9月4日 日曜日 「タイムスリップ」

 あらすじ:原始人と出会った〜(ウルルン滞在記風)


 「いや〜、ホントびっくりしましたわぁ〜。
  なんつったって、穴から急に女の子出て来るんですもん。
  そら驚くなっていう方が無理ですよねぇ〜?」

 「えーっと原始人さん。昨日から知的レベルがUPしまくってるのは気のせいですか?」

 マルカジリだとか言ってた人間と同一人物だとは思えないぐらいの口の達者ぶりですね。
 1日で大脳新皮質を進化させるなよ。

 「お嬢さん、どっから来たんです? わての集落では見たこと無い格好してはりますけど?」

 「みょーな方言が混ざってきたのが気になりますね……。まあいいです。
  えっとですね……私は西暦2015年の日本から来たんです。
  って言っても分かりませんか」

 「あー。東京ね。いい所ですよねあそこは。時代の最先端っていうか」

 「行った事あるの!?」

 どういう事!? もしかしてここは原始時代っぽいけど、本当は私たちが生きていた時代と同じなんですか!?

 「行った事はないですけどね、知ってるんですよ」

 「はぁ? 一体どういう事ですか?」

 「ネットで検索して」

 「インターネットがここにあるの!?」

 ますます時代設定がわからねー!!!!


 「それにしてもお嬢さんの服はボロボロですね」

 「え? ええ、そうですね。アメリカ軍と闘ったり逃げたりしてたから……自然とこうなっちゃいましたよ」

 お風呂に入ったり洗濯したりする機会も限られてましたしね。
 そりゃあ汚れてボロボロになりもしますよ。

 「まあとりあえずウチの集落にお越しください。
  綺麗な召し物と温かい食べ物をお出ししますので」

 「本当ですか!? ありがとうございます!!」

 いやー。なんて優しい原始人さんなんでしょうか。
 原始人も捨てたもんじゃないですね。やっぱり都会の人とは優しさが違いますね。






 「ここが私の集落です。どうぞおくつろぎくださいな」

 「うっわー!! なんかすっごい立派な所ですねぇ!!」

 私が原始人に案内された集落は、私が想像していた縦穴式住居の物ではなく、
 石造りの家が建ち並ぶ、街のような場所でした。
 まだ水道とかは整備されてはいなさそうですけど……それでも文明レベルは凄そうです。

 「本当にすごいですねぇ……」

 「そうでしょう? ここら辺にいる一族の中でも、私たちはトップクラスの技術を持ってるんですよ。
  ほら、あそこの家が私の家です。とても立派でしょう?」

 「ええ! 本当にすごいですね!!」

 あそこならゆっくり休めそうですね。
 あ……お母さんとかも呼ぶべきでしたよね。
 まあいっか。私が帰ってこなければ探しに来るでしょう。

 「あれ……? あそこの建物はなんなんですか?
  さっきからやけに人が出入りしてるんですけど?」

 「ああ、あそこですか? コンビニですよ」

 「コンビニ!?」

 ますますわけわかんない世界ですね。
 コンビニを利用している原始人ってなんなんだ。


 「入ってみます? 少年ジャンプが早売りされてるかもしれませんよ?」

 「ちょっと待て。ここって現代の日本だろ?
  日光原始時代村とか、そういった感じの観光村なんでしょ!?」

 そうとしか思えない。






 「あっれー? ゲンさんじゃないの!! どうしたの?
  そんな若い子連れて?」

 私が原始人さんの家に連れて行ってもらおうとしていると、
 見知らぬ女性がこちらに話しかけてきました。
 確かに初めてあったはずなんですが……何故か懐かしさみたいな物を感じてしまいました。
 なんていうか、お母さんっぽいっていうか。

 ……勘違いしないで欲しいんですけど、ここで言うお母さんっぽいっていうのは、
 ウチの春歌みたいな傍若無人で破天荒で破壊神な人間を指しているわけじゃございません。
 母性に溢れた優しそうな女性の事を言ってるんです。

 「ああ、アミカさんじゃないですか。
  いやね、この子は道に迷ってたみたいだったんで助けてあげたんですよ」

 「へぇー。そうなんですかぁ」

 アミカさんと言うらしい女性が、私の顔を覗き込みます。
 なんだか彼女に見つめられるととても気恥ずかしくなっちゃいました。

 「私んとこのハルカと同い年ぐらいかなぁ? 君の名前は?」

 「千夏です……って、ハルカ!?」

 「うん。ウチにも娘が居るんだよねー。
  もし良かったらさ、あの子と遊んでやって。ハルカには同年代の友だち居ないんだよね」

 ハルカってもしかして……。

 「あの〜、ゲンさん? つかぬ事をお聞きしますが、ここの一族の名前って……」

 「ん? アウグムビッシュム族だけどどうかした?」

 「なんですって!?」

 アウグムビッシュム族が一族としてなりたっているって事は……
 私、本当にタイムスリップしちゃったんですか!?







