8月28日 日曜日 「正義のヒーロー」


 あらすじ:サメに、かじられてます。


 「ガボガボガボッ! 誰か、ガボッ助けてー!!
  ガジガジされてます!! 足、ガジガジされてるんですよ!!
  このままだと食べられちゃいます!!」

 「千夏! ガンバ!!」

 「ガンバじゃねえだろ!! 早く助けてくださいよお母さん!!」

 「う〜ん……私、泳げないのよね」

 「そ、そんなぁ!! じゃあ、雪女さん!! 助けて!!」

 「えーっとですね、私も泳げなくなりました」

 「泳げなくなりましたって何!?」

 「千夏さんが、サメにかじられている所を見たら泳げなくなりました」

 それ、ただびびってるだけじゃねえかよ。

 「リーファちゃん!!」

 「私も泳げなくなりました。たった今」

 嘘つけ!!

 「女神さん!!」

 「私、水に浸かると溶けるんですよね」

 どんな女神だそれは!!

 「師匠!!」

 「ガッツだぜ!!」

 励ますだけかよ!!

 「モグラさん!!」

 「元は敵同士だし」

 こんな時に同盟関係を破棄するな!!

 「黒服さん!!」

 「餃子に酢をかけると、結構美味かった」

 今頃改心してんじゃねえよ!!



 「ってきゃああああ!!」

 そんなこんなで、全員に突っ込んでいる隙にサメにパックンチョと食べられてしまいました。
 ガブガブと租借されず、一飲みだったのが幸いでしょうか。
 生きたまま、胃袋の中に押し込められてしまいました。

 「千夏!! おのれ!! このサメめ!!」

 助けなかったくせに啖呵の切り方は上手いですねお母さん。
 どうせなら飲み込まれる前にその勇気を見せて欲しかった。

 「おかーさーんー。助けてー」

 「千夏!? 生きてるの!?」

 「ええまあ。なんかネチョネチョしてる胃袋の中にいますけど、なんとか生きてます」

 「うっわー。キショ」

 「リーファちゃん。こっから出たら覚えてなさいよ」




 「ふはははは!!!! どうだ!!!! こいつを無事に返して欲しければ、大人しく降参しろ!!!」

 「え? ええ?」

 私のいる胃袋の中に、聞いた事の無い声が響きます。
 もしかして……サメが喋ってるの?

 「あ、あなたは誰なんですか!?」

 「俺の名前は、シャーク派遣社員だ!! 悪の秘密結社の、生き残りなり!!」

 「悪の秘密結社!?」

 モグラ料理長の他にも秘密結社の生き残りがいたんですか!!
 ……それにしたって何で私は食べられなきゃいけないんだ。


 「シャーク派遣社員!! 何故このような事をするんだ!!」

 「お前は……義兄弟の杯を交わしたモグラ料理長!?」

 うわー。変な人間関係が出来てる。

 「久しぶりじゃないかモグラ。てっきり旅館での戦いでこいつらに葬り去られたかと思ってたぞ」

 「そんな事よりも、何故お前がここにいるんだ!?」

 「何故だって? そりゃ決まってるじゃないか。
  こいつら一家を、皆殺しにするためさ!!」

 「そんな!!」

 ああ……このシャークさんは、私たちの事を恨んでるのですね。
 まあ恨まれて当然の事をしましたけども……でもやっぱりこのまま消化されるわけにはいかないですよ。

 「モグラ!! お前こそ何故こいつらと共に居る!!
  悪の秘密結社を再建するために一番邪魔な奴らの味方をするだなんて、何を考えているんだ!!」

 「何を考えているかと聞きたいのはこっちだ!!
  お前が今消化しようとしている子がアメリカ軍に渡れば、秘密結社再建どころじゃないんだぞ!?」

 「うるさい!! 俺はとにかく、こいつを美味しくいただくぞ!!」

 美味しくいただかないでください。



 「千夏お姉さま!! 大丈夫ですか!? こういった場合はですね、お腹の中から攻撃して吐き出させるんです!!」

 「すっげえ漫画ちっくな解決方法ですが、一応やってみますよ」

 「ふふふ……それは無駄だよ」

 「え!? どういう事ですか!?」

 「なんと俺はなぁ……」

 もしかしてこのシャーク派遣社員には不思議な特殊能力でもあるのでしょうか?
 例えば胃にどんな衝撃を与えても吸収しちゃうとか。

 「俺は、すっごく我慢強い子なんだぁ!!!!」

 「強がりにしか聞こえないですよ!!??」

 むしろ我慢強い子と言われると、弱いイメージがついてまわるんですけど?

