8月14日 日曜日 「拠点への帰還」
「あ、千夏さんおかえりなさい。
生きてたんですね♪」
「うふふ♪ 大層なお出迎えありがとう女神さん♪
よくも私の事を見捨てやがったな♪」
「見捨てただなんてとんでもない!!
囮の千夏さんの顔が、『私の事なんて放っておけ!! お前たちは、先に進むんだ!!』
と熱弁していたから……」
そんな男気溢れる顔なんてしてないわ。
昨日、パワーアップしたお母さんに助けられた私は、ようやくモグラ料理長の作った拠点に帰ってくる事ができました。
こんなにも辛い作戦になるだなんて、思ってもみませんでしたよ。
「あら女神ちゃん、お久しぶりね。元気にしてた?」
「ええ春歌さん! あなたにアメリカに飛ばされても私は元気に頑張っておりました!!」
何かいろいろ苦労があったんでしょうねぇ。
別に聞きたくないけど。
「あれは旅立ちの日、私が春歌さんにタルに詰められて海に流されようとしていた時のこと……」
「だから、そういう話は聞きたくないんですってば」
…………タルっていうのがちょっと気にかかるキーワードですけども。
「でも良かったじゃないですか千夏さん。
あんなに走り回ったお陰で、春歌さんとお師匠さんに出会えたんですから」
「そういう正当化は嫌いですよ。
っていうか、そんな事言ってる女神さんたちはきちんと仲間を探し出したんでしょうね?
そうでないと私が囮になった意味がないですよ」
「もちろんですよ! バカにしないでください!!」
「なんだ、きちんと見つけてきてたんですか。
それで一体誰を探し出してきたんです?
ウサギさん? それとも加奈ちゃん? リーファちゃんは要らないなぁ……」
「ベンジャミンさんです」
「誰だよその観葉植物!?」
勝手に家族を増やすのは止めてください。
「ベンジャミンさんはですね、地下洞窟メガミ州で遭難している所を私が助けたんです。
なんでも千夏争奪戦の台湾代表だったそうなんですけど、地割れと共に洞窟に落ちてしまったんだそうです」
「だからメガミ州って勝手に地名を付けるなと言ってるでしょうに」
しかも中国代表とは別に台湾も代表を出してたんですね。
ちょっと時期的にどうかと思えるネタをありがとう。
「ベンジャミンさん、とっても可哀想でしょう?
だからウチで養ってもいいよね?」
「犬を飼うみたいなノリで言うのやめてくださいよ」
まあ一般人をターミネーターが溢れる洞窟に放っておくわけにもいかないんですけどね。
だけど、そういう頼み方はないでしょうに。
「もしかして私をあれだけの危険に晒しながら一般人1人を見つけるのがやっとだったんですか?」
「いえいえ。もちろん違いますよ。もう1人居ます」
「へー。それって誰……」
「ジャスミンさんです」
「誰だよその紅茶!?」
結局私たちの家族は、お母さんしか見つけられなかったんですか。
8月15日 月曜日 「これからの作戦」
「さて、これより対アメリカ軍作戦を話し合いたいと思います。
私は議長のモグラ料理長です。皆さんよろしく」
お母さん以外の旅館チナツチームが全然見つからないので、
仲間を集める方針から、どうやってアメリカ軍に対抗するかという方向に転換する事にしました。
また囮をさせられたら堪らなかったので、ちょうどいいと思ってたりします。
「時に千夏さん。質問があるんですけどいいですか?」
「3サイズとか聞かれても言いませんよ?」
「ぱっと見で大体分かるのでいりません」
ちょっと酷いこと言いますね、このモグラ。
「あなた、一体何をしてるんです?
さっきからカリカリと鉛筆を動かして」
「もちろん夏休みの宿題に決まってるじゃないですか。
今年の宿題は忘れたら沈められるらしいんで、放棄するわけにはいかないんですよ。
……それにしてもここって光量が足りないですね。めちゃくちゃ書きにくいんですけど」
「まあ地下ですしね。そこは我慢してください……って、会議に参加してくださいよ」
「私の命がかかってるんですよ……」
去年は無人島行ってたりしていろいろ邪魔されましたけど、
まさか今年は地下洞窟に落とされて宿題が危機に晒されるだなんて……。
私の夏休みってなんでこんなんなんだろう……?
