7月31日 日曜日 「花嫁争奪戦 5日目」


 「……」

 「あれ? 今日はやけに静かなのね千夏。
  いつもぎゃーぎゃー喚いてるのに」

 「あのですね……5日間も縛られたらですね、イノシシだって元気なくなりますよ」

 「もしかして夏バテ? もうダメよー? ちゃんとビタミン取らないと。
  元気が出なくなっちゃうんだから」

 「都合の悪い事は徹底的に真夏の太陽に放り投げるんですね……」

 お母さんのその図太さを見てると余計に元気が無くなりますよ……。




 「で、今日はどんな競技をするんですか?
  パイ投げ合戦? それとも思い切ってパイナップル爆弾投げ合戦?
  初心に戻って殴り合いですか?」

 「あなたね、そんな凶悪な競技しか思い浮かばないの?
  これだから最近の子って怖いのよねぇ」

 私の周りの大人の方が、幾万倍怖いよ。


 「今日は中休みなの。いくら歴戦の戦士たちでも真夏の連戦は辛いだろうしね」

 「へぇー。一応選手の事は考えてるんですね。ちょっとだけ尊敬」

 「もう♪ 尊敬だなんて言いすぎよ♪」

 「そうですね。いつも悪いことしてる不良が、たまに良い事しちゃったら見直しちゃうような、
  そんなギャップによる錯覚なんでしょうけどね」

 「ちょ、なにその言い方」

 錯覚って怖いですねー。





 「っていうかさ、なんでみんな私の事欲しがってるんですか?
  もしかして世界的にロリブーム?」

 「そんな世界に絶望したくなるような流行は巻き起こってないわよ」

 「そうですか。安心しました。
  世界的流行の発信地であるニューヨークで○○たん萌え〜なんて叫ばれてるのかと心配しちゃいましたよ」

 本当に悪夢ですけどね。

 「で、なんでみんな私を欲しがってるの?」

 「実はね、千夏の義体にはとある兵器が搭載されてるの」

 「兵器!? それって何なんですか!?」

 「しゃっくりを100回続けたら死ぬという……」

 「それ、ただの自爆兵装じゃんか」

 誰が欲しがるかそんなもの。

 「それと、PS2のメモリーカード4枚分の記憶媒体が……」

 「たった32MBの記憶媒体!? フラッシュメモリーにさえ負けちゃってますよ!!」

 なんだか自分がどれだけポンコツか教えられた気がする。




 「もう良いですよ。
  お母さん、ホントの事言ってくれないし」

 「もうちょっと粘りのある子だと思ってたのに」

 「うっせえ。
  で、お母さんが手に持ってる紙は何なんですか?
  さっきから気になってたんですけど」

 「ああ、これね。これは決勝トーナメント表よ」

 「へぇ……見せてくださいよ。
  どんな人たちが勝ち残ったのか気になります」

 もしかしたら私が貰われてしまうかもしれないし。

 「はいどうぞ」

 「ふむふむ……」

 お母さんが渡してくれた紙は……








 「アメリカチーム以外は、多分絶対きっと日本のチームだぁ!!!!」

 あれだけ居た各国の代表はどこに行っちゃったんですか。







 8月1日 月曜日 「花嫁争奪戦 6日目」


 『本日は千夏争奪戦、第1トーナメントを行いまーす♪
  この過酷なトーナメントを勝ち抜ける者は、一体どのチームなのでしょうか?
  ますますこの戦いを見るのが楽しくなりますね☆』

 「……」

 「あれ? 千夏?」

 「……」

 「あらー。とうとうぐったりしたまま動かなくなっちゃったわね」

 そりゃーもう6日目ですからねー。
 体、ぐったりですよ。

 「まあいいか。静かだし」

 酷いにも程がある。
 とにかく、今日は口を開く気力も無いので、心の声だけでつっこまさせていただきます。
 ご了承ください。



 『第1トーナメントの勝負方法は、【しりとり】です!!
  単純かつ奥の深い知能ゲーム!! 今日、この遊戯で幾人の死者が出るのでしょうか!?』

 死人は出ないでしょ。
 所詮しりとりなんだし。

 『それでは第1トーナメント第1試合、旅館チナツチームVS金物屋『タウエ』チームの試合を始めます!!
  各代表者、リングの上にあがってください』


 いつの間にやら設置してある格闘リングの上に、2人の代表者の姿がありました。
 私の方からは良く見えないんですけど、私たちのチームの代表は一体誰なんでしょうか?
 やっぱりいろんな単語を知っている人が適任だと思うんですけど。

 『選手の紹介をいたしまーす。
  金物屋『タウエ』チームの代表、横島孝雄さーん!!』

 タウエって、田上という名字じゃなかったんですか。
 一体どういう意味でタウエだったんだろう?
 【タまにゃウエでも目指してみっか】のタウエ?


