7月10日 日曜日 「我が家の電子レンジ」


 「……」

 「あれ? どうしたの千夏? 手に今日のお昼ご飯のコロッケ持って突っ立って。
  そういう運動が流行ってるの?」

 「違いますよ……。ねぇお母さん。なんでさ、この旅館の台所にはこんなにも電子レンジがあるの?
  一見しただけで10個以上あるように見えるんですけど?」

 「おっ、いいところに気付いたわね千夏。
  その通り!! なんと我が家には、電子レンジがたくさんあるのです!!」

 「それは一目見れば分かる」

 「今まで触れもしなかった癖に」

 「うっ……」

 そう言われてしまっては何も言い返せませんけど。


 「っていうかさ、なんでこんなに電子レンジがあるの?
  まるでデパートの家電売り場のごとく」

 「いろいろ便利じゃないの。例えば泊まりに来てくれたお客様の夜食を作るのが面倒な時とか、
  これでいろいろコンビニの物を温めて……」

 「もしかしてお客様に冷凍食品出してたんですか!? ひっどい事してますね!?」

 「どこの旅館だって同じ様なことしてるんじゃないの?」

 「そんなの言い訳にもなりませんよ!!」

 これじゃあ一流の旅館になんてなれるわけ無いですよね。



 「それにしてもこんなに電子レンジいらないでしょうに……」

 「ちゃんとレンジの種類に基づいて使い分けてるのよ」

 「種類?」

 「この電子レンジは一般家庭用で、これは業務用」

 「へぇー……」

 「で、これが軍用電子レンジ」

 「軍用!? 軍用ってなに!?」

 「近距離の銃撃にも耐えられるの♪」

 多分いらない。そんな機能。

 「で、これは新幹線用で」

 「し、新幹線?」

 「時速300kmオーバー出来るのよ♪」

 「何が時速300kmオーバー?」

 「中の皿が回る速度が」

 食い物が飛び散るでしょ。その速さだと。

 「それでこれは実家が畳屋の電子レンジと、弁護士を目指して猛勉強中のレンジ」

 なんだよその面白プロフィール。
 電子レンジが何をどうやって勉強してるんだよ。


 「ほらどう? ちゃんと使い分けてるでしょ?」

 「使用用途不明な電子レンジがいくつかあるんですけど……?」

 「そう? きちんと使えてると思うけど」

 「実家が畳屋の電子レンジはどういう時に使うの?」

 「夢が挫けて田舎に戻る時」

 「具体的に言ってるようでも実はすんごく抽象的な表現ですよ!?」

 何一つ使用風景が浮かんできません。


 「弁護士を目指して猛勉強中の電子レンジは……?」

 「勉強の合い間の食事を作るために」

 「普通の電子レンジ使ってもいいじゃないか!!!!」

 結局何一つ納得できない説明でしたね。



 「はぁ……もういいです。このコロッケは普通の電子レンジで温めます」

 「あら。残り物のコロッケをおやつとして食べるのね? まったく貧乏ったらしい」

 「うっさい! コロッケ大好きなんだからいいじゃないですか!!
  っていうかそもそもおやつ買えるだけの小遣いを渡さないお母さんが悪い!!」

 お母さんの言葉を無視して、電子レンジにコロッケを放り込みました。
 ほっかほかのコロッケを食べれられると思うと、なんだかとってもウキウキです。

 「スイッチオーン♪」

 『ギュルルルウルルルウル、ガー!!』

 「うっわぁ!? 電子レンジに入れたコロッケが飛び散った!?」

 「それ、新幹線用のレンジだから」

 「早く言ってくださいよそれ!!」

 ああ……私のコロッケ……。






 7月11日 月曜日 「鳥」


 「ピーピー」

 「ん? 鳥?」

 私の部屋に、何故か小鳥が入り込んできました。
 ちょっとびっくりです。窓を開けてたから、そこから入ってきたんでしょうかね?

 「わー、すごい。可愛い小鳥さんですねぇ」

 でもこのまま部屋に居てもらっても困るので、早々にお引取り願いたいです。
 とりあえず捕まえて外に連れてってあげるのがいいですかね。

 「小鳥さーん。じっとしててくださいねぇ」

 「ウッセェチナツ。メイレイスンナ」

 「……」

 おおう。私、耳が滑って変な声を聞いてしまいましたよ。
 あはは。疲れてるんですかね?

