5月15日 日曜日 「ゆったり対談」


 「平和ねぇ……」

 「そうですね。平和ですね」

 「黒服さんはさあ……いつも黒い服なのね」

 「ええ、まあそうですね。今頃言われても困るんですけどね、おばあさん」

 「他の色の服とか着ないの?」

 「黄色い服なんか着ちゃったら黄服って呼ばれる事になっちゃいますしね」

 「そうね、茶色い服着ちゃったら茶服さんって呼ばれちゃうものね。
  噛んじゃったらチャックって呼んじゃうものね」

 「呼ばれた事ないですけどね。チャックって」

 「まあね。黒い服しか着てないんだものね」

 「そういう意味ではないです」

 「それにしても平和ねぇ……。
  お茶がすごく美味しいわ」

 「おばあさんはお茶とかお好きなんですか?」

 「なんで? なんでそう思ったの?
  やっぱりアレ!? 年寄りだから!? 年寄りだからお茶が好きそうだって思ったの!?」

 「い、いえ……そういう訳じゃ……」

 「帰宅途中のサラリーマンは全員ビールが好きとでも!?
  タキシード着てる紳士はみなワインを嗜んでいるとでも!?」

 「ご、ごめんなさい……。お茶、そんなに好きじゃなかったんですね……」

 「いや、お茶は結構好きだけども」

 「そうですか。気を使って損しました」

 「でも平和よねぇ……。
  なんていうかさ、こういった日は庭にビニールシート広げてサンドイッチとか頬張りたいわよね。
  お日様の下で伸び伸びとさぁ……」

 「あ〜、いいかもしれませんね。かなり優雅なひと時という感じですね」

 「でしょう?
  ……じゃあさ、早速やってみようか?」

 「え? 本当にですか?」

 「本気本気。マジ本気。
  さ〜て、まずはサンドイッチ作ろっかな〜♪」

 「まあ頑張ってください」

 「……」

 「……どうしました?」

 「冷蔵庫にゴボウしか入ってなかったわ。これじゃあサンドイッチは作れない」

 「春歌さんがまた食料を買い忘れたんでしょうねぇ……」

 「まったくあの子ったら。あれだけいつも冷蔵庫には一頭ぐらいラマを置いておきなさいって言ってたのに」

 「一般家庭ではラマを冷蔵庫に保存することなんて無いですけどね」

 「あ〜もうやる気無くした。もうサンドイッチ作れない」

 「そうですか。まあ別にどうでもいいですけど」

 「はぁ……それにしても平和ねぇ」

 「そうですねぇ」

 「世界では幾万の人間が飢えに苦しめられているなんて思えないぐらい平和ねぇ」

 「そうですねぇ。戦争によって両親を奪われた子どもたちが一杯いるとは思えないぐらい平和ですねぇ」

 「うふふ」

 「あはは」



















 「そういえば聞いた黒服さん? 昨日の忍者、CIA関連らしいわよ?」

 「……ええ、聞きました」

 「政府はどう対応するのかしらね? きっと器がこの国にあることを知られているわ」

 「さあ? どっちに転んだとしても私には関係ありません」

 「ふぅん。まあいいけど」

 「おばあさんはどうするんですか? もしかしたら器を狙って戦争が起こるかもしれませんよ?」

 「私は別にどうでもいいわよ。敵が誰であれ、千夏ちゃんに手を出すものは叩き潰すだけ」

 「なんて力任せな。武力では解決しない事も世の中にはあるんですよ?」

 「平和狂信者じゃあるまいし、何を言ってるのよ。
  あなただってウサギちゃんを作ったじゃない。あれは武力でしょう?」

 「確かにそうですね」

 「まあいいけどね。うん。今は平和だ」

 「そうですね、今は平和です」

 「いつまで続くか分からないけど」

 「ええ。でも続いている間は楽しみましょう」







 「幸せなんて、すぐに消えるものだからね」





5月16日 月曜日 「危機管理的なソレ」

 「これから千夏に問題を出します」

 「どうした黒服? また突拍子も無い事言い出して?」

 「今から出す問題で、あなたの危機管理能力がチェックできます」

 「もう一度言いますよ? どうしたんですか?」

 「流行だから」

 「どっかのテレビ局ではね」

 何となく危機感を煽るのは今も昔も同じだと思いますけど。


 「今の時代、小学生でも危険に晒される事が少なくない。
  だからですね、千夏が大変な目に会わないように心構えを整えるためにもこのクイズを……」

 「要するに暇なんですね?」

 「そうです」

 ぶっちゃけやがった。


 「それでは第1問! 向こうからかなり怪しげな男が歩いてきます。あなたはその時どうしますか?」

 「先手必勝の精神に基づいて遠距離から狙撃」

 「ちょっと待て。どこの戦場の作戦だそれは」

 私は戦時中並みの危機管理能力を持っているって事で納得してもらえませんか?