 『旅館チナツチームの代表は、黒服さーん!!』

 確かに知識はある人ですけど、どっか狂ってるからなぁ……。
 全然安心出来ないよ。




 『それではしりとりのルールを説明いたします。
  1勝負ごとに出されたお題に沿った単語のみ、しりとりで使用できます。
  先に3回勝利した方がトーナメントを勝ち抜けます。みなさん、頑張ってくださいね♪』

 まあルールは単純ですね。
 それほど問題のあるものでは無いでしょう。


 『さあ! 今より第1回戦を始めます!!
  お題は『ポケモンの名前』!! それでは先攻の横島さんからどうぞ!!』

 ポ、ポケモンの名前ですか……。
 私だって全然分からないって言うのに、いい歳したおっさんが答えることが出来るんでしょうか?



 「えーっと、えーっと……グレイモン!!」

 『ブー! それはデジモンです。しかもンが付いてる』

 いくらなんでもおじさんには辛すぎるお題だと思うんですよね。
 っていうかデジモンもよく知ってましたね。


 『それでは気を取り直して2回戦です。
  お題は『ラーメンの種類』!! 後攻の黒服さんどうぞ!!』

 「しょうゆ」

 「ゆ、ゆ、ゆ……湯たんぽ?」

 『ブー!! 横島さん、2敗目です』

 ラーメンの種類でしりとりなんて無理があるでしょうに。
 っつうか酷いお題だな。


 『3回戦のお題は『雪女さんの本名』です。
  それでは横島さんどうぞー』

 「えーっと……知りません」

 『ブー!! 横島さん3敗目です。よって、黒服さん勝ち抜きー!!』

 私も知りませんよ。
 雪女さんの名前。





 さすが開催国(?)
 ルールの有利さが半端ねぇ。









 8月2日 火曜日 「花嫁争奪戦 6日目」


 『さあ今日も張り切って千夏争奪戦を行ないましょう!!
  みんな乗ってるかーい?』

 「……」

 「あれ? どうしたの千夏? なんだか昨日より痩せてる気がするんだけど?」

 そりゃあ本当に痩せてるからそう見えるんでしょうに。
 もうね、私、限界っぽいんですけど。


 『さーて皆さん!! 今日は決勝トーナメント第二回戦を行ないまーす!!
  第一戦目は昨日勝ちあがった旅館チナツチームと(株)ピラミッドパワーチームの対戦です!!
  本当に楽しみですね♪』

 どこの会社なんですか(株)ピラミッドパワーチームって。
 何を作っているんだ。


 『第二回戦の対戦内容は大食い勝負です!!
  とにかく一杯ご飯を食べた人が勝ち!! 単純明快ですね♪』

 だからさ、雑巾がけとかソバ運びとか地雷原疾走とかしりとりとか大食い勝負とか。
 そういうので私の今後が決定されてしまうのは悲しすぎるんですよね。
 えー加減にしてください。

 『ちなみに今回出される料理は全て鍋料理!
  胃袋の大きさだけではなく、熱い料理に耐える忍耐力も試される競技です!!』

 こんな真夏日に鍋料理だなんて……。
 私だったら豆腐1つでギブアップですね。



 『それでは今から闘う代表者を発表しましょう!
  旅館チナツ代表、雪女さーん!!』

 「どうもー。雪女でーす♪」

 その漫才の導入部みたいな自己紹介はやめてよ。恥ずかしい。
 っていうか、雪女が真夏日に鍋料理を大食いって大丈夫なんですか?

