9月18日 日曜日 「追撃作戦」


 「ううぅ……頭いたいぃ……」

 額に生まれる激痛で目が醒める私。
 過去に類を見ないほど最悪の目覚めですね。
 あぁ……頭が割れそうです。



 「そ、そうだ……あの大妖怪は……」

 あいつは確かアウグムビッシュム族の集落へと向かって行ったはずです。
 ちくしょう! 私がもっと空舞破天流を真面目に習ってたら、みすみすアイツを村へと行かせるなんて無かったのに!!

 「うぅ……行かなくちゃ……」

 私はずきずきと痛む頭を抑えながら立ち上がります。
 早くアウグムビッシュム族の集落に行かないと、大妖怪に襲われて……。

 「皆さん!! 待っててくださいよ!!」

 今、助けに行きますからね!!





 「……」

 「……あ、あれー? あっちだったのかなぁ……?
  また同じ所に出ちゃった」

 「……」

 「どうしよう、迷っちゃったみたい……。
  そうだ♪ この棒が倒れた方に行く事にしよう!!」

 「……」

 「か・み・さ・ま・の・言・う・と・お・り・☆
  よし!! 今度は右だ!!」

 私の目の前には、そこら辺に落ちていた木の棒で自らの進路を決めようとしている少女が居ました。
 いえ、少女の皮を被った、大妖怪です。

 「何やってるんですかあなたー!!??」

 「あっ♪ 昨日のでこピンでやられた雑魚だ♪」

 「ザコって言うなよザコって!!」

 何か私の価値が大暴落した気がします。


 「あ、あなたっ!! まだアウグムビッシュム族の村に着いてなかったんですね!!」

 「ちょっと迷っちゃってね♪ そうだ!!
  あなた、アウグムビッシュム族の村に案内してよ!!
  お礼なら弾むから♪」

 「そんな提案呑むわけないでしょう!!
  私は、ハルカちゃんやアミカさんを危険に晒すことなんて出来ません!!」

 「いいじゃんいいじゃん。
  案内してくれたらタヌキ屋の割引券あげるから」

 「要りませんよそんな物!! っていうかタヌキ屋って何だよ!!」

 どっかの食べ物屋さんですか? そのタヌキ屋って。
 そんな物がこんな時代にあっていいはず無いと思います。
 もちろん割引券も。

 「えー? でもスーツとか汚れちゃった時に必要になるじゃん」

 「クリーニング屋だったのかよ!! タヌキ屋って!!」

 心底どうでもいい感じですけどね。



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 「いいから、私を案内しなさい」

 「嫌です!! 絶対嫌!! それこそ死んでも嫌ですよ!!」

 「ふーん……そういう事言うわけか」

 きらりと光る大妖怪の目。
 なにやら怪しい気配が……。

 「じゃあ、酷い事しちゃおっかなー」

 「ひ、酷い事!? デコピンよりも酷い事ですか!?」

 「ええもちろん。デガピンレベルの事をしちゃうかも」

 デガピンって何だよ。デコピンよりワンランク上のなんか痛い奴の事なんですか?
 そんなゲームの呪文的な階級のある言葉、聞いたことないし。

 「まず、あなたの身体を、もう二度とジャージが着れない身体に改造します」

 「それはちょっと困る!!」

 家に居るとき、何を着てくつろげば良いんですか!!
 ……まあパジャマでも着れば良いだけかもしれませんが。

 「水をかけられると分裂する体にしてあげてもいいのよ?」

 「それの元ネタはグレムリンですか。
  私がいっぱい増えると思ったら気持ち悪いので、やめてください」

 「階段を誰かと一緒に転がり落ちると、アイツがワタシでワタシがアイツになるようにしてやっても……」

 「もういいですから。微妙に困る事を提案しないでもいいですから」

 っていうか、そんな微妙すぎる人体改造を行なう技術が大妖怪なんかの脳みそにあるんですか。
 妖怪って単語だけ見るとすっごくバカっぽいのに……。

 「とにかくっ!! 私を案内しなさい!!」

 「い、嫌ですってば!!」

 私は大妖怪に背を向けて、一生懸命走り出しました。
 私が捕まらずに逃げ切れば、大妖怪がアウグムビッシュム族の集落に到着する事が出来なくなるはずです!!
 絶対に、捕まるわけには行かない!!


 こうして私の、大逃避劇が始まりました。









 「つーかまえたっ☆」

 「はやっ!?」

 逃避劇、4秒で終了なり。
 っていうか早すぎですよこの大妖怪!!
 力も強くて素早いって、完璧超人ですか!!