 「というかダメじゃん。見知らぬ人撃ったら」

 「でも怪しいし」

 「どんな通り魔だよ」

 黒服にすんなりと突っ込まれてしまうだなんて。



 「じゃあ第二問。1週間ほど旅行に行くことになりました。
  さて、防犯設備を万全にするために、あなたは何をしますか?」

 「とりあえず玄関に地雷を設置します」

 「またもや戦場なアイディア」

 「あなたとお母さんが教えてくれたんですけどね。この方法は」

 おばあちゃんを撃退する時に実戦してくれたじゃないですか。

 「でもあれは後々の撤去作業が面倒なので、出来れば使って欲しくないです」

 「そうですね。今でもまだ宅配便の配達員の人がたまに踏みますからね」

 なんで戦争の傷跡が一般家庭に出来ちゃってるんでしょうかね?



 「調子に乗って第三問。誰もいないはずの自宅に何故か灯りが……」

 「遠距離爆撃で掃討」

 「第四問。不審な車が辺りを巡回しているという情報が……」

 「対戦車ライフルで処理」

 「第五問。都会の死角に無理矢理連れ込まれそうに……」

 「ワクチンを注射後、BC兵器によって一帯を汚染。
  その後ナパームによって焼却処理」

 「……」

 「……どうでしたか? 私の危機管理能力」

 「冷戦時並みですね」

 核戦争の危機並みのギスギス感ってか。








 5月17日 火曜日 「カンパの誘い」

 「えー皆さん。我が家のアイドル春歌ちゃんから、大切なお話がございます」

 お母さんがそんな事を食事中にのたまいました。
 なんとなく不安になるのは今までの経験からでしょうか?
 悲しすぎる習性ですね……。

 「じつは、皆様にカンパをお願いしたい!!」

 「は!? カンパ?」

 カンパって大衆からお金を集める奴ですよね?
 なんでそんなこと我が家で……。

 「お金ならメイド喫茶が軌道に乗り出したんだから、あまり深刻じゃないと思ってたんだけど……違ったのか?」

 「うん。いい所突くねウサギちゃん。
  実はですね、最近いらぬ出費が多くて、チナツの売り上げだけじゃどうしようもなくなっちゃってるのよ」

 ここで言う『チナツ』ってのは、喫茶店の事ですよね。
 私が売られたみたいな言い方止めて欲しいんですけど。

 「急な出費って何ですか?」

 「防衛費」

 なんで一般家庭にそんなものが必要なんだ。

 「とにかく、どんなに少量でもいいからお金を寄付して欲しいの!
  っていうかもうなりふり構ってられない状態だから、換金できそうな物ならどんな品でもいいわ!
  何でもいいから頂戴!!」

 こんなに必死になっちゃうほど我が家の家計は圧迫されてるんですね。
 楽しい食卓に悲壮感が溢れるわ。



 「千夏。あなたの貯金を頂戴」

 「嫌です。物凄い勢いで拒否します」

 「うわー! 確かに首を横に振る速度が物凄い!!
  でもお願い千夏……あなたの貯金が欲しいの」

 「過去にこれほど私を必要としてくれた事があっただろうか。
  それが悲しい」

 「お願いぃ。千夏さまぁ、一生のお願いぃ」

 「貯金をあげるのは嫌ですけど、役に立つのか立たないのか分からない家宝たちなら差し上げます。
  どうぞ売り払ってくださいな」

 「ありがとう千夏!!」

 いやー良かったですよ。あんなゴミ同然な家宝が役に立って。まるっきり無駄って訳じゃなかったですね。
 おばあちゃんが何だか厳しい視線を向けてきてるんですけど、気にしないことにしておきます。


 「それじゃあ次は雪女ちゃん! 何かいらないの頂戴!!」

 「え〜っと……私愛用のカキ氷機とか」

 「ホントにいらねえ。じゃあ次はウサギさん! なんか頂戴!!」

 「うあぁ、お義母さん……それはさすがにショックですよぉ?」

 気持ちは分からんでもないですが、やっぱりカキ氷機はいらないと思うんですよ。


 「あげるような財産なんて、俺持ってないし」

 「じゃあ下着類と顔写真でいいや」

 「それどこに売り払うつもりなんだよ! お断りだ!!」

 「ちっ……居候の癖に財政改革に協力しないなんて」

 当然の判断だと思いますけどね。


 「じゃあリーファちゃん。何か頂戴!!」

 「今日のご飯に入れようとして失敗した毒物をどうぞ」

 「わぁ! ありがとう♪」

 今、さり気なく殺人未遂を自白しましたよね?