「さて、とりあえず私たちの戦力ですが、穴を掘れる怪人と潜入工作に優れた女神とツッコミ小学生と
ロリコン武道家と傍若無人最強主婦だけです。
強いのか弱いのか分からないラインナップですね」
本当にそうですね。
みんな何かしらの欠陥を持ってますし。
「それに比べてアメリカ軍の戦力は、一部隊とターミネーターが500体あまり。
あまりにも戦力差が大きすぎます」
確かにこのままだと絶対に勝てないでしょうね。
いくらお母さんの手と足が強くなったって言っても、所詮お母さんはお母さんですし。
「しかしこの戦力差を一気にひっくり返す方法があります!!
この作戦の提案者である女神さん、詳細をお願いします」
「はい議長。私はですね、ペンタゴンに居た時にターミネーターの設計図を盗み見ました。
その設計図によると、あのターミネーターたちは独立した思考を持っているわけではなく、
互いにネットワークを構成して行動しているんです。
そのお陰でコンマ数秒の遅れも無い作戦行動が可能であり……」
「女神さーん。何を言ってるのかよく分からないんですけどー?
算数の宿題で脳みそが疲弊している私にもよく分かるようにお願いしますよ」
「つまりですね、ターミネーターたちの思考を並列化しているサーバーみたいな所があるはずなんです。
それを叩けばですね、一網打尽にできるって事なんです」
「へぇー! すごい情報じゃないですか女神さん!!
だてにペンタゴンに入り浸っていたわけじゃないですね!!」
「ちょっと千夏さん。私が図書館に入り浸っている浪人生みたいな言い方……」
「とにかく、そのターミネーター用のサーバーをぶっ潰せば、機械兵たちを無力化できるわけですね。
でも……そのサーバーってどこにあるんですか?」
「おそらく敵の本拠地でしょう。
この地下洞窟内のアメリカ軍の拠点に、きっとあるはずです」
「そこまで攻め込むのって大変じゃないですかね?
やっぱり拠点なんだから防衛もちゃんとされてると思うし」
「ええ、確かに守りは堅いと思います。
ただですね、その守りについている兵たちを陽動してやれば、きっと大丈夫です」
「え……? 陽動ってそれは……」
「ですから、これからジャンケンで囮を……」
「またそれですか!?」
囮と言う言葉にはトラウマしかないので、本当にやめてください。
8月16日 火曜日 「対スナイパー要員」
「はぁはぁはぁ…………おかーさーん。疲れましたよぉ」
「もう千夏ったら……このままのたのたしてたらケツを叩くわよ?」
「ちょ、すました顔での体罰反対」
今私たちは、広大な地下洞窟内を歩いております。
目的地はもちろんアメリカ軍の拠点。
そこにあるサーバーとやらを破壊しに進軍しているのです。
「あ〜……洞窟って風が無いから蒸し暑いですね。
このままだと蒸し殺されてしまいますよ」
「ガンバですよ千夏さん。もうすぐ目的地に着きますから」
「そのもうすぐって、一時間前から聞いてる気がするんですけどね」
「もうすぐ目的地に着きますから」
「いや、だからそれは一時間前から……」
「もうすぐ目的地に着きますから」
お前はATMか何かかよ。同じセリフばっかりです。
「あー、もうダメ! ここで休むー!!」
「もう千夏ったら相変わらず体力無いんだから」
「仕方ないですね……ひとまずここで休憩いたしましょうか?」
「そうねモグラ料理長。ここで休憩……ハッ!? あぶない!!」
「え? ッギャアアアア!!」
「モグラさん!?」
急に奇声を上げて地面に倒れ込むモグラ料理長。
何かあったのかと近付こうとする私を、お母さんが止めます。
「待ちなさい千夏! いまそのモグラ料理長に近付くと危険よ!!」
「え!? どういう事ですか!?」
「モグラさんは狙撃されたのよ!! 遠くからスナイパーに!!」
「ええ!?」
急いで近くにあった岩陰に隠れる私とお母さん。
モグラ料理長は蹲ったままで、何だか嫌な色の泡を吹いています。
生きてるみたいですけど……なんだかやばくありません?