 「オイ。オキャクサマニオチャモダサネエノカヨ。
  ドンナキョウイクウケテルンダ」

 「ウサギさーん!! 大変ですよ!! 鳥が! 鳥がぁ!!」

 なぜ鳥に私の教育のことで文句を言われなくてはいけないのか。
 じゃない。鳥が喋ってる事が一大事だ。






 「え? なになに?」

 私の叫びを聞きつけてくれたウサギさんが、部屋まで来てくれました。
 私は一生懸命今までの事を説明しようとします。

 「と、鳥がですねぇ!!」

 「オイ。オレヲムシスルナヨ」

 「……喋ったんだな」

 数秒で説明が終わってしまいました。

 「最近の鳥って喋るのか……?」

 「そんな流行は聞いたことありませんよ……」

 「インコとか九官鳥みたいな喋りじゃないもんな。
  完全に会話してるし……」

 「オメエダッテ、ウサギノクセニリュウチョウニシャベッテルジャネエカヨ」

 「鳥に突っ込まれる時が来るなんて……」

 何だか大変ですねウサギさん。

 「とにかく、お前は何者だ? 何の目的でここに来た?」

 「オレハ……カミノツカイダ」

 「神の使い!? そんな大層な鳥なんですか!?」

 「アア。メガミカラ、オマエタチニアルジョウホウヲツタエルヨウニタノマレタ」

 「……女神さん、ですか」

 なんか、威厳が下がった気がします。
 神の使いの。



 「じゃあテレビ見ながらでも聞きますか。その女神さんからの伝言」

 「そうだな」

 「オオゥイ! ナニソレ!? ソノヤルキノナイキキカタハナンナノ!?」

 だって女神さんだしねぇ……。
 真面目に聞くと損するっていうか。

 「それで、女神さんは何を伝えたがってるんですか?
  出来ればカタカナ表記無しで伝えてください。読み辛いんで」

 「ナンノコトヲイッテルンダ?」

 読者の事を考えてるんですよ。

 「ウオッホン! ソレレジャアメガミサマノコトバヲツタエテシンゼヨウ」

 「だから、カタカナやめろってば」

 「……『やっほー♪ 女神ですよー♪ 覚えてましたかー♪』」

 なんですか。この陽気な始まり方は。

 「『実はですねぇ、今私、アメリカ国防省に居るんでーす♪ ヘキサゴン? に潜入してるんでーす♪』」

 ペンタゴンね。ヘキサゴンだったらクイズ番組になっちゃってるから。

 「『入るのに苦労するかと思ったんですけど、割と簡単に入れちゃいました。普通に正面玄関から尋ねたのが良かったのかもしれませんね♪』」

 正面から侵入できるなんて、どれだけステルス性能溢れた女神なんですか。
 少しは恥じろ。

 「『それでですねぇ……そのヘキサゴンで、すごい情報を手に入れちゃったんです!!
   実はですねぇ、千夏さんの所に泊り込んでいるアメリカ兵は…………
  「女神さーん。斉藤さんからドーナツの差し入れあったんだけど、食べますかー?」
   え!? ホントですかレベッカさん!? 食べますー♪』」

 「……」

 「……」

 「……イジョウデ、メガミサマカラノデンゴンヲオワリマス」

 「肝心なこと、全然言ってないー!!!!」

 しかもかなりペンタゴンで馴染んでるんじゃねえかよ。
 それってさ、潜入したって言えるの?