 「大丈夫ですよー千夏さーん♪
  私、お鍋大好きですからー♪」

 ちっとは雪女の自覚を持てよ。
 というよりも、人の表情から心を読んで返事するの止めてください。




 『(株)ピラミッドパワーチームの代表者は、ハムナプトラ高嶋さんです!!』

 どこのプロレスラーだ。その高嶋は。

 『さあ、いよいよ第二回戦を行ないます!!
  大食い競争、レディーゴー!!!!』

 いよいよ大食い競争が始まってしまいました。
 ばくばくと雪女らしからぬペースで熱々鍋を食べる雪女さん。
 そしてプロレスラーのようにガツガツと食べまくるハムナプトラ高嶋。
 どっちもいい勝負です。


 『おーっと!! 2人とも、同じタイミングで一つ目の鍋を食べきりました!!』

 2人ともすごいなぁ。尊敬しちゃいますよ。
 彼女たちみたいになりたいかと言われればうんとは言えないですけど。

 『次のお鍋はキムチ鍋です!! 食いきる事が出来るでしょうか!!』

 辛いのは大変そうだなぁ。
 余計体が熱くなっちゃうだろうし。

 「おかわりー♪」

 『雪女さん、ものの三秒で食べきりました!!』

 すごいですよ雪女さん!!
 雪女としてはそれでいいのかと思いますけど。

 『三杯目のお鍋はイノシシ鍋です! 油がこってりで食べにくいですよ……』

 「おかわりー♪」

 早すぎだよ雪女さん。





 こういう感じで、雪女さんは20杯の鍋を完食して勝利しました。
 プロレスラーもどきに勝利するなんてやりますね。
 ただ、雪女さんのキャラに大食いが付属されてしまった事は、彼女にとってプラスに働くのでしょうか?
 そんな事、心配しちゃったり。







 8月3日 水曜日 「花嫁争奪戦 7日目」


 「おーい千夏」

 「はい? なんですかウサギさん?」

 「プリン一杯作ったんだけど、一緒に食べようぜ」

 「うわぁ♪ 本当ですか!?」

 「ママぁ。いつもありがとうね♪ これ、私からのプレゼントー♪」

 「か、加奈ちゃん! そんな事言ってくれるなんて……ううぅ、母親冥利に尽きますよ!!」

 「お姉さま!! 今までごめんなさい!!
  私、改心しました!! これからはお姉さまの忠実な下僕として生きていきます!!」

 「よくぞ言いましたリーファちゃん!! 人間、真面目が一番ですよね♪」

 「千夏さん!! 私ね、もう熱いお風呂に入りません!!」

 「それは心底どうでもいいですよ雪女さん」

 ああ……なんだかよく分からないけど、幸せ……。







 「ってはぅ!? 幻覚!?」

 さすがにやばいと思うんですよね。
 幻覚を見だすと。

 『とうとう決勝戦です!! 度重なる激闘を繰り返してきた千夏争奪戦も、いよいよ最終局面を迎えるのです!!
  血沸き肉踊るとはこの事ですね♪』

 「……お、おかーさ……」

 『それでは、今日は今までの戦いを振り返って見ましょう。
  VTRスタート!』

 あらー。とうとう私の事を気にかけてくれなくなっちゃいましたよ。
 すっげえ寂しいんですよね。こういうの。


 『全65チームいた選手たちも、7日間の激闘によって命を落とし……』

 死ぬほどの戦いなんて、地雷原徒競走ぐらいしかなかったじゃないですか。
 ……っていうかあれで死んだ人は浮かばれないなぁ。



 『今大会では様々なドラマが生まれました。例えばガーナ代表の兵藤さん』

 思いっきり日本人じゃん。

 『彼は、幼い頃に生き別れた両親を見つけるために、
  世界中で放送されている千夏争奪戦にエントリーしたのです』

 世界中に放送されてたんですか。
 このどうでもいいような運動会が。

 『彼は惜しくも第二回戦で負けてしまいますが、彼の活躍は全世界に放映され、
  なんと彼の両親と名乗る者たちが現れたのです……』

 へぇ……それは良かったですねぇ。
 こんな大会でも、少しは意味があると思えますよ。

 『こうして、兵藤さんは詐欺師2人組に身ぐるみ剥がされましたとさ』

 最悪の展開だー!!!!



