、紛れも無くあなたの所為なんですけどね?」

 もう何かしてあげたく無くなったんですけど?


 「とにかく期待してるわよ千夏♪」

 「……はい、分かりましたよ。適当に期待してものすごくガッカリする事になってください」

 どう考えたってお母さんの望むものなんてあげられないですから。




 「リーファちゃ〜ん。今日の母の日、お母さんに何かしてあげますか?」

 「……はい? なんで私がそんなことを? 血も繋がって無いのに」

 じゃあ最初から妹だなんて名乗るなよ。

 「一応居候でしょうが。少しは気を使いなさいよ」

 「感謝するような事、してもらった事無いんですよね。あの人変だし。巻き込まれてばっかだし」

 自分以外の人間にお母さんの悪口言われると結構へこみますね、
 私自身はめちゃくちゃ文句言ってるのに。

 「でもほら、一応家族という体裁を保ってるわけですからね……」

 「分かりましたよ。何かプレゼントすることにしますって」

 「おお、そうですか。で、一体何を? よければ私と予算を折半して……」

 「以前お姉さまに差し上げた事のある暗殺券を1セット……」

 せめて、肩叩き券とかそういう可愛げのあるやつにして欲しいです。




 「ううう……どうしよぉ。やっぱりここは酢コンブでもプレゼントすれば……喜ぶわけないか」

 っていうか段々腹立ってきましたよ。
 なんでお母さんを喜ばせるためにこんなに一生懸命になって考えなければいけないんですか?
 どう考えたって普段苦労しているのはお母さんより私のほうなのに。

 「いいやもう酢コンブで。健康になりやがれって事ですよ」

 かなり投げやりなプレゼントですけど、しょうがない事だと思います。


 「ママ〜♪」

 「ん? ああ、加奈ちゃん。どうしたの?」

 「今日ね、ママの日でしょ?」

 「うん、まあね。ママっていうか母の日ですけどね」

 「じゃープレゼントあげるー♪」

 「へぇ……ありがとう加奈ちゃん」

 「えへへへ……♪」

 加奈ちゃんがくれたのは、幼稚園児らしい奇抜な絵画。
 言ってしまえば頭のアンテナでようやく私だと言う事が分かるへっちぃ絵。
 ……確かに絵はへっちぃですけど、見てると心が癒される気がします。
 心がこもったプレゼントって、きっとこういうのを言うんでしょうね……。

 「本当にありがとう加奈ちゃん。一生の宝物にするからね」

 「うん♪」

 ……私も加奈ちゃんを見習って、心を込めてお母さんにプレゼントしてみますかね。
 どんなしょぼい物でも、きっと心に響くと思いますし。




 「はいお母さん。母の日のプレゼントです」

 「え? 本当!? もらえるなんて全然期待してなかったらビックリだよぉ」

 あれだけけしかけといてそれはないでしょうに。

 「開けていい? 包装紙開けていい?」

 「どうぞご自由に」

 「ふふんふんふん〜♪ おっこれは……私の絵!?」

 「加奈ちゃんにヒントもらったんですけど、一応手作りですよ。
  一生懸命描いたんだから、文句なんて言わないでくださいね」

 「ち、千夏……ううっ、ぐすっ、あなたって子は……」

 「うっわぁお母さん!? 泣いちゃうの? これだけで泣いちゃうの!?」

 さすがにそこまで感動してもらったら困っちゃうんですけどね。
 まあ……嬉しいからいいですけど。

 「あんなに……あんなに、バッグが良いって言ってたのにぃ……」

 「よしお母さん。表に出よう。そして今までで一番の親子喧嘩しよう」

 マジで殴る気満々です。







 5月9日 月曜日 「家族でお風呂」


 「ちちちちちち、千夏さん!!」

 「雪女さん? 千鳥でも使ってるの?」

 「私は写輪眼使いな忍者じゃありません!!」

 そうですか。てっきり忍術喰らわされてしまうのかと思ってしまいましたよ。

 「で、なんですか? 雪隠れの里の忍者さん」

 「……1つのミスをそんなに追及しないでくださいよ」

 ごめんなさい。
 ついつい弄りたくなっちゃって。


 「え〜とですね、お風呂入りませんか?」

 「う〜ん……そうですね。もう入っちゃいましょうかね」

 「ええ。それじゃあ行きましょうか?」

 「そうですね……って、なんで雪女さんも付いてくるですか?」

 「だからその……一緒に入ろうかと……」

 「なんで? すげえ嫌なんですけど?」

 「夫婦じゃないですか! ラブラブじゃないですか!!」

 うわぁ、そんなに必死になられるとすんごく引くんですけどー?