 「……斉藤さんって誰だ……?」

 「ウサギさん。それを疑問に思うのもちょっと……」

 確かに気になりますけど。








 7月12日 火曜日 「玲ちゃんの初旅館」

 「お久しぶり千夏ちゃーん♪」

 「あ!! 玲ちゃんじゃないですか!! 本当にお久しぶりですねぇ」

 「もー、びっくりしたよ。千夏ちゃんの家に言ったらさ、ミサイル突き刺さってたんだもん」

 「ああ……そうですよね。普通びっくりしますよね。
  でも家を引越しした事、伝えてなかったのにどうやってここに?」

 「とにかく見えの付く家をピンポンダッシュして、千夏ちゃんちの人が出てくるまでやり続けたの」

 「すっげえ草の根活動ですね。その根性は敬服しますけど、迷惑なので止めてください」

 さすがこの世をさまよう幽霊。執着心は人並み以上ですか。

 「でも酷いよ千夏ちゃーん。
  私に引越しのお知らせしないで。ここを探し当てるまでどれだけかかったか……」

 「ごめんね玲ちゃん。いろいろ立て込んでてさ……。
  主に爆撃の後片付けで」

 「でも千夏ちゃんちってすごいよねー♪ 急にミサイルが生えてたんだもん」

 「違うよ。あれは地面から生えたんじゃなくて、空から降ってきたんだよ」

 「そうなの?」

 「当たり前じゃん。地面からミサイルが生える土壌に家建てる人いないよ」

 っていうかミサイル生えないよ。



 「さーて!! じゃあ千夏ちゃん、何して遊ぼっか?」

 「あー……ごめんね玲ちゃん。今からおうちの手伝いしなくちゃいけないの。
  だから玲ちゃんちと遊べないや」

 「えー……せっかくここまで来たのにぃ」

 「本当にごめんね」

 「んー……じゃあ私も手伝ってあげるよ。旅館のお仕事」

 「え? ……本当に?」

 「もちろん!! 友だちだもん当たり前だよ!!」

 「玲ちゃん……なんて良い友だちなんですかぁ」

 私のお母さんに爪の垢で煎じて飲ませてやりたいですよ。








 「じゃあ玲ちゃん。この料理をお客様の所に持っていってください」

 「はい、了解でーす♪」

 とりあえず玲ちゃんには料理を持っていってもらう事にしました。
 これなら別に専門的な知識なんていりませんもんね。
 まあ専門的な知識が必要な料理とかは、雪女さんに全部任せてたりするんですけど。

