8月7日 日曜日 「花嫁争奪戦 最終日」


 あらすじ: もういいや。諦めた。
       私は、今日からアメリカ軍のモノになります。
       ……ぐすん。




 『さあー!! 今日は待ちに待った千夏争奪戦の結果発表の日でーす!!
  一体だれが千夏を手にするのでしょうか!?』

 なーんでさ、今日のこの日に限って元気になってるんですかね。
 うちのお母さんは。
 昨日までの夏バテっぷりはどこに行ったんだ?

 『決勝戦の勝敗は、三日間のお客さまからいただいたアンケートの点数によって決まります』

 はぁ……あまり自信がありません。
 なんて言ったって、三日間の間に宿泊客に向かって料理をぶちまけたのは実に7回を誇りますからね。
 自分にここまでドジっ子性質が付いているとは思いませんでした。
 ……ちょっとショック。



 『ちなみにアンケートの項目は以下のものが5段階表示であります。
  【1、従業員の態度】』

 まあ基本的な部分ですね。
 私は、その基本的部分が圧倒的にダメでしょうけど。
 7回もぶっかけたし。

 『【2、料理の出来】』

 これも高得点は期待できませんねぇ。
 なんて言ったって、出前取っちゃったし。

 ……本当に絶望的じゃないか。


 『【3、従業員のロリ具合】』

 これは断トツで勝ちですね!! さすがにアメリカ軍にはロリ要素は無いでしょう。
 ……って何だこの項目!?

 『【4、従業員のアンテナ具合】』

 これも私の勝ちでしょうね。
 なんてったって、アンテナつけてるのは私ぐらいしかいないのだから。
 ……え?

 『【5、従業員の千夏っぷり】』

 「ちょっとお母さん!? そのアンケート、なんか変じゃありません!?」

 「どこが?」

 3番目から全部。


 『以上、この五項目で争われます』

 「ここまで開催者側が有利な勝負は見た事が無い」

 一気に私が有利になっちゃいましたね。
 ちょっと反則気味ですけど……。




 『これらのアンケートの結果を合計し、優勝チームを決定いたしました!!
  そのチームとは……』

 た、多分私が優勝のはず……。

 『女神さんチームです!!』

 「えーーーーーー!!??」

 なんで女神さんが個人でエントリーされてるの!?

 「わーい♪ やったぁ」

 「女神さん!! どういう事ですか!?」

 「あまりの私のステルス性能のために、私が決勝戦に進出していた事に誰も気付かなかったのです」

 「ありえねえだろそれは」

 存在感が無いとか、そういった言葉では説明できない気がします。

 「っていうかさ、私よりロリっててアンテナがあって千夏ってるのかよ。女神さんは。
  ちょっとショックですよ」

 まあ……アメリカに私が取られるよりはマシですかね。

 『思わぬ伏兵によって、今回の千夏争奪戦は幕を閉じました。
  それでは全国の皆さん、またらいねーん♪』

 テレビカメラに向かって手を振るお母さん。
 そして流れるエンディングテーマ。
 なんだかよく分からないけど、二週間近くかけて争われた私の争奪戦は終わったみたいです。

 ……なんかなー。






 「納得いかねえズラ!!」

 「ちょ、アメリカ代表さん。何を言い出すんですか」

 まあ気持ちは分かりますけどね。
 ただ、気が動転してるあまりよく分からない訛りをしてるのはどうかと思いますが。
 思いっきり日本語だろそれ。

 「勝負のやり直しを求めるでゴワス!!」

 「嫌ですよーだ。面倒だし」

 なんて正直なんですかお母さん。


 「クソッ!! 千夏を手に入れなければ、林さんに殺されてしまうというのにデスワヨ!!」

 林さん? 林さんって一体……ああ、英訳ね。
 ブッ○ュさんね。

 って、大統領命令だったのかよ。


 「こうなれば、実力行使だ!!」

 文句を言ってきたアメリカ兵さんは、ポケットから何かのリモコンを出します。
 なんというか、今までの人生経験から言うと、限りなく爆発物のスイッチでしょうね。

 「ポチッとなニュ!!」

 「っていうかもはや訛りですら無いなぁぁぁぁああああ!!!!」

 私の突っ込みより早く、旅館チナツ全体に爆音が響きます。
 やっぱり爆発物だったんですか。



 「うわああぁぁぁ!! 地面が、割れた!!??」

 私たちの旅館の地面が割れ、その割れ目へと私を含めた皆が落ちてしまいました。
 そういえばアメリカ軍の奴らが旅館の下に洞窟を掘ってましたね。
 そいつのせいで地盤がもろくなったのかもしれません。