 「じゃー試しに胃にパンチ!!」

 「ゴフッ。……大丈夫大丈夫」

 「ゴフって言ったじゃん今」

 何となくダメージ受けてる感じなんですけど。


 「うるさいうるさいうるさい!! 静かにしてないと、より強力な消化液を出して溶かしちまうぞ!!」

 「そ、それは嫌です!!」

 今の状態でさえ、心なしか服が溶けてきてるんですから。
 これ以上はちょっと勘弁してください。

 「みなさん!! 早く助けてください!! このままだと地味な感じに溶かされてしまいます!!」

 「ごめんね千夏。私、サメアレルギーだから触る事も出来ない……」

 言い訳のために、自分の弱点をどんどん増やしていくのはどうかと思うんですよお母さん。


 「ああ……私はこんな所で溶かされ死んでしまうんですか……」

 にしても、溶かされ死んでって語呂が悪いですね。
 ははは。そんな事気にしてるなんて、私も大物ですね。
 ……はぁ。

 「ふははははは!! どうだ!! 手も足もでまぃいいぃい!!?? ゴブガハァッ!!!!」

 突如胃の中に加わる衝撃。
 それのせいで、私は下界へと解き放たれます。
 ロマンの無い言い方をしますと、吐き出されました。

 「うっ、うわぁ!? 一体なにが……!?」

 シャーク派遣社員から吐き出された私は、何者かに抱きかかえられてプールの対岸に下ろされました。
 その私を助けてくれたであろう人の姿を見ると……。

 「大丈夫だったか千夏?」

 「あなたは……ウサギさん!?」

 証明の関係で、こちらからは逆光になっていましたけども、確かにその人はウサギさんでした。

 「お、お前は!! 我ら悪の秘密結社の天敵、破壊神ウサギか!!」

 「ちげーよ。カップケーキを作るのが何より得意なただのウサギだよ」

 ただのウサギはカップケーキつくらないと思いますけど……とにかく、私のヒーローのウサギさんが助けに来てくれました!!






 ……あれ? じゃあ四天王のラビットさんは一体誰なの?








 8月29日 月曜日 「怪人同士の友情」


 「お、お前はっ!! 破壊神ウサギか!!」

 「違う。チキンラーメンは生卵を最初に崩す派のただのウサギだよ」

 「昨日とセリフが違ってますよウサギさん」

 まあどうでも良い事ですけど。




 さて、今の今まで四天王の1人だと思っていたウサギさんが、
 何故か私をシャーク派遣社員の胃袋から助け出してくれました。
 やっぱりウサギさんは私たちの味方だったんですね!!
 私は信じてましたよ!!


 「ふふふ……まさかこんな所でお前と会えるとはな。
  願っても無い復讐のチャンスだぜ」

 「復讐ねぇ……。止めといた方が身のためだと思うけど」

 ウサギさんとシャーク派遣社員は、互いに戦闘態勢に入ります。
 間違いなく本気なのでしょう。これは、血の雨が降りそうです。

 「待つんだシャーク派遣社員!! この闘いには、何の意味も無い!!」

 「モグラ料理長!! お前、俺の邪魔をする気かぁ!!??」

 昔の友を止めようとするモグラ料理長。なんというか、こういう叫びはカッコいい物がありますよね。
 彼らの役職が、すっげえ微妙な物で無ければ。
 料理長とか派遣社員とか、大声で叫ばなくてもいいでしょうに。


 「今その人と戦っても、秘密結社のためにはならない!!
  それよりもまず、アメリカ軍を無効化する方が大切だ!!
  そうしなければ、秘密結社を再建するなんて夢のまた夢だぞ!?」

 「うるさい!! お前は、我ら秘密結社を解散に追い込んだ張本人を前にしても、牙を剥かぬと言うのかぁ!!」

 「モグラは、歯は発達してないものぉ!!!!」

 そういう事言ってるんじゃないでしょ。牙を剥くって言うのは。

 「くっ……所詮敵に寝返った裏切り者め!! お前の言葉など、私には届かん!!」

 「シャークゥ!!!!」

 「ウサギィ!! いざ、尋常に勝負!!」

 そう言い切ると、シャーク派遣社員はウサギさんに向かって飛び掛ってきました。
 ウサギさんはそれをカウンターで迎撃するつもりなのか、腰を落として正拳突きの構えをします。

 「やめろぉ!!!!」

 「モグラ料理長!?」

 シャーク派遣社員の行動を止めようとしたのか、モグラ料理長が2人の間に割って入ります。

 「モグラさん! あぶない!!」

 「うがあぁぁああ!!!!」

 2人の攻撃を身体で受け止めるモグラ料理長。
 いくらなんでも無茶しすぎです!!

 「モ、モグラァ!! お前なんでこんな事……」

 「へへへ……秘密結社内でも下っ端だったお前が、このウサギさんに勝てるわけねえだろうが……」

 「そんな事分かっているさ! だけどっ! だけどやらなくちゃいけなかったんだ!!」

 「無駄死になんてよう……しちゃいけねえんだよ。
  だってさ、俺らがいなくなっちまったら、秘密結社を再建できないだろぅ?」

 「モグラ……お前って奴はっ!!」

 「あの、モグラさん……口調が、なんか変わって……」

 「千夏っ! 今いい場面なんだからそういうツッコミしないの!!」

 そ、そういうものなんですかね?