 ……やっぱり、こいつを村に連れて行くのは危険です。







 9月19日 月曜日 「アウグムビッシュム族への案内」

 昨日、必死に逃げたにも関わらず大妖怪に捕まってしまった私は、
 アウグムビッシュム族の村へ案内する事になってしまいました。
 いや、私だってハルカちゃんたちを裏切るのは嫌ですし、抵抗したんですよ?
 でもね、でもですね、首をこうきゅっって絞められたら……従うしかないじゃないですか。

 「はぁ……どうしよう」

 「ほらほら!! 早くアウグムビッシュム族の集落に案内してよ!!」

 「わ、分かってますって!! だから、首をっ、頚動脈を圧迫するのは止めてください!!」

 脳と首がダメになってしまいますから。


 (くっ……かと言って、素直に集落に案内するわけにはいきませんよね。
  だってこの人を集落に連れて行っちゃったら、大虐殺が始まるのは目に見えてますし)

 いくら完全義体化した神様の守り人さんたちだって、この最強凶悪妖怪に立ち向かえるかは疑問ですし。
 私がどうにかしないと……。

 (はっ、そうだ! わざと遠回りして、集落に着かせないようにすればいいんだ!!
  そうして時間を稼いで、妖怪の奴に隙が出来たらそこを……。
  ふふふ。なんて素晴らしい作戦なんでしょうか!!)

 えらく姑息な手段ですけども、私と大妖怪の実力差じゃ仕方ないと思います。
 だから、リーファちゃんみたいって言うのは止めて。


 「さ、さあ! それじゃあさっそくアウグムビッシュム族の集落へと出発いたしましょうか!!」

 「あれ? なんか急にやる気になったね?
  どうかした?」

 「べ、別になんでもないですよ!! ほら、なんていうか……躁状態?
  そんな感じなんで元気なんですよ!!」

 「その若さで躁鬱病なの……? あなた、大変だね」

 大妖怪に心労を労ってもらいたくは無いわ。








 「えーっとですね……あそこの山を越えた所に集落があったと記憶しています」

 「えー? また山を越えるの? これで三つ目だよ?」

 「地図で見たら近くなんですけどね、結構歩いてみると遠いんですよ。
  だから頑張りましょう」

 まあもちろん嘘なんですけど。
 誰がそう易々と集落に案内してやるもんですか。
 頚動脈を圧迫された事によっていくつか死滅した脳細胞の仇です!!
 ……みみっちぃ復讐だとか言わないでくださいよ。


 「あー、マジで暇だわ。
  このままだと目に付いた人間を片っ端から千切っては投げてしまいそうなぐらい暇」

 「そ、そうですか……」

 それってもしかして、私の危機を教えてくれちゃってるんですかね?
 ……こ、怖い。

 「え、えーっと、大妖怪さんの趣味は何ですか?」

 暇にさせておくままにしておけないので、無理矢理話を振っちゃいました。
 なんかお見合いみたいになっちゃったよ。

 「人の皮を剥いで、コレクションする事」

 「聞かなきゃ良かった。
  人生で一番、そう思いましたよ」

 ますます私の命の危険度が増したように思えます。
 どどど、どうしよう……。


 「そ、そうだ。妖怪さんは、誰にアウグムビッシュム族を倒すように言われたんですか?」

 ここで情報収集しておけば、後でいろいろと楽になるはずです。
 さすが私。抜け目ないでしょう。

 「私の親に言われちゃってねー。
  だからさー、断るわけにもいかなかったのよ。
  めんどくさいったらありゃしない」

 妖怪の親って事はやっぱり妖怪なんですかね?
 っていうか原始時代には妖怪は当たり前に居たんでしょうか?
 私の時代じゃ雪女さんぐらいしか居なかったんですけど。
 ……それも普通じゃないか。


 「そ、そんなにめんどくさいなら、行かなければいいじゃないですか!!
  親御さんには滅ぼしたって報告しておけば、それで良いと思うんですよ!!
  ね? すっごく名案でしょ!?」

 「嘘つくと悪い子になるよ?」

 人の皮剥ぐ奴よりは悪くならねぇよ。





 「あー♪ もう少しで山抜けるね♪
  これでようやくアウグムビッシュム族の集落だぁ♪」

 「そ、そうですね……」

 まあもちろんあるわけ無いんですけど……さて、次はどうやって嘘をつきましょうか?
 今度はあっちの湖の方に行きましょうかねぇ?

 「やったー♪ ついに到着ー!!」

 「そうですねー…………って、えぇ!?」

 大妖怪がはしゃいで駆け出した方を見ると、そこには集落の姿が……。
 ま、まさか、私は迷わせるつもりで、本当の道を教えてしまっていたんですか!?

 「ちょ、ちょっと待って妖怪さん!!」

 「あはははー☆ みなごろしーみなごろしー♪」

 「そんなおぞましい歌を唄わないでー!!」

 ど、どうしましょうかこの状況。







 9月20日 火曜日 「大妖怪封印」


 アウグムビッシュム族の集落から離れるつもりが、
 ついつい適当に歩いてたら本当に辿り着いてしまった私と大妖怪。
 もう自分がバカすぎて泣けてきます。
 ああ……どうしましょうか。

 「ううう、村に行くのが怖い……」

 私の目の前にはなにやら騒がしい集落があります。
 やっぱりこの騒ぎって……大虐殺が幕を開けてるんですよね?
 全体的に私の所為で。
 うっわぁ……気まずいというか罪悪感に押し潰されそうというか。
 どこか遠くへ逃げ出したくて仕方ないです。