 「何ですか急に思い立っちゃって。今まで邪険に扱ってても文句言わなかったのに」

 「一応邪険に扱ってたのは自覚あったんですね……。
  あのですね、最近、千夏さんと私の絡みが少ないような気がして……」

 「気のせいでしょ、そんなの」

 「でも! でもでも!! このままだと女神さんのように自然消滅してしまう気が……!!」

 え……女神さんって自然消滅したんですか?
 最近見ないと思ったらやっぱり……。

 「とにかく! ここら辺でドッキリイベントをですねえ!!」

 「嫌ですよ。それに私は加奈ちゃんをお風呂に入れないといけないんです。
  雪女さんの相手をしてる暇なんてありません!!」

 「いいですねえ親子三人でお風呂だなんて。素敵なコミュニケーションじゃないですか」

 「お前を加奈ちゃんの母だと認知した覚えは無い」

 「いいから! 本当にちょっとだけ!!」

 「ちょ、雪女さん!? 引っ張らないでくださいよ!!」

 ズルズルと妙に強い腕力で引っ張られていく私。
 なんていうか、すごく犯罪ちっくです。
 怖いよ。





 「えへへ♪ 千夏さん、痒い所とかありませんか?」

 「雪女さんの視線がむず痒いです」

 「いやん♪ そんな所洗わせようだなんて♪」

 「どこ見てたんだよ」


 で、なんだか良く理解できないうちに、私と雪女さんはお風呂に入っています。
 なにが悲しくて一般家庭の狭いお風呂に2人で入らなくきゃいけないのか……。
 とりあえず雪女さんにシャンプーしてもらってますけど、どうやって逃げ出すか考えてばっかしだったりします。


 「泡流しますよー?」

 「はいはい。分かりましたよ」

 「えーい♪ ざぶ〜ん♪」

 はぁ……後で加奈ちゃんもお風呂に入れないといけないから、もう一度私は入浴する事になるんでしょうか?
 ちょっとそれは手間が掛かり過ぎだなぁ……。

 「さ、千夏さん。
  湯船入りましょう。身体を寄せ合って、少ないお湯でも充分温まれる的な貧乏夫婦っぽい設定を楽しみましょう!!」

 もうすっかり温かいというのに湯船準備してるんですか。
 シャワーだけでいいじゃんか。


 「千夏さん……気持ちいいですね」

 「そうですね。まあそんなどうでもいいことより、
  私は雪女さんがお風呂に入っても溶けないと言う事がびっくりなんですけどね」

 「雪女をまるでナメクジみたいに言って……」

 似たようなものだと思ってました。

 「千夏さん……実はですね、こうやって2人きりの時間を無理矢理作ったのには訳があるんです」

 「訳……? もしかして別れ話を持ちかけ……」

 「別れ話するのに一緒にお風呂入るって、どんなラブラブ倦怠期を迎えてるカップルなんですか」

 普通に突っ込まれるとへこむなぁ……。

 「実はですね……最近、誰かに見られている気がするんです」

 「被害妄想でしょ?」

 「即答は止めて。即答で被害妄想って決め付けるのは止めて」

 「だってそれしか考えようが……」

 「なんだか誰かがこの家を監視しているみたいなんです。
  試しにお婆さまにも尋ねてみたら、確かに妙な気配を感じるって……」

 「おばあちゃんがですか……。それならちょっとは信憑性があるかもしれないですね」

 野生の勘だけは良さそうですし。あの人。

 「それでですね、千夏さんも何かと気をつけてくださいと伝えたかったんです。
  いろいろ怖い事件が起こってますから」

 「分かりましたけど……なんで2人っきりの時に話さないといけない事なんですか?
  別に普段でも注意するように言えばいいじゃないですか」

 「ほら、皆さんを怖がらせちゃいけないじゃないですか」

 加奈ちゃん以外に怖がりそうな輩が思いつかないんですけど?
 それにしても不審な視線ですか……。
 なにか、事件が起こらなければいいですけど。





 「ち、千夏さん。あの、換気扇の方に……」

 「え!? もしかして…………女神さん?
  換気扇の中で何やってるんですか?」

 「あなたが回しているのは金のファンですか? それとも銀の……」

 「出てけ」

 まさか、コイツが犯人じゃないでしょうね?




