6月26日 日曜日 「静かなる攻防」


 「お母さんお母さん」

 「無駄口叩いてないで働きなさい!!」

 「え!? ええ!? 働けって言っても今は休憩時間……」

 「なーんてね♪ 一度言ってみたかったの♪」

 「今さら言うことでもないですが、すっげえ不条理な思考してますよね」

 「で、なに? 栄養補給にマヨネーズを求めてるの? 身体がマヨネーズを求めてるの?」

 「求めない。
  あのですね、さっきからリーファちゃんの姿が見当たらないんですけど?」

 「ふ〜ん……それが?」

 「いや、なんだか心配になっちゃって……」

 「リーファちゃんだって年頃の女の子なんだからさ、ふらっとどこか行ったり、
  仕事逃げたり、家出したり、駆け落ちしたり、誘拐されちゃっても不思議じゃないでしょうに。
  心配しすぎなのよ」

 「ねぇ。どんどん事態が深刻になっていってたよね?」

 「きっとあれじゃない? 千夏が意地悪したから怒って拗ねちゃったのよ」

 「私は別に意地悪なんてしてませんよ!」

 「リーファちゃんが入れてくれたお茶、絶対飲まないじゃん」

 「それには深くて単純な理由があるんですよ」

 一言で言えば命の問題なんで。


 「もしかしたらリーファちゃん……アメリカ軍の奴らにボコられて……」

 「もう千夏ったら何を言ってるの!? あの方々はお客様よ!?」

 「お客様の前に敵じゃん」

 「お客様イコール神様なのよ? 神様信じなくちゃバチがあたるわよバチが」

 「どれだけ妄信的に信じてるんですか!!
  きっと彼らの作戦は、内部に侵入して各個撃破していくつもりなんですよ!!」

 「はははっはは!! 戦争じゃあるまいし」

 「戦争してるじゃないですか!!」

 なに忘却の彼方へと速達で送り出しちゃってるんですか。


 「いい? 千夏。いくら胸が小さくたってね、心まで小さな人間になっては駄目よ?」

 「何上手い感じの事言って諭そうとしてるんですか。しかも失礼な内容で!
  もういいです! 私、自分でリーファちゃん探しますから!!」

 「千夏!! 待ちなさい!!」

 「うっさい! お母さんの分からず屋! 分からずの大売出し!!」

 「外に出るなら、コーラ買ってきて!!」

 私の心配しての制止発言じゃなかったのか。
 どこまで私をがっかりさせれば…………




 「リーファちゃーん? どこ居るんですかー?」

 「ち、千夏お姉さま……?」

 「リーファちゃん!? どこに居るの!?」

 「や、屋根、裏です……」

 「……なんでやねん」

 ねずみごっこか何かしてたのかよ?

 「じ、実はですね……あのアメリカ軍御一行の偵察のために、屋根裏に忍び込んで聞き耳を立ててたんです」

 「へぇ〜……けっこう普通に敵を倒すために行動しててくれたんですね。
  ちょっと感動」

 「ふっふっふっ……暗殺者を舐めないでくださいよ」

 「うん。今までもんのすごく舐めてたけど、見直してあげます。
  私的ランクでへっぽこアサシンでしたけど、低脂肪アサシンにランクアップしてあげます」

 「なんですか。その牛乳みたいな称号は」

 気にしないでください。

 「で、何か分かりましたか?」

 「あいつらは……露天風呂に1日3回入ってやがります」

 どこのおばさんだよ。そのタダなんだし入っとけみたいな思考は。

 「っていうかさ、それって別に戦略的に何の意味も無い情報だよね?」

 「なにを、言ってるんです、か。こういった、無駄の様に、思え、る情報こそが、停滞した戦況を打開、する鍵に……」

 「どうでもいいけどさ、なんでそんなに苦しげなの?」

 「ここの屋根裏、結構狭くてですね……引っかかっちゃいました」

 「さすがリーファちゃん。低脂肪アサシンから減塩アサシンにランクダウンですよ」

 「だから何なんですか。そのチーズみたいな称号は」

 気にしないでってば。



 「自力で出られそうですか?」

 「無理です。右くるぶしが絡んで取れません」

 「右くるぶしって絡むものじゃないでしょ。上でどんな状態になってるんですか」

 「お願いです。助けてください」

 「はいはい。それじゃあちょっと待っててくださいよ。
  え〜っと、熱いのと寒いの、どっちがいいですか?」

 「ちょっと! どんな助け方しようとしてるんですか!!」

 「多分保健は降りるから」

 「保健降りちゃう事っていう事がそもそも問題でしょう!?」

 うるさい妹ですね。
 もう熱い方でいいや。








 「あら千夏。リーファちゃん見つかったのね」

 「あ、はいお母さん。屋根裏で引っかかってました」

 「そうなの…………ねぇ、なんでリーファちゃんは焦げてるの?」

 さあ?