 「おいシャークよぉ……1つ頼みがあるんだが、聞いてくれるかい?」

 「お、おお!! もちろんだとも!! 俺とお前の仲だろう? 遠慮すんなよ!!」

 「じゃあよ、この人たちの力になってくれねえかなぁ?
  この人たちならさぁ、アメリカ軍の奴らを追っ払ってくれるはずだからよぉ」

 「な、なに言ってんだよお前!! そういうのはよ、お前がやればいいだろ!?
  俺に任せなくても、別にいいじゃねえかよ!!」

 「へへへ……そりゃあお前、俺がもう無理だからに決まってるじゃねえか」

 「モグラ……? お前、何を……」

 「じゃあな。任せたぜ。シャーク派遣しゃ…………」

 「モグラ!! モグラァ!!!!」

 ゆっくりと息を引き取るモグラさん。
 ああ……不器用な友情物語を見てしまいました。





 「……」

 「ウサギさん? どこ行くんですか?」

 私たちに背を向けて歩いていってしまったウサギさんを引きとめようとします。
 でも、ウサギさんは私の方を振り向かずに言葉だけを吐き出します。

 「ごめん千夏。今は、千夏たちと一緒に居られない。
  俺には、他にやるべき事があるから」

 「ウサギさん!? 何なんですか!? その他にやるべき事って言うのは!!」

 「……今は言えない」

 「ちょ、なんですかそれ!! 一体どういう事なんですか!!」

 「でもこれだけは覚えててくれ。俺は、いつでも千夏の味方だから」

 「ウサギさん!? ウサギさーん!!!!」

 私たちを置いて去ってしまうウサギさん。
 一体、何があったと言うのでしょうか……。



 「千夏……ウサギさんにもね、いろいろ事情があるのよ」

 「お母さん……」

 「例えば、借金の返済が間に合わなくて逃げ回ってるとかね」

 「お母さんじゃあるまいし」

 「失礼な。私は闘ってるわよ。借金取りと拳で」

 「素直に金返せよ」

 ……はぁ。お母さんに突っ込んでも、気分が晴れません。
 どうなっちゃうのかなぁ、私たち。














 8月30日 火曜日 「昔話」


 モグラさんが友だちの凶行を止めるためにお亡くなりになってしまいました。
 シャークさんはずっとモグラさんの亡骸を抱きしめたままで蹲っています。
 私は私で、ウサギさんが私たちを置いていってしまった事がショックで、この場から動く気力もありませんでした。

 ターミネーターをコントロールしているサーバーを破壊しなければいけない事は
 分かってるんですが……今は、何かをしようと思えません。
 それは皆も同じみたいで、腰を上げようとするものは居ませんでした。



 「……千夏。ちょっと来なさい」

 「お母さん? ……どうしたんです?」

 「いいから、ちょっと来て」

 お母さんは私に向かって手首を上下させます。
 そのジェスチャーに従って、私はお母さんの所に歩んで行きました。

 「ほらほら。膝枕してあげるから、こっちに寝転がりなさい」

 「え……。嫌ですよ。なんで私がお母さんに膝枕なんてされなくちゃいけないんですか。
  そんな事されるぐらいだったら、獣臭いラクダのコブを枕にした方がマシ……」

 「いいから。黙って膝枕されなさい。今なら母親の愛が大安売りだから」

 「ちょ、痛い!! 無理矢理腕を引っ張らないでくださいよ!!
  こんなに痛い母親の愛は嫌っ!!」

 ぐいぐいと私を引っ張って、無理矢理膝枕するお母さん。
 さっすがですね。母性と言う物を全然感じない。


 「どう? 気持ちいい?」

 「不発弾を抱えて寝てる気分です……」

 いつ爆発するか分からなくて、全然安心出来ません。

 「っていうかなんでこんな事しだしたんですか?
  何か裏があるんでしょう? 借金のために臓器売れとか、そういう事頼みたいんでしょう?」

 「千夏はロボットになっちゃったから、臓器売れないしなぁ……」

 生身だったら売ってたのかよ。
 ……いや、売られたからロボットになっちゃったんだっけ?
 どっちにしろ酷いな。


 「千夏が元気になるようにね、昔話してあげる」

 「もう童話を話されたぐらいで元気が出る歳でも無いんですけど?」

 「むか〜しむかし、ある所におじいさんとおばあさんがいました」

 うん。その人の意見を自動スキップ機能は好感さえ持てますね。
 さっすがお母さん。

 「ある日、いつもの様におじいさんは山へ芝刈りに。おばあさんは川へ洗濯しに出かけました」

 「あー。それ、どっかで聞いたことありますね」

 絶対ピーチな人の話でしょ?

 「そうして、見事鬼たちを倒して金銀財宝を手に入れましたとさ。めでたしめでたし」

 「ちょっとお母さん!? 間がごっそり抜け落ちてるんですけど!?」

 その話だと、おじいさんとおばあさんが鬼たちを退治した感じになってるじゃないですか。
 洗濯しに出かけたおばあさんが、どうやって鬼を倒せたんだよ。
 あれか? 洗濯板を使ったのか?