 「千夏!!」

 「お母さん!!」

 「今度は、【地底帝国編】ね!!」

 「えー!? なんですかその不吉な予告は!!」

 そういう展開は勘弁だなぁ……。










 8月8日 月曜日 「地底帝国の逆襲」

 「うわー!! 日記のタイトルがどこかの映画みたいだー!!」

 「千夏さん!? 大丈夫ですか!?」

 「はっ!? 女神さん!?」

 どうやら昨日の地盤崩落で気を失ってしまったらしく、目覚めた時は地面に横たわっていました。
 体の節々が痛いです。落ちた時にどこかぶつけてしまったのかもしれません。

 「ここは……?」

 「旅館チナツの地下洞窟ですよ。
  それにしたって……頭、大丈夫ですか? さっき、変な事口ばしってましたし」

 「あまり気にしないでください」

 冷静に突っ込まれるといやんです。




 「あいたたた……明かりが少ない場所ですねぇ。
  上に穴が開いているはずなのに、地上で太陽を見るより小さな光の点になってますし」

 「かなり深い洞窟みたいですからね……。
  それにしても何をしてるんですか千夏さんたちは。
  せっかく私がアメリカ軍がこの洞窟を作っているという情報を伝えてあげたのに」

 「伝えられてないよ。
  あなた、ペンタゴンでドーナツ食ってたじゃないですか」

 「ありゃ? そうでしたっけ?」

 つっかえないスパイですね。



 「とにかくですね、この洞窟は完成させちゃいけない物だったんです。
  それなのに……ここまで大きくなってるだなんて」

 「はぁ……確かに困りそうですけどね。こんだけ大きな洞窟が地下にあったら。
  大地震が来たら怖いです」

 「違いますよ!! いいですか、この洞窟はただの大きな穴じゃないんです!!
  『祭壇』なんですよ!!」

 「祭壇……?」

 「地下に建設されたこの巨大空間はリングのような外周によって支えられていてですね、リング内を走る電荷によって遠心力と超伝導がお見合い結婚で……」

 「よく分からないんでレベルを下げて説明してください」

 「簡単に言いますと、この洞窟内は物理法則が歪んでまして、何が起こるか分からない非常に危険な空間となっているわけです。
  言ってしまえば、魔術的および科学的に作られた居空間への入り口ですね」

 「何が起こるか分からないって、また曖昧な……」

 「例えばですね……地底帝国の逆襲とか」

 人の寝言をぶり返すのは止めなさい。恥ずかしくて堪らないから。




 「とにかくここから出ないと大変な事になります!
  特に、千夏さんが!!」

 「私中心!?」

 「だって千夏さんは器を持ってるんですもん」

 「器? 何その不思議アイテム」

 「えーっと、説明は難しいんですけど……例えて言うならば、
  RPGで決して捨てられない『ロープ』みたいなアイテムです」

 キーアイテムって言いたい事は分かりましたが、よりにもよってロープ扱いなのか。



 「さあ! とにかくこの洞窟から出ましょう!!」

 「ダメです」

 「なんで!? なんでなんで!? なんでなんでなんで!?」

 「ちょ、そんなになんで連発するのはウザイ」

 少しは落ち着いてくださいよ。

 「なんでですか!! 逃げるが勝ちですよ!!
  私、ずっとそうして生きてきましたもの!!」

 「その人生はどうかと思いますよ……?
  えっとですね、私と一緒にウサギさんとかお母さんとか、みんなここに落ちちゃったと思うんですよね。
  怪我してないか心配ですし……だから、探しに行かないと」