 9月5日 月曜日 「小さいお母さん」

 旅館の地下にあった洞窟のアメリカ軍の兵器をコントロールしているサーバーに開いていた穴を通って原始時代に来た私。
 ……文字にしてみると大冒険に次ぐ大冒険ですね。
 まったくもって自らは望んでいない展開なのですが。

 とにかく、今私は原始時代で出会ったゲンさんの家にお世話になっています。
 ゲンさんの家は石造りの物でしたが、予想に反して中身はかなり居心地のいい空間になっていました。
 なんていうか……ジャグジーバスが付いていたし。
 ……やっぱりここって現代なんじゃ?



 「ふ〜……ごちそうさまですゲンさん!! この料理、とっても美味しかったです!!」

 「いやぁ、そう言ってもらえて光栄だよ」

 「でもちょっと気になったんですけど……この料理に使われていたお肉って、かなり貴重な物だったんじゃ?
  それを私なんかに食べさせちゃっても良かったんですか?」

 原始時代の肉と言えば、私たちが生きている時代と違って簡単に入手する事なんてできないはずです。
 料理を残さず食べた後に言うのもおかしいですけど、ちょっと気になってしまいます。

 「ああ、大丈夫だよ。この集落では家畜を飼ってるから」

 「家畜まで居るんですか!?」

 う〜ん……本当に文明レベルが高すぎですね。
 なんだかちょっと不自然にさえ思えてしまいます。

 「えっと、それじゃあ私はこの集落を見て回ってきてもいいですか?
  ちょっと興味があるんで」

 「どうぞどうぞ。……ああ、そうだ。アミカさんちのハルカちゃんの所に遊びに行くといいよ。
  お嬢さんときっと友だちになれると思うから」

 「あ、はい……。そのハルカさんって、友だち居ないんですか?
  もしかしてこの集落には子どもが少ないとか?」

 「いや、そういう訳じゃないんだけど……なんていうか、彼女はよそ者だからね。
  どうしても他の者たちと距離が出来てしまったんだ。
  それに彼女、ちょっと大きな怪我もして……」

 「怪我、ですか?」

 「ああ。両手両足を……。
  まあそんな事はどうでも良いとして、ハルカちゃんの所に行っておいで。
  根は良い子だから、何の心配もないよ」

 やっぱりこのハルカっていう子は、私のお母さんと同一人物なんでしょうか?
 でもそうなるとお母さんは原始時代の人間って事に……。






 考えても仕方ないので、そのハルカちゃんの家に行ってみました。
 家に訪ねてきた私を出迎えてくれたのは、昨日あったアミカさん。
 もしかしてこの人は私のおばあちゃんという事になるのでしょうか?
 でも全然姿が違うし……。

 「あらー♪ 千夏ちゃん、来てくれたのね?」

 「あ、えーっと、お邪魔します」

 「どうぞどうぞ。やぁー、嬉しいわぁ。こんな風にお客さまを歓迎するの久しぶりだから」

 「そうなんですか?」

 「ええ。なんかね、ウチには人が寄り付かなくなっちゃって……。
  そうだ! 柿ピー食べる? おやつにぴったしよね♪」

 「ちょ、なんで柿ピーが存在してるんですか!?」

 「なんでって……柿ピーが無かったら、お酒のつまみはどうすればいいのよ?」

 「知らないよそれは」

 相変わらず予想の斜め上を行く時代設定だなぁ……。
 ますます訳わかんなくなっちゃいましたよ。


 「あ、そうだ。ウチのハルカを紹介するわね♪
  もーっ、すっごく可愛い子なんだから♪ あはっ♪ ちょっと親バカだったかも♪」

 「あはは……」

 このテンションは……私のおばあちゃんには思えませんね。
 やっぱり人違いでしょうか。

 「ハルカー!! ちょっとこっち来てー!!」

 アミカさんがハルカちゃんを呼びます。
 いやー。なんかドキドキしますね。
 本当に私のお母さんだったらどうしよう?