 「あれ? この話嫌い?」

 「好きとか嫌いとかの問題ではないです」

 「そっかぁ……じゃあもう1つ話してあげるね」

 「はぁ……そうですか」

 「むかーしむかし。ある所に凍死するマッチ売りの少女が居ました」

 「オチ言っちゃってるよこの人」

 「マッチ売りの少女は頑張ってマッチを売ろうとしますが、街の人たちは誰も買ってくれません。
  全てのマッチを売り終わらないと家に帰れない少女は、日が沈んでからも必死になってマッチを売り続けました」

 「世知辛い世の中ですねぇ」

 そういう感想で締めてしまう小学生もどうかと思うけど。

 「冬の夜の寒さに耐え切れなくなったマッチ売りの少女は、売り物のマッチを一本擦って火をつけます。
  そう、彼女は商品に手を付けてしまったのです」

 「……お母さん?」

 「商品に手を付けた事が組織にバレた少女は、海外への逃避を試みましたが、密航船でついに組織の追っ手に見つかり……」

 「お母さん!! 何なのその話!? っていうかマッチを拝借しただけで追われるの!?」

 「『match』という名の新型麻薬だったから」

 「そんな裏社会の側面を描いた的なマッチ売りの少女はねぇ!!」

 勝手にいろいろ作らないでください。




 「はぁ……じゃあ私のお父さんのお話してあげる」

 「お母さんのお父さんって……私のおじいちゃんの事?」

 「そう。ピエール・ヒュロニモロンの話」

 「そんな絶望的な名前だったんですか。私のおじいちゃんは」

 友だちに名前を教える事が出来ないよそれ。

 「まあ冗談だけど」

 「あったり前です」

 思わず家計図から消してしまいそうな名前でしたよ。


 「おじいちゃんってどういう人だったんですか?」

 「優しい人だったわよ。たまに痛いことされたけど、それでも私を大事にしてくれていた」

 「へぇ〜……おばあちゃんとも仲良かったの?」

 「う〜ん……どうだろうね。私は、お父さんとお母さんが仲良くしてる所って見たことないから」

 「え……なんで?」

 「なんでだろねー」

 おじいちゃんの事を話してくれるって言った癖に、お母さんは私の質問を誤魔化すように顔をそむけました。
 なんか、すっごく卑怯。

 「……おじいちゃんってなんで死んじゃったの?」

 「うーんとねぇ、自分を許せなくなっちゃったからかな」

 「へ?」

 「人間っていうのは自己肯定の生きものだからね。
  ちょっと自分を許せなくなっちゃうと、簡単に壊れちゃうんだよなぁ……。
  簡単に、人生終わらしちゃうんだよなぁ……」

 「……おじいちゃん、自殺したの?」

 「まーね。自分の犯した罪を償うためにさ、生きてきた過去とかこれからくる未来とか全部否定しちゃってやんの。
  どうなんだかね。そういうの。ちゃんと生きて償えばいいのに」

 「……」

 「でもさー。私のお父さんの遺産が見つかったみたいなんだよね」

 「遺産……ですか?」

 「そう。それがさ、なんでか知らないけどターミネーターのサーバーに使われてるみたいなのよ」

 「え!? それ本当なんですか!?」

 「もち、本当。だからさ、お父さんの供養のためにも、その遺産をさっさと取り返さないとね」

 「お母さん……」

 「だから、頑張って立ち上がりましょうか?
  ぎゅっと握りこぶし作って。歯ぁ喰いしばって。真っ直ぐ立ち上がろっか」

 「……そうですね。こんな所で止まってるわけにはいかないですもんね」

 私たちにはやらなくちゃならない事があるんですよね。
 それを、すっかり忘れてました。



 「さあ皆さん!! さっさと先に進みましょう!!
  こんな所で油売ってる場合じゃないですよ!!」

 「千夏さん……ええ、そうですね!!」

 「さっさとこんな所からおさらばしましょうお姉さま!!」

 さあ、とりあえず仕切りなおしです!!






 「ご、ごめん……千夏を膝枕してたから、足が痺れて……立ち上がれない」

 「お母さん……」

 どうしてこう、一番大切な時に…………。







 8月31日 水曜日 「加奈ちゃんとの闘い」

 「ああ……今日が夏休み最後の日ですか……」

 宿題どころか、地上に出ることさえ出来そうにありません。
 うわぁ……貴重な11歳の夏を消費した感溢れまくりですよ。
 はぁ……もう学校行きたくない。

 「千夏? どうしたの?」

 「ちょっくら人生を悲観してただけです。
  別にいつもの事ですから気にしなくていいですよ」

 「人生の悲観がいつもの事って、かなり哀しい人生を送っているわね」

 その原因の何割かを占めているあなたが何を言うんですか。


 「あー!! 見てください千夏さん!!
  あれがきっとターミネーターのサーバーですよ!!」

 「え!? 本当ですか!?」

 雪女さんが指差した先には巨大な塔のような建造物がそそり立っていました。
 こんな大きい物がサーバーなんですか……。
 壊すのにかなりの手間がかかりそうですね……。