 「そんなぁ。あまりにも危険すぎます!!」

 「でもまあ一応家族ですし。助けるのは当たり前ですよ」

 「……アメリカ軍の奴らだって一緒に落ちてるんですよ?
  彼らに見つかったら、鉛玉を撃ち込まれてしまうかもしれません」

 「覚悟の上ですよ」

 「はぁ……分かりました。私も一緒に探します」

 「使いっ走りとして期待してますよ女神さん」

 「ちょ、主力にはなれないと踏んでるんですか。それちょっとショック」

 まあ所詮女神さんですしねぇ……あまり期待しない事にしてるんですよ。




 「さあ、みんなを探しに、この地下洞窟を探検です!!」

 「おーっ!!」

 たった2人の、探検隊が生まれました。











 「千夏さーん」

 「はい? どうかしましたか?」

 「なんかですね、前方にモグラが進化したみたいな人類が……」

 「まさか本当に地底帝国!?」

 どうなってるんだこの洞窟は。





 8月9日 火曜日 「ターミネーターとかそういうの」


 地底帝国の襲来から逃げ回り、私と女神さんは何とか生き残っております。
 相変わらず地底洞窟の中に居て、日差しをまともに浴びてないんですけどね。
 暗すぎて目が悪くなりそうです。


 「はぁ……疲れましたね女神さん」

 「ええ。まさか地底人がムーンサルトをあそこまで綺麗に決める事が出来るだなんてびっくりしましたね。
  あまりの美しさに恐怖すら感じましたよ」

 「私は彼らが現れた時点で恐怖してましたけどね」

 よくムーンサルトなんて見てる余裕がありましたね。


 「でもここはどこなんでしょうか?」

 「うふふ。もう千夏さんったら何を言ってるんですか。
  地下に決まってるでしょ?」

 「知ってるよそんな事は。だから、地下のどの辺なんでしょうねって言ってるんです」

 「ここは地下のメガミ州の辺りですよ?」

 「勝手に地下洞窟に地図作ってるんじゃねぇよ」

 しかも自分の名前の土地を作るな。




 「ウサギさんやお母さんはどこに……?」

 「ああ!! 見てください千夏さん!! あそこに人影が!!」

 「本当だ!! もしかしてウサギさ……」

 遠くにあった人影の頭部には、2つの赤い点がありました。
 なんというか、多分あれは眼ですよね。
 ……そうか。最近の眼は光るんですか。素晴らしい流行ですね。


 「ねぇ、女神さんあれって……」

 「あ、あれは……っ!! 私がペンタゴンに潜入していた時に内部資料で見た、人型兵器!!
  アメリカ軍の奴ら、こんな物を放ってたんですか!!」

 「兵器ですって!?」

 「ええ。ウサギさんやおばあさんなどの高性能義体に対抗するために作られた、
  ターミネーター(殺戮ロボット)です!!」

 「ど、どんな力を持ってるんですか!?」

 「映画のターミネーターにそっくりな姿をしています」

 「そこは機能として数えなくてもいいでしょ」

 っつうか著作権とか関係ないのかな。ペンタゴンレベルになると。



 「とにかく見つかる前に逃げましょう!!
  ターミネーターに見つかったら最後、死ぬまで追い掛け回されるんです!!
  そう、トイレの中までも!!」

 「例えが何か嫌」

 それはストーカーだと思いますし。


 「はいダッシュ! ビックリダッシュ!!」

 「わ、分かりましたからそう急かさないで……」

 ただでさえ地面の状態悪いんですから、走ったらこけてしまいますよ。

 「もう千夏さんったら遅すぎです!! 私、待ってあげませんからね!!」

 「ああ!! 待って女神さん!!」

 私を放っておいて全力疾走する女神さん。
 さすがですね。もうちょっと仲間意識とか持ってもらいたいんですけど?


 「うっわー!! 前の方からもターミネーターが来たー!!」

 「ええ!? 挟み撃ちですか!?」

 後ろを振り返ると、赤い眼をした人影がゆっくりとこちらに迫ってきます。
 これは、ちょっと怖い。

 「ど、どうしよう女神さん!! 闘いますか!?」

 「ターミネーターは対戦闘用義体の兵器ですよ?
  漬物小学生と女神に勝てるわけが無いです!!」

 「私の名称の前についてる文字が気になるんだけどさ、どういう意味?
  しょっぱいって事?」

 「くそっ!! ここまでですか!!」

 聞けよ人の話。




 「何をしている!! こっちだ!!」

 「え? ええ!?」

 突然私たちの足元から声がしたかと思うと、下の方向に足を引っ張られました。
 何事かと下のほうを見ると……その、モグラ男が。

 「ぎゃあーーー!! また地底人ですか!?」

 「違う!! 俺は悪の秘密結社の幹部、モグラ料理長だ!!」

 幹部には思えない役職が付いちゃってますけど?