 5月10日 火曜日 「脅迫の手紙」


 「千夏さん! 大変ですよ!!」

 「雪女さん! こっちの方が大変ですよ!! すぐ来てください!!」

 「え? ええ!? どうしたんですか!?」

 「いやね、加奈ちゃんのダンスがそりゃあもう可愛くて……」

 「親バカしてる場合ですか!!」

 バカって失礼な……。


 「ほら! この手紙見てくださいよ!!」

 「手紙がどうかしたんですか?」

 「気持ち悪い内容のやつが、何通か届いてるんです!
  これって絶対に最近感じる視線と関係ありますよ!!」

 「え……本当ですか!?」

 それはちょっと気持ち悪いですね。
 内容によっては警察に届け出た方が……。

 「ほら見てくださいよ!! なんと今頃年賀状が……」

 「確かに気持ち悪い! 今の時期に年賀状は気持ち悪い!!」

 つうか誰だよ。送ってきた奴は。

 「あのですね雪女さん……。
  多分誰が見たって、雪女さんの被害妄想だと思うんですよ。
  確かにこの時期に年賀状は不自然ですけど、だからと言って常日頃感じていた怪しい視線と結びつけるのは……」

 「でもでも! お年玉年賀状で5等なんですよ!?」

 とりあえず落ち着け。
 何を言ってるのかよく分からない。



 「それにですね、この一枚だけじゃないんです! もっと一杯怪しい手紙が来てるんですよ!!
  ほら! これとか見てみてください!!」

 「え〜っとこれは……」

 「身に覚えが無いのに、アダルトサイトの利用料金を支払えと言われてるんですよ!!
  すごい不気味!!」

 「うん。不気味っていうかただの架空請求だね。
  手を滑らしてゴミ箱にポイしなさい」

 「ああっでも!! 何となく身に覚えがあるような無いような……」

 「騙されるな。思いっきり手玉に取られるな」

 純粋っていうかただの馬鹿みたいなんですけど?



 「今度はこれを見てくださいよ! こんな事書いてるんですよ!?
  『この手紙を見た者は同じ内容の手紙を5人に送るべし。さもなければ恐ろしい不幸があなたを襲うだろう』って!!」

 「うわー初めて見たよ。リアル不幸の手紙。電子メールでのチェーンメール全盛のこの時代にこんなレアなものが……」

 っていうか信じてる人っているんですね。
 何度かこういうチェーンメールもらった事あって、全て無視してきましたけど特に何も起こっていないというのに。

 「ちなみにですね、同じ内容の手紙は5通もポストに入ってたんです!!」

 送った奴、手え抜きやがったな?
 5人分を1つの住所で済ませちゃってるじゃないですか。
 その適当さは、本気で信じてるのか信じていないのかどっちなんだ。



 「千夏さん……どうしましょう? 私、すごく怖いです」

 「私は雪女さんのボケっぷりがすごく怖いです。
  魚とかちゃんと食べてくださいね? DHAとか頭に良いらしいんで」

 「はぁ……せめてもの救いはこの写真がもらえた事だけですね」

 「写真? どうしたんですかそれ?」

 雪女さんが持っていたのは何故か私の写真。
 しかも着替えの途中というマニアックで絶対に写真として残さない場面。

 「ああ、これですか? さっきの手紙たちと一緒にポストに入ってたんです」

 「雪女さん!? これの方が大事件でしょ!? 絶対的に盗撮じゃん!!」

 「あはは、まさかぁ。通りすがりのカメラマンがたまたま写真を撮って、
  出来が良かったからプレゼントしてくれただけでしょう!?」

 「そんな話聞いた事無い。
  それにもし事実だとしても、盗撮であることには変わりないし」

 もしかして私、ストーカーされてるんでしょうか……?
 何にせよ、何かと警戒しないと……。







5月11日 水曜日 「謎の忍者」


 学校から帰ってきて、玲ちゃんと一緒に私の部屋で遊んでいる時のこと。
 急に玲ちゃんが変な事を言い始めました。

 「千夏ちゃん……曲者が居るよ」

 「え? なに? そういうごっこ?」

 時代劇とか好きなんでしょうか玲ちゃんは。

 「さっきから変な気配を感じるんだよね。
  多分気のせいじゃないと思うんだけど……」

 「え? 本当ですか!?」

 それってもしかして件のストーカーなんじゃ……。

 「う〜ん……そこだぁ!!」

 急に玲ちゃんが手に持っていた槍を天井に突き立てます。
 ねえ、なんでそんなの持ってるの?
 そして、人んちの天井に躊躇うことなく突き立てられるの?