 「で、でも逃げちゃダメ!!
  まだ生き残ってる人たちも居るはずだし、せめて安全な所へ逃がす程度の事はしよう!!
  そうした後で思いっきり逃げよう!!」

 逃げるのが前提なのは、そのまま村に居続けたら晒し首にされてしまう可能性大だからですよ?
 はははっ、自分のやってしまった事の重さが辛すぎます……。





 気合を入れて村に飛び込んだ私。
 思ったほど壊れていない住居類に安心しながらも、大妖怪が向かったであろう方向へと走り続けます。
 人の気配はほとんどなく、ゴーストタウンの様な雰囲気を醸し出していました。
 皆一足先に逃げたんでしょうか? そうあって欲しいと願ってます。

 「あ、あれは!?」

 走っている私の前方に見えた人だかり。
 そこからなにやら騒がしい音が聞こえてきます!! つまり、あそこが戦場なのですね!!
 大妖怪によって、人間たちが千切っては投げられてる闘いの場なのですね!!
 ……私の所為かと思うと死ぬほど凹みますね。
 ごめんなさい。戦死者さん。

 とにかく、いつまでも落ち込んでいられないので、私は非戦闘員を安全な場所へ誘導しようとします。
 腹に空気を吸い込み、めい一杯叫びました。

 「皆さん!! あっちに安全な逃げ道があります……よ?」



 その戦場へ近付いた私が視認したのは、アウグムビッシュム族の人だかり。
 てっきり大妖怪と闘っていると思っていた彼らは、地面に座り、顔を紅くして歌を唄ってました。
 もっと的確な表現をいたしますと、皆で酒飲んで宴会してやがりました。

 ……なんでっ!?

 「あー千夏ちゃんじゃーん。どこ行ってたの? 家出?
  そういう年頃だったの?」

 「は、ハルカちゃん!! これは一体……いや、今はそんな事どうでもいいんです!!
  この村にですね、大妖怪が……」

 「ああ。大妖怪ね」

 「あっれー!? 知ってたんですか!?」

 じゃあなんで悠長に宴会なんて開いてるんですか。

 「そりゃあね。ほら、あっちに居るし」

 「えぇ!?」

 ハルカちゃんが指し示した方向を見ると、
 1人の少女が大人たちと一緒になってお酒と肴を飲み食いしまくっている光景が……。
 あの大妖怪の言う、アウグムビッシュム族の滅殺って言うのは、一緒にお酒を飲む事の隠語だったのでしょうか?
 ……まさかね。

 「は、ハルカちゃん……私にも良く分かるように、この状況を説明してくれませんかね?
  特に、敵であるはずの大妖怪が、楽しそうに村人と一緒にお酒を飲んでいるあたりを重視めで」

 「うーんとねぇ……これは、年間行事なんだよね」

 「年間行事!?」

 「なんだか知らないけどさ、この村って一年にニ、三度妖怪が攻めてくるんだって。
  それで、その妖怪たちが攻めてくるたんびにお酒でもてなしてあげて、
  酔い潰す事で戦闘力を無効化するのが風習になってるの」

 ヤマタノオロチ大作戦ですか……。
 っていうか台風感覚で妖怪を迎え入れるのはどうかと思いますよ?

 「それで……その酔い潰れた妖怪はどうするんですか?
  まさかタクシーを拾ってあげて家まで帰すわけにもいかないんでしょう?」

 「壷に詰めて、近くの山にでも埋めるの」

 「怖っ!!」

 よりにもよって生き埋めですか。

 「由緒ある封印の方法なんだよ?」

 「由緒あるかどうかは知りませんが、怖い事には何の代わりもないですよ。
  あ……大妖怪さん。酔いつぶれちゃったみたいですね」

 妙な手際の良さで、壷に詰められてます。すっげぇ異質な風景。
 はぁ……とにかく、私が慌てる必要なんてどこにも無かったんですね。
 なんだ。ちょっと損した気分。


 「あれ……でももしかして、あの大妖怪を埋めた場所が未来の旅館チナツの地下っていう事になるんですかね?」

 あの大妖怪が数千年間壷の中で漬けられた物だとは思ってもみませんでした。
 すっごい秘伝のタレみたいですね。









 9月21日 水曜日 「狸寝入り」

 「う〜んむにゃむにゃ……もう食べられないよぉ」

 ベタな寝言でごめんなさい。
 数日前から大妖怪に連れ回されていたために疲れ果てていた私は、
 昨日帰ってからぐっすりと寝込んでしまいました。
 いやぁ、時間を気にせずに気の済むまで寝るというのは、すっごく気持ちいいですね。
 天国かと思います。