 「な、なんでこんな所に悪の秘密結社の怪人が……」

 「話は後だ。生き延びたいなら俺について来い!!」

 モグラの癖にカッコ良い事言うと、モグラ料理長は地面に潜っていってしまいました。
 残されたのは、彼が掘ってきたであろう地面の穴だけ。
 ……もしかして、これの中に入れって事なんでしょうか?

 「め、女神さん……」

 「千夏さん。こういうことわざが昔からあります。
  【同じ穴のムジナ】」

 「そのことわざチョイスが意味分からん。
  今使うことわざじゃないでしょ」

 「とにかく、助かるためなんだから穴でも誰が使ったか分からない布団でも潜りましょう!!」

 「は、はい!! 布団は嫌ですけどね!!」

 私たちは覚悟を決めて、モグラ料理長の掘った穴に入っていきました。
 かなり狭くて真っ暗でしたけど、何とか進む事は出来ます。




 「あ。引っかかった」

 「そうですか。それじゃあさようなら女神さん」

 「ちょっと千夏さん!?」

 さっき私を置いて行こうとした罰ですよ。







 8月10日 水曜日 「モグラ料理長の部屋」


 「まあ狭い所ですけども、どうぞくつろいでください」

 「はぁ、本当に狭い所ですけども、頑張ってくつろぎます」

 「ち、千夏さん、助けて。入り口に引っかかっちゃいました」

 「女神さんは引っかかってばかりですねぇ。
  そのうち放送コードとかにも引っかかっちゃいますよ?」

 「ま、ますます出番がなくなりそうですね……」

 女神さんの代わりにモザイクが出張る事になるでしょうね。



 さて、私たちはモグラ怪人に連れられるまま、彼の部屋に通されました。
 部屋と言っても地面に穴を掘って作られたもので、かなりの圧迫感があります。
 こんな所で過ごせるなんて、さすがモグラと言ったところでしょうか。

 「お茶をどうぞ」

 「これはご丁寧にどうも……」

 「さて……さっそく本題に入りましょうか」

 「えっと、閉所恐怖症のモグラは居ないのか? についてでしたっけ?」

 「違います。なんでそんなモグラにとっては致命的な欠陥について話さなければいけないんですか」

 安心しました。突っ込みが出来る人だったんですね。
 私の周りには突っ込み性質の人が中々居ないから心細くて……。


 「あなたはここで何をしているんですか?」

 ああ。女神さんが普通に話を進めようとしている……。
 何だか私だけがふざけてたみたいになっちゃうじゃないですか。

 「私は……秘密結社再建のために地下活動をしていた工作員なんです」

 「本当に文字通り地下活動ですね」

 「あなたたち一家と関わってから、私たち秘密結社は地獄でした。
  ばったばったと倒される怪人たちと幹部たち。そして首領。
  あなた達のおかげで私たち秘密結社は一度崩壊しました」

 「あんたらが私たちにちょっかい出してきたから悪いんでしょうが。
  滅ばない未来への選択権はそちらにあったんですよ。
  やばいと思ったら、素直に悪かったと私たちに謝罪すれば良かったんです」

 「確かに、そうだったかもしれません……。
  組織としての根幹さえ崩壊させられた私たちは、この土地を永住の地とするべく移住してきました。
  もう一度世界制服という夢を見るために。
  しかしそれは夢の藻屑になりました」