 「ガンプラの塗装してるから行けないー!!」

 「ガンプラ!?」

 ハルカちゃんの部屋から聞こえてきたのは衝撃的な拒絶の言葉。
 ガンプラってどういう事ですか……。しかも塗装って……結構マニアック?

 「もうハルカちゃんってば!! お友だちになりたいって子が来てくれたのよ!?」

 「ちょっと待たしといてよー! これでドム三体目なんだからぁ!!」

 「黒い三連星ですか!?」

 本当にマニアっぽいぞ。ガンダムSEEDとか見ると怒りそうな人ですね。



 「ごめんねぇ千夏ちゃん。ハルカったらマイペースって言うかわが道を行くっていうか……」

 「あはは……別に気にしてませんよ」

 お母さんで慣れてるし。



 「あっ、そうだ!! 今日はここに泊まっていって♪
  大歓迎しちゃうから♪」

 「あ、はい。お願いします」

 ここに宿泊すれば、この時代の不可思議な事が少しは分かるかもしれません。
 その不思議を解明しなければいけないような気がするんです。







 「うがーっ!! デカールうぜぇ!!!!」

 「……」

 ハルカちゃんが部屋から出てくるのはまだ先になりそうです。








 9月6日 火曜日 「引き篭もりの理由」


 昨日、アミカさんちに泊まった私。
 お母さんモドキ(ハルカちゃん)に会えるかと思ったんですけど、
 夕食時になっても就寝時になっても全然部屋から出てくる様子はありませんでした。
 きっとまだガンプラ作ってるんでしょう。
 ……どんな原始人だよ。


 「ふわぁ……おはようございます」

 「あ、おはよー千夏ちゃん♪ 朝ご飯たべるー?」

 「あ、食べます」

 「はいわかりましたー。それじゃあちょっと待っててね。
  今から作ってあげるから」

 「はい分かりました。
  えっとそれじゃあ……顔洗ってきますね」

 相変わらずアミカさんはハイテンションでした。
 普段からこういう人なのか、それともよっぽどハルカちゃんの友だちになってくれそうな
 私が来てくれた事が嬉しいのか分かりませんが、とにかくハッピーそうです。
 ……ますますおばあちゃんとは似ても似つきませんね。




 「えーっと、洗面所はどこかな……」

 私が洗面所を探していると、廊下をフラフラと歩いている1人の少女の後姿が見えました。
 私と同い年ぐらいの彼女は……ハルカちゃん!?

 「ちょ、そこのあなた!!」

 「っ!? ってああ!!!!」

 私の声に驚いたのか、ハルカちゃんは思いっきり転んでしまいました。
 その転び方は、吉本新喜劇もびっくりな美しいフォーム。
 惚れ惚れする転倒の仕方ですね。もんのすごく笑えますけど。

 「ううぅぅ……いったぁ」

 「だ、大丈夫ですか!?」

 「んだよお前!! あれか!? テロリズムか!?」

 「なに訳の分からない事を言ってるんですか」

 よっぽどコケた所を見られた事が恥ずかしいのか、ハルカちゃんは顔を紅くしてわめき散らしていました。
 まあ気持ちは分からんでもないですが……私はテロリストじゃないですよ。