 「黒服さんは? 何かくれないの?」

 「千夏に入れ忘れたネジをどうぞ」

 ちょっと待って。
 それって私のパーツが抜け落ちてるって事なんじゃ……。


 「え〜っと……じゃあ加奈ちゃん。何か頂戴♪」

 「んーとね、ん〜……お塩あげるー♪」

 「お塩とはまた素晴らしい物をお持ちね、加奈ちゃんったら♪」

 「ちょっとお母さん! 加奈ちゃんにまで物をねだる気ですか!!」

 「年齢によって差別しません。どうだ」

 誇るべきでは無いと思う。

 「じゃあさっさとおばあちゃんからも何かもらってくださいよ」

 「だって怖いし」

 差別しないんじゃなかったのか。








 5月18日 水曜日 「ラクダの販売」


 「いいの揃ってるよ〜。見ていかないかい?」

 「……おじさん、何やってるの?」

 「お〜お嬢さん。見て分からないのかい? 売ってるんだよ、ラクダ」

 どこの国だよ。ラクダを路上で売ってるなんて。

 「売れるんですかそれ?」

 「ああもちろん。なんて言ったってラクダは今年の流行だからな」

 「その衝撃的事実は初めて聞きました」

 「流行色はラクダ色だし」

 「へぇ〜、何となく獣臭そう」

 「流行こぶはフタコブだし」

 「流行コブなんて単語聞いたこと無い」

 「ラクダのアニメもすでに放映決定してるんだ。深夜1:00放送で」

 「ターゲット層が分からん。多分、深夜のアニメを見ている人たちはラクダに興味ないし」

 「NOVAウサギがNOVAラクダになります」

 微妙にブームに乗り遅れてる感じがします。

 「とにかく今年のトレンドなんです」

 「ウソ臭いにも程がありますよ……」

 「お嬢さんも流行に乗り遅れないためにも、一頭どうだい?」

 「心底いらねえ」

 「一頭居るだけで本当に便利だぞ?
  なんていったって、月に一回お金を振り込んでくれるし」

 「どこの出稼ぎに行った孝行息子だよ」

 便利には違いないですが、それはもうラクダじゃありませんよね。



 「そうかい……女の子用のピンク色のラクダを用意していたって言うのに」

 「それ、祭りとかで売ってるペイントひよこのラクダ版ですよね?
  動物虐待だからやめなさい」

 「いや、天然でピンクなんだよ」

 それは……ちょっと気持ち悪い。



 「え〜っと……うちはペット飼うの禁止なんで駄目なんです」

 「う〜ん、なんともホラ話っぽい言い訳だね」

 ウソだって分かってんなら悟ってくださいよ。
 私がラクダなんて買いたくないって事。

 「でも大丈夫。ラクダってさ、何となくおじさんに似てるから」

 「……は?」

 「だからね、家族の方にはおじさんを囲う事にしたって言っておけば……」

 「どこの世界におじさんを家に囲おうとする小学生がいるんですか!!」

 あと、我が家の連中はラクダと人間の区別ぐらい出来ると思います。

 「お願いだよ! このラクダたちを路頭に迷わしたくないんだ!
  罪の無い生き物が虐げられるなんて、酷い話だと思わないか!?」

 「確かにラクダに罪は無いですけれど、多分おじさんには罪ありまくりですよね。
  人に動物を押し付けようとして」

 「じゃあさ、とりあえず無料でいいから一頭持っていってよ」

 「え? 無料ですか?」

 タダと聞いたら何だかもらっても良いような気が……ダメダメ、絶対にこれは罠だから。
 無料より高い物は無いって言いますし。

 「どんな企みがあっての提案なんですか?」

 「家に侵入したラクダは、夜になると現金をかっさらって来て、私の元へと戻ってくるんです」

 「すげえ。すげえ無駄な調教の才能」

 ラクダのサーカスでも作れば?