 『このように、感動的なドラマが巻き起こっていた千夏争奪戦ですが、
  明日の決勝戦で終わりを迎えます』

 よーやく明日で開放されるんですね。
 もう右手の感触が無かったりするんですけど、私の体は大丈夫ですか?

 『それでは皆さん、明日も見てくれるかなー!?』

 いいとも? 森田一義アワーなの!?

 『暇だったらー!!』

 お客さん、あまり乗り気じゃないっぽーい!!!!








 8月4日 木曜日 「花嫁争奪戦 8日目」



 『本日の千夏争奪戦決勝は、我が旅館チナツで行ないます!!』

 「なんでー?」

 「あら千夏。体力回復したの?」

 「ええまあ。少しだけ」

 「ちぇー。またうるさくなっちゃうわ」

 この親とは思えぬ反応は一体何か。
 えらくショックですよ。


 「で、なんで我が家でやるんですか?」

 「それはね、決勝戦の競技に深く関わってくるからよ」

 旅館と深く関わりのある競技って一体……?


 『それでは決勝戦に進出したチームを発表いたします!!
  ここまで勝ち残ってきた精鋭たちの名を、しかとその頭に刻み付けましょう!!』

 「そこまで張り切るようなものでもないでしょ」

 『まず、連覇を狙う本星!! モットーは『愛されるより愛したい』、旅館チナツチーム!!』

 「そんなダサ気なモットーがあったとは。
  もっと前に知っていれば早めに突っ込めたのに」

 『そしてリフェンリングチャンピョンに挑むのは、
  世界最高峰の兵士たち、アメリカ軍チーム!!』

 その世界最高峰の兵士たちが雑巾がけとか大食い対決とかしたと思うと、
 なんだか笑えてきますね……。
 彼らもこういう事するために軍隊に入ったわけじゃないはずなのに。


 『それでは決勝戦の競技内容を発表いたします。
  決勝戦は……『旅館経営』、団体戦です!!』

 「旅館経営!?」

 『旅館チナツの客室を二等分しまして、それぞれ割り当てられた部屋のお客さんを相手してもらいます。
  最終日にそれぞれのお客さまから提出してもらったアンケートの点数から、優勝チームを決定するのです』

 まるでTVチャンピオンみたいな勝負方法ですね。
 でもこれなら本業である私たちの方が有利そうです。

 『それでは今より、決勝戦を開始します!!』

 うっわぁ、始まっちゃいましたよ。
 とにかく、頑張らないと私がアメリカ軍の手に落ちてしまいます。



 「み、みなさん! とにかく頑張んばって勝ちましょう!!」

 「……」

 「あ、あれ? みなさん? どうかしたんですか?」

 ウサギさんを含め、我が家族全員が地面に突っ伏してます。
 これは何の遊びですか?

 「……夏バテしちゃった」

 「ええ!? こんな時に限って!?」

 ちょ、決勝戦はどうするっていうんですか!!





 いきなり、大ピンチです。









 8月5日 金曜日 「花嫁争奪戦 9日目」

 これまでのあらすじ:みんな一斉に夏バテでピンチ。ゴーヤぐらい食っとけよ。



 「皆さん! 早く元気だしてくださいよ!!」

 「そう言われてもねぇ……」

 「もーう! 本当にどうしたって言うんですか!!」

 お母さんを初め、みんな寝っ転がったままで起き上がってくれません。
 これはちょっと異常な気がします。
 もしかして新型の生物兵器がアメリカ軍によってばら撒かれたんじゃ……。
 きっとそうですよ!! きっと、その生物兵器のせいでみんなやる気が……。



 「黒服さん!! あのですね、生物兵器が……」

 「めんどくせー」

 「ってっめぇ」

 黒服がこんなんじゃワクチンなんて作ってくれなさそうです。
 とにかく、私が頑張って旅館を仕切らないと!!