 6月27日 月曜日 「旅館チナツの特産品」

 「オーウ! ダルマダルマ!!」

 「……ねぇウサギさん」

 「ん? どうした?」

 「なんでさ、あのアメリカ軍連中はダルマ持って喜んでるんですか?」

 「さあ……間違った感じの日本土産だと思ってるんじゃない?」

 「あー確かに。それっぽいですね。
  あの人たち、日本刀のイミテーションとか喜んで買いそうですよね」

 「斬れない日本刀なんて必要ないのにな」

 「……ウサギさん。その思考は、ちょっと危険」

 「ふっふっふっ。お二人さん。何故彼らがこぞってダルマを取り合っているか教えてあげましょうか?」

 「お母さん? 急に現れたと思ったら訳の分からない事を……」

 「実はね、あれは我が旅館のお土産コーナーに置かれている、一押しの品なのです!!」

 「へぇーダルマがねぇ。ここら辺ってダルマの名産地だっけ?」

 「いや。ダルマの名産地は群馬県の高崎市だったはずだぞ」

 なんですっとダルマの生産地が出てくるんですかウサギさん。

 「旅館チナツ特製のダルマなのよ。ここでしか買えない一品なのよ?」

 「別にそんなもの欲しくないなぁ……」

 「そう。日本人にとっては全然欲しくない物でも、アメリカ人には大うけ。
  わっはっはっは。笑いが止まらない」

 「うわぁ……悪徳っぽい経営者だなぁ」

 「ちなみにこういうのもあります。ダルマストラップ」

 「ありそうだけど。どこかの土産店には確かに存在してそうだけど。
  ぜんっぜん欲しくないですね」

 「見て見て。日本刀ストラップも作りましたー♪ しかも1/1サイズ」

 「それって日本刀に携帯電話が付いてるみたいに見えるんですけど?」

 戦中に武将に電話するとか出来るんですね。
 多分いらないけど。


 「でもさ……なんでこんな土産物ばっかり作って、しかもそれを敵であるアメリカ軍に売りさばいてるんですか?」

 「そりゃあもちろん外貨獲得のためよ! これであちらの軍事費を圧迫して、少しでも戦力を奪うことができ……」

 「すっげえみみっちぃ作戦ですね」

 「何言ってるのよ! 例えば一億円するミサイルが、たった5百円のお土産を買ってしまったために、
  予算が9999万9500円になっちゃって、一発のミサイルを買えなくなっちゃうのかもしれないのよ!?
  そしてそのミサイルを買うために、消費者金融に手を出して、返済することが出来ずに次々と他の会社からもお金を借りて……
  借金地獄に!!!!」

 「1つの大国が消費者金融のおかげで借金まみれになるわけないでしょ。
  どんな転落人生だよ」

 あと、一般兵士のお財布からお金を取っても、全然本国は痛くないと思うんですよね。


 「まあ良いじゃない。ここで設けたお金は、対アメリカ用の兵器の開発資金に当てられるんだから」

 「へぇ……お土産の売り上げで出来る兵器ですか……。
  そう言えば、以前元居た家から持ってきた、最終兵器とかそういうのはどうしたんですか?
  確かウサギさんが管理にしてたんじゃなかったんでしたっけ?」

 「ああ、あれね。クローゼットに閉まってあるよ。カバーかけて」

 「そんな、スーツみたく扱って……」

 結局あれの正体は何だったんですか。


 「さあ、千夏も一緒にお土産をあいつらに売りつけてやりましょう!
  これも戦争よ!!」

 「戦争っていうか……商売ですよね」

 まあ手伝いますけども。







 「ダルマ! ダルマワンダフル!!」

 「オーウ! ファンタスティック、ジャパニーズソード!!」

 「フジヤマ! フジヤマ!!」

 「ニッポリ、グレイト!!」

 「トウキュウ、ヒャッカテン」

 「ヨード卵」






 「……っていうかお前らノンビリ観光しすぎだろ!? 本当に攻めにきたの!?」

 それと、ヨード卵がどうした?