 「千夏ちゃん? もうそろそろ起きた方がいいんじゃない?」

 「うぅ〜ん……うっせえぇこのやろぉう。
  がたがた抜かしてるんじゃねぇぞぉ」

 「……寝言なのよね? 実は起きてて、さらりと暴言吐いてる分けじゃないのよね?」

 違いますよアミカさん。
 絶対に違います。


 「そんなに寝てるとブタさんになっちゃいますよー?
  ほら起きて起きて」

 「うるせぇってば。ブタはそっちだろうがこの雌ブタがぁ」

 「千夏ちゃん? 私、このままだとあなたの首を捻じ切ってしまいそうなんだけど?」

 ね、寝ている相手にそれは酷いと思うんですよね。
 起きてる人にやっても酷いですけど。

 「はぁ……もういいわよ。ずっとそうして寝てなさい」

 ぱちんと私のおでこを叩いて、アミカさんはどっかに行っちゃいました。
 ふぅ……これでようやく私の睡眠を邪魔する輩はいなくなりました。
 わーい♪ 私の至福のひと時がやってきたぁ♪






 「あのね、ハルカちゃん。ちょっと話あるんだけどいいかな?」

 「んー? どうかしたの?」

 私が今から夢の世界へ日帰り旅行しようとしていると、ハルカちゃんとアミカさんの話し声が聞こえてきました。
 こういう時って、何故か普段より隣の部屋の音が聞こえちゃうもんなんですよね。
 やっぱり余計な音がしてないからなんでしょうか。
 とりあえず、寝るのに邪魔で邪魔で仕方ない雑音です。

 「もしかしてあれ? 私に誕生日プレゼントくれるとか、そういう話?」

 「ハルカちゃんの誕生日は今日じゃないでしょう?
  なんでプレゼントあげなくちゃいけないの……」

 「じゃあサラダ記念日だから?」

 「そんな食物繊維溢れる記念日なんて、ウチにはありません」

 「えー? そうだったの?
  じゃあせっかくだからさ、新しく記念日作ろうよ」

 「なんで?」

 「そうする事でさ、毎日にメリとハリが出ると思うんだよね。
  メリがハリハリになると思うんだよね」

p> 言いたい事がいまいち伝わってきませんね。
 メリハリだ大切だと言いたいんでしょうけど……。

 「だからさ、今日はアザラシ記念日にしよう。
  そういう事でプレゼント頂戴?」

 「ダメに決まってるでしょう。
  それに何なの? アザラシ記念日って?」

 「アザラシを崇拝して、彼らの魂を静める歌を唄う日」

 ハルカちゃんにプレゼントが行く理由が分かりません。

 「ダメです。そんな記念日認められません」

 「じゃあカシューナッツ記念日にする?」

 「そういう問題じゃないの!!
  そして、なんで記念日の名称候補の二番目がカシューナッツなの!?」

 「私、カシューナッツ食べるの好きだから」

 「さっきのアザラシは、食べ物として崇め祭るつもりだったの!?」

 アザラシを食べるとはなかなかワイルドですねぇ。
 まあこの時代じゃ食べ物を選んでる余裕なんて無いはずですしね。アウグムビッシュム族以外は。
 だから一般的な感覚だったのかもしれません。

 「じゃあおばあちゃん記念日にしようか?」

 「それは食べちゃダメ」

 さりげなく怖いこと言わないでくださいよ。
 それにしても……毎日こんな漫才してるんですかね? この2人は。



 「えっとねハルカちゃん。本題に入っていいかな?」

 「いいんじゃない? 私、うたた寝しながら聞くだけだし、どうでもいいよ」

 話聞く気、全然無いんじゃないですか。

 「……実は私ね、昨日神様の所に呼ばれたの。
  それで……神様の守り人にならないかって言われた」

 「え?」

 神様の守り人って言ったら……ウサギさん(似)の人みたいな、完全義体化した人たちの事ですよね?
 アミカさん、機械の体になっちゃうんですか?

 「……なんで、お母さんがそういう事する必要があるの?」

 「えっとね、ほら、最近いろいろと嫌な事がこの村の周りで起きてるでしょう?
  他の部族と衝突したり、誰かから使わされた妖怪が来たり……。
  だから、念のために兵力を増強したいって神様が」

 「お母さんはそれでいいの?」

 「別に私は何か失う訳じゃないもの。だから、ハルカちゃんはどう思うのかなって気になって……」

 「子供、産めなくなるじゃん。将来、本当の自分の子供が欲しくなった時に困るんじゃないの?」

 「ハルカちゃん? 何言ってるの?」

 「だから、他人の子供を育てるのなんて面倒になるだけなんだから、自分の子供をきちんと作ってた方がいいんじゃない?
  そのうちさ、私を相手にするのも飽きると思うし」

 「っ!!」

 パチンと乾いた音が鳴りました。
 おそらく、アミカさんがハルカちゃんの事を叩いたのでしょう。
 嫌な、重たい空気がこちらにまで伝わってきます。

 「ハルカちゃん……私はね、あなたの事を本当の子供みたいに思ってるの。
  だから、そんな事言わないでっ!」

 「じゃあさ、本当の事言ってよ。いくら兵力が必要だからってさ、お母さんが守り人になる理由が無いじゃん。
  なんかきちんとした理由があるんでしょ? それを、隠さずに話してよ」