「お母さん! モグラ料理長を助けないと!!」
「待ちなさいってば! これは罠なのよ!!」
「罠!?」
「スナイパーは第一撃目、先頭に立っていた兵士の脚を狙うの。
わざと止めを刺さないようにして、仲間が助けに来るのを待って……そして助けようとした仲間たちから順に」
「そんな……でもこのままこうしてるわけにも……」
「動いたらやられるわ。
……こんな所にスナイパーが潜んでいたなんて、ぬかったわね」
これじゃあここに足止めされてしまいますよ。
私たちにはそんな時間無いっていうのに……。
「持久戦になるわね。我慢し続けて、相手が隙を見せたときに攻め入るわよ」
「隙って……?」
「えーっと、居眠りとか」
「……スナイパーってさ、居眠りするの?」
「…………さーて、持ってきた文庫でも読もうかな」
プロのスナイパーなんですから、きっと居眠りなんてしないですよね。
……気長に待つしかないんでしょうか。
「うっわー。マジ外れだったよこの小説。
サスペンスに見せかけた百合小説かよ。なんだ、最近の流行に便乗したのか」
「なんかウチのサイト内にありそうな小説ですね……」
ちなみに書いた人はかなり前から百合が好きだったらしいですよ……。
「お母さん……まだ動いちゃダメなんですか?
あっちに横たわっているモグラさん、かなり青い顔してるんですけど?」
「助けに行っちゃうと撃たれるからね……もうちょっと我慢しないと」
「そうですか……」
このままだとモグラ料理長が死んでしまうかもしれません。
そうなる前にどうにか助ける方法を考えないと……。
「こういう待ちの戦いは大変よね。
根気が必要だから」
「どうにかならないんですか? こう、気づかれないようにスナイパーを倒すとか」
「無理でしょうね。相手はプロなのよ?
数キロ先にいるスナイパーの後ろを簡単に取れるわけ……」
「あの〜……千夏さんに春歌さん」
「あ、どうしたんですか女神さん?
その手にアメリカ軍の兵士なんて引きずっちゃって」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……その兵士って、スパイパーですよね?」
「普通に歩いて行ったら……何故か撃たれなくて……」
さすがステルス性能を常備している女神は違いますね!!
もうあなたに敵はいませんよ!!
人としてどうなのかと思うけど。
8月17日 水曜日 「洗脳された味方とか、そういう熱い展開」
昨日のスナイパーとの対峙から、おおよそ五時間。その間に4回、狙撃手たちに襲われてしまいました。
みんな何故かモグラ料理長をまず初めに狙ってました。おかげでモグラさんはかなりぐったりしてますよ。
ちなみに、全てのスナイパーは女神さんによって倒されました。
すっごいね。本当に対狙撃手用の人材ですね。
「もうそろそろ敵の要塞よ。みんな、気を抜かないように。
特に千夏は気を抜きすぎて幽体離脱しないように」
「そんな素敵な特技はありませんよお母さん。
はぁ……それにしてもかなり時間がかかっちゃいましたね。
もう闘う前からへとへとですよぉ」
「まあスナイパーに何度も狙われたから仕方ないわね。
それより心配なのは伏兵の存在だけど……」
このまま攻め込んで待ち伏せされてたら、本当に悲惨な状態になっちゃいますからね。
攻めは守りの3倍の兵力が必要って言いますし……何か戦略を立てないと。
「さて、ここで作戦名『チナツ』の説明をいたします!!」
「またチナツなのかよ!! いい加減にその使いまわしは止めなさい!!
紛らわしくて仕方ないよ!!」
「じゃあ作戦名は『荒野のチナツ作戦』に変更します」
大して変わってねぇ。
それに、私は荒野にいねぇ。
「いい? この荒野のチナツ作戦って言うのは……」
「ふははははは!! こんな所に居たのか反乱分子!!」
「だ、誰ですか!?」
突然降りかかってくる高笑い。
その声の方を見ると、仮面を被っている1人の女性の姿が。
「あ、あなたは!?」
「アメリカ軍特別迎撃隊、『X−2』!! あなた達を、倒させてもらいます!!!!」
「……っていうか、あなたって……雪女さんですよね?」
「……ち、違いますよ!! そんな事あるわけないじゃないですか!!」
すっげー動揺っぷりにびっくりですよ。
「だって声とかが同じだから……」
「……ソンナコトナイヨー。キノセイダヨー」
その無理矢理すぎる修正方法はどうにかしたほうが良いと思いますよ?