 6月28日 火曜日 「散髪」

 「おかーさーん。そろそろ髪を切りに行きたいんで、お金ください」

 「えー? 嫌よもったいない。私が切って……」

 「それは絶対ごめんだ。ヨーグルトかけご飯を食べるより嫌です」

 「そ、そんな……!? 究極兵装ヨーグルトご飯をも越えてしまうだなんてっ!?」

 そんなわざとらしいリアクションはいいですから、お金をください。


 「しょーがないわねぇ。はいどうぞ。アメリカ軍が落としていったお金よ」

 「え? それって新兵器開発用の資金なんじゃ……」

 「いいからいいから。ダルマさまのお恵みだと思って」

 なんかなー。使うのがもったいない気がするんですけど……。






 「いらっしゃいませー」

 お母さんから貰ったお金を持って近所の散髪店に行きました。
 さすがに美容院に行くとお金が足りないので。

 「今日はどうしましょうか?」

 「えーっとですね……」

 「ばっさりいきましょうか?」

 「いかないでよ。勝手に決めないでよ」

 「斬り捨てごめん」

 「……はい?」

 「どうしましょうか?」

 「ねぇ。何今のボケは? ねぇってば」

 「どうしましょうか?」

 「……とりあえず、眉毛にかからない程度に……」

 「剃りましょうか? 眉毛」

 「アホか! 確かにそれだと眉毛にかからないですけど!!」

 「どうしましょうか?」

 「……ねえ? 何なの? 今のボケは?」

 「どうしましょうか?」

 「……」

 なんだか自動ドアと話してるみたいで嫌な感じですよ……。

 「どうしましょうか?」

 「……とりあえずですね、肩にかからない程度に切ってください」

 「私のオススメはですね……『甘い思い出カット』ですかね」

 「聞けよ。人の話聞けよ」

 「『甘い思い出カット』というのはですね、私が甘ずっぱい高2の頃の思い出してカットする技術で……」

 「人の髪を切っているときに物思いに耽るなよ。危ないじゃん」

 「懐かしい感じの髪型に仕上がります」

 「それって時代遅れって事? 絶対嫌だ」

 びっくりするぐらいマイナス面しか見えてこないカット技術ですね。
 そんなの客に薦めるなよ。






 「では、今日はどうしましょうか?」

 「とりあえず帰ります」

 何言っても無駄っぽいから。









 6月29日 水曜日 「変な人形」


 「ギョギョギョギョギョギョ……」

 「……」

 「ギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョ……」

 「……」

 「ギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョ…………」

 「ねぇ加奈ちゃん」

 「なーにー? ママー」

 「その、さ。手に持ってる、妙に不快な音を生み出しまくってる気味の悪い人形は何かな?」

 「ママのママから貰ったー♪」

 「そうなの。うん、捨てなさい。今すぐ」

 ろくでもない品物なのは明確なので。

 「嫌だよー! この子、とっても可愛いのにぃ!」

 「か、加奈ちゃん……? あなたまで妙なセンスの持ち主だったんですか?
  そんな深緑色の何を元にしているかなんて全然わからない人形の、どこが可愛いの……?」

 「ギョギョギョって鳴く所」

 「一番不快に感じるべき所じゃないですか。
  っていうかギョギョギョってどんな鳴き声だよ。一体どんな生物が発する声なんだよ」

 「もりぞー」

 「よく分からないけど、多分モリゾーはギョギョギョって鳴かない」

 「ぴっころ」

 「ピッコロって……ペンギンの大きな着ぐるみの方?」

 「ううん。大魔王の方」

 「ドラゴンボールか。なるほど。
  でもやっぱりピッコロもギョギョギョって鳴かない」

 「じゃー、ぴーまん」

 「鳴くわけが無い」

 っていうかさっきから緑色繋がりの物ばっかり言ってるけど……もしかして加奈ちゃんも何の人形だか分かってないの?