 「どうしましょうか? あれをいくらなんでもカナヅチとか地味な道具で壊すのは無理があると思うんですけど」

 「じゃじゃじゃーん!! こんな事もあろうかと、ダイナマイトを持ってきていましたー!!」

 「すごーいお母さん!! まさかお母さんが、もしもの時に備えてダイナマイトを持ち歩くような
  ぶっ飛んだ人間だったとは!! テロリストも真っ青ですね!!」

 「うふ♪ あんまし口が過ぎるようならダイナマイトでその口塞いじゃうぞ♪」

 そういうしつけはやめてください……。





 「さあ、それじゃあ皆でダイナマイトを仕掛けて……」

 「ダメー!! ここ、壊しちゃダメなのー!!」

 「え!?」

 突然塔の形をしたサーバーから聞こえてくる少女の声。
それはとても懐かしい声でした。

 「加奈ちゃん!?」

 「あっ! ママだー♪」

 「なんで加奈ちゃんがこんな所に!?」

 「えーっとね、知ってんのーになったんだよ♪ すごいでしょ?」

 「『知ってんのー』じゃなくて『四天王』ね。
  って、突っ込んでる場合じゃなくて、加奈ちゃんが四天王!?」

 なんて事でしょうか。
 加奈ちゃんまで私たちの敵として現れてしまうだなんて……。

 「か、加奈ちゃん! なんでアメリカ軍の仲間になっちゃったの!?
  ママの事、嫌いになっちゃったの!?」

 「えーっとねぇ、美味しいアイスくれたからー♪」

 母親への愛は敵のアイスに負けたんですか。
 子育ての自身ががっつり無くなったわ。



 「千夏……例え相手が加奈ちゃんであっても、私たちは闘わなければいけないわ。
  あの塔を壊さないと、戦力的に不利だもの」

 「わ、分かってますけど、相手は加奈ちゃんですよ!?
  いくらなんでも本気で闘うわけには……」

 「ママー! 勝負だ!!」

 「うわー! 加奈ちゃんはノリノリだし!!」

 こんな事なら、もっと他人と喧嘩しちゃダメですよって言っておくべきでしたね。


 「勝負の方法はねー。うーんと、ドミノ倒しー♪」

 「ドミノ倒し!?」

 「10時間で一番大きなドミノを作った方が勝ちなのー♪」

 「地味っ!! そしてキツイッ!!」

 10時間って……どこのテレビの企画なんですか。
 死ぬほど疲れますよ。

 「か、加奈ちゃん……他の対決方法にしない?」

 「えー? うん、まあいいけど……」

 さすがに10時間も作業するのはちょっとね……。

 「じゃあねー。ドラクエ8の低レベルクリアー♪」

 「もっと時間かかるよ!! しかも、辛さも倍増!!」

 尚且つ地味です。
 ゲーマーぐらいしかやらないし。

 「もっとやりやすい対決方法にしてよ加奈ちゃん……」

 「うーん……じゃあさ、ママが決めてー♪」

 「私が決めていいんですか?」

 「うん♪」

 よっしゃ! これで私に都合の良い対決方法にすれば、楽々加奈ちゃんを負かす事ができます!!

 「えーっと、それじゃあねぇ…………」

 私が得意な物。私が得意な物……。

 「私の得意な物……特に思いあたらねぇー!!」

 何てことでしょうか。
 溢れてやまない個性を持っていると思っていた私には、全然得意と呼べるジャンルがありませんでした。
 うっわぁ……どうしよ。


 「えーっとですねぇ……それじゃあ、アンテナ対決しましょうか?」

 「アンテナ対決ー?」

 「そうです。頭に付いてるアンテナの素晴らしさを競う対決です」

 「でも加奈はアンテナ付いてないよー?」

 「じゃあ加奈ちゃんの不戦敗で」

 すっげえセコイ事言ってるよ私……。
 加奈ちゃんの教育上どうなんでしょうか……。

 「そっかぁ……じゃあ仕方ないね」

 「それでいいの!?」

 加奈ちゃん。
 純粋なのは良いですけど、将来騙されないように気をつけてくださいね。







 9月1日 木曜日 「ダルマ爆破」

 さよなら8月。こんにちは新学期。
 私はまだ地下洞窟内でさ迷っていて、それどころじゃないですけどね。
 あはははは…………はぁ。


 「さあ千夏!! 加奈ちゃんも仲間に入った事だし、さっさとこのサーバーを爆破しましょう!!」

 「え、あ、はい。分かりましたお母さん」

 そうですよ。今は鬱になっている場合じゃないんです。
 目の前にある、この塔の形をしたサーバーを壊さないと!!