「どうしたって言うんですか雪女さん!!
なんでアメリカ軍の仲間なんかに!!」
「千夏さん……これには、とっても深い訳があるんです。
話すと3時間10分くらいの超大作になりそうなぐらい、深い理由が……」
「まあ良くわかんないけど、雪女ちゃんは私たちの敵なわけね?
じゃあさ、全力で潰しちゃうけどいいの?」
「ちょ、お義母さん!! 少しは躊躇ってくださいよ!!
こういう展開は、そういうためらいを楽しむためにあるんでしょう!?」
「まあ敵なら仕方ないですね。潰しましょう」
「女神さんまで!?」
「謝るなら今のうちですよー?」
「千夏さんも!?」
だってあなた敵なんだそうだし。
「くっ……分かってたんですよ。私には、あの家に居場所が無かったっていうことぐらい。
私の味方なんて、1人も居なかったって事ぐらい」
だからぐれてアメリカ軍の仲間になったんですか?
そんな思春期の子供みたいな事……いや、思春期の子供はアメリカ軍に入ったりしないですけど。
「そんな事ないですよ雪女さん……すっげえいじられキャラでみんなに愛されてたじゃないですか」
「それは愛されてたなんて言いません。ただ遊ばれてたんですよ」
うっわー。すっごいネガティブ思考に入っちゃってますね。
こういう思考の人は話すだけで疲れちゃいます。
「お母さんどうしよう……? 雪女さん、かなり駄目な感じになっちゃってますよ……」
「まあさ、ぶっ叩けばどうにかなるんじゃない?
とりあえず闘いましょうか?」
雪女さんをテレビみたく言わないでよ。
「さあ千夏さんにお義母さんにあとなんかモグラとロリコン武道家!!
私と闘いなさい!!」
「そんな……雪女さん、本気なんですね!?」
こうして私たちの、酷く悲しい闘いが始まりました。
「将棋で!!」
「ヘタレだ!!!!」
さすが雪女さん。
敵でも味方でも変わらない所がありますね。
8月18日 木曜日 「将棋での死闘」
「さあ!! 私と将棋で対戦する勇気のある人はどこのどいつですか!?」
「雪女さんハイテンションですね……。
っていうかさ、将棋するのに勇気も何も無いと思うんですけど?」
「この将棋で負けた人は、名前がパンプキンに強制的に書き換えられます」
「おっそろしいゲームですね!?」
ドカポンとかそういうのを思いだしますよ。
「さあ! パンプキンと呼ばれたい奴は誰ですか!!」
「千夏……あなたが行きなさい」
「ちょっとお母さん!? 私が雪女さんと戦うんですか!?」
「雪女さんは千夏の事が大好きなんだから、きっと手を抜いてくれるはずよ」
「えー? 自分で言うのもなんですけど、私は今まで雪女さんに優しく接した事なんて無いですよ?
なんかそれを逆恨みされちゃっててもおかしくないと思うんですけども」
「覚悟決めなさいってばパンプキン」
「まだその名で呼ばないでよ」
負けると決まったわけじゃないんだから。
「ふふふ……千夏さんが相手ですか。
いいでしょう。全力を出すのに持って来いの相手です」
「あの〜……勝負の前に話し合いでなんとか解決できませんかね?」
「その段階はすでに終わっているんです!!
私はもうあなた達に付き合うのに疲れたんですよ!!」
「雪女さん……」
まあ彼女の言いたい事も分かる気がします。
いつもウチの雑用ばっかりさせられてて、まるで奴隷みたいな扱いで。
これじゃあ私たちの事を嫌いになるのも当たり前っていう気になりますよ……。
「皆さんっ、ハンバーグにケチャップとウスターソースを混ぜた物をかけるし!!