 「……」

 痛々しい沈黙。
 なんか、部外者の私でさえ居た堪れなくなってしまいました。
 どうしろっつうんですか。この状況は。



 「……昨日の妖怪も、前の部族たちも、みんなハルカちゃんを狙っていたの。
  だから、私はあなたを守らなくちゃいけない……」

 「なんで? なんで私が狙われるわけ?
  それを、分かりやすく説明してちょうだい」

 「それは……今は言えない」

 「…………そう。じゃあもういいよ。勝手にすれば?」


 ここで、アミカさんとハルカちゃんの会話は終わってしまいました。
 その後私が起きた時は2人の様子は普通でしたけど……やっぱり元通りって訳には行きませんよね。
 この2人の親子関係、本当に大丈夫なんでしょうか……。







 9月22日 木曜日 「集落崩壊」

 それは本当に突然の事でした。
 深夜。寝ていた私を襲った衝撃が、家の屋根を吹き飛ばします。
 その時に巻き起こった爆音で、私は目を覚ます事になりました。

 「え!? な、なんですかこれ!?」

 目覚めた私が見たのは、瓦礫と化した家の破片。
 な、何があったんですかこれは!? もしかしてアメリカ軍の爆撃!?
 い、いや……そんなわけないですね。
 一応ここは原始時代だし。


 「……はっ! そうだ! ハルカちゃんとアミカさんは!?」

 そういえば彼女たちの姿が見えません。
 家がこんな事になってるんだから、叫び声あげたり逃げ出すために外に飛び出したりしてもいいはずなのに。
 もしかして今の爆発で……。

 「ハルカちゃん! アミカさん!!
  大丈夫ですか!? 生きてますか!?」

 私はまず初めに、ハルカちゃんの部屋があった場所へと駆け出します。
 そこは本当に瓦礫の山になってて、無事だった頃の面影は全然残っていません。
 この場所にハルカちゃんが寝ていたとしたら、多分生き埋めに……。

 「ハルカちゃん!! 大丈夫!? 生きてる!?」

 「ち、千夏ちゃ〜ん……」

 瓦礫の下から女の子の声が聞こえてきました。
 この声は、きっとハルカちゃんです!!

 「ハルカちゃん!? その声はハルカちゃんなの!?」

 「かろうじてハルカでーす……」

 「かろうじて!? それってどういう事なのよ!?」

 「私がなんか嫌な感じに変形してるっぽいからー……」

 「うっわぁ……それ、あまり聞きたくなかった」

 瓦礫の下でどんな状況になってるんですか。
 変形してるって……ちょっとグロい感じかも。


 「そこから出られそうですか?」

 「う〜ん……無理っぽいね。体を動かそうとするとさぁ、もうなんかビキビキ音鳴るし。
  無理に動かしたら崩れちゃうかも」

 「そ、そうですか……。分かりました。
  むやみやたらに動かないでくださいね」

 状況は思ったよりも最悪かもしれません。
 と、とにかく誰か大人を呼ばないと……。

 「あー、でもさぁ、動くなって言われると無性に動きたくなるよね。
  なんか腕の辺りがムズムズしてきた」

 「動くなっつってんだろ!!」

 気持ちは分かりますが、今は命に関わるんですよ。



 「そ、そうだ! アミカさんはどこにっ……!!」

 「お母さんなら神様の所だと思うよ。機械の身体貰うために、出かけて行ったの見たから」

 「そうですか……。じゃあひとまずアミカさんの身は大丈夫ですね。
  それじゃあ今から誰か呼んで来ますから、待っててください!!」

 「うん。分かった。でも早くしてね。
  こう、指先がむずむずして思いっきり動かしたくて仕方ないから」

 そこは気合でなんとか乗り切ってください。





 バラバラに砕けた家から飛び出した私が見た物は、
 アミカさんたちの家と同じように崩落した集落の姿でした。
 いたる所から赤い炎と鈍い黒の煙が立ち込めるこの場所は、戦場と呼べるものです。
 なんでこんな事に……。

 「誰かー!! 誰かいませんかー!!」

 必死になって大人の人を探す私。
 しかし、ぼろぼろになった廃墟からは、誰の声も聞こえてきません。
 たまに見える人影はまったく動かない物で……おそらく、生きてはいないのでしょう。

 「なんで、なんでこんな事に……」

 どう考えても空爆されたとしか思えない惨状に、私は涙を滲ませます。
 これは何かの悪夢なのでしょうか……?