 「加奈ちゃん。それ、絶対に呪われた品物だから、さっさと手放した方が……」

 「いやー! 絶対いやー!! パラボラアンテナは捨てないー!!」

 「パラボラアンテナって……また素敵なネーミングセンスを」

 ウチの家系なのかそれは?




 「ギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョ……」

 「……」

 「ギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョ……」

 「……くっ、我慢我慢……」

 「ギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギャギャ……」

 「……ギャ?」

 「ギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギャギャギャギャビョビョビョビョ…………」

 「ビョ? ビョって言った?」

 「ビョイーンビョイーンビョイーンビョイーンビョイーン…………」

 「加奈ちゃん! なんか嫌な感じに呪いの力が増してる気がする!!」

 「もー! ママったら!! そんなにカナの人形欲しいの!?」

 「欲しくないよ。ビョイーンって鳴く人形なんて」

 「ママのばかちんー! ばばかかちーん!!」

 「ああっ! 加奈ちゃん!!」

 なんて事でしょうか。
 こんな形で加奈ちゃんとすれ違ってしまうだなんて……。


 「ギョギョギョギョギョ……どう千夏? この人形、新しいお土産として作ってみたんだけど?
  きっとこの人形に、あのアメリカ軍どもが群がるに違いないわ!!
  おほほほほ! 笑いがとまらな……」

 『バキッ』

 「いったぁ!? 千夏!? いきなりローキックって何が……」

 『バキッ』

 「がっ、ちょ、マジやめ……」

 『バキッ』

 「ちょっと! 弁慶が泣くから!! 号泣しちゃうから止めて!!」

 『バキッ』

 「ホント! お願いします千夏さん!! やめてください!!」


 これだけじゃあ怒りが収まらないですよ。








 6月30日 木曜日 「加奈ちゃんのご機嫌取り」

 「加奈ちゃ〜ん。ほ〜ら、美味しそうなプリンだよ〜? ママと一緒に食べよ〜?」

 「ふーんだ」

 「ねぇ、いい加減許してよぉ。ギョギョギョ人形の事、もう悪く言わないからさぁ」

 「ギョギョギョ人形じゃないもん!! フェーズド・アレイ・レーダーだもん!!」

 「あ、あれ? 昨日はパラボラアンテナって名前じゃなかったっけ?」

 っていうかその名前はイージス艦に積まれてるレーダーの名前ですよね?
 なんでそんなの知ってるの?


 「と、とにかく加奈ちゃん。このプリンで私の事を許してくれないかな?」

 「ふーんだ。ママのばかー! そんな事じゃ許さないよーだ」

 「そ、そんなぁ……」

 ああ、これが第1次反抗期という奴でしょうか?
 ちょっと早すぎる気がしないでもないですけど……。



 「まあまあ千夏。そんなに落ち込まないでよ。さ、プリンでも食べて落ち着きなさいよ」

 「……ちょっとお母さん。なに私が買ってきたプリンを美味しそうに食しちゃってるんですか」

 「いいからいいから。ほら、美味しいわよ」

 「…………お母さんにも責任があるって言うのに」

 「いい? 子どもにはね、真正面から向き合わなければいけないの。
  自分の気持ちをまっすぐ伝えなければ、いくらお菓子で釣ろうとしたって答えてくれない……」

 「私、お母さんから真正面な気持ちを受け取った覚えがないんですけど?」

 「……まあプリン食べなさい」

 誤魔化したな? さっきお母さんが否定した、お菓子で誤魔化しましたね?