 5月19日 木曜日 「草との闘い」

 「千夏ちゃん。おかえりなさい。
  学校楽しかった?」

 「ただいまですおばあちゃん……って、庭で何やってるんですか?」

 「ほら、何だか庭の芝とかが伸び放題になっているでしょう?
  だから刈っちゃおうと思って」

 「へぇ〜……地雷が未だに埋まっている我が家の庭で草刈りするなんて、さすがおばあちゃん。
  命知らずにも程がありますね。よっ、我が家の重戦車」

 「うん。軽く馬鹿にした感じがあるわね。
  でさ、1人で作業するのもなんだから、千夏ちゃんも一緒にやらない?」

 「嫌です。間違って地雷でも踏んでしまったらとんでもない事になっちゃいますもん」

 「そう、まあいいけどね。作業開始から3回ぐらい地雷踏んでるのは事実だし」

 ちょっと待て。その素敵な無傷具合はどうなってんだよ。




 家に帰ってきてテレビを見るといういつものぐうたら生活をしている私。
 そんな私の耳に、さっきから爆発音が届いてきてます。
 5分に1回ぐらいの割合で。
 ……いくらなんでも地雷踏みすぎだと思うんですよ。

 「おばあちゃん〜? 生きてますか?」

 「生きてるわよ〜。こんな事で死ぬわけ無いじゃない♪」

 まだよく物を知らない少年少女たちに言っておきますけれど、地雷は普通に死ねますからね?
 爆弾なんですから。

 「もう止めたら? これ以上庭に穴を開けても仕方ないと思うんですけど?」

 庭を整えるために草刈りしてるのに、余計に荒らしているってどういうことですか。

 「やり始めたら最後まで止まらないのよね〜。千夏ちゃんもどう?」

 「地雷踏むのに中毒性があるなんて聞いた事が無い。断固拒否します」

 「地雷ばっかりじゃないわよ? クラスター爆弾だって踏んでるもの」

 「そんな物も埋まってたんですか!?」

 もう絶対に庭に出ること出来なくなっちゃってるじゃないですか。

 「あとポストも埋まってたし」

 「……なんで?」

 「きっとこの家の下はね、大昔は郵便局だったのよ」

 「昔はこの土地は海だった的な発言しないでください。
  例えおばあちゃんが言ってる事が真実だとしてもポストが埋まってるはず無いと思う」

 「後はね、高速道路が埋まってたわね」

 「ありえない。ありえないですそれは」

 「きっともっと大昔は高速道路……」

 「そんなわけないでしょう!! 郵便局の前は高速道路だったって、どれだけ建て替えが激しい地域なんですか!!」

 「ロケットパンチも埋まってたから、きっと白亜紀はロボットの秘密基地……」

 「そのいい加減な年代測定やめてくれませんかね?」

 我が家の歴史が分からなくなるんで。




 「女神さんも埋まってたからきっと神話の時代はヴァルハラ……」

 「女神さんが埋まってたんですか!?」

 え? なんで? なんでそんな面白い事に?








 5月20日 金曜日 「振り込め詐欺」

 『どっきどき〜ビバ! くるくるみょ〜ん♪
  どっきどき〜ビバ! くるくるみょ〜ん♪

  オイ待て! それ、カニじゃないぞ!! 騙されるな!!
  あっぶねぇ。お前、もう少しで捻り殺されてたぞ。マジでマジで。俺、お前の命の恩人だな。
  そんな恩の売り方〜♪ ちなみにカニみたいだったのは何だかよく分からない生き物〜♪』

 私んちの電話が鳴り響きます。
 着信音がやけにふざけたお母さんの子守唄になってるのは気にしないでください。


 「はいもしもし」

 「お金振り込んでください!! お願いします!!」

 「えー!? こんなにストレートな振り込め詐欺なんて知りえないですよ!?」

 電話取って0.5秒で振込みを要求されるなんて思ってもみなかったですよ。

 「しまった! 今の無しで!!」

 ガチャっと切れる電話。
 なんとも嵐のような振り込め詐欺でしたね。
 びっくりしすぎて思考が追いついてきません。



 『どっきどき〜ビバ! くるくるみょ〜ん♪
  どっきどき〜ビバ! くるくるみょ〜ん♪

  なんそれ? 塩味? いいな〜、食べてみたい。
  一口! 一口だけでいいから!! いいの? マジありがとう!!
  ……ん〜、そんなに美味しくは無いよね。
  食っててそりゃないだろお前〜♪ 口から手ぇ突っ込んで胃の中ひっくり返してやるぞこのヤロ〜♪』

 なんで我が家の着信音は電話が掛かるたんびに歌詞が変わるんでしょうか?