 「おはよーございますお客さま!!」

 元気一杯でお客さまの相手をする私。
 1人で全員の仕事をするのは大変そうですけど、必死になって頑張ります!!
 しかしあれですね……自分を持っていかれないために自分が頑張るなんて……
 とてもモテモテな女の子って立場じゃないですね。


 「ふふふ……でも勝機はありますよ。
  なんて言ったって、相手はアメリカ軍なんですからね」

 いかついあの連中が、旅館の仕事なんて出来るとは思いません。
 こちら側はたった一人ですけど、それでも負ける気はしませんよ。

 「さーて。とりあえず、朝食を作って、それをお客さまに出して……」


 「オーウ! マイドドウモデスヨ、オ客サーン!!」

 「オニモツオモチイタシマショウカ?」

 「コチラガ、『菊ノ間』ニナリマース!! ドウゾゴユックリ」

 「うわー!! 思ったより普通に仕事してるー!!??」

 予想外の働きっぷりにびっくりですよ。
 ああ……さすが長い間旅館に泊まり続けた精鋭部隊。
 仕事内容は全部把握してるって事ですか……なんてこったい。



 (千夏……千夏……)

 「お母さん!?
  ……なんで、お釈迦様が現れた的な登場方法なの?」

 (演出)

 「そんな演出いらない」

 (千夏。このままだとまずいわ。アメリカ軍に負けてしまうかもしれない)

 「そ、それは困りますよ!!」

 (そう。すっごく困ります。
  だから、今こそお客さまの心を掴んで離さない秘密兵器の登場よ!!)

 「そんな秘密兵器があるんですか!?」

 (もちろんですとも。その名も……)

 「その名も?」

 (ストリップショ……)

 「地獄に落ちろ釈迦モドキ」

 この旅館をどこの売春宿にしたいんだお前は。





 とりあえず、ピンチは続いたままです。






 8月6日 土曜日 「花嫁争奪戦 10日目」

 あらすじ: みんな夏バテで大ピンチ。ドーピングでもして無理矢理働かせるぞコラ。



 「オ客サーン、マタノオ越シヲオ待チシテマース」

 「いえいえ。こちらこそありがとうございました。
  また来ますね」

 ……こうもまあすんなりと旅館の仕事をされると、敵ながら関心しちゃいますね。
 ってダメダメ。こうやって気を抜いたら私が負けちゃうんだから。




 「雪女さん!! 起きてください!!」

 「面倒だから嫌です〜……」

 「雪女さんが居ないと大変なんですよ!!
  主にご飯とかご飯とかご飯とか!!!!」

 「私の存在理由はそれだけなんですか……まあいいけどね。面倒だし」

 そんな投げやりに……。
 これも夏バテ効果ですか。

 「雪女さーん! 美味しい料理を作らないと、お客さまに気に入ってもらえないんですよ!!
  気に入ってもらえないと、私がどっか行っちゃうんですよ!!」

 「気合入ってますねぇ……」

 そりゃ気合も入るでしょうに。
 私の人生が掛かってるんだから。



 「じゃあ私が開発した、旅館チナツ特製メニューの作り方を教えますので……
  千夏さんが作って……やっぱいいや。面倒だし」

 「途中まで言いかけたんだから最後まで完遂してくださいよ!!
  夏バテに負けるな!!」

 「おおぉぅ。あんなに料理が嫌いな千夏さんが自分から料理をやろうだなんて……」

 「そりゃ自分自身がかかってますからね」

 手段を選んでられませんよ。


 「分かりましたよ……。レシピ教えます……。
  あのですね、まず前菜となる『ニョルホハー・ヒミニッシ』の作り方ですけど」

 「ちょっと待った。
  そのメニューってさ、東南アジアか何かの料理なの?」

 「いえ。れっきとした日本料理ですよ?」

 「そうですか」

 いちいち突っ込むのも面倒なので、気にしない事にします。

 「まずですね、キャベツとニョルホハーを用意しまして」

 「ちょっと待った。
  そのニョルホハーって、魚の種類とか?」

 「いえ、違いますけど?」

 ……じゃあ何なんだよ。

 「とにかく、そのニョルホハーをですね……」

 「あー。それはいいです。
  メインディッシュになりそうな奴を教えてください」

 そんなみょうちくりんな料理を出したらお客さまが困るだけだろうし。



 「じゃあメインディッシュの『ヒョウロク・プルソニー・権兵衛』の作り方ですけど……」

 「もういいや。店屋物取ります」

 これじゃあアメリカに勝てそうにないです……。
 明日の結果発表が怖いですよ……。










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