 「よし!! 一緒に頑張っていつもより早く終わらせましょう!!
  そしてめい一杯遊びましょうよ!!」

 「うん! 頑張ろうね!!」

 ガシっと手を取り合う私たち。
 これぞ友情って感じですね。

 「それじゃあ行ってくるね千夏ちゃん」

 「いってらっしゃーい♪」

 よし、私も玲ちゃんに負けないように頑張りましょう。
 今日も頑張って働くぞー♪







 「ぎゃーーー!!!! お膳が勝手に浮かんでるー!!!!」

 「ポルターガイスト!? これがポルターガイストなの!?」

 「ゴースト!! ゴーーストォ!!!!」

 「ひいいぃぃぃ!! 幽霊旅館だあぁぁ!!!!」

 ……そう言えば、玲ちゃんって幽霊だったや。
 普通の人には見えなくて当然か。








 7月13日 水曜日 「前世占い」


 「お嬢さんお嬢さん。あなたの前世、知りたくありません?」

 「……知りたくないです。っていうか、あなたと関わりたくないです」

 道を歩いてると、まるでお約束のように怪しい占い師に捕まってしまいました。
 絶対に良い事言われない。今までの経験からすぐに分かりました。

 「さようなら占い師さん」

 「ああー! なんて言う事か!? こんなすんごい前世があったとはー!!!!」

 「え? ええ?」

 「こりゃすごいよ。こんな前世、今まで会ったことが無い。
  ああ……これを知らずに生きていくとは……なんとももったいない」

 「な、なんですか? そんなに珍しい前世なの!?」

 「……占う?」

 「くっ……!!」

 なんて商売上手な占い師なんですか……。
 その力、他の事に使いなさいよ。


 「……1回いくらですか?」

 「普通は1000円なんだけど、あなたの場合は300円でいいです」

 「その7割引はなに?」

 「これから落ち込むあなたを見ると思うと、あまりにも可哀想なので」

 「ちょ、それは……」

 やっぱりひどい事言われるんですか?
 そんな物のためにお金払うだなんて……。




 「なんと、あなたの前世はですね……」

 「ごくり……」

 どんなひどい事言われてしまうんでしょうか。
 奴隷とか虫とか、そんな感じだったら嫌だなぁ……。

 「あなたの前世は、キュウリです」

 「予想以上にビタミンに溢れた前世だったー!?」

 植物だとは思いませんでした。
 奴隷だとか虫だとか、随分と過大評価してましたね。自分を。

 「キュウリですか……」

 「ちなみに前世でのあなたの最後は、ぬか漬けです」

 「壮絶な最後ですね」

 想像したくも無い。



 「ちょっと……こんな事なら聞かなければ良かったですよ。
  なんで自分がキュウリだったって言われるために300円も払わなきゃいけないんですか」

 「じゃあ2代前の前世も占いますか?」

 「前世の前世ですか? ……お願いします。このままだとムカムカした感じが溜まったままなので」

 「では300円頂きます」

 「くっ!! この商売上手めが!!」

 これで計600円払ってるんですから、それ相応の前世をお願いしますよ。


 「あなたの2代前の前世は……」

 「ドキドキ。ドキドキ」

 せめて人で。人でお願いします。

 「ホワイトボードです。残念」

 「本当に残念だー!!!!」

 想像以上に白い物体でしたね。私の前々世。堪らなく悲しい。





 「ああ……なにこの虚無感。ひっどく損した気分ですよ」

 「もう一回占って、前々々世を見てあげようか?」

 「くぅ……ここまで来たらやってやろうじゃないか。
  お願いします!!」

 「はーい♪ 300円になりまーす♪」

 ちくしょうめ……これで900円も使っちゃったんですか。

 「あなたの前々々世は……」

 「せめて有機物、有機物以上でお願いします」

 「ペプシブルーでした。可哀想」

 「本当に可哀想な前々々世だー!!
  ……っていうか待てよ!! ペプシブルーが生まれたのは最近でしょうが!!
  どうやったら前々々世になれるんですか!!」

 「時間の流れって不思議ですね」

 「金返せよ!!!!」

 まああれですよ。前世なんて信じてた私が馬鹿だったんですよ。
 ちくしょうめ。









 7月14日 木曜日 「新・占い」


 「もしもしお嬢さん、あなたの性格を占って……」

 「昨日の占い師じゃねえかよ!! 何の用だ!!」

 「動物占いをしてあげようかと……」

 「いらない。絶対やらない」

 昨日散々な事言われて懲りましたよ。
 もう占いなんてこりごりです。


 「でも当るんですよー。動物占い」

 「へぇー……知りたいなら動物占いの本買ってやるよ」

 「違うんですよ。一般で売られている動物占いと、私の動物占いは」

 「どこが違うんですか?」

 「えーっと……出版元」

 「その説明じゃ全然惹かれない。私、帰る」

 「ちょっと待ってよー!! 1回だけ、お試しとして占ってあげますから!!」

 「お試し……ですか?」

 「そう、なんと無料なんですよ。すっごくお得ですよ!!」

 「まあ……タダならやってもいいかなって思います」

 「ひゃっほう♪ このケチんぼめ♪ 罠に掛かりやがったな♪」

 「本音漏れてる」

 ある意味でその正直さは信用できそうですけど。
 嘘吐かれないかもしれないし。




 「あなたの誕生日は?」

 「3月2日です」

 「え〜っとじゃあ……あなたの動物は、ガーゴイルです」

 「ちょっと待て!! それってモンスターだ!!」

 「まるで石像のように頑固なあなた。でもいざという時は獣のごとく襲い掛かる行動力があります。
  どう? 当ってますか?」

 「なんとなく上手い事言ってる感じだけど、そもそも動物じゃない」