 「……そうだ!! お母さん!! あのギョギョギョ人形の作り方教えてください!!」

 「なるほど。加奈ちゃんに千夏が作った人形をプレゼントして、機嫌を直してもらうわけね。
  結局物品かよ。千夏の愛は」

 「びっくりするぐらいやる気の無くなる突っ込みは止めてください」

 ひっどい親だな。

 「ふっふっふっ、私の修行は厳しいわよ? ついていけるかしら?」

 「頑張りますから教えてください!!」

 「どれくらいキツイかって言うと、買ってきたばかりの生卵パックを地面に落とした瞬間の心境ぐらいキツイ」

 「それは……精神的にきますね」

 地味に辛いよそれは。








 「加奈ちゃん!!」

 「……つーん」

 「くっ! む、無視とはまたきっつい事を……。でも負けませんよ!!
  見てください! これ、加奈ちゃんにプレゼントしたいんです!!」

 「え!? プレゼント!?」

 おっ、食いついてきましたね。

 「じゃーん!! どうですか? 良く出来てる人形でしょう!?」

 「ギョギョギョギョギョギョギョギョ…………」

 「わぁーすごーい♪ ママそっくりだぁ!!」

 「え!? 別にこれは私じゃなくてピータン……」

 「ギョギョギョって鳴いてる所がとっても似てるー♪」

 「ちょっと加奈ちゃん!? 私の事そんな風に見てたの!?
  ギョギョギョって鳴いてるような人間に思えてたの!?」

 すっげえショックですよそれ。

 「ありがとーママ♪ これ、おやすみする時に一緒に寝るね♪」

 「あーもう。嬉しいやら悲しいやらで心が一杯ですよ」

 まあ仲直りできたんだからそれで良い…………のかな?










 7月1日 金曜日 「会話の中間だけを抜き出してみる」

 「あはははは。ぺペロンチーノは無いだろ」

 「……へ?」

 うとうとしながらテレビを見ていた私の耳に、ウサギさんのそんな突っ込みが聞こえてきました。
 ……ペペロンチーノって、何が?

 「あはは、そうですね。ほうれん草じゃないんですからね」

 「そうだよな。もうすでに王手なんだもんな」

 ……よくバラエティ番組やなんかで、『今テレビつけた人は何の話だか分からないですよねー』っていうのがありますけど、
 まさか本当にそれを経験する時がくるだなんて。
 不思議な会話に思えて仕方ないんですけど?


 「ウサギさんウサギさん。今、雪女さんと何を話してたんですか?」

 「へ? え〜っと……なんだったっけ?」

 「えっとですねぇ……食べ物について話し合っていたんだと思います。
  良く思い出せないけど」

 「さっきまで話してたのに内容を忘れるだなんて!!」

 「そう言われてもなぁ……ド忘れちゃったものはしょうがないよ」

 「ウ、ウサギさん……。私、何だか気になって仕方ないんですけど?」

 「あ、そうだ! 私とウサギさんの会話の内容を最初から順々に思い出していけば、
  きっと辿り着くんじゃないですかね?」

 「そうかも知れないけど……最初は何のこと話してたっけ?」

 「えーっとですね……確か初めは平成ガメラシリーズの最新作はどうなるだろうかって、私がウサギさんに尋ねて……」

 すっげえ会話の導入部ですね。
 私も気になるけど。

 「ウサギさんがカメは嫌いって言って」

 「ウサギさんってカメが嫌いなんだ?」

 「甲羅があるから」

 小学生が人参が赤いから嫌いっていう理由と同じ感じですけど?