 「……っていうか、あんた誰?」

 「え、え〜っとですね……千夏って言います。
  どうぞよろしく」

 「へぇ〜……ウチに何しに来たの?」

 「別に何かをしに来たわけじゃないですけど……えっと、強いて言えばあなたに会いに」

 「私に会いに? あーそっか。あれか? 最近流行りのストーカーか?」

 「原始時代でもストーカーが流行りだったんですね。
  初めて聞いたよその歴史的事実」

 「いくら私が美しいからってさぁ、なにも家にまで押しかけなくてもいいのに……」

 「違うっての。何で私がストーカーなんてしなくちゃいけないんですが。
  ただ、あなたに会っていろいろ話を聞きたかったんですよ」

 「話? 話って何の話?」

 「えーっとそれは……まあいろいろと」

 いくらなんでもあなたはお母さんですかって聞くわけにはいきませんよね。
 頭がおかしい子だと思われちゃいますし。

 「まあいいや。手ぇ貸して。起き上がるから」

 「あ、はい」

 私の差し出した手を握るハルカちゃん。
 私はその手を引っ張って、彼女を起き上がらせました。
 なんていうか、思ったより重い子です。


 「はぁーしんど。この足、かなり歩くのが難しいんだよねー。
  まだ全然慣れないや」

 「あ……やっぱり義足だったんだ」

 「あれ? 他の人たちから聞いてた?」

 「ええまあ……そんな所です」

 「そっか……あの人たちの言ってる事、あまり気にしないでね」

 「言ってる事って?」

 「悪魔だとか堕ち神だとか、そう言ってる事。
  あの人たち、使ってる技術は一人前の癖に頭は悪いから。
  まあ全部の力を神さまから貰ってるから仕方ないんだろうけどね」

 「はぁ、そうなんですか……」

 「だからさ、私はあいつらが嫌いなの。
  自分の力で生きようとしないあいつらが大っ嫌いなの」

 「だから引き篭もりなんですか?」

 「引き篭もりじゃねーよ!! ただちょっと外に出ようとするとお腹が痛くなるだけだよ!!」

 「ものごっつ引き篭もりじゃん」

 聞いたこっちがびっくりするわ。



 「うっせえ!! このアンテナ娘が!!」

 「この時代にもアンテナという単語があるとは思ってもみませんでした」

 「べーっだ!!」

 私に舌を出して走り去るハルカちゃん。
 なんていうか、すっげえ子どもっぽいですね。
 やっぱり私のお母さんには思えませんよ。
 共通点は多いんですけども……。

 「うわっ!!」

 『ベチッ』

 足を自分の足に引っ掛けて転ぶハルカちゃん。
 ……本当に自分の足に慣れてないみたいですね。

 「……見てないで助けろよこのやろー!!!!」

 「自分で起き上がれないんですか?」

 「んな事出来たら外出てるよバカー!!」

 なんだ。自分じゃ起き上がれないから引き篭もってるんですか。
 ……カメかよお前は。







 9月7日 水曜日 「ハルカちゃんの引き篭もり改善作戦」

 「ああっ! なんか腹痛が痛い!!」

 「そりゃそうでしょ。腹痛が痒かったら腹痒になるんですから」

 「いや、そういう事が言いたいんじゃなくてね……」

 じゃあ日本語をきちんと使ってください。

 「ハルカちゃんが言いたい事は分かってますよ。
  つまり、仮病使って逃げようとしているんでしょ?」

 「ち、違うってば!! 本当に腹痛が痒いの!!」

 「動揺のあまり日本語がもっと変になってる」

 お腹の中から痒いとそれはそれで地獄だろうなぁ。




 さて、こうやって無駄な押し問答をしている私たち。
 なんでこんなコントまがいの事をやっているかと言いますと、ハルカちゃんを外に出させるためなのです。
 いくらなんでもこうも引き込まれると、本当に私のお母さんだった時に情けなくって仕方ありません。
 一応自分の親には、いい人間になって欲しい物なのです。