そんなの耐えられません!!」
「えー!? ハンバーグのソースが寝返りの理由なの!?」
こき使われてた事はどうでも良かったんですか。
「ハンバーグはデミグラスソースでしょ!?
百歩譲っても、ただのケチャップにするべきです!!
なんですか!! ケチャップとウスターソースって!!」
「別にいいじゃないですかそのぐらい……。
我が家の個性だと思えば……」
「そんなの個性じゃありません!! 悪食ですよ!!
人間じゃありませんよ!!」
妖怪のお前に人間じゃない呼ばわりされたくないわ。
「くっ……いくら言っても分かってくれないようですねっ!!」
「雪女さんも全然分かってくれないよね」
「分かりました!! この決着は、将棋でつけましょう!!」
「まさかハンバーグの事で将棋する事になろうとは……」
ビックリ展開ですね。
当事者の私もついていけませんよ。
「これより、第一回ハンバーグ竜王戦を行ないます。
私は司会の春歌です。みなさんどうぞよろしく」
ハンバーグ竜王戦……。
「私の隣には自称プロ三段の女神さんをお呼びしております。
試合の解説の方、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします春歌さん」
「え!? プロ三段!?
それじゃあ女神さんが将棋を打てばいいじゃないですか!!」
「私、膝に爆弾を抱えてまして、正座を長い間できないんです」
あぐらかけよ。
「それでは試合開始です!!
先攻、雪女さん!!」
あーあ。とうとう始まっちゃいましたよハンバーグ竜王戦。
名前をパンプキンにされるのはごめんなので、本気で行きたいと思います。
まあ手加減できるほど将棋上手いわけじゃないんですけどね……。
「私は歩兵を守備表示で召喚!! あと伏せ駒を二枚セットしてターンエンドです」
「ちょっと待ってー!? なんかゲームが違いますよ!?」
デュエルなモンスターズの匂いがプンプンする一手目だったんですけど。
「さあどうぞ千夏さん。どんと来いです」
「来いって言われても……どういうルールなんですか」
普通の将棋だとばかり思ってたのに……これじゃどう闘えばいいんだよ。
もう適当にやっときます。
「じゃあ飛車を召喚で」
「負けたー!!!!」
「早っ!!??」
どういうルールだったんですか!!??
勝利方法はなんだったんだよ!!!!
「ううぅ……さすが私の愛した千夏さんです。
一流の将棋リストですね……」
「そんな称号は要りません」
「でも……負けを認めるわけにはいかないんです!!
だって、だってハンバーグがぁ……」
「雪女さん……ハンバーグはですね、家族みんなで美味しく食べる事ことこそが、一番素晴らしいソースだと思うんですよね」
「千夏さん……うぅ、ごめんなさい。私が間違っていました。
ケチャップ&ウスターソースがどうとか、大した問題じゃなかったんですよね。
大切なのは、誰と食べるかって事だったんですよね」
「ええ。ほんっっっっとうに大した問題じゃなかったんですよ」
「千夏さんっ!!」
「よしよし」
泣きながら抱きついてくる雪女さん。
彼女も彼女なりに反省してくれたらしいです。
良かった良かった。
「じゃあ行きましょうかパンプキンさん?」
「え……?」
いや、あなたが名前がパンプキンになるって言ってたんじゃないですか。
8月19日 金曜日 「アメリカの四天王」
「さてパンプキンさん、アメリカ軍の内情を教えてください。
一応寝返ってたんだから」
「ちょ、千夏さん。パンプキンっていうのは止めてください……」
「でも一応そういうルールだし」
「いいじゃないですかこんなルールぐらい!!
無視しちゃいましょうよ!!」
「大人とは思えない発言ですね」
さて、パンプキンさん、もとい雪女さんを仲間に入れた私たちは、
アメリカ軍の拠点の目と鼻の先まで辿り着きました。
これから攻め入る予定なんですけど、内部の様子を知っておかないと、私たち少人数の部隊ではたちまち返り討ちにあってしまいます。
だからパンプキンさん……雪女さんから情報を聞き出そうとしてるんですけど……。
「じゃあ雪女さん、アメリカ軍の人数はどれくらいでしたか?」
「えーっと……いっぱいでした」
「いっぱいってどれくらい?」
「……いっぱいです」
使えねえなぁこのカボチャ。
「じゃあさ、持っている兵器とかそういう情報を教えてくださいよ」
「えーっと、銃を持っていました」
「どんな形の?」
「……強そうなの」
「ちょっと、もう少し具体的な形状で表現してくださいよ」
「なんかこう……みょーんってした感じの」
「もういいです。雪女さんに期待した私が馬鹿でした」
「ち、千夏さん!! その、心底呆れたって感じの目はやめてください!!