 「で……爆弾はどこに仕掛けるんですか?
  ほら、良く爆破とかは決まった所に最低限仕掛ければ上手く壊せるって聞きますし……」

 「えーっとね、そういうの計算するのめんどくさいから、至る所にダイナマイト仕掛けましょう。
  力ずくでやればなんとかなるでしょ」

 「びっくりするぐらいの力押しですね。
  もうちょっと頭使おうと努力しようよ」

 でかい大砲を積んでいれば強い戦艦みたいな考え方ですね……。



 「さあみんな!! 手分けしてダイナマイトを設置するわよ!!
  ノルマは1人100本!!」

 「うわー。本当に力任せなんですね。繊細さの欠片も見当たらない」

 「はい。これは千夏の分のダイナマイト」

 「うわっ、重……。
  そうだ、加奈ちゃんの分もくださいよ。
  あんなちっさい子にダイナマイトなんて危険な代物持たせるわけにはいかないですし」

 「うーん。それもそうね。
  じゃあ加奈ちゃんの分もあげる」

 「うあ!? さらに重い!!」

 「オマケで50本ぐらい付けてあげたから♪」

 「そ、そんなニトログリセリンにまみれたサービスはいりません……」

 皆の2.5倍仕事しなくちゃいけないのかよ……。








 とりあえず私たちは塔の中に入ってダイナマイトを設置していきました。
 一斉に爆発させるためには導火線の調整とかそういうのが必要だと思うとお母さんに言ったら、
 いいから先にセットしなさいと言われちゃいました。
 どこまで適当にすれば気が済むのか……。

 「はぁ……これで52本目ですね」

 さっきから目に付く壁にペタペタ貼り付けてますけど、一向にダイナマイトが減ってる気がしません。
 ……こうなったら一箇所に残りのダイナマイトを置いちゃいましょうかね?


 『ドガーン!!』

 「うっわぁ!? なんですか!?」

 急に塔全体に激しい振動が起こり、爆発音のような物が鳴り響きます。
 あまりの衝撃に、私は尻餅をついてしまいました。

 「いたたたた……」

 「千夏ー! だいじょーぶー?」

 塔の外からお母さんの大声が聞こえてきました。
 私はお尻を押さえながら、塔に付けられていた窓から外を見ます。
 お母さんは塔の外に居て、私に居る所からはとってもちっちゃく見えました。

 「お、お母さん……? 今の、一体なんですかー?」

 「ごめんねー! 間違ってさぁ、一階のダイナマイト爆発させちゃったんだよねー」

 「ちょ、何してるんですか!!」

 「それでさぁ、その影響で他の階のダイナマイトにも火が付いちゃったみたいなんだよね。
  だから、上に逃げた方がいいと思うよ?」

 「ええ!? なんですって!?」

 なんで重要かつ恐ろしい事をさらりと言ってのけてるんですか。
 これは何かの悪夢……?

 「と、とにかく逃げなくちゃ!!」

 私は持っていたダイナマイトを放り投げて、下の階へと通ずる階段へと向かいます。
 すると……

 『ドガーン!!』

 「うっわぁ!?」

 下の階から響く激震。なんてことでしょうか。下の階から順々に火が付いていってるみたいです。
 これじゃあ下に下りることが出来ないじゃないですか!!

 「千夏ー。なんかさぁ、二階が吹っ飛んじゃったみたいよー?」

 「のん気な声でそんな事言うなぁ!!」

 すっげぇムカつくわ。

 「そ、そうだ! 上に行けばっ!!」

 私は爆発から逃れるために、上の階へと移動します。

 『ドガーン!!』

 「ま、またですか!?」

 「千夏ー。今度は三階部分が……」

 「ちくしょー!!」

 なんかこれ、ダルマ落としみたいな感じになってますね。
 下の階から吹き飛ばされていく所が。
 まさかダルマの気持ちを知ることになろうとは……思ってもみませんでした。
 今度からダルマ落としする時は、出来るだけ優しくしてあげようと思います。



 「はぁはぁはぁ…………ここが、最上階ですよね」

 ふらふらになりながら、私はなんとか塔の最上階に辿り着きます。
 床に倒れこむと、すぐ下の階が爆破されてしまいました。

 『ドガーン!!』

 「うわぁぁああぁぁ…………もう駄目かも……」

 覚悟を決めて目を閉じます。
 これからくるであろう爆発に備えた物でしたが……それは杞憂に終わりました。

 「……あれ? 爆発しない?」

 多分、ここにはダイナマイトが設置されていなくて、火が付かなかったんでしょうね。

 「やったぁ!! 助かったぁ!!」

 さすが私!! 悪運だけは強い人間!!
 あはははは!! どんなもんですか!!