 「玲ちゃん!! なにしてるんですか!!」

 「ほら、やっぱり曲者は槍で撃退しないと……」

 「どこ将軍ごっこですか!!」

 家を傷つけて怒られるのは私なんですよ?
 勘弁してください……。

 「でもいいじゃない。こうやって曲者を撃退できたんだから」

 「いや、本当に天井裏に誰か居たんですか? 妄想じゃないの?」

 「本当にいたんだってば」

 「じゃあなんで声とか悲鳴とか聞こえてこないんですか?」

 「え〜っとそれは……きっと我慢してるんだよ。忍者だから。きっと隠れてたのは忍者だから。
  だから耐え忍んでいるの」

 言い訳にしか聞こえてきませんね……。

 「ほらほら!! 出てきなさい!!」

 「ちょ、ちょっと玲ちゃん!? ブスブスと天井刺すの止めてくださいよ!!」

 ああ……いくつもの穴が天井に穿たれていく。

 「ほらほらほら!!」

 「いや、マジで止め……」

 「いってえっつうんだよ!!!!」

 「ええ!?」

 玲ちゃんがリズム良く穴を製造してる天井から突然男の人の大声が。
 本当に人が居たんですか!?

 「ほらね♪ 本当に居たでしょう?」

 「で、でかしましたよ玲ちゃん!!
  それにしても、あなた誰ですか!?」

 「と、通りすがりの忍者です」

 「嘘つけよ!! 我が家の天井が忍者の通り道なわけないじゃないですか!!」

 「ほ、本当なんですよ! 獣道ならぬ忍道なんですよ!!」

 忍者は通り道が毎回決まってるのかよ。
 そういう習性なのかよ。

 「というか早く天井裏から出てきてください。
  じっくり話し合いましょう」

 「私、人見知りなんで遠慮します」

 「あなたの事情は知りません。とにかく、出てきてください」

 「駄目なんです。本当に人見知りなんです。
  どれくらい人見知りかって言うと、中学校の時の自分達が調べてきた事を発表する授業とかで、
  恥ずかしさのあまり妙なハイテンションになって、調子に乗ったギャグを滑らして首を吊るぐらい人見知りなんです!!」

 「まあ確かにそういう人居ますけど。
  でもそれって人見知りって言わないんじゃ……」

 「とにかく! 駄目なものは駄目なんです!!」

 なんで不法侵入者にわがまま言われなくちゃいけないんですか。
 いい加減にしなさい。


 「まあまあ千夏ちゃん。無理強いは良くないよ。
  話し合いで解決しなくちゃ」

 「ちょっと待て玲ちゃん。
  そのセリフは真っ先に槍で攻撃したあなたが言うセリフではないですよ」

 「とにかくおおらかな態度で臨まなくちゃ。
  『鳴かぬなら 悪魔で問答 ホトトギス』ってね」

 「それを言うなら『鳴くまで待とう』ですよね。
  悪魔で問答って、確かに語感は似てますけど、思いっきり脅迫っぽい対談を思い浮かべてしまいますよ」

 「なんだか込み入ってらっしゃるらしいので、私はこれで……」

 「逃げるなよ忍者!!!!」


 ゴタゴタしている間に忍者(らしき人)に逃げられてしまいました。
 最近の妙な視線はきっとコイツの仕業だと思うんですけど……
 とにかく、黒服と相談して防犯設備をグレードアップさせたいと思います。







 5月12日 木曜日 「防衛会議」


 「さて皆さん、今日集まってもらったのは最近その存在を確認したストーカーを……」

 「ねぇねぇ雪女ちゃん。雪女ちゃんってお肌白いわよね。どんな化粧品使ってるの?」

 「えっとですね、イチゴシロップです」

 「へぇー、カキ氷っぽい」

 「おいそこの2人!! 関係ない話しないの!!」

 「何よ千夏。珍しいことに千夏から家族会議を開いたかと思ったら急に怒り出しちゃって。
  忙しいのに出席している人たちに失礼じゃないの」

 「重要な会議なんですから、ちゃんと聞いてくださいよ!!」

 「自分は家族会議の時にはいちゃもんつけてくるくせに」

 あれはいちゃもんじゃねえ。突っ込みだ。



 さて、今日の家族会議ですが、お母さんが言ったとおり私が主催者として君臨しています。
 話し合う内容はもちろん忍者、もといストーカーについて。
 家族みんなの生活を守るためにも、こうやってきちんと話す機会を持たなければならないんです。
 今まで行なわれてきた家族会議に比べ、なんと有意義なことか!! そこんとこ、きちんと分かりなさい!!