そんな目で私を見ないで!!!」
「はぁ……これからどうしましょうかお母さん?」
「うーん……あっちの戦力が明らかになっていない以上、不用意に攻め込むのは危険よね」
「じゃあこっちから偵察を送り込めばいいんじゃないですかね?
ほら、女神さんがちょうどいるわけだし」
「そうね。女神さんに行ってもらいましょう。
捕まっちゃっても戦力的には大した損害にならないし」
結構酷いこと言いますねお母さん。
女神さんを送り出す事20分。
○×ゲームとかしりとりとかして時間を潰していた私たち。
なんとも暇で仕方ありません。
「そういえば雪女さんってさ、どういう経緯でアメリカ軍に寝返ったの?」
「現地のアルバイト募集という張り紙を洞窟内で拾いまして……」
「アルバイト待遇だったのかよ」
どんなつもりでアメリカ軍はそのアルバイトを私たちに差し向けたんだ。
「それでですね、千夏さんたちのハンバーグの食べ方がどうしても許せなくてあんな事を……」
「もうその話はいいですよ」
「ごめんなさい。本当に反省してます。
でも、やっぱりハンバーグにはケチャップだと思います」
どうでも良いってば。
「千夏さん千夏さん!!」
「おっ、女神さんが帰ってきた」
「びっくりどっきりすっきりな情報を手に入れましたよ!!」
「最後のすっきりがよく分かんないけど、とにかくでかしましたよ女神さん!!
よしよししてあげる!!」
「犬じゃねぇっつうんだよこんちくしょう♪
でもハッピーだから良いです!!」
「で、どんなすっきり情報なんですか!?」
「えーっとですね、衝撃情報その1!!
アメリカ軍の夕食は、牛丼!!」
「どうでもいいー!! っていうかむしろ羨ましいですね、牛丼。
さすがアメリカだから食べられるんでしょうか……」
「それでですね、衝撃情報その2!!
アメリカ軍の寝室は、ジャグジーバス完備!!」
「もっとどうでもいいー!! というより、本当に羨ましい」
ここ最近まともにお風呂に入れて居ない私たちにとっては、天国みたいな環境ですね。
殺意が湧いてきますよ。
「もういいですよ女神さん。あながた雪女さん以上に使えないスパイだということが良く分かりましたから」
「ふっふっふっふ……甘いですね千夏さん。私を雪女さんと一緒にしちゃいけませんよ」
「あ。ちょっと酷い」
「いいですか? 実はアメリカ軍にはですね、四天王と呼ばれる存在があるんです!!」
「なんだよ四天王って。なんでそんな物が軍隊の中にあるんだよ」
まあ敵が良く作りそうな役職ではありますけど。
悪の秘密結社とか悪の秘密結社とか悪の秘密結社とか。
「その四天王の情報をゲットしました。
なんとですね、その四天王は四人いるんです」
「まあ四天王だからね」
「四天王その1、類稀なる天才的な頭脳を駆使した超兵器を開発するマッドサイエンティスト!!
その名も、『ブラックスーツ渋谷』です!!」
「確かに四天王にはありがちな設定ですけど……渋谷ってなんだよ」
「四天王その2、その強靭な肉体で敵を討つ事を何よりの楽しみにしている、熱血漢で誇り高い戦士!!
その名も、『ラビット日暮里』です!!」
だから、日暮里って何なんだよ。
「その3、暗殺術を幼い頃より仕込まれた忍者で、死神の凪ぎと呼ばれる殺し屋!!
その名も、『アサシン目黒』!!」
……あれ? なんかちょっと気になる所があるんですけど……?
「その4、全てが謎に包まれた美少女!!
その名も、『ロリータ五反田』!!