 「あはははは…………」

 「お帰りなさい千夏」

 地上に居たはずのお母さんが、塔の窓から顔を出してました。
 これはあれですね。下の階がダルマ落としな感じで吹っ飛んじゃったから、
 この最上階が地面に付いた感じになっちゃったんでしょうね。

 「お母さん……ただいま」

 突っ込みたいとか殴りたいとか怒りたいとか、いろいろありますけど……なんかもうどうでも良くなっちゃいました。





 「あら。思ったより元気そうね」

 「やっぱ殴っていい?」

 前言撤回。






 9月2日 金曜日 「ラビット日暮里参上」

 ターミネーターのサーバーを破壊した私たち。
 これで、基地の外にいるターミネーター達は機能を停止させたはずです。
 それだけで有利になったとは言えませんが、敵の戦力を大幅に割く事ができました。

 「よし! これで面倒な敵は居なくなったわ。
  あとはただの兵士だけよ」

 「ただのっていうか、普通の兵士でも結構強いと思うんですけどね」

 戦闘の訓練を行なってきた人たちなんだから、普通の人たちよりずっと強いですよ。

 「ふっふっふっふ……私たちを舐めないでよ。
  普通の兵士なんて、私にとっては将棋の歩兵よりも弱いわ!!」

 「そんな戦況によってはかなり優位度が変わる物で例えられても……」

 裏返ったら金と同じですもの。



 「まあとにかくこの勢いでアメリカ軍をやっつけていけば、
  この闘いもすぐに終わる……」

 「そこまでだお前たち!! もう好き勝手はさせん!!」

 「っ!?」

 塔(もう今では一階しかない建物ですけど)の外から大声がします。
 なんかかなり怒ってる感じなんですけど?

 「お、お母さん。あれって……」

 「多分アメリカ軍の人たちね……。囲まれちゃったみたい」

 「それにしてもすごく怒ってますね」

 「まああれだけ派手に壊したらね……。もう千夏。どうしてくれるのよ」

 私の所為にしないでくださいよ。
 塔を爆破したのはお母さんが悪いんだから。


 「どうしましょう……。謝っても許してくれないですよね?」

 「謝って許してくれるんなら警察なんて要らないものね」

 「でも示談に持っていく事は……」

 「無理よね。絶対に」

 うわぁ……闘うしかないって事ですか。


 「今日こそお前たちの息の根を止めてやる!!
  行け!! 最後の四天王、ラビット関根!!」

 関根勤さんになってますよそれ。
 ラビットは日暮里じゃなかったのかよ。

 「くっ! ついに最後の四天王が私たちの目の前に……。
  みんなっ! 気をつけて!!」

 「ラビットって……ウサギさんじゃないって言うのなら一体誰なのかな?」

 私は見知らぬ人なんでしょうか?


 「わはははは!! 私があなた達をニッポリします!!」

 意味分かんない事行って登場してきたラビット日暮里は、
 どこかで聞いた覚えのある声をしてました。

 「…………っていうか、子ども?」

 私たちの居る塔(じゃなくてもうかまくらみたいな感じになってますけど)に歩いてくる人物は、
 どこをどう見たってただの小さな女の子でした。
 多分、加奈ちゃんと同い年ぐらいじゃないでしょうか。

 「誰? 千夏は知ってる?」

 「私の知り合いには人をニッポリしてしまうような人は居ませんよ。
  まあ声はどこかで聞いたことあるんですけど……」

 「ふふふふ……この前はお世話になったなお嬢ちゃん」

 「え? この前って……?」

 「俺を、鉄の扉から出してくれなかったじゃないか。
  もう忘れてしまったのかい?」

 「あああ!! いつぞやの大妖怪!!」

 何となくですけど、その日付を思いついたのは本当にただの勘ですけど。
 6月8日の日記とかに……何かあったような気がしないでもないんですよね。
 ほんと、なんとなくですけど。

 「確かあなたは悪の秘密結社の最終兵器で……消費者金融に気軽な気持ちで手を出して首が回らなくなっている大妖怪!!
  封印が解かれたんですか!?」

 「さらった妙な設定を付け加えるな!! 俺はこつこつお金を貯めるタイプなんだよ!!」

 最終兵器の癖に堅実だな。

 「ふふふ……俺はこいつらアメリカ軍によって封印を解かれたのさ。
  だから自由にしてくれたお礼によぉ、お前たちをニッポリしちまおうと思ってな」

 「ニッポリがいまいち分かりませんけど、あなたがとても凶悪な妖怪だと言う事は理解できました。
  それにしても……女の子の格好をしているのは趣味ですか?」

 「ふははは!! 俺はなぁ、見る人によって姿形が違うのだよ!!
  お前にとっては私は少女の姿に見えるかもしれないが、見る人によっては東京タワーの姿にもなっているのだ!!」

 「それってどういう基準でそうなってるんですか」

 「その人が見ていて一番警戒しない姿に映るのさ。
  こうやって安心させた所をずばっとやるのが俺の戦法だからな」

 最終兵器の癖に姑息な戦術使いますね。


 「くっ……本当ね。私にはあの妖怪がダムに見えるわ」

 「お母さんってさ、ダムを見ると落ち着く人なんだ……?」

 本当にどうでもいいですけどね。

 「とにかく逃げましょう!! あいつ、何となくバカっぽく見えるけど、秘めた力は恐ろしい物があるわ!!
  このまま正面突破は無理かもしれない!!」

 「でもっ! お母さんの手足はおばあちゃんの物なんでしょう?
  こうドカーンとやっちまえないんですか!?」

 「無理無理。疲れるし」

 もうちょっと努力の読み取れる退却理由にして欲しかった。



 「みなさん!! こっちに地下に通じる入り口を見つけましたよ!!」

 女神さんが逃げ口を見つけてくれたようです。
 私たちの迷っている暇はありません。
 どこに通じているか分かりませんが、とにかく行ってみましょう!!