 「えっと、それではこのストーカーに対しての有効な撃退法を話し合いたいと思うんですけど、誰か意見ありませんか?」

 「はい」

 「はいどうぞお母さん。発言を許可します」

 「全て千夏の妄想なんじゃありませんか?」

 「違います。断じて違います。
  昨日なんて忍者が天井裏に潜んでいたんですよ!?」

 「余計に妄想っぽいです。その素敵な展開は」

 ……確かに。

 「とにかく、ストーカーの存在は確認されたんです。
  今はそのストーカーをどう撃退するかが大切なんです。それを話し合うために集まってるんです!」

 「はぁ、子どもって構って欲しくてすぐ嘘つくのよね。大変だわぁ」

 ええいちくしょう。すごく腹が立つ。


 「そうだ、雪女さんだってストーカーの存在を知っている人ですよ!
  そうですよね? あの不気味な写真が送られてきた時に一緒に居ましたもんね?」

 「確かにあの時は一緒にいましたけど……でもストーカーだって言うのは飛躍しすぎかなって思います」

 「どこがだよ! チラリズムオンパレードな写真送られてきたんだぞ!?
  めっちゃ犯罪じゃん!! 死ぬほど悪質じゃん!!」

 「今でも何枚か送られてきますけど、どれもアングルが素晴らしいですよ♪」

 「そんな気持ち悪い事実を笑顔で話すな!!」

 っていうか嬉々として受け取っていたのかよ。
 いい加減にしなさい。



 「はい」

 「なんですか女神さん? 発言を許可します」

 「目立ちたいんで手をあげました」

 「……4日間の謹慎処分に処します」

 「え!? それって……」

 「すくなくとも4日間は出番なし」

 「ええ!? 酷い!!」

 人が一生懸命悩んでいる時にボケ倒した方がもっと酷い。



 「はい」

 「はいウサギさん。発言をどうぞ」

 「ストーカーの事ならストーカーに聞くのが一番だと思う」

 「なるほど。その意見は一理あります。
  ということでリーファちゃん、何か言いたい事とかありませんか?」

 「……え? なんでここで私に振られるんですか?」

 「え……だってその……ストーキングが得意そうじゃないですか」

 「私がやってるのはストーカーじゃなくてスニーキング(潜入工作)です!!」

 それを胸張って言うな。誇れる事では全然無い。

 「むしろ千夏お姉さまという人間を狙っての犯行なんだから、お姉さまを好いている、
  つまり嗜好が似ている人間にいろいろ尋ねた方がいいと思います。
  言ってしまえば、ロリコンだとかペドフィリアな人に」

 「なるほど。その意見は一理ありますね。
  ではウサギさん、何か言いたいこと……」

 「ちょっと待て千夏。何気におかしな話の振り方しただろ? 今?」

 「ウサギさんは私のこと好きじゃないんですか……?」

 「そういう問題じゃなくて、今の振り方だと俺がまるで俺がペドフィリアって言っているように……」

 「そう言ってんだよウサギ野郎」

 「んだとこのへっぽこアサシン」

 またまた喧嘩を始めてしまうウサギさんとリーファちゃん。
 議論と関係ない所で言い争いして欲しくないんですけど?