 「ほら! 私も一緒に外に出てあげるから!! だから家の外に行こうよ!!」

 「いーやーだー!!」

 「子どもっぽい駄々をこねない!!」

 「んだよ!! 私は子どもだもんよ!!」

 「まあ確かに。でも駄々こねないの!!」

 「大人でも子どもでも駄目なんじゃん!!
  っていうかさ、あんた何でそんなに偉そうなの?
  同い年でしょ? 先輩面すんじゃねぇよ」

 「くっ……さすがお母さんっぽい子ですね。
  口の悪さだけは誰にも負けてない」

 「何訳の分からない事言ってるの?」

 「別にハルカちゃんには関係ないです。
  それより、私と一緒に外に出ましょうよ」

 「いーやーだー!!」

 「くっ……駄々がすんごくムカつくのもお母さん的な雰囲気を醸し出してますね」

 もう何ていうか引っ叩いてやりたい。



 「いいですかハルカちゃん? いい加減外に出ないと身体にも悪いと思います。
  健康のためにも外で暖かい日差しを浴びてですねぇ……」

 「いーよ別に。私んちに日焼け用のライトあるし」

 「なんでそんな物が原始時代にあるんだよ」

 こっちでもガングロブームがあったのか?
 どうなんだそこら辺。

 「別に外に出なくてもいいじゃんかー。家でガンプラ作ってようよ。ガンプラ。
  ジオングとか作ろうよ」

 「インドア派にも程がありますね……。とにかく、無理矢理でも連れて行きますからね!!」

 「うわー!! ちょ、止めてよ!!」

 無理矢理ハルカちゃんの手を掴み、私は玄関へと引っ張っていきます。
 ハルカちゃんは見た目は小さいので楽々行けると思ったんですけど……
 なんか、結構重い子です。

 「ちょっとハルカちゃん……ダイエットした方がいいと思いますよ?
  なんかすっごく重い」

 「むー! 仕方ないじゃんか!! 私の両手両足は義体なんだから!!
  重くなっても仕方ないっての!!」

 「あ、そっか」

 「すんごく重いんだから、動くのがめんどくさいの!!
  肩とかすっごくこるんだから!!」

 「へー。でもね、外に出ないのはやっぱり駄目だと思うんだよね。
  という事でレッツゴー!!」

 「うわーん!! おかあさーん!! 助けてぇ!!」

 ちょ、こんな時に母親の助けを求めるなんて、すっごく普通の子どもっぽい反応ですね。
 やっぱりお母さんには思えない。

 「ハルカちゃんガンバー♪」

 「ちょ、お母さん!? 助けてくれないの!?」

 「千夏ちゃん。ハルカの事、よろしく頼むわね」

 「はい。分かりました」

 「いやー!! 行きたくないぃ!!!!」

 もう諦めなさいってばハルカちゃん。






 「あー、なんだかすっごく空気が綺麗な気がしますね。
  やっぱり現代と違って排気ガスとかが無いからでしょうか」

 「はぁ……外に出ちゃったぁ」

 そんなに悲しむ事じゃあ無いと思うんですけどね。

 「ハルカちゃんはさ、なんでそんなに外に出たくないの?」

 「だから前に言ったじゃんかぁ……。この集落の奴らが嫌いだからって」

 「嫌いって……なんで?」

 「だからぁ、私に向かって陰口言ったり無視したり……そういう事するから嫌い」

 「そっか……ハルカちゃんって虐められてるんだ」

 「うっ……嫌な言い方するわね」

 なんか私の学校生活と似てますね……。
 やっぱりハルカちゃんはお母さんなのかなぁ……。

 「えーっとさ、私はイジメをどうにかなんて出来ないけど……私はハルカちゃんの友だちになれますよ?」

 「……何言ってんの?」

 「えーっと、だからですねぇ……何ていうか、ファイトっていうか」

 「訳分かんないよそれ。バッカみたい」

 「ぐっ……」

 言葉は悪いですが、ハルカちゃんの顔は笑ってました。
 私の言いたい事はきちんと伝わったみたいです。

 「っていうかさ、どうせならイジメを無くしてやるとかそういう事言えないの?」

 「そんな事出来たら苦労しませんよ」

 イジメを止めさせるって事は、皆に好きになってもらいなさいって事でしょう?
 誰かにそう簡単に好きになってもらえるのなら、この世界は平和なパラダイスですよ。



 「そりゃ残念……あ」

 「? どうかしました?」

 「神様だ」

 「へ?」

 ハルカちゃんの視線の先を見てみると、集落の道を歩いている1人の男性がいました。
 彼は他の原始人たちと違って、現代的な衣服を身に纏っています。
 でも神様にしては普通の人間っぽいんですけど?

 「あれが神様なんですか?」

 「そう、神様。ずっと遠くの世界から来た、星の民」

 「へぇ……」

 まあ古代史では王様とかを神様に祭り上げて政治を行なう事が多々あったので、
 その類なんでしょう。
 って事は、この神様がこの集落では王様って事なんですね。


 「気をつけてね千夏ちゃん」

 「へ? 気をつける?」

 「神様は、とっても怖がりだから」

 「???」

 「自分に害を成す者を、絶対に許さないから」

 それは一体どういう意味なんでしょうか…………。










 9月8日 木曜日 「似てる人」


 「あははは♪ 見てくださいよハルカちゃん!! ほら! すっごく大きなカブトムシ!!」

 「はんっ。たかがカブトムシ程度ではしゃぐなよ。
  お前はデパートでしか甲虫を見たことが無い都会っ子か」

 「取り合えず原始時代の人間がその例えを使うのは止めてください」

 デパートって単語、どっから仕入れた?