 「さらにこの占いに300円をプラスすることで、あなたの婚期が分かります♪
  オススメだよ♪」

 「もう帰る。なんていうかガーゴイルなんて言われても嬉しくない」

 「本当にオススメだから!! 聞いたら絶対に幸せな気分になれるから!!」

 「いいですってば。さよなら」

 「あー! ああー!! 分かった!!
  もう一回タダにするから!! 無料で結婚運を占ってあげるから!!」

 「じゃあやってもいいです」

 「こんのちくしょうめ♪ 毎度でーす♪」

 だから、本音が漏れてる。



 「あなたの血液型は?」

 「何かのオイル」

 「えーっと、ガーゴイルでオイルな人は……」

 あなたの占いにはオイルのカテゴリーがちゃんと存在してたんですか。
 どれだけ幅広い人間を占っているんだ。

 「あなたは何と、来年に結婚できます!!」

 「出来ません。法律的に」

 「その次の婚期は46年後です」

 「ちょっと待ってよ!! そんなに行き遅れなくちゃいけないの!?
  私、おばあちゃんじゃん!!」

 「じゃあ来年結婚すればいい」

 「だから無理ですってば。法律的に。倫理的に」

 「奥様は小学生」

 「死ぬほど馬鹿っぽいタイトルつけるな」

 「じゃあ相性占いしてあげましょうか? たった600円で」

 「いいやもう。何だか良く分からない事ばっかり言ってる占いなんて要りません」

 「ちょ、待って!! あなたの運命の人が簡単に分かるんですよ!?
  たった600円で!!」

 「運命の人なら何もしなくても出会うでしょ。
  運命なんだし」

 「運命は自分で切り開かなくちゃ!! 運命と闘わなきゃ!!」

 「さようなら」

 「分かった!! これもタダにしてあげる!!」

 なんていうか、昨日の分を取り戻しちゃった気がします。
 押して駄目なら引いてみろって事なんでしょうか。



 「あなたの好きなテレビは?」

 「えーっと……バラエティです」

 「違う。テレビの種類」

 「そっちかよ。シャープとか聞いてどう占うんだよ」

 「シャープですね。分かりました」

 別にシャープが好きなわけじゃないですけど……っていうか別にテレビのメーカーにこだわりは無いですよ。

 「ガーゴイルでオイルでシャープなあなたの運命の人は……」

 「その単語の羅列だけ見るとろくでもない人間に思えますね」

 「あなたの運命の人は、シュークリームにストローを刺して中のカスタードクリームだけ先に食べる人です!!」

 「そんな運命の人なんてこっちからお断りだー!!」

 運命と闘いますよ。
 そんなのが相手じゃ。









 7月15日 金曜日 「否連想ゲーム」

 「千夏お姉さま〜。私と遊びませんか?」

 「えー? リーファちゃんと遊ぶと命をかけちゃう事になるから嫌ですよ」

 「そんな、人を闇のデュエリストみたく」

 「とにかく嫌です。ロシアンルーレットや紐無しバンジーをプレイする気はございません」

 「いいからやりましょうよー。命なんてかけなくてもいいですから」

 「本当に……?」

 「はい。心臓だけで結構です」

 「それで大体事足りるじゃねえか。私を殺すだけなら」

 誰が心臓をくれてやるかってんですよ。



 「じゃあ別に心臓とかいいです。本当に暇なんで付き合ってくださいよ」

 「はいはい、分かりましたよ。で、なにして遊びますか?」

 「否連想ゲームです」

 「なにその奇妙な漢字が頭に付いちゃってるゲームは?」

 「普通の連想ゲームは単語に対して連想できる物を言っていくものですが、
  この否連想ゲームは、まったく連想できない単語を言っていくゲームなんです。
  つまり、言った単語とまったく似ても似つかない物じゃないと駄目なんです。
  分かりましたか?」

 「なんて面倒なルールなんですか……。
  素直に普通の連想ゲームでいいじゃないですか」

 「こういったゲームはですね、スパイスを加えていかないとマンネリするものなんですって」

 私はマンネリするほどリーファちゃんと連想ゲームやった覚えないですけどね?



 「じゃあ私から行きますよ? えーっとですね、『ゴジラ』」

 「いきなり飛んだ単語言ってくるね」

 「さあお姉さま。まったく連想できない単語を言ってください」

 「え〜っと……『ゴマ』?」

 「ブー!! 駄目です。失格です」

 「え!? なんで!? ゴマとゴジラは全然違うじゃないですか!!」

 「おっきい物言われたから、出来るだけ小さい物っていう思考が簡単に連想できるから駄目です」

 「そんな殺生な……。初めてだからよく分からなかったんですよそれ」

 「じゃあもう一回初めから。『ゴジラ』」

 「えーっとそれじゃあ……『ハンペン』」

 「おっ、中々やりますねお姉さま」

 「あれでいいのかよ」

 「それじゃあ次はですねぇ、『ポスト』」

 「……ねぇ、これ楽しい?」

 「さあさあ、千夏お姉さまの番ですよ」

 「……『レンコン』」

 「おおう!! こう来るとは!! さすがですねお姉さま♪ 才能ありますよ」

 「いらないよそんな才能」

 っていうかぶっちゃけ、つまらないです。






 7月16日 土曜日 「我が家のエレベーター」

 「……」

 「あっれ? どうした千夏?
  そんな所で突っ立っちゃって」

 「ああウサギさん……あのですね、我が家の壁に変なものを見つけてしまいました……」

 「千夏ってさ、そういうの見つけるの得意だよな」

 「確かにね。全然嬉しくないけど事実ですね」

 「で、何見つけたの?」

 「……エレベーター」

 「……なんでエレベーター?」

 「さあ?」

 確かこの旅館には2階なんて無かったはずだったんですけど……。
 このエレベーター、どこに繋がってるんでしょうか?