 「はい」

 「えっと……黒服さん? 何か発言あるんですか?」

 「千夏の部屋にこの防犯器具を設置すればオールオーケーだと思います」

 「……そのスターなウォーズに出てきそうなロボットは何?」

 「警備ロボです。侵入者が居たらすぐにキャッチしまして、ウィーンと動きまして、こうビビっとやっつけます」

 「説明が全て曖昧で凄さが全然伝わらない」

 「さらに機能停止に追いやられた時には、技術流出を防ぐために自爆装置が起動しまして……」

 「下手したら私まで巻き込まれることになるじゃないですか。
  警備ロボとして失格でしょそれは」

 「千夏を消し飛ばして国家機密を守ります」

 「私を巻き込むこと前提の自爆なんですか!?
  そんなのゴメンだよ!!」

 そもそもこれじゃあストーカーに対して攻勢になれないじゃないですか。
 もう被害を受けるまで待つだなんて嫌なんです。



 「はい」

 「はいどうぞおばあちゃん」

 「ホームページの作り方教えて?」

 まだ諦めてなかったのかよ。
 っていうか今までの話聞いてたの?

 「もーみんな勝手すぎますよ!
  真剣に家族会議に参加してください!!」

 「今までの会議、千夏ったら全部不真面目だった癖に」

 うぐっ……そう言われたら返す言葉も無いですけど。


 「それじゃとにかく、今日の晩ご飯はトンカツにしましょう♪」

 「雪女さん。全然関係ない事で家族会議を閉めようとしないで……」

 結局なにも決まらなかったじゃないですかぁ……。





 5月13日 金曜日 「マウストラップ」

 「……」

 「……助けてください」

 「……つかぬ事をお聞きしますが、私の部屋でトラップに引っかかってる素敵なお客さんはどなた?」

 「通りすがりの忍者です」

 「てめえがストーカーか!!」

 大収穫です。
 昨日せっせと罠を仕込んでおいた甲斐がありました。

 「待っててください。今すぐに警察呼びますから」

 「ちょ、ちょっと待ってください! これにはっ、これには深い訳があるんです!!」

 「ストーカーの理由なんて聞きたくないです。
  どうせ呆れるほどポジティブなシンキングで、私があなたを目があったから好きだとか抜かして付きまとってきたんでしょう?
  死んでバカを直して来い」

 「違う! 断じて違う!! そもそも私はストーカーなどではない!! 私はただの忍者……」

 「この世界に産まれた事を墓の中で後悔しなさい」

 「永眠させるって事!? 不法侵入で死刑!?」

 「我が家の法律だと、人に迷惑かける人間は死刑なのです」

 「お前ら家族、他人に迷惑かけまくりじゃねえかよ」

 人んちの内情を良くご存知で。
 やっぱストーカーなんじゃねえかよ。



 「それじゃーさよなら♪ 今から死刑執行人ことおばあちゃん呼びますね♪」

 「ちょ、ちょっと待てってば! こんな事してたのにもちゃんとした理由があるんだよ!!」

 「ふぅ〜ん……どんな理由ですか?」

 「頼まれたんだよ。人に。
  君の事を調査して欲しいって」

 「はぁ? 誰かが私を付け回す様に依頼したって言うんですか? そんなバカな……」

 「本当なんだって! 信じてくれ!!」

 「そもそも誰がストーカー依頼なんてするんですか」

 「えーと、えーっと……アメリカ合衆国とか」

 「予想以上の大物だぁ」

 なんで大国家が私1人をストーキングしなくちゃいけないんだよ。
 子どもの嘘か。

 「じゃあさよなら。本当におばあちゃん呼びます」

 「嘘じゃないってば! 人の話聞けって!!」

 「理由は? ストーキングの理由は?」

 「え〜っと、アメリカ製のお菓子は味がおかしいと前々から糾弾していた事が政府に目を付けられ……」

 「とりあえず、地下牢に入れる事にしますね」

 「拷問による自白決定!?」

 我が家に入ったのが運の尽きだと諦めてください。







 5月14日 土曜日 「裁判」

 「ただいまより、『よくもまあ色気も何も無い千夏の部屋に侵入したものよね。考えられないわ、この暇人』事件の公判を行ないたいと思います」

 「お母さん」

 「私はお母さんではありません。裁判長と呼びなさい」

 「じゃあ裁判長」

 「はい。なんですか千夏さん? 発言をどうぞ」

 「なぜ、我が家で裁判が行なわれているんですか?」

 「我が家の家訓第28条、独立裁判権の項目で説明されています」

 「一家庭なんぞの家訓に法的拘束力は無いと思われますが?」

 「何が言いたいのですか千夏さん?」

 「一般家庭で裁判するな」

 「さて、今回の被告人の罪状は家宅侵入罪とストーカー容疑ですが……」

 ああ、さらっと無視。
 なんていうか、ただ裁判の真似事したいだけでしょうお母さん?