 「おまえぇーーー!! 星の民の裏切り者かあぁ!!!!」

 突然聞こえてくる怒号。
 それがウサギさん(似)の物であるのに、少ししてから気付きました。
 彼は、一人の男性の前で膝を付いています。
 その行為は頭を垂れるものではなくて、身体が傷ついたから立っていられなくなった物だとすぐに理解しました。
 彼の足元に、赤い液体が広がっていたから……。

 「力には意思があると思わないか?
  どんなに強大な力を持っていても、それと同等以上の力がいつの世も生まれ、
  そして驕り高ぶった力をねじ伏せる。
  神の力と呼ばれるモノでさえ、それは例外じゃない」

 黒い衣服に身を包んだ男性が、淡々と語ります。
 その声はどこか異質で、この世界にあってはならないモノなのだと本能が警告してます。
 そいつの存在を許してはならないと、この世のありとあらゆる物質が叫んでいます。

 「何が言いたいっ!!」

 「私は、生まれるべくして生まれた。
  神の天敵となるために、存在を許された」

 「ふざけた事をっ!!」

 ウサギさん(似)が、黒いアイツに飛び掛ります。
 そのスピードは風よりも速く、本物のウサギさんと同じくらい力強くて…………
 しかしそれは、簡単に受け止められます。男の腕にではなくて、空間に。
 男性の目の前にある空気が、まるで盾のようにウサギさん(似)の攻撃を受け止めました。

 「っ!! 空間断層型の自動シールド!?」

 「私も星の民のはしくれだからな」

 男は片手をウサギさん(似)の方に向けて、手を握ります。
 そうした瞬間に、ウサギさん(似)が吹き飛びました。

 「そ、そんな……何者なの?」

 「ん? ……ああ、お前は傍観者か。
  アカシックレコードに直接アクセスして記録を見せるとは……
  よっぽどお前をここに呼んだ者はリアリティを重視したいようだな」

 「な、何を言ってるんですか!?」

 私に気付き、近づいてくる男。
 逃げようと思ったのですが、思うように足が動きません。

 「ふん……そんなに怖がるな。
  どうせ私はお前に危害を加える事は出来ない」

 「え!?」

 男が私に手を触れようとしますが、彼の手は私の身体をすり抜けるだけで、
 つかむ事さえ出来ませんでした。



 「ひとつ良い事を教えてやる。
  お前が今見てる世界、今居ると思っている世界は、架空に近い現実だ。
  ただの過去の記憶になぞらえて再生しているビデオテープに近い」

 「ビデオテープ……? この世界がっ!?」

 「だからお前が何をしようと、これから起こる結果にはなんの変化も無い。
  大人しく事の顛末を見届けろ。
  そのために、おそらくお前は呼び出されたのだからな」

 「そ、そんな事あるわけないじゃないですか!!
  本当にビデオテープだって言うなら、なんであなたは私に話しかけるんです!!
  なんでっ、ハルカちゃんたちは私の事を視認できてるんですか!!」

 「それは、この世界がアカシックレコードを基礎とした三十四界層並列シミュレーターだからだ。
  過去の出来事を忠実に再現していながら、本来なら存在していないはずのお前が居た場合の可能性を導き出している。
  あれらはね、『お前が居た場合』の反応を行っているに過ぎないただのプログラムなのだよ。無論私も含めてな」

 「なっ……」

 「傍観者は傍観者らしく、黙って見ていればいい。
  それがお前の役割だ」

 男性は私に背中を向けて、神様の家がある方に歩いていきます。
 まさか彼の目的は神様!? でもあそこにはアミカさんがっ!!


 「アミカさんが危ない!!」

 アミカさんを助けるため、私は必死になって走り出しました。







 9月23日 金曜日 「空舞破天流」


 赤、赤、赤。血と屍肉と炎と。それらの赤が世界を支配している。
 最悪な戦場が、ここに在る。




 「アミカさんっ!!」

 私は黒い男を追って、神様の家がある所までたどり着きました。
 前までなら綺麗な未来的とさえ言える居住区が、今では無残な石とガラクタの山へと変貌しています。
 あれほどまでに優雅を極めていた神の一族が、たった一夜でここまで砕かれるだなんて……。


 「アミカさん!! どこにいるんですか!!」

 私は一生懸命アミカさんの名を呼びます。
 その度に建物から出ている黒煙を吸い込み咳き込むのですが、そんな事気にしてられません。




 「なぜ……こんな事が出来る……?」

 「!?」

 遠くから今にも途切れそうな男の声が聞こえてきました。
 その方向を見ると、昨日の黒い男と一人の神様の姿が。
 周囲には他にも神様たちが居たのですが……皆、バラバラになって地面に散らばっていました。
 あまりの惨状に、私は吐き気を我慢して膝を地面に付ける事しか出来ません。

 「お前も星の民なら……プロテクトが掛かっているはずだ。
  他の星の民を攻撃できない……魂の施錠がされているはずだっ!
  それなのになぜっ、私たちを殺せる!?」

 「ああ、プロテクトね。絶対不干渉の契約か。
  力を持ちすぎた星の民どうしの衝突による世界崩落を防ぐための安全装置……
  はははっ、バカバカしいな。そいつのおかげで、お前らは俺に黙って殺されるしかなかった。
  抵抗する事も出来ずに、ただただ死んでいった。
  やっぱりお前ら星の民は生命として劣っている。もう終わりの時だ」

 「お前はっ、何者だ……私は、お前の事を知らない!
  星の民の歴史を全て見続けているはずの私が、なぜお前の事を知らない!?」

 「歴史を見続けた、ね。だが、歴史さえ形作られていなかった世界での事までは知らないだろう?
  時間という概念が正常に稼動していなかった世界。それを知らないだろう?」