 「はいもしもし」

 「今ね、車で事故起こしちゃって、示談金の為にお金が……」

 先ほどの電話と同じ女性の声が聞こえてきました。
 アホかコイツは。

 「さっき電話してきた人でしょ?」

 「うっわぁ!? ばれた!?」

 ばれるでしょそりゃあ。

 「まあそれはいいです。お金振り込んでください」

 「無理に決まってるでしょそれは」

 どう見たって詐欺じゃんか。

 「振り込んでくださいよ! そうしないと私困るんです!!」

 「っていうかあなた誰ですか? まったく聞き覚えの無い声なんですけど」

 「俺です。オレオレ」

 「チョコレートの飲み物みたいな名前の知り合いはいない」

 「ほら、生まれたばかりのあなたを洗礼した」

 「でまかせで事実関係を作ろうと努力したことは認めますが、
  無信教者の多い日本で使うにはどうなんですかねその嘘は」

 「ほら、あなたのピンチをスーパーサイヤ人化して助けたことのある」

 「私の知り合いに戦闘種族はいな……いわけでもないですけど、あなたみたいな人は知りません」

 「あなたの同級生だった……」

 「あなたの声、どう聞いても大人の人じゃないですか!!
  どうなったら私の同級生になれるんです!!」

 「その真実を知りたいのなら、指定した講座にお金を……」

 そうきたか。



 「和美ちゃ〜ん? いつまで電話してるの〜?」

 「あっ、ごめ〜ん!! もうすぐ終わるからぁ!!」

 「てめえどこの和美だ!!」

 とりあえず詐欺師の名前は分かりました。






 5月21日 土曜日 「新しい健康法」

 「ああ、そっかぁ……。まあね、分かるけども」

 「……」

 「でもそりゃないわね。銀色だし」

 「……おばあちゃん」

 「ん? どうしたの千夏ちゃん?」

 「いくら年齢的に一番天国に近いからといって、独り言全開なのはどうかと思うんですよね。
  見てて心配になるんですけど?」

 「ああこれ? これは独り言健康法って言って……」

 「斬新ですね、その健康法」

 「肩こりに効くんですって」

 「へぇ〜、なんか嘘っぽい。どこでそんな健康法なんて知ったんですか?」

 「お昼寝していたらね、こうなんだかピピーンと……」

 「思いついたのかよ。おばあちゃん発の健康法なのかよ」

 「千夏ちゃんもやってみない?」

 「嫌だもん。どう見たって変人に見えるもん」

 「大丈夫。やってると癖になるから」

 そんな癖つけたくない。



 「っていうかさ、おばあちゃんなんて別に健康法なんてしなくてもいいんじゃないの?
  殺しても死ななさそうなくせに」

 「最近身体のあちこちにガタがきてね……正直辛いのよ」

 「修理してもらえよ。機械の身体なんだし」

 「私メーカー品じゃないからさぁ、サポートきかないんだよね」

 どこのパソコンだよそれ。
 っていうか義体ってメーカーとかあるの?

 「黒服さんに相談すれば?」

 「あの人大雑把だから。千夏ちゃんの大切なパーツがまだ冷蔵庫に入ったっきりになってるし」

 「へぇ〜、私ってネジが一本足りないだけじゃなかったんですね。
  自分というものに自信なくすわ」

 っていうか乾電池じゃないんだから、私の部品を冷蔵庫に入れないでくださいよ。




 「さ〜てと、ダンプカー健康法でも試してみよっかな〜」

 「何ですかその工事現場的な健康法は」

 「ダンプカーと相撲することによって、血行を良くするという……」

 「豪快だなぁ。相変わらず豪快なんだなぁ」

 「千夏ちゃんも……」

 「やらない」

 というかやれない。

 「じゃあトラクター健康法……」

 「どんな事やるか大体理解できたのでお断りいたします」

 「加奈ちゃんを大気圏離脱させちゃうぐらいまで高い高いしちゃおっかな〜健康法は?」

 「そんな事やろうとしてたんですか!? いくらなんでも酷すぎですよ!!」

 「リーファちゃんをぐったりするまで振り回そう健康法は?」

 「あ、それはどうぞご勝手に」

 リーファちゃんは死にそうにないし。











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