 いつの間にやら我が家の居間に設置されていた裁判所。
 そこで今から裁判が行なわれようとしています。
 ……んなアホな。
 しかもウサギさんやら雪女さんやらおばあちゃんやら。家族みんなが集まってるし。
 裁判を家族の団欒とでも勘違いしてるんじゃないですかね?
 なんにしてもふざけてます。



 「被告人『ニンジャ・ニンニンジャ』さん。これらの罪を認めますか?」

 「認めません」

 昨日の忍者野郎、罪状を否認しやがって……っていうか、多分その名前偽名だろ?

 「では検察側の千夏さん。何か追求したいことはありますか?」

 「え? 私そういう役? 一応被害者なのに」

 「クジでそう決まったから」

 やっぱり遊びなんじゃねえか。
 家族揃ってやることか。

 「ちなみにこの裁判において死刑が確定されますと、お母さんからでこピンの贈呈があります」

 「普通に死刑と同意義ですよねそれ」

 よっしゃ、忍者をあの世に葬るためにもガンバロ。


 「ニンジャ・ニンニンジャ(仮)さんが私の部屋に侵入した事は火を見るより明らかです!
  ここ最近のストーカー騒動だって、きっと彼がやったに違いないでしょう」

 「異議あり!」

 「なんですってぇ!? 私に異議を唱えてくるなんていい度胸……ってリーファちゃん!?」

 「私はリーファではありません。被告の弁護士です」

 そういう役か。リーファちゃんはそういった役目なのか。

 「っていうか酷いですよリーファちゃん。犯罪者の側に立つだなんて」

 「千夏お姉さまはもっと侵入者の立場を分かってあげるべきです!
  残念ながら今の日本には潜入工作員への理解が足りなさ過ぎなんです。
  だからこそ同じ身の上である私が彼の社会的立場を……」

 「潜入工作員に優しい社会ってなんかヤダ」

 「裁判長! 今の発言は侮辱に値します!」

 「認めます。以後千夏は水の入ったグラスを頭に載せながら発言するように」

 どんな制裁措置だよそれ。


 「それではリーファさん。異議の理由をどうぞ」

 「被告の不法侵入の件についてはその事実を認めます。
  しかしストーカー行動については、明確な証拠がありません。
  それにも関わらず同一犯だと決めてかかるのは、早計であると思います」

 「うわぁ、理論整然としててムカつく……」

 「なるほど。リーファさんのおっしゃる事はもっともな事です。
  千夏さんはこれに対して反論は?」

 「え〜っとですね、送られてきた私の盗撮写真等を調べれば、きっと何か証拠が……」

 「はい。それでは盗撮写真の科学鑑定を行なった黒服さんどうぞ」

 「どうも。一度でいいから見て見たい。女房がヒ素を隠すとこ。黒服です」

 笑天かよ。しかも毒殺されようとしてんじゃねえか。女房さんに。


 「写真を丹念に調べ上げた結果、驚くべき事実が発覚いたしました」

 「その事実とは?」

 「千夏さんの勝負下着は薄いピンク色……」

 「死ね! 黒服死ね!!」

 「千夏さん。今は裁判中ですよ? 感情に任せた発言は止め……」

 「うるせえ! 盗撮写真をじっくりと見ただけでわかるような事、科学捜査だなんて言わない!!
  それをおおっぴらに言うなよ!」

 「あと、この写真からニンジャ・ニンニンジャさんの指紋が見つかりました」

 「それを真っ先に言え。すんごい証拠じゃん」

 もう決定稿じゃないですか。



 「ただ侵入してきた人間の指紋が、毎日送られてきた写真に付くわけがありません!
  この事実は、ニンジャ・ニンニンジャ(仮)が一連のストーカー行為に関わっているという証拠であります!!」

 「確かに。この証拠を覆すような理論は今の所無いでしょう……。
  リーファさん、何か言いたいことは?」

 「くっ……ありません」

 「よろしい。では、裁決を下します!!」

 おーっ、ようやく忍者野郎を牢獄にぶち込めますね。やりぃって感じです。

 「被告人ニンジャ・ニンニンジャは……警察に引き渡す事にします!!」

 「こんだけやって結局司法の手に委ねるんですか!?
  今までの一体なに!?」

 「裁判ごっこ」

 「ぶっちゃけちゃった!!」

 なんだろうかこの喪失感?











過去の日記