 今日、私とハルカちゃんは集落の近くの森に遊びに出かけました。
 ハルカちゃんも昨日の外出が思ったよりも苦痛に感じなかったのか、文句も言わずに付き合ってくれています。
 口が悪いのは相変わらずなんですけどね。
 まあ少しは引き篭もり脱却が前進したって事なんでしょう。

 「でもすっごい森ですねぇ。こんなに森らしい森、NHKの大自然物のテレビ番組でしか見たことありませんよ」

 「すごいでしょ? ここはね、神秘の森って呼ばれてるのよ」

 「へー。RPGの地名みたい」

 「なにそれ?」

 デパートは分かるのにRPGは分からないんですか。

 「でもですね、この森って危険じゃないんですか?
  何か大きな獣とか出たり……」

 「さあ? 大丈夫なんじゃない?」

 「さあ!? さあって何ですか!?」

 「分からないって意味」

 「ええ!?」

 なんて適当な返答……。
 相変わらずお母さんっぽさをちらほら出してやがりますね。

 「だってさ、私は滅多に家から出たことなんて無いんだもん。
  この森に来たのだって初めてだし。
  何か危険な獣がいるかなんてねぇ? 分かるわけないじゃん」

 「全然悪びれた態度を見せないあなたの根性を見習いたいですよ」

 取り合えず、タンスの角に小指をぶつけやがれと唱えさせてもらいます。
 ええ。呪いの言葉ですよ。



 「帰らなくて大丈夫ですか? やっぱり危険だし……」

 「もー、何よその弱気な態度。大丈夫だってば。
  人の住んでいる近くに獣が集まるわけ無いじゃない」

 「そういう物なんですか?」

 「そうだったらいいなーと思ってる」

 「願望かよ!! なんの意味も持ってないじゃないか!!」

 そう怒る私の後ろで、木の葉が擦れる音がしました。
 ……なんというか、嫌な予感が。


 「……千夏ちゃん。もしかして千夏ちゃんってさ、
  全長3メートルを超えるクマを素手で殺す事が出来る武術の達人だったりしない?」

 「武術は使えますけども、ロリコンぐらいしか殺せませんよ。
  でもなんでこんな事聞くんですか……?」

 「いやね、そうだったらいいやーって」

 「その願望は、一体……」

 何となく全て理解しましたけど、確認するためにゆっくりと後ろを振り向く私。
 やっぱりというかなんというか、私の後ろにはそりゃあ大きなクマがいました。

 「うがー(棒読み)」

 「うわぁ!? やる気が何か無いけど怖い!! 夏バテ気味っぽいのにすごく怖い!!」

 「さすがクマ!! 腐ってもクマ!!」

 「逃げよう!! とにかく早く逃げましょうハルカちゃん!!」

 私はハルカちゃんの手を取って、森の中を疾走します。
 ハルカちゃんは未だ自分の手足に慣れていないので、何度もこけそうになってました。
 お陰で走るスピードは上がらず、夏バテ気味のクマに追いつかれそうになっていました。