 「まさかお前……第一世代!? 根源たる命の世代なのかっ!?
  ……はははっ、なるほどな。プロテクトが掛けられる前の世代ならば、私たちを殺すことも造作もないか」

 「もう無駄話は止めよう。この世界の空気は苦すぎる。
  肺に入れる事さえ嫌悪する」

 「くっ……」

 男が神に向かって手を差し出します。
 昨日、ウサギさん(似)を吹き飛ばした時と同じような事を……。

 「あ、危ない!!」

 私はこれから来るであろう惨劇に目を閉じる事しか出来ませんでした。


 「…………?」

 もう終わってしまったのかと思い、怖々目を開けると……そこには、片腕を失ったウサギさん(似)が男を殴り飛ばしている光景が広がっていました。

 「ぐっ!?」

 「もう一発喰らえ!!」

 ウサギさん(似)は追撃しようとしますが、それは簡単に避けられてしまいました。

 「ちっ……自動シールドが働かない?
  ……そうか、神殺しの秘拳か。完成してるとは思わなかった」

 「完成はしていないさ。理論といくつかの応用術が提案されているだけだ。
  だが、お前を殺すのには充分っ!!」

 再びウサギさん(似)は男に殴りかかります。
 しかしその攻撃は届くことはありませんでした。
 黒い男の姿が、急に霞のように消えてしまったからです。

 「なっ!!」

 「殴るだけでは私を捉えられんぞ。
  未完成の神殺しじゃ、虫も殺せん!!」

 ウサギさん(似)の背後に、黒い男が現れます。
 彼は後ろからウサギさん(似)の頭部を掴み、それを地面に叩きつけました。
 地面はウサギさん(似)を飲み込み、自らの身体をひび割れさせました。

 「ぐっがぁ……」

 「たまには神様らしい事をしてやるか。
  ……お前にひとつ良い事を教えてやる。
  お前の死後数千年後、未来の人間たちによってお前の肉体は再利用される」

 「が、ぁ、あぁ……」

 黒い男はウサギさんの頭を掴んだまま地面に押し付け、ぎりぎりとその手に力をこめています。
 何かが軋む音が、周囲に広がりました。

 「安心しろ。お前は死後も、神の力を守るためにその存在を使われる。
  たいしたもんだな。死してなお星の民に忠義を尽くす事になろうとは……。
  はははっ、もはや忠義というよりは呪いか」

 「黙れクソ野郎―――!!」

 ウサギさん(似)の叫びと同時に、バキンと何かが壊れる音がしました。
 その音の正体を理解してしまった私は、最悪の風景から目を逸らしてうずくまります。
 もう、この世界を見ていたくは無かった……。


 「あなたはっ、なぜこんな事をするのですか……」

 「星の民を殺すためだ」

 「だからっ、なぜ……!?」

 「48に渡る世代交代の中で、星の民の純度は限りなく低くなった。
  もう旅人としても、苗床としても意味を成していない」

 「訳の分からない事ばっかり言って……そんな、そんなバカバカしい文字の羅列に、
  人の命を奪う価値を内包してると言うんですか!!」

 最悪だった。本当に最悪。
 普通に生きていた人間が、無残に殺される。
 ただ幸せを願っていた人たちが、遥か高みから見下ろしている人間に潰された。
 本当にそれは最悪だと思う。
 絶対に、許せないと思う。


 「絶対に、あんたは間違ってる。
  世界中の誰があなたの味方になっても、それでも私はあなたを糾弾し続ける。
  絶対に―――許さないからぁっ!!」

 私の心のからの叫びが黒煙に包まれた集落を震わします。
 それと同時に、神の家の瓦礫の一部が吹き飛びました。

 「!?」

 そこには一人の女性が立っていて、真っ直ぐな目で黒い男と私を見ていました。
 彼女の姿には、見覚えがあります。
 すっごく強くて、そしてすっごく優しかった人。絶対に、忘れる事の無い大切な家族。

 「おばあちゃん……?」

 私の視線の先には、おばあちゃん……いえ、姿を変えたアミカさんが立っていました。

 「やっほー、千夏ちゃん。元気ー?」

 「あ、アミカさん……」

 「待っててね。今、そこに居る黒いのをしこたまぶん殴ってあげるから」

 そういうとアミカさんは、拳を握って黒い人に突き出しました。

 「完成した神殺しの秘拳……空舞破天流、あなたに見せてあげるわ!!!!」














 9月24日 土曜日 「アウグムビッシュム族 崩壊」


 アミカさんが黒い神様に放った一撃目。
 それは、『敵』の左半身を削り取りました。
 ありとあらゆる神の手を弾いていたはずの彼のシールドは、紙よりも容易く、
 空気よりもその存在を感じさせずに、穿たれた。