 「ねえウサギさん。乗ってどこに繋がってるか確かめてみましょうか?」

 「マジで? ……何かろくでもない事が起きそうで堪らないんだけど?」

 「人生って言うのはですね、こう自ら進んで行かなければ何も得る事は出来ないんですよ。
  常に冒険なのです」

 「……千夏が自ら危険を求めるなんて……そんなに暇なのね」

 大当たり。





 「取りあえず乗ってみましょうよ。後悔するのはその後でも遅くはないです」

 「はいはい。分かりましたよ。
  でも何か危険な事があったらまずいから、俺の側から離れるなよ?」

 「りょーかいです。それじゃエレベーターを呼んでみますかね。
  ぽちっとな」

 エレベーターの扉の隣にあるボタンを押しました。
 1つしか無い事から、上か下かどっちかに行くしかないんだと思います。
 どこに行くんでしょうかね? これは。


 『ギギャ、ガガガ、ギョギャリゴギュ』

 「うっわぁ!! すっごい音しながらエレベーターがやってきましたよ!!」

 「こ、これってやっぱりやばいんじゃないか? 主に音が」

 「何かが引っかかってる感じがしますね……」

 「ああ。もんのすごく引っかかってるな」

 『ゲギョ、ギョギョギョギョ……』

 すっげえ不気味な音を出しながら、エレベーターの扉が開きます。
 このカエルの断末魔はどこから鳴ったんだと思うほど、エレベーターの内装は綺麗でした。


 「さあ……乗りましょうか」

 「本当にやるのか? 止めといた方がいいと思うけど……」

 「もう……ウサギさんったら臆病ですねぇ。男の子でしょ?
  奇妙極まりない叫びが聞こえてくるエレベーターぐらいなんだっていうんですか」

 「どうした千夏? その積極性はどこから生まれてきてるんだ?
  何かあったのか?」

 「のび太並みの点数を取ってしまったテストを、お母さんに見つかってお小遣い120%カットされちゃいました」

 「自暴自棄かよ。
  しかし120%カットって……?」

 「毎月今のお小遣いの20%を徴収されます……」

 「なんで借金生活になってるんだよ」

 こっちが聞きたいですよ。


 「とにかく冒険です!! そうでもなきゃやってられないですよ!!」

 「はいはい。分かったよ」

 ウサギさんの腕を引っ張って、無理矢理乗り込みます。
 エレベーター内のボタンはたった4つ。
 開閉ボタン2つと階数ボタン2つ。
 つまりこのエレベーターは一階とどこかにしか通じていないって事なんでしょう。

 「じゃあ押してみますね」

 「ああどうぞ。自暴自棄な心に任せてどんどん進もう」

 「ちょ、なんか嫌な言い方ですね」

 確かに自暴自棄ですけど、少しはウサギさんもワクワクしてくださいよ。



 ゴウンゴウンゴウン。
 なんとも鈍ったらしい音を鳴らしながらエレベーターが降りて行きます。
 先ほどの生き物をすり潰した音はどうやって鳴ってたんですかね?

 「結構長いですね」

 「そうだね。多分下に降りてるんだと思うけど……もしかして地下に秘密基地か何かがあるんじゃないかな?」

 「確かにそれはありそうですね。
  お母さん達が作ったのかも」

 しかしなんで私が住む所はいつも地下に何かあるんでしょうか……?
 そんな事したら大地震が起きた時に陥没してしまいそうで怖いんですけど。



 『ポーン』

 「おっ、着いたみたいだ」

 「さてさて、一体どんな不思議な世界に辿り着いたんでしょうか?」

 めくるめく冒険の世界にレッツゴー♪





 「オラー!! 気合イレテ掘ランカイワレー!!」

 「イエッサー!!」

 「今日ハ50メートル掘リ進ムゾー!!!!」

 「イエッサー!!!!」

 ……私たちの目の前では、この旅館に泊まってるはずのアメリカ軍兵士たちが、
 一生懸命穴を掘ってる風景が広がっています。
 彼らはどうやら今までもずっと掘り続けていたらしく、かんなり広い地下洞窟が出来ちゃってました。


 「ウ、ウサギさん。これって一体どういう事なんでしょうかね?」

 「さあ……何かの作戦なんじゃないか?」

 「地盤陥没させて私たちを陥落させるとか?」

 「多分」

 なんて地味な癖に壮大な作戦なんですか。


 「……とりあえずさ、蹴散らして邪魔しとこうか?」

 「お願いしますウサギさん」

 ポップコーンのごとく蹴散らされるアメリカ兵たちを見ながら、
 っていうかもっと良い攻め方あるだろうにと突っ込んでおきました。

 今までやけに大人しいと思ってたら、こんな事やってたのかよ。









過去の日記