 「ハルカちゃん! もっと頑張って!!」

 「はぁはぁはぁ……もう無理だよ」

 「そんな事言わないでよ!!」

 「はぁはぁ……お願い、私を置いていって?
  足手まといになるだけだから……」

 「そんな事言われると私、本気で置いていくタイプの人間ですけど?」

 「うん。頑張る」

 わっかりやすい子ですね。



 「うがー(棒読み)」

 「くそっ! 夏バテ気味の癖にまだ追いかけてくる!!」

 「はぁはぁはぁ……もう本当に駄目かも」

 ふらふらとスピードが落ちていく私たち。
 ああ……このままクマに食べられてしまうのでしょうか。

 「誰か……誰か助けて!!」

 もう駄目かと思った瞬間、どこからか現れた影がクマを吹き飛ばします。
 あまりにも突然な事に、私は目を丸くするだけでした。



 「怪我は無いか? 子どもだけでこの森に来るなんて何を考えてるんだ……」

 「ご、ごめんなさい……って、ウサギさん!?」

 私をクマから助けてくれた人は、なんとウサギさ……

 「いえ。人違いですけど?」

 「うっわぁごめんなさい!!」

 じゃありませんでした。
 いやね、本当に似てたんですよ。本当なんですってば。







 9月9日 金曜日 「ハルカちゃんの腹痛」


 「千夏ちゃん千夏ちゃん。ドムのバズーカ取って」

 「……はいどうぞ」

 私は今、ハルカちゃんの部屋に居ます。
 それでガンプラを作る手伝いしてるんですけど……すっげえ退屈です。

 「ハルカちゃぁん……またどっか外に行きましょうよぉ。
  こんな部屋でプラモデル作っててもつまらないですって」

 「私は楽しいよ?」

 「私が楽しくないんですよ」

 ちょっとは来客をもてなすという事を覚えてください。



 「そう言えば……昨日私たちを助けてくれた人の事ですけど……」

 「ああ。あの人? 彼女がどうかしたの?」

 「私の知り合いに似てる気がしたんですよね」

 「へぇー。そんなに似てたんだ?」

 「ウサギの耳が生えてたら瓜二つでした」

 「……あんたって結構珍奇な知り合いが居るのね」

 ハルカちゃんはその珍奇にも全然負けてませんよ。

 「あの人はねー、守り人なんだよ」

 「守り人?」

 「神様を守るために、力を与えられた人のこと。
  身体を機械の身体にしてね、神様の守衛をしてるの」

 機械の身体……やっぱりここには義体の技術があるんだ。

 「神様にもボディーガードが必要なんだ?」

 「前にも言ったけどね、神様はすんごく怖がりなんだよ。
  自分の身に危険が降りかからないように、びっちりと守りを固めてるの」

 「なんかそれってあまり威厳があるようには思えませんね」

 「まあ神様なんてそんなもんなんだよ。
  そんなやつらを信仰してるなんてバカバカしいと思わない?」

 「あはは……そうですね」

p> まあ人間は何かしらの信仰を常に持ってる生き物なんですけどねぇ。
 将来の夢とかも、傍から見れば信仰ですし。
 それさえあれば幸せになれると思ってる所とか。



 「……いた」

 「ん? どうかしましたかハルカちゃん?」

 「アイタタ……」

 「え? どこか痛いんですか!?」

 「お腹が! お腹がすっごく痛い!!」

 「ハルカちゃん!? 大丈夫!?」

 「ううぅぅ……駄目かも。もしかしてこれが天罰……?」

 「ちょっとバカにしたぐらいで天罰落とすような神様は、ますます信仰すべきじゃないと思いますけど……」

 「ああ、ごめんなさい神様。明日からはちゃんと拝みま……イタタタ…………」

 腹痛で揺らぐとは、やっすい信念ですね。
 まあそんな事はどうでも良くて。

 「ど、どうしよう!? ねぇハルカちゃん!! どうしたらいいの!?」

 「はぁーはぁーはぁー……取り合えず、面白ギャグを言って私の気を逸らして……」

 「え? ギャグ? えーっとですね……クルミは冷たい奴なんだってさ。
  『Cool Me』……みたいな」

 「もう死ぬかも」

 「ハルカちゃん!?」

 私のせいじゃないですよね?
 そこんとこはっきりさせてくださいよ。すっげえ罪悪感にさいなまれちゃうから。


 「ああ……やっぱり昨日食べたピンク色のキノコが駄目だったのかなぁ……」

 「ピンク色のキノコ食べたんですか」

 「やっぱり毒だったんだよねぇ」

 「毒って言うか、ペンキでも被ってたんじゃないですかそれ」

 自然界にピンク色のキノコが生えてる所を想像したら……何とも怪しすぎます。





 「ハルカちゃーん♪ 千夏ちゃーん♪ おやつ持ってきた……よ?」

 「あ! アミカさん!! あのですねっ! ハルカちゃんがピンクな腹痛に見舞われて!!」

 「ぴ、ピンクな腹痛!? な、なんだかえっちぽい響き!?」

 私が言い間違えただけなんで、そんなに動揺しないでください。
 っていうかアミカさんはいくつなんだよ。その若々しい反応は。