 「まぁその……その件に関してはこちらが120%悪いので何も言えなかったりします。
  ごめんなさい」

 「私の同僚がやられていく中、私はまだ希望を捨ててはいませんでした!!
  私の特殊能力、【穴掘り】を利用して地下に潜伏し、機を見計らって逆襲しようと!!」

 つまり私たちは復讐を企んでいる敵の真上で生活していたって事なんですか。
 怖いなぁ……。

 「しかしその計略も失敗に終わります。あいつらが、地下に洞窟を掘り出したから……」

 「アメリカ軍の奴らですね……」

 「ええ。彼らは最新の穴掘り機を使い、半径3キロの半球状の地下洞窟を作りやがりました。
  おかげで私は住む場所を負われ、さらに地下へと潜るはめに……」

 「半径3キロ!? そんなにこの洞窟は大きいんですか!?」

 「大きいと言えば大きいですが、小さいと言えば大きいです」

 「大きいんじゃん」

 言い方が紛らわしいわ。


 「そこで提案があるのですが……私たちと一緒にアメリカ軍と戦いませんか?」

 「え!? 一緒にですか!?」

 「ええ。私は確かにあなた達を恨んでいます。
  しかし……アメリカ軍はこの地下洞窟を使ってとんでもない事をしようとしている。
  彼らを放っておけば全世界の破滅に繋がるでしょう……」

 「全世界の破滅って……そんな大げさな」

 「いいえ千夏さん。これは大げさじゃないですよ。
  アメリカは……世界の征服を企んでるんです!!
  ペンタゴンでよくご飯を分けてくれたベネッサちゃんが教えてくれました」

 「お前、本当にペンタゴンで馴染んでただろ?」

 むしろ女神さんがスパイに思えてくるわ。



 「まあいろいろと納得のいかない部分もありますけど……
  でも私たちには選択肢を選んでいる余裕は無いのが実情ですし。
  分かりました。一緒に闘いましょう」

 「ありがとうございます!!
  これであいつらに一泡吹かせてやれますよ!!!」

 こうして、悪の秘密結社と小学生の少女とへっぽこ女神の、何とも不思議な同盟が作られてしまいました。
 うーん、シュールだ。



 「で、どうやってアメリカ軍を倒すんですか?
  ターミネーターがうろうろしてるんでしょ?」

 「えーっとですね。まずはヤリを持って大勢で追いかけまして、
  それで逃げるターミネーターを崖に追い込んで落とすという戦法を……」

 「マンモス狩りですか!?」

 石器時代の狩りの技じゃ、無理があると思うんですよね。






 8月11日 木曜日 「ジャンケンと幻聴」


 「さあ。とりあえずこれからどうしましょうか?
  私的にはやっぱりウサギさんとかを探して、戦力のUPを行なった方が良いと思うんですよね」

 「そうですね千夏さん。私たちだけじゃ心細いですもんね。
  なんて言ったって私、隠れる事ぐらいしか出来ませんから♪」

 「はっはっは。奇遇ですね女神さん。
  私も潜る事ぐらいしか出来ないんですよ」

 「おほほほほ。それでも怪人の端くれですかモグラ料理長。
  まあそんな事言ってる私もですね、突っ込みぐらいしか出来ないんですけども」

 「あはははは」

 「はっはっはっはっは」

 「おほほほほほ」


 なんて役立たずなパーティーなのか。





 さて、気を取り直しまして、私たちが置かれている状況を確認してみます。
 まずですね、私たちが居る場所は旅館チナツの地下洞窟。
 なんでも半径3キロの巨大洞窟らしいです。よくもまあこんなに穴を掘ったもんですね。

 それで、この洞窟に落ちる際に私たち一家はバラバラに。
 唯一女神さんが私の傍に居てくれましたけど……役に立つかと言われると、
 コンビニ弁当の中に入ってる、緑色のギザギザした奴程度の有効性しか無い気がします。
 軽く絶望できますね。

 モグラ料理長とかいう怪人も仲間に加わってくれましたけど……役に立つのかどうかまだ分かりません。
 私は一応空舞破天流奥義の……えーっと、長い間使ってなかったから名前忘れちゃいましたけど、
 奥義を使えるので、そうやすやすとやられはしないと思います。
 まあ所詮性的愛玩用のロボットなので、ターミネーターに勝てるわけないんですけど。