 飛び散る血は焦土と化した大地に落ち、この世界の敵の最後を歓喜の赤で絵を描く。
 大地が、この地球が、彼の死を心から望んでいるように思えました。

 「もう一撃っ!!」

 「くっ、やらせるか!!」

 アミカさんが黒い神様に止めを刺そうとする。
 それを察知した彼は、すぐに防御壁を展開した。
 普通の防御壁ではなく、相手と自分の居る次元をずらす、星の民最強の防御方法。
 この防御の前には、攻撃は決して届かない。
 目には見えずとも、相手との間には宇宙の端から端までの距離と同じくらいの隔たりが出来ているのだから。
 核攻撃でさえ、超新星爆発でさえ、彼には届かない。

 「無駄だ神の守り人!!」

 「ふんっ!! どうかな?」

 無駄に終わったと思ったアミカさんの拳は、破れるはずの無かった隔たりを超え、黒い神の身体に届きました。
 胴を貫き、そしてその拳に纏っていた物理的運動エネルギーが、周囲の肉体を引き裂きます。

 「なっ!? 馬鹿なっ!!」


 空舞破天流―――『空舞』の型。

 空舞破天流が神を殺せる特性を持つ一つ目の特異。
 空を舞い、敵の間合いへと踏み込む戦術。
 それはただ相手の懐へと辿り着くだけでは無く、次元をずれ込ませた敵と同列の次元へと跳躍する。
 数多くの次元を行き来する星の民を殺害するのに、絶対であり最低限必要な技術。





 「人でありながら世界を渡るのかっ!?」

 「それだけじゃない!!」

 もう一撃、今度は右足を蹴り上げ、男の顎を砕く。
 そのまま振り下ろし、胸部に踵落としを決めた。

 「がはっ!!」

 男の顎と身体は砕け散り、それはアルコールのように空中で揮発した。
 この世界に存在を拒否された肉体は、無へと回帰していく。

 空舞破天流―――『破天』の型。

 空舞破天流が神を殺せる二つ目の特性。
 アカシックレコードに自らの存在を直結している星の民は、肉体を破壊しただけでは死する事は無い。
 存在を完全に滅するには、アカシックレコードの記述を削除してやる必要がある。
 それが可能なのは、プロテクトを掛けられていない神の積み木の力と、
 天(神)を破る拳―――破天の型のみ。





 「これがっ! 完成した空舞破天流だぁ!!」

 最後にアミカさんは両手を合わせた拳を黒い神に振り下ろしました。
 それは残っていた彼の肉体を押しつぶし、残らず光の粒子への昇華します。



 黒い神は、死にました。










 「ハルカちゃーん。生きてるー?」

 「おうよ! こちとら江戸っ子だからねっ!!」

 アミカさんが崩落している家の瓦礫をどかしながら、ハルカちゃんに呼びかけます。
 それに、ハルカちゃんはよく分からない返答をしました。
 多分、閉じ込められすぎて頭がおかしくなっちゃったんだと思います。

 「あの、アミカさん……」

 「どう? この身体すごいでしょ? こんな重たい岩だって軽々持ち上げられるんだから」

 「はぁ……いや、そうじゃなくてですね」

 「……驚いた? あの武術?」

 「え、ええ、まあ。確かにびっくりしました」

 「私が組み立てたプログラムなんだよ。
  まあ理論は夫が作ったんだけどね」

 「夫?」

 「うん。彼の脳にね、空舞破天流の基礎理論が詰まってたの。
  死体を解剖した時に、脳解析で見つかったんだ……」

 「……」

 「よっぽど星の民を殺したかったのね……。
  そのために、こんなものまで作って」

 「アミカさん、その……」

 「おっ、ハルカちゃんみっけー♪」

 アミカさんが埋まっていたハルカちゃんを引きずり出します。
 彼女の服はぼろぼろになっていましたけども、無事のようでした。

 「あれ……あんた誰?」

 「もーうハルカちゃんったら、あなたの優しいママに決まってるじゃない♪」

 「その馬鹿らしい口調はお母さんね。
  なんだ。義体化しちゃったんだ」

 「似合う?」

 「服みたく言うな」

 この二人は、相変わらずですね。
 なんだかそれがとってもほっとするんですけど。



 「……みんなはどうしたの?」

 「……ほとんど死んじゃった。
  神様も残り少ないし、生き残った者は別次元に逃げちゃったし。
  ……もうこの集落はダメかもね」

 「それじゃあさ、私たちはどうするの?」

 「……新しく暮らせる場所、さがそっか?」

 「……そうだね」

 これが、アウグムビッシュム族の崩壊の歴史だったんでしょうか……。


 「千夏ちゃんはどうする? 私たちと一緒に行く?」

 「私は……もう家に帰らないと」

 「そっか。じゃあ元気でね、千夏ちゃん」

 「ええ、アミカさん。ハルカちゃんも元気で……」

 おばあちゃんにお母さん……また、未来で会いましょう。










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 こがまはまかやkまやむごbどあまだまさだ



 プロテクト 再構成

 アカシックレコード 回路切断

 衛星 ユーファ 経由

 現存データ 補修

 時系列 調整




 LOG OUT 完了







 私の目の前に、見知った世界が広がりました。
 薄暗くて、湿った地下洞窟の姿が。

 「ただいま。私の世界」


 私は、元の世界に帰ってきました。










過去の日記