 「とにかく! 早く医者に見せないと!!」

 「わ、分かったわ!! 今すぐ神様の所に連れて行く!!」

 「神様!? こんな時にも神頼みなんですか!?」

 まあ医学が発達してない世界ではそうなんでしょうけど……
 義体とかあるんだからお医者さんぐらいいると思ってたのに。

 「ハルカ! 大丈夫!? 今おぶっていってあげるからね!!」

 「う、あぁ……カニミソ〜」

 「ハルカちゃん!! 訳のわからないうめき声しないの!!
  それが最期の言葉になったらどうするの!?」

 人生の締めの言葉がカニミソだと可哀想すぎますよ。

 「ちょっと千夏ちゃん! 縁起でもない事言わないで!!」

 「あ、ごめんなさい」

 「じゃあ行ってきます!!」

 ハルカちゃんを担いだアミカさんは、さっそうと家から飛び出して行きました。
 私はただハルカちゃんの無事を祈るしかありませんでした。









 9月10日 土曜日 「ハルカちゃん、入院」

 「アミカさん……ハルカちゃんの容態はどうだったんですか?」

 ハルカちゃんを神様の所に送っていったアミカさんは、
 一人だけで帰ってきました。
 もしかして入院か何かしてしまったのでしょうか……。

 「顔を青くしたり紅くしたり緑色にしたり……見ているのが辛くなるぐらいだったわ」

 「それは本当に大変そうですね……」

 特に緑色が。
 マジで死んでしまうんじゃないですか?

 「それでハルカちゃんは……」

 「えっとね……おめでたですって」

 「予想外の病名だ!!」

 っていうか待てよ。
 あの歳で妊娠は拙いでしょうが。

 「それって本当なんですか!?」

 「オーウ! アミカジョークネー!!」

 「こんな時に冗談だなんて不謹慎すぎますよ!!」

 ちょっと本気にしちゃったじゃないですか。

 「ただの食あたりですって。命には別状ないみたいよ」

 「そうでしょうね」

 ピンクのキノコ食えば誰だって腹壊しますよ。
 まあ毒じゃなかった事が救いでしょうか。

 「それでなんでハルカちゃんはここに居ないんですか?」

 「一応大事をとって検査するから、神様の所に泊まってるの」

 「へぇ〜……神様って泊めてくれるんだ」

 妙に優しさに溢れる神様ですね。
 私の知っている神様の中で、人間を家に泊めてくれる神様なんて記憶にございません。
 やっぱりここの神様ちょっと変です。


 「あの〜……神様って一体どういう人たちなんですか?」

 「え? 急に何?」

 「いや……ちょっと気になって」

 「うーんとね……すっごい力を持ってる以外は普通の人間とあまり変わらないわよ。
  体つきとか考え方とか」

 「それってあまりいい神様には思えないんですけど?
  人間っぽいっていうのは、つまり俗っぽいって事でしょう?
  そんな人たちの事を崇める事なんて出来るんですか?」

 「まあ確かにたまにこの神様に任せていいのかなって思う時はあるけど……
  でもいいんじゃない? 人間らしい方がさ、人の気持ちを分かってくれると思うし」

 「そういうもんですかね……」

 やっぱり神様には、すっごく高尚な精神を宿して欲しいと思うんですけどね……。
 子どもが親の事を神格化するのと同じ理由だとは思いますけども……。



 「さーて。私はハルカの着替えを持って行こうかなー」

 「そう言えばハルカちゃんって、これから1人なって寂しくないですかね?」

 「んー、そうねぇ……。あの子いつも強がっているけど、結構寂しがりやなのよね……。
  自分の口からは絶対に言わないだろうけど、多分寂しがってるはずだよ。
  千夏ちゃんも暇があったらさ、あの子の所に行ってあげて」

 「はい。分かりました」

 まあ入院中の寂しさっていうのは、結構こたえるものですからね。
 行ってあげるのも悪くないかもしれません。

 「やっぱり入院生活に彩りを与えるためにも、お花も持っていった方がいいのかもしれないですね」

 「おっ。いい所に目が付いてるね千夏ちゃん」

 「そういう褒められ方は初めてされました」

 その言葉だとさ、私の眼孔の位置が素晴らしいみたいな感じになってるよ。
 気が利くよで良いじゃないですか。


 「う〜ん……でも私の家にある花はこれぐらいしかないんだけどなぁ」

 「それは、菊の花ですか!?」

 なんて縁起の悪い。

 「それがどうかしたの?」

 「え? いやだってこの花は……」

 「綺麗でしょー?」

 「……」

 この時代には菊の花がどうこうっていう習慣は無いんですかね。
 まあ仕方ないと言えば仕方ないですけど……でも、なんか嫌な感じ。

 「これでハルカも元気になるはずよね♪」

 「うーん……私には遺影に映ったハルカちゃんの姿しか想像できないんですけど……」

 不吉な予感がひしひしと……。















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