 「でもウサギさんを探すって言いましても……千夏さんはあの人がどこにいるのか分かるんですか?
 闇雲にこの洞窟内を探しても見つからないと思うんですけど」

 「それはあれですよ。えーっと、愛の絆でピキーンと閃くんです」

 「そんな便利な機能が千夏さんに備わってるとは思いませんけど。
  だってへっぽこロボットだし」

 「おい女神さん。最近出番多いからって調子乗ってるでしょ?」

 少しずつ言葉に毒が滲んでる気がする。



 「確かに闇雲に探しても仕方ないですね……。
  仲間を探している途中にターミネーターに発見されたら粛清されてしまいますし、
  フラフラと出歩くのは危険です」

 モグラ料理長まで私の意見に反対らしいです。
 確かに正論ですけど……このままここに居るわけにもいかないですし。

 「でも大丈夫です。誰かが囮になって、洞窟内にいるターミネーターたちを引き付ければいいんです!!
  その間にみなさんを探せばオールオッケー。そうでしょ?」

 「なかなかいいアイディアですねモグラ料理長!!
  さすが料理長!!」

 料理長は別に関係ないでしょうが。

 「でも……一体誰が囮になるんですか?」

 「えーっと……ジャンケンで決めますか」

 生死の境をさまよう事が決定事項な囮を、たかがジャンケンで決めてしまうだなんて……。

 「それじゃいきますよ。ジャンケーン……」

 「ちょ、待っ、心の準備が!!」

 「ポォーン!!」












 「にゃああああああああ!!!!」

 生死を分けるジャンケンより30分後。
 私は巨大な洞窟内を全力疾走していました。
 もちろん背後にはターミネーターの大群が。

 ええ。私が囮なんですよ。

 「ちくしょー!! 覚えてろよ女神ー!!!!」

 あの人が急にジャンケンなんてしだすから、力入りまくってグー出しちゃったんですよ。
 もう信じられない初歩的なジャンケン誘導術。
 それに引っかかってしまった私も情けないです。

 「ああああ!! もうダメ!! 疲れた! しんどい!
  走れない!!!!」

 ああ……こんな所でターミネーターに捕まってちょめちょめされてしまうんでしょうか。
 それは嫌だぁ。


 『諦めるでない千夏。諦めない力こそが、次へと繋がる力を生み出すのだ』

 「えー!? 脳に酸素が行ってないのか変な幻聴を聞いちゃいましたよ!?」

 『力を欲するのなら、我を掴め―――チナツよ!!』

 「いや。ノリノリの所悪いですけど、あんた誰だよ」

 『えーっとですね、少年漫画にありがちな、こう急なパワーアップする時に聞こえてくる声です』

 こんなに丁寧に自己紹介してくれるとは思わなかった。

 『とりあえずですね、パワーアップしてください』

 「無理だよ。幻聴聞いたらパワーアップって、どんな脳内麻薬の分泌しちゃってるんだよ」

 『え? なに? じゃあ私は出ただけ損ですか?』

 損ですね。
 紛れも無く。



 『はぁ……分かりました。それじゃあもう帰ります』

 「そうですか。お役に立てなくてすみませんね」

 『いえいえ。こちらこそ妙な期待させちゃってすみません』

 「じゃあさようなら」

 『ええ、さようなら』





 「…………なんだったんだ今のーーーー!!??」

 とりあえず、私はまだ走り続けています。








 8月12日 金曜日 「新たなる力 ……が欲しいなぁー」



 「にぃああああ!!」

 皆様こんにちは。
 失踪、もとい疾走中の千夏です。
 えーっとですね、私の置かれている状況を説明いたしますと、
 昨日から走りっぱなしなんですよね。
 ええ。ターミネーターに追いかけ回されまして。


 「っていうか女神さん達はどうしたんですか!?」

 予定ならもう助けてくれる時期なのに……。
 もしかしてアレですか?
 私、見捨てられちゃったりしたんですか?
 トカゲの尻尾切りなんですか?