 「それでですね……ジュースのプルタブはどうやって作ってるんだろうかって話になりまして……」

 「結構あなた達はどうでもいい話ばっかりしてるんですね」

 「雑談なんてそんなものだろう」

 そりゃそうかもしれませんけど……。

 「もうそろそろビーチバレーの季節ですねって事になって、それじゃあ家族全員連れて海にでも行こうかって……」

 「へぇー、海ですか。良いですねそれ」

 「でも、私が泳げないからその計画はぽしゃって」

 うわ。何してくれてるんですか雪女さん。

 「それで、ペペロンチーノなんです」

 「全然話が繋がってない!? 私が聞いた所だけ異次元じゃないですか!!」

 「あれ……なんでペペロンチーノだったんですかね?」

 「さあ……なんでだろうね?」

 「お、お願いしますから、もう一度振り返ってみてくれませんかね?
  気になって眠れなくなっちゃうんで」

 「えーっと……ガメラ→プルタブ→海→…………ペペロンチーノ」

 「だから! 海とペペロンチーノの間の矢印の間にワンクッションあったと思うんですよ!!
  それを何とか思い出して!!」

 「…………わかりました!!
  海の家で何を食べたいかって、そういう話になったんですよ!!」

 「ああなるほど。それでペペロンチーノですか……。
  でも海の家でペペロンチーノって売ってるものですか?」

 「だから俺がペペロンチーノは無いだろって突っ込んだの」

 「ようやく謎が解けましたよ」

 いや〜……本当になんでもない会話だったんですね。








 「……で、なんでほうれん草?」

 「あれ? なんでだっけ?」

 「う〜ん……思い出せないです」

 また、1つ謎が。







 7月2日 土曜日 「スズメバチの巣」

 「うぎゃあああああーーー!!!!」

 『ゴロゴロゴロ、ガッシャーン!!!!』

 「え? なに!? 何の音!?」

 「総員退避ー!!」

 「え? え? え? 何が起こったの!?」

 廊下に出てみると、我が旅館に宿泊中のアメリカ軍兵士たちが、もんのすごいスピードで廊下を走っています。
 その光景、爆走するアリの大群の如し。

 「ちょっ、ちょっとお客さん!! 廊下は走らないでくださいよ!!」

 「うっせぇいコノヤロウ!! こちとら必死なんでい!!」

 「アメリカ人の癖になんで江戸っ子口調!?」

 どんだけ気が動転すれば言語が変わるって言うんですか。


 「お前らの旅館最悪だよ! バッドでジーザスだよ!!」

 「そんな思い出したように英語使われても……。
  一体何があったんですか? 出された料理に入れていた毒物に気付いたとか?」

 「え? なに? 今朝の味噌汁にそんなもの入ってたの?」

 ノーコメントで。

 「そんな事より、何があったって言うんですか?
  気が動転して日本語話してる間に教えてください」

 「俺たちが泊まっていた部屋の天井に、スズメバチの巣が出来てたんだよ!
  2mぐらいの!!」

 「うっわぁ……そんなにデカイのに何で今まで気付かなかったんですか……」

 「ちょっと待てよ。なんか俺たちが悪いみたいになってる」

 「とにかく、落ち着いてくださいよ。そんなに必死になって廊下を走ってもらったら他のお客さんの迷惑になります」

 「とんでもなく冷静に対処しようとしてるなお前」

 プロなので。

 「取り合えず急いで駆除させますので、他の部屋で待っててください。
  大人しく身体に悪そうなジャンクフードでも食べてればいいんですよ」

 「分かった。頼んだぞ……。
  モナカ食べてまってるから」

 ジャンクフードより和菓子かよ。
 案外渋いですね。









 「……千夏お姉さま? なんで私がスズメバチ討伐隊に組み込まれてるんですか?」

 「減塩アサシンでしょ?」

 「その称号は入りませんってば。それに、昆虫を暗殺した事なんて無いんですけど?」

 「大丈夫大丈夫。人殺すよりきっと簡単だってば。
  ガッツで何とかなる範囲だって」

 「なんて無責任な発言を……」

 たまには役に立ってくださいって事ですよ。


 「さあ! 突入しますよ!!」

 「OKです、千夏お姉さま」

 「せーの……うっらぁ! 覚悟しいやぁ! スズメバチども!!」

 「なんでヤクザ口調? なんでなのお姉さま?」

 件の部屋に入る私とリーファちゃん。
 アメリカ軍兵士が言ってたとおり2mなスズメバチの巣が……。

 「うっわー怖い!! 予想以上にこの光景は怖いよ!!」

 「お、お姉さま!! どうぞやっちゃってくださいよ!!」

 「なんていうか……怖すぎて近付きたくないです。
  リーファちゃん。任せた」

 「えええ!? 何言ってるんですか!!」

 「ほら。腕の見せ所ですよ。
  このスズメバチを見事やっつけてくれたら、無農薬アサシンにランクアップさせてあげますから」

 「嫌ですよ!! それに無農薬って何だか身体に良さそうじゃないですか!!
  そんな健康に優しい暗殺者は嫌だ!!」

 なんてわがままな……。

 「仕方ないですね……。それじゃあ黒服からかっぱらってきた秘密兵器で……」

 「それ、なんですか?」

 「さあ? よくわかんないけど虫に絶大な威力を誇る銃だってさ」

 「へぇ〜……それじゃあさっそく試してみましょうよ」

 リーファちゃんに言われるまま私は黒服からもらった銃をスズメバチの巣に向け……

 「カチッとな」

 引き金を引きました。

















 今日の午前11時。都内のとある旅館で爆発が起こりました。
 爆発の影響で旅館の一部は粉々になり、その場に居合わせた少女2人が全治2週間の重体となりました。
 爆発の原因はいまだ不明で、現在消防署が調査中……




 「虫に絶大な威力を誇るって言うか、普通にすげえ威力な兵器じゃんか!!」

 黒服の野郎、覚えてやがれよ。













過去の日記