以上がアメリカ軍に新設された四天王部隊で……」
「っていうかその四天王、黒服とウサギさんとリーファちゃんと加奈ちゃんの事なんじゃないの!!??」
「あ。言われて見ればそうですね」
「どういう事ですかこれは!? 雪女さんだけじゃなくて、ウサギさんたちも寝返ったって事ですか!?
そんな事っ!!」
「千夏。落ち着きなさい。まだそうと決まったわけじゃないんだから」
「でもぉ……」
「きっと皆さんも、ハンバーグの食べ方が気に入らなかったんですよ」
「まさか。雪女さんみたいなカボチャじゃあるまいし」
「ち、千夏さん……」
皆、一体どうなってしまったんでしょうか……?
心配で心配で溜まりません。
8月20日 土曜日 「潜入作戦」
「さあ! 敵側の戦力も分かったことだし、敵の基地に潜入しましょうか!」
「そうは言ったってですねお母さん。
どうやって侵入するんですか? 敵の本拠地なんだから警備が厳重だと思うんですけど」
「う〜ん……それもそうねぇ。
ねぇ、女神さん。あなたが潜入した時は、どうやって入ったの?」
「えーっとですね、正面玄関から普通に……」
真似、絶対出来ませんね。
「でも心配しないでください。こんな事もあろうかと、昨日潜入した時に、
基地のロッカーからアメリカ軍の軍服を盗んでおきましたから」
「よくやったわ女神さん!!」
「でも……絶対にばれますよね? だって女とか子どもとか怪人とかが軍服着たって目立つもんは目立ちますから」
「まあ……やるだけやってみればいいんじゃない?
人生、挑戦を忘れたらもう終わりだもの」
そうですね。
その一度の挑戦が失敗しちゃったら、多分捕まって地獄行きでしょうけどね。
リスクが高すぎる挑戦でしょうに……。
「よーし! じゃあ着替えたら敵の基地の正面玄関に集合よ!!」
「そんな遊びに行く待ち合わせみたいなノリで……」
本当に大丈夫なんですかね?
「さて皆さん。これから敵基地へ侵入することにします。
忘れ物などはございませんか?」
「危機感という一番大切な物を忘れている気がします」
「よし! それじゃあ突入しましょう!!」
本当に正面から行くんですか……。
どれだけ無謀なんだよ。
「おいお前ら!! ちょっと待て!!」
げっ、すぐに警備兵に見つかってしまったじゃないですか。
当然と言ったら当然ですけど……。
「おっ、お母さん! どうするんですか!?」
「ちょっと落ち着きなさい。慌ててるとばれちゃうでしょ」
「で、でもぉ……」
「お前ら! 合言葉を言え!!」
合言葉!? そんな物があるなんて聞いてませんよ!?
「どうしましょう……? 合言葉なんて知らないし……」
このままだと私たちが侵入者だとばれてしまいます。
「えーっと、ヒント!!」
「お母さん!? 何言ってるの!?」
合言葉のヒントをねだる奴がいますか!!
不審者っぷりが湧き出てますよ!!
「ヒントは食べ物です」
「ヒントを教えてくれた−!!??]
優しい警備兵さんで良かったですね。
基本的な部分がどこか間違ってますけど。
「食べ物かぁ……えーっと、トマト!!」
「トマトだってぇ?」
「……っぽい奴?」
おおう。さすがお母さん。上手く誤魔化しましたね。
すっげえ合言葉を分かってないと証明してる感じでしたけど。
「うん、まあ、色はあってる」
「そっかぁ……」
誘導尋問なのか良く分かりませんでしたけど、とりあえず合言葉は赤い食べ物だと言う事が分かりました。
馬鹿ですね。この警備兵。
「もしかしてリンゴ?」
「ファイナルアンサー?」
「えーっと……じゃあオーディエンスで」
オーディエンスって言っても、私たちぐらいしか聞く人いないじゃないですか。
「リンゴだと思う人手をあげてみてー」
「はーい」
お母さんの問いかけに対して手を上げたのは、
雪女さんとモグラさん。あと、警備兵さん。
……警備兵さん?
「リンゴが合言葉だー!!!!」
「正解です。どうぞお入りください」
まさか、ここまで簡単に入る事が出来ようとは……。