 ……最悪だぁ。



 「ああ……もうダメ。走れません」

 黄色いTシャツ着てないのに、愛は地球を救うと信じて24時間も走れませんよ。


 「ふはははは千夏ぅ!! 今助けてやるぞぉ!!!!」

 「え? ええ!?」

 どこからともなく飛んできた黒い影が、私とターミネーター達の間に降り立ちます。
 なんてかっこいい登場の仕方でしょうか。
 ただ、私の11年の人生経験から言わせて貰いますと、
 こういう登場の仕方をする奴は変態かバカのどっちかでしかありません。



 「血も涙も無いアメリカの機械たちよ!!
  私の弟子に手を出す事は許さん!!!!」

 「あー……バカじゃなくて変態の方でしたか」

 「ちょ、千夏!?」

 黒い影の正体はおばあちゃんの弟子で、空舞破天流の継承者で、死ぬほど救いようの無い性癖の持ち主の師匠でした。
 以上、久しぶりに現れた師匠の説明終わり。


 「千夏さん? なんか、すっごい寂しさを感じたんですけど?」

 「気のせいです。さっさと私を助けなさい」

 「助けてもらう立場の人間のセリフじゃないだろ」

 いやー、親しい人間にはこういう気遣いが出来なくなっちゃうもんですね。
 怖い怖い。



 「だがしかぁし!! 断る!!」

 「師匠!? 私を助けに来たんじゃないんですか!?」

 「違いますよーだ。ただ俺は、千夏に新しい技を教えに来ただけですよー」

 「またそのパワーアップパターンかよ」

 いい加減飽きたぞそれは。
 それに、技なんて習ってる暇ないし。


 「さあ千夏!! 今こそ我が新奥義を受け取れ!!」

 「取りあえず逃げていいっすか? 師匠に敵を全部押し付けて」

 「ちょ、お願いします。受け取ってください」

 いつもながらに威厳と言うものがまったくない師匠ですね。

 「分かりましたよ……。で、その奥義ってどんなものなんですか?」

 今すぐ覚えられて、しかもターミネーターたちにちゃんと効果があるものなんでしょうね?
 全ての店が免税店になるとか、そんな主婦に優しい奥義とか要りませんからね?

 「新奥義『対戦車砲』です」

 「奥義でもなんでもないよ!!
  それはただの兵器だ!!」

 確かに習得までの時間は光速でしょうけど。
 引き金引くだけだし。

 「いや違う!! この奥義は、対戦車ライフルを空舞破天流の力で作った砲弾を使って砲撃する技なのだ!!」

 「空舞破天流の力で作った砲弾って何?」

 「えーっとその。ほら、オーラを具現化とかそういうの」

 全てに置いて曖昧な奥義だな。

 「どうやってそのオーラを砲弾にするんですか?」

 「えーっとその、愛?」

 気合でもなく、根性でもなく、よりにもよって愛なのか。
 一番戦闘に向いてない感情ですよ?




 「さあ千夏!! お前の愛で敵を滅ぼせ!!」

 「私の愛はそんなに凶悪な感情じゃありませんよ!!
  人聞きの悪い事言わないでください!!」

 気ぃ悪いわ。



 「とにかく、くらいなさい!!
  空舞破天流奥義、『対戦車ライフル』!!!!」

 もうやけくそです。とりあえず愛で撃ち出す対戦車ライフルを試してみるっきゃありません。











 まあ、愛で砲弾が作れるわけないですよね。



 「師匠のバカー!!」

 「ごめん。本当にごめん。
  お詫びに一緒に逃げてあげるから」

 いや、後ろから追ってくるターミネーターさんたちを倒してくださいよ。












 8月13日 土曜日 「お母さんのパンチ」


 「アレだね。きっとさ、愛が足りなかったんだよ。俺への愛が。
  だから失敗したんだ」

 「もし師匠の言うとおり、愛が無いゆえに奥義が失敗したというのなら、
  永遠に私は空舞破天流奥義『対戦車ライフル』を使うことができないでしょうね。
  愛が無いゆえに」

 「でもさ、一度の失敗で諦めたらダメだと思うんだ。
  だからさ、もう一度やってみようよ」

 「嫌ですよ。走るスピード落としたらターミネーターに追いつかれるじゃないですか」

 「やってみようよ。
  俺に向かって、大好きって叫んでみようよ」

 「断る」

 だからですね、私の話を聞いてください。





 昨日、しょうもない師匠から教えられた奥義を失敗した私は、相も変わらずターミネーターに追いかけられてました。
 よくそんなに長い時間走っていられるなと言いたい人も居るでしょう。
 そんな人たちには、この言葉を送ります。

 『人間、やる気になればなんでも出来る』

 素敵な言葉ですね。



 「千夏! さあ言うんだ!!
  大好きよと言いなさい!!」

 「それ以上無駄口叩いてると、殺虫剤を人に向けて使いますよ?」

 「俺はうるさい羽虫扱いかよ」

 似たようなもんですよ。




 「はぁはぁはぁ……女神さん、助けてくださいよぉ」

 もう頼りはあの人たちだけです。このまま死んでしまうのはだけは我慢ならないですよ!!
 お願い、助けて!!