 「さあみんな! 生きてここから逃げ出すわよ!!」

 「「「おーっ!!」」」

 逃げる時だけ、何故かチームワークが良くなる私たち。
 ……この負け犬根性はどうにかしないといけませんよ。








 9月3日 土曜日 「どこぞにワープ」


 大妖怪から逃げるために塔の地下通路に入った私たち。
 狭い通路に身体を擦りながらも、何とか広い部屋のような場所へと出る事が出来ました。

 「はぁ……結構長い通路だったわね。
  敵もここまで来るのは一苦労でしょ」

 「でもお母さん……ここって行き止まりですよね?
  このままだと追い詰められてしまうんじゃ……」

 「う〜ん……きっとどこかに隠し通路があるはずよ。
  それを探しましょう?」

 「隠し通路って、なんでそんなものがあるって分かるんですか?」

 「なんとなく、こういう所にはあるもんだと思って」

 そんなRPG的な思考はやめてください。

 「さあみんな! 手分けしてここから脱出する方法を探しましょう!!
  見つからなかったら篭城作戦しかないわよ!!」

 篭城作戦だけはごめんこうむりますね。
 あれはただの時間稼ぎでしかないですし。




 「はぁ……隠し通路って言ってもそんな都合の良い物は……」

 『ガコッ』

 「……」

 私が手を触れた壁がですね、綺麗に凹んでくれたんですけど?
 これって間違いなく何かありますよね?
 ……お母さんの勘もバカにならないかもしれません。

 「お母さん!! 見て見て!! 壁が凹んだ!!」


 「へーすごいすごい。でもね千夏? 今はあなたの力自慢を聞いてる場合じゃない……」

 「違う! 力自慢じゃない!! この壁はハリボテなんですよ!! 向こう側に何かあるんですってば!!」

 「なんですって!? なんでそういう事は早く言わないの!?」

 うっわー。そういう言い方、すっげぇムカつく。



 お母さんの言い方に腹を立てながらも、私はハリボテであろう壁をべりべりと剥がしました。
 そこにはやはりというかなんというか、小さな穴がぽっかりと開いていました。
 多分、どこかに繋がってるんでしょう。ほんの僅かですが、穴の向こうから風を感じます。

 「ちょっとこれは小さいですね……」

 「うーん、まずは千夏が先に入ってみて?
  それでさ、外に繋がっていたなら私たちも後に続くから」

 「えー!? なんで私が!? 何か危険な事があったらどうするんですか!!」

 「そん時はドンマイ」

 「ドンマイじゃ済まないよ!!」

 「それじゃ行ってらっしゃーい」

 「なんだか嫌な事を押し付けられてる気が……」







 穴へ侵入する事3分。もう早くもしんどくなってきました。
 多分、酸素が少ないんだと思います。
 穴の中で窒息死って言うのはちょっと嫌だなぁ……。

 「はぁはぁはぁ……もう駄目かも。帰りたい」

 まあ帰っても狭い密室があるだけなんですけどね。
 はぁ……こういう時にモグラ料理長が居てくれたら脱出路をポポイと掘ってくれそうなのに。
 なんで死んでしまったんですかぁ……。



 「あ!! 穴の先に光が!?」

 軽く絶望していた私の前に、一筋の光が現れます。
 それは穴の終わりを示す物で、希望への道筋でした。

 「やったぁ!! 外に出られるんだ!!」

 まるで水を得た魚の様に元気になって、穴を爆進します。
 これで、私たちは救われるんだ!! そういう希望が、確かに私の心の中にあったのです。

 「いぇーい!! これで外に出られ……たぁ?」

 穴から抜け出た私の前に広がる風景は、モンゴルだとかそんな感じみたいな草原。
 地平線がとても綺麗に見えています。空も青くて綺麗ですね。
 ……なんで、地下洞窟の穴を抜けたら大空の草原に出るのですか?
 どういう空間湾曲?


 「ここは一体……? っていうか日本なの?」

 「うがー!!」

 「うが!?」

 変な叫び声がした方を見ると……そこには何と言うか、原始人っぽい人が居ました。
 いや、冗談じゃなくてですね、本当に原始人っぽいんですよ。

 「オレサマ、オマエ、マルカジリ」

 「う、うわぁ!? なんかヤバイ感じ!?」

 もしかして大変な所に迷い込んでしまったのでしょうか?



 …………で、なんで女神転生?











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