 「ふはははは!! 千夏に手を出す事は許さないわよ!!」

 そう叫んだ黒い人影が、私とターミネーターたちの間に割って入ります。
 昨日も言ったとおり、こういう登場の仕方をするのはバカか変態である確率が非常に高いのです。

 「じゃーん!! 春歌ちゃんでーす♪」

 「なるほど。今度はバカの方か」

 「ちょ、千夏?」

 もうなんか助けてもらう前からテンションが下がりまくってるんですけど。


 「まいいや。溺れかけたら藁でもバカでもお母さんでも掴みますよ。
  お母さん、助けてください」

 「一気にやる気の無くなるお言葉ありがとう」

 助けてーお願いー(棒読み)


 「血も涙も無いアメリカの機械ども!! この私の主婦パンチで、冥府に突き落としてやろうぞ!!」

 「主婦のパンチでやられる兵器も可哀想だと思いますけども、頑張ってください」

 っていうか、そのパンチは強力すぎて義手を壊してしまうから、二回しか使えないでしょうが。
 キックを合わせたら4回なんでしょうけど、ターミネーターの大群を倒すのは不可能だと思います。
 ここは効率的に一発の威力で大多数を沈黙させられるように戦略を練って……。

 「主婦パーンチ+オメガ!!」

 『ドガーン!!』

 「ちょ、お母さん!? いきなりパンチですか!?」

 お母さんのパンチを受けて、私に向かってくるターミネーターの一匹が吹き飛び、金属片を飛び散らせました。
 これで恐るべきターミネーターの一匹は倒せましたけど、全然事態は解決していません。
 なんて言ったって、まだ100を超えてそうなターミネーターの大群が後ろに控えていて、
 なおかつお母さんの攻撃はあと3回しか出来ないんですから。


 「主婦パーンチ+タラコ!!」

 『ドガーン!!』

 「何をプラスしてるんですかお母さん!!」

 ってああ!! 言ってる傍から二回目の攻撃しちゃった!!
 これじゃあ私たちがボコボコにされてしまいますよ!!

 「主婦パーンチ+割引券!!」

 『ドガーン!!』

 「ちょ、お母さん?」

 「主婦パーンチ+レモン300個分のビタミン!!」

 『ドガーン!!』

 「なんでそんなに連続してパンチを……」

 「主婦パーンチ+……えーっと、えーっと、週末占い!!」

 『ドガーン!!』

 『ドガーン!!』

 『ドガーン!!』

 『ドガーン!!』





 ……本当になんで?
 一回殴ったら壊れちゃうんじゃないの?


 「ふふふ……千夏、びっくりしているようね。
  顔を見ればすぐに分かったわ」

 「まあターミネーターを蹴散らしている自分の母親を見れば誰でも口を大きく開けると思いますけど……」

 「実はね、私の両手両足の義体は、お母さんの身体の義体と換装したの。
  だからこんなにもすごい力が出せ……」

 「お母さんのお母さんって……おばあちゃんの身体を!?
  何してるんですかあなたは!! 人の死を辱めるような事して!!
  静かに眠らせてあげるのが私たち残された者の責務でしょうが!!」

 「……まあ確かにそうだけどね、私は受け継ぎたかったのよ。
  お母さんの意思も、力も、生きがいも」

 「……うぅ」

 そんな真面目な顔されたら何も言えないじゃないですか……。


 「とにかく、まあ私を信じなさいな。
  今からこいつら機械兵たちを、ばったばったとやっつけてあげるから」

 そう言ってターミネーターの大軍に突っ込んでいくお母さん。
 とりあえず戦力になる仲間が入って良かったですけど、少しだけ辛そうなお母さんを見ると素直に喜べませんでした。















過去の日記